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子供の頃の話

レス210 HIT数 17160 あ+ あ-

匿名さん( 41 ♀ 匿名 )
19/08/14 21:16(更新日時)

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「バイブ届きました」の主・高木亜紀の子供の頃の話を書いていきたいと思います。




※いじめ、犯罪行為、精神疾患、性的なシーン等ありますので苦手と思われる方にはスルー推奨させて頂きます。



※日記「バイブ届きました」の内容と重複するレスがありますのでご注意下さい。



18/04/04 01:58 追記
※人物名、地名、建物名等を除いてほぼノンフィクションです。


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No.1 18/03/31 07:11
匿名さん0 ( 41 ♀ 匿名 )

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ゆっくり書いていきます。

最後まで書けるといいな。

No.2 18/03/31 07:16
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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幼稚園入園式直後に転んで左手の指にひびを入れてしまった。

病院の先生から暫く幼稚園を休む様に、と言われ自宅療養する事になった。

療養と言っても左手が包帯ぐるぐる巻きで使えないだけだ。

落ち着きの無かった私は家中を走り回ったり、二階のベランダから玄関の屋根に飛び降りたりと暴れてばかりいて、まるで野生の猿の様だった。

なので怪我が完治するのに三ヶ月近く掛かってしまった。

その間は殆んど家の中にしかいなかったので、同年代の子達と遊ぶ事はおろか話もしなかった。

やっと幼稚園に通える様になった頃には回りの子達(特に女の子)は既にグループの様な物を作っていた。

足掛けゴム段やらなんやらしている子達を見て(私もやってみたいな……)とぼんやり思ったけれど、どうその子達に話し掛けていいのか分からなかった。

と、言うか言葉が頭に浮かばなかった。

三ヶ月程の間、まともに人と話をしなかったためか、コミュニケーションの取り方が全く分からなかったし、話し方すらも分からないと言うより知らなかった。

今でも人と接するのが難しく感じたり、話し下手口下手なのは多分この頃からだったのだと思う。

頭の中は空っぽで自分の半径数メートル程度しか見えていなかった。

本当に人間界に迷い込んだ猿みたいだった。


No.3 18/03/31 07:27
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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幼稚園に通い始めてからも、基本私は一人だった。

年少組の頃は回りの子に話し掛けられた覚えが殆んど無い(これは私が忘れているだけかも知れないけれど)。

とにかくどこに行くのも何をするのも一人でだった。

話さなかったからなのか、影も物凄く薄かったのだと思う。

実際「はないちもんめ」に参加させて貰っても一番最後まで残る様な奴だった。

だからと言って寂しいとか悲しいとかも特に感じず、休み時間になると園庭にある杉の木に一人で登って遠くを見ていたりした。

やっぱり猿だった。


No.4 18/03/31 08:02
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私の中に自我の様なものが芽生えたのは、母に連れられて行ったアニメ映画を見てからだと思う。

タイトルは忘れてしまったが、悪人に囚われたお姫様を助ける為に王子様が剣を振るって戦う内容の物だった。

(なんてカッコいいんだろう!)と夢中になって映画を見ていた。

興奮が収まらなかった。

剣と剣を交えて悪人と戦う王子様。

勿論悪人は倒されて、塔から救い出したお姫様と王子様は熱いキスをしてハッピーエンド。

(私もあんな風になりたい!)と強く思った。

(強くてカッコいい王子様になりたい!)と。


No.5 18/03/31 08:11
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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お姫様にはちっとも興味が湧かなかった。

閉じ込められた塔の窓から「助けてー!」と叫ぶだけでロクに戦おうとも何ともしない奴に魅力なんて少しも感じ無かった。

フワフワのドレスもブロンドの長い巻き髪も羨ましいと思わないし、王子様の風になびくマントやキリリとした顔の方がずっと良い。

目指す物が決まった気がした。



年長組になっていた私は翌日からすぐに行動に出た。

幼稚園の使われていない、いつもシャッターの降りている薄暗いガレージに、これまた使用されていないボロボロのソファ(何故あったのかは分からない)を幾つも運び込む。

どう声を掛けたか全く覚えていないが、話に乗って来てくれた佳苗ちゃんと「王子様とお姫様」と題して、ガレージで二人舞台を始めた。

勿論他の園児達を無理矢理引っ張って来て見てもらった。

内容は……


佳苗ちゃん「王子様!」

私「姫!」

上手と下手からお互いに駆け寄り、抱き合って熱いキスをする。


………おわり


これだけ(笑)



こんな内容なのに観客の園児達には大好評だった。

目の前でぶっちゅ~う、と本当にするキスにみんな興奮していたみたいだ。


公演(笑)は一ヶ月程、毎日続いた。


暫くたってさすがに「王子様!」「姫!」ぶっちゅ~う、にもみんな飽きたのか集客率も悪くなり、やむ無く千秋楽を迎える事となった。

ソファを片付けるのが面倒だった。

何故だか先生方に怒られる事は無かった。


No.6 18/03/31 09:10
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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そんな頃、##くんという男の子と少し仲良くなった。

##くんは私の園庭での木登りを見て「すごい!すごい!」と誉めてくれた、同じ園の子だった。

いつも一緒だった訳では無かったが、たまに二人で木に登る様になった。

##くんと杉の木のてっぺんで、あそこに見えるのはどこどこで~とか、あっちは誰々ちゃんの家の方で~など、他にも色々話をした。


ある日、##くんは杉の木の上で
「ぼくの家ね、○△神社のすぐそばなんだ~。ほら、あっちの方だよ」
と教えてくれた。

○△神社は境内に小さな遊具が幾つか置いてある神社で、たまにだけれど私一人で遊びに行っていた場所だった。

「へー、じゃあ○△神社で遊んだりしてんの?」
と聞くと、##くんは
「ぼく、お友だちあんまりいないから、家で遊んでばっかりなの」
と、少し淋しそうな顔で言う。

「そっかぁ……、じゃあさ、こんど##くんち行って遊んでいい?」

「えっ!?ほんと!?うん!うちきて遊ぼう!!」

「うん、じゃあ遊びにいくね!」

「わぁー!ぜったいきてね!!」

##くんはすごく嬉しそうだった。

そんな##くんを見て私も嬉しくなった。


No.7 18/03/31 09:33
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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次の日曜日、ヒマだったので
「##くんのいえに遊びにいってみよう!」
と家を出た。

##くんの家に電話をして遊ぶ約束をするという考えが私には無かった。

この時にもし家にいた母に
「どこに行くの?誰かと遊ぶの?」
と聞かれていたら、あんな事にはならなかったかも知れない。

未だに私は思っている。

あの日、##くんの家に行かなければ良かった、と。


No.8 18/04/01 06:03
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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○△神社に着いた。

(##くんち、どこかな)

○△神社の回りは割と閑静な住宅街だ。

日曜日なのに人気も無く、○△神社で遊んでいる子供もその日はいなかった。

暫く神社の近くの家々の表札を見て回ったが##くんの苗字の札が中々見つからない。

30分程ウロウロとしていたら住宅と住宅の間に小路を見つけた。

(このおくかな?)

小路に入る。

20メートル程進むとポストがあり、そこに##くんの苗字が書いてあった。

(見つけた!)

また更に奥へ進む。

##くんの家らしき、少し大きめの木々に囲まれたお洒落な家が建っていた。

(……??あれ?)

その家の玄関らしいドアを見ると可笑しな事に気付いた。


No.9 18/04/02 05:37
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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(あれなんだろ?)

ドアノブにジャラジャラとした何か長い物がぶら下がっている。

ドアに近付いて見てみると鍵穴にキーが挿されていて、そのキーのアクセサリーの様だった。

(おうちの人がわすれてっちゃったのかな?)

どうしようかと迷った。

(……ぬいてポストとかにいれといたほうがいいかな?)

ただ、何ととなく、本物に何と無くだった。

(……さわらないほうがいいかな……)

キーに伸ばしかけた手を引っ込めて、

(帰ろう……)

と思い、ドアから少し離れた瞬間。

「!?」

その家の横の木の陰から突然男の人が現れた。


No.10 18/04/02 06:01
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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「…お嬢ちゃん何してるの?」

声を掛けられた。

(……おうちの人……かな……?)

「……あ……、えと……」

「今何しようとしてたの?」

男の人が近付いて来る。

何だか嫌な予感がして後ずさった。

「今これ触ろうとしてたでしょ」

男の人は直ぐ側まで来て

「……どろぼうしようとしてたの?」

(!?!?)

右手首を素早く掴まれた。

(違う!!)と言おうとしたけれど声が出なかった。

「中に入ろうと思ったんでしょ?」

手首を掴む男の人の力が強くて振りほどけない。

「……ち、ちが……」

何とか声を出したけれど(違う!)と最後まで言えない。

「ん?違うのかな?」


No.11 18/04/02 06:16
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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「……この家の子と遊びに来たのかな?」

男の人はそう言ったが手首は放してくれない。

「今日はここの子はいないみたいだよ」

「…………ッ…」

(放して!)と言いたかったがやっぱり声が出なかった。

「……おじさんが遊んであげようか」

そう言うと男の人は自分のズボンのジッパーに手を伸ばした。


No.12 18/04/02 09:03
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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男の人はジッパーを引き下げると空いている自分の左手をズボンの中に入れた。

赤黒い色のペニスがぼろん、とズボンから飛び出る。

(!!!)

咄嗟に顔を背けた。

右手首は掴まれたままだ。

「ほら、これ握ってごらん?」

頭の中はメチャクチャになっていて何が何だか解らない。

掴まれた手をペニスのそばに引っ張られる。

「ほら見て?美味しいよ。舐めてごらん?」

(………だ、だれか………だれかきて……)


No.13 18/04/02 21:20
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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「ほら、飴みたいにペロペロ舐めてみな?美味しいから。ほら!」

段々と男の人の語気が強まる。

ペニスを口元に近付けられた。

必死に顔を背ける。

「ほら!くわえてみな、口開けろよ!」

(……………!!……やだ、やだ…やだ…!!)


私と男の人がいたのは小路に入る表通りが見える所だった。

手首を掴まれる前に後ずさらなかったら、表通りからは見えない位置だったと思う。

(……だれか……だれか……!!)

顔を背けたのは表通り側だったが、誰も通らない。

「早く口開けろ!ほら!舐めろ!」

目をギュッと閉じた。口も。

(やだ!いやだ………!!)


No.14 18/04/03 23:26
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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(…やだ……やだ……!!)



フッ……と、掴まれた右手首が放された。

(!?)

目をそっと開ける。

顔を背けた側の表通りを警察官が一人歩いている。

だけれどこちらに気付いている様子はない。

男の人が「チッ!」と舌打ちを打つ。

ちらりと男の人を見ると両手でペニスを隠していた。



私は表通りに向かって走りだした。

途中、小路に敷かれた砂利に足を取られそうになったが、何とか転ばずに小路を抜ける事が出来た。

「……お!お、まわりさ、ん!!!」

通りを歩いている警察官を叫ぶ様に呼び止めた。


No.15 18/04/04 01:06
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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警察官が振り向く。

「??」

「………あ、…………ッ………」

声が上手く出てこない。

「?どうしたのかな?」

「………あ…ぅ…………」

「???」

警察官が眉を歪めて私を見下ろす。

なんと言えばいいのか分からない。

(……男の…………人、に?が?………)

(ど、………う、言ったら…………)

「……………………」

言葉が浮かんで来ないのと、声が上手く出なくて下を向いて黙ってしまった。




ここで私の記憶が途切れる。


この後、あの男の人がどうなったのか。

警察官はどうしたのか。

私はどうやって家に帰れたのか。



記憶からその後起こった事が抜け落ちてしまった。


14才のあの日に、とある人物が切っ掛けでこの時の全てを思い出す事になるのだが。


No.16 18/04/04 01:14
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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##くんとはいつの間にか遊ばなくなった。

私が避けたのか、##くんが私に構ってこなくなったのか、その辺もよく覚えていない。

ただまた私は一人に戻った。


No.17 18/04/05 04:03
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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父と母は私が幼稚園に入る前から喧嘩ばかりしていた。

一番古い記憶として残っているのが、私と歳の離れた兄がいるすぐ隣りの部屋で

母「女がいるんだろ!」
父「お前はキチガイだ!」

と大声で罵り合っているものだ。

その時、兄がそっと私の耳を手でふさいでくれたのを覚えている。



私が産まれる前から、父はお給料を家にまともに入れていなかったらしい。

私が成人を過ぎてもその事で母はずっと愚痴を垂れていたので、金銭的によっぽど酷い状態だったようだ。



幼稚園年長組に上がって暫く経ってから、母の様子がおかしくなった。

いつも家中の雨戸を閉めきり、台所でブツブツと良く分からない独り言を言う様になった。

ある日には「台所の窓から人が見てる!ほら!あそこ!」と、窓を指差してパニックをおこしたりもした。

勿論誰も窓から覗いてなどいない。

「だれもいないよ」と言っても、
「見てるじゃない!」と聞く耳を母は持たなかった。

段々と母は薄暗い家の中に閉じこもる様になった。

No.18 18/04/05 04:16
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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それでも母はなんとか私の幼稚園への送り迎えだけはしてくれていた。

朝家を出る時も帰って来てからも家の中は真っ暗で、電気も母は点けなかった。

それが怖くて暗い台所から逃げる様に外に遊びに出たり、唯一電気を点けても怒られない玄関横の階段で一人で遊んだりしていた。


ある日。

さようならの挨拶をして帰る時間になっても母は現れなかった。

みんなが嬉しそうに自分のお母さんの所へ走っていくのを見ていた。

(あれ……?)と思った。

(お母さん、どうしたんだろ……?)

30分。1時間。それ以上だろうか。

待っても待っても母は来なかった。

みんなとっくに帰ってしまい、私は最後の一人になっていた。

(なにかあったのかな?)

初めて一人で家に帰った。


No.19 18/04/05 04:29
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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道に迷わずに無事に家の前に着いた。

(あ、いえのカギもってない)

そう思ったけれど母は家の中にいるだろうし、とドアノブを回したら鍵は掛かっていなかった。

(やっぱりいえにいたんだ)とドアを開けて中に入った。

「……おかーさーん?」

居間の扉が開いた。

出て来たのは遠方に住んでいるはずの祖母と叔母だった。

「亜紀ちゃんお帰り」

叔母さんが私に言う。

(なんでおばあちゃんとおばさんがいるんだろ?)

「あ……おかあさんは?」

ただいまも言わずに聞いた。

「亜紀ちゃんお腹空いてない?何か食べに行こうか」

私の質問には答えずに叔母が話す。

「お腹すいてないよ、それよりおかあさんは……」

「お母さんね、ちょっと遠くに行く事になったの」

それまで祖母は黙ったままだったけれど、急にイライラした様な感じで、

「いいから蕎麦でも食べに行くよ!!」

と大声を出した。


No.20 18/04/05 04:46
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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仕方ないので祖母と叔母に連れられて近所の蕎麦屋に向かう。

その間、何度も「おかあさんは?」や「とおくってどこ?」と聞いたけれど祖母も叔母も教えてくれなかった。


蕎麦屋に着いたはいいけれど、お腹はちっとも空いていなかった。

祖母が私には何も聞かずにざるそばを三枚勝手に注文する。

また「おかあさんは?」と言ったら、叔母が「おそばを全部食べたら教えてあげるから」と言う。


目の前に注文したざるそばが置かれた。

ざるそばは大人の人が食べる量だった。

それでも母に何があったか知りたかった私は、飲み込むようにざるそば一枚を何とか全部食べた。

食べ終わってすぐに

「おかあさんどこにいったの!?」

と聞くと、祖母は

「本当にこの子は父親そっくりだ!!」

と叫ぶ様に言った。

叔母が他にも色々と口汚く騒ぐ祖母に何か言っていたけれど、私は祖母の急な癇癪に驚いてしまった。

暫くして祖母は騒ぐのを止めたが、物凄く恐い顔をしたままだった。



叔母がゆっくりと話し出す。


お母さんは病気になってしまったの

少しの間病院にお泊まりする事になったの

寂しいかもだけどお母さんはちゃんと帰ってくるから、それまで待てるよね?



それだけ聞いても何がなんだか私にはさっぱり分からなかった。

けれどそれ以上何か聞いたらまた祖母が怒るんじゃないかと思い

「うん……」

とだけ答えた。

飲み込んだお蕎麦を吐きそうになったけれど、それも我慢した。


No.21 18/04/09 22:40
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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翌日から行きも帰りも幼稚園へは一人で歩く事になった。

行くのには問題は無かったのだけれど、帰りが面倒だった。

さようならの挨拶をして出入り口に向かうと、他の園児のお母さん達が沢山迎えに来ている。

年長組の子でもまだまだ小さいので、自分のお母さんの所へ嬉しげに走って行き、手を繋いで帰っていく。

そんな和気あいあいとした場に混じらなくて済むように、何かと理由を付けては教室に他に誰もいなくなるまで残っていた。

No.22 18/04/09 22:48
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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幼稚園側には母の事はすでに連絡が行っていた様で、最後になるまで教室にいる私に特に何も言ってはこなかった。

少しイラついていた事があった。

母の入院から暫く、祖母と叔母は私の家に泊まっていた。

それなのに「幼稚園までの道が分からないから」と言う理由で私は一人で通園させられたからだ。

幼稚園までは子供の私の足で15分程度の距離だったのだが、結局めんどうなだけなのだろうと思った。

そういう人達なのは前から気付いていた。

もうなんだかあの人達の事は色々どうでもよく感じて、帰り道は好き勝手する様になっていった。

幼稚園から家までの途中にある大きな公園の遊具で遊ぶ。

家の側の公民館に入り、置いてある大型のテレビを見たり、館の中をあちこち探検したりした。

特に公民館には無料の水飲み機があったので、まだ今の様に水筒など持ち歩かなかった当時は「こんなに冷たくておいしい水がタダ!」と嬉しくて何度も水を飲んだ。

毎日毎日そんな感じで、家に帰るのは空が赤くなる頃だったけれど、祖母も叔母も怒る訳でも心配する訳でもなさそうだった。

(おばあちゃんもおばさんも、なんでうちにいるんだろ?)

口には出さなかったけれどいつも思っていた。

No.23 18/04/09 22:52
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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母が入院してから数週間が経った。

結局どんな病気で、どこの病院に入院しているか誰も教えてくれないままだった。

祖母と叔母はまだ私の家にいたのだが、初めて父も含めて4人で母のお見舞いに行く事になった(兄は何故か来なかった)。


どこをどう歩いて着いたのか覚えが無いが、見た目結構大きな病院で、中の待合室は薄暗くてなんだか雰囲気も悪かった。

父が受付らしき窓口から帰ってきて、3階だか2階だかへ階段で上がる。

やたらと重そうなドアを内側から開けてもらって病棟内に入った。

待合室と違って中は明るかった。

ただ何か妙な感じがした。

中にいる人達が壁に向かって一人で話していたり、持ってもいないバイオリンを弾いている人もいた(今で言うならエアバイオリンだろう)。

急に声を掛けてきた人もいた。

何を言っていたかは忘れてしまったが、同じ事を何度も繰り返し質問された。

逃げる様に離れた。

(ここ、なんなんだろう……)




一番奥の病室に父達に連れて行かれる。

端っこの窓のすぐ横のベッド。

そこに母はいた。

No.24 18/04/09 23:07
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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暫く見ない間に母は大分痩せていた。

長かった髪はショートになっていて、別人の様に感じた。

病室内は窓が大きくて、その日は天気も良くてとても明るかった。

そんな所にいる母にびっくりした。

あれだけ頑なに窓を開けて日を入れるのを拒んだ母がこんな所にいる。

(あぁ、ふつうになったんだ)と、嬉しく思った。

ただ久しぶりに母の顔を見たら、恥ずかしい様なちょっと怖い様な気がして、父の後ろに隠れていた。

父と祖母と叔母が母と何か話していたのだが、急に母が私に気付いたらしい。


「まぁ!かわいい子!おいくつ?」


母は私の事を自分の子供だと分かっていなかった。

No.25 18/04/10 14:36
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私はその言葉に大きなショックを受けた。

何も言わずにまたさらに父の後ろに隠れた。

「恥ずかしいのかな?」と、ふふ、と母が笑う。

結局その日は母とは一言も話さずに帰る事となった。

いまいちよく覚えていないのだが、私は泣かなかったと思う。

帰り道に何か話したかどうかも分からない。

お見舞い後の記憶がほとんど無いのだけれど、やっぱり母が私の事を忘れていたのを(どうして?)と思ったのは確かだ。



祖母と叔母は一ヶ月近く私の家にいた。

その間に父が転職をした。

父は元は東京の商社に日中勤めていたのだが、転職したのは夜間の大きなお弁当工場だった。

朝の6時頃に父が帰って来て私を自転車で幼稚園に送る。

昼の内に寝て幼稚園が終わる時間に迎えに来て、夕方から工場へ仕事に出る。

夜は兄と私の二人きり。

そんな日々が始まった。


No.26 18/04/10 14:39
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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最初の内は父が幼稚園へ送り迎えしてくれるのが嬉しくてたまらなかった。

帰り道、スーパーに寄って買い物をして帰る。

時々だったがスーパーのフードコーナーでたい焼きやアイスを買ってもらって食べたりもした。

もう家に帰ってもいつも険しい顔の祖母も口ばかり立派な叔母もいない。

やっと安心出来る様になった気がした。

ただ、父は夕方になるといなくなってしまう。

転職の事など全く分からなかった私は「行かないで」と泣いては父を困らせた。



暫くはそんな日々が続いたのだが、段々と慣れて来たと言うか不満を感じる様になってきた。

朝、幼稚園に送ってもらえるのは変わらず嬉しかったけれど、帰り道に公園や公民館で遊べなくなったのがつまらなく感じ始めた。

勿論たまのたい焼きやアイスは魅力的だったけれど、いつしかそれにも贅沢な事に慣れてしまい、スーパーに行くのも面倒になってきた。

今でもだけれど本当に我が儘な子供だった。


No.27 18/04/10 14:43
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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結局3ヶ月ほど不満を抱えながら、そのまま卒園式を迎えた。

まだ母は入院していて、卒園式には父が休みを取って来てくれた。

子供の頃のアルバムに式の写真が貼ってあるのだが、並んでいる保護者で男性は私の父ひとりだけだった。

今思うと本当に父は私の為に頑張ってくれたんだなぁ、と思う。

ただこれは後に聞いた話だけれど、父は兄に暴力を振るっていたらしい。

私が生まれる前の事だった様だが、兄を野球のバットで殴ったりした事もあったそうだ。

私にその話をした兄は口癖の様に
「いつかオヤジを殺してやる」とよく言っていた。

父も兄も大好きだったから悲しかったし怖かった。


因みに兄と私は12才離れている。

これも兄に後になって聞いたのだが、兄は中学生の頃、胃潰瘍になったらしい。

兄が学校に行っている間に父や母が私を殴ったりして殺してしまうのではないかと心配で堪らなかったそうだ。

そのストレスから体調を崩し、内科に一人で行ったら胃に穴が開いていると言われ、薬を飲んでいたのだという。

兄も色々ととても辛い思いをしていた様だった。


No.28 18/04/10 14:48
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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時間が少し戻るのだが、卒園式より前、父とデパートにランドセルを買いに行った。

私は最初から欲しい色が決まっていた。

赤ではなく黒いランドセルが欲しかった。

赤より黒の方が断然カッコいい。

デパートの入口すぐに小学校入学準備の特設コーナーがあり、沢山のランドセルが棚に並んでいた。

私は黒いランドセルを手に取って「これがいい!」と父に言った。

「赤じゃなくていいのか?」と父に言われたが「絶対これ!」とランドセルを抱き締める様にして答えた。

同じ黒でもいくつかの種類のランドセルがあったので、父と吟味する。

暫く見ていると店員さんが近付いて来て話し掛けられた。

「お決まりですか?」と声を掛けられ父が「はい、この黒の……」と答えると、店員さんが「えっ!?」と驚く。

(??)と思った。

父も同じ様に思った様だった。

店員さんが話し出す。

女の子ならやっぱり赤色がいいと思いますよ
女の子で黒をお買い上げになられるお客様はほとんどいらっしゃいませんし

少し早口にそんな事を言っていたが、それでも私は黒がいいと父に言った。

父も「いえ、この子が黒が欲しいと言っているので……」と言うと、更に店員さんはこんな事を言った。

女の子で黒いランドセルですと学校でからかわれたりしますよ


No.29 18/04/11 05:52
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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(??からかわれる?)

黒のランドセルをカッコいいと言われるなら分かるが、からかわれるってなんで??

女の子だからと言って赤でないといけないなんて決まってないはずだ。

私は店員さんを無視してまた黒いランドセルをいくつか触ったり中を開けて見ていた。

その間父は暫く考えていた様だが、私に「やっぱり赤がいいんじゃないか?」と言ってきた。

「えっ?嫌だよ、黒いのがいい!」

「だけど赤の方が女の子らしいだろ?」

店員さんがうんうん、といった感じで頷く。

「それにからかわれるの嫌だろう?」とも言う。

「やだ!絶対黒いのがいい!」とまた答えたが、「亜紀、赤色のにしておきなさい。」と父。

何度も黒!と言ったのだが聞き入れて貰えなかった。

結局赤いランドセルを買う事になってしまった。

店員さんにも勿論だが、父にも(黒でもいいって言ってたのに!!)と腹を立てながら家に帰った。


No.30 18/04/12 00:48
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小学校に通い始めた。

勿論あの嫌いな赤いランドセルを背負って。

入学して暫くは授業の為の準備などで忙しかった。

みんなそうだったのかも知れないが、初めての自分の机やイス、大きな黒板、天井から吊り下げられているテレビに驚いた。

配られた教科書も中を見ると沢山の言葉や絵が書かれていて、幼稚園で見ていた紙芝居や絵本と全然違うのにもびっくりした。

(小学校ってこんななんだ)と、ドキドキと緊張が凄かった。

不安感も強かった。

授業中は自分の机でイスに座ってじっとしていなければいけない、と担任の先生が言っていたからだ。

(じっとしてるなんて出来るのかな……)

幼稚園では自由気まま、いや、自分勝手に動き回って先生にいつも怒られていた私だ。

怒られても好き勝手をやめなかったので、小学校のシステムに自分が合わせられるかどうか不安だった。

(だって小学校の先生ってすごくこわいってだれか言ってた………)

どんな風に怒られるのか想像も付かなくて、怖くて怖くて毎日身体はガチガチだった。

No.31 18/04/12 06:23
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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緊張やら不安やらでガチガチの中、これだけは絶対にする!と決めていた事があった。

絵の具箱の注文だ。

授業準備期間は一週間程度だったと思うが、その間に色々と物を揃える為の書類も配られた。

その中に絵の具箱の注文書もしっかりあった。

先生が「お家の人に書いてもらって学校に持って来て下さい」と言っていたので、帰ってすぐに父に注文書を渡す。

書いて貰ったのは名前、クラス、出席番号のみ。

父に「ここは書かなくていいみたい」と嘘を付いた。

色指定の欄だ。

翌日の朝、学校で注文書の色指定の欄に

【あお】

と自分で書いて先生に渡した。

渡す時ドキドキが止まらなかった。

運良くその場で確認されなかったので、

(やった!!)と心の中で叫んだ。

No.32 18/04/12 06:29
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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二週間ほど後、教室に青とピンクの絵の具箱が沢山届けられた。

教卓の上に積まれた箱を、先生が男子から名前順に呼んで一人ひとりに手渡していく。

男子が受け取ったのは全て青色だった。

ピンクの箱を手にした男子は誰もいなかった。

次に女子がやはり名前の順に呼ばれる。

私の名前が呼ばれるまでに14人。

それまでやっぱりと言うか全員ピンクの箱を受け取る。

「高木さん」

名前を呼ばれて教卓へ向かう。

クラスにざわめきが起こった。

先生が私に絵の具箱を手渡しながら、
「高木さん、これで良かったの?」と聞いて来た。

はい、も、うん、も言わずに首だけ縱に振る。

絵の具箱を受け取って自分の席に戻る途中で、クラスの男子誰かが

「高木さん女なのに青なんて変なのー!!」

と、大きな声で言った。

またクラス中がどよめく。

何も言わずに席に着いた。

腹の中では、

(女なのにってそんなの関係ないじゃん!!)

と、ムカついていたが、それよりも念願の青い絵の具箱を手に入れられた嬉しさの方がムカつきよりも何倍も上だった。

結局女子は私以外全員ピンク色の絵の具箱だった。

青色の絵の具箱を撫でたり擦ったりとニコニコしていた女子は私だけだった。

No.33 18/04/12 06:51
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小学校に上がって数ヶ月経っても私の緊張は全くと言っていい程取れなかった。

授業中、自分の席で固まっていた。

(うごいちゃいけない。うごいちゃいけない。)

頭の中はそればかり。

授業はそこそこ進んでいたが全然聞こえなかった。

(うごいちゃいけない。うごいたらおこられる。)

ずーっとそれだけ考えていた。

教科書を開いていても黒板を見ていても、何も頭に入って来なかった。

他からしたらただぼーっとしている様にしか見えなかったと思うが、冷や汗を背中にかく程に緊張していた。

誰も私のそんな様子に気付いてはいないようだった。

そういう感じで時間はどんどん過ぎて行って、一学期が終わったと思う。

友だちは出来ていなかった。

夏休みはほとんど一人でか父や兄と遊んでいた。

No.34 18/04/12 07:19
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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二学期に入ってから数人の友だちが出来た。

全員男子だ。

その頃には青い絵の具箱についてからかってくる奴は誰もいなくなっていた(一学期の内は少しの間、女なのにと言われた)。

何故か女子の友だちは出来なかった。



休み時間になると授業中の極度の緊張の反動だったのか、男子達と学校中を走り回った。

追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり、更には登ったらいけないと言われている大きな杉の木や桜の木に登って遊んだ(勿論先生に怒られた)。

男子達と外で遊ぶのが多くて休み時間に教室にはほとんどいなかった。

同学年の女子が外遊びをしているのは余り見かけた覚えが無い。

幾つか上の学年のお姉さん達が縄跳びやゴム段をしている程度で、女子は大体教室や体育館で遊んでいた様だった(これは後で知った)。



私はいつの間にか「アッキー」と呼ばれる様になった。

名前の亜紀から付けられたあだ名は大人になった今でも変わらなくて、昔からの友人にはまだそのままで呼ばれている。



休み時間になると仲の良くなった男子達に「アッキー、校庭いこー!」と声を掛けられ、すぐに席を立った。

女子達が何をしているか、どんな風に遊んでいるのか知らなかったし興味も全く湧かなかった。

毎日毎日、お休みの日まで男子と遊んでいた。

No.35 18/04/12 08:16
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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毎日のように男子達と遊んでいた。

二学期、私達の間ではかくれんぼがもの凄く流行っていて、朝に目が覚めると一番に(今日はどこにかくれよう)と一人で作戦を練ったりしていた。

友だちと外で遊ぶのはとても楽しかった。

授業が終わって家にランドセルを置いてからまた小学校に集まって、飽きもせずに夕方近くまでみんなでかくれんぼをした。




母は夏休みの間に退院して家に帰って来ていた。

病院から戻って来た母は家から出られなくなっていた。

居間の電気は点ける様にはなったが、また雨戸を閉めて家に閉じ籠っていた。

母はもの凄く外や人を怖がった。

家の目の前のゴミ捨て場にゴミを出しに行く事も出来ないし、新聞の集金のおじさんに会うのも嫌がった。

スーパーなど行ける訳もなく、相変わらず夜勤帰りに父が買い物をして帰って来る。

いつの間にかゴミ捨てや、新聞や家賃の支払いなどは私の係になっていた。



外へ遊びに行こうと準備をしている途中で母に「今日は集金のおじさんが来るから家にいて」とたまに言われる。

内心母に対して(なんでそんなこともできないの!?)と思っていたが口には出さなかった。

かくれんぼに行けなかったのはとても残念だったけれど仕方ない。

母にお金(ハンコも)を用意してもらって、集金のおじさんが来たらそれを渡していた。

かくれんぼブームは三学期の半ばには終わってしまったが、母の閉じ籠りはその後、十数年間続く事になる。

No.36 18/04/14 05:46
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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秋になりそろそろ寒くなってきて、放課後のかくれんぼのメンバーが少しずつ減っていった。

それでもブームはまだ続いていて、風邪を引いてマスクを着けながらでもかくれんぼに参加する強者も中にはいた。

私も大分隠れるのが上手くなっていて、時には小学校の体育倉庫の屋根の上に登ったり、プールの更衣室の屋根に登ったり、とアチコチ登って隠れていた。

学校の休み時間だと短いので、お昼休みの間はケイドロ(ドロケイと呼ぶ子もいた)も流行り始めた。

私はかくれんぼにもケイドロにも奮って参加した。

やっぱりアチコチ登っていた。

ケイドロに参加するメンバーには女子もいた。

どこに隠れようか迷っている女子を見付けた時には、こっそりとその子達を呼んで、こんな良い場所がある、と体育倉庫の屋根に一緒に登ったりした。

だからと言ってその女子達と仲良くなれた訳でもなかった。

ケイドロ以外ではやっぱり女の子と関わる事もほとんど無く、友だちは男子だけだった。

No.37 18/04/14 05:49
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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三学期に入ってかくれんぼブームが落ち着きを見せた頃、絵を描く宿題が出た。

先生の出した絵の課題は【遊んでいるところ】だった。

クラス全員に真っ白の画用紙が配られ、一週間の内に描いて先生の所へ持って来る様に、と言われた。

何を描くか考えた。

かくれんぼやケイドロにしよう、と思ったのだがなにぶんいつも参加する人数が多い。

何人も描くのはめんどくさく感じた。

しかも私は男の子を上手に描く自信が無かった。

実際に下書きとして何人か男の子を描こうとしたが、みんな女の子の顔になってしまう。

お絵かきは幼稚園の頃から好きだったが、描いていたのはいつも何故かお姫様か動物ばかりだった。


困った。

どうしよう、描けない。

男の子が女の子だと女の子になってしまう。

うーん、困った………。

No.38 18/04/14 06:03
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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翌日になっても3日目になっても思った様に描けない。

何度も何度も下書きを描いては消した。

(どうしよう……どうしよう)

段々と焦りが強くなる。

4日目。

(もう無理だ!)

かくれんぼやケイドロを描くのを諦めよう!と決めた。

じゃあ何を描くか?

パッと頭に浮かんだ物があった。

(ブランコ!!)

そうだ!ブランコを描こう!!

自分的に世紀の大発想並のアイディアだと思った。

幼稚園児の頃、一人で帰り途中に寄った公園でブランコに乗るのが好きだったし、漕ぐのも小学生の今だって得意だ。

何よりブランコを描いちゃうなんて、絶対絶対すごいことだ。

きっと他のみんなは男の子や女の子を並べて描くだけで、ブランコを描く子なんていない。

私ってすごい!!

そうと決めたら一直線と言った感じで、下書きを描いては消しすぎてクシャっとなった画用紙にブランコを描き始めた。

ブランコは思っていたより簡単に描けて余計に、自分すごい!!と自画自賛する。

そしてブランコの横に女の子を一人立たせる事にした。

色を塗って完成!!

すばらしい出来映えだと自信満々で、次の日その絵を先生に渡した。



思っていた通り、私はクラス全員の前で先生に誉められた。

色使いも良いしブランコも上手に書けていますね
隣にいる女の子もちゃんと書けていて良いですね

その時初めて先生に誉められたと思う。

もの凄く嬉しかった。



その日の授業が終わって帰る支度をしていたら、先生に「高木さん、ちょっとお話があります、残って下さい」と声を掛けられた。

(……もしかしたらあの絵がなにか賞をとっちゃったりするのかな??)

一人教室に残ってドキドキした。

No.39 18/04/14 06:31
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帰りの会が終わってみんな教室からぞろぞろと出て行く。

私以外の生徒全員がいなくなるのを確認した様子の先生は
「高木さん、こっち」と、教員用のイスに腰かけて言った。

(やっぱり賞かな??)とドキドキしながら座っている先生の前に立った。





「高木さん!!なんでこんな絵にしたの!!書き直してきなさい!!」

…………???

いきなり怒鳴られた。

先生は凄く怖い顔で私を怒り続けた。

「みんなはちゃんとお友達を何人も書いているじゃない!!どうして女の子一人しか書かないの!!」

他にも何か言っていた気がするが怖くてよく覚えていない。

「明日までにちゃんと書き直して持ってきなさい!!」
とまた書き直しを命じられてその日は帰らされた。



帰り道、頭の中はいつも以上に真っ白になっていた。

描き直しを強要されたのもショックだったし、先生のクラス全員の前での態度との違いにびっくりした。

あんなに人に怒鳴られたのは初めてだった。

よく分からなかったけれど、とてもとても傷ついた様な感じがした。




その日の内に元の絵の女の子の周りに更に女の子を二人描いて、適当に色を塗った。

次の日に先生の所へ絵を持っていった。

先生は暫く何も言わずに絵を見ていたが「……まぁ、いいでしょう」と小さな声で言った。

前日の様に誉められる事は無かった。

前以上に緊張と恐怖でガチガチの日々がまた始まった。

No.40 18/04/14 06:52
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一年生の三学期も半ばを過ぎた。

先生に絵の件で酷く怒られてから、恐怖と緊張で身体がガチガチになりならがも、ぼんやりと思っていた事があった。

それは「みかんはなんでみかんって言うんだろう」と言う事だった。

何故みかんはみかんと呼んでいるけれど、りんごじゃ駄目なのか。

他にも教室の黒板を見れば「どうして黒板は黒板って呼ぶのかな。他の名前じゃなんでダメなんだろう」

吊り下げられたテレビを見ては「テレビはなんでテレビって言うのかな」

しまいには「どうして机の角は四角いんだろう?」とまで考える様になっていた。

相変わらず授業の内容は頭に入って来なかったけれど、そんな事ばかりをずっと考える様になっていた。

No.41 18/04/14 07:06
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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いくら考えても何故みかんはみかんでりんごではないのか分からなかった。

ある日。

休み時間に先生の回りに女子が集まって楽しそうに話をしているのを見て、(今なら先生に聞けるかも)と思い、談笑している中にそろりと入った。

「あの……先生……」

おしゃべりをしていた女子達と先生が「なんだ?」と言った感じで私を見る。

「あの……どうしてみかんはみかんなの?りんごじゃダメなの?」


一瞬、間を開けて女子達に大笑いされた。

「あははは!アッキー変なのー!そんなの当たり前だよー!」

「え……でも、みかんじゃなくてりんごでもよかったんじゃ……」

「みかんがみかんって、そんなの当たり前じゃん!なに言ってるのー?変だよー!」

あははは、と女子達はまたひとしきり笑って、私に背を向けて別の話をし始めた。

私が質問している間、先生はただ微笑んでいるだけで答えを教えてはくれなかった。



聞きに行くのに結構勇気がいったのに、女子達に笑われたのはショックだった。

それに変呼ばわりされたのも。

(そんなに変かな……)


それからは(みかんはどうしてみかんなんだろう)という疑問を口に出さなかった。

(だれかに言ったらまた笑われる)

笑われるのも、変と言われるのも嫌で、ただただ一人、頭の中で考え続けた。

前よりもっと話さなくなった。

考えて考えて、でも分からなくて時間ばかりが過ぎて行った。

気付いたら三年生になっていた。

No.42 18/04/14 07:22
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二年生の間、何をしていたか覚えていない。

ただひたすら、みかんやりんごや黒板、テレビ。机にイス。

他にも沢山の物の名前や形の事ばかり考えていた。



ひとつだけ覚えている事がある。

学校での事では無いのだけれど、父に連れられて遊園地に行った時の事だ。

遊園地で遊んだ帰り道での出来事。

閉園時間が近付いて、父と駅までの道を歩いていた。

結構な人がいるなか、大学生らしき二人組が突然ケンカを始めた。

胸ぐらを掴みあって大きな声をあげていたのだが、そこに父が割って入った。

「お前達、こんな所で喧嘩なんかするな!やるなら向こうの見えない所でやれ!回りの迷惑だ!」

そう言って父はケンカを止めてしまった。

私はその時に正直(お父さんってカッコいい……)と思った。

この時の父の行動は後の私の行動原理(と言うとおおげさかも知れないが)となる。

今でも私はお節介な所があるのだが、あの時の父の姿が忘れられない。

「あの父の血を引いてるんだ」と思うと、つい動いてしまう。

それだけあの時の父は本当にカッコ良かった。

No.43 18/04/14 07:26
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私の通っていた小学校は二年毎にクラスの組み替えがあった。

二年生までは女の先生だったが今度は男の先生に変わった。

仲の良かった男子達とも大半が別のクラスになってしまい、休み時間はまたほとんど一人で過ごす様になった。

一人でいるようになったのには他にも理由があった。

三年生になってから男女を異性として回りの子達が意識し始めたからだ。

いつの間にか男子と女子が一緒にいるだけで「○君は○ちゃんが好きなんじゃないか」など噂が立つようになった。

そんな事にしばらく気付かなかった私は、前の様に男子の側に寄っていったのだが、男子達側が私が近付くのを嫌がった。

それでも中には相変わらず私と仲良くしてくれた男子もいたが、やっぱり噂になってしまい、自然と遊ぶ事は減っていった。


その頃、母の二度目の入院が決まった。

No.44 18/04/14 07:36
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母の入院が決まる少し前。

変わらず私は授業もそっちのけで物の名前や形を考え続けていた。

三年生になって授業は大分進んでいたのだが、私は全く何も聞いていないし見ていなかった。


算数の授業中だった。

先生に急に「高木、この問題わかるか?」と言われてハッとした。

名指しで呼ばれて立ち上がったが、何が何だか分からない。

「えっ……と、時間が…30分?で……、1?キロメートルだから……、3?2?回で………えっと……」

分かりませんと何故だか言えず黙りこくってしまったら、クラスに爆笑が起こった。

下を向く私に「うん、高木、言いたい事は大体分かるんだけどな、ちゃんと授業聞こうな」と先生も笑いながら言う。

座っていいと言われて注目からは外れたけれど、恥ずかしくて堪らなかった。

完全に落ちこぼれになっていた。

暫く、

自分が全く授業を聞いていなかった事。

授業の内容がさっぱり分からない事。

みんなに笑われた事。

が恥ずかしくて、また授業中先生に指されて答えられなかったらどうしようとビクビクする様になった。


ただ、やっぱりこのままではマズいと思い、家で勉強を始めた。

しかし教科書やノートを見ても何が何だかさっぱりだった。

そりゃそうだ、授業を聞いていないしノートに何も書いていないのだから。


どうしても問題の意味も答えも分からないので、「そうだ!お母さんに教えてもらおう!」と居間にいる母に声を掛けた。

No.45 18/04/14 20:35
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「お母さん!」

居間でこたつに頬づえをついている母に声を掛けた。

居間の電気は相変わらず点けておらず、暗い中で母はため息をついていた。

「…………」

声を掛けたが無視された。

「ねぇ、お母さん!ねぇ!」

母はこちらを見もせずに

「……何……?」

と、めんどくさそうに答えた。

「あのね、お母さん、これがわからなくてね、教えて!」

教科書をこたつの上に乗せて、「これなんだけど」と言ったら、

「……お父さんに教えて貰って」

「だって今お父さん仕事じゃん。わかんないの、お母さん教えて」

はー、っと息を吐く母。

「…だから、お父さんが帰ってきたら教えてもらいなさい。お母さん、分からないから」

そう言われても私は引き下がらなかった。

「わからなくてもいいよ、いっしょに考えてくれるだけでもいいから!ねぇ、お母さん、お母さん!」

パンッ

頬を叩かれた。

「お父さんに聞きなさいって言ってるでしょ!?しつこいっ!あっち行きなさい!」

そう言うと母はまた頬づえをついて、ブツブツと何か独り言を言い始めた。



自分の部屋に戻った私はまた机に向かった。

教科書を開いて問題を読む。

ちっとも頭に入ってこなかった。

頬を叩かれて頭の中は真っ白になっていた。

訳も分からずイライラして、鉛筆を放り投げた。



結局、帰って来た父に勉強を教わる気も失せてしまった。

その日から机に向かって勉強する事は無くなり、私の机はただの物置きになった。

No.46 18/04/14 20:56
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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廊下側一番はじ、前から二番目が教室での私の席だった。

後ろをちらりと見ればクラス全体ほとんどが目に入る。

その日の給食はパンにカレー、牛乳と他に何かあったと思うが覚えていない。

好物のカレーがメニューで嬉しかった。

さて食べよう、とスプーンを手に取った時、私の席から3つ机を挟んだ遥奈(はるな)ちゃんの席回りがなんだか騒がしかった。

よくよく見ると数人の男子と女子が遥奈ちゃんの給食のトレイに何かをかけている。

(なにやってんだ??)

少し気になったので見に行った。

男子が「ほら、食えよー。給食残すなよな」と言いながら、遥奈ちゃんの給食に牛乳を回しかけてニヤニヤ笑っていた。

回りの女子も「はるちゃん、全部食べなよー?」とくすくすと笑いながら見ている。

(……こいつら……)

遥奈ちゃんは怒った様な顔でじっと牛乳がかかったトレイを見ている。

私は自分の席に戻り、牛乳をカレーにかけて食べた。

そしてまた遥奈ちゃんの席に向かった。

「ねぇ」

「!?」と遥奈ちゃんが鋭い目付きで私を睨む。

カレーを指差して「食べてみなよ。おいしいよ」と言って、また席に戻った。


暫くして、遥奈ちゃんが私の席に来た。

「…………」

「なに?」カレーを頬張りながら聞く。

「……どうしてアッキーのカレー、牛乳がはいってるの」

「ん?あぁ、自分でいれたんだよ。おいしいから、はるも自分の食べてみなよ」また牛乳カレーを口に運ぶ。

「……馬鹿なんじゃないの……」

「んー?んー、そうかもー」と言いながら牛乳をパンにもかけた。

「これも美味しいんじゃない?」と、ニカッと遥奈ちゃんに笑った。

「……何カッコつけてんの、ばーか」

そう言うと遥奈ちゃんは自分の席に戻っていった。

No.47 18/04/15 06:01
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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何日か遥奈ちゃんの給食トレイに数人の男子や女子が牛乳をかける日が続いた。

それが始まってからもう何日も遥奈ちゃんは給食を食べていなかった。

(食べられるものだけでも食べたらいいのに)そう思っていたし、

(たおれたらどーすんの)と、心配でもあった。



その日の給食はソフト麺とミートソースに、牛乳、フルーツが何か付いていた。

遥奈ちゃんの机の回りにまたあいつらが集まって、トレイに牛乳をかけて笑っている。

いい加減ムカつきもピークに達していた。

遥奈ちゃんの席に向かう。

男子の持っている牛乳パックを引ったくる様に奪って、遥奈ちゃんのトレイ上のミートソースに牛乳をかけた。

「これだったら食べられるよ。おいしいから食べな」

回りにいた子達がイヤらしい顔をしながら「アッキーやる~!」と笑った。

自分の席に戻り、牛乳入りのミートソースを食べた。

ガタッ

遥奈ちゃんが立ち上がって私の所へやって来る。

「……また自分のにかけたの」

「うん、けっこうおいしいよ。はるも食べてみなよ」

遥奈ちゃんは牛乳パックを持って来ていた。

「……アッキー、これ頭にかけていい?」

牛乳パックを私の頭の上に持ってくる。

「………いいよ」

遥奈ちゃんがパックを握って私の頭に牛乳をかけた。

「…………ぷっ!あはははは!!」

大きな声で笑う私に「アッキー、頭おかしいでしょ」と遥奈ちゃん。

「ははは!えー?そうかな?あははは!」

「……また明日もかけるから」

「いーよいーよ、かけにきなー、あはははは!」

次の日、そのまた次の日も遥奈ちゃんは牛乳を私にかけに来た。

それが数日続いた。

何日目かにクラスの女子何人かが「はるちゃんやめなよー」と言ってきたが、「いーのいーの。あははは!」と笑って牛乳をかけられるのを拒まなかった。


いつの間にか男子や女子達は遥奈ちゃんの給食に牛乳をかけるのを止めたらしい。

遥奈ちゃんもそれにしたがってか、私に牛乳をかけるのを止めた。

私の知らない所で話し合いでもあったのかも知れない。

普通に給食を食べる様になった遥奈ちゃんを見て(良かった、食べてる)と安心した。

No.48 18/04/15 06:13
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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次の日曜日。

遥奈ちゃんから電話がかかってきた。

「アッキー、今から出てきて」

遊ぼう、とは言われず、命令口調でそう遥奈ちゃんに言われた。

(なんの用だろ?)と家を出た。


待ち合わせたのは小学校の校門前。

遥奈ちゃんは先に来ていて

「アッキーおそい!来てって言ったらすぐ来て!」

なんでこんなに偉そうなのか分からなかったので何も答えなかった。

「行こう」と遥奈ちゃんが歩き出して、良く分からないまま後を付いていく。

何をする訳でもなく、ただ学校の近くを歩くだけ。

遥奈ちゃんは何も話さない。

私も話す事は特に無いので、お互い無言のまま歩き続けた。

暫くして「つまんない、帰る」と勝手に遥奈ちゃんは帰ってしまった。

(なんだったんだ??)

分からないまま私も家に帰った。



次の日から学校の休み時間毎に、遥奈ちゃんが自分の席から「アッキー、来て」と私を呼ぶ様になった。

私は何も話さなかったが、遥奈ちゃんはクラスの誰が馬鹿だの頭が悪いだのと一人でベラベラ喋っていた。

たまに遥奈ちゃんに「アッキーもそう思わない?」と言われたけれど、私は答えず黙っていた。



だんだんと遥奈ちゃんといる時間が増えた。

家にも連れて行かれる様になった。

別に一緒に遊ぶ訳でもなく、プロレスが好きな遥奈ちゃんは私に技をかけて来たりした。

時には台所から大きめの包丁を持ってきて私に向ける事もあった。

私は遥奈ちゃんのそういった行動の意味が何となく分かっていたので、プロレス技をかけられても包丁を向けられても怖くなかった。

No.49 18/04/15 06:34
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遥奈ちゃんとの良く分からない関係が一ヶ月程続いた頃、クラスに孝子(たかこ)ちゃんという転入生が来た。

初めての転入生に皆が珍しがって、孝子ちゃんの回りにはクラスの子達が集まっていた。

孝子ちゃんは明るくて話も面白い、少しふっくらとしている子だった。

いつの間にか孝子ちゃんは、クラスでちょっと目立つ遥奈ちゃんと仲良くなっていたみたいで、遥奈ちゃんと孝子ちゃんと私とで一緒にいる事が増えた。

私はやっぱり余り喋らなかったのだけれど、そんな私が孝子ちゃんには珍しく見えたのかも知れない。

孝子ちゃんは気さくな子で、三人でいても遥奈ちゃんと違って私にも会話を振ってくれたりしていた。



そんな感じで一、二ヶ月経った頃だった。

日曜日、遥奈ちゃんから電話が来た。

また「アッキー、今から来て」と呼ばれた。

特に用事も無かったので、言われた通りに遥奈ちゃんの家に向かった。

No.50 18/04/15 07:28
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遥奈ちゃんの家に着くと「アッキー、こっち!」と呼ばれた。

遥奈ちゃんの家の前の小さなガレージ。

見るとそこには孝子ちゃんも来ていた。

(今日は何するんだろ?)と思ったら「アッキー、そこに立って」と遥奈ちゃんが言う。

どうやら足かけゴム段をするのに、ゴムひもを足にかけて押さえる人数が、遥奈ちゃんと孝子ちゃん二人だと足りなかったらしい。

「アッキー、ゴムひも押さえてて!」と、遥奈ちゃんに言われる通りにゴムひもを足にかけて押さえる。

遥奈ちゃんと孝子ちゃんは暫く交替にゴム段で遊んでいた。

私はぼーっと突っ立って(早く終わんないかなぁ)と思っていた。

30分くらいしたらただ立っているのが辛くなって来た。

孝子ちゃんがそれに気付いたのかは分からないが「アッキー、次とぶ?」と言ってくれた。

けれど私はゴム段の仕方を知らなかったので「ううん、私は……」と言いかけた。

……ら、遥奈ちゃんが「アッキーはいいの!!」と孝子ちゃんに言う。

「でも……」と言う孝子ちゃんの言葉を遮って、遥奈ちゃんは。

「アッキーは私の言うこと何でも聞くんだからいいの!!」




(バカバカしい……)

「帰る」

足にかけたゴムひもを外してガレージから歩き出した。

遥奈ちゃんが何か叫んでいたけれど無視して家に帰った。

No.51 18/04/15 09:02
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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翌日、朝。

学校の下駄箱前で遥奈ちゃんにばったり会った。

もしかしたら私を待っていたのかも知れないけれど、別にどうでもよくてそのまま教室に向かおうとした。

…ら、遥奈ちゃんに声をかけられた。

おはようではなくいきなり

「アッキー!きのうなんで勝手に帰ったの!」

そして私の言葉も待たずに

「アッキーは私のドレイでしょ!!」

(何を言ってるんだ?)とムカッとしたので

「ドレイになんてなったおぼえない!」

と言い返した。

遥奈ちゃんがそれを聞いて手を振り上げる。

ひっぱたこうとしたのだろう。

それでも怯まず私は遥奈ちゃんの目をまっすぐ見たままでいた。

遥奈ちゃんは暫く手を上げたままでいたが、私が動じないのに気圧されたのか、ふいっと目をそらして

「もう遊ばないから!」

と言って歩いて行ってしまった。

その日から休み時間、遥奈ちゃんに呼ばれる事は無くなった。

No.52 18/04/15 23:06
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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遥奈ちゃんと遊ばなく(?)なった代わりと言うか、孝子ちゃんと良く過ごす様になった。

別に孝子ちゃんと仲良くしたかった訳でも無かったのだけれど、何故だか孝子ちゃんが放課後や休みの日に遊ぼうと言ってきた。

孝子ちゃんは相変わらず遥奈ちゃんとも遊んでいたみたいだが、時折私に遥奈ちゃんの愚痴と言うか悪口を言ってきた。

前からだったが孝子ちゃんは遥奈ちゃんにおべっかを使っていた。

遥奈ちゃんに「その服可愛い~」とか、ちょっとした事でも「遥奈ちゃんはすごいよね」と良く言っていた。

けれど遥奈ちゃんのいない所では「遥奈ちゃんはワガママだよね」や「性格悪いよね」などと随分とこき下ろしていた。

そして私に「アッキーもそう思わない?」と聞いてきた。

そう聞かれても私は黙っていたし、首も縦にも横にも振らなかった。

(そんなにモンクがあるなら本人に言えばいいのに)

と思ったし、

(悪口言うならはると付き合わなければいいのに)

とも思っていた。

実は遥奈ちゃんと絶縁の様になる前、遥奈ちゃんも孝子ちゃんの悪口を言っていた。

遥奈ちゃんもやっぱり孝子ちゃんのいない時に「孝子ちゃんって調子いいことばっかり言うよね」だの、「すぐ孝子ちゃんって嘘つくよね」と言っては「アッキーもそう思うでしょ?」と同意を求めてきていた。

私はどちらの言い分にも何も答えなかった。

不思議な事に遥奈ちゃんも孝子ちゃんも、私に同じ事を言ってきた。

「アッキーは偉いね。人の悪口絶対言わないよね」

本人に言えない事は口に出さない主義だっただけで、二人ともにそう言われてもやっぱり黙っていた。

No.53 18/04/16 05:13
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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遥奈ちゃんとのいざこざ前より入院していた母は今度は三ヶ月程で退院して家に帰って来た。

入院している間、母がどんな感じだったか分からないが、入院前と退院後で何か変わったかというと、少しだけ行動が落ち着いた気がした。

再入院の前、母は包丁を持って父に「これで私を殺して」と迫ったり(その度に私が止めた)、虫が沢山這いずりまわっている(実際にはいない)と怯えて暴れていた。

灯油の入ったポリタンクとライターを持ってきて、これで火を着けて殺して欲しいと私に言ってきた事もあった。


退院してからは母はほぼ寝たきりになった。

それでも家中の包丁やらハサミやらを、カギのかかる私の机の引き出しに隠すのは前からと変わり無かった。

ただそんな状態の母でも家にいてくれるのはやっぱり嬉しかった。

No.54 18/04/16 05:20
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私には毎月の決まった額のお小遣いは無かった。

必要なもの、例えばノートや消しゴムなどが無くなったら、その都度母にいる分だけのお金をもらって買っていた。

それ以外には首からさげたキャラクターもののがま口財布に五百円玉を入れて持ち歩いていた。

母から「この五百円はどうしてもっていう時に使うように」と言われていた。



遥奈ちゃんもだったが孝子ちゃんもお金使いが荒かった。

遥奈ちゃんはおばあちゃんから毎日の様にお小遣いをもらってはアイスやジュースを買っていた。

孝子ちゃんは毎月のお小遣いに加えて、お兄さんの貯金箱からお金を盗んで色々な物を買っていた。

そんな遥奈ちゃんや孝子ちゃんと一緒にいても私は財布に入っている五百円は使わなかった。

駄菓子屋でアイスやお菓子を買って食べる遥奈ちゃんや孝子ちゃんには「アッキーは買わないの?」と何度も言われた。

けれど「私はいいや」と、五百円を使う事は無かった。

孝子ちゃんとよく遊ぶ様になってから暫くして、孝子ちゃんが私を試す様な事をし始めた。

わざと私にお金を使わせようとする様になった。

No.55 18/04/16 05:29
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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ある日、孝子ちゃんと放課後に遊ぶ約束をした。

孝子ちゃんは「ちょっと行きたいとこがあるんだ~」と言っていたが、どこに行くのか教えてくれなかった。

とりあえず家に来て、と言われたので孝子ちゃんの家に向かった。

玄関横の窓を軽くノックすると、ガラガラッと開いて孝子ちゃんが顔を出す。

「アッキー!今出るね!」

孝子ちゃんは慣れた感じで窓枠を乗り越えて外に出てきた。

手にはちゃんとクツも持っている。


孝子ちゃんのお母さんはとても厳しくて、宿題やピアノの練習が終わるまで孝子ちゃんを部屋から出さなかったらしい。

どうしても遊びに行きたい時は窓から外に出ては、帰ってからお母さんに怒られていたようだ。

「ほんっと、お母さんうっさいんだから」と、いつもくちびるを尖らせて孝子ちゃんは愚痴を言っていた。

最初の内は窓から出てきた孝子ちゃんに驚いたけれど、もう何回も見てきたのでそれが当たり前になっていた。


孝子ちゃんが歩き出したので後を着いていく。

「ねぇ、今日行きたいとこってどこ?」

「ん~?ふふふふっ。とにかく来て来て」

孝子ちゃんに連れられて着いたのは駅前の大きな商業ビルだった。

No.56 18/04/16 06:22
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その商業ビルには父や兄と何度か来た事はあったが、一人では勿論子供だけで入った事など無かった。

「アッキー、こっちこっち!」

と、孝子ちゃんはビルの中に慣れた感じでずんずんと入って行く。

孝子ちゃんに着いては行ったが、なんだか怖く感じてきて

「たかちゃん、こんなとこ子供だけで入っていいの?」

と言うと孝子ちゃんは

「私いっつもここ来て遊んでるよー。だいじょうぶだよ。それよりこっち♪」

と更に奥へ向かう。

向かった先はエレベーターホールで、孝子ちゃんは躊躇する事無くエレベーターのボタンを押した。

「ちょ、ちょっとたかちゃん、どこ行くの?」

「いいからいいから♪ほら、きたよー」

開いたエレベーターにぴょん、と小さくジャンプして孝子ちゃんが乗って入る。

一体どこに連れて行かれるのか分からないまま、私もエレベーターに渋々といった感じで乗り込んだ。

孝子ちゃんはなんだかとても楽しそうにしている。


エレベーターには他にも何人かが乗っていたが、私達以外は皆大人だった。

大人の人達は特に私と孝子ちゃんを気にする訳でも無さそうだったが、私はなんだか悪い事をしている様な気がした。

エレベーターはどんどん上へ上がっていって、「この階だよー」と孝子ちゃんに言われて降りた先はビルの最上階の屋上広場だった。

No.57 18/04/16 12:47
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屋上広場にはペットショップや小さい遊園地、アスレチックジムにゲームコーナー、イベント用のステージやクレープ屋さんもあった。

平日の午後のそこには人は余りおらず、まだ赤ちゃんの様な子を連れた女の人達がベンチに数組いるだけだった。

「アッキー!こっち!」

孝子ちゃんが私の腕を掴んで引っ張っていく。

(???)

「へへへ♪ここだよー!」

連れて行かれたのはイベントステージの横のゲームコーナーだった。

ゲームコーナーには色々なゲームの筐体が何台かと、大きなドーム型の何かが中でぐるぐると回っている、見たこともない機械があった。

(……たかちゃん、ゲームがしたかったの?)

孝子ちゃんは掴んでいた私の腕を放すと、一台のゲーム機前のイスに座った。

「これ、すっごい面白いんだよー!」

そう言いながらズボンのポケットに手を入れて、ジャラッと小銭を数枚取り出す。

「…えっと、五十円……、あった!」

コイン投入口にカチャン、と五十円玉を入れた孝子ちゃんは、私には「そこで見てて!」と言ってゲームを始めた。

No.58 18/04/16 16:58
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「わぁ!」とか「あー!」とか言いながらゲームをしている孝子ちゃんの後ろに立って(…またか……)と思っていた。

(どうせ「アッキーはやらないの?」とか言うんだろうな……)

遥奈ちゃんもだったが、孝子ちゃんも、いつもお金を使う時は自分達と同じように、私にもお金を使わせようとあれこれ言ってきていた。

(…こーいうの、おもしろいかなぁ……)

ゲームの画面では飛行機の様なものが、ピュンピュンと音をたてて弾を出しながら前後左右に動いている。

(これ、見ててつかれないのかな)

孝子ちゃんの後ろで見ているだけで目が廻りそうだ。

それに凄くつまらない。

(……犬とか見に行きたいなぁ……)

画面を見るのにも飽きて、ペットショップの方に首だけを動かす。

私のそんな様子に孝子ちゃんは気付かないまま、まだ「わー!」とかなんとか言っている。

(ねこもいるかなぁ?)とか思っていたら、孝子ちゃんが「ああー!うそー!!」と大きな声を出したので、何事かとまたゲームの方を見た。

「あー!やられちゃったぁ!!もー!!」

そう言いながら孝子ちゃんは悔しそうにバンバンと手で筐体を叩く。

私はびっくりして「た、たかちゃん!たたくのダメなんじゃないの!?」と慌てて言ったが、

「だいじょうぶだよ、こんくらいしたって。あー!くやしー!!」

と、孝子ちゃんは今度は筐体の横に蹴りを入れた。

「ちょ、ちょっと、たかちゃん!」

私の声は無視して「もう一回やりたいなぁ!」と孝子ちゃんが言う。

私はため息をついて(別に…やりたきゃやればいいじゃん……)

と思っていたら、孝子ちゃんがクルリとこちらを向いた。

「アッキー!お金かして!!」

「えっ!?」

「アッキー、お金もってるでしょ?それに入ってるんだよね?五十円かしてよ!」

と、私が首から下げているがま口財布を指差した。

No.59 18/04/17 06:42
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「はっ!?えっ!?えっ……や、やだよ!」

「だってもう五十円玉ないんだもん」

そう言ってまた孝子ちゃんはポケットから小銭を出して私に見せる。

百円玉が一枚と十円玉が数枚手のひらに乗っていたが、そんなのを見せられたからと言って(だからなに!?)と思った。

「ねっ?」

「か、かすとかはダメ!……それに五十円玉もってないよ、こんなか入ってない」

「………ちぇー。も一回やりたかったなぁ!」

案外あっさりと退いた孝子ちゃんはイスから立ち上がった。

「あ、あれやろー」

ドーム型の大きな機械に向かう孝子ちゃん。

(???お金ないんじゃないの??)

何だか孝子ちゃんに近付くのが嫌だった。

孝子ちゃんも私を呼ぶ訳でもなく、機械の中をのぞいている。

何がなんだか分からなくてもう放っておこうと思った。

バシッ、バシッと機械に付いているボタンを叩いている孝子ちゃんから目をそらして、適当に辺りを見ていた。

「アッキー!アッキー!」

(……なんなんだよ……)

呼ばれても目を向けなかったが孝子ちゃんの方から私の所に駆け寄ってくる。

「これっ!あげる!」

孝子ちゃんの両手一杯にラムネの袋が乗っていた。

「……??」

「すごいでしょ!?百円でこんなに取れるんだよ!?いっぱい取ったからあげる!!」

「……ううん、いい、いらない……」

ラムネは好きでは無かったし、また何か企んでいるんじゃないか、と何となく思った。

「えー!?もらってよー!」

「いいってば…」

「お願い!もらって!……そのかわりアッキー、私と親友になって!!」

(???)

ラムネを貰ってあげる代わりに親友になる??

No.60 18/04/18 15:31
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聞いてもいないのに孝子ちゃんは話し出す。

「私ね、まえからずーっと親友がほしかったの。でもできなくって。アッキーみたいな人っていないよ。アッキーに親友になって欲しい!」

「…………」

「だからこれ、もらって!!」

「…………あのさ」

「うん?」

「親友……ってさ、言ってなるものなの?」

「…………」孝子ちゃんが黙る。

「親友って、気がついたらなってるもんじゃないの?何かあげたりして『なってもらう』とかってちがうと思うんだけど」

「…………」

孝子ちゃんは何か考えていたようだが、少しして

「……そうだよね……、親友って言ってなるものじゃない、か……。アッキーの言うとおりだ……」

何か気付いたかの様に孝子ちゃんはそう言った。

「そっか、そうだよね……うん。言ってなるものじゃない……」

一人ごちる孝子ちゃんだったが、

「……アッキー、でもこれはもらって!アッキーにあげたいの!」

と、ラムネをいくつか押し付けてくる。

「いいってば、ラムネ好きじゃないんだよ」

「いいから!はいっ!」

無理矢理ラムネを握らされた。

「……これ、どうせすてちゃうよ……?」

「それでもいいよ。アッキーにもらってもらうのが意味あるの!」

「………………」

「もう帰ろっかぁ。またお母さんにおこられるかなぁ」




家に帰ってから貰ったラムネをどうしようか迷った。

(いっこくらい食べたほうがいいかな……)

小さな袋を破ってラムネをひとつ口に入れる。

(…………うわ、あまっ!)

ラムネは凄く甘くて、やっぱり美味しいとは思えなかった。

結局ひとつ食べただけで、残りのラムネはごみ箱に捨てるしかなかった。

押し付けられたせいで、食べ物を棄てるという持たなくて良かったはずの罪悪感と、孝子ちゃんへの腹立ちで気分が悪かった。

No.61 18/04/18 16:08
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そんな事があってからも孝子ちゃんには変わらず遊びに誘われた。

連れていかれたのは、やはりあの商業ビルが多かった。


本屋に引っ張っていかれて、アダルトコーナーに居座る事もあった。

「アッキー、見て見て!これエッロいよー!」

アダルトコーナーにしゃがみ込んで、孝子ちゃんは「うわっ!」とか「エローい!」と言いながらエッチな本を見ていた。

男女が裸で何かしているページを、孝子ちゃんは私にも見ろと言ったが、チラリと見たら気持ち悪いのと恥ずかしいのとで、私はそっぽを向いていた。


別の日には雑貨店に入って、お試し用の口紅やアイシャドウを顔に塗って遊んだりしていた。

お金を使わないなら、と、どこにでも着いていった。


エッチな本を見せられるのは別だったが、それ以外はそこそこ私も楽しみ始めていた。

あれこれしている中で数回「親友になって!」とまた言われていたが、私はうんともイヤとも言わなかった。

No.62 18/04/19 04:18
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そんな風にして孝子ちゃんと色々なお店で遊んだある日の帰り道だった。

「ねぇ、アッキー。さっきのお店のじょうぎかわいかったねー」

孝子ちゃんは文房具店で「これかわいー!」と動物の絵が描かれた定規をずっと見ていた。

「あれ欲しいなぁ」

孝子ちゃんは一人で「欲しいなー」「欲しかったなぁ」とか言っていたが、急に

「ねぇアッキー、そのおサイフかして!」と私のがま口財布に手を伸ばしてきた。

「ちょっ!なに!?」

「いいからかして!」

がま口財布を引っ張られた。

「やめて!!やだ!」

抵抗したが孝子ちゃんは財布を引っ張るのを止めてくれない。

そうこうしている内に、ブツッ、と首にかけていた紐が切れた。

孝子ちゃんは「あっ!切れた!」といったが謝らない。

それどころか財布を持って走って行ってしまった。



(……なんで……こんなことするの……)

走っていく孝子ちゃんを見ながらなんだか凄く悲しくなった。

(お母さんにおこられる……)

孝子ちゃんを追いかける気力も無かった。

ため息をついてその場に立ちすくんだ。

仕方ないので孝子ちゃんが戻ってくるのを待つことにした。



10分程して孝子ちゃんが走って帰ってきた。

「へへへ♪これ買ってきちゃった♪」

手にはさっき欲しいと言っていた定規が握られている。

「……入ってたお金で買ったの?」

「うん。へへへ♪」

(………お母さんになんて言おう……)



「はいっ!」

「………え……?」

「アッキーのお金で買ったから、これはアッキーのだよ♪」

「……………」

渋々定規を受けとる。

(じょうぎ買ったってお母さんに言うしか………)



「うそだよー!」

「???」

No.63 18/04/19 04:41
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「……うそって……」

「アッキーのお金使ってないよ♪ほら!」

財布を開けて中を見せてくる。

中には五百円がきちんと入っていた。

「……じゃあそのじょうぎ、どうして……」

「……………とってきちゃった♪」

(!?!?)

「とってって………、それって…ハンザイっていうんじゃ……」

私は万引きという言葉を知らなかった。

「私、たまにほしいのぬすんでるんだ。………それアッキーにあげるよ」

孝子ちゃんは口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。

「……アッキー!?!?」

私は定規を持ってビルの方へ走りだした。

(返しにいかなきゃ!!)

暫く走った所で

「アッキー!!それもうそー!!!」

孝子ちゃんが大きな声で言う。

(!?!?)

足を止めて孝子ちゃんの方に振り返る。

「ぬすんでないよー!うそだよー!!」

No.64 18/04/19 14:44
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孝子ちゃんが私の所へ駆けて来る。

「アッキー、急に走んないでよー!……信じたの?」

あははは!と笑う孝子ちゃんをじっと見つめた。

「あはは、……………どっちだとおもう?」

盗んだのか、そうでないのか。

「……………」

眉を寄せて孝子ちゃんの目を見る。

孝子ちゃんは上目遣いで私を見る。




……ぷっ、と孝子ちゃんが吹き出した。

「あははは!!自分で買ったんだよー!ぬすんだりするわけないじゃん!!」

お腹を抱えて笑う孝子ちゃんに

「………おかね」

「あっははは!!……え?」

「おかねもってたの?」


孝子ちゃんは急に笑うのを止めて真面目な顔をした。

暫く私をじっ…と見て

「……うん。もってたよー」

「……ほんとに買ったの?」

「……しんじないんだ」

「…………………」

No.65 18/04/19 15:23
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「ふーん。そっかぁ、アッキー私のことしんよーしてないんだぁ。そっかぁ」

「……しんようって……」

「とにかくっ!ちゃんとそれ買ったの!だから返して?」

無言で定規を孝子ちゃんに渡す。

「あ、これ、こわれちゃったね」と押し付ける様に財布を返された。

「ごめん」の一言も無い。


「……帰る」

「うん。ばいばーい」

孝子ちゃんに背を向けて、モヤモヤしたまま家に帰った。




その日から約一ヶ月半後、私は単独での万引きで捕まる。

一ヶ月半の間に色々な事があった。

色々な人に会った。

言い訳にならないのは解っている。

万引きをしたのは事実だし、今でも本当に馬鹿な事をしたと思っている。

ただ、本当に色々な事があった。

あの一ヶ月半の事は完全に自己満足だが後に書きたいと思う。

No.66 18/04/21 06:25
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四年生になった。

父に頼み込んで放課後週三日、そろばん塾に通い始めた。

私はすぐに夢中になって、学校にもそろばんを持っていき、休み時間にも練習問題をずっと解いたりしていた。


孝子ちゃんとは三年生の時の様に遊ぶ事は無くなっていた。

塾と塾の無い日もずっとそろばんを弾いていて、放課後誰かと遊んだりもしなくなった。

相変わらず学校の勉強はさっぱりだったが、そろばんの練習の為にまた机に向かう様になった。

半年程そろばんに夢中で回りは全く見えなくなっていた。


そろばん漬けの夏休みが開けて9月、またクラスに転入生がやってきた。

転入生には興味が全然無くて、それより兎に角「早く5級まで上がりたい!」と、ずっと下を向いてそろばんばかりしていた。

No.67 18/04/21 06:52
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転入生の子は色白で背が低く、ポッチャリしている子だった。

本当に興味が無かったので、私は名前も覚えなかった。

その子の方では何故だか私の名前を覚えたらしく、みんなの様にアッキーとあだ名で私の事を呼んでいた。

最初の内は孝子ちゃんの時の様に、その子の回りに何人もクラスの子達が集まっていた。



学年集会か何かがあった日だったと思う。

体育館での集会が終わり、片付けを手伝わされてみんなより少し教室に戻るのが遅くなった。

体育館から校舎までの通路で、私のクラスの女子達が数人、転入生の子を中心に話をしていた。

(?何してんだろ?)

暫く立ち止まって聞いていると、どうやら転入生の子は劇団に入っていて、入団するのにお金が沢山掛かって……、とかいう話をしている途中だったみたいだ。

No.68 18/04/21 07:08
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(……へぇ…劇団かぁ……)

何となく私は興味を持った。

少し離れた所から転入生の子に

「ねぇ、なんの話してんの?」

と声を掛けた。

するとその子は笑いながらこんな事を言った。

「ああ、アッキーには関係ないセカイの話だから♪」

(???)

「お金の話♪アッキーには関係ないでしょ」

そう言うとまた転入生の子は回りの子達に「切手が何枚もいって~」と、私を無視して話しだした。

良く分からなかったけれど(まぁ、いいか)と教室に一人で戻った。

No.69 18/04/21 07:33
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その日のホームルームが終わり帰ろうとランドセルに色々詰めていたら、クラスの葉子(ようこ)ちゃんに声を掛けられた。

「アッキー、ちょっと」

「??」

腕を組まれて教室の後ろに連れて行かれた。

「………さっきのさ、ひとみちゃんの言い方ひどくない?」

(ひとみちゃん?)

「なんかひとみちゃん、自分ちはお金持ちだから~とかずっと言ってたんだよ。アッキーにあんな言い方ひどいよね」

「……あの子、ひとみちゃんていうの?」

「へっ?……アッキー、名前知らなかったの?」

「うん、今はじめて知った」

「ぶっ!!あははは!!し、知らなかったんだー!!」

何がそんなに笑えるのか分からなかった。

暫く葉子ちゃんは涙目になりながら笑っていたが

「あぁ、でも良かった。アッキー気にしてなかったってことだよね」

と、目を擦りながら私に言う。

「……お金がどう、って?」

「それもだし、セカイがとか関係ないとかさ」

「んー、別に……、関係ないって言われたから関係ないんだろな~とはおもったかな」

葉子ちゃんがまたお腹を抱えて大声で笑う。

「ア、アッキーって……」

ひーひー言いながら笑う葉子ちゃん。

No.70 18/04/21 08:17
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お腹を抱えて笑う葉子ちゃんを見ながら(なんなんだろう?)と思っていた。

何故わざわざひとみちゃんという子の話をしてきたのか分からなかった。

葉子ちゃんはやっと笑いがおさまると

「でもほんと良かったぁ!アッキー、気にしちゃってないかなって心配だったの。気になってないならいいんだ♪」

とニッコリと私に笑顔を向けた。




家に帰ってそろばんの練習をした。

5級になれば上位クラスに移れる。

ひとみちゃんや葉子ちゃんに言われた事はすっかり頭から消えていた。

「早く5級受かりたい!!」

と、夜遅くまで問題を何度も何度も解いた。

No.71 18/04/21 11:51
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当時、私が住んでいた家は借家だったが、通っていた小学校のすぐそばで、歩いて3分で学校に着くという好条件の場所だった。

朝は学校が始まる15分前に起きて、だらだらと着替えてからギリギリで学校へ向かう。

8時半までに教室の席に着いていれば良かったので、(家が近いってほんと楽だなぁ)といつも思っていた。

(たまににN○Kの朝ドラを見てから学校へ行く日もあった(笑))




元々宵っ張りぎみだったのと、そろばんの練習で寝不足の日が続いていた。

昨日のひとみちゃんや葉子ちゃんとの事はすっかり忘れていた。

またその日もいつもの様に眠い目を擦りながら、8時半の数分前に教室の扉を開いた。


(…………………?………)


なんとなくだったが教室の空気がいつもと違う気がした。

普段ならこの時間の教室はもっと賑やかで、走り回っている子もいれば、大きな声でお喋りをしている子もいたはずだった。

なのにその日に限っては男子も女子もみんなやたらと静かで、黙って席に着いている子もいれば、少人数でひそひそと小声で話している子達もいた。

(……………なんか変だな…………)

取りあえず自分の席に着いた。

No.72 18/04/22 10:41
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三時間目までは特に変わった事もなく、いつも通りに授業が終わった。

四時間目の体育はサッカーをするという事で、クラスの子達は校庭に思い思いに散っていく。

みんな割りと自由にサッカーボールを追いかけたり、何人かで固まってお喋りをしたりといった感じだった。

サッカーは好きでも嫌いでもなかったが、ごちゃごちゃとボールを追うのはめんどくさくて、私はサッカーゴールから離れた校庭の端に一人で立っていた。

少しして私の所へ女子が7人ほどやって来た。

その中には孝子ちゃんもいた。

「アッキー」

百合子(ゆりこ)ちゃんに声を掛けられた。

「?なに?」

「あのさ、私達ひとみちゃんのことムシしようって決めたの」

「???」

「だからアッキーもひとみちゃんとしゃべんないで」

「……?ムシって、なんで??」

「いいからさ、とにかく話ししちゃダメだから」

「……そんなん何でかわかんないのにムシとかできないよ」

「みんなで決めたの。だからアッキーもムシして」

(???)

さっぱり分からなかった。

けれどハッキリと断る理由が見つかる程、自分の意見があった訳でも無かった。

「………私なりのムシのしかたでいいなら」

そう答えると百合子ちゃんは

「うん、それでもいいから。ぜったいだよ」

と私に念を押すと、一緒に来た子達と固まって私から離れて行った。

(………ムシ、ねぇ………)

No.73 18/04/23 21:11
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(……どーすっかな……)

暫くその場で立ったまま考えた。


15分程経った頃、ひとみちゃんがこちらに走って来るのが見えた。


「…………アッキー?」

「…………………なに?」

それまで困惑した表情のひとみちゃんの顔が、パッと明るくなったのが分かった。

「よ、良かったぁ!アッキー話してくれた!……アッキー、なんかみんな変なの、話してくれないの、なんでか知ってる!?」

「……………さぁ?」

またひとみちゃんの表情が不安げに変わる。

「アッキーは話してくれるのに……、なんでなんだろ……」

「……知らない」

「ねぇ、アッキー、みんなさ……」

「あのさ、そこボールとんでくるからあぶないからあっち行ってくんない?」

えっ?えっ?といった感じのひとみちゃんに、

「ほら!あぶないって!あっち行って、あっち!」

と私はひとみちゃんに『あっちに行け』と手を振った。

ひとみちゃんはこちらを何度も振り返りながら私から離れて行った。


相手を邪険に扱う。

これが「私なりのムシ」だった。

勿論これが良いやり方でないのは分かっていたが、少し考えていた事があった。

No.74 18/04/24 12:13
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体育の後の給食の時間、教室では誰一人話す子はおらず静まりかえっていた。

聞こえるのは先割れスプーンと給食トレイがぶつかる、カチャカチャという音だけだ。

生徒と一緒に教室で給食を食べていた先生は、みんなの様子がおかしいのに気付いた様だったが、何も言わなかった。


給食後の昼休み、クラスの子達は珍しく全員が教室から出て外に遊びに行ったみたいだった。

ひとみちゃんと私を除いて。

私は自分の席で一人で「ズッコケ大作戦」を読んでいた。

ひとみちゃんがどうしていたかは分からなかった。


五時間目が始まる直前にクラスの子達はまとまって帰って来た。

教室は静かなまま六時間目の授業も終わり、ホームルームが終わると私はさっさと家に帰った。



翌朝は少し早く起きて学校へ向かった。

教室の扉を開けると、それまで廊下にまで聞こえていたクラスの子達の話し声が一瞬で消えた。

私は自分の机にランドセルを置いて、いつもの様に後ろの席の女子に

「おはよー」

と声を掛けた。

No.75 18/04/24 16:29
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「………………………」

挨拶は無視された。

今度は隣の席の男子に声を掛ける。

「おはよっ」

「………………………」

男子は頬づえをついたままこちらは見ずに、やはり私を無視した。

(……ふーん)

やっぱりこうなるんだ、と思った。

イスに座り、ランドセルから教科書や筆箱を取り出しながら教室を見渡すと、数人と目が合ったが誰もがサッ、と目線を外した。

ひとみちゃんの方を見ると、下を向いて席に座っている。

私のことは見ない。

そうしている内に8時半になり、教室に先生が入ってきた。

教室内は静かだった。

先生は教卓前で暫く無言でいたが、「……出欠とるぞー」と名前を呼び始めた。



四時間目まで授業は昨日と同じく普通に進んだ。

だが授業の合間の休み時間、誰も私に話し掛けないし目も合わせなかった。

それはひとみちゃんにも同じだった様で、ひとみちゃんは休み時間中ずっと一人で下を向いたままだった。

休み時間の間、私は(さーて……だれにしようかな)と考えていた。

No.76 18/04/24 20:07
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授業の合間の休み時間に

(さーて、だれがいいかな)

と考えた。


クラスで割りと勉強が出来て、みんなからの信頼がそこそこ厚くて、プライドは普通よりちょっと高いくらい。

友達もそれなりにいて、リーダータイプではないけれど、喋り過ぎず暗すぎず。

私より背が低い子。

何より一番に重要なのは

『三年生の時のあの日』に

『孝子ちゃんと一緒にいた子』だ。


(……あの子だな)



給食の時間は昨日とはうって変わって賑やかだった。

ただその賑やかさは何だかわざとらしい感じで、みんなどことなく何かを気にしている風だった。

勿論だが給食の時間、私は無視された。

先生は私が無視されているのに気付いてはいなかったみたいだ。

むしろ昨日と違ってまた賑やかになったクラスの子達に安心した様子だった。

(先生ってわかんないのかな)

正直、馬鹿なのかな、と思ったけれど

(おとなってこどものことあんま知らないみたいだしなぁ)

とも思った。

けれどそんな事よりもこれからする事の方が重要だったので、先生の事を考えるのは止めた。


給食が終わって昼休み。

私は席を立った。

No.77 18/04/25 01:16
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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「ねぇ」

まだ遊びに行かずに席に座っている絵美(えみ)ちゃんに声を掛けた。

「……………」

絵美ちゃんは頬づえをついて、私と目を合わさずに横を向いている。

「ねぇ、なんでムシすんの?」

「……………」

「…おい、ちょっと来い」

絵美ちゃんの腕を掴む。

「!?!?」

びっくりした顔の絵美ちゃんの腕を掴んだまま廊下へ引っ張って行った。

クラスから少し離れた廊下の柱に絵美ちゃんの体を押し付ける。

「…なぁ、あんたさ、なんでムシすんの?」

「………………」

「おい、聞いてんだよ、こたえろ」

絵美ちゃんは口をギュッと結んで斜め下を見ている。

「………たかちゃんがこわいんか?」

「!!」

絵美ちゃんの目が大きく見開くのを私は見逃さなかった。

(……やっぱりな……)

「なぁ、あんたさ、クチあんだろが。言いたいこととか思ってることあんならちゃんと言えよ!それともなんだ?あんた、たかちゃんの『ドレイ』か!?」

「……………ドレイなんかじゃ……」

「あっ!今、しゃべった!」

「!!」

(しまった!)という感じの絵美ちゃんの顔をのぞき込む。

「……今、私と話したよね?えみちゃんもムシされるのかなぁ?」

「……今のは、だって」

「あ!またしゃべった~♪」

「…………!!」

No.78 18/04/25 10:44
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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絵美ちゃんの顔の横に手をついて畳み掛ける様に言う。

「あのさ、ちゃんと自分で考えてムシとかしてんの?それだったら別だけどさ、そうじゃないだろ。みんながしてるからとかそんなんか?自分の意見とかないんかよ。そんなんじゃ『ドレイ』とか言われても当たりまえだろが」

廊下には数人の子達がいたが誰も私を止める子はおらず、ただ遠巻きに見ているだけだ。

悔しそうにしている絵美ちゃんにさらに言い続けた。

「おい、なんとか言ってみろよ。ムシとかくだらないことしてんじゃねぇよ!自分がされるのはイヤで他のやつにはすんのか?どうなんだよ。クチあんならムシじゃなくてちゃんと言えよ!」

「も、もうわかったから!わかったから止めて!!」

「じゃあもうムシとかすんな。他のやつにも言っとけ」

こくり、と絵美ちゃんはうなずいた。

「うん♪わかってくれればいーの♪じゃね~」

何か思っている様子の絵美ちゃんを置いて私は教室へ戻った。

ひとみちゃんの名前は出さなかった。

彼女は彼女で自分で何とかするべきだ。

そう思っていたから。

No.79 18/04/25 21:57
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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翌朝から私の事を無視する子はいなくなった。

絵美ちゃんがクラスの子達に上手く話したのだろう。

ただ、ひとみちゃんへの態度はみんな変えなかった様で、それどころか嫌がらせは段々と酷くなっていった。

ひとみちゃんは『白ブタ』と呼ばれる様になった。

色白で太っていたからだ。

「白くてデブだから病気だ」と訳の分からない言いがかりをつけて「さわったり喋ると病気が移る」と、クラスの子達はひとみちゃんをからかいながらいじめる様になっていった。

朝、教室の黒板に「白ブタ」「学校くるな」など、他にも酷い言葉が落書きされるのは毎日だった。

黒板に悪口を書かれるたびに、ひとみちゃんは必死な顔をして悪口を黒板消しで消していた。

私にはそれが分からなかった。

何故いじめられている証拠を消してしまうのだろう?

先生に悪口が書かれているのを見せればいいのに、と思っていた。

その事をひとみちゃんに言った事があったが、ひとみちゃんは下を向いたまま何も言わなかった。

ある日の放課後にはクツが無くなった、と騒いでいた。

たまたまその場に出くわした私は、ひとみちゃんと一緒にクツを探したけれど見つからなかった。

「クツないって先生に言いなよ」とひとみちゃんに言ったが、ひとみちゃんは黙っていた。

ひとみちゃんがその時どうやって帰ったか覚えていない。

他にも机にチョークで落書きされたり、物を隠されたりと色々あった様だ。


私は無視や嫌がらせは受けなかったものの、クラスでは浮いた存在になっていた。

誰ともつるまないし、ひとみちゃんの悪口も言わないし無視もしない。

嫌がらせに加担もしなければ、むしろ逆にひとみちゃんを庇う時もあった。

そうしている内にひとみちゃんが私に寄りつく様になってきた。

「しんよう出来るのはアッキーだけだよ」

とひとみちゃんは何度も言ってきた。

私の回りをチョロチョロするひとみちゃんを(めんどくせぇな)と思っていたので、けっこうキツい事を言う時もあった。

それでもひとみちゃんは私にくっついて来た。

No.80 18/04/26 20:20
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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ひとみちゃんへのいじめに加担しなかったからといって、私が学校で優れた子供だったかといえば全くそんな事はなかった。

相変わらず勉強は全然出来ないし、授業中はボーッとしているし、提出物はまともに出さない、宿題はやって来ない。

朝はギリギリか遅刻。

男子とはケンカも多いし口も悪い。

協調性も余り無い。

何より三年生の時には万引きまでしているという問題児中の問題児だ。

学期末に渡される成績表は×印ばかりで、必ず担任の先生からのコメントには

「授業をきちんと聞いて勉強をもっとしっかりやりましょう」

と書かれる始末だった。

たまに良い事が書いてあるとすれば

「給食係を頑張りましたね」
「飼育係を頑張りましたね」

くらいだった。

本当に誉められる所がほとんど無い子供だった。


けれどそろばん塾では、始めてから半年ほどで初級から5級まで駆け上がったという事で、なかなかに優秀だと塾の先生や生徒達には一目置かれていた。

四年生の三学期には5級はとっくに受かっていて、塾では4級を目指して上級クラスでバリバリとそろばんに励んだ。

No.81 18/04/27 12:33
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私には基本的な生活習慣というものが身についていなかった。

幼稚園の頃、まだ母がこころの病気になってしまうまでは、髪をちゃんととかしてもらったり、身だしなみもそれなりにきちんとしていた。

けれど母が病んでしまってからは、頭はボサボサ、服もてきとう、顔は洗わないし、ろくに歯も磨かなかった。

見かねた兄が髪をクシでといてくれる日もあったが、それも兄に朝、時間がある時だけだった。

寝る時はパジャマに着替えるのもめんどうで普段着で寝ていたし、毎日同じ服を着続けた。

小学校二年生になって一人でお風呂に入る様になってからは、頭や体を洗うのがかったるく、一週間や二週間お風呂に入らないなどザラだった。

もう見た目も中身も散々だった。


そんな生活を送っている中で、私には大嫌いな事がひとつあった。

三、四ヶ月に一度、髪を短く切られる事だった。

父も兄も忙しく、母も私の世話などとても出来る状態では無かったので、手入れがしやすい様にといつもショートカットにされていた。

私の髪を切ってくれたのはいつも兄だった。

No.82 18/04/27 14:46
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小学校一、二年生の頃は髪を切られるのが嫌で、「そろそろ切ろうか」と、ハサミを手にする兄から逃げて回った。

髪を切られた後は酷く泣いた。

そんな私を見る兄の顔はとても辛そうだった。

三年生になってものが少し分かってきた私に、兄は髪の長い女の人の写真が載っている雑誌を見せてきて

「今、髪の毛ちゃんとしておけば大人になったらこんな風になれるよ」

と話した。

(そんなわけないだろ…)と思った。

何故ならその女の人はブロンドの髪の外国の女の人だったからだ。

だが私はそれが兄なりの苦肉の策だと気付いたので

「………うん、わかった、かみきっていいよ」

と答えた。


髪を切ってもらった後、お風呂場で一人声を殺して泣いた。

兄の辛そうな顔を見たくなかった。

それから六年生になって美容室に連れていってもらう様になるまで、散髪後はシャワーを浴びながら泣くのが常になった。

No.83 18/04/27 22:05
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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四年生の三学期後半、兄にまた髪を切ろうかと言われたが、「寒いからもうちょっとしたら」と断った。

私は大分前から前髪で目を隠していた。

先生からは毎日のように「高木、前髪切りなさい!」と言われたが、どうしても目を出すのが嫌だった。

おかげでまるで私は鬼太郎の様な頭になっていた。

みすぼらしい格好とその髪型のせいで上級生の人達から

「鬼太郎」
「おばけ」

と、石を投げられた事もあった。


さすがに髪がのびすぎて兄にまた髪を切ってもらったが、その時に限ってやたらと短くされてしまった。

またいつもの様にお風呂場で泣いて、翌日、普段通り着古したトレーナーとスカートで学校へ行った。

授業の合間の休み時間だった。

一人の男子に

「アッキー、髪短くて男みたいー!スカートにあわねー!」

と言われ、みんなに爆笑された。



翌日から私はスカートを履くのを一切やめた。

自意識過剰にも程があったが、変な所で傷つきやすかった。

学校の制服以外でスカートは履かず買う事も無く、その後十年近くほとんどジーパンで過ごした。


No.84 18/04/28 06:54
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五年生になってまたクラスの組み替えがあり、孝子ちゃんとひとみちゃんとは同じクラスになった。

絶縁状態が続いていた遥奈ちゃんとは別のクラスになった。

これは遥奈ちゃんの名誉の為に書いておきたいのだが、遥奈ちゃんは四年生の時、ひとみちゃんへのいじめには加わらなかった。

遥奈ちゃんはとてもプライドが高く、ひとみちゃんをいじめる子達を「くだらない」と馬鹿にしていた様だった。

私はその点に置いては遥奈ちゃんを尊敬していた。

いじめは遥奈ちゃんからひとみちゃんへシフトしたのだが、遥奈ちゃんはその後も基本一人で行動していた。

(強いな)と思った。

別のクラスになり暫く経ってから、遥奈ちゃんと同じクラスの子から、遥奈ちゃんがいじめにあっていると聞いた。

それを聞いて何とかしたい気持ちはあったが、どうにも別のクラスとは接点が無く、私には何も出来なかった。

廊下からたまに隣のクラスを覗いたが、遥奈ちゃんはいつも一人で席に着いていた。

もどかしかったが心の中で(負けんなよ)と思うのが精一杯だった。



相変わらずひとみちゃんは私の回りをウロチョロしていた。

何となく一緒に遊ぶ様にもなった。

五年生になってひとみちゃんへのいじめは少し落ち着いた様に見えた。

私といえば相変わらず落ちこぼれのままだった。

そろばんは頑張っていたが、4級の壁は高くて苦戦が続いていた。

毎日そろばんと、当時流行っていたファミコンと、たまの読書で日々が過ぎて行った。

No.85 18/05/08 03:52
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五年生になって暫くは、私の回りは特に問題も無い様だった。

相変わらずそろばんとファミコン、読書の日々。

たまにひとみちゃんとも遊んでいたが、よく覚えていない。

その頃はドラゴンクエスト2が発売されて、私も例に漏れずといった感じで、ひたすらクリア目指して時間があれば家ではファミコンをしていた。

勿論学校の宿題や、予習・復習などしない。

そろばんだけは時間を決めて練習していたが、それ以外は夜中までファミコンに熱中した。

おかげでか男子達とドラクエがどこまで進んだかで話をしたり、レベルがいくつまで上がったりしたか、などで盛り上がり、また前の様に仲良くなった。

朝、学校に着くと男子が声を掛けてくる。

「アッキー!昨日ドラクエやったー!?」

「やったやった!レベル30まで行った!!」

「マジで!?すっげ!オレ、昨日5しかレベル上げできなかったー!」

「でもさ、なんか話がすすまなくなっちゃってさー」

余り面白く無かった学校がまた楽しくなった。

No.86 18/05/08 04:48
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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クラスに高本(たかもと)くんという男の子がいた。

皆から『たっくん』と呼ばれていたその子は、私とは三年生の頃から小学校を卒業するまでずっと同じクラスだった。

小柄で大人しい感じのたっくんだったが、彼も中々に問題児だった。

まず勉強がとにかく苦手だった様で、五年生になってもたっくんは漢字が書けない、九九も覚えられなかった。

給食を全部食べられず、机の中にパンを入れたまま放置して教室中に悪臭を漂わせ、担任の先生に手洗い場で机を丸ごと洗われた事もあった。

話し方も少し幼い感じのたっくんだったけれど、だからと言っていじめにあう事も無く、なんとなくクラスのマスコットキャラクターの様な感じで可愛がられていた。


何故か分からなかったが五年生になって少ししてから、たっくんは私をよくからかったり、物を隠したりしてきた。

席替えの時には「おまえのつくえにハナクソつけたから」と言って笑っていた。

「クツをかくしちゃった~」と、ニヤニヤと笑われた事もあった。

本当にどうしてそんな事をされるのか分からず担任の先生に相談した。

先生は放課後に私とたっくんを教室に呼んで、私とたっくん、先生との三人で話をする時間を作ってくれた。

先生はたっくんに「なんで高木にちょっかい出すんだ?」と聞いていたが、たっくんは答えなかった。

暫くたっくんに質問をしていた先生が突然

「高木の事好きなのか?」

と言ったのでびっくりした。

たっくんも驚いた様で首をぶんぶん振っていた。

その話し合い(?)の後から、たっくんは私にちょっかいを掛けてくるのを止めた。

それどころか(これも何故だかは覚えていないのだが)たっくんとは仲良くなっ
て、家に遊びに連れていってもらう様にもなった。

No.87 18/05/08 22:11
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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五年生の夏休み明け、やっとそろばんの4級に合格出来た。

塾の先生からの勧めですぐに3級も受験し、三ヶ月程でそれにも受かった。

すごく嬉しかったし、ほっともした。


私が4級に受かるまでの間に、上級クラスに小学校は違うが同学年の小嶋(こじま)くんという子が入ってきていた。

小嶋くんは余りそろばんが好きな様ではなく、いつもダラダラと怠そうにそろばんを弾いていた。

私はこの小嶋くんに髪型や服装の事でよくからかわれていた。

塾に行くのにも私は普段と変わらず、ぼさぼさ頭に毎日同じ服だったので、塾が終わると小嶋くんや小嶋くんと仲の良い男子達に

「ホームレス」
「フケツ」

などと色々言われた。

何度か体を叩かれる事もあったが、その度に私は負けじと小嶋くんを叩き返していた。

自転車で帰り道に追いかけられ「男女ー!」「フケツー!」と大声で言われて「うるせー!」と逆に私が小嶋くんを追いかけ回す日もあった。

No.88 18/05/08 23:55
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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そろばん3級が受かってすぐだったので、五年生の12月下旬だったと思う。

その日の塾が終わり、珍しく小嶋くんが買い物があるからと早く帰って行った。

いつも追いかけ回されていた仕返しにと、私はこっそりと小嶋くんの後をつけた。

商店街に入って行く小嶋くんに見付からない様について行くのは楽しかった。

まるで探偵みたいだ、と一年生の頃に読んだ江戸川乱歩の本に出て来る、明智小五郎や少年探偵団を思い出していた。


小嶋くんがスポーツ用品店に入ったのを見て、入り口からそろりと中を覗いたら、小嶋くんと目が合ってしまった。

(ちぇっ、見つかっちゃったか)

と、小嶋くんにニヤッと笑った。

小嶋くんは何だか不思議な顔でこちらを見ている。

(たんていごっこ、おーわりっ)

と、小嶋くんの顔の事は気にせず家に帰った。


翌々日の塾の終わりから、何故か小嶋くんが毎回私を待つ様になった。

No.89 18/05/09 00:47
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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初めの内は小嶋くんが私を『待っている』のに気付かなかった。

塾が終わって(小嶋のヤツ、今日もフケツだのなんだの言ってくんのかな)と思っていたが、何も言わずに小嶋くんは先に帰って行く。

(小嶋、また買い物かな?)と私も自転車に乗って帰ろうとすると、暫くして小嶋くんが塾の少し先の曲がり道のかどでウロウロしている。

「………よー」

「あれ?小嶋、どしたん?」

「……ん?………んー……」

「また買い物いくん?」

「……ん、いや、今日は買い物ない」

「??ふーん、帰んないの?」

「…………」

(なんだ?へんなヤツだな)と思った。

「…………」

「小嶋、帰るんでしょ?」

「……ん………高木、とちゅうまでいっしょに帰んない?」

「へっ?うん、別にいいけど…めずらしーね」

「……そっか?」

「うん、いつもだったら色々言ってくんじゃん。小嶋なんか今日おとなしーね」

「………いいから帰ろーぜ」

「???うん」

最初はそんな感じだった。

No.90 18/05/09 01:41
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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塾は月・水・金の週三回で、上級クラスは夕方の6時から7時までの一時間だった。

小嶋くんの後を(探偵みたいだ♪)とついて行った日の次の塾の日から、帰り道に小嶋くんがウロウロしているのが続いた。

その度に何故だか小嶋くんと一緒に帰っていた。

(小嶋、私のこと待ってたのか!)と気付いたのは、それから二週間程後の、年が明けてからだった。


冬休みが終わってすぐ、私はそろばんの暗算検定を受ける事になっていた。

塾の先生が

「今日は高木さんは検定なので、高木さん以外は7時を過ぎたら早く帰って下さい」

と、クラスの子達に言った。

勿論その子達の中には小嶋くんもいた。


検定時間は50分だったと思う。

暗算検定はすごく簡単だったが、どうしても受かりたかった私は見直し算を何度もした。

途中退席も出来たが、時間をギリギリまで使って見直しをしていたので、終わったら8時になっていた。

先生に挨拶をしてマフラーを巻き、出入口のドアを開くと、そこに小嶋くんが一人で立っていた。

「わっ!!ちょ、小嶋!?なっ、なにやってんの!?」

「検定終わった?」

「え、……うん、終わった…けど……」

「じゃあ帰ろーぜ」

(………な、な、……なんでこんなさむいのにこんな所に……)

そこで初めて私は気付いた。

「……小嶋、待っててくれたの……?」

「おう………ほら帰んぞ」

年明けすぐの夜の8時は空気もキンと音が鳴りそうなほど冷たく、風も強かった。

(……こんななかで一時間も待ってたの……)

No.91 18/05/13 08:59
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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自転車に乗って並んで走る。

いつも小嶋くんは何故か私の右隣りだ。

「……風がさ」

「ん!?」

話し掛けたが吹く風が強くて小嶋くんに聞こえなかったらしい。

「風がさー!強いねー!さっむいー!」

叫ぶ様に言い直した。

「つえーけど!そんなさむくねーだろー!」

小嶋くんも大きめの声で答える。

「さむいし強いよー!自転車すすまないー!」

「ガンガンこげばいーじゃん!」

「むりー!!」

ハンドルを握る小嶋くんの左手に私は自分の右手を乗せた。

思った通り小嶋くんの手は物凄く冷たかった。

「!?」

「小嶋、引っぱってってー!」

「………おっまえ………!」

「たのむー、引っぱってくりー!」

「………ラクすんな!しょーがねーなー!」

ぐんぐんと小嶋くんが自転車のペダルを漕ぐ。

「うわ!はやっ!バ、バランス……!」

「おい!こけんなよ!オレもこけるだろ!」

「………ぷははは!!こ、こわいー!あははは!!」

「……ぶっ!!はははは!!」

二人で笑いながらいつもの分かれ道に着いた。

No.92 18/05/14 03:08
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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分かれ道に着くといつの間にか繋いでいた手をパッと離された。

「じゃあな、気ぃつけて帰れよ」

「………………」

(………もうちょっといっしょにいたいな…)

「ほら、行けよ」

そう言われて頷く。

自転車を漕ぎ出して少し進んだ所で振り返ってみた。

小嶋くんは自転車に跨がったままこちらを見ていた。

なんだか変な気分だった。

嬉しい様な、それでいて寂しい様な。

「小嶋ー!またねー!!」

そう言って大きく手を振ると、小嶋くんは苦笑いみたいな顔をして小さく手を振り返してくれた。

こうして私は小嶋くんと付き合う事になった。

めでたしめでたし♪



…………とはならなかった。

No.93 18/05/17 00:58
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小嶋くんは私と一緒に帰る様になるまでは、たまに塾をサボる事があった。

けれど私を待つ様になってからは、サボらず毎回塾にきちんと来ていた。

だからといって授業やそろばんに集中していた訳ではなさそうだった。



私はいつも教室の真ん中あたりの席に着いて、結構真面目にそろばんに打ち込んでいた。

早く2級に合格したくてバリバリとそろばんを弾いていると、時おり何処からか視線を感じる。

(??)と思って振り向くと、教室の一番後ろの席に着いている小嶋くんと目が合った。

小嶋くんはそろばんを弾く訳でもなく、ただじっと私を見ている。

そんな事が何度も何度もあった。



一緒には帰っていたが小嶋くんと付き合ってはいなかったし、好きだと告白をした訳でもされた訳でも無かった。

大体私は小嶋くんの事を好きなのかどうかも分からなかった。

小嶋くんの気持ちだって確認していないから分からない。

一緒に帰るのは楽しかったが、授業中の小嶋くんの態度に段々と困り始めた。

No.94 18/05/17 01:25
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小嶋くんが先生に怒られる様になってしまった。

「小嶋!ちゃんとそろばんやりなさい!」と何度も言われていた。

小嶋くんに私から直接「練習しなよ!」や「ちゃんと授業聞きなよ」と注意もした。

が、「あー」とか「おー」とか言うばかりで、ちっとも態度を変えようとはしない。

一度、「ちゃんと練習しないならもう一緒には帰らない」と言ったら「わかった」と、暫くの間小嶋くんは授業をきちんと受けていたが、それも長くは続かなかった。



ただただ小嶋くんは授業中私を見ている。

いつも視線を感じて私はそろばんに集中出来ない。

(なにやってんだよ、小嶋……)

そんな風に思い始めた頃、小嶋くんと同じ小学校の土屋(つちや)さんに授業中こっそりと聞かれた。

「……高木さんってさ、小嶋の事好きなんだよね?」

No.95 18/05/20 08:10
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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私がいることで小嶋くんが授業に集中しないなら、と塾をわざと数回サボってみたりもした。

一緒に帰ろうと待っている小嶋くんを無視して一人で帰った日もあった。

そんな風に小嶋くんを避けていたが、変わらず小嶋くんは授業中に私を見続けていたし、帰りも待つのを止めなかった。

(私のためだけに塾にくるなんて!)と、ほんのちょっとの申し訳なさと結構な怒りでピリピリしていた頃だった。


またその日も私は教室の真ん中辺りの席に着いていた。

私の後ろの席には、塾で一番そろばんが出来る土屋さんが座っていた。

いつもなら土屋さんはもっと前の方の席に着いているはずなのに(珍しいな)と思った。


授業が進み、問題集を解く練習時間になった。

パチパチと教室内にそろばんを弾く音が響く。

私も2級の問題集を解いていた。

暫くしてツンツン、と背中をつつかれた。

(ん??)

そろばんを弾く手を止めて振り向く。

土屋さんがニヤニヤしていた。

「…なに?」

小声で聞くと土屋さんも小声で言う。

「…高木さんってさ、小嶋の事好きなんだよね?」

突然そう言われてつい大きな声で答えてしまった。

「好きじゃないよ!」

(あ、ヤバい…)

すぐに(失敗した!)と思った。

No.96 18/05/20 08:51
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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「えっ?好きなんじゃないの?小嶋と付き合ってるんでしょ?」

「………つ、付き合ってないよ……」

「えっ、好きじゃないの?」

「………そういうんじゃ………」

なんだか頭がクラクラした。

(好きじゃないとかじゃない。けど……)

「そこ!!喋るな!練習!!」

先生に注意されてしまい、また私は前を向いた。

(ヤバい、好きじゃないって言っちゃった……、ヤバい……)



次の塾の日、小嶋くんは教室に現れなかった。

(またサボりかな)と思ったが、小嶋くんはその次も、またその次の回も塾に来なかった。

さすがにおかしいと思い、授業が終わってから先生に聞いた。

「あの、先生…。小嶋カゼひいたとかですか?来てないけど…」

「ああ、小嶋君、先週辞めたんだよ」

「!?え、なんで!?」

「お家の人から電話が来て、小嶋君が辞めたいって言ったらしくて。元々やる気も無かったみたいだし、仕方ないね」

「……………!!」



それから二度と小嶋くんに会う事は無かった。

私にとってあれが初恋だったのかどうか、正直今でも分からない。

けれど小嶋くんが塾を辞めてから暫くの間、なんて私は馬鹿なんだろう、と自分を責めた。



あの時、土屋さんに聞かれて

「うん、小嶋のこと好きだよ」

と言っていたら。

いくらそんな風に考えてももう取り返しは付かないし、小嶋くんを酷く傷付けたのもどうにも出来なかった。


段々とそろばんがつまらなくなってきた。

塾をサボる様になった。

2級の試験を受けたが落ちた。

そうしている内に六年生になった。

No.97 18/05/23 05:34
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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小嶋くんの事を引き摺ったまま六年生になった。

そろばんへの熱意は四、五年生の時に比べてガクンと下がった。

塾には行ったり行かなかったりだ。

なんとなく学校でも前の様にボーッとする時間が増えた。

ファミコンと読書は変わらずしていたが、余り楽しいと思わなくなってしまった。



なんだか自分はこの世の中でたった一人になってしまった様な気がしていた。

元々一人でいるのには慣れていた筈なのに、妙に孤独感を感じる。

ボーッとしながら自分は自分からどこまで行っても脱け出せなくて、それは誰でも同じなんだろうなと思っていた。

(人間ってすごく不自由なんだな)

前から考えていた事だったが、その思いが何故か強く頭の中にあって離れなかった。



呆けていても時間が止まる訳ではないので、授業の準備や班決め、クラス委員や係決めなどで忙しかった。

そんな中、私が六年生になってから新しい部活が出来たと聞いた。

演劇部だ。

(男の子の役とか出来るかな?おもしろそうだな)と演劇部への入部を決めた。

まだ心の何処かに、幼稚園生の頃に思った(カッコいい王子さまになりたい!)という気持ちが残っていたみたいだ。

No.99 18/05/30 13:45
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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演劇部に入ったはいいが、そこは私の思っていた部とは大分違っていた。

私がイメージしていた「演劇部」は衣装を着て舞台で役を演じるという物だった。

けれどその部で実際にしたのは、低学年のクラスを回って紙芝居を読んだり、指人形劇をしたり、といった感じだった。

(これのどこが演劇部なんだ?)と、入部して暫くは不満を抱えていたが、段々と(これはこれでおもしろいかも)と思い始めた。

声だけで演じるのも楽しかった。

抑揚を付けてセリフを言うと、低学年の子達は興味深そうに紙芝居や人形劇を見てくれる。

たまに外す時もあったが、大まかウケは良かった。

私は一度何かにハマるとそれ以外が余り目に入らなくなる方で、どんどんと演劇(?)にのめり込んでいった。

夏休みは人形劇で使う指人形の製作に費やした。



夏休みが開けて二学期になり、クラスで席替えがあった。

その時初めて自分のクラスでまたいじめが起こっているのに気付いた。

No.100 18/05/30 21:59
匿名さん ( 41 ♀ 匿名 )

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元々私は興味の無い物事や人の名前を覚えるのが苦手で、席替えで隣の席になった男子の名前を六年生になるまで知らなかった。

隣の席になった男子は渡瀬(わたせ)くんという子で、余り普段目立つ感じの子ではなさそうだった。

と、言っても私が気にしていなかっただけかも知れない。

私はその時に渡瀬くんを間近で初めて見たのだが、(渡瀬くんってカッコいいな!)と思った。

顔ではなくて髪の毛が、だ。

渡瀬くんの髪はクルクルとした縮れっ毛で、所謂天然パーマというものだった。

ちっとも変だとは思わず、むしろその髪がちょっと羨ましくも思えた。



席替えが全員済んで休み時間になったとたんに、クラスの男子数人が渡瀬君の机回りに集まってきた。

(なんだ?)と思っていたら男子達が

「渡瀬ー!一番うしろの席かよー!バイキンだからちょーどいいな!」

「バイキン、もうずっとそこいろよー!」

などと言ってゲラゲラ笑う。

(バイキン??)

少しの間、意味が分からなかった。

(バイキンって………、ん?ばい菌?)

渡瀬くんを見ると無表情で下を向いている。

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