おとなごっこ
「…書き込んでしまった」
大学を卒業した3月下旬の黄昏時。窓辺で西陽に照らされながら、私は小さく呟いた。
書き込んでしまった。とうとうやってしまった。
私にはいつからか、変わった願望があった。いや、変わっているのかいないのかすらわからない。そんなことを人に話したことはないし、人から話されたこともない。だからきっと変わっていると思い込んでいるだけで、本当は普通のことなのかもしれない。
アブノーマルなセックスをしたい。
男の人に、恥ずかしいことをされたい。縛られたい。気持ち良いことだけじゃなく、痛いこともされてみたい。
それでも、実際そんな場面になったら怖くなってしまう予感もする。そんなときに無理矢理にされてしまうのも良いかもしれない。
妄想だけにしておけばリスクも無いのに、私は春の暖かさと強い西陽と持て余した時間のせいにして、アブノーマルな出会いの掲示板に書き込んでしまった。
後先なんて考えずに。
20歳 学生 アブノーマルなプレイに興味があります。緊縛、鞭、スパンキング、玩具、羞恥、SM、アナル、蝋燭、キリがありませんがいろいろなことに興味があって実際にされてみたいです。経験が無いので、慣れている方でゆっくり調教をして下さる方が希望です。
年齢も住みも嘘。なんとなく。
書き込んで五分も経たないうちにメッセージがどんどん送られてきた。
最初から言葉遣いが乱暴な人はスルー。丁寧だけど合わなそうな人にはお断りのメッセージを返した。しつこい人も、誰でも良さそうな人もスルー。
こんなにたくさんメッセージが来るのに、合いそうな人ってなかなかいない。
1時間以上が経過して諦めかけた頃、気になるメッセージが届いた。
38歳 会社員 書き込み見ました。じっくり話し合ってから、ゆっくりペースであなたの希望のプレイを一緒に楽しみたいです。
最初は玩具を使った快楽責めから始めてみませんか。
気になる。だけど、快楽責めだけなんて意味がない。
ー快楽責めだけですか?縛ったりできますか?
ー縛ることもできますが、初対面の相手に縛られるのは怖くないですか?
ー怖いよりも興味があるので。
ーわかりました。実際に会ってその気持ちが変わらなければ、軽く縛ってみましょう。
ーアナルセックスはしたことありますか?
ーありますよ。
ー今日できますか?
ー時間はかかってしまいますができますよ。
ーやっぱり痛いですか?
ー痛くないようにゆっくり開発するので安心して下さい。
ー針を使ったプレイはしたことがありますか?
ーありますが、初心者向けではないし、初対面の人にはできません。
ー慣れてきたら、していただくことは可能ですか?
ー可能ですよ。あまりお勧めはしませんけど。
ー今日、会えますか?
自分から誘ってしまった。
38歳なら大人で落ち着いてる年齢だし、やりとりした感じも優しそう、気遣いも花マル。きっと大丈夫。
ー大丈夫です。場所を指定してもらえればそちらまで行きますよ。
ー一時間後に△△の前にいます。
ーすみません。二時間後でも良いですか?寄りたいところがあって少し遅くなってしまいます。
ーわかりました。
ーこちらは黒いスーツに青いネクタイ、眼鏡かけてます。似たような格好の人はたくさんいると思うので、近くなったら連絡します。
ー私は髪型はストレートで胸までのロング、水色のワンピースにベージュのコートです。私も着いたら連絡します。
約束の時間より少し早めに着いた。
私の部屋から徒歩10分のところで待ち合わせ。別の地域で登録してたけど、目の前はホテルだしちょうどいい。
詰めが甘いかな?…まぁ、いいか。
スマホのバイブが鳴った。
ーもうすぐ着きます
ー私も今着いたところです
私がメッセージを送ると同時に、すぐそばで受信音が聞こえた。
…黒いスーツに青いネクタイ、眼鏡。
「遅くなってすみません。待ちましたよね」
「いえ、今着いたところです」
柔らかい笑顔。
良かった、優しそうな人。
「…ここのホテルで良いですか?」
「はい」
「じゃあ、行きますか」
「…はい」
ホテルの目の前で待ち合わせなんて、ちょっとひいたかな?
いや、お互い目的はそれなんだし、大丈夫だよね?
「どうぞ、座って楽にして」
「…はい」
私がコートを脱ぐとさり気なくハンガーにかけてくれた。
紳士だ。
「俺も楽にしていいかな?」
「…はい」
その人はジャケットを脱いでネクタイも外した。それから、眼鏡も外した。
…かっこいい
…どうしよう、緊張してきた
…さっきまでは期待の方が大きかったのに、実際会ったばかりの人からアブノーマルなプレイをされるなんて、恥ずかしいし、やっぱり怖い
「ダテ眼鏡なんですか?」
「ブルーライトカットの。ドライアイなんだ」
「…そうなんですか」
…緊張してるときは、つい、関係ないことを話したくなってしまう
…うまく言葉も出て来ない
「…驚いた。君みたいな子が来ると思ってなかった」
「…やりとりしてたイメージと違いますか?」
「うん。自分でぽっちゃりって言ってたから、ぷにぷにした感じの人が来るのかなって思ってたけど、すらっとしてたから」
「最近すごく太っちゃったし、脱いだらヤバいです」
…私自分から脱いだらとか、何言ってるんだか
「俺ぽっちゃりした人好きだよ。抱き心地良いし、あったかい感じがして。
…そんなにぽっちゃりしてるようには見えないけどな」
「…そうですか」
「それにサイトやる人って、あまり外見に気を遣ってないっていうか、出会いが無い人が多いっていうか、偏見かもしれないけど、そういうイメージあったから、可愛らしい人が来て驚いた」
「…そうですか」
「…俺で大丈夫だった?」
「…はい」
…社交辞令かな
…私も、こんな素敵な人が来ると思ってなかった
…アブノーマルなAVに出て来る人っていかにもおじさんだったり、脂が乗った感じの人ばっかりだったから勝手にそんな人が来ると思ってた
…そっちの方が気楽にアブノーマルなプレイを楽しめたのかもしれない、…いや、やっぱり誰が相手でも緊張したかもしれない
…どうしよう、返事はしたものの、全然大丈夫じゃない
「…とりあえず、かんぱーい」
その人は私の缶チューハイにお茶のペットボトルをコツンとあてた。
私は少しでも気持ちを落ち着けるため、一気にガブ飲み。
「…やりとりした感じ、Mっぽいこと希望してるわりにガンガン攻めてくるなーと思ってたから、もう少しキツい感じの人かと思ってたけど、実際会ってみたらやっぱりMっぽいね」
「…そうですか」
…一気に顔が熱くなる
…お酒のせいか、彼の言葉のせいか
…でも、緊張してるせいかまだまだ酔えない
その人は持ってきた大きな紙袋を手に取った。
「…未経験って言ってたから、道具の説明からするね。飲みながら聞いて」
「…はい」
「全部新品だから衛生面も安心してね」
「…はい」
…新しく揃えてくれたんだ。それで待ち合わせに時間かかったのかな?
その人は紙袋から、細い縄と、木の洗濯ばさみ、蝋燭、大きい注射器、ローション、電マ、それから、箱に入ったバイブを数本取り出した。
動画では見たことあるけど、実際目の前に道具が並ぶと期待と同時に不安も広がる。
「緊縛とアナルセックスがご希望だったよね」
…実際、その言葉を口に出されると言いようのない気持ちになる。AVを鑑賞してるだけのバーチャルな世界じゃなくて、今私がいるのはラブホテルで、目の前には初めて会った男性がいて、テーブルには私がアブノーマルなセックスをするための道具が並んでる
…今いるのは間違いなく現実の世界
「はい」
「アナルセックスの前に腸の洗浄をさせてね」
…腸の洗浄って
「この大きな注射器を使うんだけど、できたら出してるところも見せて欲しい」
「…どこでするんですか?」
「…お風呂場で。もしまだ抵抗があったらトイレで出してもいいよ。きれいになったら、ローションを塗ってアナルビーズから始めていこう。本当は最初は指が良いけど、俺の指太いから」
…確かに太い。ゴツゴツした指。会社員て言ってたけど、仕事何してるんだろう?
…それより、腸の洗浄なんて聞いてない…
缶チューハイは飲み干したけど、酔えない。私は空き缶をテーブルに置いた。
決心がつかないまま、なんとなく立ち上がった。流されてみたら、案外なんともないのかもしれない。
大丈夫。きっと。
「…お腹空かない?」
…どうしたんだろう。急に。
「…空いた…ような気もします」
「今日やめて食事行かない?」
「…でも、せっかく道具用意してくれたのに」
「…次会ったときにしよ。今日は食事」
「…はい」
「…好きな食べ物は?」
「…好き嫌いあまりないです」
「じゃあ、ホテルのビュッフェ行こう。いーとこあるんだ。車で10分くらい走る」
「はい」
「じゃあ決まり」
その人は紙袋にさっきの道具をしまって、腕時計をつけた。
…あまり好みじゃなかったかな?でも、まぁいいや
私は緊張から解放されて、一安心。不思議と残念という気持ちはまったく無かった。ついさっきまで、あんなにしてみたかったのに。
翌日は、九十九里浜まで走って、景色を眺めて、海鮮料理を食べた。
それから、帰りに温泉に寄って、あっとゆーまに外は暗くなってた。
昼間からお酒を飲んでた私は、いつもよりお喋りになっている気もする。
素直に楽しかった。
都内に戻って港に車を停めて夜景をぼんやり眺めてた。
「…俺、倍も生きてるおじさんだし、出会い方もあんなだったけど、リナちゃんとずっと一緒にいられたら良いなって思ってる。リナちゃん可愛いし、無邪気で見てるだけで癒される」
…つい、偽名を教えちゃったんだった。でも、今更そんなこと言うのも気がひける。
「もし良かったら、付き合ってくれませんか?」
「…はい」
…なんとなく、そのうちそんなことを言われるんだろうと思ってた。
「…いいの?」
「はい」
「良かったー。嬉しい!!」
「…」
「明日は同僚と飲み会だから会えないけど、明後日会えないかな?次の日休みだから、遅くまで大丈夫だよ!」
「大丈夫です」
「良かった。これから楽しくなるな」
その人はものすごく嬉しそう。
でも、私が伝えた名前も、住みも、年齢も嘘。
入ったホテルは、外観は普通のラブホテルだったけど、中はSMルームになってた。拘束台に、張り付け台、吊るすようなフックとか、いろんなものがあった。
それでいてベッドルームは、普通のベッドとテーブルに椅子、食事のメニューも揃ってる。
「俺も飲んで大丈夫かな?」
これは、泊まりってことだよね。
「…はい」
「ありがとう。リナちゃんは何飲む?」
「ビールで」
…緊張してきた。
…きっと今日は…
…なるようになる
乾杯をして、その人はテレビ画面のメニューをまわした。
「SMのたくさんあるけど、みてみる?」
「…また今度」
「…緊張してる?」
「…少し」
「…今日は、セックスはしないよ。リナちゃんの身体をじっくり見せてほしいな」
「…見せるって…」
「…リナちゃんがどんなふうに触られるのが好きで、どこが弱いのか…」
「…シャワー浴びても良いですか?」
「…良いよ」
…やっぱりそのつもりだよね。
シャワーを浴びて、バスローブに着替えてソファに座った。
慣れないワインを飲んで気持ちを落ち着けようとしたけど、私自身、少し期待もしていた。
その人がシャワーから出て、戻ってきたけど、なんとなくそちらを見ることができない。
その人は私の隣に座って静かに唇を重ねてきた。
「…任せてくれたら良いから」
私は黙って頷いた。
バスローブを脱がされ、ブラもショーツも脱がされて、私だけ裸になった。
私は膝に抱えられて、ゆっくり胸を揉まれる。
「…何カップあるの?」
「…Hです」
「…大きいね。たくさん遊べそうだ」
「…遊ぶって…」
「…巨乳は縄が映えるからね。それに、針にも興味あるんだよね。…たくさんいじめてあげるから」
黙って身を任せてたら、脚をめいっぱい広げさせられて、そのまま動けないように縛られた。
腕は頭の上で括られて。
…どうしよう
…こんなひどい格好
「…最初だからソフトに進めていこうね」
…もう全然ソフトじゃない
恥ずかしくて、その人のことを見ることができない。
突然、部屋が明るくなる。
「明るくしないで下さい」
「だーめ。じっくり見たいんだ」
その人は私の正面に立った。
…やだ…
私は思わず目を閉じた。
「…濡れやすいのかな。もう、ビチョビチョだよ」
「…わかりません」
「舐められるのは好き?」
「…わかりません」
「恥ずかしがらないで、きちんと答えてよ」
そこが、ぐっと広げられる。
「…だめっ」
「…だめじゃないよ」
その人が、そのままそこに顔を近づけてるのが見える。
「…やっ」
一番敏感な部分に吸い付かれて、そのまま舌で転がされてる?
「…待って…そこ…だめっ」
その人は御構い無しに続ける。
…もう、限界
「…だめ…だめ…ぁあっっ」
いっちゃったのに、縛られてるから上手く身動きがとれなくて苦しい…
その人は、私がいったのを確認するように舌のうごきを緩めたけど、まだ刺激が強くて…
…もう身体が敏感になってて、どうして良いのかわからない…
「…もう、無理無理無理…」
半ば叫ぶみたいに言ったら、舌は離れたけど、今度は中に指が入ってきた。
…なんでこんな…もう少しゆっくり…
中の敏感な部分を何度も指先でつついて、少しずつ速くなってくる…
「…や、だめだめだめだめっっっ」
…どうにかなっちゃいそう…
「あああああぁぁぁぁっつ」
指が引き抜かれて、やっと終わると思ったのに、今度は、また唇をそこに近付けてきた。
「…もうダメっ!いっちゃってるから…あぁっ」
また、そこを吸い上げて、舌で、責めてくる。
「…だめ…」
また、簡単にいかされて…
また中を指で…
…キツい
…壊れる
いっても体勢を変えられないのは辛い…
敏感になってるそこをお構いなしに弄られるのも辛い…
もう、とにかく苦しくて…
それなのに、無理やりにいかされてしまって…
わけがわからなくなる…
「…あと10回いったら休憩しようか」
…10回!?そんなもたない…
「…無理!もうダメっ」
「…無理じゃないよ」
その人は、鞄から電マを取り出した。
…AVでは見たことあるけど、使ったことない
…ちょっと、怖い
「…これだと簡単にいけるから、すぐだよ」
その人は、スイッチを入れて、私のそこにあてた。
経験したことのないような強烈な振動がそこにあたえられて、身体が跳ぶような衝撃が走る。
…なにこれ
…こんな刺激
…無理
「…だめだめ!いっちゃったから」
注目の話題
おとなチャンネル 板一覧