兄と就職
「いらっしゃ…」
「よぉ」
「兄貴…」
「久しぶりだな」
「どうしたの?店に来るなんて珍しいね」
「ちょっと話があってな」
「なに?」
「お前、いつまでこんなところで働いてるつもりだ?」
「いつまでって…」
「ずっとバーテンダーなんてやってるわけにも行かんだろ。どうするんだ?この先」
「どうするって…そりゃいつかはきちんと就職しないとって思ってるよ」
「お前、大学を卒業してもう2年になるんだぞ?ブランクが大きくなるほど就職は難しくなる」
「分かってるよ」
「ここ、どうだ?」
そう言って兄は会社案内のパンフレットを差し出してきた。
「え…」
「会社はそんなに大きくはないが堅実だし、将来性もある。ここなら俺の口利きで紹介できるぞ?」
「でも…」
「返事は今すぐにとは言わないから、考えておいてくれ。いいな?」
そう言うと兄は帰って行った。
確かに兄の言う通り、いつまでもBarでバイトをしているわけには行かない。
僕は兄が紹介してくれた会社へ面接に行くべきなのだろうか…
もし採用された場合、いわゆるコネ入社という事になる。
分かっている。そんな事を気にしていられる身ではないという事は。
兄とは種違いの兄弟で、一回り年の差がある。
父が早くに亡くなった為、兄は父親代わりのような存在で、厳しく口うるさかった。
僕はそんな兄が苦手で、疎ましいと思っていた。しかし、家の生計は兄が背負っており、専業主婦で働いた事が無かった母と、まだ中学生だった僕の面倒を見てくれていた兄に歯向かう事は出来なかった。
No.3625643 2022/09/08 21:08(スレ作成日時)
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