黒百合女学院中等部 恋の時間割
ここは古くから在る街の山手地区。大通り奥の細道に入れば、昔からの武家屋敷や豪商の町屋が今なお残っている街。
そんな街に物語の舞台、黒百合女学院の大学を除く幼初等部・中高等部の集まる、黒百合女学院山手校はあった。無論、ここはお嬢様学校であり、女子校である。
その黒百合女学院山手校の正門がある大通りは、裏手の大規模団地を降りきった、この山手地区の繁華街でもある。
そんな通りに面した半地下の喫茶から通りを見ると、一人の幼女が歩いている。
18/07/20 16:12 追記
主人公は物語開始時まだ小学生です。初恋の人に幼稚園時代に出会い、中学時代に再会し・・・と主人公や主要登場人物の幼稚園時代や大学生時代に話を飛ばしながら物語は進みます。
二つに分けて書いていたのを、一つにまとめた物語にしたほうがいいかな?と思ったもので。再構成しつつ書き損じを訂正しながら書き加えていくものです。
18/07/23 17:43 追記
この物語はわたしが小学生時代から書いていた日記や記憶、同級生らとの思い出話による、ほぼ実話です。もちろん個人特定されないようにしていますが。
物語は「初等部篇の恋のエスケープの時間」から始まっています。
わたくし、普段はミクルにしかいないんですが、大人ミクルに入り浸りしているであろう、我がエロ姉氏と違い、文才も画才もありませんので、クレームは受け付けません。
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>> 50
《イクまでイケません!の時間の後編》
姉の緑のせいで高熱なのに、ママの言うことに背いてお布団から抜けだし、エロ同人漫画の資料を緑に届けに行くハメになっているあおい。鬼のように激怒してるママの顔が目に浮かぶ。
今までの第一関門と第二関門はクリアできた。が目の前の第三関門はレベル高すぎて、途中にある本屋さんの前にはパトカーがいた。
でも、あおいには味方がいた。と言うよりは・・・。自分自身を悪魔だと自覚するあおい、用意は周到万端だ。取り出したのは、眼鏡とマスクそしてリバーシブルの帽子だ。
隣に住む仲良しの剛くんに、「おとこ女」と言われるまでは、男の子っぽい格好が大好きで、男の子っぽくいつも帽子をかぶっていた。最近はさすがのあおいも思春期突入で、女の子らしくと、この帽子はめったにかぶらなかったが。
でも、持っていて良かったと、早速に眼鏡とマスクをし帽子を被る。そうして、田中のおじちゃんに見つかりませんようにと、俯き加減で歩き出す。
お巡りさんしてて、おじいちゃんの元生徒の仲良しの田中のおじちゃんの勤めるパトカーの停まってる書店、第三関門まで、距離は少しずつ縮まっていく。
パトカーのドライバーシートに座ってた、田中のおじちゃんの部下であろう、イケメンな優しそうなお巡りさんは、下校中の小学生としか思わなかったのだろう。ニッコリと優しそうに微笑んでくれた。その車内に田中のおじちゃんはいない。先に降りて書店の中だろうか。
うまく田中のおじちゃんという第三関門をクリアできた!と、安心も束の間、あろう事か書店の向かいのおもちゃ屋さんから出てきたのは・・・
>> 51
姉の緑のエロ同人を書く資料、えっちな物たちをランドセルに詰め込んで届ける途中のあおい。その途上の書店には、おじいちゃんの元生徒の、仲良しの田中のおじちゃんの勤めるパトカーがいた。それでも
田中のおじちゃんという第三関門をクリアできた
そう思ったのも束の間、書店向かいのおもちゃ屋さんから出てきたのは、同級生のカネコ。いじめられっ子気質みたいな大人しい性格に似合わない大きな声で
「あおちゃん、こんなとこで何してるの?。ちゃんと寝てないと風邪が治らないよ?」
と来た。超優等生な真面目で純真無垢の、性的なことには、スーパーの四文字が三つは付きそうな奥手の天使なカネコ。このカネコだけはえっちな方面に汚してはいけないと、あおいと仲間たちは姉の緑のエロい本性とエロ同人執筆を、ひたすらにヒミツのナイショにしてきたのに・・・。
今のあおいはランドセルの中身がえっちな物ばかりだから。
さらに悪いことに、さっき自慢の駿足で振りきった、仲良しの剛くんが、やっと今あおいに追いついて
「あおい~なんで逃げるんだよ!。おまえ、走るの早すぎ!」
と来た。ランドセルがえっちな物で満載状態な、事情が事情なあおいは逃げるしかなく、それなのにカネコや剛くんが
「あおちゃん、待ってよぉ!どこ行くの?待ってよぉ!」
と大きな大きな声を出すものだから、ついに恐れていたことが
「あれは師匠のお孫さんのあおいお嬢様だ!」
あおいがいちばんに警戒していた、お巡りさんしてる田中のおじちゃんに気付かれてしまった。しかも悪い方向に。
「あおいお嬢様が万引き?!」
そう勘違いした田中のおじちゃん、いや、田中のお巡りさん、警察官モードスイッチオンして、あおいが振り返ると、目が追いかけっこ戦闘モードになっている。
「そこの小学生、止まりなさい!。あ、違う。あおいお嬢様、お止まりください!」
なんて叫んじゃうものだから、読者好きなあおいがいつも寄り道してる、仲良しな本屋さんまでが、あおいが万引き?と追いかけてくる。
なんで?何でなのよ?!
わたし、なーんにも悪いことしていないのに!
お姉ちゃんの忘れ物を届ける、良いことをしてるのに、何で?
なんでわたしが追いかけられなきゃいけないのよ?
必死に逃げるあおい。
>> 52
姉の緑がエロ同人誌なんか書くから
「なんで?。なんでみんながわたしを追いかけてくるのよ?」
「わたし、なーんにも悪いことしてないのに!。むしろお姉ちゃんの忘れ物を届ける良いことをしてるのに!。」
と、姉の緑が
「同人誌の資料忘れたから持ってきて!」
と頼んだせいでランドセルがえっちな物だらけで、姉妹同然の親友カネコからも、好意持ってる剛くんからも逃げるハメになり、仕舞いには万引きと勘違いされ、お巡りさんしてる仲良しな田中のおじちゃんからも、馴染みの本屋さんからも
逃げるハメになってる、可哀相なあおい。
しかし、朝に夕に道場で毎日のように走り込みしていて、しかも元が駿足のあおいは超小柄な体も幸いして、隠れながらも見事にみんなを振りきった。
それでも、あおいの脳裏に
「黒百合女学院初等部生徒の赤井あおい、エロ本を万引きで逮捕。なんと彼女のランドセルはエッチな物が満載!。エロ幼女出現か?と地元ロリコン大歓喜!」
な、ニュースのシーンや新聞の見出しが嫌でも頭に浮かんでくる。
もう喉もカラカラで、高熱の身で全速力疾走しまくったせいか、フラフラしてきて、汗も冷えて寒気がひどい。そんなとき、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきて
「わたし、死ねない!」
「行き倒れたら新聞になんて書かれるか、わかったもんじゃない!」
「⭕⭕市のお嬢さま赤井あおい、行き倒れの謎の死!。なぜか彼女のランドセルはエロ本ばかり!。エロ幼女出現か?」
なんて、絶対に書かれたくない!。わたし死ねない。お姉ちゃんの大学に着くまでは・・・
お姉ちゃんの大学にイクまでは絶対にイケないっ!と、最後の力を振り絞り歩き出す。
>> 53
どこかで救急車のサイレンが響く。姉の緑のせいでランドセルがえっちな物で満載のあおいには、あるニュースシーンが嫌でも頭に浮かんでくる。高熱の身で全速力疾走しまくって、体力限界のフラフラだから。
「⭕⭕市のお嬢さまの赤井あおい、行き倒れて謎の死。なぜか少女のランドセルはエロ本だらけ。エロ幼女出現か?」
「なんてこと、絶対に書かれたくない!。わたし、死ねないっ!」
「お姉ちゃんにこれ届けるまでは・・・お姉ちゃんの大学にイクまでは絶対にイケないっ!」
最後の力を振り絞り歩き出すあおい。しかし高熱ゆえ朝ごはん食べられず、しかも超小柄ゆえ皮下脂肪が全くないかのようなあおい、高熱と血糖値低下による体力の限界はどうしようもなく、つい交差点の信号を見落とした。
赤信号の横断歩道上のあおいに突っ込む車。ブレーキ音とクラクションが響く。
「バカ野郎!気をつけろ!」
幸いに事故回避したドライバーの罵声があおいにぶつかる。横断歩道の向こう側にへたりこむと、あおいはもう歩けない。
が、さっきのクラクションにびっくりして近くの喫茶店から出てきたのは、あおいが幼稚部時代から懐いて甘えている、黒百合女学院高等部の倉橋しおり先輩だ。彼女はあおいの姉がトンデモなエロ同人女なのを知っていて、いつもあおいの味方をしてくれる人で。
「しおりお姉ちゃんだぁ」
安心したあおいは力尽きて気を失ったが、そこにいたのは、しおりに憧れ、さっきの喫茶店で勉強をしおりに見て貰っていた、黒百合女学院中等部の春日井まなみ。
「憧れの愛しのしおり先輩に抱っこされてるこの小ちゃい子、いったい誰よ?」
激しくヤキモチを妬くまなみ。もちろん百合の意味で、である。
《絶対零度なクリスマスの時間》
姉のように優しいしおり先輩に抱かれ、安心して気を失うあおい。しかし、しおりの側には
「憧れの愛しのしおり先輩に抱かれてる、この小ちゃい子は誰よ?」
と百合の意味でヤキモチを妬いているまなみがいた。もちろんノーマルなしおりには、そんなまなみの気持ちはわからないのだが、このまなみは黒百合女学院の一番の鬼教師の黒木良枝先生のクラスの子で。
そんな百合な嫉妬から、緑が早くもエロ同人活動再開し、高熱に寝ていた妹のあおいにエロ同人の資料を運ばせたことが、その日のうちに黒木先生の知るところとなり
「あの日、エロ同人活動がバレた赤井緑の処分を、妹の赤井あおいの正論に、学長が処分を免除されたのに、喉元を熱さが過ぎるまえに早くもエロ同人活動再開するとは怪しからんっ!」
と、なってしまい話がストレートに上に上に上がってしまって。
「あおいっ! あんたが間抜けだから停学喰らったでしょうが!」
「元を言えばお姉ちゃんが教育学部のくせに、初等部のゆかりちゃんや美佐ちゃんにエロ同人くれてやるからでしょっ!」
「なんですってぇ!お姉ちゃんにナマイキ言うのはこのお口?」
「何度でも言うわよっ!。あの日はちゃんと庇ってあげたのに、ほとぼり冷める前からエロ同人活動再開したのはお姉ちゃんでしょ!。自業自得よっ!」
「なんだってぇ?やるか?!」
「道場サボりまくりのお姉ちゃんがいつまでもわたしに勝てると勘違いしないほうが身のためよ!」
こんなわけで久々の武術家の娘同士の乱闘の末、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋が地元に帰ったときには、クリスマスなのに絶対零度な冷戦の壁が二人の間に築かれてしまったのだ。
それだけではない・・・
>> 55
赤井家の道場のクリスマス会。緑とその妹のあおいは冷戦の真っ最中で。二人の間で頭を抱えてるのは真鍋だ?
それというのも
緑のエロ同人活動がまたも学園側にバレてしまい、停学喰らった緑。しかし、その原因が小学生の妹のあおいにエロ同人の資料を運ばせたゆえなのに、あおいのせいにしてしまった緑。
もちろん責任転嫁されたあおいは激怒してるわけで。
それだけではない。緑が停学喰らったあの日
姉も同然な黒百合女学院高等部のしおり先輩に抱きしめられ、安心して気を失ったあおい。その側には百合の意味でしおりに憧れるまなみがいて、そんな百合なヤキモチから・・・。
緑が帰郷する真鍋とデートするのを妹のあおいにナイショで企んでいる。それをしおりから聞いたまなみ。しおり先輩をあおいに取られたくない!の百合な邪心から、まなみはあおいの耳にそれを吹き込んでしまって。
想い人の真鍋を緑に奪われかけているあおいは、緑と真鍋のデート中の、あと一歩で記念すべきファーストキスな雰囲気に突然現れ、二人の甘い雰囲気をぶち壊したからだ。
そんな絶対零度な二人の雰囲気にオロオロする真鍋。自分の老師つまり緑とあおいの祖父からは
「瞬くん、みんなの楽しいクリスマス会をぶち壊してるコイツら、放っておきなさい!無視するのが一番の薬だよ!」
とは言われたものの、鬼瓦いや宇宙人顔にしては人がいい真鍋は放置出来るわけもなく
「な、なあ緑、お前の欲しがってたバッグ。クリスマスプレゼントだよ~!」
「あおい。、お前が大好きなチョコレートたっぷりの栗のクリスマスケーキだよ~欲しがってたゲームソフトも買って来たよ~!」
「お前ら、むくれてないで楽しくパーティしようよ!」
と、声をかけてみても、二人はツーン!として相手もしてくれない。それどころか
>> 56
「緑もあおいも喧嘩しないで楽しくクリスマスしようよ!」
と責任感強い真鍋は声をかけるも、二人はツーン!として相手してくれるどころか、振り向いてもくれない。それでも辛抱強く説得してると、先に反応したのは、つかキレたのは短気なあおいだ。
「だってえ、お姉ちゃんみたいな下品なエロバカ同人女がいるパーティなんか、参加しても楽しくないもんっ!」
「それよりお兄ちゃん、こんなエロ女なんか捨ててぇ、わたしの彼氏になってぇ!。元はと言えば、お兄ちゃんはわたしを選んでたんだから!。」
と、あおいは緑に聞こえよがしに当てつける。それに負けじと緑まで
「瞬くんはロリコンじゃないもんね!。あおいみたいなオシッコ臭いパンツの小娘なんか、瞬くんの好みじゃないもんね。」
「今の婚約者のわたしとお転婆小学生、瞬くんなら選ぶのはわたしだよねっ!。」
こんな具合に真鍋は見事に冷戦に巻き込まれてしまう。
またかよ!なんでコイツら姉妹は水と油なんだよ?!と思う真鍋。しかし考えてみれば
ボーイッシュなトンデモなお転婆娘だった、男の子そのものみたいな緑を、少なくとも見た目はお嬢さまらしい女らしい女の子な緑にしてしまったのも
泣き虫で、裕福な末娘あるあるな、お姫さま暮らしをしていた、お嬢さま育ちのあおいを、お転婆イタズラ大好きで勝ち気な男の子らしいボーイッシュな女の子にしてしまったのも
真鍋自身の六年前のあの日の不用意なる一言が原因で、それを聞いてしまった二人。あの日から二人の性格は真逆になってしまったのだ。
>> 57
自分を取り合う緑とあおいの冷戦に頭を抱える真鍋の、これは回想シーンである。あれは六年前・・・。
緑とあおいの姉の藍子。元々はあおいの赤井家と自分の真鍋家の間の約束で、自分の知らぬ間に藍子が許嫁にされていたのだが、六年前のクリスマスにあおいを黒百合女学院幼稚園に迎えに行った藍子は、あおいの目前で轢き逃げ事故死した。
多忙だったあおいの母の桃子に代わり母親代わりしていた藍子が目前で即死のショックであおいは失語に陥った。それを見かねた真鍋は毎日のようにあおいの遊び相手をしていたのだが・・・。
このときはまだ、緑もあおいの姉を姉らしく真面目にしていて、その緑も失語状態のあおいを見かねて
元々が超絶に勉強嫌いな、お受験した小学校に中学校すべて不合格ゆえの公立中学の緑は高校進学のつもりなどさらさらなくて、緑もなんとかなるさと軽~く進路を考えていたのだが
あおいを守るために!と一念発起、外部入試では超絶難関の黒百合女学院高等部進学を決意した。
あおいの幼稚部から内部エスカレーター進学予定の黒百合女学院初等部と緑が進学決意した黒百合女学院中高等部は、同じ敷地に隣接ゆえに失語状態の妹を何が何でも守りたいと。
それを緑から聞いた真鍋。緑の超絶最悪最低なる成績では名門の黒百合女学院への外部入試合格はとうてい無理筋と知る真鍋は、自分は教師志望でもありで、緑たちの祖父に自分が緑の家庭教師をすると志願したのだった。
緑の努力、いや、万年劣等生だった緑に必死に勉強を叩き込む真鍋の必死の努力で、緑は見事に超絶難関なる黒百合女学院高等部外部入試に合格した。
これはその頃のお話。
>> 58
「瞬くんよどうだい?。うちの緑も君を好いてるし、むかし両家で決めた婚約話なんだが、正式に婚約ってことで。」
と真鍋に語ってるのは緑とあおいの祖父の晋太郎だ。真鍋は緑に勉強を教えに来て、自らを癌と知る晋太郎に捕まってしまったのだ。その肝心の、幼いとき、つか生まれる前に両家で婚約を決められていた本人たち、緑とあおいは
緑は無事に黒百合女学院高等部に入学して部活でまだ帰ってなく、あおいも無事に同じく黒百合女学院初等部に内部進学して、親友のゆかりの誕生会に夕飯お呼ばれで、これもまだ帰ってなくて。
晋太郎は話続ける
「いやね、君のお祖父さんとは互いに孫が産まれたら結婚させる話をしていたのは知ってるね?」
「うちは藍子は事故で死んだけど、まだ緑もあおいもいる。べつに二人を貰ってくれ!ではないんだよ、一人でいいんだ。それに今すぐ教会で結婚式せい!でも、今すぐ婚約式せい!でもないんだ。」
「緑のお転婆には手を焼いてるんだよ。このじゃじゃ馬は今日も高等部で派手に喧嘩やらかしてねえ。」
「緑は君が好きなようだし、君も緑の面倒をよく見てくれている。お似合いと思うし、恋人が出来たら緑も少しは女の子らしくすると思うんだよ。」
「現に君の前では借りた猫よろしくおとなしくしてるだろ?」
晋太郎の長~い口説き文句に絶えられずに、ついつい
「困ります。僕はまだ高校生ですし進学予定なんです。僕の大学生生活の青春がなくなっちゃうじゃないですか。」
「確かに僕はハキハキしていて清々しい竹を割ったような緑さんは好きです。でもそれより女の子らしい大人しいあおいさんのほうがもっと好きです。今すぐの話ではありませんが。」
と真鍋。
>> 59
孫娘、緑のあまりの男勝りなお転婆ぶりに手を焼き、緑を真鍋に押し付けくっつけ結ばせようとする、あおいの祖父の晋太郎。その長~い口説き文句に耐え切れず、ついつい
「確かに僕は緑さんは好きです。竹を割ったようにハキハキしてハッキリしていて清々しいですから。でも、実は僕は女の子らしいおとなしい、妹のあおいさんのほうが好きなんです。」
と言ってしまった真鍋。
まさか、まだ小学一年生の孫のあおいと自分を晋太郎がくっつけるはずがない!と読んでの、婚約までの時間稼ぎの口実なのだが。
確かに真鍋は緑を愛し恋している。優柔不断なる真鍋にとって、竹を割ったようにはっきりした緑の性格は心地好いからだ。でも大学に進学して、世間一般の考える大学生生活を満喫したい真鍋は緑とは結婚したいが、それは自分と緑が大卒してからの話なのだ。
まあ、心の底では緑の性格にほんの少し、あおいの女の子らしさお嬢さまらしさがプラスされたら言うことナシなのだが、それを言えば緑に殴られかねないのて内緒である。
ともあれ
真鍋の「普通に大学生生活したい」の言葉に腕組みしている晋太郎。
「確かに立派な社会人になるためには大学での勉強も大学生生活の青春も大切だよなあ。」
「でも瞬くん、もう少し緑と仲良くなって、女の子らしくおとなしくせい!と、これは君からも言ってやってくれ。頼むよ。」
そうこうしているうちに、部活から帰宅した緑が黒百合女学院高等部の清楚な制服からTシャツとショートパンツに着替えて来て
「それでは緑さんの勉強を見ますので」
と、緑の勉強を見るべく二人で緑の部屋に行ってしまった。
>> 60
「なあ、緑、お前パンツ見えてるぞ」
そう言うのは
♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら言える
思考回路はショート寸前
今すぐ会いたいよ♪
とセーラームーンのコスプレの超短いスカートで歌いながら踊る緑を眺める真鍋だ。万年劣等生の緑も最近は努力の甲斐あって成績も上がり、これで恥じらう乙女のように女の子らしくなれば言うことナシなのに・・・と思いつつ。せめてブルマくらい履いてパンツ隠せ!と思いつつ。
緑のお部屋で三時間、テスト勉強を見ていた真鍋。区切りのいいところで家庭教師の顔からボーイフレンドの顔になっている。
そのころ、親友のゆかりのお誕生会の晩餐にお呼ばれしていたあおいは、お風呂までご馳走になって帰ってきて
ママに二人を呼んで来て!と言われたあおいはそんな緑の部屋に顔を出す。
「瞬お兄ちゃん、ママがそろそろ勉強終わらせてうちで晩御飯食べてねって呼んでるよぉ」
と真鍋に「抱っこぉ!」と、ジャンピング抱っこで飛びつき貼り付く。そして真鍋に見られぬよう恋敵の、姉の緑にあっかんべーしながら
「お姉ちゃん、ママがねえ、晩御飯の前におじいちゃんに叱られて来なさい!だって。またまたのまたケンカ?。今日は何人殴ったの?。おじいちゃんカンカンだよ(笑)」
まだ初等部一年生のあおいに抱き付かれ、「甘えん坊め!」と言いながら赤井家の大きなダイニングに顔を出す真鍋。
「いつも晩御飯用意していただいてすみません」
と言いながら
- << 63 「お兄ちゃん、抱っこぉ!」 自分に一方的に初恋する、初等部一年生のあおいにジャンピング抱っこで抱き付かれ この甘えん坊め!と言いながら赤井家のダイニングに顔を出す真鍋。 「いつも晩御飯用意していただいてスミマセン」 と言いながら その声に振り向いたのはあおいのママ桃子だ。 「あらあら、あおいは今日も瞬くんに貼り付いて剥がれないのね。」 「あおい、もう遅いから歯磨きして寝なさい」 「はぁい!お兄ちゃんお休みなさぁい」 ダイニングを出るあおいを見送る二人 桃子が真鍋に言う 「瞬くん、いつもあおいと緑の面倒みてくれて有難うね。」 「あおいね、緑のお転婆に懲りたから拳法習わせるつもり、なかったの。まだまだ小さいしね。」 「でも去年藍子が事故で死んでからというもの、ますます内向的になっちゃって、初等部でいつもいつも泣いてるみたいなの。」 「だから瞬くんも来てるうちの道場、明日から通うの。瞬くん、明日から指導員見習いでしょ?。おめでとう。」 「瞬くんの初生徒、瞬くんの開門弟子というには少し早いけど、初生徒には変わりないのね。よろしくね。」 「いやーそんな、僕なんかまだまだ修業足りなくて。こちらこそ宜しくお願いします。」 と真鍋。 いつも素直で誠実かつ真面目な真鍋に、瞬くんカワイイと思ってる桃子は、真鍋をからかい半分に 「そうそう、瞬くん、おじいちゃんはああ言ってたけど、わたしはね」 「瞬くんには緑じゃなくあおいのお婿さんになって欲しいな~なんて思っちゃうのよね。気づいてる?。あおいは瞬くんに初恋で夢中なのよ。」 「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。あなたたちお似合いだから」
>> 61
「なあ、緑、お前パンツ見えてるぞ」
そう言うのは
♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら言える
思考回路はショート寸前
今…
「お兄ちゃん、抱っこぉ!」
自分に一方的に初恋する、初等部一年生のあおいにジャンピング抱っこで抱き付かれ
この甘えん坊め!と言いながら赤井家のダイニングに顔を出す真鍋。
「いつも晩御飯用意していただいてスミマセン」
と言いながら
その声に振り向いたのはあおいのママ桃子だ。
「あらあら、あおいは今日も瞬くんに貼り付いて剥がれないのね。」
「あおい、もう遅いから歯磨きして寝なさい」
「はぁい!お兄ちゃんお休みなさぁい」
ダイニングを出るあおいを見送る二人
桃子が真鍋に言う
「瞬くん、いつもあおいと緑の面倒みてくれて有難うね。」
「あおいね、緑のお転婆に懲りたから拳法習わせるつもり、なかったの。まだまだ小さいしね。」
「でも去年藍子が事故で死んでからというもの、ますます内向的になっちゃって、初等部でいつもいつも泣いてるみたいなの。」
「だから瞬くんも来てるうちの道場、明日から通うの。瞬くん、明日から指導員見習いでしょ?。おめでとう。」
「瞬くんの初生徒、瞬くんの開門弟子というには少し早いけど、初生徒には変わりないのね。よろしくね。」
「いやーそんな、僕なんかまだまだ修業足りなくて。こちらこそ宜しくお願いします。」
と真鍋。
いつも素直で誠実かつ真面目な真鍋に、瞬くんカワイイと思ってる桃子は、真鍋をからかい半分に
「そうそう、瞬くん、おじいちゃんはああ言ってたけど、わたしはね」
「瞬くんには緑じゃなくあおいのお婿さんになって欲しいな~なんて思っちゃうのよね。気づいてる?。あおいは瞬くんに初恋で夢中なのよ。」
「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。あなたたちお似合いだから」
>> 63
「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。」
「歳の差なんてきにしないキニシナイ気にしない。だいたい瞬くんとあおい、波長ピッタリ合っていて緑とよりはあなた、あおいとお似合いよ。」
「瞬くんも三代遡れば元はうちの一族で元武家の血なの。あおいの歳での婚約は昔はざらにあったんだから」
「瞬くんならあおいを貰ってくれても、緑を貰ってくれても、わたし安心だから。」
そう言うあおいママの桃子に真鍋は思う
真鍋は思う。
おいおい、さっき老師は
「瞬くんよ、緑を嫁に貰ってくれ」
なんて、俺と緑を無理矢理くっつけようとしたぞ。
今度は桃子さんがあおいを俺にくっつけるつもりかよ。
勘弁してくれよ。あおいはまだ小学生も一年生だぞ。
俺はまだ高校生なのに。俺、普通の大学生生活したいのに。
そりゃ緑もあおいも妹同然にかわいいし好きだけどさ。
確かに俺は緑の彼氏だけどさ、あおいが彼女でもいいけどさ、緑にしろあおいにしろ二人が大卒、せめて高卒してから決めてもいいだろ?
なんて内心は顔には出さない真鍋。でも時間稼ぎの口実に優柔不断なところのある真鍋は
「僕はお嬢様らしい大人しい女の子らしいあおいさんは好きです。でも、男の子っぽいハキハキしてる活動的な緑さんはもっと好きなんです。どちらかなんて、まだ決められません。」
洗面所で歯磨きして自室に戻るあおいは、真鍋のこの言葉を聞いてしまった。
お兄ちゃんの彼氏になるには、男の子っぽいお転婆になれば、お兄ちゃんはわたしに振り向いてくれるのね!
と決意してしまった。
一方、おじいちゃんに叱られている緑、おじいちゃんの口から
お前のお婿さん候補の瞬くんは、あおいのような女の子らしい女の子がお嫁さんに欲しいなんて言ってるぞ
と普段のお転婆なヤンキーぶりを叱られ聞いてしまい、緑は
緑は
瞬くんは女の子らしい女の子が好きなのね?。じゃあわたし、頑張って猫被りしてお嬢様キャラを演じきってみせるわ!
と決意してしまった。
あおいがお嬢様らしくないお転婆になってしまったのも
緑が大人しいお嬢様になってしまったのも
二人が水と油の姉妹になってしまったのも
全部、全部、全部、あの日の俺の言葉のせいだ!
回想シーンから我に返り頭を抱える真鍋であった
《梅宮サナ小学六年生の夏の百合のすれ違い》
未来のクリスマスで知り合う二人 あおいはまだサナを知らない
「ママー早く早くゥ!遅れちゃうよぉ!」
そう叫んでいるのは近県九県No.1のスーパーハイパーウルトラお嬢様のサナ。公立小学六年生だ。
ここはあおいの街から見ると、黒百合女学院山手校初等部のある大規模団地の山の反対側。
地方都市なので五十歩百歩であっても、新街ゆえにあおいの住む古街よりはるかに栄えている。そんな駅前。
「はいはい。サナ、慌てなくても映画は逃げませんよ」
そう必死にサナを追いかけ、落ち着かせようとしてるのは、サナのママだ。
この日は夏のアニメ映画祭で見に行く予定である。
本当なら超セレブ超バブリーなサナの家は、おつきの運転手が常時張り付いているのだが、運転手が体調を壊したのと、サナのあまりの世間知らずを心配したサナのママにより
社会勉強の社会体験で、サナの生まれてはじめての電車にこれも今から生まれてはじめての路面電車である。
路面電車を待つサナとママの二人は行列の中に庶民と化している
実はその行列のかなりうしろにはプールに向かうあおい、あおいたちがお泊りした従姉妹の高校生の紫蘭、そしてあおいの同級生カネコたちがいるのだが。
時間通りに来た路面電車。電車に吸い込まれる人々。
そこに
待てえ! その電車、駆るんじゃねえ!発車すんなよっ!
ガラの悪い声が響く
>> 65
路面電車に吸い込まれる人々。
皆がシートに座るのを確かめ、時間通りに走り出そうとする運転手。
すると、如何にもガラの悪そうな大声が車内に届く。
「その電車、待ちやがれ!。走るんじゃねえ!」
仕方なく走りかけた電車はドアを開ける。乗り込んでくる場違いな一人の男。
いや、場違いなのはこの男ではなく
近県九県No.1お嬢様なのに路面電車に乗っているサナ母子であり、これまた隣町の誰もが知るお嬢様のあおいとその従姉の紫蘭たちなのだが・・・。
無理矢理に電車を停め乗り込んできた、マナー最悪なるこの男。
駅の隣ビルの家電店で買ったのであろうラジカセを段ボールから取り出す。
ウオークマンサイズではない、机か棚かに置いて使う大きめのタイプだ。そして、電池とCDを入れヘッドフォンを。
ここまでは、誰もが新しい物は早く試したいものだからして、公共の路面電車の中でもたまには見る光景かも知れないが
場違いなのはこの男、ヘッドフォンから音が漏れ放題なことだった。
そして、梱包段ボールを離れた空席に投げ捨てガムを吐き飛ばし、煙草に火をつけ、缶ビールを口にする。
車内の誰もが彼の二日酔いらしき臭い、そしてそれにプラスされる煙草臭に白い目を向けるが、この男、チンピラやくざ風。
いい歳した大人たちは後難を怖れたか、口を閉ざしている。
そんな中、つかつかと歩み寄る女の子、制服からして高校生だろう。
>> 66
チンピラやくざ風のヘッドフォンから音が漏れ放題な男に、いい歳した車内の大人たちは口を閉ざしている。後難を怖れているのだ。
そんな中、つかつかと歩み寄る女の子。制服からして高校生だろう。
実はあおいの従姉の紫蘭なのだが、彼女は堪りかねて口を開く。
「ちょっとぉ!おじさん、いい歳してマナー悪すぎ」
「ラジカセうるさいのよ!。煙草にビール、臭いのよ!。ガム吐き捨てんな!。それにゴミ投げ捨てるんじゃないわよ!」
「何よ!その大股開きは。二人分座席を使うんじゃないわよ。」
「いい歳して不良学生レベルの頭なの?」
チンピラやくざ風のこの男
今まで肩で風をきって歩き、注意されたことなどないのだろう。
しかも若い小柄な女の子に言われ
逆にびっくりしたかのように一瞬だが口があんぐり状態だ。
でも、ナメられてたまるか!と思ったか、気を取りなおしたか
紫蘭を睨みつけると、大声を喚く。
「おい!ねーちゃんよ、そのうるさいは儂に言ったのか?」
「生意気な娘にはお仕置きしなきゃいけねえな!」
と言いつつ立ち上がり、
手を組み指の間接をボキボキ鳴らして威圧するが、
紫蘭は全く同じない。
そう、彼女はあおいの従姉。
つまり彼女もあおいと同じ武術家の孫娘。
修羅場は幾度と見て体験しておりチンピラなんか見なれている。
居合いを学び、日常的に本物の刀剣を振り回している、刃物なんか見馴れている紫蘭の静の気迫に押され、いや、圧されているのはチンピラのほうだ。
全く動じない紫蘭に痺れをきらしたチンピラ、形勢逆転を狙ったか紫蘭の手を掴もうとするが
別の小さな、本当に小さな手がそっと、すーっとチンピラに伸びる
>> 67
紫蘭と睨み合うチンピラ。全く動じない紫蘭に痺れをきらしたか紫蘭の手を掴もうとする。形勢逆転を狙ったのだ。
が、その寸前、紫蘭の手ともチンピラの手とも違う小さな手がチンピラに伸びる。
あおいの手がそーっと、すーっと
チンピラの座っていたシートに伸びて、チンピラのヘッドフォンにつながるラジカセのボリュームをー気にMAXにひねり回すと
ヘッドフォンの音が男には鼓膜も破れんばかりの爆音に変わった。
「ぎゃあっ!」
慌ててヘッドフォンを外す男。
「くっそう!ボリューム回した奴は誰だ!出て来い!」
男はキョロキョロするが、あおいは小さくて、男との身長差で男の視界に全く入っていない。タイミングを見計らうあおい。
電車が停留所に着くころ
男の目の前を小さな手のひらが、頭は目覚めてますか?と言うかのようにひらひらすると
「ちびを馬鹿にすんなっ!あたしだよっ!無視してんじゃねえ!」
あおいがそう叫ぶが早いか脚が動くが早いか
床からいきなり垂直に脚が伸びて生えたかのような、スカートがめくれるのが気にしないかのような蹴りが二発、男の顎を真下から捉えた。
中国武術の八極拳と螳螂拳の合成技の穿弓提脚だ。
男を停留所に蹴り出すと
「運転手さん、ドア締めてっ!」
あおいの言葉が終わらないうちに気を利かせた運転手はドアを締め電車を走らせる。
「くそちび!覚えてやがれっ!」
小学生に車外に蹴り出され、そう醜く叫ぶ男に思いっきりあっかんべーをするあおい。たちまち車内に拍手が沸き起こる。
>> 68
「くそちび!覚えてやがれっ!」
小学生のあおいに車外に蹴り出され、停留所で醜く叫ぶ男に思いっきりあっかんべーをするあおい。たちまち車内に拍手が沸き起こる。
が、紫蘭の雷があおいに落ちる。
「あおいっ!あんたは手が早すぎるわよっ!」
「話せばわかったかも知れないでしょ」
「闘うのは話が決裂してから!。あの人、弱かったじゃない!」
不満そうに口答えするあおい
「だってぇ、危ない人だったしぃ・・・それにわたし、手を出してないよ?出したのは脚だもん。」
「あんた・・・顔面蹴ったら手を出したのと同じでしょ!」
紫蘭のゲンコツがあおいの頭に落ちる
一方、この全てを見ていたサナ。
凄いっ!あんなに小さな女の子が、なんて格好いいの!
サナはあおいの隣に座っていたカネコに歩み寄ると、そっと話かけて車内の奥にカネコと移動する。
「ねえねえ、あなたたち、この街の子じゃないでしょ?」
「この辺じゃあまり見ない制服だもん」
「どこの小学校なの?」
『わたしたち黒百合女学院山手校初等部よ』
『今年夏服が今までのと変わったから知らない人多いけど』
「ええっ!あの名門の・・・」
「それでね、わたし強い女の子が好きなんだ」
「さっきもの凄いキック見せた子のこと教えて」
「わたし都小学校の梅宮サナよ」
『わたし桃井カネコ、あの子は赤井あおいちゃん』
『あおいちゃん、道場の子でとっても強いの。あんな小さいのに中学生の部の試合で優勝してるのよ。わたしをいつも庇ってくれるし優しいの』
「ふーん、わたし、あの子のこと気に入っちゃった。わたし中学は黒百合に行こうかなあ。」
「ねえねえ、お願い。住所教えてくれない?お友達になって欲しいの」
従姉の赤井紫蘭に叱られていたあおいは同じ電車に乗っていながら、このとき親友のカネコがサナと友達になったのを知らない。
この年、クリスマスにあおいとサナは、すれ違いの出逢いではなく顔を合わせて出逢うのだが、それは先のほんの少しだけ未来のお話。
この日の帰宅後、サナはママに興奮気味にお願いする。
ねえ、ママ、わたし中学は黒百合女学院行きたいの!お願いっ!
だって、だって、わたし好きな女の子が出来ちゃったもの!
《クリスマスのサナの百合な片恋》
954.955.956.957.....この石段、どこまで続くのぉ・・・。
果てしなく続く石段に喘いでいるのは
あの夏の日、あの電車で自分よりかなり小さい。でも、もしかしたら自分よりずっと強いかも知れない。
そんな少女に出逢い、一目惚れしてしまって
中学は黒百合女学院中等部に進学するんだ!と決意し、あの子に逢いたいと、その日から片恋にずっとずっと胸を焦がしてきたサナだ。
あれから四ヶ月。街はすっかりクリスマス色。
たまたま悪友と学校を抜け出したところ
とある教会のクリスマスコンサートのチラシを、優しいお姉さんの引力に引き寄せられたかのように受け取ってしまい
それをママに見せたら
「あなた、黒百合女学院に行きたいのよね?。あそこはクリスチャンスクールだから一度くらい入学まえに礼拝に行ってみたら?」
と背中を押されたのだ。それで石段と格闘しているのだ。
近県九県No.1のお嬢様とはいえ活発なサナ。
スポーツに空手に剣道が大好きで、普段は毎日の道場の走り込みすら嬉々として歓喜の顔で取り組む彼女だが
さすがにインフルエンザを拗らせ肺炎で死にかけた病み上がりの身だと息も絶え絶えなのだろう。ついつい
「なんで病み上がりのわたくし、こんなに歩かされてるの?」
「こんなに長い石段とは聞いてなくてよ。」
「うちの運転手の早川はどこでサボってるのかしらね。」
「おんぶくらいしてくれてもいいのに」
と呟きながら。
すると不意に木枯らしが。
「きゃっ!」
木枯らしについつい女の子の本能で、必死に両手でスカートを押さえたら帽子が飛んでしまった。悪いことに石段のかなり上のほうまで。
「あーあ、上まで登る理由が出来ちゃった」
>> 70
その前夜の赤井家では
と言うか、さらにその前夜、あおいの姉の緑は長電話している。
相手は緑の後輩、黒百合女学院高等部のしおりだ。
このしおり先輩を
実の姉の緑が恋のライバルだし、とんでもなエロ馬鹿姉なので、あおいが彼女を実の姉のように、お姉ちゃんと甘えきり慕っている。
もちろん百合の意味でなく
先輩後輩の意味で。姉妹の意味で、である。
緑がしおりと話している内容はだいたい
「向こうの塾の仕事、クリスマス休みで正月まで瞬くんが帰ってくるからデートしちゃうの。もしかしたらあたし、ファーストキス、瞬くんにあげちゃうかも・・・」
これをしおりと聞いていたまなみ
このまなみ、黒百合女学院中等部のまなみは
しおりに百合な恋をしていて
しおりがあまりにあおいを妹同然に可愛がるものだから
あおいにしおり先輩を取られちゃうと、勝手に思い込んでいる。
もちろんしおりもあおいもノーマルで
たまにふざけあってくすぐり大会しても
百合の意味での女の子同士のイチャイチャは興味ないのだが。
それはさておき、その情報を仕入れたまなみ、百合なライバル蹴落としたい邪心から表明上は仲良くしてるあおいに早速に電話する。
「ねえねえ、あおいちゃん、緑先輩は明日ね、真鍋のお兄ちゃんとデートだって。ファーストキスあげちゃうんだって!」
これを聞いたあおい
想い人の真鍋を緑に奪われかけているあおいは、瞬間湯沸かし器のごとくに怒りは一瞬にして沸点を超え怒りMAXだ。
緑と真鍋の記念すべきファーストキスな甘いデートに突然現れて、甘い雰囲気をぶち壊してしまった。
それだけでは怒りが鎮まらないあおい、半分怒りモードのままクリスマス会当日になり、怒りモードでそれに出ている。
合同クリスマス会当日。この日は黒百合女学院幼稚部から高等部まで年間に唯一、私服登校が許可されている日だ。
>> 71
今日は黒百合女学院の幼稚部と初等部の合同クリスマス会である。
黒百合女学院では年一度だけ
各校のクリスマス会の日のみ、私服登校が許されている。
羽織り袴に三つ編みで
はいからさんが通るになりきり自転車登校したあおい。
「おはよー!」
元気よくクラスの引き戸を開ける。
「わあーあおちゃんかわいい!」
「ゆかりもかわいいよ。そのドレス、綺麗ね。」
「あおちゃん、わたしのミニスカ、似合ってる?」
「美佐ちゃんかわいいサンタのミニスカね。」
そんな毎年のクリスマス会朝の日常
ゆかりはクラスでクリスマスの飾り付けをしている、想い人の待った先生にカネコや美佐と話しかける
「ねえねえ、松田先生、あおちゃんかわいいよね!」
「わたしたちの写真、早く早くぅ!」
振り向いた待った先生
「お、おう!おはよう。赤井は今日もかわいいな。」
だが、待った先生、カメラを構えながら何かイメージしたのか、お洒落してる女の子に口が裂けても言ってはならない一言を
「なんかあ、大正時代のはいからさんから羽織りを身ぐるみ剥がして着込んだ美少女強盗って感じ?」
あおいの機嫌を損ねて平手打ちされてを繰り返しても、この待った先生は女の子の心に鈍くて、学習しない天然なのだ。
姉のせいで前夜から怒りはMAXなあおい。当然のごとくに怒りの火に油を注いだ待った先生に
女の子に恥かかせるなんて最低!と
怒りのキックが待った先生の股間に的中する。
のたうちまわる待った先生にあおいの罵詈雑言
「ふんっ! わたしはねえ、代々うちの女の子は黒百合だから通ってるだけで、あんたみたいなネジ抜けた童貞がいるなんて知ってたら黒百合なんか通わないわよっ!」
待った先生ラブなゆかりだけが
「ひどいっ!お○ん○ん蹴るなんて、あおちゃんっ!わたしが待った先生とえっち出来なくなったらどうするの!」
そんな中ただ一人だけ待った先生ラブなゆかりが、女心にうとい待った先生を庇ってるのに、またもこの天然な待った先生、余計な一言を
「た、高田、誤解を招くことは言わないでくれ、あくまで俺は先生でお前は生徒だ。」
「先生ひどい!わたしが好きって言ったくせに!」
「結婚詐欺だぁ!」
泣き出すゆかり
>> 72
「先生、わたしのはだか見たくせに!」
「好きって言ったくせに!」
「先生ひどいっ!結婚詐欺だぁ!」
泣き出すゆかり
女の子に恥かかせるなんて最低!と
あおいにお○ん○んを蹴られた待った先生を
六年一組でただ一人、待った先生ラブなゆかりが庇って
「わたしが先生とえっち出来なくなったらどうするの!」
と庇っているのに
「誤解を招くことは言わないでくれ。あくまで先生と生徒だ。」
と待った先生がまたも女の子の気持ちに鈍い一言を放ったせいだ。
ゆかりのはだかを見てしまったのも偶然の事故であり
ゆかりを好きと言ったのも、優しいところが好きだからこのまま優しい女の人に成長してくれ、の一般教育論なのだが。
ともあれ、この騒ぎは初等部校舎と中等部校舎に挟まれたグランドで体育している中等部に筒抜けで、中等部いちばんの鬼教師の黒木先生が
「松田先生、いい加減に毎日のようにクラスで騒ぎを起こすのはやめてくださいっ!迷惑でしょうが!」
と怒りの形相で飛び込んでくる。
その黒木先生に六年一組全員のブーイングが。
「黒木先生、クリスマス会の日は幼稚部も初等部も何をしても先生に叱られないルールつか伝統ですよぉ!」
と、あおい。そう言われては引き下がるしかない黒木先生。
時は少し過ぎて1時間後
講堂で幼稚部と初等部クリスマス会が開かれている。
あおいは中央に設置されたテーブルのグラスを五つ取り、うちの二つにコーラを注ぎ、粉わさびを仕込んでいる。
さっき怒鳴り込みに来た黒木先生。中等部に侵入しイタズラするたびに捕まって説教される、その黒木先生。
そして想い人を奪いつつあるOB代表参加してる姉への
日ごろの仕返しにわさびジュースを飲ませるつもりだ。
これはグラスを配る係のあおいの、どの先生にどのジュースを配るか決める伝統の特権乱用。嫌われてる先生は毎年誰かが痛い目をみるのだ。
いたずら大好きな悪魔なあおいがグラス係と知り戦々恐々の先生たち
ちなみに優しい優しい優しい待った先生や学長と校長には、あおいはひっそりこっそり隠して持ち込んだワインを葡萄ジュースだと、グラス一杯だけプレゼントするつもりだ。
>> 73
山手校学長の挨拶で始まった幼稚部初等部合同クリスマス会。
初等部教頭の音頭で乾杯がなされたが、グラス係があおいと知る初等部の先生は、中々ジュースを口にしない。
嫌われてる先生一名には、グラス係からとんでも味のジュースが配られる伝統だし、何より今年はいたずら好きな悪魔なあおいがグラス係だ。
全員のグラスがとんでもジュースな可能性が有り得るのだから。
「先生方お飲みになりませんの?」
そう怪訝そうに聞いているのは中等部教師代表参加の黒木先生だ。
いや~喉が渇いて飲みたいのは山々なんですが、今年はグラス係があの赤井あおいですからなあ。
そんな戦々恐々な雰囲気の中
俺は嫌われてないぞ!と自信満々に初等部校長がグラスに口をつける。校長先生はセーフだった。
よかった。赤井に嫌われてない先生がいた。もしかしたらわたしも嫌われてないかもしれない。
そう思いながらも、中々グラスに口をつけない初等部教師を不思議がりながら黒木先生がグラスに口をつける。
いちばん嫌われていたのは、黒木先生だ。もちろんわさびジュースである。ジュースを口から吹き出してしまう黒木先生。
なんでわたしなのよ!
と、わさびが強すぎたか泣いている。
例年であれば、グラス係のターゲットは幼稚部と初等部の教師だが、クリスマス会当日は叱られない伝統を逆手にした、伝統をはみ出して中等部教師をターゲットに絞ったあおいによる、黒百合女学院いちばんの鬼教師の黒木先生への、日ごろの仕返しだった。
講段で黒木先生がジュースを口にしたのを確認したあおいが講段からマイクでアナウンスする。
「当たりが出ました!」
「グラス係による今年の貧乏くじ先生決定は」
「中等部の黒木先生でしたぁ!」
「あとは約一名のOBを除いて他の先生とOBはセーフです。」
「安心してね」
そんな頃
あおいに百合な憧れをもつサナはあの長い長い石段を克服し
黒百合の裏山頂上の公園に辿り着き
石段で歩照った体を北風に休ませていた。
>> 74
わさびジュースを黒木先生が口にしたのを確認した、クリスマス会のグラス係のあおいによる
「今年の貧乏くじ先生決定は黒木先生でした」
「あとはOG一名だけです。先生たちは安心してね」
とのアナウンスに今度はOGが戦々恐々とする。
嫌われてる先生にはグラス係からとんでもなジュースが配られる伝統が、今年はクリスマス会を手伝いに来たOGも対象になっているのを始めて知るのだ。
グラス係は十名だが、決定権を握ってるのはあおいだ。
そんなあおいが
「お姉ちゃん、ジュースをどうぞ」
昨夜までの緑への不機嫌はなおったかのようなニコニコ笑顔で、OG参加している姉の緑にジュースを注ぎに来た。
まさか姉の自分にわさびジュースは来ないと思っている緑。疑うことなく口にして吹き出してしまう。
「あおいっ!よくも姉のわたしに・・・待ちなさいっ!」
「わたしの恋を邪魔するからよ!」
逃げるあおい。
一方、黒百合女学院の裏山に辿り着いたサナ
歩いて来た石段を振り返ると、素晴らしい景色がひろがっていた。そんな景色を見ながら、石段に歩照った体を休めつつも、今朝のことを思い出している。
「ねえねえ早川さん」
話し掛けられているのは、サナのおつきの運転手の早川だ。
「このチャペルに歩いて行きたいの。道を教えて下さらない?」
『サナ様、それは叱られてしまいますので無理にございます。』
「どうして?ママには黙っててあげるから」
『そういう問題ではございません。サナ様は今までお一人ではバスや電車どころか、タクシーすらお乗りになられてないのが心配なのでございます。』
「失礼しちゃうわね。子供扱いはもうやめてよ。」
「わたくし、春には中学生なのよ!」
押し問答を繰り返したものの、結局、石段の下までは早川に送ってもらったサナである。
『この石段をお登りくだされば、頂上に公園がございます。あとは坂道をお下りくだされば、どの道をお通りになられても、そのチャペルに着くはずにございます。』
『車を停めて参りますので暫しお待ちくださいませ。地図を書いて差し上げますから。』
そう言うと早川は駐車場に向かった。
しかし待てども早川は来ない。駐車場が見つからないのかな?と、サナは一人で長い長い石段を登ったのだ。
>> 75
いろいろと思い巡らせている最中のサナ。
チャペルへの道を聞いたとき、運転手の早川は確か
『黒百合女学院山手校はこの山の麓にございます』
と言っていたわよね
チャペルに行くのをやめて、あのあおいちゃんのいる黒百合に行ってみようかしら?。あのうるさい早川がいない今は自由気ままに歩き回れるチャンスだわ。
そう思い始めると
あの夏の日、あの電車で出逢ったあの女の子
あんなに小さいのに、電車の乗車マナー悪い男を電車から蹴り出した強くて格好いい女の子の顔が想い浮かぶ。
あの日はあおいちゃんとはすれ違っただけだけど
一目で片恋してしまった、大好きなあおいちゃんに早く逢いたい。
ダメダメ!今日はママに言ったとおり、ちゃんとチャペルに行かなきゃ。わたくしが迷子になったら街をあげての大騒ぎになっちゃう。
そう思い出しながら公園になっている裏山の周辺を見回してみる。
ふーん、お洒落な公園にお洒落な団地ね。
あの日お友達になったカネコちゃんは、黒百合の裏山はわたしたちの遊び場って言ってたわよね。あおいちゃんといつも遊んでるんだ!って。
そう思って公園の中を歩いてると、小さな祠が目に入った。
歴史好きなサナはついつい歩いていく。
>> 76
「ねえねえ、君かわいいね!」
「君ぃ、どこの高校?」
「俺たち黒川高校だけど、バレー混ざらない?」
サナが公園内の祠の由緒由来を記す看板を読んでいると、そんなナンパの声がする。
振り返り自販機スペースを見ると
声をかけられて固まっているのは、あの日あの電車でお友達になったカネコ
サナがすれ違いに一目惚れして片恋する、あおいのクラスメートで親友のカネコだ。
クリスマス会が終わってあおいたちと遊ぶ約束でカネコは一人、一足先に来ていたのだ。
小学生にしては発育が良すぎて、誰がどう見ても高校生な顔と体型。
いつもいつも高校生に間違われてしまうカネコであるが、さすがに高校生にナンパされちゃうのは初めてで
外見は大人寸前な高校生でも、心はまだやはり小学生、性的な社会常識すらほとんど知らないカネコ。
高校生だ!怖いよぉ!
ナンパ断ったらわたし、どうなるの?
連れて行かれて殺されちゃうの?
そう思ってるのがわかるほどの困惑した怯えぶりだ。
あれは、漫画やドラマでよくあるナンパかしら?
ナンパって、世の中に現実にあるんだ!
そう思いつつも
カネコちゃん、高校生にナンパしつこくされて、怯えてるんだわ!助けてあげなきゃ!
でも、その前に頭を使うサナ
実はサナ、空手剣道優勝経験者であるが、猪突猛進のスピードで押しまくって闘うあおいと違い、知的に作戦を組み上げるタイプだ。
周りを見回してみる。
ふーん相手は三人ね。他に同じ制服の仲間はいないみたい。
公園内にも道路にも大人はいないから自分たちだけでなんとかしないとなのね。
アパートはあるけど昼間だから大人はいないかもしれないわね。
武器になりそうな物は濡らせばムチとして使えるコットンのスカーフとペンしか持ってないのよねえ。
でもジャングルジムが間に挟めば楯に使えそうで、入口の狭いトイレがある。トイレ入口に行ければ一対一と変わらないわ。
あおいちゃんの遊び場らしいし、黒百合学園の近くで黒百合の人が来てくれるかも知れないよね。
問題はカネコちゃんの足の速さだけど、文武両道の黒百合の子なら大丈夫でしょ
あとは戦術ね。
ママのお色気作戦、早川の仮病作戦、借りちゃうわ。
カネコちゃん助けてあげたらあおいちゃんは喜ぶかも。
なら助けてみせちゃうわ!
>> 77
ママのお色気作戦、早川の仮病作戦、この際だから借りちゃうわ。
夏休みにあおいとすれ違い、一目惚れし初恋してしまったサナ。
そのあおいの親友のカネコの危機に、悪い高校生を懲らしめると決めたサナ。
近県九県No.1お嬢様のサナ。普段は大人しいものの空手も剣道も優勝者。実は猫被りのかなりのお転婆さんなのだ。
その喧嘩手段は、頭を使う知性派。悪く言えば卑怯派。しかし自分より強いかも知れない、いや確実に自分より強いであろう、歳の離れた男子高校生と喧嘩するのは・・・初めて。
大丈夫か?
傍から見てる人がいれば
なんて無謀無鉄砲な小学生と思うはずである。
が、・・・
風邪なのに無理して長い長い石段を歩いたため、熱でフラフラになった病児をサナは装う。そして
そして、カネコをナンパしようとシツコク付き纏う高校生三人に話しかける。
「ねえねえ、カッコイイお兄ちゃんたち、わたくし風邪をぶり返して熱が出たみたいで苦しいの。」
「おまけに財布落として喉がカラカラで。」
「家に帰ろうと石段登ったらしんどくて熱くて」
「ねえ、お願い、あなたのジュース、分けてくださらない?」
と高熱にうなされフラフラ感たっぷりの千鳥足を装い抱き着く。
幼いころは子役してコマーシャルや地元ドラマに出たこともあるサナは、まぶしいほどの美少女だ。おまけにカネコと同じ優等生でしかも実年齢より大人びて見える。
カネコにナンパしていた高校生たちはサナに魅とれて、ついつい優しくなり油断を。
サナを椅子に座らせ、各々がジュースやらミネラルウォーターやらお茶やらを買い与える。
「ありがとう。お兄ちゃんたち優しいね。」
そう言いながらカネコに向かいウインクしながら、スカーフを水で濡らしつつ
「あっ!ハンカチもティッシュも落としちゃったみたい。カネコちゃん、持ってる?」
そう聞かれたカネコ
カネコは黒百合女学院初等部No.1の優等生である。初等部どころか中高部も大学部までも首席卒業するのでは?と、黒百合教師たちの期待の生徒だ。
電車で友達になって文通してるサナちゃんだ!
夏休みに一度しか会ってないにも関わらず、そう気づく。その上サナが口にしない意図を正確に把握した。
「ティッシュならトイレにあるかも!」
トイレに駆ける、否、公園から逃げ出すカネコ。
>> 78
「あっ!わたくし、ハンカチもティッシュも落としちゃったみたい。」
「カネコちゃん、持ってる?」
そうサナに聞かれたカネコ。
トイレに行く振りして、わたくしに任せて、ナンパにシツコクするストーカーもどきなこの男子高校生から逃げなさい!。
サナは言外にその意味で言っているのだ!今まで一度しか会ってないにも関わらず、スーパー優等生なカネコはそう気づく。
「トイレにあるかも!」
そう走り出したカネコに
「君ぃ、逃げないで待ってよ!」
高校生たちが逃がすまいと声をあげるが
サナは今度はお色気作戦を繰り出す。
「ねえ、お兄ちゃん、わたくしのジャケットの背中の首のとこのホック、外してくださらないかしら?」
そんなサナに気を取られた三人の高校生。ひとりが体を屈めてサナの背中に手を伸ばす。
その瞬間、サナは立ち上がり正面のひとりにスカーフを振った。
もともと護身のために四隅に五円玉を縫い付けてあるスカーフが、水に濡らされたことで、さらに重たいムチと化した。
目くらましの水しぶきを撒き散らしつつスカーフは見事に命中する。
「痛え!」
正面の男子高校生がそう声を上げる間もない瞬間
サナの背中のホックを外そうと、エッチな下心を出して身を屈めた右側のひとりに上段回し蹴りが。続けて背後のひとりに上段正拳が決まる。
「お兄ちゃんたち、わたくしもお友達もまだ小学生なのに、しつこくナンパした天罰と思ってね!」
サナはそう言葉を残して逃げようと駆け出すが、公園の出口を振り返ると、この三人と同じ制服を着た人たち何人も。
まさかお仲間?
サナがそう思う間もなく
「お前らそいつを捕まえろ!」
背後の三人が叫ぶ。
しまった!逃げられない!
そう思うサナ。しかし想定内だ。
一緒にいたカネコは逃げきっている。きっと黒百合女学院の先生やあの強いあおいちゃんも、お巡りさんも、来るのは時間の問題なだけである。
サナは全速力で、最初からの想定通りに入口の狭いトイレに向かう。狭い空間ならば敵が何人いても、一対一と変わらないのだから。
トイレに駆け込み、トイレにあった箒を構えるサナ。剣道にはハッキリ自信がある。
わたくし、この際は少し派手に暴れさせていただきますわよ。
そう覚悟を決めるサナ。
>> 79
一方、サナのおかげで窮地を脱したカネコは、一目散に団地の下にある自らの学校、黒百合女学院山手校初等部に急いでいた。
先生に
そして初等部のクリスマス会山手校高等部OGとしてお手伝い参加していた、親友のあおいの姉
黒百合女学院中央校大学部の緑に急を知らせ助けを求めるために。
文通しているお友達のサナ
来年度に中等部に学外入試での入学希望者のサナが
自分を身代わりにして逃がしてくれた
と、先生たちや緑、そしてその妹の大親友のあおいに伝えるために。
そんな時、初等部の裏山。団地の坂道を歩いて登って来たのは、クリスマスのデート待ち合わせに公園近くの喫茶店を目指していた緑だ。
「あら、カネコちゃん、血相を変えて、どうしたの?」
「緑センパイっ!お友達が大変なんです!高校生に!」
そう告げるカネコ。
「なんですってえ!。」
婚約者の真鍋の手前、表面上だけだが、いつも猫被りして大人しいお嬢様お嬢様な女の子してる緑。普段のお嬢様キャラから本性のヤンキー緑さまに豹変する。
このへんは、やはり中国武術家の孫だ。
その頃、団地上の公園トイレではサナが男子高校生と睨み合いの膠着状態だ。
男女共用の手洗い所で、入口の狭い女子トイレに箒を構えて隙を見せないサナを攻めあぐねている。
箒を掴み取ろうとするたびに、散々に小手を打たれ、お腹に突きを打たれで、散々な目にあっているのだが、女の子それも小学生に負けたなんて、しかも手加減されて負けたなんて
面子を壊されてなるものか!と粘っているゆえの膠着状態だ。
そして、ついにひとりが女子トイレ個室の小さな小さな窓から侵入するのに成功した。
背後の戸をそーっと開け忍び足で近づいた一人に、ついに両腕ごと羽交い締めにされてしまうサナ。
「今だ!飛び掛かれ!」
サナを羽交い締めにした一人がそう叫んだ瞬間
>> 80
サナを羽交い締めにした一人が
「今だ!飛び掛かれ!」
そう叫んだ瞬間の出来事だった。
サナの目にいくつかの煌めきが走ってトイレの床に落ちる。
その煌めきに男子高校生たちは
「痛っ」
と顔を押さえる。
床に落ちた煌めきを見ると、それは五百円玉サイズのコインだった。
それはただのコインではなく、コインの縁が念の入ったことに、まるで刃物のように研ぎ磨かれて鋭くなっている。
そして男子高校生の顔からは血の滴りが。
「こ、これは中国武術の暗器(隠し武器)の蘿漢銭!」
まさか、あおいちゃんが助けに来てくれたの?
そう思うサナに煌めきの主の声が喋る
「そうよ、蘿漢銭」
「金銭票(金偏)とも言うけどね」
そして、その主の甲高い叱り声が
「アンタたち、小学生相手に何やってんのっ!」
「あんた誰だよ!邪魔すんな!」
そう強がる男子高校生にその主は名乗る
「黒百合女学院、赤井緑様、参上!」
「その制服は元系列の黒川学園高校。よくも妹の友達を可愛がってくれたわね!。わたしを怒らせちゃって、覚悟は出来てるわね?」
可哀相に始めは男子高校生は悪くはなかった。ナンパにシツコク冴えしなければ、だが。
なぜならそれは、カネコが小学生にしてはあまりにも発育が良すぎたゆえの、カネコを女子高生と勘違いしただけだから。
しかし、カネコの小学生とは思えぬグラマーさに、ついついシツコクしてしまった上に、助けに入ったサナに、これまた美少女なサナへのエッチな下心から、サナのジャケットの背中のホックを外そうとしたり
その上、女子トイレに侵入してサナを羽交い締めにしてしまい。
誰がどう見ても、彼らのやらかした事は変質者の悪事
おまけに彼ら、緑の顔は知らなくても、彼らは黒百合女学院の昔は系列の黒川学園生徒だ。合同行事は年に何度かある関係で緑の武勇伝は伝わっている。
地面に頭を擦り付けんばかりな、そんな深いお辞儀を緑に繰り返し謝るしか、助かる術は彼らにはなかった。
そんなこんなを見て、自分が初恋したあおい、そのあおいの姉の緑に助けられたことに安心し、ヘナヘナとへたり込むサナ。
無理もない。まだ小学校六年生だ。
そのサナに駆け寄るカネコ
「サナちゃん!大丈夫?」
「ありがとう!本当にありがとう!」
へたり込むサナに抱き着くカネコ。
>> 81
へたり込むサナに駆け寄るカネコ。
「サナちゃん大丈夫?。それと、ありがとう!」
「カネコちゃん、無事に逃げてたのね。良かったぁ。」
そうしてサナは緑を見て、きちんと姿勢よく立ち上がり
「あおいちゃんのお姉さんですよね。わたくし梅宮家の長女のサナと申します。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」
「そして助けていただき、ありがとうございました。改めて母とお礼に御自宅に伺わせて頂けないでしょうか?。」
と丁寧にお辞儀をする。
サナの丁寧な挨拶に驚くと同時に感心する緑。緑もお嬢様だが、さすがに育ちが違い、サナはあおいと同年齢では近県九県No.1お嬢様なだけはある。
「あ、あなた、あの梅宮家の・・・こんな無茶してダメじゃない。」
「ところでサナちゃん、あなた、お家遠いのに、なんでここに?」
「わたくし、実は夏休みにあおいちゃんを見かけて、あおいちゃんが大好きになって。中学校からはどうしても黒百合に入りたくて」
「たまたま昨日、この下のホーリネス希望チャペルのクリスマスコンサートのチラシをいただいて。ママにそれを見せましたら、来年は黒百合に入るんだから一度は教会に行って体験なさいって。」
「そこの石段まで早川に送らせましたが、一人で歩いてみたくて、石段から歩いて参りましたが、たまたま仲良くなったカネコちゃんをお見かけいたしましたので。」
そんなサナに応える緑
「そうだったのね。うん、あなたにいいニュースを教えてあげるわ。あなたの目的地のチャペルは黒百合女学院の牧師のチャペルよ。」
「うちのあおいが好きだからと黒百合に入らなくても、毎週日曜日の朝に来たらあおいに会えるわよ。」
「でも、あなたなら難関の外部入試も楽勝でしょうね。少し早いけど可愛い後輩が出来て嬉しいわ。」
「ようこそ!黒百合女学院に!歓迎しちゃうわよ。」
「今日はねえ、幼稚部と初等部の合同クリスマス会してたのよ。まだお菓子残ってるからいらっしゃい。一緒に楽しみましょ。」
「あおいもまだいるはずだし、夕方からはチャペルのコンサートにあおいも聖歌隊で出るから、見て行ってあげてね。」
「ママと早川さんにはわたしから電話してあげるからね。」
黒百合の山手校の初等部に向かう三人。サナと緑とカネコはもう打ち解けている。
>> 82
サナとあおいの姉の緑にあおいの親友のカネコ、三人はもう打ち解けていて、黒百合の山手校の初等部への道すがら
「ねえ、緑お姉さんとカネコちゃん、わたくし、女の子なのに女の子のあおいが好きになっちゃったの、恥ずかしいからあおいちゃんにはまだ内緒にしてくださいね。」
「まだ中等部を受験合格したわけでもないし、まだあおいちゃんにそう言う勇気ないんですもの。」
と言うのはサナ。
「ん?。女子校だと女の子が好きな百合はよくあるのよ。恥ずかしがらなくても、みんなそんなに気にしないわよ。」
これは緑。サナはまだあおいの姉が同人エロ雑誌の作者とは知らないのだ。緑もそれはあおいに殺されかねないので言えない。あおいと冷戦の真っ最中なのだから。
そしてサナは
「カネコちゃん、あそこはあおいちゃんとの遊び場でしょ?。」
「あおいちゃんは?」
「あおちゃんはね、怖い怖い中等部の黒木先生にね、日ごろの仕返しだぁ!ってね、わさびジュース飲ませちゃったの。」
「初等部はクリスマスには先生にイタズラしても叱られない伝統なんだけど、中等部の先生にしちゃったから叱られてたよ。」
「たぶん、反省文を書かされてるかと。」
そこに緑が
「サナちゃんには悪いけど、あおいはね、わたしの婚約者の真鍋瞬さんに片想いしちゃってるの。」
「それで今日ね、瞬くんとわたしがデートするのを知って、やけ食いに走ってね。」
「食べ過ぎたぁ!なんて保健室で唸ってたわ。」
「可哀相に幼稚部の子たち、ご馳走をあおいにさらわれた子が出たの。」
「ケーキ1ホールでしょ、握り寿司三人前でしょ。チキン二人前でしょ。食い気に走り出したあおいはわたしが見ても怖いわよ。目が血走ってるもんね。」
これを聞いたサナ
「あおいちゃんは、ますますわたくしの理想のお婿さんです。」
「違うのよ、サナちゃん。あおいはあれでも女の子なんだから」
そう言う緑に
「もちろんわかってますぅ。でもそこが好きになっちゃったんです」
>> 83
カネコはサナに聞いている。
「ねえねえサナちゃん、あおちゃんに好きって言わないまま帰って本当にいいの?」
数時間前、黒百合女学院の保健室のベッドで
「しまったぁ!みんなと遊ぶ約束、忘れてたぁ!」
そう目覚めたあおい。慌てて学校の裏山の公園に走ると、公園から坂道を下りてきた緑やカネコと鉢合う。
「あおちゃん、紹介するね。」
「この子はペンフレンドのサナちゃん。来年うちの外部入試受けて中等部に入るんだって!。仲良くしてあげてね。」
そうサナをあおいに紹介するカネコ。
「わたし、赤井あおいよ、そこにいる緑さんの妹です。よろしくね。」
緑に対してトゲのある言い方だ。緑はまだ機嫌がなおってないのかと思うが、道々、あおいはサナと仲良くしてるので
まあ、いいか。と、時の流れに任せようと。
学校隣のチャペルでコンサートが始まるまでゲームしよう!発案したのはあおい。
あおいとあおい組五人娘のみずき、美佐、ちはる、カネコとゆかりに混ざるサナ。
ひとしきり楽しいゲームの時間が流れ、そのうちにちはるが恋バナを始める。
「あおちゃんの隣ん家の剛くん、最近カッコイイよね。昔は弱虫だったのに」
「ええ~ちはるはあんなスカートめくり魔のがいいんだ?」
「だってあおちゃんに鍛えられて、最近は強いしスポーツ上手いし何よりお洒落になったじゃない。あとは頭の中身がわたしたちに釣り合えば文句ナシでしょ。」
「ゆかちゃんはやっぱり待った先生に片想い続けるの?」
ひとしきり、そんな楽しい時間が過ぎて夕方になり、チャペルでクリスマスコンサートが始まる。
聖歌隊服のあおいにサナは興奮気味だ。
「あおいちゃん可愛い!」
そんなサナに
「わたし歌は苦手なのよね。サナちゃんも祈っててね。」
そうしてチャペルに響く讃美歌
喜べイスラエル♪
久しく待ちにし主よ とく来たりて
御民の縄目を 解き放ちたまえ
主よ 主よ 御民を 救わせたまえや
万軍の主 救わせたまえや♪
あおいちゃん、やっぱりカッコイイ!
そんなサナに
「あおちゃんに好きと言わないで帰っちゃうの?」
そう聞くカネコにサナは
「うん、まだあおいちゃんにわたくし釣り合わないから」
来年の四月の中等部入学式の再会を楽しみにサナは家路に。
完
次は正月物語。
>> 85
書き初めは
ひめはじめなる
ふでおろし
墨のしずくは
帯解く口実
「あおい~何してんだ!書き初めか?」
そう声をかけてあおいの部屋のガラス引き戸を開けた真鍋。
その目に飛び込んだのは冬休みの宿題らしき書き初めだが
なんともエロ満載な短歌の記された短冊。
「なっ!なななっ!何を書いてんだお前は!」
つい、叫んでしまう真鍋。
あおいの姉の緑のエロ同人癖が妹のあおいに感染という、おそろしい自体に怯えている。
でも、ここは兄代わりとして冷静に・・・と思うと
が、あおいの息はまだお酒くさい。
「お、おまえ、まだ酔ってるな。小学生にして二日酔いかよ!」
「親父!💢ちょっと来いよ!💢」
「てめえが酒飲ますからあおいが!💢」
そう叫ぶ真鍋。実は暮れから正月二日まで父とあおいの家に泊まっていたのだ。
話は遡り大晦日
- << 89 訂正版 話は遡り大晦日。 ここは赤井家の、広い広い道場のある古い武家屋敷。大晦日の今日ばかりは、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋も、あおいの同級生の美佐も、遠戚を理由に大掃除に駆り出されている。 クリスマス付近の、あおいと緑の自分を巡る恋の激しい冷戦に、気が気ではない真鍋は、不安についついチラチラと二人をチラ見して、二人の機嫌に気を揉んでいる。 が、その冷戦関係に適応している美佐が、二人の間をうまく立ち回っているため、真鍋の心配をよそにあおいも緑もご機嫌である。 ふと、そんな雰囲気に安心の昼ご飯時に、皆が録画されたドラマを見ながら仲良く食事している中のキスシーン。いきなり美佐が 「ねえねえ緑お姉ちゃん、ファーストキスってどんな感じなの?」 「いいなあ、憧れちゃうな」 「あおちゃんや緑お姉ちゃんは瞬お兄ちゃんともうしてるの?」 とエロ発言。 キスシーンいきなりの美佐の質問に、それぞれの父母を前に気まずく目が泳ぐ、あおいと緑そして真鍋の瞬である。美佐は美佐で、なんで三人は目が泳ぐの?な、疑問な表情。 もちろん三人は未経験で、でも普段のエロ同人執筆で全く家族に信用されてない緑に 「緑っ!おまえって奴は、婚約式もまだなのにもう瞬くんと?」 そう問い詰めてるのは父の幸一郎だ。そんな中、放任主義の祖父の晋太郎は理解あるニコニコな笑顔を見せているものの、さすがに気まずい居づらい緑は 「美佐ちゃん、馬鹿言ってないで早くお掃除片付けましょ」 と子猫の襟首を持ち上げるように美佐を連れていく。「恋敵のあおいがいるからその話はしないでね」の意味もあるようだ。 一方のあおいは 「わたしの初めては瞬お兄ちゃんがいいなあ!」 「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
>> 86
書き初めは
ひめはじめなる
ふでおろし
墨のしずくは
帯解く口実
「あおい~何してんだ!書き初めか?」
…
訂正版
話は遡り大晦日。
ここは赤井家の、広い広い道場のある古い武家屋敷。大晦日の今日ばかりは、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋も、あおいの同級生の美佐も、遠戚を理由に大掃除に駆り出されている。
クリスマス付近の、あおいと緑の自分を巡る恋の激しい冷戦に、気が気ではない真鍋は、不安についついチラチラと二人をチラ見して、二人の機嫌に気を揉んでいる。
が、その冷戦関係に適応している美佐が、二人の間をうまく立ち回っているため、真鍋の心配をよそにあおいも緑もご機嫌である。
ふと、そんな雰囲気に安心の昼ご飯時に、皆が録画されたドラマを見ながら仲良く食事している中のキスシーン。いきなり美佐が
「ねえねえ緑お姉ちゃん、ファーストキスってどんな感じなの?」
「いいなあ、憧れちゃうな」
「あおちゃんや緑お姉ちゃんは瞬お兄ちゃんともうしてるの?」
とエロ発言。
キスシーンいきなりの美佐の質問に、それぞれの父母を前に気まずく目が泳ぐ、あおいと緑そして真鍋の瞬である。美佐は美佐で、なんで三人は目が泳ぐの?な、疑問な表情。
もちろん三人は未経験で、でも普段のエロ同人執筆で全く家族に信用されてない緑に
「緑っ!おまえって奴は、婚約式もまだなのにもう瞬くんと?」
そう問い詰めてるのは父の幸一郎だ。そんな中、放任主義の祖父の晋太郎は理解あるニコニコな笑顔を見せているものの、さすがに気まずい居づらい緑は
「美佐ちゃん、馬鹿言ってないで早くお掃除片付けましょ」
と子猫の襟首を持ち上げるように美佐を連れていく。「恋敵のあおいがいるからその話はしないでね」の意味もあるようだ。
一方のあおいは
「わたしの初めては瞬お兄ちゃんがいいなあ!」
「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
>> 89
一方のあおいは
「わたしの初めてのキスはお兄ちゃんがいい!」
「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
隣に座る真鍋に甘えて抱き着き目を閉じるあおい。
「ち、ちょっと待て!。おまえ小学生だぞ。」
「俺でいいのか?。もっと格好いい仲良いボーイフレンドいるだろ?」
これはあおいの家の正面向かいに住む、あおいの同い年の幼なじみの剛くんのことだ。真鍋は剛くんのあおいへの恋心を見抜いてるのだけれど、あおいは
「えッ?剛くん?。あれは家来よ!」
「それにいつもスカートめくってさ」
「お風呂も一人で入れない弱虫でさ」
いやいや、スカートめくりは低学年の時の話なのに。好意あるから去年までお風呂いっしょだったくせに。
いたずら好きな悪魔なあおいを、好きゆえに、正直者の信条を曲げて今まで何度も何度も、いたずらバレたあおいを庇って来ているのに、可哀相な剛くんである。確かに、正直者ゆえに庇いきれてはいないゆえの家来という軽輩扱いされてるのだが。
そうこうしているうちに、皆が昼ご飯を食べ終わり、祖父の晋太郎が仕切る。
「さあ、昼は道場障子の張替えと床のワックス。大広間の畳の取り入れ。皆さん頼みましたよ。」
その声に、それぞれ担当部署に散る赤井家の面々。
晩御飯の年越蕎麦とすき焼きの材料買い出しに出ている、あおいと従姉の紫蘭。
「わたしこのお菓子だいすき!」
そう言いながら、ブルボンエリーゼを何箱もレジのカゴに放り込もうとするあおい。
「あおいっ!あんたのおやつを買いに来てるんじゃないの!」
「だってえ、まだお小遣にカード没収されてるもん!緑お姉ちゃんのエロバカのせいで。」
「まったく。じゃあ一つだけ買ってあげるから。あおい、そこが瞬ちゃんに妹扱いされる原因じゃない?」
大掃除も終わり、すき焼きを囲んでいる赤井家の面々。大きな炬燵の上には、もちろんお酒がビールが
>> 90
すき焼きを囲む食卓前で、あおいはパンツ一枚姿で楽しそうに歌い踊っている。あおいは下品が大嫌いなのに、なんでこうなったのか?。それは・・・
大掃除も終盤、ママの桃子に言われ、すき焼きの材料やらを買い出しに出たあおいと紫蘭。先に帰宅したのは、紫蘭とかけっこした勝者あおいだ。だが
だが、父の幸一郎は
「馬鹿っ!お前はなんで帰って来んだよ!。いいトコだったのに!」
そんな幸一郎に真鍋の父の勝兵は
「幸ちゃん、やっぱ来たのは女の子だったな!これで二万円だな!」
と勝ち名乗りを。
「なんでお前が勝ちなんだよ!」
「あおい、お前、見せてみろ」
と幸一郎。あおいは
「見せろ!って・・・パパ、わたしに何を見せろと?」
「パンツ脱げばいいねん!」
「だから、なんでわたしがパンツ脱がなきゃいけないのよっ!」
「あーやっぱり言わなきゃアカンか。びっくりするなよ。お前は本当は男や。わし、もう一人女の子が欲しくてな、お前の取ってもろうたんや・・・だから証拠にお前に穴はない!」
「・・・?・・・もしや?!」
カンと記憶力のいいあおい。「ははーん」と気付く。
「パパはじゃりん子チエ好きやったよね?。まさか、いま賭けをしてたんか?」
「そうや!お前のせいで負けたんや!」
「それで嘘ついてパンツ脱げと?」
「そうや!わし、お前にお年玉やりたい・・・」
の言葉が終わらぬうちに、それならと、じゃりん子チエになりきり箒を握りしめるあおい。赤井家の女は気がものすごく強いのだ。
「暴力反対や!」
パパに言いわけする間も与えず
「その二万円、没収や!賭けにわたしを使うなっ!。」
「嫌や、わし、勝って生徒みんなにお年玉やりたい!」
「ふーん、まだそゆ事言う?」
おもむろに思いっきり深呼吸するあおい。そして
「ママぁ!おばあちゃん!お姉ちゃん!。パパが賭け事してるぅ!。賭け事やめるって約束してたのにぃ!」
「ば、馬鹿っ!わし殺さるる!」
慌ててあおいの口に手を塞ぐ幸一郎の傍ら、ラッキー!と二万円を握りしめるあおい。
「口止め料や!。あと、お小遣いが多すぎるパパにはお年玉もちゃんと貰うからね。」
「あの日、わたしのお小遣い没収した天罰や!」
幸一郎は
「やっと勝ちだしてんのに鬼や悪魔や」
そんな事の後のすき焼きなのだ。
>> 91
すき焼きを囲んでいる、あおいと緑の赤井家とその分家の紫蘭たち、遠戚の瞬と真鍋家に美佐と立花家。楽しい今年最後の夕食である。
そんな中、あおいのパパ幸一郎がお肉に箸を伸ばそうとすると、その手を箸でピシャリと叩くあおい。
「パパは白滝でも食べてなさい!」
「そんなあ、ボクは優しい優しいパパだよ~」
「ふーん、ねえ、パパはじゃりん子チエが好きなのよね」
さっきのパパの秘密のギャンブルに、遠回しに遠回しに、チクリと刺し刺しするあおい。
「おまえ、絶対に前世は悪魔や!」
そんな中、最後の遅れていた遠戚、昔に赤井家が武家だったときの主君筋の安岐家の美智代とその子の晶が来た。
「今年一年お世話になりまして。」
そう挨拶するあおいの祖父の晋太郎と父の幸一郎。
「いえいえ、こちらこそありがたく」
そう返す美智代。
「ねえねえ、あの子誰?」
そうパパに聞くあおい。
「あおいは始めてだったか?お前のお婿さんだよ」
そんなあおいの父、幸一郎の返事に
「え、えええーっ!」
騒然となる一同。そんな中、三つ指をついてあおいに挨拶する晶。
「お初にお目にかかりますが、婿の晶です。ふつつかながら、生まれながらの婚約の挨拶に参りました次第、以後よろしくお見知り置きを。」
あまりの予想外の展開に、あおいは開いた口がふさがらない。無理もない。あおいは幼稚園のときから真鍋の瞬お兄ちゃんに一筋で、結婚するのは自分、そうでないなら姉の緑だと。
これは赤井家と真鍋家の約束だと、そう思っていたのに、祖父に黙って別の婚約話を父がしていたとは・・・・
「これ、どうやって断ればいいのよ!?」
それを察した晶、面白そうに笑い出すと
「あおいさん、実はうちのおばあちゃん、あおいさんの性別を聞いてなくて、それにわたくし、女の子ですから、この話は最初から無理だったんですのよ。安心なさってね。」
「パパ?。もしかしてのもしかして、パパは晶さんの性別を確かめずに約束したの?。」
あおいの言葉が終わらぬうちに逃げ腰になってる父の幸一郎。
なんでわたしが女と婚約させられてたのよ!。性別くらいなんで確認しないのっ!
あら、綺麗な男の子。
と一瞬だけどそう思ったあおい。その表情すら見ずに逃げ出す幸一郎。
「なんでパパはこうダメなのかしら」
>> 92
なんで、こうパパはダメなパパなのかしら?
そうため息するあおいの正面に座ってるのは姉の緑だ。すき焼きのお肉やら豆腐やら椎茸やら、婚約者の真鍋瞬の好物の具材を取り分けてやっている。
その姿にムカムカしてきたあおい。無理もない、七歳の誕生日に
「わたし、瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」
姉の緑が恋を瞬に告げる何年も前にそう言ったあおいに
「それは楽しみだなあ。待ってるぞ。」
そう答えたのは瞬お兄ちゃんだ。それに毎日のようにヤンキーな喧嘩を繰り返す緑が祖父晋太郎に叱られているときの、おじいちゃんの台詞
「お前のお婿さん候補の瞬くんは、大人しいあおいの方をお嫁さんに欲しいと言って、お前を見捨ててるぞ」
ママの桃子が、まだまだ内気な泣き虫お嬢様だったあおいを瞬お兄ちゃんに
「あおいを貰ってくれてもいいのよ」
と言っていたときの瞬お兄ちゃんの答え
「あおいさんがもう少し緑さんみたいに強くて活動的なら」
を全て聞いて知っているあおいなのだ。お兄ちゃんが彼女に最初に選んだのは、緑お姉ちゃんじゃなく、このわたし!。
そう思って待ちつづけているのを、緑はお嬢様らしいお嬢様だった自分の昔のキャラになりすまし、ヤンキーのくせに可愛い子ぶりっ子して、自分から瞬お兄ちゃんを騙し奪い取ろうとして、超ムカつく!
そう毎日思ってるあおいなのだ。
「お姉ちゃん、今日はまたなんで瞬お兄ちゃんにそんなに優しくしてるの?。まるで猫のお客様みたい。借りてきた覚えないのにね。同人エロ女が可愛い子ぶりっ子なんて似合わないわよ!」
「パパもパパよ、相手の性別すら確かめずに、わたしを女の子に嫁がせようとするなんて」
「ママもよ!。あの日お小遣い没収されたのはわたしだけ。事の発端のお姉ちゃんは無駄遣いばかりしてるのに。それにわたしが騒ぎを起こして庇ったから、お姉ちゃんは退学にならずに済んだのに」
「なんでわたしが貧乏くじなのよ!いい加減にしてよ!」
と思いっきり机を叩いてマジ切れしたあおい。おじいちゃんに叫んだのは
「おじいちゃんっ!もうパパとお姉ちゃんを排嫡してもいいんじゃないの?。うちの家業はわたしが継ぐからっ!。駄目パパと駄目お姉ちゃんなんて、おじいちゃんの後継ぎになるとでも?」
>> 93
「おじいちゃんっ!もうパパとお姉ちゃんを排嫡してもいいんじゃないの?。うちの家業はわたしが継ぐからっ!。駄目パパと駄目お姉ちゃんなんて、おじいちゃんの後継ぎ務まらないわよ!」
秋口から今日までエロ同人ばかりに精を出す姉の緑の尻拭いするハメが続いていたあおい。
賭け事やめたはずのパパが賭け事してたのを見つけたのもあり、パパが性別も確かめずに女の子に自分を嫁がせようとしてたのがバレたのもありで
一年の締めくくる大晦日だからと、今日は良い子してたあおいだが、ついにキレた。
キレたらもう誰も抑えられない、猪突猛進のあおい。帰省中の兄の貴志が「まあまあ」と間に入ろうとするも
「家業継ぐのを嫌がりおウチを出た、東京で官僚してるお兄ちゃんは黙ってなさいっ!」
もはや誰にも、あおいの数ヶ月分の怒りの火は止められない。そんなはずだった。そんな中、空気読まない女の子が。
「ねえねえ、これジュースだと思ったらお酒だったのね。でも美味しいわぁ!」
そう言ってるのは、あおいの従姉の紫蘭だ。緑がさっき注いだグラスをジュースと思い、一気飲みしたらしい。
「もう、本家はいつもうるさいんだから、だいたい今日はあたしの誕生。みんな忘れてるなんてひど過ぎる!。何よ!もう真面目になんかしないもん!」
とでも思ったか、小さな空き瓶がズラリの前で
「でもでも、やっぱり女子高生がお酒なんて、ダメよ!いけないわ!」
「よく言うよ!こんなに呑んどいて」
とは、瞬お兄ちゃんのパパの勝兵だ。
が、勝兵おじちゃんは案がひらめいたようで
「あおいちゃん、それだけ喋れば喉渇くだろ?。これで喉を潤して」
と、あおいにグラスを渡す。
勝兵おじちゃんは想い人の瞬お兄ちゃんのパパだからと、疑わず口にするあおい。
「何これ!苦ぁい!」
「ごめんごめん、甘さを足すの忘れてた」
蜜柑を絞る勝兵おじちゃん。そう、それはビールをつかったカクテルである。
「ほら、今度は美味しいジュースになった!飲んでみ」
>> 94
「ほーら苦かったのが、今度はおいしいジュースになった。飲んでみ!」
そうグラスをあおいに渡す、あおいの想い人の瞬の父、真鍋勝兵。
と言うのも、父の幸一朗や姉の緑に数ヶ月分の怒りをぶちまけるあおいによる、長~い長~いお説教を終わらせたいからだ。
「ほんとう?」
すすめられたグラスを疑いながら怖々と口にするあおい。
さっき思いっきり苦くて拒絶した液体が、ほろ苦さは残るものの確かに甘くなって蜜柑の味とかおりが混ざって飲みやすい。
「ほんとだ!おいしいっ!」
「でも炭酸が少し足りないような・・・」
それでもあおいは、それが実は勝兵がビールと蜜柑で即席で作ったカクテルと知らずに
「勝兵おじちゃん!もう一杯飲みたいっ!」
「はいはい。待ってなよ」
あおいの祖父の晋太郎はお酒に弱いし幸一朗は全く呑めない下戸。遺伝的にあおいは弱いか下戸では?と、勝兵は酒によるあおい黙らせ作戦に打って出たのだ。
♪ピンポーン♪
赤井家の門のチャイムが鳴る。
「はーい!」
インターホンに出た桃子が迎えに行こうとするのを、ワシが行く!と玄関に向かう幸一朗。
勝兵があおいの気を引き付けている今が、あおいの怒りからの逃亡チャンスだからだ。
あおいは気まぐれゆえに、わずかな時間でも自分があおいの視界から消えてれば、勝兵があおいの気分を変えてくれるはずだ。そう思い、同じくあおいの激怒の被害に遭っている緑に目配せする。
まして今あおいは、下戸なワシの娘あおいは、カクテルをジュースと思い込み、おかわり要求しているから、恐らくすぐ潰れるだろう。そんな淡い期待を胸に
冷え込んでいる大晦日の夜。はんてんを着ながら、今年最後の客は誰だ?と、幸一朗は緑と門に向かう。
>> 95
冷え込んでいる大晦日の夜。今年最後の客は誰だろう?。
そう思いながら出迎えに門に向かう、あおいの父の幸一朗とあおいの姉の緑。玄関の引き戸を開けて外に出る。
「寒っ!」
「わぁー雪だぁ!冷えるはずよね」
そう言いながら門に行こうとしたとき、寒さにしびれを切らした客の声が
「ゴルァ!幸一朗! 貴様あ、己の先生をさっさと出迎えに来んかいっ!」
「そっ、その、その声は・・・」
震えだす幸一朗。それを「何で?」と思う緑。
「勝手に入るでえ!」
門扉から手が伸びてカンヌキをまさぐる手が叫ぶ。
「あ、あいつや!。わわわワシの天敵が来よったんや!」
「みみみ、緑、わ、ワシは今日は留守やぞ!」
そう残し家に逃げ込む幸一朗。
逃げるなら外のほうが安全なのに、頭が回らないほど怯える相手って誰?。脳天気なお花畑が珠に傷でも、父の幸一朗は一応は武術家だ。それが逃げる相手?。
門から入って来た狂暴なる不審者に少し身構える緑に声の主は
「緑ちゃんか?大きくなったなあ!。ワシだよ渡だよ。」
寒さに顔が半分隠れるほどに巻き巻きしたマフラーを外し、そのせいでほぼ曇ったレンズの眼鏡を外し、目深に被った帽子を取った声の主は、緑と父幸一朗の幼いときの空手の先生だ。もっとも緑は当時は幼すぎて、習っていた記憶は殆どないのだが。
「渡先生、お久しぶりです。何年ぶりかしら?」
「おまえの同人、読んだでえ。なかなか面白う書きよるやんか!。ワシ、おまえのファンや!。で、幸一朗はどした?」
「パパ逃げちゃいました。賭け事がバレて、あおいに説教されてて、逃げようとしたら先生がいらしたのでビックリして(笑)」
「そうや、あおいちゃんにも逢いたいなあ、今いくつや?」
「十二歳で来年中等部です」
「そうかそうか」
微笑む渡先生。
緑はこの渡先生に聞いたことがある。
「渡先生、どうしてパパは先生を怖がるの?」
「あのなあ、あいつはカナヅチなんや。泳げんから教えてやろうとしたら暴れてな、ボートから海に放り込んだら溺れよったんや。ふつうは必死に本能的に泳ぐんやが、あいつは死にかけた。だからや。」
「だからあいつは今でも水が怖いカナヅチなんや。海や川やプールにおまえら連れて行かんやろ?。」
「しかもワシ、まだ若うてな、情けなさに目覚めたあいつを張り倒してしもたんや。」
>> 96
「なんや幼児恐怖体験のトラウマは一生つきまとうんかなあ?」
「今日はな、なんか皆と呑みたくてな酒持って来たんや。緑ちゃん上がらせてもらうで。」
そう緑としゃべりながら大広間に入った渡先生。緑とあおいの祖父の晋太郎に
「赤井老師、久しぶりですなあ。お招きありがとうございます。皆さんにお酒お持ちしました。」
と挨拶し、隣のあおいのパパママのお部屋に向かう。
押し入れをガバッと開くや渡先生は
「ゴルァ!幸一朗!三つ指ついてワシに挨拶せんかい!」
と幸一朗の首根っこを掴んで引きずり出す。
「せ、せんせい、空手の師範言うてもせんせいに習たんは幼稚園のたったの一年ですやん。それに何度も言いますけど、空手、今はせんせいと流派違いますやん」
「やかましいっ!。武林は義気千秋いうてな、武術の義侠心は一生ものや!。おまけに武林是一家いうてな同門は家族。空手は流派違ても八極門同士なんやから挨拶せんかい!」
渋々に挨拶する幸一朗。だが空手の礼式ではなく八極門の礼式だ。ささやかな抵抗なのである。
再び赤井家の大広間。
「今日はな、おまえと呑も思うて来たんや。ほら呑めっ!」
「ワシが下戸なん先生知ってますやん」
「オマエ、まだ若いわが弟子の呑み会に現れて賭け事教えて巻き上げたらしいやんか。呑めん奴が何で呑み会に来たんや?。いいから呑めっ!」
「クッソぅ!師範や思て大人しいにしてたら・・・暴れたろか?」
そう思う幸一朗に渡先生の平手打ちが飛ぶ
「オマエ、いまワシに不快な電波出したやろっ!呑めっ!。オマエは単純やから目に出てるんや!思てることがな。」
「呑みますがな。叩かんといてください。娘の前でえらい恥かかせてくれてからに」
「オマエが赤井家の、いや人ん家のことは口出しはせんが、オマエが八極門の歩く恥やろが!呑めっ!。賭け事やめた思たら、舌の根も乾かんうちにすぐに始めおってからに!」
とお椀にすぐに酒を注ぐ渡先生。そう、賭け事がバレてない。そう思っていたのは幸一朗本人だけだったのである。
一方、大広間の別の一角では、想い人の瞬お兄ちゃんの父の、勝兵おじちゃんが勧めるお酒に、気分が変わり上機嫌になりつつあるあおいがいた。
ふと見ると、見知らぬ男性がパパを叱っている。
>> 97
あおいがふと見ると、見知らぬ男性がパパを叱っている。
大広間の別の一角で、想い人の瞬お兄ちゃんの父の勝兵が勧めるカクテルに、上機嫌になってるあおい。
「ねえねえ、勝兵おじちゃん、あのガタイのいい強そうなおじいちゃんは誰?。はじめて見るんだけど?」
「ああ、あおいちゃんはまだまだ小さかったから覚えてないんだな。同じ八極門で、あおいちゃんのパパが幼稚園くらいのときの空手の先生の渡忠人先生だよ。」
「それから、あおいちゃんのおじいちゃん晋太郎さんの師兄弟で、あおいちゃんのパパの仲人さん。」
「仲人さんってなあに?」
「あおいちゃんのパパとママをくっつけた人のことだよ。」
「な、なんでそんなママに可哀相なことを」
「それはあおいちゃんのママがパパを好きだったから。あおいちゃんのパパ、今はああだけど、昔は強かった無敵男だから。」
「ふーん、そうだったんだぁ・・・」
「わたし、ちょっと挨拶してくるね」
「渡先生、お久しぶりです。パパの三女のあおいです。もっともお顔を覚えてなくて挨拶が遅れて、ほんとうにごめんなさい。」
一度部屋を出て、渡のいる辺りの襖を開き、渡の顔を立てて、きちんと渡の流派の空手の礼式で三つ指をつくのを二回繰り返し、挨拶するあおい。
知らずにカクテルを飲んでほろ酔いても、まだ正気を保っていたあおいだ。
「おおー!あおいちゃんか!大きくなったねぇ!」
「来年は中等部だって?。だったら一度うちに習いにおいで!。」
「あおいちゃんはまだ八極拳しか習ってないんだよね。でも日本の武術も知らないとね。」
「でも渡先生、おじいちゃんが一招、一つの技に熟しなさいと。小技を集めても意味ないからと」
「学ぶべきなのは日本武術の、例えば空手だと戦闘スタイルとその思考なんだよ。中国武術と異なる思考。」
「ベースは八極拳があおいちゃんには一番合ってるだろうけど、敵を惑わすためには、他の武術の戦闘スタイルを知らなきゃね、いつか命取りになる。」
「これはワシやパパみたいな空手家も同じなんだよ。」
そう言いながら、あおいの父、幸一朗の頭を叩く渡先生。
「鳶が鷹を生むとはこのことだ!。オマエ父親として躾は出来たみたいやが、肝心のオマエが歩く恥で恥ずかしゅうないんか!」
「さあ幸一朗、呑めっ!」
「先生、パパはほんとうに呑めない人なので」
>> 98
「先生、パパはほんとうに呑めない人なので」
そうパパの幸一朗を庇うあおいに渡先生は
「あおいちゃん、今年は君には厄年みたいなもんだったんやてなあ。」
「パパの賭け事発覚と台風直撃。緑お姉ちゃんのエロ同人発覚して停学の巻き添えの行き倒れで。」
「それに大好きな瞬君とは、今年は一度もデート出来ずで。」
「ワシはクリスチャンやないからキリスト教はわからんけど、こういうときはお酒で吹き飛ばして忘れるんが一番ええんや!。」
と、あおいの側のグラスに日本酒を注ぐと
「さ、あおいちゃんも呑んで騒ぐんや!」
「先生、わたしまだ小学生なのにお酒呑んでいいのぉ?」
「渡先生、小学生に日本酒はダメですっ!」
酒豪の渡先生に小学生のあおいを付き合わしてはいけない!。さすがにそう思った瞬、あおいの想い人の真鍋瞬が渡先生の暴走を止めようとする。
「うるさいわい!。オマエの机上の教育論はどうでもいいんや!。大切なのは年の区切りに気分変えることや!。」
「だいたい瞬っ!。オマエが緑ちゃんとあおいちゃんを天秤棒にぶら下げっ放しなのが二人の不機嫌の原因やろ?!。」
「いい加減、どっちを選ぶんかハッキリせいっ!。」
「いや、どっちか選べんなら、それはそれで二人平等にデートしてやるもんやっ!」
「ワシはオマエにも巻き込まれてるんやっ!。」
思わぬ雷を渡先生に落とされた真鍋はそれでも優柔不断で
「渡先生、選べと言われてもあおいはまだ小学生なんですよ?」
そんな真鍋に
「瞬っ!。誰がいますぐ一人を選んで結婚の誓いのチューをせいと言ったんや!。あおいの乙女心をわかってやれと言うてるんや!💢」
そして渡先生はあおいに
「いくら立派な建前でも建前では人を救えへんのや。人を救うんは共感する心や。そうやろ?あおいちゃん。」
「わたし、呑むわっ!」
>> 99
「わたし呑むわ」
このあたりで記憶の途切れてるあおい、つまり作者のわたし。
なんや、うっすらとパパと瞬お兄ちゃんが、ものスッゴく気持ち悪そな真っ青な顔で苦しそうに吐いてる姿が、おぼれげに脳裏にあるんやけど。
朝、瞬お兄ちゃんや緑お姉ちゃんに、従姉の紫蘭お姉ちゃんや同級生の美佐ちゃんに、昨日お友達になった晶ちゃんからも、おじいちゃんやパパや勝兵おじちゃんにママとおばあちゃんからも
「おまえパンツ一枚で踊ってたで!」
「パンツ一枚で瞬お兄ちゃんにキスをしつこく迫ってたで!」
なんて、口々にからかわれたけど、顔が真っ赤になるのがわかるほど顔から火が出てるな思うたけど、お転婆やゆうてもお嬢様のわたしがそんな下品なこと、するわけないやん。
なかったことにするんや!。みんなが同じ初夢を見てたんや。
明けましておめでとうございます!。
大晦日が明けて新年の朝、目覚めた一同は赤井家の道場で挨拶しあっている。
日本武術の礼式を教えるため、クリスチャンの赤井家の道場なのに何故か存在している
普段は「神前に礼!」でなく「正面に礼!」で稽古が始まる
そんな赤井家敷地内の道場の神棚にお神酒を捧げる、あおいの祖父晋太郎。この新年の朝だけは日本文化というか日本そのものに敬意を払い、「神前に礼!」で一同がこうべを垂れる。
道場の台所からお雑煮の味噌のにおいが漂ってくる。それが使用人により、お膳に盛りつけられ道場に運ばれる。着物姿で平らげる赤井家と関係者。
クリスチャンの赤井家だが、先祖の眠る靖国神社に表敬訪問し皆が着物から普段着に着替えるなか、あおいは何かをひらめいたようで部屋に急ぐ。
「新年いちばんのデートはあおいとしてね。」
気を利かせた婚約者の緑に言われ、あおいの部屋に行く瞬。ガラス戸越しに筆を握るあおいの姿が。
「あおい~何してんだ?。書き初めか?。デート行ってやるよ!」
そう声をかけて戸を開いた瞬の目に飛び込んだのは
書き初めは ふでおろしなる ひめはじめ
墨のしずくは 帯解く口実
冬休みの宿題か、墨も鮮やかなエロ満載な短歌の記された短冊。
緑のエロ同人癖がその妹のあおいに感染か?。そう怯える瞬は赤井家に一緒にお泊りしていた父を呼ぶ。
「親父!ちょっと来い!。てめえが昨日あおいに酒呑ますから!💢」
正月物語 完
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