誘惑蝶
No.67 2014/06/10 05:14
ハル ( deZwBe )
あ+あ-
「俺と、初めて話したのはいつだと思う?」
「えっと…この間の、美術室…?」
「じゃあ、初めて会ったのは?」
「高校に入ってから、でしょ?」
「…やっぱ、覚えてねぇか…」
「ねぇ、さっきから何言ってるの?」
「オマエさぁ、原田って名前に聞き覚えない?」
「原田…?」
「そう。原田`夕(ゆう)知らないか?」
私は、懸命に思い出そうとした。
確かに聞き覚えのある名前。
一体どこで…
…あ!
「原田`夕…もしかして、ゆぅくん!?」
「…おう」
私は思い出した。
彼の名前も、面影も、出会った時の事も。
「やっと、思い出してくれたみたいだな」
「嘘でしょ?だって、引っ越したよね?」
「帰ってきたんだ。少し前に」
彼の旧姓は、原田 夕。
昔は私のお向かいさんに住んでいた。
小さな頃からずっと私達は一緒だった。
ぶっきらぼうだけど優しい、
同い年の男の子。
いわゆる幼なじみだ。
そして、私の…初恋の相手。
彼とは小学校低学年まで一緒だった。
ナツと一緒に遊んだ事もある。
彼の父親の会社は経営が上手くいかず、
父親は日に日に酒に走るようになり、
帰って来ない日も増えた。
時々帰って来ると、
母親や幼い夕に暴力を奮った。
だから夕は、よく私の家に預けられた。
そんなある日。
母親は夕を連れて逃げるように
家を出て行った。
私の家のポストには、
一通の手紙が入っていた。
綺麗な字で綴られた手紙と、
一枚の紙切れ。
綺麗な字で綴られた手紙は
彼の母親が私の家族宛てに書いた
感謝と別れの手紙だった。
一枚の紙切れは、小学校の
算数のノートをちぎったもので
「また会いに行くよ」
大きくて汚い字でそう書かれていた。
私は、いきなりの夕との別れが
とても悲しくて、わんわん泣いた。
夕のくれた紙切れを、握りしめて…。
その後、彼の父親の会社が
倒産したという噂があり、
父親は家を出ていった。
しばらくそこは空き家になったが
現在そこには、老夫婦が住んでいる。
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