子供の頃の話
「バイブ届きました」の主・高木亜紀の子供の頃の話を書いていきたいと思います。
※いじめ、犯罪行為、精神疾患、性的なシーン等ありますので苦手と思われる方にはスルー推奨させて頂きます。
※日記「バイブ届きました」の内容と重複するレスがありますのでご注意下さい。
18/04/04 01:58 追記
※人物名、地名、建物名等を除いてほぼノンフィクションです。
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- 参加者締め切り
★
翌日、朝。
学校の下駄箱前で遥奈ちゃんにばったり会った。
もしかしたら私を待っていたのかも知れないけれど、別にどうでもよくてそのまま教室に向かおうとした。
…ら、遥奈ちゃんに声をかけられた。
おはようではなくいきなり
「アッキー!きのうなんで勝手に帰ったの!」
そして私の言葉も待たずに
「アッキーは私のドレイでしょ!!」
(何を言ってるんだ?)とムカッとしたので
「ドレイになんてなったおぼえない!」
と言い返した。
遥奈ちゃんがそれを聞いて手を振り上げる。
ひっぱたこうとしたのだろう。
それでも怯まず私は遥奈ちゃんの目をまっすぐ見たままでいた。
遥奈ちゃんは暫く手を上げたままでいたが、私が動じないのに気圧されたのか、ふいっと目をそらして
「もう遊ばないから!」
と言って歩いて行ってしまった。
その日から休み時間、遥奈ちゃんに呼ばれる事は無くなった。
★
遥奈ちゃんと遊ばなく(?)なった代わりと言うか、孝子ちゃんと良く過ごす様になった。
別に孝子ちゃんと仲良くしたかった訳でも無かったのだけれど、何故だか孝子ちゃんが放課後や休みの日に遊ぼうと言ってきた。
孝子ちゃんは相変わらず遥奈ちゃんとも遊んでいたみたいだが、時折私に遥奈ちゃんの愚痴と言うか悪口を言ってきた。
前からだったが孝子ちゃんは遥奈ちゃんにおべっかを使っていた。
遥奈ちゃんに「その服可愛い~」とか、ちょっとした事でも「遥奈ちゃんはすごいよね」と良く言っていた。
けれど遥奈ちゃんのいない所では「遥奈ちゃんはワガママだよね」や「性格悪いよね」などと随分とこき下ろしていた。
そして私に「アッキーもそう思わない?」と聞いてきた。
そう聞かれても私は黙っていたし、首も縦にも横にも振らなかった。
(そんなにモンクがあるなら本人に言えばいいのに)
と思ったし、
(悪口言うならはると付き合わなければいいのに)
とも思っていた。
実は遥奈ちゃんと絶縁の様になる前、遥奈ちゃんも孝子ちゃんの悪口を言っていた。
遥奈ちゃんもやっぱり孝子ちゃんのいない時に「孝子ちゃんって調子いいことばっかり言うよね」だの、「すぐ孝子ちゃんって嘘つくよね」と言っては「アッキーもそう思うでしょ?」と同意を求めてきていた。
私はどちらの言い分にも何も答えなかった。
不思議な事に遥奈ちゃんも孝子ちゃんも、私に同じ事を言ってきた。
「アッキーは偉いね。人の悪口絶対言わないよね」
本人に言えない事は口に出さない主義だっただけで、二人ともにそう言われてもやっぱり黙っていた。
★
遥奈ちゃんとのいざこざ前より入院していた母は今度は三ヶ月程で退院して家に帰って来た。
入院している間、母がどんな感じだったか分からないが、入院前と退院後で何か変わったかというと、少しだけ行動が落ち着いた気がした。
再入院の前、母は包丁を持って父に「これで私を殺して」と迫ったり(その度に私が止めた)、虫が沢山這いずりまわっている(実際にはいない)と怯えて暴れていた。
灯油の入ったポリタンクとライターを持ってきて、これで火を着けて殺して欲しいと私に言ってきた事もあった。
退院してからは母はほぼ寝たきりになった。
それでも家中の包丁やらハサミやらを、カギのかかる私の机の引き出しに隠すのは前からと変わり無かった。
ただそんな状態の母でも家にいてくれるのはやっぱり嬉しかった。
★
私には毎月の決まった額のお小遣いは無かった。
必要なもの、例えばノートや消しゴムなどが無くなったら、その都度母にいる分だけのお金をもらって買っていた。
それ以外には首からさげたキャラクターもののがま口財布に五百円玉を入れて持ち歩いていた。
母から「この五百円はどうしてもっていう時に使うように」と言われていた。
遥奈ちゃんもだったが孝子ちゃんもお金使いが荒かった。
遥奈ちゃんはおばあちゃんから毎日の様にお小遣いをもらってはアイスやジュースを買っていた。
孝子ちゃんは毎月のお小遣いに加えて、お兄さんの貯金箱からお金を盗んで色々な物を買っていた。
そんな遥奈ちゃんや孝子ちゃんと一緒にいても私は財布に入っている五百円は使わなかった。
駄菓子屋でアイスやお菓子を買って食べる遥奈ちゃんや孝子ちゃんには「アッキーは買わないの?」と何度も言われた。
けれど「私はいいや」と、五百円を使う事は無かった。
孝子ちゃんとよく遊ぶ様になってから暫くして、孝子ちゃんが私を試す様な事をし始めた。
わざと私にお金を使わせようとする様になった。
★
ある日、孝子ちゃんと放課後に遊ぶ約束をした。
孝子ちゃんは「ちょっと行きたいとこがあるんだ~」と言っていたが、どこに行くのか教えてくれなかった。
とりあえず家に来て、と言われたので孝子ちゃんの家に向かった。
玄関横の窓を軽くノックすると、ガラガラッと開いて孝子ちゃんが顔を出す。
「アッキー!今出るね!」
孝子ちゃんは慣れた感じで窓枠を乗り越えて外に出てきた。
手にはちゃんとクツも持っている。
孝子ちゃんのお母さんはとても厳しくて、宿題やピアノの練習が終わるまで孝子ちゃんを部屋から出さなかったらしい。
どうしても遊びに行きたい時は窓から外に出ては、帰ってからお母さんに怒られていたようだ。
「ほんっと、お母さんうっさいんだから」と、いつもくちびるを尖らせて孝子ちゃんは愚痴を言っていた。
最初の内は窓から出てきた孝子ちゃんに驚いたけれど、もう何回も見てきたのでそれが当たり前になっていた。
孝子ちゃんが歩き出したので後を着いていく。
「ねぇ、今日行きたいとこってどこ?」
「ん~?ふふふふっ。とにかく来て来て」
孝子ちゃんに連れられて着いたのは駅前の大きな商業ビルだった。
★
その商業ビルには父や兄と何度か来た事はあったが、一人では勿論子供だけで入った事など無かった。
「アッキー、こっちこっち!」
と、孝子ちゃんはビルの中に慣れた感じでずんずんと入って行く。
孝子ちゃんに着いては行ったが、なんだか怖く感じてきて
「たかちゃん、こんなとこ子供だけで入っていいの?」
と言うと孝子ちゃんは
「私いっつもここ来て遊んでるよー。だいじょうぶだよ。それよりこっち♪」
と更に奥へ向かう。
向かった先はエレベーターホールで、孝子ちゃんは躊躇する事無くエレベーターのボタンを押した。
「ちょ、ちょっとたかちゃん、どこ行くの?」
「いいからいいから♪ほら、きたよー」
開いたエレベーターにぴょん、と小さくジャンプして孝子ちゃんが乗って入る。
一体どこに連れて行かれるのか分からないまま、私もエレベーターに渋々といった感じで乗り込んだ。
孝子ちゃんはなんだかとても楽しそうにしている。
エレベーターには他にも何人かが乗っていたが、私達以外は皆大人だった。
大人の人達は特に私と孝子ちゃんを気にする訳でも無さそうだったが、私はなんだか悪い事をしている様な気がした。
エレベーターはどんどん上へ上がっていって、「この階だよー」と孝子ちゃんに言われて降りた先はビルの最上階の屋上広場だった。
★
屋上広場にはペットショップや小さい遊園地、アスレチックジムにゲームコーナー、イベント用のステージやクレープ屋さんもあった。
平日の午後のそこには人は余りおらず、まだ赤ちゃんの様な子を連れた女の人達がベンチに数組いるだけだった。
「アッキー!こっち!」
孝子ちゃんが私の腕を掴んで引っ張っていく。
(???)
「へへへ♪ここだよー!」
連れて行かれたのはイベントステージの横のゲームコーナーだった。
ゲームコーナーには色々なゲームの筐体が何台かと、大きなドーム型の何かが中でぐるぐると回っている、見たこともない機械があった。
(……たかちゃん、ゲームがしたかったの?)
孝子ちゃんは掴んでいた私の腕を放すと、一台のゲーム機前のイスに座った。
「これ、すっごい面白いんだよー!」
そう言いながらズボンのポケットに手を入れて、ジャラッと小銭を数枚取り出す。
「…えっと、五十円……、あった!」
コイン投入口にカチャン、と五十円玉を入れた孝子ちゃんは、私には「そこで見てて!」と言ってゲームを始めた。
★
「わぁ!」とか「あー!」とか言いながらゲームをしている孝子ちゃんの後ろに立って(…またか……)と思っていた。
(どうせ「アッキーはやらないの?」とか言うんだろうな……)
遥奈ちゃんもだったが、孝子ちゃんも、いつもお金を使う時は自分達と同じように、私にもお金を使わせようとあれこれ言ってきていた。
(…こーいうの、おもしろいかなぁ……)
ゲームの画面では飛行機の様なものが、ピュンピュンと音をたてて弾を出しながら前後左右に動いている。
(これ、見ててつかれないのかな)
孝子ちゃんの後ろで見ているだけで目が廻りそうだ。
それに凄くつまらない。
(……犬とか見に行きたいなぁ……)
画面を見るのにも飽きて、ペットショップの方に首だけを動かす。
私のそんな様子に孝子ちゃんは気付かないまま、まだ「わー!」とかなんとか言っている。
(ねこもいるかなぁ?)とか思っていたら、孝子ちゃんが「ああー!うそー!!」と大きな声を出したので、何事かとまたゲームの方を見た。
「あー!やられちゃったぁ!!もー!!」
そう言いながら孝子ちゃんは悔しそうにバンバンと手で筐体を叩く。
私はびっくりして「た、たかちゃん!たたくのダメなんじゃないの!?」と慌てて言ったが、
「だいじょうぶだよ、こんくらいしたって。あー!くやしー!!」
と、孝子ちゃんは今度は筐体の横に蹴りを入れた。
「ちょ、ちょっと、たかちゃん!」
私の声は無視して「もう一回やりたいなぁ!」と孝子ちゃんが言う。
私はため息をついて(別に…やりたきゃやればいいじゃん……)
と思っていたら、孝子ちゃんがクルリとこちらを向いた。
「アッキー!お金かして!!」
「えっ!?」
「アッキー、お金もってるでしょ?それに入ってるんだよね?五十円かしてよ!」
と、私が首から下げているがま口財布を指差した。
★
「はっ!?えっ!?えっ……や、やだよ!」
「だってもう五十円玉ないんだもん」
そう言ってまた孝子ちゃんはポケットから小銭を出して私に見せる。
百円玉が一枚と十円玉が数枚手のひらに乗っていたが、そんなのを見せられたからと言って(だからなに!?)と思った。
「ねっ?」
「か、かすとかはダメ!……それに五十円玉もってないよ、こんなか入ってない」
「………ちぇー。も一回やりたかったなぁ!」
案外あっさりと退いた孝子ちゃんはイスから立ち上がった。
「あ、あれやろー」
ドーム型の大きな機械に向かう孝子ちゃん。
(???お金ないんじゃないの??)
何だか孝子ちゃんに近付くのが嫌だった。
孝子ちゃんも私を呼ぶ訳でもなく、機械の中をのぞいている。
何がなんだか分からなくてもう放っておこうと思った。
バシッ、バシッと機械に付いているボタンを叩いている孝子ちゃんから目をそらして、適当に辺りを見ていた。
「アッキー!アッキー!」
(……なんなんだよ……)
呼ばれても目を向けなかったが孝子ちゃんの方から私の所に駆け寄ってくる。
「これっ!あげる!」
孝子ちゃんの両手一杯にラムネの袋が乗っていた。
「……??」
「すごいでしょ!?百円でこんなに取れるんだよ!?いっぱい取ったからあげる!!」
「……ううん、いい、いらない……」
ラムネは好きでは無かったし、また何か企んでいるんじゃないか、と何となく思った。
「えー!?もらってよー!」
「いいってば…」
「お願い!もらって!……そのかわりアッキー、私と親友になって!!」
(???)
ラムネを貰ってあげる代わりに親友になる??
★
聞いてもいないのに孝子ちゃんは話し出す。
「私ね、まえからずーっと親友がほしかったの。でもできなくって。アッキーみたいな人っていないよ。アッキーに親友になって欲しい!」
「…………」
「だからこれ、もらって!!」
「…………あのさ」
「うん?」
「親友……ってさ、言ってなるものなの?」
「…………」孝子ちゃんが黙る。
「親友って、気がついたらなってるもんじゃないの?何かあげたりして『なってもらう』とかってちがうと思うんだけど」
「…………」
孝子ちゃんは何か考えていたようだが、少しして
「……そうだよね……、親友って言ってなるものじゃない、か……。アッキーの言うとおりだ……」
何か気付いたかの様に孝子ちゃんはそう言った。
「そっか、そうだよね……うん。言ってなるものじゃない……」
一人ごちる孝子ちゃんだったが、
「……アッキー、でもこれはもらって!アッキーにあげたいの!」
と、ラムネをいくつか押し付けてくる。
「いいってば、ラムネ好きじゃないんだよ」
「いいから!はいっ!」
無理矢理ラムネを握らされた。
「……これ、どうせすてちゃうよ……?」
「それでもいいよ。アッキーにもらってもらうのが意味あるの!」
「………………」
「もう帰ろっかぁ。またお母さんにおこられるかなぁ」
家に帰ってから貰ったラムネをどうしようか迷った。
(いっこくらい食べたほうがいいかな……)
小さな袋を破ってラムネをひとつ口に入れる。
(…………うわ、あまっ!)
ラムネは凄く甘くて、やっぱり美味しいとは思えなかった。
結局ひとつ食べただけで、残りのラムネはごみ箱に捨てるしかなかった。
押し付けられたせいで、食べ物を棄てるという持たなくて良かったはずの罪悪感と、孝子ちゃんへの腹立ちで気分が悪かった。
★
そんな事があってからも孝子ちゃんには変わらず遊びに誘われた。
連れていかれたのは、やはりあの商業ビルが多かった。
本屋に引っ張っていかれて、アダルトコーナーに居座る事もあった。
「アッキー、見て見て!これエッロいよー!」
アダルトコーナーにしゃがみ込んで、孝子ちゃんは「うわっ!」とか「エローい!」と言いながらエッチな本を見ていた。
男女が裸で何かしているページを、孝子ちゃんは私にも見ろと言ったが、チラリと見たら気持ち悪いのと恥ずかしいのとで、私はそっぽを向いていた。
別の日には雑貨店に入って、お試し用の口紅やアイシャドウを顔に塗って遊んだりしていた。
お金を使わないなら、と、どこにでも着いていった。
エッチな本を見せられるのは別だったが、それ以外はそこそこ私も楽しみ始めていた。
あれこれしている中で数回「親友になって!」とまた言われていたが、私はうんともイヤとも言わなかった。
★
そんな風にして孝子ちゃんと色々なお店で遊んだある日の帰り道だった。
「ねぇ、アッキー。さっきのお店のじょうぎかわいかったねー」
孝子ちゃんは文房具店で「これかわいー!」と動物の絵が描かれた定規をずっと見ていた。
「あれ欲しいなぁ」
孝子ちゃんは一人で「欲しいなー」「欲しかったなぁ」とか言っていたが、急に
「ねぇアッキー、そのおサイフかして!」と私のがま口財布に手を伸ばしてきた。
「ちょっ!なに!?」
「いいからかして!」
がま口財布を引っ張られた。
「やめて!!やだ!」
抵抗したが孝子ちゃんは財布を引っ張るのを止めてくれない。
そうこうしている内に、ブツッ、と首にかけていた紐が切れた。
孝子ちゃんは「あっ!切れた!」といったが謝らない。
それどころか財布を持って走って行ってしまった。
(……なんで……こんなことするの……)
走っていく孝子ちゃんを見ながらなんだか凄く悲しくなった。
(お母さんにおこられる……)
孝子ちゃんを追いかける気力も無かった。
ため息をついてその場に立ちすくんだ。
仕方ないので孝子ちゃんが戻ってくるのを待つことにした。
10分程して孝子ちゃんが走って帰ってきた。
「へへへ♪これ買ってきちゃった♪」
手にはさっき欲しいと言っていた定規が握られている。
「……入ってたお金で買ったの?」
「うん。へへへ♪」
(………お母さんになんて言おう……)
「はいっ!」
「………え……?」
「アッキーのお金で買ったから、これはアッキーのだよ♪」
「……………」
渋々定規を受けとる。
(じょうぎ買ったってお母さんに言うしか………)
「うそだよー!」
「???」
★
「……うそって……」
「アッキーのお金使ってないよ♪ほら!」
財布を開けて中を見せてくる。
中には五百円がきちんと入っていた。
「……じゃあそのじょうぎ、どうして……」
「……………とってきちゃった♪」
(!?!?)
「とってって………、それって…ハンザイっていうんじゃ……」
私は万引きという言葉を知らなかった。
「私、たまにほしいのぬすんでるんだ。………それアッキーにあげるよ」
孝子ちゃんは口元は笑っていたが、目は笑っていなかった。
「……アッキー!?!?」
私は定規を持ってビルの方へ走りだした。
(返しにいかなきゃ!!)
暫く走った所で
「アッキー!!それもうそー!!!」
孝子ちゃんが大きな声で言う。
(!?!?)
足を止めて孝子ちゃんの方に振り返る。
「ぬすんでないよー!うそだよー!!」
★
孝子ちゃんが私の所へ駆けて来る。
「アッキー、急に走んないでよー!……信じたの?」
あははは!と笑う孝子ちゃんをじっと見つめた。
「あはは、……………どっちだとおもう?」
盗んだのか、そうでないのか。
「……………」
眉を寄せて孝子ちゃんの目を見る。
孝子ちゃんは上目遣いで私を見る。
……ぷっ、と孝子ちゃんが吹き出した。
「あははは!!自分で買ったんだよー!ぬすんだりするわけないじゃん!!」
お腹を抱えて笑う孝子ちゃんに
「………おかね」
「あっははは!!……え?」
「おかねもってたの?」
孝子ちゃんは急に笑うのを止めて真面目な顔をした。
暫く私をじっ…と見て
「……うん。もってたよー」
「……ほんとに買ったの?」
「……しんじないんだ」
「…………………」
★
「ふーん。そっかぁ、アッキー私のことしんよーしてないんだぁ。そっかぁ」
「……しんようって……」
「とにかくっ!ちゃんとそれ買ったの!だから返して?」
無言で定規を孝子ちゃんに渡す。
「あ、これ、こわれちゃったね」と押し付ける様に財布を返された。
「ごめん」の一言も無い。
「……帰る」
「うん。ばいばーい」
孝子ちゃんに背を向けて、モヤモヤしたまま家に帰った。
その日から約一ヶ月半後、私は単独での万引きで捕まる。
一ヶ月半の間に色々な事があった。
色々な人に会った。
言い訳にならないのは解っている。
万引きをしたのは事実だし、今でも本当に馬鹿な事をしたと思っている。
ただ、本当に色々な事があった。
あの一ヶ月半の事は完全に自己満足だが後に書きたいと思う。
★
四年生になった。
父に頼み込んで放課後週三日、そろばん塾に通い始めた。
私はすぐに夢中になって、学校にもそろばんを持っていき、休み時間にも練習問題をずっと解いたりしていた。
孝子ちゃんとは三年生の時の様に遊ぶ事は無くなっていた。
塾と塾の無い日もずっとそろばんを弾いていて、放課後誰かと遊んだりもしなくなった。
相変わらず学校の勉強はさっぱりだったが、そろばんの練習の為にまた机に向かう様になった。
半年程そろばんに夢中で回りは全く見えなくなっていた。
そろばん漬けの夏休みが開けて9月、またクラスに転入生がやってきた。
転入生には興味が全然無くて、それより兎に角「早く5級まで上がりたい!」と、ずっと下を向いてそろばんばかりしていた。
★
転入生の子は色白で背が低く、ポッチャリしている子だった。
本当に興味が無かったので、私は名前も覚えなかった。
その子の方では何故だか私の名前を覚えたらしく、みんなの様にアッキーとあだ名で私の事を呼んでいた。
最初の内は孝子ちゃんの時の様に、その子の回りに何人もクラスの子達が集まっていた。
学年集会か何かがあった日だったと思う。
体育館での集会が終わり、片付けを手伝わされてみんなより少し教室に戻るのが遅くなった。
体育館から校舎までの通路で、私のクラスの女子達が数人、転入生の子を中心に話をしていた。
(?何してんだろ?)
暫く立ち止まって聞いていると、どうやら転入生の子は劇団に入っていて、入団するのにお金が沢山掛かって……、とかいう話をしている途中だったみたいだ。
★
その日のホームルームが終わり帰ろうとランドセルに色々詰めていたら、クラスの葉子(ようこ)ちゃんに声を掛けられた。
「アッキー、ちょっと」
「??」
腕を組まれて教室の後ろに連れて行かれた。
「………さっきのさ、ひとみちゃんの言い方ひどくない?」
(ひとみちゃん?)
「なんかひとみちゃん、自分ちはお金持ちだから~とかずっと言ってたんだよ。アッキーにあんな言い方ひどいよね」
「……あの子、ひとみちゃんていうの?」
「へっ?……アッキー、名前知らなかったの?」
「うん、今はじめて知った」
「ぶっ!!あははは!!し、知らなかったんだー!!」
何がそんなに笑えるのか分からなかった。
暫く葉子ちゃんは涙目になりながら笑っていたが
「あぁ、でも良かった。アッキー気にしてなかったってことだよね」
と、目を擦りながら私に言う。
「……お金がどう、って?」
「それもだし、セカイがとか関係ないとかさ」
「んー、別に……、関係ないって言われたから関係ないんだろな~とはおもったかな」
葉子ちゃんがまたお腹を抱えて大声で笑う。
「ア、アッキーって……」
ひーひー言いながら笑う葉子ちゃん。
★
当時、私が住んでいた家は借家だったが、通っていた小学校のすぐそばで、歩いて3分で学校に着くという好条件の場所だった。
朝は学校が始まる15分前に起きて、だらだらと着替えてからギリギリで学校へ向かう。
8時半までに教室の席に着いていれば良かったので、(家が近いってほんと楽だなぁ)といつも思っていた。
(たまににN○Kの朝ドラを見てから学校へ行く日もあった(笑))
元々宵っ張りぎみだったのと、そろばんの練習で寝不足の日が続いていた。
昨日のひとみちゃんや葉子ちゃんとの事はすっかり忘れていた。
またその日もいつもの様に眠い目を擦りながら、8時半の数分前に教室の扉を開いた。
(…………………?………)
なんとなくだったが教室の空気がいつもと違う気がした。
普段ならこの時間の教室はもっと賑やかで、走り回っている子もいれば、大きな声でお喋りをしている子もいたはずだった。
なのにその日に限っては男子も女子もみんなやたらと静かで、黙って席に着いている子もいれば、少人数でひそひそと小声で話している子達もいた。
(……………なんか変だな…………)
取りあえず自分の席に着いた。
★
三時間目までは特に変わった事もなく、いつも通りに授業が終わった。
四時間目の体育はサッカーをするという事で、クラスの子達は校庭に思い思いに散っていく。
みんな割りと自由にサッカーボールを追いかけたり、何人かで固まってお喋りをしたりといった感じだった。
サッカーは好きでも嫌いでもなかったが、ごちゃごちゃとボールを追うのはめんどくさくて、私はサッカーゴールから離れた校庭の端に一人で立っていた。
少しして私の所へ女子が7人ほどやって来た。
その中には孝子ちゃんもいた。
「アッキー」
百合子(ゆりこ)ちゃんに声を掛けられた。
「?なに?」
「あのさ、私達ひとみちゃんのことムシしようって決めたの」
「???」
「だからアッキーもひとみちゃんとしゃべんないで」
「……?ムシって、なんで??」
「いいからさ、とにかく話ししちゃダメだから」
「……そんなん何でかわかんないのにムシとかできないよ」
「みんなで決めたの。だからアッキーもムシして」
(???)
さっぱり分からなかった。
けれどハッキリと断る理由が見つかる程、自分の意見があった訳でも無かった。
「………私なりのムシのしかたでいいなら」
そう答えると百合子ちゃんは
「うん、それでもいいから。ぜったいだよ」
と私に念を押すと、一緒に来た子達と固まって私から離れて行った。
(………ムシ、ねぇ………)
★
(……どーすっかな……)
暫くその場で立ったまま考えた。
15分程経った頃、ひとみちゃんがこちらに走って来るのが見えた。
「…………アッキー?」
「…………………なに?」
それまで困惑した表情のひとみちゃんの顔が、パッと明るくなったのが分かった。
「よ、良かったぁ!アッキー話してくれた!……アッキー、なんかみんな変なの、話してくれないの、なんでか知ってる!?」
「……………さぁ?」
またひとみちゃんの表情が不安げに変わる。
「アッキーは話してくれるのに……、なんでなんだろ……」
「……知らない」
「ねぇ、アッキー、みんなさ……」
「あのさ、そこボールとんでくるからあぶないからあっち行ってくんない?」
えっ?えっ?といった感じのひとみちゃんに、
「ほら!あぶないって!あっち行って、あっち!」
と私はひとみちゃんに『あっちに行け』と手を振った。
ひとみちゃんはこちらを何度も振り返りながら私から離れて行った。
相手を邪険に扱う。
これが「私なりのムシ」だった。
勿論これが良いやり方でないのは分かっていたが、少し考えていた事があった。
★
体育の後の給食の時間、教室では誰一人話す子はおらず静まりかえっていた。
聞こえるのは先割れスプーンと給食トレイがぶつかる、カチャカチャという音だけだ。
生徒と一緒に教室で給食を食べていた先生は、みんなの様子がおかしいのに気付いた様だったが、何も言わなかった。
給食後の昼休み、クラスの子達は珍しく全員が教室から出て外に遊びに行ったみたいだった。
ひとみちゃんと私を除いて。
私は自分の席で一人で「ズッコケ大作戦」を読んでいた。
ひとみちゃんがどうしていたかは分からなかった。
五時間目が始まる直前にクラスの子達はまとまって帰って来た。
教室は静かなまま六時間目の授業も終わり、ホームルームが終わると私はさっさと家に帰った。
翌朝は少し早く起きて学校へ向かった。
教室の扉を開けると、それまで廊下にまで聞こえていたクラスの子達の話し声が一瞬で消えた。
私は自分の机にランドセルを置いて、いつもの様に後ろの席の女子に
「おはよー」
と声を掛けた。
★
「………………………」
挨拶は無視された。
今度は隣の席の男子に声を掛ける。
「おはよっ」
「………………………」
男子は頬づえをついたままこちらは見ずに、やはり私を無視した。
(……ふーん)
やっぱりこうなるんだ、と思った。
イスに座り、ランドセルから教科書や筆箱を取り出しながら教室を見渡すと、数人と目が合ったが誰もがサッ、と目線を外した。
ひとみちゃんの方を見ると、下を向いて席に座っている。
私のことは見ない。
そうしている内に8時半になり、教室に先生が入ってきた。
教室内は静かだった。
先生は教卓前で暫く無言でいたが、「……出欠とるぞー」と名前を呼び始めた。
四時間目まで授業は昨日と同じく普通に進んだ。
だが授業の合間の休み時間、誰も私に話し掛けないし目も合わせなかった。
それはひとみちゃんにも同じだった様で、ひとみちゃんは休み時間中ずっと一人で下を向いたままだった。
休み時間の間、私は(さーて……だれにしようかな)と考えていた。
★
授業の合間の休み時間に
(さーて、だれがいいかな)
と考えた。
クラスで割りと勉強が出来て、みんなからの信頼がそこそこ厚くて、プライドは普通よりちょっと高いくらい。
友達もそれなりにいて、リーダータイプではないけれど、喋り過ぎず暗すぎず。
私より背が低い子。
何より一番に重要なのは
『三年生の時のあの日』に
『孝子ちゃんと一緒にいた子』だ。
(……あの子だな)
給食の時間は昨日とはうって変わって賑やかだった。
ただその賑やかさは何だかわざとらしい感じで、みんなどことなく何かを気にしている風だった。
勿論だが給食の時間、私は無視された。
先生は私が無視されているのに気付いてはいなかったみたいだ。
むしろ昨日と違ってまた賑やかになったクラスの子達に安心した様子だった。
(先生ってわかんないのかな)
正直、馬鹿なのかな、と思ったけれど
(おとなってこどものことあんま知らないみたいだしなぁ)
とも思った。
けれどそんな事よりもこれからする事の方が重要だったので、先生の事を考えるのは止めた。
給食が終わって昼休み。
私は席を立った。
★
「ねぇ」
まだ遊びに行かずに席に座っている絵美(えみ)ちゃんに声を掛けた。
「……………」
絵美ちゃんは頬づえをついて、私と目を合わさずに横を向いている。
「ねぇ、なんでムシすんの?」
「……………」
「…おい、ちょっと来い」
絵美ちゃんの腕を掴む。
「!?!?」
びっくりした顔の絵美ちゃんの腕を掴んだまま廊下へ引っ張って行った。
クラスから少し離れた廊下の柱に絵美ちゃんの体を押し付ける。
「…なぁ、あんたさ、なんでムシすんの?」
「………………」
「おい、聞いてんだよ、こたえろ」
絵美ちゃんは口をギュッと結んで斜め下を見ている。
「………たかちゃんがこわいんか?」
「!!」
絵美ちゃんの目が大きく見開くのを私は見逃さなかった。
(……やっぱりな……)
「なぁ、あんたさ、クチあんだろが。言いたいこととか思ってることあんならちゃんと言えよ!それともなんだ?あんた、たかちゃんの『ドレイ』か!?」
「……………ドレイなんかじゃ……」
「あっ!今、しゃべった!」
「!!」
(しまった!)という感じの絵美ちゃんの顔をのぞき込む。
「……今、私と話したよね?えみちゃんもムシされるのかなぁ?」
「……今のは、だって」
「あ!またしゃべった~♪」
「…………!!」
★
絵美ちゃんの顔の横に手をついて畳み掛ける様に言う。
「あのさ、ちゃんと自分で考えてムシとかしてんの?それだったら別だけどさ、そうじゃないだろ。みんながしてるからとかそんなんか?自分の意見とかないんかよ。そんなんじゃ『ドレイ』とか言われても当たりまえだろが」
廊下には数人の子達がいたが誰も私を止める子はおらず、ただ遠巻きに見ているだけだ。
悔しそうにしている絵美ちゃんにさらに言い続けた。
「おい、なんとか言ってみろよ。ムシとかくだらないことしてんじゃねぇよ!自分がされるのはイヤで他のやつにはすんのか?どうなんだよ。クチあんならムシじゃなくてちゃんと言えよ!」
「も、もうわかったから!わかったから止めて!!」
「じゃあもうムシとかすんな。他のやつにも言っとけ」
こくり、と絵美ちゃんはうなずいた。
「うん♪わかってくれればいーの♪じゃね~」
何か思っている様子の絵美ちゃんを置いて私は教室へ戻った。
ひとみちゃんの名前は出さなかった。
彼女は彼女で自分で何とかするべきだ。
そう思っていたから。
★
翌朝から私の事を無視する子はいなくなった。
絵美ちゃんがクラスの子達に上手く話したのだろう。
ただ、ひとみちゃんへの態度はみんな変えなかった様で、それどころか嫌がらせは段々と酷くなっていった。
ひとみちゃんは『白ブタ』と呼ばれる様になった。
色白で太っていたからだ。
「白くてデブだから病気だ」と訳の分からない言いがかりをつけて「さわったり喋ると病気が移る」と、クラスの子達はひとみちゃんをからかいながらいじめる様になっていった。
朝、教室の黒板に「白ブタ」「学校くるな」など、他にも酷い言葉が落書きされるのは毎日だった。
黒板に悪口を書かれるたびに、ひとみちゃんは必死な顔をして悪口を黒板消しで消していた。
私にはそれが分からなかった。
何故いじめられている証拠を消してしまうのだろう?
先生に悪口が書かれているのを見せればいいのに、と思っていた。
その事をひとみちゃんに言った事があったが、ひとみちゃんは下を向いたまま何も言わなかった。
ある日の放課後にはクツが無くなった、と騒いでいた。
たまたまその場に出くわした私は、ひとみちゃんと一緒にクツを探したけれど見つからなかった。
「クツないって先生に言いなよ」とひとみちゃんに言ったが、ひとみちゃんは黙っていた。
ひとみちゃんがその時どうやって帰ったか覚えていない。
他にも机にチョークで落書きされたり、物を隠されたりと色々あった様だ。
私は無視や嫌がらせは受けなかったものの、クラスでは浮いた存在になっていた。
誰ともつるまないし、ひとみちゃんの悪口も言わないし無視もしない。
嫌がらせに加担もしなければ、むしろ逆にひとみちゃんを庇う時もあった。
そうしている内にひとみちゃんが私に寄りつく様になってきた。
「しんよう出来るのはアッキーだけだよ」
とひとみちゃんは何度も言ってきた。
私の回りをチョロチョロするひとみちゃんを(めんどくせぇな)と思っていたので、けっこうキツい事を言う時もあった。
それでもひとみちゃんは私にくっついて来た。
★
ひとみちゃんへのいじめに加担しなかったからといって、私が学校で優れた子供だったかといえば全くそんな事はなかった。
相変わらず勉強は全然出来ないし、授業中はボーッとしているし、提出物はまともに出さない、宿題はやって来ない。
朝はギリギリか遅刻。
男子とはケンカも多いし口も悪い。
協調性も余り無い。
何より三年生の時には万引きまでしているという問題児中の問題児だ。
学期末に渡される成績表は×印ばかりで、必ず担任の先生からのコメントには
「授業をきちんと聞いて勉強をもっとしっかりやりましょう」
と書かれる始末だった。
たまに良い事が書いてあるとすれば
「給食係を頑張りましたね」
「飼育係を頑張りましたね」
くらいだった。
本当に誉められる所がほとんど無い子供だった。
けれどそろばん塾では、始めてから半年ほどで初級から5級まで駆け上がったという事で、なかなかに優秀だと塾の先生や生徒達には一目置かれていた。
四年生の三学期には5級はとっくに受かっていて、塾では4級を目指して上級クラスでバリバリとそろばんに励んだ。
★
私には基本的な生活習慣というものが身についていなかった。
幼稚園の頃、まだ母がこころの病気になってしまうまでは、髪をちゃんととかしてもらったり、身だしなみもそれなりにきちんとしていた。
けれど母が病んでしまってからは、頭はボサボサ、服もてきとう、顔は洗わないし、ろくに歯も磨かなかった。
見かねた兄が髪をクシでといてくれる日もあったが、それも兄に朝、時間がある時だけだった。
寝る時はパジャマに着替えるのもめんどうで普段着で寝ていたし、毎日同じ服を着続けた。
小学校二年生になって一人でお風呂に入る様になってからは、頭や体を洗うのがかったるく、一週間や二週間お風呂に入らないなどザラだった。
もう見た目も中身も散々だった。
そんな生活を送っている中で、私には大嫌いな事がひとつあった。
三、四ヶ月に一度、髪を短く切られる事だった。
父も兄も忙しく、母も私の世話などとても出来る状態では無かったので、手入れがしやすい様にといつもショートカットにされていた。
私の髪を切ってくれたのはいつも兄だった。
★
小学校一、二年生の頃は髪を切られるのが嫌で、「そろそろ切ろうか」と、ハサミを手にする兄から逃げて回った。
髪を切られた後は酷く泣いた。
そんな私を見る兄の顔はとても辛そうだった。
三年生になってものが少し分かってきた私に、兄は髪の長い女の人の写真が載っている雑誌を見せてきて
「今、髪の毛ちゃんとしておけば大人になったらこんな風になれるよ」
と話した。
(そんなわけないだろ…)と思った。
何故ならその女の人はブロンドの髪の外国の女の人だったからだ。
だが私はそれが兄なりの苦肉の策だと気付いたので
「………うん、わかった、かみきっていいよ」
と答えた。
髪を切ってもらった後、お風呂場で一人声を殺して泣いた。
兄の辛そうな顔を見たくなかった。
それから六年生になって美容室に連れていってもらう様になるまで、散髪後はシャワーを浴びながら泣くのが常になった。
★
四年生の三学期後半、兄にまた髪を切ろうかと言われたが、「寒いからもうちょっとしたら」と断った。
私は大分前から前髪で目を隠していた。
先生からは毎日のように「高木、前髪切りなさい!」と言われたが、どうしても目を出すのが嫌だった。
おかげでまるで私は鬼太郎の様な頭になっていた。
みすぼらしい格好とその髪型のせいで上級生の人達から
「鬼太郎」
「おばけ」
と、石を投げられた事もあった。
さすがに髪がのびすぎて兄にまた髪を切ってもらったが、その時に限ってやたらと短くされてしまった。
またいつもの様にお風呂場で泣いて、翌日、普段通り着古したトレーナーとスカートで学校へ行った。
授業の合間の休み時間だった。
一人の男子に
「アッキー、髪短くて男みたいー!スカートにあわねー!」
と言われ、みんなに爆笑された。
翌日から私はスカートを履くのを一切やめた。
自意識過剰にも程があったが、変な所で傷つきやすかった。
学校の制服以外でスカートは履かず買う事も無く、その後十年近くほとんどジーパンで過ごした。
★
五年生になってまたクラスの組み替えがあり、孝子ちゃんとひとみちゃんとは同じクラスになった。
絶縁状態が続いていた遥奈ちゃんとは別のクラスになった。
これは遥奈ちゃんの名誉の為に書いておきたいのだが、遥奈ちゃんは四年生の時、ひとみちゃんへのいじめには加わらなかった。
遥奈ちゃんはとてもプライドが高く、ひとみちゃんをいじめる子達を「くだらない」と馬鹿にしていた様だった。
私はその点に置いては遥奈ちゃんを尊敬していた。
いじめは遥奈ちゃんからひとみちゃんへシフトしたのだが、遥奈ちゃんはその後も基本一人で行動していた。
(強いな)と思った。
別のクラスになり暫く経ってから、遥奈ちゃんと同じクラスの子から、遥奈ちゃんがいじめにあっていると聞いた。
それを聞いて何とかしたい気持ちはあったが、どうにも別のクラスとは接点が無く、私には何も出来なかった。
廊下からたまに隣のクラスを覗いたが、遥奈ちゃんはいつも一人で席に着いていた。
もどかしかったが心の中で(負けんなよ)と思うのが精一杯だった。
相変わらずひとみちゃんは私の回りをウロチョロしていた。
何となく一緒に遊ぶ様にもなった。
五年生になってひとみちゃんへのいじめは少し落ち着いた様に見えた。
私といえば相変わらず落ちこぼれのままだった。
そろばんは頑張っていたが、4級の壁は高くて苦戦が続いていた。
毎日そろばんと、当時流行っていたファミコンと、たまの読書で日々が過ぎて行った。
★
五年生になって暫くは、私の回りは特に問題も無い様だった。
相変わらずそろばんとファミコン、読書の日々。
たまにひとみちゃんとも遊んでいたが、よく覚えていない。
その頃はドラゴンクエスト2が発売されて、私も例に漏れずといった感じで、ひたすらクリア目指して時間があれば家ではファミコンをしていた。
勿論学校の宿題や、予習・復習などしない。
そろばんだけは時間を決めて練習していたが、それ以外は夜中までファミコンに熱中した。
おかげでか男子達とドラクエがどこまで進んだかで話をしたり、レベルがいくつまで上がったりしたか、などで盛り上がり、また前の様に仲良くなった。
朝、学校に着くと男子が声を掛けてくる。
「アッキー!昨日ドラクエやったー!?」
「やったやった!レベル30まで行った!!」
「マジで!?すっげ!オレ、昨日5しかレベル上げできなかったー!」
「でもさ、なんか話がすすまなくなっちゃってさー」
余り面白く無かった学校がまた楽しくなった。
★
クラスに高本(たかもと)くんという男の子がいた。
皆から『たっくん』と呼ばれていたその子は、私とは三年生の頃から小学校を卒業するまでずっと同じクラスだった。
小柄で大人しい感じのたっくんだったが、彼も中々に問題児だった。
まず勉強がとにかく苦手だった様で、五年生になってもたっくんは漢字が書けない、九九も覚えられなかった。
給食を全部食べられず、机の中にパンを入れたまま放置して教室中に悪臭を漂わせ、担任の先生に手洗い場で机を丸ごと洗われた事もあった。
話し方も少し幼い感じのたっくんだったけれど、だからと言っていじめにあう事も無く、なんとなくクラスのマスコットキャラクターの様な感じで可愛がられていた。
何故か分からなかったが五年生になって少ししてから、たっくんは私をよくからかったり、物を隠したりしてきた。
席替えの時には「おまえのつくえにハナクソつけたから」と言って笑っていた。
「クツをかくしちゃった~」と、ニヤニヤと笑われた事もあった。
本当にどうしてそんな事をされるのか分からず担任の先生に相談した。
先生は放課後に私とたっくんを教室に呼んで、私とたっくん、先生との三人で話をする時間を作ってくれた。
先生はたっくんに「なんで高木にちょっかい出すんだ?」と聞いていたが、たっくんは答えなかった。
暫くたっくんに質問をしていた先生が突然
「高木の事好きなのか?」
と言ったのでびっくりした。
たっくんも驚いた様で首をぶんぶん振っていた。
その話し合い(?)の後から、たっくんは私にちょっかいを掛けてくるのを止めた。
それどころか(これも何故だかは覚えていないのだが)たっくんとは仲良くなっ
て、家に遊びに連れていってもらう様にもなった。
★
五年生の夏休み明け、やっとそろばんの4級に合格出来た。
塾の先生からの勧めですぐに3級も受験し、三ヶ月程でそれにも受かった。
すごく嬉しかったし、ほっともした。
私が4級に受かるまでの間に、上級クラスに小学校は違うが同学年の小嶋(こじま)くんという子が入ってきていた。
小嶋くんは余りそろばんが好きな様ではなく、いつもダラダラと怠そうにそろばんを弾いていた。
私はこの小嶋くんに髪型や服装の事でよくからかわれていた。
塾に行くのにも私は普段と変わらず、ぼさぼさ頭に毎日同じ服だったので、塾が終わると小嶋くんや小嶋くんと仲の良い男子達に
「ホームレス」
「フケツ」
などと色々言われた。
何度か体を叩かれる事もあったが、その度に私は負けじと小嶋くんを叩き返していた。
自転車で帰り道に追いかけられ「男女ー!」「フケツー!」と大声で言われて「うるせー!」と逆に私が小嶋くんを追いかけ回す日もあった。
★
そろばん3級が受かってすぐだったので、五年生の12月下旬だったと思う。
その日の塾が終わり、珍しく小嶋くんが買い物があるからと早く帰って行った。
いつも追いかけ回されていた仕返しにと、私はこっそりと小嶋くんの後をつけた。
商店街に入って行く小嶋くんに見付からない様について行くのは楽しかった。
まるで探偵みたいだ、と一年生の頃に読んだ江戸川乱歩の本に出て来る、明智小五郎や少年探偵団を思い出していた。
小嶋くんがスポーツ用品店に入ったのを見て、入り口からそろりと中を覗いたら、小嶋くんと目が合ってしまった。
(ちぇっ、見つかっちゃったか)
と、小嶋くんにニヤッと笑った。
小嶋くんは何だか不思議な顔でこちらを見ている。
(たんていごっこ、おーわりっ)
と、小嶋くんの顔の事は気にせず家に帰った。
翌々日の塾の終わりから、何故か小嶋くんが毎回私を待つ様になった。
★
初めの内は小嶋くんが私を『待っている』のに気付かなかった。
塾が終わって(小嶋のヤツ、今日もフケツだのなんだの言ってくんのかな)と思っていたが、何も言わずに小嶋くんは先に帰って行く。
(小嶋、また買い物かな?)と私も自転車に乗って帰ろうとすると、暫くして小嶋くんが塾の少し先の曲がり道のかどでウロウロしている。
「………よー」
「あれ?小嶋、どしたん?」
「……ん?………んー……」
「また買い物いくん?」
「……ん、いや、今日は買い物ない」
「??ふーん、帰んないの?」
「…………」
(なんだ?へんなヤツだな)と思った。
「…………」
「小嶋、帰るんでしょ?」
「……ん………高木、とちゅうまでいっしょに帰んない?」
「へっ?うん、別にいいけど…めずらしーね」
「……そっか?」
「うん、いつもだったら色々言ってくんじゃん。小嶋なんか今日おとなしーね」
「………いいから帰ろーぜ」
「???うん」
最初はそんな感じだった。
★
塾は月・水・金の週三回で、上級クラスは夕方の6時から7時までの一時間だった。
小嶋くんの後を(探偵みたいだ♪)とついて行った日の次の塾の日から、帰り道に小嶋くんがウロウロしているのが続いた。
その度に何故だか小嶋くんと一緒に帰っていた。
(小嶋、私のこと待ってたのか!)と気付いたのは、それから二週間程後の、年が明けてからだった。
冬休みが終わってすぐ、私はそろばんの暗算検定を受ける事になっていた。
塾の先生が
「今日は高木さんは検定なので、高木さん以外は7時を過ぎたら早く帰って下さい」
と、クラスの子達に言った。
勿論その子達の中には小嶋くんもいた。
検定時間は50分だったと思う。
暗算検定はすごく簡単だったが、どうしても受かりたかった私は見直し算を何度もした。
途中退席も出来たが、時間をギリギリまで使って見直しをしていたので、終わったら8時になっていた。
先生に挨拶をしてマフラーを巻き、出入口のドアを開くと、そこに小嶋くんが一人で立っていた。
「わっ!!ちょ、小嶋!?なっ、なにやってんの!?」
「検定終わった?」
「え、……うん、終わった…けど……」
「じゃあ帰ろーぜ」
(………な、な、……なんでこんなさむいのにこんな所に……)
そこで初めて私は気付いた。
「……小嶋、待っててくれたの……?」
「おう………ほら帰んぞ」
年明けすぐの夜の8時は空気もキンと音が鳴りそうなほど冷たく、風も強かった。
(……こんななかで一時間も待ってたの……)
★
自転車に乗って並んで走る。
いつも小嶋くんは何故か私の右隣りだ。
「……風がさ」
「ん!?」
話し掛けたが吹く風が強くて小嶋くんに聞こえなかったらしい。
「風がさー!強いねー!さっむいー!」
叫ぶ様に言い直した。
「つえーけど!そんなさむくねーだろー!」
小嶋くんも大きめの声で答える。
「さむいし強いよー!自転車すすまないー!」
「ガンガンこげばいーじゃん!」
「むりー!!」
ハンドルを握る小嶋くんの左手に私は自分の右手を乗せた。
思った通り小嶋くんの手は物凄く冷たかった。
「!?」
「小嶋、引っぱってってー!」
「………おっまえ………!」
「たのむー、引っぱってくりー!」
「………ラクすんな!しょーがねーなー!」
ぐんぐんと小嶋くんが自転車のペダルを漕ぐ。
「うわ!はやっ!バ、バランス……!」
「おい!こけんなよ!オレもこけるだろ!」
「………ぷははは!!こ、こわいー!あははは!!」
「……ぶっ!!はははは!!」
二人で笑いながらいつもの分かれ道に着いた。
★
小嶋くんは私と一緒に帰る様になるまでは、たまに塾をサボる事があった。
けれど私を待つ様になってからは、サボらず毎回塾にきちんと来ていた。
だからといって授業やそろばんに集中していた訳ではなさそうだった。
私はいつも教室の真ん中あたりの席に着いて、結構真面目にそろばんに打ち込んでいた。
早く2級に合格したくてバリバリとそろばんを弾いていると、時おり何処からか視線を感じる。
(??)と思って振り向くと、教室の一番後ろの席に着いている小嶋くんと目が合った。
小嶋くんはそろばんを弾く訳でもなく、ただじっと私を見ている。
そんな事が何度も何度もあった。
一緒には帰っていたが小嶋くんと付き合ってはいなかったし、好きだと告白をした訳でもされた訳でも無かった。
大体私は小嶋くんの事を好きなのかどうかも分からなかった。
小嶋くんの気持ちだって確認していないから分からない。
一緒に帰るのは楽しかったが、授業中の小嶋くんの態度に段々と困り始めた。
★
小嶋くんが先生に怒られる様になってしまった。
「小嶋!ちゃんとそろばんやりなさい!」と何度も言われていた。
小嶋くんに私から直接「練習しなよ!」や「ちゃんと授業聞きなよ」と注意もした。
が、「あー」とか「おー」とか言うばかりで、ちっとも態度を変えようとはしない。
一度、「ちゃんと練習しないならもう一緒には帰らない」と言ったら「わかった」と、暫くの間小嶋くんは授業をきちんと受けていたが、それも長くは続かなかった。
ただただ小嶋くんは授業中私を見ている。
いつも視線を感じて私はそろばんに集中出来ない。
(なにやってんだよ、小嶋……)
そんな風に思い始めた頃、小嶋くんと同じ小学校の土屋(つちや)さんに授業中こっそりと聞かれた。
「……高木さんってさ、小嶋の事好きなんだよね?」
★
私がいることで小嶋くんが授業に集中しないなら、と塾をわざと数回サボってみたりもした。
一緒に帰ろうと待っている小嶋くんを無視して一人で帰った日もあった。
そんな風に小嶋くんを避けていたが、変わらず小嶋くんは授業中に私を見続けていたし、帰りも待つのを止めなかった。
(私のためだけに塾にくるなんて!)と、ほんのちょっとの申し訳なさと結構な怒りでピリピリしていた頃だった。
またその日も私は教室の真ん中辺りの席に着いていた。
私の後ろの席には、塾で一番そろばんが出来る土屋さんが座っていた。
いつもなら土屋さんはもっと前の方の席に着いているはずなのに(珍しいな)と思った。
授業が進み、問題集を解く練習時間になった。
パチパチと教室内にそろばんを弾く音が響く。
私も2級の問題集を解いていた。
暫くしてツンツン、と背中をつつかれた。
(ん??)
そろばんを弾く手を止めて振り向く。
土屋さんがニヤニヤしていた。
「…なに?」
小声で聞くと土屋さんも小声で言う。
「…高木さんってさ、小嶋の事好きなんだよね?」
突然そう言われてつい大きな声で答えてしまった。
「好きじゃないよ!」
(あ、ヤバい…)
すぐに(失敗した!)と思った。
★
「えっ?好きなんじゃないの?小嶋と付き合ってるんでしょ?」
「………つ、付き合ってないよ……」
「えっ、好きじゃないの?」
「………そういうんじゃ………」
なんだか頭がクラクラした。
(好きじゃないとかじゃない。けど……)
「そこ!!喋るな!練習!!」
先生に注意されてしまい、また私は前を向いた。
(ヤバい、好きじゃないって言っちゃった……、ヤバい……)
次の塾の日、小嶋くんは教室に現れなかった。
(またサボりかな)と思ったが、小嶋くんはその次も、またその次の回も塾に来なかった。
さすがにおかしいと思い、授業が終わってから先生に聞いた。
「あの、先生…。小嶋カゼひいたとかですか?来てないけど…」
「ああ、小嶋君、先週辞めたんだよ」
「!?え、なんで!?」
「お家の人から電話が来て、小嶋君が辞めたいって言ったらしくて。元々やる気も無かったみたいだし、仕方ないね」
「……………!!」
それから二度と小嶋くんに会う事は無かった。
私にとってあれが初恋だったのかどうか、正直今でも分からない。
けれど小嶋くんが塾を辞めてから暫くの間、なんて私は馬鹿なんだろう、と自分を責めた。
あの時、土屋さんに聞かれて
「うん、小嶋のこと好きだよ」
と言っていたら。
いくらそんな風に考えてももう取り返しは付かないし、小嶋くんを酷く傷付けたのもどうにも出来なかった。
段々とそろばんがつまらなくなってきた。
塾をサボる様になった。
2級の試験を受けたが落ちた。
そうしている内に六年生になった。
★
小嶋くんの事を引き摺ったまま六年生になった。
そろばんへの熱意は四、五年生の時に比べてガクンと下がった。
塾には行ったり行かなかったりだ。
なんとなく学校でも前の様にボーッとする時間が増えた。
ファミコンと読書は変わらずしていたが、余り楽しいと思わなくなってしまった。
なんだか自分はこの世の中でたった一人になってしまった様な気がしていた。
元々一人でいるのには慣れていた筈なのに、妙に孤独感を感じる。
ボーッとしながら自分は自分からどこまで行っても脱け出せなくて、それは誰でも同じなんだろうなと思っていた。
(人間ってすごく不自由なんだな)
前から考えていた事だったが、その思いが何故か強く頭の中にあって離れなかった。
呆けていても時間が止まる訳ではないので、授業の準備や班決め、クラス委員や係決めなどで忙しかった。
そんな中、私が六年生になってから新しい部活が出来たと聞いた。
演劇部だ。
(男の子の役とか出来るかな?おもしろそうだな)と演劇部への入部を決めた。
まだ心の何処かに、幼稚園生の頃に思った(カッコいい王子さまになりたい!)という気持ちが残っていたみたいだ。
★
演劇部に入ったはいいが、そこは私の思っていた部とは大分違っていた。
私がイメージしていた「演劇部」は衣装を着て舞台で役を演じるという物だった。
けれどその部で実際にしたのは、低学年のクラスを回って紙芝居を読んだり、指人形劇をしたり、といった感じだった。
(これのどこが演劇部なんだ?)と、入部して暫くは不満を抱えていたが、段々と(これはこれでおもしろいかも)と思い始めた。
声だけで演じるのも楽しかった。
抑揚を付けてセリフを言うと、低学年の子達は興味深そうに紙芝居や人形劇を見てくれる。
たまに外す時もあったが、大まかウケは良かった。
私は一度何かにハマるとそれ以外が余り目に入らなくなる方で、どんどんと演劇(?)にのめり込んでいった。
夏休みは人形劇で使う指人形の製作に費やした。
夏休みが開けて二学期になり、クラスで席替えがあった。
その時初めて自分のクラスでまたいじめが起こっているのに気付いた。
★
元々私は興味の無い物事や人の名前を覚えるのが苦手で、席替えで隣の席になった男子の名前を六年生になるまで知らなかった。
隣の席になった男子は渡瀬(わたせ)くんという子で、余り普段目立つ感じの子ではなさそうだった。
と、言っても私が気にしていなかっただけかも知れない。
私はその時に渡瀬くんを間近で初めて見たのだが、(渡瀬くんってカッコいいな!)と思った。
顔ではなくて髪の毛が、だ。
渡瀬くんの髪はクルクルとした縮れっ毛で、所謂天然パーマというものだった。
ちっとも変だとは思わず、むしろその髪がちょっと羨ましくも思えた。
席替えが全員済んで休み時間になったとたんに、クラスの男子数人が渡瀬君の机回りに集まってきた。
(なんだ?)と思っていたら男子達が
「渡瀬ー!一番うしろの席かよー!バイキンだからちょーどいいな!」
「バイキン、もうずっとそこいろよー!」
などと言ってゲラゲラ笑う。
(バイキン??)
少しの間、意味が分からなかった。
(バイキンって………、ん?ばい菌?)
渡瀬くんを見ると無表情で下を向いている。
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