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No.1 2018/10/13 00:35
匿名さん1 ( ♂ )
あ+あ-

悔しさにグッと唇を噛み締めながら、裕子は踏切が開くのを待った。
カゴに戻し入れたネギは折れ曲がってる。
「あーあ折れちゃってる…どうせ味噌汁に入れるだけだし、折れてても切っちゃうから関係ないけど」
そうやっていつも苛立ちを自分で納得させてしまう。
開いた踏切を人波の後ろに付くように渡っていると、再びカンカンという音が背後から追いかけてくる。
線路の隙間に足を取られないように気をつけながら、慌てて駆け足になった。

裕子はいつのまにか女子高生に投げつけられた罵声による苛立ちを忘れていた。
日々の喧騒に紛れて、苛立ちの気持ちを途中に捨てるのが得意になっている。
これから自分本位な旦那と対峙するので、出来るだけ波風を立てずに過ごしやすくするためのテクニックを自然に身につけていたのだ。

裕子の自宅は賃貸アパート。
買い物カゴを抱えたまま階段をカンカンと響かせながら4階まで登っていく。
廊下突き当たりの部屋のドアまで来て、初めて気が付いた。
「カギがない…」
思い当たるのは、先ほど女子高生に突き飛ばされた踏切だ。
ここまで気がつかなかったことと、夕闇が迫る中を踏切まで戻らなければいけないことに、途方もなく絶望感を感じてしまった。

その時である。
部屋の中から小さな物音が聞こえた。

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