黒百合女学院中等部 恋の時間割
ここは古くから在る街の山手地区。大通り奥の細道に入れば、昔からの武家屋敷や豪商の町屋が今なお残っている街。
そんな街に物語の舞台、黒百合女学院の大学を除く幼初等部・中高等部の集まる、黒百合女学院山手校はあった。無論、ここはお嬢様学校であり、女子校である。
その黒百合女学院山手校の正門がある大通りは、裏手の大規模団地を降りきった、この山手地区の繁華街でもある。
そんな通りに面した半地下の喫茶から通りを見ると、一人の幼女が歩いている。
18/07/20 16:12 追記
主人公は物語開始時まだ小学生です。初恋の人に幼稚園時代に出会い、中学時代に再会し・・・と主人公や主要登場人物の幼稚園時代や大学生時代に話を飛ばしながら物語は進みます。
二つに分けて書いていたのを、一つにまとめた物語にしたほうがいいかな?と思ったもので。再構成しつつ書き損じを訂正しながら書き加えていくものです。
18/07/23 17:43 追記
この物語はわたしが小学生時代から書いていた日記や記憶、同級生らとの思い出話による、ほぼ実話です。もちろん個人特定されないようにしていますが。
物語は「初等部篇の恋のエスケープの時間」から始まっています。
わたくし、普段はミクルにしかいないんですが、大人ミクルに入り浸りしているであろう、我がエロ姉氏と違い、文才も画才もありませんので、クレームは受け付けません。
- 投稿制限
- 参加者締め切り
一人の幼女が歩いている。
いや、彼女は本当に幼女なのか?。確かに幼女にしては背が高い。でも少女にしては体がちっちゃい。そして少女にしては顔が幼すぎる。顔だけ見たら幼稚園児か小学校低学年である。
彼女がこちらに近づくにつれて、距離は近くなる。この距離ならわかる。彼女はこの街のお嬢様のひとり、黒百合女学院の功績者の赤井菊女史の曾孫の、黒百合女学院初等部六年生の赤井あおいだ。
おや、彼女がふらついている。マスク姿からして風邪で高熱でもあるのだろうか?
そこにお巡りさんの声が響き渡る
「そこの小学生、いい加減に止まりなさい!」
「いや、あおいさん、お止まりください!」
そう叫んでいるのは四年前までは、この少女、あおいの祖父の赤井慎太郎の道場生かつ塾生だった田中巡査部長だ。
彼女の身に起きてしまった悲劇、いや喜劇とはいったい何なのだろう?。それがこれから始まる物語である。
>> 1
話は前日の朝に遡る。
「おはよー!」
元気良く六年一組の戸を開けるあおいに幼稚部時代から彼女と仲良しのゆかりが
「おはよう!」
と答える。
「あれ?カネコは?。 ゆかりぃ、朝はいつも一緒でしょ?」
と聞くあおいにゆかりは
「カネちゃん、風邪で休むんだって」
「あー、わたしも風邪かなぁ?。熱っぽいし少しお腹痛いし。つか、すでに下ってるし。」
そんなあおいに
「えっ? あおちゃんの場合はいつもいつもの食べ過ぎじゃないのぉ?」
と、冷静なのはゆかり。
「こいつぅ、人が苦しんでるのに!」
あおいはゆかりに飛びつき、ゆかりの腋をくすぐる。
「ごめんなさいと言えー!」
日常の朝の風景にチャイムが鳴り、教室の戸が開き、先生がはいって来る。イケメンではない。はっきり言えば残念な顔だが、しかし彼は初等部では一位二位を争う女子児童に人気の若手男性教師だ。
級長のカネコが休んでいるので、副級長のあおいが叫ぶ
「起立!」
「礼!」
クラスの女の子皆があいさつする
「先生、おはようございます。今日も宜しくお願いします!」
担任の待った先生が皆に応えてあいさつする
「おはよう!今日も頑張ろうな!。皆さん着席!」
>> 2
クラスの出欠を取った待った先生
いや、彼には松田という名前があるのだが、昨年五年一組つまり今のこの六年一組の担任になったとき、軽い気持ちで将棋というものがあるのを生徒に教えようとして
あおいと将棋を指したのだが、あおいに
「待った!」
を連発してしまい、さらに負けてしまって今や
「待った先生」
と呼ばれている彼が厳しい口を開いた。
「昨日の放課後、用務員さんが蛍光灯を変えるのに皆の机を動かしたら、見えてはならない物たちを発見してしまったそうだ。誰と誰の物から言わないが・・・」
と話をしている最中に
班ごとに机をくっつけている教室の、あおいと同じ班で隣の席のゆかりが慌てて自分の机の中を覗く。そして
そして、くずおれるかのようにゆかりは
「わたし、終わった。」
「さようなら、わたしの初恋」
と、つぶやきながら机に突っ伏した。
いや、初恋が終わったほど深刻か?は別にして
「わたし、終わった」状態で固まってるのはゆかりだけではなく、これもあおいと同じ班であおいの正面の美佐も、隣の班のみずきもそうらしい。
????状態のわけがわからないあおいは机の下で美佐とゆかりの足を
「え? 何? 何がどうなってるの?」
と言いたげに突っつく。
正面の美佐があおいに小さな声で知らせる。
「ゆかりちゃんのあの本、見つかっちゃったみたい。わたしのも無くなってるもん。」
「なんであんな本を学校に置いとくのよ?」
と、あおい。
「持って帰られるわけがないでしょ!。ママに見つかったら叱られちゃう!」
「お兄ちゃんに見つかっちゃったら恥ずかしいじゃん!」
「持って帰ってどこに置けと?。うちはこども部屋ナイもん!」
あおいにハモるかのように同時にそれぞれの言葉を返す、美佐とゆかりにみずきである。
>> 3
話はさらに三ヶ月遡る。
デートしている二人。別にイチャイチャしてるわけではないが親密そうで仲良さそうだ。
二人はあおいの九つ上の姉の黒百合女学院大学の緑と、その婚約者で緑とは遠戚の、あおいとは一回り年上の現在は県外の塾講師の真鍋瞬だ。
そんな二人を羨ましそうに、しかし何かを疑い見つめる二つの赤いランドセルがあった。あおいの同級生の高田ゆかりと立花美佐だ。
このあおいの姉の緑は、先週は違う男とここで仲良さげに話し込んでいた。その前日はまた違う男と。
実は美佐もゆかりも、あおいが姉の婚約者の真鍋瞬に片思いしてるのを知っている。それで緑が違う男と会っていたのをあおいに知らせるべきか迷っているのだが、今日は緑が真鍋とデートしてるので、それに遭遇してしまった二人は
男女のことに興味もありで、ついつい様子を伺っている。
そんな二人だが、消極的な性格のゆかりが耐え切れずにデートしている緑と真鍋に遠慮するかのように
「もういいでしょー早く帰ろうよぉ!」
とでも言いたげに美佐の袖を引っ張るのだが、極めて積極的な美佐は自分も緑とは遠戚でもあるしで、思いきって
「緑お姉ちゃん、こんにちは!」
「立花の美佐です!お久しぶりです!」
と、話しかけてしまった。仕方なくゆかりも
「緑先輩、こんにちは」
と挨拶する。
美佐と会うのは何年ぶりかの久しぶりで、顔を忘れていた緑。人違いされてるの?と一瞬思ったものの、名前を聞いて思い出したのと毎日のようにあおいと遊びにおうちに来てるゆかりが一緒だしで
「こんにちは。きちんと挨拶できて偉いわね。」
と微笑んでみる。しかし積極的な性格の美佐は核心を探ろうとする。
「いいなぁ、緑お姉ちゃんには彼氏がいて。」
「どうしたら幼稚部から大学部まで女子校の黒百合で出逢えるんですか?。わたしも彼氏欲しいです。」
と、聞いてきた。しかもすぐに核心に触れる。
「わたし、先週もここであおいちゃんと待ち合わせしてたんですけどぉ、緑お姉ちゃん、いらしてましたよね?」
「あのお兄さん、格好良かったなぁ!わたしのタイプなんです」
と、まるでナイショ話するかのように、緑の耳元にささやいてくる。
まるで自分の浮気を疑っているかのような美佐の質問に驚きを隠せない緑
>> 4
まるで自分が浮気をしていたかのように聞く美佐の質問に、驚きを隠せない緑。
この緑は実は同人とハンサムハンターが趣味なのだ。今の時代ならイケメンハンターとでも言うべきか。
それはさておき、繁華街など若者のたむろする場所を歩き回り、ナンパされてはいいところの寸前でタイミング見ては振るを繰り返す緑は、浮気を疑われる身の覚えは山ほどにあるのだが
今回の美佐にかけられた浮気疑惑には全く身に覚えはなく、しかし、ハンサムハンターは愛しの婚約者にはヒミツにしており、しかも目の前に愛しの真鍋がいるしで、怪しさ満載に目が泳いでしまう。
実はこのハンサムハンターも、別にプレゼントを貢がせたり、あんなことやこんなことな大人な関係してるわけもなく、ワケあってのことだが、そのワケは学校側に知られてはならない、同人のネタ探しなワケで、余計に目が泳いでしまう。黒百合女学院はエロ方面には厳しい学校だから。
それに、わたしエロ同人してますなんて、遠戚の美佐にすら、女の子の口からは言いがたい。
この事態、美佐やゆかりが学校側に喋りでもしたら、自分の学生生活が「終わってしまう」状態になりかねない緑の危機なのだ。
言葉を探すものの、適切なる言いわけが出てこない緑。
時間を持て余しゆかりが美佐に
「ねえねえ、さっきのナイショ話、何を聞いたの?」
「まさか先週と先々週の緑先輩のデート?」
と聞きはじめた途中で真鍋が助け船を出す。
いや、普通の女の子ならば自らの恥ずかしい趣味を自分の口からではなく、他人の口からカミングアウトされてしまう恥ずかしい状態で、
決して助け船になってないと思われたりするかもだが、今の緑にはやはり助け船だ。
「こいつ、緑は大学では漫画部なんだよね。恋愛漫画研究部。とは名ばかりで実態は同人エロ漫画だけどね。」
「先週と先々週にこいつと会ってたのは俺の後輩。知ってるだろ?黒百合女学院とは系列だった黒川学院大学の漫画部。」
「で、作画の分担の打ち合わせしていたわけなんだよ」
「俺も後輩会いたさとこいつとのデートに遅れて来てたしね」
でも、真鍋に片想いしているあおいと仲良しの美佐は、またまだ納得していないようだ。緑が真鍋という婚約者がいながら、妹のあおいから真鍋を奪っていながら誰かと浮気していると、まだ思い込んでいる疑惑の眼差しは変わっていない。
>> 5
緑は浮気してないと、その彼氏の真鍋が助け船出しても、緑を見つめる美佐の眼差しは変わらない。
無理もない。あおいやゆかり、そして自分のパパママから聞く緑のイメージは優しい優等生の緑お姉ちゃんで、そもそも黒百女学院は地元名門お嬢様学校の狭き門で、しかも学校は不純なるエロ方面には極めて厳しい。
緑とエロ同人がどうしても結び付かない。
自分を浮気したかのような責める眼差しを変えない美佐にため息した緑は
「仕方ないわね。二人ともそこに座って」
と美佐とゆかりに言うや、カバンから小さめなスケッチブックを取り出しペンを走らせると、驚くべき短時間に二枚の絵が出来上がる。その絵を二人に渡しながら
「はい、こっちは二人の簡単なスケッチ」
「こっちは二人をキャラ化して、ソフトな百合漫画風に書いてみました。」
「これでわたしが浮気してたんじゃなく、部活の作画の打ち合わせで黒川学院大学の漫画部の人とここにいたのを信じてくれるかな?」
と、言いながら足元の紙袋から製本されたばかりの本を出す。
「あとね、これはわたしら黒百合女学院大学漫画部と黒川学院大学漫画部の合作ね。美佐ちゃんとゆかりちゃんはまだまだ初等部だから中身は見せてあげられないけどね。」
「で、わたしの彼氏はこの瞬ちゃん(真鍋)だけ。ややこしくなるからあおいには変なこと吹き込まないでよ。」
「あおいは今もこの瞬ちゃんを追いかけてるんだから」
緑に描いて貰った絵と緑の同人誌の表紙を見て
「すっごぉい!緑先輩は絵も上手かったんですね!」
と、驚く美佐とゆかり。
誤解は解け、最近の初等部の恋愛事情をネタに得ようとする緑と初等部の美佐にゆかり、来年度から黒百合女学院高等部に就職の決まっている真鍋は缶ジュースを飲みながら仲良く話してると
近くの会社から終業を知らせるチャイムが鳴る。あなたたちも早く帰るのよと、真鍋の車で緑と真鍋はデートに向かったものの
公園の椅子に座る美佐とゆかりは、さっきまで緑が座っていた椅子の足元に同人の入った紙袋が忘れ去られているのに気づいて
「これ、どうすんの?」
と聞く美佐にゆかりは
「明日学校であおいちゃんに渡して、あおいちゃんから緑先輩に返して貰おうよ」
>> 6
場所は変わり、ここはあおいの家。昔からある武家屋敷だ。市内ではかなり広い部類のおうちだ。そして時間的にこの日は、この物語の冒頭であおいの同級生の高田ゆかりが
「さようなら、わたしの初恋」
と机に突っ伏した日の前日だ。
この日は日曜日なのに遊びに出かけずに、珍しくもテスト勉強しているあおい。
頭の中身がエロ同人だけの姉の緑のようにはなりたくない一心で、エスカレーターで行ける黒百合女学院中等部ではなく、共学の地元国立大学の附属中を目指す気になり、風邪気味にも関わらず苦手教科に取り組んでいる。
別にあおいは科目の苦手得意で成績が変わるのではなく、実は記憶力の抜群のあおいは全く勉強しなくても、その気になりさえすればいつでも百点満点を連発するのだが
あおいには致命的な欠点が。
超気分屋の超気まぐれなため、その日の気分で成績が乱高下。ロケット打ち上げの如くに百点満点連発記録を作り成績急上昇させたかと思えば、次の週にはスカイダイビングしたかのように学年最下位を記録するかのような成績急降下。
それでクラス上位三分の一の成績に甘んじているのである。このころのあおいはまだ自分の致命的な欠点、自分は気まぐれ気分屋とは全く気付いていない。ゆえに勉強より座禅でもしたほうが成績のためなのだが。
とにかく、この日は翌日あるであろう抜き打ちテストの予感に珍しくも机に向かっているのだが
あおいが珍しくも机に向かって勉強してるのだが
襖向こうの緑の部屋からは、イヤぁんバカぁん的なエロへの誘惑の音声が駄々漏れで。部屋の主の緑が婚約者の真鍋と愛を確かめているのではなく、同人ネタ探しに緑がエロビデオを見ているのだが。
たまらずに
「お姉ちゃん、わたし勉強してるんだからね!」
「小学生にエロビデオ聞かせていいとでも思ってんの!💢」
「わたし、お姉ちゃんみたいなエロ馬鹿女になりたくないんだから!💢💢」
と怒鳴るあおい。襖を開けて飲み終わったコーラの缶を緑にぶつける。すると
「諦めなっ!」
「わたしの妹に生まれた不運を素直に受け入れなさい!」
と言い返す緑がいた。
>> 7
草木も眠る丑三つ時。
「出たぁー!」
ではなく、前日の快晴ゆえに冷えた深夜というべきか早朝というべきかの時間、勢い余って徹夜勉強していたのだが、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまったあおい。
「出たぁ!テスト勉強のヤマカン的中!」の場面で、「これは夢に違いない!」と、目覚めたあおい。なんだか寒気がする。姉の緑が毛布をかけてくれてはいたのだが・・・。
あおいはキッチンでひとりミルクを温める。そのうちにクシャミが出始め、やがてくしゃみの間隔も狭まり鼻水も止まらない。お腹も冷えたみたいで、慌ててトイレに駆け込む。
こうなるんだったら風呂上がりに素直に寝るんだった。そう思いながら、猫舌のくせに温めすぎたミルクをちびちびと飲むあおい。
時計を見ると、まだ朝3時。あと3時間はお布団の中で暖まれるわねと、部屋に戻り布団に潜りこむ。
>> 8
そして話は学校に隠していたエロ同人が担任の待った先生に見つかってしまい、ゆかりが
「さようなら、わたしの初恋」
と、くずおれるかのように。机に突っ伏して固まってしまったシーンに戻る。
くしゃみと鼻水、お腹の不調に今日は学校休もうと思ったのだが、せっかく勉強したのにテスト休むなんて考えられない!と、気を取り直して登校した。が、しかし
同じクラスの立花美佐・諏訪野みずき、そして待った先生が好きな高田ゆかりが机に隠していた同人誌、姉の緑が忘れて行ったのを、ゆかりと美佐があおい経由で緑に返そうと学校に持ってきた。
それをみずきが見つけ、開いてみようってことになり、そこにあおいも混ざって読んでいるうちにクラスの皆が集まってしまった。
そして、副級長のあおいが級長のカネコと待った先生に呼ばれているうちに、美佐とゆかりとみずきが机の中に隠しておくことになり、それがこともあろうに、ゆかりの大好きな初恋の人の待った先生に見つかってしまったのだ。
この待った先生、あおいの想い人の真鍋とは大学時代の先輩と後輩の仲。実はあおいは、初恋の真鍋を姉の緑に奪われたあとも、密かに想い続けていて、緑の目を盗んでは真鍋に「お兄ちゃん」と纏わり付くうちに、真鍋と待った先生は今や親友の関係と知っている。
男女のことには厳しい黒百合女学院である。こともあろうに、黒百合女学院の大学生しかも教育学部の緑が、後輩の初等部に同人誌、それもエロ同人誌をくれてやったことになってしまったら、それにまだ初等部なのにそれを読んでいたあおいゆえ。
姉の緑のせいで、楽しい黒百合女学院での小学生生活が終わってしまうかもな危機だと気付くあおい。それだけではない
自分も混ざってエロ同人を読んでいた。なんてことは、待った先生がクラスの皆の優しいお兄ちゃん先生でも、なにかの世間話の弾みででも、待った先生から真鍋に知らされては、恥ずかしくて困ってしまうあおいなのだ。
>> 9
と、あおいが考えているうちに、待った先生の朝の会のお話は話題が変わっている。
真鍋先生はお話している。
「皆さん、先週の金曜日に近くの小学校では、不審者がトイレに侵入して逮捕されました。世の中には違う意味で、小さい子が大好きな変な大人たちもいます。」
「くれぐれも甘い言葉で誘われても、ついて行ってはいけません。必ず助けを呼んで逃げましょうね。」
「とくにそこの赤井!、お前、ついて行くなよ!」
考え事で上の空で話を聞き流していたあおいは、待った先生に名指しされてしまった。
「なんでロリコンについて行く女がわたしなのよっ!」
と、あおい。
「お前、去年の水泳大会も運動会も、水着にブルマ撮られまくりしてたよな!?」
「あんなのについて行くなよ!と言ってるんだ。それに水泳大会も運動会も、関係者以外立入禁止になったのは、お前ら三人組のせいなんだよ。」
「ああいう大人が危ないと教えてやってるんだ。」
と待った先生。
「え~っ!。待った先生、わたしら三人じゃなく、あおいちゃんだけ名指しするなんてぇ、あおいちゃん人気にぃ、ヤキモチですかぁ!」
すかさず美佐が茶々を入れる。あおいもふざけて
「待った先生もだったの?。先生は優しいから言ってくれたら撮らせてあげたのに。でも写真だけだよ、わたし好きな人いるもんっ!。」
「それにぃ、わたしぃ、先生みたいな意味じゃなくて、真鍋のお兄ちゃんみたいに真面目な意味でこども好きな人がいいもん。」
あおいの言葉が終わらぬうちに待った先生の雷が落ちた。
「俺は真面目な話をしてんた!ふざけるんじゃない!。それに俺はロリコンじゃねえ!ノーマルだ!」
待った先生に出席簿の角で頭を叩かれたあおいと美佐。
「痛ぁい!。なによ!童貞!」
思わず罵詈雑言がでるあおいと美佐。
「お前らだって処女だろが!逆セクハラしやがって!」
と言いたいのを堪え、待った先生は授業モードになる。
「話が長くなりましたので一時間目の授業に入ります。お手洗い行く人はすぐに戻ってくださいね。それでは国語の教科書を・・・」
>> 10
教室でブルマ姿にお着替え中のあおいたち六年一組と二組。一時間目の国語の授業が終わっての今は休憩中だ。
黒百合女学院初等部は女子校なので、特別に用意された更衣室など存在しない。さすがに水泳の時間だけは、男性の教師や事務員などの職員もいるのでプール更衣室でのお着替えになるのだが
そして今日は六年二組の女の子たちも六年一組でお着替えだ。これは学校外部からの覗きや侵入しての窃盗を学校側が警戒して、お着替えに使う教室は隣り合うクラス同士で日替わり交代でと決まっている。
その六年一組の教室前の廊下、休憩時間にタバコ吸うつもりで屋上に行く途中。ポケットをまさぐる待った先生、ポケットにない。教室にでも落としたか?と戻ってきた。
教室からはみずきが
「あおちゃん、そのベビードールかわいい!どこで買ったの?」
なんて、廊下まで聞こえる声を出している。
「ベビードール?赤ちゃんの人形か?」
「男っぽい赤井あおいにも女の子らしいかわいいトコあったんだ!」
と思い込み
「赤井~その人形見せてくれよ!」
と、勢いよく教室の戸を開けてしまった。いつもは例え急ぎでも女子校ゆえ、とくに体育前後は
「着替えたりしてるのいないよな!」
と声をかけるのだが。
案の定、戸の方向に振り向いた六年一組と二組が一斉に大きな悲鳴をあげる。中にはおっぱいを手で隠してしゃがみ込むのもいる。
「す、すまんっ!。わざとじゃない!事故だ!」
慌てて戸を閉める待った先生。
かわいそうに、あおいのいたずらにひっかかった待った先生、初等部だけでなく中高等部でも一位二位を争う女生徒に人気の待った先生、彼のファンクラブの小中学生、高校生はこの日に激減したのは言うまでもない。
>> 11
あおいたちは教室でブルマ姿に着替えている。
今日は一年生との合同自由体育だ。黒百合女学院初等部では、初等部六年生と一年生、初等部六年生と中等部三年生との合同自由体育がある。
昔これが始まったのは、学年を越えての交際力・交渉力・指導力を身につけさせるためなのだが、今や楽しいレクリエーションのお遊戯の時間と化している。
ともあれ、着替えながら四人娘にが話をしている。
「あの本、待った先生が没収して持ってるのかな?。まさか主任先生じゃないよね?。主任先生なら後で呼び出されて怒られちゃうよね?」
と心配してるのは美佐。
「わたしがあんな本を持ってたなんて、待った先生に知られて、さようなら、わたしの初恋」
と、待った先生に片想いしているゆかりは嘆いている。
あおいは・・・
さっきの朝の会で、同人誌を教室に隠していたのを、待った先生にチクリと指摘された四人娘。
実は今日風邪で休んでいる級長の桃井カネコを含めての、五人娘のあおい組なのだが、そのリーダー格のと言うより、喧嘩早さゆえに初等部リーダー格のあおいは、着替え中にとんでもないアイデアが浮かんだようで、
片想い相手の待った先生にとんでもない本を見つかってしまったと嘆くゆかりと、五人娘の美佐やみずきに、何事かをささやくと
「今日はカネコが休んでるから、自由体育、わたしが代わりをするね!」
と宣言して、いち早くグランドに駆け出す。
>> 12
着替えを済ませて校庭で先生たちを待つ、あおいたち六年一組二組と一年生一組二組の女の子たち。今日は六年生と一年生合同の自由体育だ。
「あっ!先生たち来たわよ」
と、あおいの肩をつついて知らせているのは美佐だ。立ち上がったあおいは、その小さすぎる体に似合わぬ大声で
「いいこと?。さっき話したように、今日の自由体育は隠れ鬼をしまぁす!」
「逃げ隠れる範囲は、幼稚部に中高等部を含めた、黒百合女学院山手校の全域でーす!」
「最初の鬼はぁ、先生たち四人だよっ!」
「みんなぁ!逃げろぉ!隠れろぉ!」
「隠れ鬼、始めーっ!」
と叫ぶあおい。
今日は級長の桃井カネコが休んでいる六年一組。均等にクラス編成したつもりが、なぜかイタズラ好きばかりが集まってしまった六年一組。
その中で唯一の良識派の級長の桃井カネコが休んでいる今日、副級長のあおいがもし、自由体育を乗っ取り仕切ってイタズラに使ってしまったら・・・と不安を感じていた六年一組と二組に一年一組と二組の先生たち。それでも今朝
「あおいは体調不良なので体育は休ませてくださいね」
と、あおいママからの電話で油断してしまった四人の先生たち。
「こらぁ!お前らふざけるな!」
「待てっ!逃げんな!」
「待ってえ!止まってえ!」
「準備運動まえに走るんじゃない!」
と、止めようと叫ぶも後の祭り、彼ら彼女らが静止する間すら与えず、蜂の子だか蜘蛛の子だかを散らかすように、あおいの号令で一斉に逃げ散らかる六年生と一年生。
盛大なる隠れ鬼ごっこが始まってしまった。
>> 13
自由体育であおいは叫ぶ
「隠れ鬼始めっ!。鬼は先生たち!。みんな逃げて隠れろ!」
油断した隙をあおいに突かれた待った先生たち四人の先生。一瞬、何が起きたか理解できずにいたものの、一早く待った先生はハッ!と気を取り直した。
そして「待てっ!」と、主犯のあおいを捕まえようと、走り出そうとするものの、いつの間に纏わりついたか、ゆかりが自分のジャージの裾を握りしめて放さない。
どうした?と思い、ゆかりの目の高さに合わせてしゃがむと
「松田先生、わたし、わたし、お腹が痛い!」
と、ゆかりが言い出した。
「えええー!こんな時に!」と、ますますパニックになる四人の先生たち。
「そうだ!保健委員の立花美佐、高田ゆかりさんを保健室に!」
と言おうとするも、ゆかりが追い打ちをかける。
「美佐ちゃん、あおいちゃんと逃げちゃいました!」
「じゃ、体育係の栗山ちはる、高田ゆかりさんを・・・」
「ちはるちゃんは保健室です」
と、ゆかり
時間が過ぎれば過ぎるほどに騒ぎは大きくなると考えた、六年二組の石原哲也先生が
「松田先生、先生が高田ゆかりを保健室に!。赤井あおいと皆は僕らで捕まえます!。あと職員室に報告を!」
「あーもう!」と仕方なく、ゆかりを保健室に連れて行くと決めた待った先生
「高田、歩けるか?」
と聞くと
「ダメえ、わたし歩けなーい」
「先生、おんぶして連れて行って!」
仕方なくゆかりをおんぶする待った先生。六年二組と一年一組二組の先生に後をお願いするしかなかった。ふと見ると、みずきも寒気がせると、保健室行きを希望している。
二人の気を紛らわせようと
「風邪が流行り出す時期かな?秋にしては今日は寒いよな。体調悪くなるのも無理ないよな。」
「赤井につられて逃げなかったお前たちは偉いぞ!いい子だぞ!」
とか甘いことを言っている。あおい組のこの二人も実はあおいの共犯なのに、それに気付かず疑いもしない、待った先生こと松田先生は人のよい先生である。
>> 14
「先生の背中って、大きくて温かくて気持ちいい」
保健室への渡り廊下で、自由体育の時間に腹痛を訴え、待った先生こと松田先生におんぶされたゆかりは、甘えきって先生の耳元にささやく。思わぬ女生徒の言葉に待った先生は聞こえないふりをしている。
この先生、幼稚園から大学まである黒百合女学院では、女生徒や女性職員の人気一位二位を争う男性教師なのに、年齢イコール彼女いない歴なのは、その天然な鈍さゆえ、彼女が出来るチャンスを自ら壊してきたのかも知れない。
「先生って、女の子の気持ちに鈍感ね!」
とでも言いたげに、
「ゆかりちゃんに気の利いたこと言いなさいよ!」
とでも言いたげに、みずきは待った先生のジャージの袖を引っ張ってウインクしている。
保健室のある本館校舎に入るころ
「先生、わたし寒すぎるから、先に教室に戻って制服に着替えます。」
「保健室は自分で行けるので、ゆかりちゃんを先に連れて行ってあげてください。わたし、着替えたら後で行きます。」
と、初等部高学年校舎の教室に帰って行った。
>> 15
「ねえ、松田先生」
と、ゆかりがおんぶしてくれている松田先生の肩越しに話している。
「さっきの朝の会のお話って、わたしたちの机に隠してた、あの本のことでしょ?。あれね、わたしのでも、美佐ちゃんやみずきちゃんや、もちろんあおいちゃんのでもないの」
「元を言えば、あおいちゃんのお姉ちゃんの、大学部の緑先輩のなの。」
「この前、美佐ちゃんと裏山の公園に行ったら、緑先輩が真鍋さんとデートしてて、挨拶したら緑先輩がわたしたちの絵を描いてくれて、それで話し込んでたら、緑先輩と真鍋さんが忘れて行っちゃった物なの。」
「それで、美佐ちゃんと話し合って、あおいちゃん経由で緑先輩に返すつもりで学校に持ってきたら、みずきちゃんがカバー開けて開いちゃって、何よこれ!な騒ぎになって、みんなが集まってしまって」
「いつの間にか、みんなで読もうよ!になって、わたし、話の途中でトイレ行って戻ったら、いつの間にか、みんなで隠そうってなっちゃってたの。」
「あおいちゃんも一緒に読むには読んだけど、あおいちゃん、委員会と先生のお手伝いに途中から行ってて、」
「だってエッチな本だから、それに開いちゃったし、皆の意見は割れて、隠して持っていることに。だって恥ずかしくて持って帰る勇気もみんな無くて。」
「だけど先週、やっぱり返そうって話で」
「松田先生はあおいちゃんの好きな人の真鍋さんの先輩なんだよね?。それ、わたし、あおいちゃんに聞いて知ってたから、先生から真鍋さん経由で緑先輩に返してもらおうって。」
「みんな、あおいちゃんには黙って持ってたから、あおいちゃんはわたしたちから緑先輩に返してると思い込んでるし、あおいちゃんにも渡しにくくて、緑先輩にも今さら返す勇気なくて、あおいちゃんも緑先輩も怒ったら怖いし、それで職員室に行ったの。」
「でも先生は男の人だから、こんなの読んでたなんて、みんな恥ずかしくて、結局、先生にも言えなくて。だからなの。校則違反してごめんなさい。わたしが悪いの。」
>> 16
保健室でゆかりは松田先生に全て打ち明ける。事の発端を。そしてさっきの自由体育での、隠れ鬼ごっこ集団エスケープも話し始める。
「それとね、さっきの隠れ鬼ごっこエスケープ作戦も、あおいちゃんは悪くないの。先生にあの本を見つかって、わたし恥ずかしくて落ち込んじゃったの。松田先生が好きだから。」
「あおいちゃん、わたしが先生を好きなの知ってるから、先生と二人っきりにしてくれるって。先生と話しておいで!って。」
「あおいちゃんが言うには、あの本はお姉ちゃんが原因なのに、もし初等部のみんなを校則違反で処罰なら、それはおかしい!って。」
「抜き打ちの持ち物検査なんて、黒百合はしたことないのに、いきなり没収はおかしいし、それは泥棒じゃん!って。わたしたちのいないときに持って行ったんだから!って。」
「初等部はあまりいないけど、中高等部には学校に要らない物を持ってくる人はたくさんいる!。中高等部を味方につけて、全員を共犯にして学校が誰も処罰できなくしてやる!って。」
「前例ない持ち物検査と没収なんて、自由と生徒自治の黒百合で、用務員さんや松田先生や初等部だけの独断で出来るわけがない!とまで言ってました。あおいちゃん頭いいから。」
「こんなこと出来ちゃうあおいちゃんは怒ったら怖いけど、普段は思いきり優しくて。あおいちゃんが騒ぎ起こしたのは、わたしが緑先輩の忘れ物を直に緑先輩に届けなかったからなの。」
「だから、あおいちゃんは悪くないんです。叱らないでください。悪いのはわたしなの。」
「わたし、先生が好きだけど、先生はこんな悪い子のわたしは嫌いだよね。」
事のあらましを思い詰めた顔で話すゆかりに、待った先生は時間をとって向き合うことにした。
>> 17
「わたし、パパがいないから、それで先生に憧れちゃったのかな?。わたし、わたし、先生が好きなの。でもわたしは悪い子だもん。」
「それに、わたしはまだこどもだから、先生はわたしに振り向いてくれないのも知ってるもん。」
「先生が好きだから特別扱いして欲しいとか、それは確かにあるけど、ちゃんと叱って欲しいの。わたし悪い子だから。」
との、ゆかりの言葉に待った先生は、今の六年一組、つまり去年五年一組の担任になったときに読んだ業務日誌を思い出した。
赤井あおい
幼稚部年長時に長姉が目前で交通事故死により一時失語。大学部の赤井緑は次姉。曾祖母の赤井菊は本学内部奨学制創設者。同級の立花美佐とは曾々祖父を共にする遠戚。幼稚部より内部入学。
諏訪野みずき
父子家庭。先天的形態異常治療ミスにより左耳を失聴。席順などに配慮を要する。外部入試入学。
高田ゆかり
初等部入学早々に父と兄が食中毒死。父性ある指導を継続し行う。母親、本学大学部首席卒業。系列校の柊幼稚舎より内部入学。
立花美佐
母子家庭。赤井あおいとは曾々祖父を共にする遠戚。母親、多忙かつ病弱により不在がち。母性と父性の両方を持った指導を母親は希望。本学幼稚部より内部入学。
桃井カネコ
母子家庭。父親の災害死で現在貧困世帯。初等部初の学内奨学生。配慮を要する。赤井あおいとは姉妹同然。赤井あおいの一時失語と外部入学生による桃井へのイジメにより、赤井家と赤井あおい、母親と本人の希望により、初等部卒業まで赤井あおいと同クラスとする。学力極めて優秀。本学幼稚部より内部入学。
赤井あおいも結構な部類のお嬢様だし、高田ゆかりも母子家庭とはいえ富裕層だ。立花美佐も。
いや、そんなことはどうでもいい。しかし担任になったときの疑問。
赤井あおいや高田ゆかりをはじめ、この五人組が他のお嬢様ぶっている生徒たちとは、なぜか自ら距離をとっていて、あまりつるまず、お高くとまってない理由。
赤井あおいや立花美佐と高田ゆかりが自分がお嬢様なのを隠し、むしろ庶民みたいに振る舞っていて、親しみやすく感じる理由。
また、それでもなぜか赤井あおいの言うことには、無茶苦茶なことでも、クラスの皆が従ってる理由が、今ごろになって、ようやく解った気がした待った先生だ。
自分のクラスを理解した待った先生はゆかりに語る。
>> 18
待った先生はゆかりに語る。
「高田よ、お前のしたことは、あまり良くない。いや、はっきり言うと悪いことだ。これは赤井も諏訪野も立花もだ。エスケープ作戦したり、忘れ物の本を本人に返さず勝手に読んだり、それにこどもが読んだらいけない本だっただろ?」
「それは授業妨害だし、拾得物横領だし、こどもが読んだらいけない本があるのは、犯罪からこどもを守るためだからだ。」
「でも、お前はいい子だ。もちろん、みんなもな。」
「だって、世の中には忘れ物や落とし物を自分の物にしちゃって、それを恥じず罪悪感も持たない人もたくさんいる。でも、お前らは返そうとしたし、恥ずかしいと思ってたし、罪の意識も持ってた。それに叱られるまえに、自分から謝った。」
「集団エスケープもそうだ。イタズラしても謝らないで知らんぷりする人もたくさんいる。でも、お前は自分から白状した。それに、そうなった理由もちゃんと説明したし、赤井の立場も言いぶんもちゃんと代弁できたし、ちゃんと弁護できた。」
「友達だからと、してはいけないことを庇うのは、時にそれは隠蔽という、もっと汚いことにつながるけれどな、お前は自分と友達の間違いをちゃんと報告できたし、ちゃんと代弁も弁護もした。」
「それはお前が素直で正直で優しくて強い証拠なんだよ。先生はそのお前の優しさが好きだよ。もちろん、赤井も諏訪野も立花もな。」
「で、お前は気持ちは大人に近づいてるけど、やっぱり世間ではまだこどもだから、でもな、お前が今話した通りのいい子でいて、もう少し大人になって、優しい女の人でいられたら、改めてもう一度好きと言ってくれよ。」
「どうせ先生は女の子の気持ちに鈍いからさ、多分まだ独身かも知れないぞ。それに、そのころは先生より素敵な王子様もお前を探してるかもだしな。」
「みんなもだが、お前が先生を好きなら優しい女に育ってくれよ。いいか、今からはお前は自分で自分を育てるんだ。先生とか親とかじゃない。そろそろ自分自身でな。」
「でも自分自身でどうにもならないときは、ちゃんと今みたいに相談するんだ。これはお前が大人になってもな。相談しに来てくれ。」
「お前が初等部卒業しても、お前は先生のいい子なんだからな。」
>> 20
『初等部篇 恋のエスケープの時間の後半』
「先生が好き」
高田ゆかりにそう言われてしまったからか、柄にもないことを言ってしまった!と、内心で照れながら保健室を出た待った先生。
すると、血相を変えた中等部一番の鬼教師の黒木良枝先生に捕まってしまった。
「中等部の廊下を走り抜け、何やら喚き散らして行ってるのは、松田先生、あなたのクラスの生徒ですよね!」
「新任先生でもないのに、生徒に脱走されたんですか?。市立じゃあるまいし学級崩壊ですか?。情けない!。」
「中等部はより良い学校目指して外部の高校に進学したい子もいるんです。それにほとんどが内部進学希望でも、成績上げて高等部で自分を有利にしたがるんです!。内部での高等部や大学部進学は枠がありますからね。」
「初等部とは違うんですよ!。皆に迷惑でしょうが!。さっさと中等部に行って捕まえて来なさいっ!」
「申し訳ありません!」
そう叫んで中等部に走って行く待った先生。
一方、その頃、六年生と一年生共同の自由体育で隠れ鬼ごっこ集団エスケープ騒ぎしたあおいたちは?と言うと。
美佐は六年一組と二組で分担して、中等部と高等部に斯々然々と伝えた後、皆を初等部六年の各教室に戻していた。
みずきは六年の他のクラスに斯々然々をして、その後、ちはると一年生をそれぞれの教室に戻していた。
ちはるは、みずきが一年生をそれぞれの教室に戻せるよう、一年生を呼び集めていた。と、言うより最初から一年生を班ごとに集まる場所を決めておいて、先生に見つからぬよう移動させていた。
先生たちがわたしらを必死に探してるのに、なぜかみんなが教室にいて、いい子で自習してるって、おちょくっていて楽しくない?の、あおいの発案のままに。
そして、黒百合女学院初等部リーダー格で、この隠れ鬼ごっこ集団エスケープの主犯のあおいは、この騒ぎでほぼ無人と化した初等部職員室の隣の用務員室にいた。
待った先生によれば、ゆかりとみずきに美佐の机の中からあの本を見つけたのは、用務員さんらしいからである。また、あの本が職員室全体の問題になり、教頭先生や主任先生の手にあの本が渡ったか?を確かめるには、職員室を無人にする必要があって、職員室を調べるつもりだった。
小学生の彼女なりの目には目である。勝手に没収したのだから、勝手に取り返してやる!だ。
>> 21
この騒ぎに無人と化した初等部職員室隣の用務員室に忍び込み、あの本を捜索しているあおい。待った先生によれば、美佐やゆかりたちの机の中からあの本をまず見つけたのは、用務員さんらしいからである。
でも、用務員室をいくら捜索しても、あの本は出て来ない。考えられる可能性は、
①用務員さんたちがお持ち帰りした。
②用務員さんたちが捨てたか誰かにあげるとかした。
③用務員さんの口からすでに公になり教頭先生や学年主任先生に知られ、教頭先生か主任先生の手中にある。
④待った先生が用務員さんから聞いてお持ち帰りした。
⑤待った先生の職員室の机とか更衣室のロッカーの中。
⑥待った先生の教室の机の中。
うーん・・・いちばんに可能性あるのは・・・と考えるあおい。用務員さんや教頭先生に主任先生たち、担任の待った先生の今までの言葉や行動とか性格を考えてみる。
あおいの頭に結論として思い浮かんだのは、
待った先生に今まで。さんざんにイタズラを仕出かしてきたあおいたち。
いくら待った先生を怒らせようとしても、いつもいつもイタズラを笑い飛ばしてくれて、たまにひど過ぎるイタズラして叱られても、あおいの両親や主任先生に言い付けたりしなかった待った先生だ。クラス内で起きたことはクラス外の人たちには関係ない!と、一貫した待った先生の態度だ。
ならば、あの本は、待った先生の教室の机の中にあるに違いない!と、結論を出したあおい。待った先生の性格ならば、職員室に持って行って、自ら騒ぎにするわけないからである。
それに、もしかしたら
もしかしたら・・・
あおいは先週の金曜日、本館購買室奥にある茶話室にコーヒーとちょっとしたお菓子を買いに来た黒百合女学院山手学長が、出くわした初等部校長と世間話ついでに話していた内容を思い出していたから。
>> 22
あおいは先週、黒百合女学院山手校学長と、その初等部校長が立ち話していたのを再び思い出していた。その立ち話は
「最近の黒百合女学院の女の子たちには、反骨精神や反抗期がないかのような、そんな大人しすぎる女の子ばかりで、お嬢様学校だから静かで良くても、ちゃんと自分の意思を貫ける大人になるかを考えたら、心配でもある」
だいたいこんな話だったし、その場に待った先生も黒木先生もいた。
姉の緑のエロ同人誌忘れ物事件は偶数でも、今日いきなりの、つか先週金曜日放課後の、生徒無人状態での抜き打ち持ち物検査したかのような
美佐やゆかりたちの机の中のアノ本を没収事件は、もしかしたら学長か校長が仕組んだ?
と、最初からあおいは疑っていたのだ。今まで持ち物検査なんかしたことない黒百合女学院である。持ち物検査したら校則違反の不要物持ち込みはいくらでも見つかる。
この学長、黒木先生をお気に入りにしている。その黒木良枝先生は中高等部時代は、学校側に反発ばかりして、デモまがいの騒ぎを散々に仕出かした伝説は、いまだに黒百合に残っている。そして校長と黒木良枝先生はかつては師弟関係だ・・・。
仕込みにわたしたち、ひっかかった?。と気付いたあおい。
それでもあおいは、アノ本が公になるまえに取り返したい。姉の処分を回避するためにも、仲良しの美佐やゆかりやみずきが自分を含めての処分を回避するためにも、自分の真鍋への恋路のためにも。
やっぱり一度教室に戻って、待った先生の机の中を調べるべきね。
そう呟くと、あおいは用務員室を出る。すると、自分を探しにきたゆかりと
鉢合わせした。
>> 23
「待った先生が好き」と、待った先生に告げ、待った先生の優しさに触れたゆかり。あおいの仕出かした、隠れ鬼ごっこ集団エスケープ事件の共犯になった理由が
「待った先生が好きだから」
と、ゆかりから聞いた待った先生の
「お前が優しい女の人に成長して、まだ俺が好きだったら、改めてもう一度好きと言ってくれよ。先生は女の子の気持ちに鈍いからさ、ゆかりが大人になったとき、どうせまだ独身かも知れないぞ。」
との言葉に希望を繋いだのもあり、また、待った先生がかわいそうになり
「教室に戻ります!」
と保健室を出ると、ちょうど教室に戻ろうとしていあおいと鉢合わせした。
ゆかりはあおいに語る。
「ねぇ、あおちゃん、さっき待った先生ね、あおちゃんも美佐ちゃんもみずきちゃんも、優しいとこが先生は好きって言ってたよ。」
「あの本があおちゃんの緑お姉ちゃんのってのもあるけど、あおちゃんの好きな真鍋さんのこともあるけど、待った先生って、わたしたちのイタズラをいつも笑い飛ばしてくれて、事を大袈裟にするような先生じゃないよね。」
「あの本のこと遠回しで言ってくれたのは、返すからそっと取りに来なさいって意味じゃないの?。わたしたちがエッチな本ばかり読むような女の子じゃない!って、信じてくれているんだと思うの。」
「それとね、さっき中等部の黒木先生も、怒って来てたよ。」
「あおちゃんの考えは、生徒がいないときに抜き打ち持ち物検査して、生徒がいないときに没収なんて泥棒と同じだ!。それに黒百合女学院は自由と生徒自治の学校だから、先生が生徒に任せずに没収するのはおかしい。だから中等部と高等部を巻き込んで、誰も処罰できなくしてやる。でしょ?」
「もう中等部の黒木先生も動いてくれてるから、もう目的は果たしたよね。もう充分だから謝りに行こうよぉ」
「あおちゃんが歳の離れた真鍋さんを好きなように、わたしも待った先生が好きなの。待った先生がかわいそうだよ。それに待った先生はあおちゃんにも、緑お姉ちゃんにも、真鍋さんにも、きっと悪いようにはしない先生だよ。」
「ねえ、もうやめよう。」
>> 24
待った先生に片想いしてるゆかりや美佐たちと話し合ったあおいは、自宅に電話をかけている。
待った先生に素直に謝ることにしたのだが、問題は中等部一番の鬼教師の黒木先生が騒ぎに絡んでしまったことだ。
受話器の向こうで呼び出し音が長く繰り返された後、前夜の合コンの夜更かしから目覚めた、姉の緑が出た。
「お姉ちゃんあのね、今ね、わたし学校で大騒ぎ起こしちゃったの。原因はお姉ちゃんだからね。」
「お姉ちゃんが教育学部のくせに、初等部の美佐ちゃんたちにアノ本見せるから。アノ本ね、美佐ちゃんやゆかりちゃん達が持ってて、それを待った先生に見つかっちゃったからだからね。」
「それでお願いなんだけど、おじいちゃんかパパと初等部に来てちょうだい!急いで!」
あおいの
「黒木先生が絡んじゃったから」
この一言に一気に青ざめる緑。緑はあおいのような内部進学組ではない。公立中学から外部受験で高等部から黒百合女学院に入ったのだ。中等部からの内部進学組からは、黒木先生の恐ろしさを嫌というほど聞いていたし、初等部のあおいたちからも噂は聞いていても
初等部はそうでもないのだが、中等部と高等部は校舎共用部分が多くて、根がお転婆の緑は高等部にもかかわらず騒ぎをやらかしては、黒木先生に見つかっては、何度もこれでもかと雷を落とされていた。
自分と黒木先生をあおいに
「まるでトムとジェリーね」
と冷やかされて、確かに黒木先生とは時に気は合うのだが、怖い先生なのは間違いなく。大学部に内部進学して、やっと黒木先生から解放された!と思っていたのに、自分が描いたエロ同人誌のせいで
時にヒステリックで、中等部校長が相手でも持論は絶対に曲げない。大学部でも黒木先生に頭が上がらない先生や学生は多い。そんな黒木先生は、黒百合女学院理事長の娘。
と、なると、あおいたちだけではない。あおいに巻き込まれて我が身が処罰されている姿が嫌でも脳裏に浮かんでくる。
「ち、ちょ、ちょっと待ってなさい!おじいちゃん連れて行くから!」
そう叫ぶと、受話器を放り投げ、離れのおじいちゃんの部屋に慌てる緑だった。
>> 25
あおいが初等部から家にかけてきた電話で事のあらましを聞いた、あおいの九つ上の姉の緑。
「ちょっと待ってなさい。おじいちゃん連れてすぐ行くから!」
受話器を放り投げ
「おじいちゃん、あおいが大変!」
元を糾せば、自分のせいで妹のあおいが大変!となるはずだが、それは頭にない緑。でも、おじいちゃんに泣きつくしかないから、慌てておじいちゃんの部屋に飛んで行った。
わたしのおじいちゃんは黒百合女学院元理事。わたしのひいおばあちゃんには、たとえ黒百合女学院の総学長でも頭が上がらない。おじいちゃんはその息子。ひいおばあちゃんの御威光でおじいちゃんに、黒木先生が絡んで角々する話を丸くしてもらうしかない。
そう思う緑は昼寝中のおじいちゃんを揺り起こす。
赤井あおいとその姉の緑の祖父、赤井慎太郎が来校したことで、早急に意思を決めねばならなくなった黒百合女学院山手校は揺れていた。しかし、山手校の先生たちの色んな思いをよそに、放任放置主義の慎太郎は、あおいや緑を庇うような言葉は一言も発しなかったが。
今や、黒百合女学院山手校の意思がまとまらない原因は、中等部一番の鬼教師の黒木良枝先生にあった。
黒木先生は中等部での会議で、こんな騒ぎを仕出かした赤井あおいたち初等部六年生への、中等部への内部進学拒否を主張し続けたが、いくら何でも初等部の小学生にそれはやりすぎとされると、今度は初等部の会議に顔を出し、初等部での赤井あおいたちへの処分の必要性を説いていた。
>> 26
そして今、黒百合女学院の山手校学長室には、あおいの起こした騒ぎに巻き込まれた、中等部校長と黒木先生、初等部校長と待った先生たち六年生担任、当事者のあおいたち、その祖父の慎太郎と姉の緑がいた。
幸い、あおいが最も怖れた黒木一郎理事長は、こどものイタズラに阿保らしいと、さっさとゴルフか何かに行ってしまったらしい。あおいたちを処分すれば教師たちを指導力不足と処分せねばならなくなり、それは娘の黒木良枝先生を処分しなきゃならなくなる可能性を含むからだ。誰が自分の娘を好き好んで処分したいものか。
そんな中、関係者が集まった学長室で安部幸太郎学長が口を開く。
「黒木先生、どうしても赤井あおいくんを処分しなきゃ駄目かね。君も中等部学生時代は、結構な元気良すぎる生徒だったはずだが。」
黒木先生が言い返す
「学長、確かにわたしは騒ぎをやらかしてしまう生徒でした。しかし他校、つまり幼稚部や中等部さらに高等部、挙げ句の果てに大学部まで巻き込むような大騒動など、起こしたことは一度もありません。」
「赤井あおいは初等部に異議があるならば、初等部の問題として行動すべきで、幼稚部から大学部まで巻き込んだこの騒ぎは明白にやりすぎです。」
すると安部学長
「だがね、昔の君は中等部校長の娘と、周りが気を遣うのが嫌で本学に反発していたのではなかったかね?。それと反権力・反伝統で。だとすると、君は反伝統の改革者たる教師でなければならない。それが論理一貫性と言動一致と言うものだ。」
「ところがだよ、君の処分必要論を聞くと、伝統とか校風とか校則とか常識とかの、ありふれた保守的な教師の論でしかない。君は改革者なのかね?。それとも、君の生い立ちや学生時代の言動に矛盾する伝統派なのかね?。」
「それにだよ、この赤井あおいくんは本学の内部奨学制度創設者の赤井菊女史の曾孫で、その祖父慎太郎氏は本学元理事だ。先祖や父親の社会的立場で窮屈な思いをしていた、昔の君と似たような生い立ちではないか。」
さらに学長の言葉は続く。安部学長は黒木先生に問い質した。
「黒木先生、本学の生徒心得を述べてみたまえ。」
>> 27
さらに安部学長の言葉は続き、黒木先生に問い質した。
「黒木先生、本学の生徒心得を述べてみたまえ。」
黒木先生は流暢に応える。
「一、旗の下に群がる烏合の衆とはならず、自ら旗を掲げる者であれ」
「一、己が掲げた旗は無責任に降ろすぺからず」
「一、旗を掲げた者は自らその先頭たるべし」
「一、ゆえに本学生徒は文武両道たるべし。些かもこれを怠るべからず。」
「一、これをもって汝は善き奉仕者たる国民となれ。」
安部学長は言う。
「黒木先生、君は学生時代は本学に対し、伝統打破を叫んでいた。確かに本学は君の主張は時期尚早とその大部分は受け入れなかった。しかし、だからと君を処分したかね?。時間をかけて丁寧に君の主張を聞き取り、改める時期にあることは改めた。ゆえに今の黒百合女学院はある。」
「それなのに君は自分が掲げた旗を無責任にここで降ろすのかね?。君が本学教師になったのは、引き続き本学改革をしたかったからのはずだ。」
「一方、赤井あおいくんは初等部生徒という年少ながら、自由体育前の休憩時間という、極めて短時間に初等部六年生と一年生を統率掌握した。そしてそれは、瞬く間に中等部と高等部の共感を勝ち得た。そればかりか異なる場所にある大学部にまで波及した。」
「さらに動機は同級生や大学部の姉への、本学の不当なる処分を回避するためと、不当なる抜き打ち持ち物検査と没収への抗議のためで、正当である。」
「また、それを旗を隠し背後に隠れての人頼みではなく、堂々と旗を掲げた。そして、確かに方法を間違えてしまいましたと謝罪している。それでも主張には些かの誤りもない!と胸を張っている。」
「そもそも本学は生徒の主義主張は最大限に尊重し、それを育てるのが学校創立目的だ。そして」
>> 28
安部学長はさらに黒木先生に諭すように語る。
「確かに初等部の高田ゆかりくんと立花美佐くんは、本学には好ましくない本を持ち込んだ。だがね、それはその本を忘れ物した大学部の赤井緑くんに、妹の赤井あおいくんを通じて返すためだ。君は人様の親切心を踏みにじるのかね?。」
「さらに赤井緑くんの制作したこの同人誌だが、確かに不純なる性の問題は本学の処分対象だ。だが君はこれを読んで発言したかね?。これは同人誌ゆえ多少の猥褻さはあった。しかし中身はちゃんとした恋愛物だ。原作を理解せねばこの同人誌の言いたい主張は理解できないものになっており、これはただの猥褻図書ではない。」
「さらにこの同人誌の制作は本学の学生によるものだが、学内では制作されていない。恋愛漫画研究部としての、通常の恋愛漫画の研究とは別に学外で制作されている。しかも元系列校の黒川学院大学も制作に関わっているから、本学生徒だけを処分して済む話ではない。」
「それからだね、生徒に無断でしかも生徒の在宅中の校内不在時に、反論の機会すら与えずに生徒の机の中から没収したのが、騒ぎの原因であって、不在時に断りもなく没収したのは窃盗だ!との、赤井あおいくんの主張も、黒百合は自由と自治の学校だから、持ち物検査や没収したければ、生徒代表を選び生徒にある程度は判断を任せるべきであるとの、赤井あおいくんの主張も、極めて適切で正当である。」
「おまけに、その無断没収は本学教師の本学教育方針の理解不足による不当なる処分である。」
「最後にこれは黒木先生の責任問題だがね、そもそも君は中等部の風紀担当教師だ。赤井あおいくんが騒動を起こしても、それが中等部に波及するのを阻止するのが君の職務だ。初等部六年生が授業中に中等部に入った際、それを止めるのが君の役目だったはずで、反初等部松田先生の波を中等部に波及することを許してしまったのは君の注意力不足によるものだ。」
「よって本学黒百合女学院山手校は、赤井あおいくんを始め初等部六年生の四人を処分できない。それは彼女らを処分するならば、本学関係教師への処分を外せなくなり、元系列校の黒川学院大学の学校自治に本学が口出しすることも出来ないからだ。」
「黒木先生、わかったかね?」
>> 29
安部学長は一息つき、今度はあおいたちに話し始めた。
「初等部の赤井あおいくん、そして諏訪野みずきくんと高田ゆかりくん立花美佐くん、安心したまえ。あの問題の本の件では大学部のある黒百合女学院中央校と本学黒百合女学院山手校の意思は、初等部の君たちと大学部の赤井緑くんへの処分はありません。」
「そして今から話すことは、お説教とか処分とか思わないでほしい。」
「今回の騒ぎは、君たちが方法を間違えましたと謝罪したように、大変な大問題になった可能性があるのだよ。」
「この街の市立小学校に不審者が侵入して逮捕された話は、朝の会で聞いたはずだね。もし、この騒ぎの最中に不審者が侵入したらどうなったかな?。先生たちは君たちの命も預かっているんだよ。まだ本学になれていない初等部一年生を巻き込むのは良くないね。」
「それに謝罪出来たのは迷惑をかけた自覚があるからだよね。実際に幼稚部から高等部までが騒ぎになったのだから、反省してくれないと困る。何か行動を起こしたいときは、危険はないかとちゃんと考えないといけないね。これを生兵法は怪我の元と言う。」
「というわけで、この騒ぎに対する本学黒百合女学院山手校としての本学初等部への処分を伝えます。」
「赤井あおいくんは二日の自宅謹慎。このついでに風邪を治したまえ。諏訪野みずきくん、高田ゆかりくん、立花美佐くんは一日の自宅謹慎。どうせ明日は創立記念日でお休みだし明後日は祭日だ。私の独り言に君たちが感動してくれて、なぜか勝手に謹慎してくれる。つまり正式には処分ではない。」
「ここら辺が落としどころでどうかね?。」
「赤井あおいくん、君の行動力は方法を間違えねば賞賛に値する。でもね、自分色の旗を振るだけでは争いは解決しなかったりするが、互いが一歩譲ることで、互いの旗が弓矢で傷つかなくて済む。この辺で納得してくれたまえ。」
「以上だ。もうすぐ初等部は総下校時間だね。初等部六年生に処分はないし帰宅してよし。赤井あおいくん、君の口から六年生の皆にそう伝えてくれたまえ。」
>> 30
安倍学長の決定で騒動を起こしたあおいに処分なしとされ、あおいたちが改めて謝罪し帰宅の途にある頃、学長室では、あおいの祖父の赤井慎太郎と学長の安倍幸太郎そして中等部教員の黒木良枝が話をしていた。
「いや~黒木先生、惚れ惚れする鬼教師役の演説、ご苦労様でした。あおいも緑も少しは身に染みたと思います。学長も訓戒、素晴らしかったですな。」
とは赤井慎太郎。
「親父さん、お世辞は止してくださいよ」
と応えているのは安倍学長。
黒木先生も
「そうですわ。赤井先生の前で演説させられるなんて、わたし、穴があったら入りたいです。」
「でも、初等部と中等部合同の抜き打ち持ち物検査を松田先生と相談したときは、まさか、あおいさんにここまで行動力があるとは思いませんでした。」
「赤井先生、あおいさんのお転婆ぶりを嘆いてらしても、実は内心は喜んでらっしゃるのでしょう?」
安倍学長は赤井慎太郎に語る
「ご存知のように、本学では持ち物検査などしたことはありません。それを急に抜き打ちに理不尽に行い、有無を言わせずに厳しく没収する。これで反発してくれないようでは情けなさすぎますな。」
「しかし、あおいさんは期待に応えて反応してくれました。まあ、少し度が過ぎましたが、こちらにも落ち度ありますので。」
「まさか、うちの用務員があの本を見つけてしまい、松田先生に渡してしまうとは。松田先生も抜き打ち持ち物検査予定日でもないのに、想定外でした。」
すると赤井慎太郎
「いやいや、予想外に予定が変わるのは有り得る事です。それにうちのあおいは怖いもの知らずなだけですから。」
「前にもお話しましたように、私は長くありません。それで我が塾は孫のあおいに任せたいんですが、まだ幼くてですね。緑が中継ぎしてくれるとは思いますが。我が長男は教育に不向きで。それであおいが教員取ったらこちらで鍛えて下さい。」
これを聞いた安倍学長
「そんな弱気を仰有らないで下さいよ。先代学長が骨抜きにした本学を創立時の質実剛健な学校に戻す。お嬢様学校でも、いずれ卒業して人様の上に立つには強さは必要ですからね。それで赤井家の支援は本学にはまだまだ必要なんです。」
>> 32
「ひどぉい!。わたし、わたし、先生か好きなのに。先生を信じてたのに!。」
と泣き出すゆかり。何があったのか?。それは・・・
初等部であおいたちが起こした、隠れ鬼ごっこ集団エスケープ騒ぎから三日目の木曜日、あおいたちは元気に登校していた。チャイムが鳴り、朝の会が始まる。待った先生こと松田先生が
「それでは、点呼代わりに宿題の読書感想文を出席番号順に出して下さい。まず一番の赤井あおい」
呼ばれたあおいは教壇まで行くと
「先生、わたし、お転婆しないで大人しく寝て、謹慎中に風邪を治しなさいって学長に言われたので、良い子で寝ていたわたし、宿題、やってませ~ん!」
「でもね、あの時のぉ待った先生のぉ、わたしへのぉ熱~い想いが嬉しかったからぁ、庇ってくれたお礼にぃ、はいっ!プレゼントあげちゃう!」
と、一枚の紙を差し出す。松田先生が手紙か?と思って見ると、なんとそれは、ご丁寧にも松田先生とあおいの名前が書かれ、しかも二人のハンコまで押された婚姻届。
「なんだこれは!」
思わず叫んでしまう松田先生。すると、ゆかりが立ち上がり叫ぶ。
「あおちゃんズルイっ!。」
「五人みんなで渡す約束でしょ!」
「松田先生、わたしも婚姻届、書いて来ました!」
そう言いながら教壇に押しかけるゆかりたち。わけがわからないし、小学生を口説いたなんて全く身に覚えのない、ロリコンではない松田先生
「まっ!待て!。なんでこうなる?」
普段はおとなしいゆかりのはずだが
「先生、好きって言ってくれたじゃない!。優しいからわたしたちが好きだ!って言ってくれたじゃない!」
これを聞いた、クラスの六年生の女の子たちが「え~!」と叫ぶ。中には口笛をヒューヒュー鳴らして冷やかしてるのまでいる。
「い、いや、それは教育上の一般論!。お前たちには優しい良いところがあるから、このまま優しい女の人になってくれ!の意味だ!」
と必死な松田先生
「先生、大人なら自分の言葉に責任持つべきだと思いま~す。でも今すぐ結婚してね!ってわけじゃないから安心してね。」
と、あおい。ゆかりまで
「もう少し大人になって、俺に改めて好きと言ってくれ!。って先生はわたしに言ってくれたばかりなのに!」
「わたし、わたし、先生を信じてたのに!。ひどぉい!結婚詐欺だぁ!」
と泣き出すゆかり
>> 33
「先生ひどい!結婚詐欺だぁー!」
と泣くゆかりに慌てる待った先生。実は泣き真似なのに気付かずに。そして何でこうなった?と、記憶を辿る。
確かにあの日、待った先生はゆかりに
「お前たちは優しい良い子だから好きだよ」
と言った。もちろん恋の意味ではない。その日ゆかりはあおいと隠れ鬼ごっこ集団エスケープを仕出かした後、待った先生の人の好さに耐えられず
「わたしは悪い子だから、先生はわたしを好きになってくれないよね」
と泣いた。まさか泣いている生徒を放置できるわけもなく、ゆかりたちの優しさという長所を出しての、励ます意味での
「優しいお前たちは好きだよ」
だったのだが、ゆかりが先生を好きと知るあおいのゆかりと仕組んだ今日の
「先生はわたしが好きって言ったばかりなのに!」
の泣き真似イタズラに、自分が小学生を口説いたうえに振った、悪いロリコン教師みたいな立場になってることに動揺し、こうなれば頼りはクラス唯一の良識派の級長の桃井カネコだけだと
「桃井、笑って眺めてないで助けてくれ」
と懇願するも、ニコッと満点の微笑みを見せたカネコはあおいたち同様に
「先生、ゆかりちゃんに聞いたんですが、先生はわたしも好きなんですよね!。わたし嬉しいです!わたしとの婚姻届けにもサインして下さい!」
と言い出す始末。
「大人のくせに小学生を何人口説いてんのよ!」
のクラスの女の子皆の冷たい視線に耐え切れずに、学年主任が担任している六年四組の教室に
「主任!助けてください!」
と逃げ出す待った先生だった。
「上手くいったね!ドッキリ成功!」
とハイタッチするあおい五人組。でもあおいはすぐ真顔になり
「美佐ちゃん、あれはドッキリですって先生呼んできて」
と言うと
「みんな~宿題出してね~そして先生が来るまで自習しようね」
とカネコと感想文の宿題を集めて回る。その感想文の一番上には文末に
「この前は騒ぎを起こしてごめんなさい。そして皆を庇ってくれてありがとうございます。今朝のはゆかりちゃんと皆でのお礼の、先生大好きドッキリを誕生日プレゼントです。」
と書かれたあおいの感想文と同様に書かれた、待った先生を大好きなゆかりの感想文があった。
>> 34
「わたしを好きだと言ったのに先生ひどい!」の、六年一組全員での泣きまねイタズラに堪らずに逃げ出した、待った先生。
「あれは先生大好き!ドッキリです。先生なんか大嫌い!ドッキリより嬉しいんじゃないんですか?。みんな自習して待ってます。」
と、あおいに頼まれ呼びに来た美佐に言われてクラスに戻ると、いつの間に自分の誕生日を調べたのだか、六年一組の全員に
「先生、お誕生日おめでとうございます!」
と迎えられた。
よーし、今日も張り切って授業するぞ!と、イタズラ好きなあおいたち六年一組に揉みくちゃにされても、教師するのも悪くないな!と思い、目が潤んでくるのであった。
ドッキリの話を知られて職員室で先生たちに
「松田先生は六年生の女の子にモテモテですわね、このプレイボーイさん!。」
とまでからかわれる始末で、この日はついついテストの採点も甘くなる幸せいっぱいな松田先生であった。
が、しかし、そんなしあわせも束の間、テストを返す際についつい
「赤井、お前は点数乱高下がひどすぎる。お前は本来は出来る子だ!。」
「もっとテスト中は気持ちを落ち着けてれば、この前みたいに、また百点満点連発かも!。落ち着いて頑張ろう!なっ!?。」
と、あおいと目の高さを合わせて、あおいの両手を力強くギュッと、愛情込め込めして握りしめた瞬間に、それは来た。
「点数悪かったのが皆にバレちゃうでしょーが!女の子に恥かかせるなんて最低!このドーテー!💢」
クラスで一番に、いや、初等部で一番に気が強く手が早いあおいに股間を蹴り上げられて、待った先生はのたうち回るのだった。
《修学旅行で告白?》
冬休み前の修学旅行に出発する、黒百合女学院初等部の六年生たち。一昨年までは五月に行われたのだが観光旅行に形骸化したために、昨年からスキー合宿になっている。
六年一組の教室では、担任の待った先生が訓示している。
「くれぐれも黒百合女学院の名門の名を汚さぬよう、軽はずみな恥ずかしい言動はしないように!」
「待った先生の淑女論がまた始まった」
と、あおいたちは聞き流している。
それに気付いた待った先生、ついつい叫んでしまった。学習しない天然なのである。
「特にそこの赤井あおいの五人組!、いや、桃井は良識派だから四人組か。お前らが先生は一番に怖いんだ!。くれぐれもイタズラしたり姿くらますなよ!」
それを見てニヤリとほくそ笑む、あおいと美佐。
級長の桃井カネコは思う。
「先生、逆効果です!。寝ている鴨の子に葱を持たせて鍋に入れ、かまどの火に油を注いでしまってます!」
>> 36
担任の待った先生に恋するゆかりの隣の席、修学旅行のバスの窓際の席のあおいは、水を水筒のお茶で温め、キティちゃんのリュックサックから水鉄砲を取り出す。それを見て不思議がるゆかり
「ねえ、あおちゃん、何してんの?」
「まあ、見てて。待った先生って去年も今年もバス遠足、ガイドさん任せで寝てたでしょ?。今日もきっと寝るわよ。」
お水が冷たくないレベルに温まったころ、あおいとゆかりが確認すると、通路挟んで反対側の席の待ったは、あおいの言ったとおりに眠りこけている。小学校教師は意外や多忙ゆえに。
温めた水を水鉄砲に入れるあおい、待った先生のズボンを狙い引き金を引いた。そして頃合いを見計らい、あおいは待った先生の後ろに座る美佐に合図を送る。
待った先生の隣に座り替えた、子役経験ある美佐は切迫したような声で叫ぶ。
「待った先生、大変です!起きてください!大変なんです!」
「な、なんだ!?どうした?。事故か?怪我か?病気か?喧嘩か?」
目を覚まし慌てて立ち上がった待った先生は叫ぶが、美佐が追い打ちをかける。
「先生ぇ、何を漏らしたんですかぁ?。ズボン濡れてますけど。みんな困るので早くズボン履き替えてください。臭~い!(笑)」
わけわからない待った先生、お漏らしの自覚は全くない。でも、見ると確かにズボンは濡れている。なんで?・・・
「まっ待ってくれ!誤解だ!間違いだ!」
「先生は漏らしてないぞ!」
「先生、お漏らしじゃないなら、何を漏らしたんですかぁ?。先生エロ~い!。先生のえっちぃ!へんた~い!」
と騒ぐ六年生たちに叫んでしまう待った先生
「な、なっ!違う!俺は変態じゃねえ!ノーマルだ!」
すると、反対側の窓際の席からクスクス声がしたかと思えば爆笑に変わる。
「先生それはただの水ですよ。安心してください。それより先生、寝てないでちゃんとわたしたちを見ていてください。」
しまった。赤井がイタズラしないわけがない!油断してしまった。そう思う待った先生だった。
>> 37
「カネコはおっぱい大きくていいなぁ!。わたしにもおっぱいちょうだい!」
「あ、あおちゃんダメだよぉ!。わたしたち女の子同士なのにダメだよぉ!」
騒いでいるのは・・・
舞鶴港でバスからフェリーに乗り換え、バスに乗り換えてスキー場に着いた、黒百合女学院初等部六年生。学校貸し切りのログハウス風のかわいいペンションで
「今日はこれから皆で夕食作りと食事、班ごとに入浴!それ以外は朝まで自由行動!。」
「ただし、暗いからここの敷地以外には外出禁止!。外に出て遭難するなよ!」
待った先生が訓示している。学校を出発したときは、あおいを名指ししてイタズラすんなよ!と、つい言ってしまい寝た子を起こした失敗から、今回はあおいたちイタズラ娘五人組を放置している。
皆で夕食を作り、皆で夕食を食べ、ひとしきり雪合戦とペンション探検をしているうちに、あおいたちの入浴の番がきた。
カネコのブラを見てゆかりが羨ましがっている
「あー!カネちゃん、そのブラかわいい!。どこで買ったのぉ?」
「カネコはおっぱい大きいからいいなぁ!。わたしにもおっぱいちょうだい!。」
あおいはカネコに飛びついて、高校生サイズはありそうなカネコのおっぱいを揉んでいる。悶えるカネコ
「だっダメだよぉ!。あおちゃんダメぇ。わたしたち女の子同士でダメだよぉ・・・・・!」
とかなんとか可愛い声できゃーきゃー騒ぐあおいたち。その声は隣の男風呂にも筒抜けで・・・。入浴指導を女性教師にお願いしてお風呂で一息ついている男性教師たち、もちろん、その中には待った先生もいてため息をついている。
「あいつら女同士で何してんだよ。筒抜けの丸聞こえなのに・・・」
>> 38
「せっ、せんせい、なんで女風呂に入って来てんのっ!」
思わず湯舟で立ち上がり、待った先生に叫ぶあおい。時は数分遡る・・・
不思議な穴を発見したカネコは一緒に湯船に浸かるあおいたちに、その穴を指を指している。
「ねえねえ、あの穴って何のためにあるのかな?」
カネコが指差してる辺りをあおいたちが見ると、湯船から立ち上がる壁と湯船の底が交差する辺りに、こどもが通れそうな穴がある。
「温泉があそこから湧いてるか繋がってるとか?」
「いやいや、このペンションは温泉の町じゃないから。」
「じゃあ、向こうは井戸か涌き水?」
みずきが
「探検してみようよ!」
小学生にしては体が大きく発育の良い、よく高校生かと間違われるカネコは
「え~わたしあの穴くぐれないよぉ。みずきちゃんも無理じゃない?」
「わかった!。わたしとゆかりちゃんなら小ちゃいから楽勝ね!。帰ったら報告したげるね。」
そう言うと、あおいとゆかりは湯船の湯に潜る。行き着いて顔を湯船から出したら、そこには・・・
「せっ、せんせい、なんで女風呂に入って来てんのっ!」
「きゃあ!。松田先生のエッチぃ!。覗きですか!?」
思わず湯船に仁王立ちしてしまうあおい。一方ゆかりはおっぱいを手で隠し縮こまる。
その声に思わず額の上の眼鏡を目元にずらし、振り向いた待った先生
「お、お、オマエらどこから入った!。つか、いつどこから涌いて出たっ?」
「こっちは男風呂だぞ!出てけよ!」
>> 39
カネコが見つけた不思議な小さな穴。調べよう!ってことになり、あおいとゆかりが潜ってみると、湯船に開いた不思議な小さな穴の向こうに着いてみれば
「きゃーっ!。せんせい、なんで女風呂に入って来てんの!覗き?サイテーっ!」
「潜り込んできたのはオマエらだろが!」
「こっち見るなよっ!。このロリコンのホーケーのドーテー!」
飛んでくるあおいの罵詈雑言、普段は誰にも優しい、みんなのお兄ちゃん先生な待った先生、この日はついに一瞬だがキレた。そして思わず叫ぶ。口から出たのは
「うるせえ!見れたヌードでもないこのまな板のガキんちょが!」
「先生は苞茎だけどな、童貞じゃねえ!。それにロリコンでもねえ!熟女のほうがいいんだ!小便臭いガキは対象じゃねえ!」
と、まあ恥ずかしいカミングアウトをしてしまった待った先生。でも天然ゆえに自覚してるかどうか・・・。しかしそれを聞いた、待った先生ラブのゆかりは
「せんせいひどい!。せんせい、わたしが好きって言ったくせに!。しかも今わたしのハダカ見たくせに!」
慌てる待った先生。「お前は優しい良い子だから好きだよ」と、一般論で諭した際に、高田ゆかりに告白されていたのを思い出した。先生だからそれは受け入れはしなかったが。
「ち、違うんだ。高田はいい子だ。ご、ごめん!」
「じゃあ、先生、責任とってくれる?・・・」
「・・・なあんてね。先生、今恥ずかしいカミングアウトしちゃったの気づいてますか?」
一方、壁一枚向こうの女風呂に筒抜けた待った先生たちの声に
体の成長は六年生でいちばんでも、心の成長と言うか性的な一般常識が追いつかないカネコは首を傾げる。
「ねえねえ、美佐ちゃんにみずきちゃん、童貞とか苞茎って何のこと?」
「カネちゃん、それは生命の神秘なの」
と、ごまかす美佐とみずき。純真無垢で天使なカネコを守りたくて。それでも
「待った先生、自分が苞茎と認めちゃった!。しかもマザコンだったとは・・・。顔だけが残念じゃなくてアソコも女の趣味も・・・」
カネコに聞こえぬようナイショ話する美佐たち。このカミングアウトは瞬く間に広まったのは言うまでもない。
- << 44 スキー合宿先のお風呂で髪を洗っているあおい。隣では、六年生になってやっとシャンプーハットのお世話にならずに髪を洗えるようになった美佐が髪を洗っている。 目を閉じたまま前方をまさぐる美佐。トラベルセットの二本がセットになっているシャンプーとリンスのケースを探し当て、リンスを掴み蓋を開け傾ける。が、 「あー!これ空き瓶だあ!」 「あおい、リンス貸してぇ」 あおいにそう言うも、あおいは遠戚の美佐をあてにしてシャンプーすら持って来てなくて、ゆかりに借りている。それで美佐もゆかりにリンス貸してと頼むも 「美佐ちゃんが自分ん家のお店の新作リンス、持って来てくれるって言うから、みんなリンス持って来てないよ?」 「あー!そうだったぁ!」 「みんなゴメンね、わたし、すっかり忘れてた」 あおいの班の次にお風呂に入る、ちはるたちの班の声が脱衣室に漏れてくる。 「ねえ、ちはるぅ誰かのリンス貸してぇ!」 脱衣室のちはるらに美佐がそう大声を出すと、空からリンスが降ってきた。いや、飛び込んできて、あおいの背中に命中する。声を荒げるあおい 「誰よぉ!わたしにリンスぶつけたのは!」 「ねえねえ、あおちゃん、これ男風呂から飛んできたわよ」 脱衣室から顔を覗かせていたちはるがあおいに言う。ゆかりはそのリンスの蓋を開けて鼻をクンクンさせて、香りを嗅いで言う。 「これ、松田先生の髪のにおいだよ」 目を合わせて見つめ合うあおいたち。しばらくしておもむろに深呼吸すると、示し合わせたかのようにハモるかのように一斉に、これ以上ない大きな大きな悲鳴を 「きゃーっ!待った先生のえっちぃ!へんたーい!チカーン!覗き魔っ!」 隣の男風呂では待った先生こと松田先生が 「なんで俺が悪者にされてるんだよ」 と心の中で泣いていたとかいないとか。 (訂正版)
>> 40
カネコが見つけた不思議な小さな穴。調べよう!ってことになり、あおいとゆかりが潜ってみると、湯船に開いた不思議な小さな穴の向こうに着いてみれば…
スキー合宿先のお風呂で髪を洗っているあおい。隣では、六年生になってやっとシャンプーハットのお世話にならずに髪を洗えるようになった美佐が髪を洗っている。
目を閉じたまま前方をまさぐる美佐。トラベルセットの二本がセットになっているシャンプーとリンスのケースを探し当て、リンスを掴み蓋を開け傾ける。が、
「あー!これ空き瓶だあ!」
「あおい、リンス貸してぇ」
あおいにそう言うも、あおいは遠戚の美佐をあてにしてシャンプーすら持って来てなくて、ゆかりに借りている。それで美佐もゆかりにリンス貸してと頼むも
「美佐ちゃんが自分ん家のお店の新作リンス、持って来てくれるって言うから、みんなリンス持って来てないよ?」
「あー!そうだったぁ!」
「みんなゴメンね、わたし、すっかり忘れてた」
あおいの班の次にお風呂に入る、ちはるたちの班の声が脱衣室に漏れてくる。
「ねえ、ちはるぅ誰かのリンス貸してぇ!」
脱衣室のちはるらに美佐がそう大声を出すと、空からリンスが降ってきた。いや、飛び込んできて、あおいの背中に命中する。声を荒げるあおい
「誰よぉ!わたしにリンスぶつけたのは!」
「ねえねえ、あおちゃん、これ男風呂から飛んできたわよ」
脱衣室から顔を覗かせていたちはるがあおいに言う。ゆかりはそのリンスの蓋を開けて鼻をクンクンさせて、香りを嗅いで言う。
「これ、松田先生の髪のにおいだよ」
目を合わせて見つめ合うあおいたち。しばらくしておもむろに深呼吸すると、示し合わせたかのようにハモるかのように一斉に、これ以上ない大きな大きな悲鳴を
「きゃーっ!待った先生のえっちぃ!へんたーい!チカーン!覗き魔っ!」
隣の男風呂では待った先生こと松田先生が
「なんで俺が悪者にされてるんだよ」
と心の中で泣いていたとかいないとか。
(訂正版)
>> 44
「せんせい、わたしたち結婚しましょっ!」
そう逆プロポーズしてのキスシーン。枕を抱きしめて枕にキスしてるゆかり。しあわせな夢の中のゆかりを起こすあおい。朝が来た。と言うより黒百合女学院の合宿の伝統の早朝礼拝の時間だ。外はまだ暗い。
泊まっているログハウス風のペンション群の大きなお庭に集まってるあおいたち。ラジオ体操の後、学年主任に指名された待った先生のお話を聞く。聖書が開かれた。
諸々の天は神の栄光を表し
大空は御手(みて)の技を示す。
この日、言葉をかの日に伝え
この夜、知識をかの夜に贈る。
語らず言わず、その声も聞こえざるに
その響きは全地にあまねき
その言葉は地の果てにまで及べり。
それはそれは美しい夜明け前の星空の下、待った先生は語りはじめる。
みんなは黒百合女学院で聖書に触れて、神様がいるのを知っている。しかし人生は長い。神を忘れる、そんな悲しみの日は来るかも知れない。でもね
神は人類を創るまえに、この素晴らしい大自然を創り調え人にプレゼントされた。わたしたちは大自然が調えられて最後の最高の作品として創られ生かされた。だからどんな時も
神に感謝して人様にもおかげさまでと言える、そんな女性に育ち、最高の作品のあなたの心と体を大切にできる、そんな人に育ってください。
待った先生のお話の後、賛美歌を歌い終わる頃、美しい日の出が皆の顔を照らし始める。
この中には、待った先生ラブの待った先生に恋する乙女がいて、ゆかりは目をうるうるさせている。そしてそして、
「「自分をたいせつに」せんせい、わたし、わたし、わかったわ!。だから、だから・・・わたしたち結婚しましょ!」
おとなしいゆかりに似合わぬ大声でそう叫ぶと、「せんせい、抱っこぉ!ハグして!」と、飛びつこうとするゆかりから逃げ回る待った先生。
「待ってくれ!なんでこうなる!」
「お前がもう少し大人になったら、もう一度好きと言ってくれ!って、先生はわたしに言ったじゃないの!」
待った先生を大好きなゆかりはいつまでも追いかけ続ける。
《イクまでイケませんの時間》
修学旅行という名のスキー合宿から帰ってきたあおいたち。街は冬に装いを替えたクリスマスシーズンで、あおいの通う黒百合女学院初等部もクリスマス準備に入っていた。もちろん、あおいのお家もクリスチャンホームで、内面では神に感謝しつつも、やはり浮かれている時期なのだが、例年は。
でも今年はそれどころではなく、あおいと姉の緑の間には、ベルリンの壁より厚い冷戦の壁が築かれていた。
ことの発端は、あおいが仕出かしたあの初等部六年生集団エスケープ騒ぎの原因になった緑の趣味、エロ同人誌制作再開にあった。話はその当日に遡る。
これは悲劇。いや、喜劇である。いや、やはり本人あおいには、これは悲劇であろう。
あの日、話のわかる寛容なる学長の
「私の独り言に何故か皆が感動してくれて、何故か勝手に謹慎してくれる。よって謹慎処分は正式な処分ではない」
との決断でお咎めなしとなったのに。そもそも、このエロバカ女の姉をエロ同人作成の処分から救うために妹のあおいは騒動を起こしたのに、このエロバカ姉はその日、帰宅すると早速に反省どころかエロ同人作成を再開して
発熱に寝ているあおいに
「エロ同人執筆の資料を大学部の恋愛相性研究漫画部に持って来い!」
と電話をかけてきた。小学生にえっちな資料を持って来い!と言う緑。
それでも仕方なくリュックサックを探すもない。お気に入りで大切にしてきた、キティちゃんのピンクのかわいいリュックサックなのに。そういえば今朝、お姉ちゃんが部屋に来てわたしのクローゼットを物色していたっけ。
「やられた!お気に入りなのに!💢」
と思いつつも
「お小遣い、弾んであげるから!」
の緑の言葉に、エスケープ騒ぎの罰でママにお小遣いから貯金からカードまで没収されちゃってるあおいは、確かにお小遣いは魅力だったものの、仕方なく本当に仕方なく、姉の緑のえっちなコレクションをランドセルに詰め込む。
ついつい桃色吐息が、いや、ため息吐息が漏れてしまう。
>> 46
桃色吐息が、いや、溜息吐息が出てしまうのは、姉の緑の無茶苦茶な要求のせいだ。エロ同人執筆の資料を忘れたから持って来い!なんて、わたし、まだ小学生だよ!と溜息。
えっちの意味すら知らなかった去年と違い、体が小ちゃくて六年生の中でいちばんに発育の遅いあおいでも、さすがに少しは気持ちは思春期突入しているのだ。異性やえっちを意識し始める年頃の恥ずかしさもあるけれど、
姉の緑は喧嘩に手加減出来ない筋肉バカ女。自分も相当に手が超絶に早い性格。あんなエロバカ筋肉女と喧嘩はイヤだ。
と、ほんとにホントに本当に仕方なく、えっちな物たちをランドセルに詰め込み制服に着替えたあおいは、緑のいる黒百合女学院中央校大学部に向かう。さっきまで私服で行くつもりだったけれど、黒百合女学院ブランドで純真天使になったほうが安全だと思って。
神様、どうかランドセルの中身を見られませんように・・・と祈りながら。
第一関門は向かい隣の、昔は黒百合女学院初等部とは系列だった黒川学院小学校に通う剛くんだ。
あおいの通う黒百合女学院が、今日は創立記念日でお休みなのと同じく剛くんもお休みだから。そしてこの男の子に「それ」が見つかると話がリピート再生されてしまい、あおいはエロ女だったことになってしまいかねない、人生の危機なのだ。
この剛くん、正直さと真面目さで、あおいに好意を少なからず持たれているが、友達の座から彼氏になれないのは度が過ぎる正直さゆえなのだ。
自宅ドアの隙間から、そーっと剛くんの部屋の辺りを伺うあおい。剛くんいないみたいね。と安心も束の間、あおいの家の柿の木の上から剛くんの声がする。
「よお!あおい!風邪はもういいのか?。ランドセル背負ってどうしたんだよ?今日はお休みだぜ!。起きてるんなら部屋に来いよ!ゲームしようぜ!」
実はあおい、憧れの初恋の真鍋がいなければ今ごろは剛くんに夢中になったかも知れない。何しろ去年まではお風呂も一緒なほど、誰もがふたりを兄妹か姉弟かと勘違いした程の仲良しだから。が、
が、今日だけは話は別だ。今日のあおいは姉の緑のせいで、ランドセルの中身がえっちな物だらけだから。
「イヤぁ!剛くん、今日だけはついて来ないで!お願い!」
顔を両手で隠し、自慢の駿足であおいは脱兎のごとく剛くんから逃げ出した。
>> 47
「イヤぁ! 来ないでぇ!。来ちゃダメぇ!。来ちゃイヤぁ!。」
姉の緑の無茶苦茶な要求。エロ同人執筆の資料を忘れたから持って来て!。の電話に仕方なく、えっちな大人な物たちをランドセルに詰め込み、緑の待つ大学の漫画部に向かおうとするあおい。
が、家を出ようとするとき、あおいの家で木登りしていた剛くんに見つかってしまった。彼は別名、レコードくん。正直ゆえに見たこと聞いたことを、強く問い詰められたら、ありのままリピートしかねないゆえの、別名レコードくんの第一関門の剛くん。
大の仲良しの好意も持ってる剛くんだけど、今日だけは事情が事情ゆえに、彼にだけはランドセルの中身がえっちな物とは知られたくなくて
「イヤぁ!剛くん、お願いだから今日だけはついて来ちゃイヤ!」
持ち前の小柄な外観からは想像すらされない、自慢の駿足で剛くんをあおいはなんとか振りきった。だが早くも第二の関門があおいの前に立ちはだかる。
あの日、ゆかりが隠してた緑のエロ同人誌。それがゆかりの想い人の待った先生に見つかったあの日、風邪で学校休んでいた桃井カネコの自宅だ。
彼女もあおい五人組と言われるほどの、あおいの仲良しなのだが、彼女のあまりの奥手さのあまりの純真天使ぶりに、あおいたちは緑のエロ同人活動は彼女にはヒミツのナイショにしてきたのだ。
彼女だけはえっちな方面に汚してはいけない!と。
姉妹も同然の彼女独りを仲間外れするわけじゃないけれど、今日だけは彼女に出会いませんように・・・と祈るあおい。
こっそりひっそりこっそりひっそりと、彼女の自宅の前をびくびくしながら通り過ぎる。
泥棒さんの抜き足差し足忍び足ではないけれど、なーんにも悪いことしていないのに、今日のあおいは泥棒さんの泥棒しようとするのを見つかりたくない、抜き足差し足忍び足の心境が、今日だけはなんだかわかるような気がして。
さいわい、彼女はお出かけしているのか、彼女には出会わなかった。
さあ、次なる第三の関門は思いきりレベル高し!だ。
>> 48
ランドセルにえっちな物たちを詰め込んで姉の緑の待つ、大学にある恋愛漫画相性研究部へと歩くあおい。
その恋愛漫画相性研究部なんてのは、エロ方面には厳しい黒百合女学院大学の緑が教授たちを欺くために考え出した建前で、実態はエロ同人製作同好会なのだが。
「資料忘れたから持って来て!お小遣い弾むからお願い!」
高熱に寝込んでいたあおいは無茶苦茶なお願いをされてしまい、それでも第二関門までは無事に、ランドセルの中身がバレることなくクリアした。が、しかし
いま目の前にある第三関門はレベル高し!だ。
メイクしなければ、大学生なのに誰がどう見ても小学生な、スーパー童顔の姉の緑が、学校サボりの小学生か中学生かと勘違いされ、大学生だと信じてもらえずに何度か補導された商店街が今、あおいの目の前に広がっている。
ここは近くの市立中学の悪ガキたちのたまり場になっていて、この中の本屋さん、ゲームセンター隣の本屋さん、緑が密かに、否、公然と、執筆したエロ同人漫画からエロ同人小説を置かせてもらっている本屋さん。
そこは万引きの名所となっていて、お巡りさんや補導員のおばちゃんや万引きGメンが、いつもウロウロしてもいる商店街だ。
補導員のおばちゃんたちは
「創立記念日でお休みなのをうっかり忘れて、学校に行っちゃった帰りなんですぅ!」
と、姉の緑と同じ童顔ゆえに、純真無垢にしか見えない清純笑顔と、名門の黒百合女学院初等部の制服でクリアできた。明けても暮れてもイタズラすることばかり考える、内面が悪魔なあおいすら天使に見えてしまう制服。黒百合女学院ブランドは凄い!と言うべきか・・・。
しかし、その万引き名所の本屋さんには、あおいの恐れた通りにパトカーが停まっていた。
な・なっ・なんで?。また万引き?。
よりによって今日パトカー来なくても・・・。まさか、田中のおじちゃんなの?
それは数年前までおじいちゃんの塾や道場に通っていて、めでたくお巡りさんになった、仲良しの田中のおじちゃんが勤める署に配備のパトカーだった。この田中のおじちゃんは確かに仲良しだけど、あおいにとっては迷惑この上ないおじちゃんでもあり
ハードルはさらに一気に高くなる。
>> 49
わたしのランドセルにはえっちな物が・・・の事情ゆえに、慎重に物陰からパトカーの中を伺うあおい。仲良しな本屋さんに停まるパトカーから降りたのは
あおいの祖父の道場に通いめでたくお巡りさんになった、これまた仲良しの田中のおじちゃん。でも、あおいにとっては迷惑な存在でもある田中のおじちゃん。
姉の緑とは違い記憶力抜群のあおいは、実は全く勉強しなくても学力優秀。だから「超」が三つは付くスーパー優等生のカネコや、これまた優等生のゆかりとも、話も気も合うのだが、あおいには致命的な欠点が。
超気まぐれの超気分屋のため、気分により日替わりで成績乱高下。百点満点連発記録更新したかと思えば、次の週は学年最低点をマーク。それでも学年上位三分の一の常連だ。実は
悪ふざけ大好きでもあり、落第候補にやる気にさせるためにたまにある、サービス満点の⭕❌式のテストを、⭕イコール目玉焼きイコール大嫌い、よって大好きな三角おにぎりが連想できる▲を書いて出したら、激怒した担任の待った先生に本来なら百点なのに零点つけられたり。
ともあれ、それで零点だったテストを、冗談がわからない待った先生はムカつくと、帰宅途中に破り捨てたのだけど、それを見ていた田中のおじちゃん、ご丁寧にもそれをかき集め、テープ貼って修復し、よりによってママに手渡し、それもママがライバル視してるママ友の目前で。
当然にその日は鬼の如くに激怒したママに、思いきりお尻を叩かれまくったあおいだ。もう痛くてしばらくは椅子に座れなかったほどに。
このおじちゃんにランドセルの中身を見られて、えっちな物たちを発見されたら・・・。高熱だから寝てなさいと、ママに言われていたのに、姉の緑のせいでお布団から抜け出すハメになっているあおい。鬼と化したママの顔が目に浮かぶ。
でも、あおいには味方がいた。
>> 50
《イクまでイケません!の時間の後編》
姉の緑のせいで高熱なのに、ママの言うことに背いてお布団から抜けだし、エロ同人漫画の資料を緑に届けに行くハメになっているあおい。鬼のように激怒してるママの顔が目に浮かぶ。
今までの第一関門と第二関門はクリアできた。が目の前の第三関門はレベル高すぎて、途中にある本屋さんの前にはパトカーがいた。
でも、あおいには味方がいた。と言うよりは・・・。自分自身を悪魔だと自覚するあおい、用意は周到万端だ。取り出したのは、眼鏡とマスクそしてリバーシブルの帽子だ。
隣に住む仲良しの剛くんに、「おとこ女」と言われるまでは、男の子っぽい格好が大好きで、男の子っぽくいつも帽子をかぶっていた。最近はさすがのあおいも思春期突入で、女の子らしくと、この帽子はめったにかぶらなかったが。
でも、持っていて良かったと、早速に眼鏡とマスクをし帽子を被る。そうして、田中のおじちゃんに見つかりませんようにと、俯き加減で歩き出す。
お巡りさんしてて、おじいちゃんの元生徒の仲良しの田中のおじちゃんの勤めるパトカーの停まってる書店、第三関門まで、距離は少しずつ縮まっていく。
パトカーのドライバーシートに座ってた、田中のおじちゃんの部下であろう、イケメンな優しそうなお巡りさんは、下校中の小学生としか思わなかったのだろう。ニッコリと優しそうに微笑んでくれた。その車内に田中のおじちゃんはいない。先に降りて書店の中だろうか。
うまく田中のおじちゃんという第三関門をクリアできた!と、安心も束の間、あろう事か書店の向かいのおもちゃ屋さんから出てきたのは・・・
>> 51
姉の緑のエロ同人を書く資料、えっちな物たちをランドセルに詰め込んで届ける途中のあおい。その途上の書店には、おじいちゃんの元生徒の、仲良しの田中のおじちゃんの勤めるパトカーがいた。それでも
田中のおじちゃんという第三関門をクリアできた
そう思ったのも束の間、書店向かいのおもちゃ屋さんから出てきたのは、同級生のカネコ。いじめられっ子気質みたいな大人しい性格に似合わない大きな声で
「あおちゃん、こんなとこで何してるの?。ちゃんと寝てないと風邪が治らないよ?」
と来た。超優等生な真面目で純真無垢の、性的なことには、スーパーの四文字が三つは付きそうな奥手の天使なカネコ。このカネコだけはえっちな方面に汚してはいけないと、あおいと仲間たちは姉の緑のエロい本性とエロ同人執筆を、ひたすらにヒミツのナイショにしてきたのに・・・。
今のあおいはランドセルの中身がえっちな物ばかりだから。
さらに悪いことに、さっき自慢の駿足で振りきった、仲良しの剛くんが、やっと今あおいに追いついて
「あおい~なんで逃げるんだよ!。おまえ、走るの早すぎ!」
と来た。ランドセルがえっちな物で満載状態な、事情が事情なあおいは逃げるしかなく、それなのにカネコや剛くんが
「あおちゃん、待ってよぉ!どこ行くの?待ってよぉ!」
と大きな大きな声を出すものだから、ついに恐れていたことが
「あれは師匠のお孫さんのあおいお嬢様だ!」
あおいがいちばんに警戒していた、お巡りさんしてる田中のおじちゃんに気付かれてしまった。しかも悪い方向に。
「あおいお嬢様が万引き?!」
そう勘違いした田中のおじちゃん、いや、田中のお巡りさん、警察官モードスイッチオンして、あおいが振り返ると、目が追いかけっこ戦闘モードになっている。
「そこの小学生、止まりなさい!。あ、違う。あおいお嬢様、お止まりください!」
なんて叫んじゃうものだから、読者好きなあおいがいつも寄り道してる、仲良しな本屋さんまでが、あおいが万引き?と追いかけてくる。
なんで?何でなのよ?!
わたし、なーんにも悪いことしていないのに!
お姉ちゃんの忘れ物を届ける、良いことをしてるのに、何で?
なんでわたしが追いかけられなきゃいけないのよ?
必死に逃げるあおい。
>> 52
姉の緑がエロ同人誌なんか書くから
「なんで?。なんでみんながわたしを追いかけてくるのよ?」
「わたし、なーんにも悪いことしてないのに!。むしろお姉ちゃんの忘れ物を届ける良いことをしてるのに!。」
と、姉の緑が
「同人誌の資料忘れたから持ってきて!」
と頼んだせいでランドセルがえっちな物だらけで、姉妹同然の親友カネコからも、好意持ってる剛くんからも逃げるハメになり、仕舞いには万引きと勘違いされ、お巡りさんしてる仲良しな田中のおじちゃんからも、馴染みの本屋さんからも
逃げるハメになってる、可哀相なあおい。
しかし、朝に夕に道場で毎日のように走り込みしていて、しかも元が駿足のあおいは超小柄な体も幸いして、隠れながらも見事にみんなを振りきった。
それでも、あおいの脳裏に
「黒百合女学院初等部生徒の赤井あおい、エロ本を万引きで逮捕。なんと彼女のランドセルはエッチな物が満載!。エロ幼女出現か?と地元ロリコン大歓喜!」
な、ニュースのシーンや新聞の見出しが嫌でも頭に浮かんでくる。
もう喉もカラカラで、高熱の身で全速力疾走しまくったせいか、フラフラしてきて、汗も冷えて寒気がひどい。そんなとき、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきて
「わたし、死ねない!」
「行き倒れたら新聞になんて書かれるか、わかったもんじゃない!」
「⭕⭕市のお嬢さま赤井あおい、行き倒れの謎の死!。なぜか彼女のランドセルはエロ本ばかり!。エロ幼女出現か?」
なんて、絶対に書かれたくない!。わたし死ねない。お姉ちゃんの大学に着くまでは・・・
お姉ちゃんの大学にイクまでは絶対にイケないっ!と、最後の力を振り絞り歩き出す。
>> 53
どこかで救急車のサイレンが響く。姉の緑のせいでランドセルがえっちな物で満載のあおいには、あるニュースシーンが嫌でも頭に浮かんでくる。高熱の身で全速力疾走しまくって、体力限界のフラフラだから。
「⭕⭕市のお嬢さまの赤井あおい、行き倒れて謎の死。なぜか少女のランドセルはエロ本だらけ。エロ幼女出現か?」
「なんてこと、絶対に書かれたくない!。わたし、死ねないっ!」
「お姉ちゃんにこれ届けるまでは・・・お姉ちゃんの大学にイクまでは絶対にイケないっ!」
最後の力を振り絞り歩き出すあおい。しかし高熱ゆえ朝ごはん食べられず、しかも超小柄ゆえ皮下脂肪が全くないかのようなあおい、高熱と血糖値低下による体力の限界はどうしようもなく、つい交差点の信号を見落とした。
赤信号の横断歩道上のあおいに突っ込む車。ブレーキ音とクラクションが響く。
「バカ野郎!気をつけろ!」
幸いに事故回避したドライバーの罵声があおいにぶつかる。横断歩道の向こう側にへたりこむと、あおいはもう歩けない。
が、さっきのクラクションにびっくりして近くの喫茶店から出てきたのは、あおいが幼稚部時代から懐いて甘えている、黒百合女学院高等部の倉橋しおり先輩だ。彼女はあおいの姉がトンデモなエロ同人女なのを知っていて、いつもあおいの味方をしてくれる人で。
「しおりお姉ちゃんだぁ」
安心したあおいは力尽きて気を失ったが、そこにいたのは、しおりに憧れ、さっきの喫茶店で勉強をしおりに見て貰っていた、黒百合女学院中等部の春日井まなみ。
「憧れの愛しのしおり先輩に抱っこされてるこの小ちゃい子、いったい誰よ?」
激しくヤキモチを妬くまなみ。もちろん百合の意味で、である。
《絶対零度なクリスマスの時間》
姉のように優しいしおり先輩に抱かれ、安心して気を失うあおい。しかし、しおりの側には
「憧れの愛しのしおり先輩に抱かれてる、この小ちゃい子は誰よ?」
と百合の意味でヤキモチを妬いているまなみがいた。もちろんノーマルなしおりには、そんなまなみの気持ちはわからないのだが、このまなみは黒百合女学院の一番の鬼教師の黒木良枝先生のクラスの子で。
そんな百合な嫉妬から、緑が早くもエロ同人活動再開し、高熱に寝ていた妹のあおいにエロ同人の資料を運ばせたことが、その日のうちに黒木先生の知るところとなり
「あの日、エロ同人活動がバレた赤井緑の処分を、妹の赤井あおいの正論に、学長が処分を免除されたのに、喉元を熱さが過ぎるまえに早くもエロ同人活動再開するとは怪しからんっ!」
と、なってしまい話がストレートに上に上に上がってしまって。
「あおいっ! あんたが間抜けだから停学喰らったでしょうが!」
「元を言えばお姉ちゃんが教育学部のくせに、初等部のゆかりちゃんや美佐ちゃんにエロ同人くれてやるからでしょっ!」
「なんですってぇ!お姉ちゃんにナマイキ言うのはこのお口?」
「何度でも言うわよっ!。あの日はちゃんと庇ってあげたのに、ほとぼり冷める前からエロ同人活動再開したのはお姉ちゃんでしょ!。自業自得よっ!」
「なんだってぇ?やるか?!」
「道場サボりまくりのお姉ちゃんがいつまでもわたしに勝てると勘違いしないほうが身のためよ!」
こんなわけで久々の武術家の娘同士の乱闘の末、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋が地元に帰ったときには、クリスマスなのに絶対零度な冷戦の壁が二人の間に築かれてしまったのだ。
それだけではない・・・
>> 55
赤井家の道場のクリスマス会。緑とその妹のあおいは冷戦の真っ最中で。二人の間で頭を抱えてるのは真鍋だ?
それというのも
緑のエロ同人活動がまたも学園側にバレてしまい、停学喰らった緑。しかし、その原因が小学生の妹のあおいにエロ同人の資料を運ばせたゆえなのに、あおいのせいにしてしまった緑。
もちろん責任転嫁されたあおいは激怒してるわけで。
それだけではない。緑が停学喰らったあの日
姉も同然な黒百合女学院高等部のしおり先輩に抱きしめられ、安心して気を失ったあおい。その側には百合の意味でしおりに憧れるまなみがいて、そんな百合なヤキモチから・・・。
緑が帰郷する真鍋とデートするのを妹のあおいにナイショで企んでいる。それをしおりから聞いたまなみ。しおり先輩をあおいに取られたくない!の百合な邪心から、まなみはあおいの耳にそれを吹き込んでしまって。
想い人の真鍋を緑に奪われかけているあおいは、緑と真鍋のデート中の、あと一歩で記念すべきファーストキスな雰囲気に突然現れ、二人の甘い雰囲気をぶち壊したからだ。
そんな絶対零度な二人の雰囲気にオロオロする真鍋。自分の老師つまり緑とあおいの祖父からは
「瞬くん、みんなの楽しいクリスマス会をぶち壊してるコイツら、放っておきなさい!無視するのが一番の薬だよ!」
とは言われたものの、鬼瓦いや宇宙人顔にしては人がいい真鍋は放置出来るわけもなく
「な、なあ緑、お前の欲しがってたバッグ。クリスマスプレゼントだよ~!」
「あおい。、お前が大好きなチョコレートたっぷりの栗のクリスマスケーキだよ~欲しがってたゲームソフトも買って来たよ~!」
「お前ら、むくれてないで楽しくパーティしようよ!」
と、声をかけてみても、二人はツーン!として相手もしてくれない。それどころか
>> 56
「緑もあおいも喧嘩しないで楽しくクリスマスしようよ!」
と責任感強い真鍋は声をかけるも、二人はツーン!として相手してくれるどころか、振り向いてもくれない。それでも辛抱強く説得してると、先に反応したのは、つかキレたのは短気なあおいだ。
「だってえ、お姉ちゃんみたいな下品なエロバカ同人女がいるパーティなんか、参加しても楽しくないもんっ!」
「それよりお兄ちゃん、こんなエロ女なんか捨ててぇ、わたしの彼氏になってぇ!。元はと言えば、お兄ちゃんはわたしを選んでたんだから!。」
と、あおいは緑に聞こえよがしに当てつける。それに負けじと緑まで
「瞬くんはロリコンじゃないもんね!。あおいみたいなオシッコ臭いパンツの小娘なんか、瞬くんの好みじゃないもんね。」
「今の婚約者のわたしとお転婆小学生、瞬くんなら選ぶのはわたしだよねっ!。」
こんな具合に真鍋は見事に冷戦に巻き込まれてしまう。
またかよ!なんでコイツら姉妹は水と油なんだよ?!と思う真鍋。しかし考えてみれば
ボーイッシュなトンデモなお転婆娘だった、男の子そのものみたいな緑を、少なくとも見た目はお嬢さまらしい女らしい女の子な緑にしてしまったのも
泣き虫で、裕福な末娘あるあるな、お姫さま暮らしをしていた、お嬢さま育ちのあおいを、お転婆イタズラ大好きで勝ち気な男の子らしいボーイッシュな女の子にしてしまったのも
真鍋自身の六年前のあの日の不用意なる一言が原因で、それを聞いてしまった二人。あの日から二人の性格は真逆になってしまったのだ。
>> 57
自分を取り合う緑とあおいの冷戦に頭を抱える真鍋の、これは回想シーンである。あれは六年前・・・。
緑とあおいの姉の藍子。元々はあおいの赤井家と自分の真鍋家の間の約束で、自分の知らぬ間に藍子が許嫁にされていたのだが、六年前のクリスマスにあおいを黒百合女学院幼稚園に迎えに行った藍子は、あおいの目前で轢き逃げ事故死した。
多忙だったあおいの母の桃子に代わり母親代わりしていた藍子が目前で即死のショックであおいは失語に陥った。それを見かねた真鍋は毎日のようにあおいの遊び相手をしていたのだが・・・。
このときはまだ、緑もあおいの姉を姉らしく真面目にしていて、その緑も失語状態のあおいを見かねて
元々が超絶に勉強嫌いな、お受験した小学校に中学校すべて不合格ゆえの公立中学の緑は高校進学のつもりなどさらさらなくて、緑もなんとかなるさと軽~く進路を考えていたのだが
あおいを守るために!と一念発起、外部入試では超絶難関の黒百合女学院高等部進学を決意した。
あおいの幼稚部から内部エスカレーター進学予定の黒百合女学院初等部と緑が進学決意した黒百合女学院中高等部は、同じ敷地に隣接ゆえに失語状態の妹を何が何でも守りたいと。
それを緑から聞いた真鍋。緑の超絶最悪最低なる成績では名門の黒百合女学院への外部入試合格はとうてい無理筋と知る真鍋は、自分は教師志望でもありで、緑たちの祖父に自分が緑の家庭教師をすると志願したのだった。
緑の努力、いや、万年劣等生だった緑に必死に勉強を叩き込む真鍋の必死の努力で、緑は見事に超絶難関なる黒百合女学院高等部外部入試に合格した。
これはその頃のお話。
>> 58
「瞬くんよどうだい?。うちの緑も君を好いてるし、むかし両家で決めた婚約話なんだが、正式に婚約ってことで。」
と真鍋に語ってるのは緑とあおいの祖父の晋太郎だ。真鍋は緑に勉強を教えに来て、自らを癌と知る晋太郎に捕まってしまったのだ。その肝心の、幼いとき、つか生まれる前に両家で婚約を決められていた本人たち、緑とあおいは
緑は無事に黒百合女学院高等部に入学して部活でまだ帰ってなく、あおいも無事に同じく黒百合女学院初等部に内部進学して、親友のゆかりの誕生会に夕飯お呼ばれで、これもまだ帰ってなくて。
晋太郎は話続ける
「いやね、君のお祖父さんとは互いに孫が産まれたら結婚させる話をしていたのは知ってるね?」
「うちは藍子は事故で死んだけど、まだ緑もあおいもいる。べつに二人を貰ってくれ!ではないんだよ、一人でいいんだ。それに今すぐ教会で結婚式せい!でも、今すぐ婚約式せい!でもないんだ。」
「緑のお転婆には手を焼いてるんだよ。このじゃじゃ馬は今日も高等部で派手に喧嘩やらかしてねえ。」
「緑は君が好きなようだし、君も緑の面倒をよく見てくれている。お似合いと思うし、恋人が出来たら緑も少しは女の子らしくすると思うんだよ。」
「現に君の前では借りた猫よろしくおとなしくしてるだろ?」
晋太郎の長~い口説き文句に絶えられずに、ついつい
「困ります。僕はまだ高校生ですし進学予定なんです。僕の大学生生活の青春がなくなっちゃうじゃないですか。」
「確かに僕はハキハキしていて清々しい竹を割ったような緑さんは好きです。でもそれより女の子らしい大人しいあおいさんのほうがもっと好きです。今すぐの話ではありませんが。」
と真鍋。
>> 59
孫娘、緑のあまりの男勝りなお転婆ぶりに手を焼き、緑を真鍋に押し付けくっつけ結ばせようとする、あおいの祖父の晋太郎。その長~い口説き文句に耐え切れず、ついつい
「確かに僕は緑さんは好きです。竹を割ったようにハキハキしてハッキリしていて清々しいですから。でも、実は僕は女の子らしいおとなしい、妹のあおいさんのほうが好きなんです。」
と言ってしまった真鍋。
まさか、まだ小学一年生の孫のあおいと自分を晋太郎がくっつけるはずがない!と読んでの、婚約までの時間稼ぎの口実なのだが。
確かに真鍋は緑を愛し恋している。優柔不断なる真鍋にとって、竹を割ったようにはっきりした緑の性格は心地好いからだ。でも大学に進学して、世間一般の考える大学生生活を満喫したい真鍋は緑とは結婚したいが、それは自分と緑が大卒してからの話なのだ。
まあ、心の底では緑の性格にほんの少し、あおいの女の子らしさお嬢さまらしさがプラスされたら言うことナシなのだが、それを言えば緑に殴られかねないのて内緒である。
ともあれ
真鍋の「普通に大学生生活したい」の言葉に腕組みしている晋太郎。
「確かに立派な社会人になるためには大学での勉強も大学生生活の青春も大切だよなあ。」
「でも瞬くん、もう少し緑と仲良くなって、女の子らしくおとなしくせい!と、これは君からも言ってやってくれ。頼むよ。」
そうこうしているうちに、部活から帰宅した緑が黒百合女学院高等部の清楚な制服からTシャツとショートパンツに着替えて来て
「それでは緑さんの勉強を見ますので」
と、緑の勉強を見るべく二人で緑の部屋に行ってしまった。
>> 60
「なあ、緑、お前パンツ見えてるぞ」
そう言うのは
♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら言える
思考回路はショート寸前
今すぐ会いたいよ♪
とセーラームーンのコスプレの超短いスカートで歌いながら踊る緑を眺める真鍋だ。万年劣等生の緑も最近は努力の甲斐あって成績も上がり、これで恥じらう乙女のように女の子らしくなれば言うことナシなのに・・・と思いつつ。せめてブルマくらい履いてパンツ隠せ!と思いつつ。
緑のお部屋で三時間、テスト勉強を見ていた真鍋。区切りのいいところで家庭教師の顔からボーイフレンドの顔になっている。
そのころ、親友のゆかりのお誕生会の晩餐にお呼ばれしていたあおいは、お風呂までご馳走になって帰ってきて
ママに二人を呼んで来て!と言われたあおいはそんな緑の部屋に顔を出す。
「瞬お兄ちゃん、ママがそろそろ勉強終わらせてうちで晩御飯食べてねって呼んでるよぉ」
と真鍋に「抱っこぉ!」と、ジャンピング抱っこで飛びつき貼り付く。そして真鍋に見られぬよう恋敵の、姉の緑にあっかんべーしながら
「お姉ちゃん、ママがねえ、晩御飯の前におじいちゃんに叱られて来なさい!だって。またまたのまたケンカ?。今日は何人殴ったの?。おじいちゃんカンカンだよ(笑)」
まだ初等部一年生のあおいに抱き付かれ、「甘えん坊め!」と言いながら赤井家の大きなダイニングに顔を出す真鍋。
「いつも晩御飯用意していただいてすみません」
と言いながら
- << 63 「お兄ちゃん、抱っこぉ!」 自分に一方的に初恋する、初等部一年生のあおいにジャンピング抱っこで抱き付かれ この甘えん坊め!と言いながら赤井家のダイニングに顔を出す真鍋。 「いつも晩御飯用意していただいてスミマセン」 と言いながら その声に振り向いたのはあおいのママ桃子だ。 「あらあら、あおいは今日も瞬くんに貼り付いて剥がれないのね。」 「あおい、もう遅いから歯磨きして寝なさい」 「はぁい!お兄ちゃんお休みなさぁい」 ダイニングを出るあおいを見送る二人 桃子が真鍋に言う 「瞬くん、いつもあおいと緑の面倒みてくれて有難うね。」 「あおいね、緑のお転婆に懲りたから拳法習わせるつもり、なかったの。まだまだ小さいしね。」 「でも去年藍子が事故で死んでからというもの、ますます内向的になっちゃって、初等部でいつもいつも泣いてるみたいなの。」 「だから瞬くんも来てるうちの道場、明日から通うの。瞬くん、明日から指導員見習いでしょ?。おめでとう。」 「瞬くんの初生徒、瞬くんの開門弟子というには少し早いけど、初生徒には変わりないのね。よろしくね。」 「いやーそんな、僕なんかまだまだ修業足りなくて。こちらこそ宜しくお願いします。」 と真鍋。 いつも素直で誠実かつ真面目な真鍋に、瞬くんカワイイと思ってる桃子は、真鍋をからかい半分に 「そうそう、瞬くん、おじいちゃんはああ言ってたけど、わたしはね」 「瞬くんには緑じゃなくあおいのお婿さんになって欲しいな~なんて思っちゃうのよね。気づいてる?。あおいは瞬くんに初恋で夢中なのよ。」 「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。あなたたちお似合いだから」
>> 61
「なあ、緑、お前パンツ見えてるぞ」
そう言うのは
♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら言える
思考回路はショート寸前
今…
「お兄ちゃん、抱っこぉ!」
自分に一方的に初恋する、初等部一年生のあおいにジャンピング抱っこで抱き付かれ
この甘えん坊め!と言いながら赤井家のダイニングに顔を出す真鍋。
「いつも晩御飯用意していただいてスミマセン」
と言いながら
その声に振り向いたのはあおいのママ桃子だ。
「あらあら、あおいは今日も瞬くんに貼り付いて剥がれないのね。」
「あおい、もう遅いから歯磨きして寝なさい」
「はぁい!お兄ちゃんお休みなさぁい」
ダイニングを出るあおいを見送る二人
桃子が真鍋に言う
「瞬くん、いつもあおいと緑の面倒みてくれて有難うね。」
「あおいね、緑のお転婆に懲りたから拳法習わせるつもり、なかったの。まだまだ小さいしね。」
「でも去年藍子が事故で死んでからというもの、ますます内向的になっちゃって、初等部でいつもいつも泣いてるみたいなの。」
「だから瞬くんも来てるうちの道場、明日から通うの。瞬くん、明日から指導員見習いでしょ?。おめでとう。」
「瞬くんの初生徒、瞬くんの開門弟子というには少し早いけど、初生徒には変わりないのね。よろしくね。」
「いやーそんな、僕なんかまだまだ修業足りなくて。こちらこそ宜しくお願いします。」
と真鍋。
いつも素直で誠実かつ真面目な真鍋に、瞬くんカワイイと思ってる桃子は、真鍋をからかい半分に
「そうそう、瞬くん、おじいちゃんはああ言ってたけど、わたしはね」
「瞬くんには緑じゃなくあおいのお婿さんになって欲しいな~なんて思っちゃうのよね。気づいてる?。あおいは瞬くんに初恋で夢中なのよ。」
「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。あなたたちお似合いだから」
>> 63
「お転婆な緑を瞬くんにあげるのは悪いから、あおいを貰ってくれてもいいのよ。」
「歳の差なんてきにしないキニシナイ気にしない。だいたい瞬くんとあおい、波長ピッタリ合っていて緑とよりはあなた、あおいとお似合いよ。」
「瞬くんも三代遡れば元はうちの一族で元武家の血なの。あおいの歳での婚約は昔はざらにあったんだから」
「瞬くんならあおいを貰ってくれても、緑を貰ってくれても、わたし安心だから。」
そう言うあおいママの桃子に真鍋は思う
真鍋は思う。
おいおい、さっき老師は
「瞬くんよ、緑を嫁に貰ってくれ」
なんて、俺と緑を無理矢理くっつけようとしたぞ。
今度は桃子さんがあおいを俺にくっつけるつもりかよ。
勘弁してくれよ。あおいはまだ小学生も一年生だぞ。
俺はまだ高校生なのに。俺、普通の大学生生活したいのに。
そりゃ緑もあおいも妹同然にかわいいし好きだけどさ。
確かに俺は緑の彼氏だけどさ、あおいが彼女でもいいけどさ、緑にしろあおいにしろ二人が大卒、せめて高卒してから決めてもいいだろ?
なんて内心は顔には出さない真鍋。でも時間稼ぎの口実に優柔不断なところのある真鍋は
「僕はお嬢様らしい大人しい女の子らしいあおいさんは好きです。でも、男の子っぽいハキハキしてる活動的な緑さんはもっと好きなんです。どちらかなんて、まだ決められません。」
洗面所で歯磨きして自室に戻るあおいは、真鍋のこの言葉を聞いてしまった。
お兄ちゃんの彼氏になるには、男の子っぽいお転婆になれば、お兄ちゃんはわたしに振り向いてくれるのね!
と決意してしまった。
一方、おじいちゃんに叱られている緑、おじいちゃんの口から
お前のお婿さん候補の瞬くんは、あおいのような女の子らしい女の子がお嫁さんに欲しいなんて言ってるぞ
と普段のお転婆なヤンキーぶりを叱られ聞いてしまい、緑は
緑は
瞬くんは女の子らしい女の子が好きなのね?。じゃあわたし、頑張って猫被りしてお嬢様キャラを演じきってみせるわ!
と決意してしまった。
あおいがお嬢様らしくないお転婆になってしまったのも
緑が大人しいお嬢様になってしまったのも
二人が水と油の姉妹になってしまったのも
全部、全部、全部、あの日の俺の言葉のせいだ!
回想シーンから我に返り頭を抱える真鍋であった
《梅宮サナ小学六年生の夏の百合のすれ違い》
未来のクリスマスで知り合う二人 あおいはまだサナを知らない
「ママー早く早くゥ!遅れちゃうよぉ!」
そう叫んでいるのは近県九県No.1のスーパーハイパーウルトラお嬢様のサナ。公立小学六年生だ。
ここはあおいの街から見ると、黒百合女学院山手校初等部のある大規模団地の山の反対側。
地方都市なので五十歩百歩であっても、新街ゆえにあおいの住む古街よりはるかに栄えている。そんな駅前。
「はいはい。サナ、慌てなくても映画は逃げませんよ」
そう必死にサナを追いかけ、落ち着かせようとしてるのは、サナのママだ。
この日は夏のアニメ映画祭で見に行く予定である。
本当なら超セレブ超バブリーなサナの家は、おつきの運転手が常時張り付いているのだが、運転手が体調を壊したのと、サナのあまりの世間知らずを心配したサナのママにより
社会勉強の社会体験で、サナの生まれてはじめての電車にこれも今から生まれてはじめての路面電車である。
路面電車を待つサナとママの二人は行列の中に庶民と化している
実はその行列のかなりうしろにはプールに向かうあおい、あおいたちがお泊りした従姉妹の高校生の紫蘭、そしてあおいの同級生カネコたちがいるのだが。
時間通りに来た路面電車。電車に吸い込まれる人々。
そこに
待てえ! その電車、駆るんじゃねえ!発車すんなよっ!
ガラの悪い声が響く
>> 65
路面電車に吸い込まれる人々。
皆がシートに座るのを確かめ、時間通りに走り出そうとする運転手。
すると、如何にもガラの悪そうな大声が車内に届く。
「その電車、待ちやがれ!。走るんじゃねえ!」
仕方なく走りかけた電車はドアを開ける。乗り込んでくる場違いな一人の男。
いや、場違いなのはこの男ではなく
近県九県No.1お嬢様なのに路面電車に乗っているサナ母子であり、これまた隣町の誰もが知るお嬢様のあおいとその従姉の紫蘭たちなのだが・・・。
無理矢理に電車を停め乗り込んできた、マナー最悪なるこの男。
駅の隣ビルの家電店で買ったのであろうラジカセを段ボールから取り出す。
ウオークマンサイズではない、机か棚かに置いて使う大きめのタイプだ。そして、電池とCDを入れヘッドフォンを。
ここまでは、誰もが新しい物は早く試したいものだからして、公共の路面電車の中でもたまには見る光景かも知れないが
場違いなのはこの男、ヘッドフォンから音が漏れ放題なことだった。
そして、梱包段ボールを離れた空席に投げ捨てガムを吐き飛ばし、煙草に火をつけ、缶ビールを口にする。
車内の誰もが彼の二日酔いらしき臭い、そしてそれにプラスされる煙草臭に白い目を向けるが、この男、チンピラやくざ風。
いい歳した大人たちは後難を怖れたか、口を閉ざしている。
そんな中、つかつかと歩み寄る女の子、制服からして高校生だろう。
>> 66
チンピラやくざ風のヘッドフォンから音が漏れ放題な男に、いい歳した車内の大人たちは口を閉ざしている。後難を怖れているのだ。
そんな中、つかつかと歩み寄る女の子。制服からして高校生だろう。
実はあおいの従姉の紫蘭なのだが、彼女は堪りかねて口を開く。
「ちょっとぉ!おじさん、いい歳してマナー悪すぎ」
「ラジカセうるさいのよ!。煙草にビール、臭いのよ!。ガム吐き捨てんな!。それにゴミ投げ捨てるんじゃないわよ!」
「何よ!その大股開きは。二人分座席を使うんじゃないわよ。」
「いい歳して不良学生レベルの頭なの?」
チンピラやくざ風のこの男
今まで肩で風をきって歩き、注意されたことなどないのだろう。
しかも若い小柄な女の子に言われ
逆にびっくりしたかのように一瞬だが口があんぐり状態だ。
でも、ナメられてたまるか!と思ったか、気を取りなおしたか
紫蘭を睨みつけると、大声を喚く。
「おい!ねーちゃんよ、そのうるさいは儂に言ったのか?」
「生意気な娘にはお仕置きしなきゃいけねえな!」
と言いつつ立ち上がり、
手を組み指の間接をボキボキ鳴らして威圧するが、
紫蘭は全く同じない。
そう、彼女はあおいの従姉。
つまり彼女もあおいと同じ武術家の孫娘。
修羅場は幾度と見て体験しておりチンピラなんか見なれている。
居合いを学び、日常的に本物の刀剣を振り回している、刃物なんか見馴れている紫蘭の静の気迫に押され、いや、圧されているのはチンピラのほうだ。
全く動じない紫蘭に痺れをきらしたチンピラ、形勢逆転を狙ったか紫蘭の手を掴もうとするが
別の小さな、本当に小さな手がそっと、すーっとチンピラに伸びる
>> 67
紫蘭と睨み合うチンピラ。全く動じない紫蘭に痺れをきらしたか紫蘭の手を掴もうとする。形勢逆転を狙ったのだ。
が、その寸前、紫蘭の手ともチンピラの手とも違う小さな手がチンピラに伸びる。
あおいの手がそーっと、すーっと
チンピラの座っていたシートに伸びて、チンピラのヘッドフォンにつながるラジカセのボリュームをー気にMAXにひねり回すと
ヘッドフォンの音が男には鼓膜も破れんばかりの爆音に変わった。
「ぎゃあっ!」
慌ててヘッドフォンを外す男。
「くっそう!ボリューム回した奴は誰だ!出て来い!」
男はキョロキョロするが、あおいは小さくて、男との身長差で男の視界に全く入っていない。タイミングを見計らうあおい。
電車が停留所に着くころ
男の目の前を小さな手のひらが、頭は目覚めてますか?と言うかのようにひらひらすると
「ちびを馬鹿にすんなっ!あたしだよっ!無視してんじゃねえ!」
あおいがそう叫ぶが早いか脚が動くが早いか
床からいきなり垂直に脚が伸びて生えたかのような、スカートがめくれるのが気にしないかのような蹴りが二発、男の顎を真下から捉えた。
中国武術の八極拳と螳螂拳の合成技の穿弓提脚だ。
男を停留所に蹴り出すと
「運転手さん、ドア締めてっ!」
あおいの言葉が終わらないうちに気を利かせた運転手はドアを締め電車を走らせる。
「くそちび!覚えてやがれっ!」
小学生に車外に蹴り出され、そう醜く叫ぶ男に思いっきりあっかんべーをするあおい。たちまち車内に拍手が沸き起こる。
>> 68
「くそちび!覚えてやがれっ!」
小学生のあおいに車外に蹴り出され、停留所で醜く叫ぶ男に思いっきりあっかんべーをするあおい。たちまち車内に拍手が沸き起こる。
が、紫蘭の雷があおいに落ちる。
「あおいっ!あんたは手が早すぎるわよっ!」
「話せばわかったかも知れないでしょ」
「闘うのは話が決裂してから!。あの人、弱かったじゃない!」
不満そうに口答えするあおい
「だってぇ、危ない人だったしぃ・・・それにわたし、手を出してないよ?出したのは脚だもん。」
「あんた・・・顔面蹴ったら手を出したのと同じでしょ!」
紫蘭のゲンコツがあおいの頭に落ちる
一方、この全てを見ていたサナ。
凄いっ!あんなに小さな女の子が、なんて格好いいの!
サナはあおいの隣に座っていたカネコに歩み寄ると、そっと話かけて車内の奥にカネコと移動する。
「ねえねえ、あなたたち、この街の子じゃないでしょ?」
「この辺じゃあまり見ない制服だもん」
「どこの小学校なの?」
『わたしたち黒百合女学院山手校初等部よ』
『今年夏服が今までのと変わったから知らない人多いけど』
「ええっ!あの名門の・・・」
「それでね、わたし強い女の子が好きなんだ」
「さっきもの凄いキック見せた子のこと教えて」
「わたし都小学校の梅宮サナよ」
『わたし桃井カネコ、あの子は赤井あおいちゃん』
『あおいちゃん、道場の子でとっても強いの。あんな小さいのに中学生の部の試合で優勝してるのよ。わたしをいつも庇ってくれるし優しいの』
「ふーん、わたし、あの子のこと気に入っちゃった。わたし中学は黒百合に行こうかなあ。」
「ねえねえ、お願い。住所教えてくれない?お友達になって欲しいの」
従姉の赤井紫蘭に叱られていたあおいは同じ電車に乗っていながら、このとき親友のカネコがサナと友達になったのを知らない。
この年、クリスマスにあおいとサナは、すれ違いの出逢いではなく顔を合わせて出逢うのだが、それは先のほんの少しだけ未来のお話。
この日の帰宅後、サナはママに興奮気味にお願いする。
ねえ、ママ、わたし中学は黒百合女学院行きたいの!お願いっ!
だって、だって、わたし好きな女の子が出来ちゃったもの!
《クリスマスのサナの百合な片恋》
954.955.956.957.....この石段、どこまで続くのぉ・・・。
果てしなく続く石段に喘いでいるのは
あの夏の日、あの電車で自分よりかなり小さい。でも、もしかしたら自分よりずっと強いかも知れない。
そんな少女に出逢い、一目惚れしてしまって
中学は黒百合女学院中等部に進学するんだ!と決意し、あの子に逢いたいと、その日から片恋にずっとずっと胸を焦がしてきたサナだ。
あれから四ヶ月。街はすっかりクリスマス色。
たまたま悪友と学校を抜け出したところ
とある教会のクリスマスコンサートのチラシを、優しいお姉さんの引力に引き寄せられたかのように受け取ってしまい
それをママに見せたら
「あなた、黒百合女学院に行きたいのよね?。あそこはクリスチャンスクールだから一度くらい入学まえに礼拝に行ってみたら?」
と背中を押されたのだ。それで石段と格闘しているのだ。
近県九県No.1のお嬢様とはいえ活発なサナ。
スポーツに空手に剣道が大好きで、普段は毎日の道場の走り込みすら嬉々として歓喜の顔で取り組む彼女だが
さすがにインフルエンザを拗らせ肺炎で死にかけた病み上がりの身だと息も絶え絶えなのだろう。ついつい
「なんで病み上がりのわたくし、こんなに歩かされてるの?」
「こんなに長い石段とは聞いてなくてよ。」
「うちの運転手の早川はどこでサボってるのかしらね。」
「おんぶくらいしてくれてもいいのに」
と呟きながら。
すると不意に木枯らしが。
「きゃっ!」
木枯らしについつい女の子の本能で、必死に両手でスカートを押さえたら帽子が飛んでしまった。悪いことに石段のかなり上のほうまで。
「あーあ、上まで登る理由が出来ちゃった」
>> 70
その前夜の赤井家では
と言うか、さらにその前夜、あおいの姉の緑は長電話している。
相手は緑の後輩、黒百合女学院高等部のしおりだ。
このしおり先輩を
実の姉の緑が恋のライバルだし、とんでもなエロ馬鹿姉なので、あおいが彼女を実の姉のように、お姉ちゃんと甘えきり慕っている。
もちろん百合の意味でなく
先輩後輩の意味で。姉妹の意味で、である。
緑がしおりと話している内容はだいたい
「向こうの塾の仕事、クリスマス休みで正月まで瞬くんが帰ってくるからデートしちゃうの。もしかしたらあたし、ファーストキス、瞬くんにあげちゃうかも・・・」
これをしおりと聞いていたまなみ
このまなみ、黒百合女学院中等部のまなみは
しおりに百合な恋をしていて
しおりがあまりにあおいを妹同然に可愛がるものだから
あおいにしおり先輩を取られちゃうと、勝手に思い込んでいる。
もちろんしおりもあおいもノーマルで
たまにふざけあってくすぐり大会しても
百合の意味での女の子同士のイチャイチャは興味ないのだが。
それはさておき、その情報を仕入れたまなみ、百合なライバル蹴落としたい邪心から表明上は仲良くしてるあおいに早速に電話する。
「ねえねえ、あおいちゃん、緑先輩は明日ね、真鍋のお兄ちゃんとデートだって。ファーストキスあげちゃうんだって!」
これを聞いたあおい
想い人の真鍋を緑に奪われかけているあおいは、瞬間湯沸かし器のごとくに怒りは一瞬にして沸点を超え怒りMAXだ。
緑と真鍋の記念すべきファーストキスな甘いデートに突然現れて、甘い雰囲気をぶち壊してしまった。
それだけでは怒りが鎮まらないあおい、半分怒りモードのままクリスマス会当日になり、怒りモードでそれに出ている。
合同クリスマス会当日。この日は黒百合女学院幼稚部から高等部まで年間に唯一、私服登校が許可されている日だ。
>> 71
今日は黒百合女学院の幼稚部と初等部の合同クリスマス会である。
黒百合女学院では年一度だけ
各校のクリスマス会の日のみ、私服登校が許されている。
羽織り袴に三つ編みで
はいからさんが通るになりきり自転車登校したあおい。
「おはよー!」
元気よくクラスの引き戸を開ける。
「わあーあおちゃんかわいい!」
「ゆかりもかわいいよ。そのドレス、綺麗ね。」
「あおちゃん、わたしのミニスカ、似合ってる?」
「美佐ちゃんかわいいサンタのミニスカね。」
そんな毎年のクリスマス会朝の日常
ゆかりはクラスでクリスマスの飾り付けをしている、想い人の待った先生にカネコや美佐と話しかける
「ねえねえ、松田先生、あおちゃんかわいいよね!」
「わたしたちの写真、早く早くぅ!」
振り向いた待った先生
「お、おう!おはよう。赤井は今日もかわいいな。」
だが、待った先生、カメラを構えながら何かイメージしたのか、お洒落してる女の子に口が裂けても言ってはならない一言を
「なんかあ、大正時代のはいからさんから羽織りを身ぐるみ剥がして着込んだ美少女強盗って感じ?」
あおいの機嫌を損ねて平手打ちされてを繰り返しても、この待った先生は女の子の心に鈍くて、学習しない天然なのだ。
姉のせいで前夜から怒りはMAXなあおい。当然のごとくに怒りの火に油を注いだ待った先生に
女の子に恥かかせるなんて最低!と
怒りのキックが待った先生の股間に的中する。
のたうちまわる待った先生にあおいの罵詈雑言
「ふんっ! わたしはねえ、代々うちの女の子は黒百合だから通ってるだけで、あんたみたいなネジ抜けた童貞がいるなんて知ってたら黒百合なんか通わないわよっ!」
待った先生ラブなゆかりだけが
「ひどいっ!お○ん○ん蹴るなんて、あおちゃんっ!わたしが待った先生とえっち出来なくなったらどうするの!」
そんな中ただ一人だけ待った先生ラブなゆかりが、女心にうとい待った先生を庇ってるのに、またもこの天然な待った先生、余計な一言を
「た、高田、誤解を招くことは言わないでくれ、あくまで俺は先生でお前は生徒だ。」
「先生ひどい!わたしが好きって言ったくせに!」
「結婚詐欺だぁ!」
泣き出すゆかり
>> 72
「先生、わたしのはだか見たくせに!」
「好きって言ったくせに!」
「先生ひどいっ!結婚詐欺だぁ!」
泣き出すゆかり
女の子に恥かかせるなんて最低!と
あおいにお○ん○んを蹴られた待った先生を
六年一組でただ一人、待った先生ラブなゆかりが庇って
「わたしが先生とえっち出来なくなったらどうするの!」
と庇っているのに
「誤解を招くことは言わないでくれ。あくまで先生と生徒だ。」
と待った先生がまたも女の子の気持ちに鈍い一言を放ったせいだ。
ゆかりのはだかを見てしまったのも偶然の事故であり
ゆかりを好きと言ったのも、優しいところが好きだからこのまま優しい女の人に成長してくれ、の一般教育論なのだが。
ともあれ、この騒ぎは初等部校舎と中等部校舎に挟まれたグランドで体育している中等部に筒抜けで、中等部いちばんの鬼教師の黒木先生が
「松田先生、いい加減に毎日のようにクラスで騒ぎを起こすのはやめてくださいっ!迷惑でしょうが!」
と怒りの形相で飛び込んでくる。
その黒木先生に六年一組全員のブーイングが。
「黒木先生、クリスマス会の日は幼稚部も初等部も何をしても先生に叱られないルールつか伝統ですよぉ!」
と、あおい。そう言われては引き下がるしかない黒木先生。
時は少し過ぎて1時間後
講堂で幼稚部と初等部クリスマス会が開かれている。
あおいは中央に設置されたテーブルのグラスを五つ取り、うちの二つにコーラを注ぎ、粉わさびを仕込んでいる。
さっき怒鳴り込みに来た黒木先生。中等部に侵入しイタズラするたびに捕まって説教される、その黒木先生。
そして想い人を奪いつつあるOB代表参加してる姉への
日ごろの仕返しにわさびジュースを飲ませるつもりだ。
これはグラスを配る係のあおいの、どの先生にどのジュースを配るか決める伝統の特権乱用。嫌われてる先生は毎年誰かが痛い目をみるのだ。
いたずら大好きな悪魔なあおいがグラス係と知り戦々恐々の先生たち
ちなみに優しい優しい優しい待った先生や学長と校長には、あおいはひっそりこっそり隠して持ち込んだワインを葡萄ジュースだと、グラス一杯だけプレゼントするつもりだ。
>> 73
山手校学長の挨拶で始まった幼稚部初等部合同クリスマス会。
初等部教頭の音頭で乾杯がなされたが、グラス係があおいと知る初等部の先生は、中々ジュースを口にしない。
嫌われてる先生一名には、グラス係からとんでも味のジュースが配られる伝統だし、何より今年はいたずら好きな悪魔なあおいがグラス係だ。
全員のグラスがとんでもジュースな可能性が有り得るのだから。
「先生方お飲みになりませんの?」
そう怪訝そうに聞いているのは中等部教師代表参加の黒木先生だ。
いや~喉が渇いて飲みたいのは山々なんですが、今年はグラス係があの赤井あおいですからなあ。
そんな戦々恐々な雰囲気の中
俺は嫌われてないぞ!と自信満々に初等部校長がグラスに口をつける。校長先生はセーフだった。
よかった。赤井に嫌われてない先生がいた。もしかしたらわたしも嫌われてないかもしれない。
そう思いながらも、中々グラスに口をつけない初等部教師を不思議がりながら黒木先生がグラスに口をつける。
いちばん嫌われていたのは、黒木先生だ。もちろんわさびジュースである。ジュースを口から吹き出してしまう黒木先生。
なんでわたしなのよ!
と、わさびが強すぎたか泣いている。
例年であれば、グラス係のターゲットは幼稚部と初等部の教師だが、クリスマス会当日は叱られない伝統を逆手にした、伝統をはみ出して中等部教師をターゲットに絞ったあおいによる、黒百合女学院いちばんの鬼教師の黒木先生への、日ごろの仕返しだった。
講段で黒木先生がジュースを口にしたのを確認したあおいが講段からマイクでアナウンスする。
「当たりが出ました!」
「グラス係による今年の貧乏くじ先生決定は」
「中等部の黒木先生でしたぁ!」
「あとは約一名のOBを除いて他の先生とOBはセーフです。」
「安心してね」
そんな頃
あおいに百合な憧れをもつサナはあの長い長い石段を克服し
黒百合の裏山頂上の公園に辿り着き
石段で歩照った体を北風に休ませていた。
>> 74
わさびジュースを黒木先生が口にしたのを確認した、クリスマス会のグラス係のあおいによる
「今年の貧乏くじ先生決定は黒木先生でした」
「あとはOG一名だけです。先生たちは安心してね」
とのアナウンスに今度はOGが戦々恐々とする。
嫌われてる先生にはグラス係からとんでもなジュースが配られる伝統が、今年はクリスマス会を手伝いに来たOGも対象になっているのを始めて知るのだ。
グラス係は十名だが、決定権を握ってるのはあおいだ。
そんなあおいが
「お姉ちゃん、ジュースをどうぞ」
昨夜までの緑への不機嫌はなおったかのようなニコニコ笑顔で、OG参加している姉の緑にジュースを注ぎに来た。
まさか姉の自分にわさびジュースは来ないと思っている緑。疑うことなく口にして吹き出してしまう。
「あおいっ!よくも姉のわたしに・・・待ちなさいっ!」
「わたしの恋を邪魔するからよ!」
逃げるあおい。
一方、黒百合女学院の裏山に辿り着いたサナ
歩いて来た石段を振り返ると、素晴らしい景色がひろがっていた。そんな景色を見ながら、石段に歩照った体を休めつつも、今朝のことを思い出している。
「ねえねえ早川さん」
話し掛けられているのは、サナのおつきの運転手の早川だ。
「このチャペルに歩いて行きたいの。道を教えて下さらない?」
『サナ様、それは叱られてしまいますので無理にございます。』
「どうして?ママには黙っててあげるから」
『そういう問題ではございません。サナ様は今までお一人ではバスや電車どころか、タクシーすらお乗りになられてないのが心配なのでございます。』
「失礼しちゃうわね。子供扱いはもうやめてよ。」
「わたくし、春には中学生なのよ!」
押し問答を繰り返したものの、結局、石段の下までは早川に送ってもらったサナである。
『この石段をお登りくだされば、頂上に公園がございます。あとは坂道をお下りくだされば、どの道をお通りになられても、そのチャペルに着くはずにございます。』
『車を停めて参りますので暫しお待ちくださいませ。地図を書いて差し上げますから。』
そう言うと早川は駐車場に向かった。
しかし待てども早川は来ない。駐車場が見つからないのかな?と、サナは一人で長い長い石段を登ったのだ。
>> 75
いろいろと思い巡らせている最中のサナ。
チャペルへの道を聞いたとき、運転手の早川は確か
『黒百合女学院山手校はこの山の麓にございます』
と言っていたわよね
チャペルに行くのをやめて、あのあおいちゃんのいる黒百合に行ってみようかしら?。あのうるさい早川がいない今は自由気ままに歩き回れるチャンスだわ。
そう思い始めると
あの夏の日、あの電車で出逢ったあの女の子
あんなに小さいのに、電車の乗車マナー悪い男を電車から蹴り出した強くて格好いい女の子の顔が想い浮かぶ。
あの日はあおいちゃんとはすれ違っただけだけど
一目で片恋してしまった、大好きなあおいちゃんに早く逢いたい。
ダメダメ!今日はママに言ったとおり、ちゃんとチャペルに行かなきゃ。わたくしが迷子になったら街をあげての大騒ぎになっちゃう。
そう思い出しながら公園になっている裏山の周辺を見回してみる。
ふーん、お洒落な公園にお洒落な団地ね。
あの日お友達になったカネコちゃんは、黒百合の裏山はわたしたちの遊び場って言ってたわよね。あおいちゃんといつも遊んでるんだ!って。
そう思って公園の中を歩いてると、小さな祠が目に入った。
歴史好きなサナはついつい歩いていく。
>> 76
「ねえねえ、君かわいいね!」
「君ぃ、どこの高校?」
「俺たち黒川高校だけど、バレー混ざらない?」
サナが公園内の祠の由緒由来を記す看板を読んでいると、そんなナンパの声がする。
振り返り自販機スペースを見ると
声をかけられて固まっているのは、あの日あの電車でお友達になったカネコ
サナがすれ違いに一目惚れして片恋する、あおいのクラスメートで親友のカネコだ。
クリスマス会が終わってあおいたちと遊ぶ約束でカネコは一人、一足先に来ていたのだ。
小学生にしては発育が良すぎて、誰がどう見ても高校生な顔と体型。
いつもいつも高校生に間違われてしまうカネコであるが、さすがに高校生にナンパされちゃうのは初めてで
外見は大人寸前な高校生でも、心はまだやはり小学生、性的な社会常識すらほとんど知らないカネコ。
高校生だ!怖いよぉ!
ナンパ断ったらわたし、どうなるの?
連れて行かれて殺されちゃうの?
そう思ってるのがわかるほどの困惑した怯えぶりだ。
あれは、漫画やドラマでよくあるナンパかしら?
ナンパって、世の中に現実にあるんだ!
そう思いつつも
カネコちゃん、高校生にナンパしつこくされて、怯えてるんだわ!助けてあげなきゃ!
でも、その前に頭を使うサナ
実はサナ、空手剣道優勝経験者であるが、猪突猛進のスピードで押しまくって闘うあおいと違い、知的に作戦を組み上げるタイプだ。
周りを見回してみる。
ふーん相手は三人ね。他に同じ制服の仲間はいないみたい。
公園内にも道路にも大人はいないから自分たちだけでなんとかしないとなのね。
アパートはあるけど昼間だから大人はいないかもしれないわね。
武器になりそうな物は濡らせばムチとして使えるコットンのスカーフとペンしか持ってないのよねえ。
でもジャングルジムが間に挟めば楯に使えそうで、入口の狭いトイレがある。トイレ入口に行ければ一対一と変わらないわ。
あおいちゃんの遊び場らしいし、黒百合学園の近くで黒百合の人が来てくれるかも知れないよね。
問題はカネコちゃんの足の速さだけど、文武両道の黒百合の子なら大丈夫でしょ
あとは戦術ね。
ママのお色気作戦、早川の仮病作戦、借りちゃうわ。
カネコちゃん助けてあげたらあおいちゃんは喜ぶかも。
なら助けてみせちゃうわ!
>> 77
ママのお色気作戦、早川の仮病作戦、この際だから借りちゃうわ。
夏休みにあおいとすれ違い、一目惚れし初恋してしまったサナ。
そのあおいの親友のカネコの危機に、悪い高校生を懲らしめると決めたサナ。
近県九県No.1お嬢様のサナ。普段は大人しいものの空手も剣道も優勝者。実は猫被りのかなりのお転婆さんなのだ。
その喧嘩手段は、頭を使う知性派。悪く言えば卑怯派。しかし自分より強いかも知れない、いや確実に自分より強いであろう、歳の離れた男子高校生と喧嘩するのは・・・初めて。
大丈夫か?
傍から見てる人がいれば
なんて無謀無鉄砲な小学生と思うはずである。
が、・・・
風邪なのに無理して長い長い石段を歩いたため、熱でフラフラになった病児をサナは装う。そして
そして、カネコをナンパしようとシツコク付き纏う高校生三人に話しかける。
「ねえねえ、カッコイイお兄ちゃんたち、わたくし風邪をぶり返して熱が出たみたいで苦しいの。」
「おまけに財布落として喉がカラカラで。」
「家に帰ろうと石段登ったらしんどくて熱くて」
「ねえ、お願い、あなたのジュース、分けてくださらない?」
と高熱にうなされフラフラ感たっぷりの千鳥足を装い抱き着く。
幼いころは子役してコマーシャルや地元ドラマに出たこともあるサナは、まぶしいほどの美少女だ。おまけにカネコと同じ優等生でしかも実年齢より大人びて見える。
カネコにナンパしていた高校生たちはサナに魅とれて、ついつい優しくなり油断を。
サナを椅子に座らせ、各々がジュースやらミネラルウォーターやらお茶やらを買い与える。
「ありがとう。お兄ちゃんたち優しいね。」
そう言いながらカネコに向かいウインクしながら、スカーフを水で濡らしつつ
「あっ!ハンカチもティッシュも落としちゃったみたい。カネコちゃん、持ってる?」
そう聞かれたカネコ
カネコは黒百合女学院初等部No.1の優等生である。初等部どころか中高部も大学部までも首席卒業するのでは?と、黒百合教師たちの期待の生徒だ。
電車で友達になって文通してるサナちゃんだ!
夏休みに一度しか会ってないにも関わらず、そう気づく。その上サナが口にしない意図を正確に把握した。
「ティッシュならトイレにあるかも!」
トイレに駆ける、否、公園から逃げ出すカネコ。
>> 78
「あっ!わたくし、ハンカチもティッシュも落としちゃったみたい。」
「カネコちゃん、持ってる?」
そうサナに聞かれたカネコ。
トイレに行く振りして、わたくしに任せて、ナンパにシツコクするストーカーもどきなこの男子高校生から逃げなさい!。
サナは言外にその意味で言っているのだ!今まで一度しか会ってないにも関わらず、スーパー優等生なカネコはそう気づく。
「トイレにあるかも!」
そう走り出したカネコに
「君ぃ、逃げないで待ってよ!」
高校生たちが逃がすまいと声をあげるが
サナは今度はお色気作戦を繰り出す。
「ねえ、お兄ちゃん、わたくしのジャケットの背中の首のとこのホック、外してくださらないかしら?」
そんなサナに気を取られた三人の高校生。ひとりが体を屈めてサナの背中に手を伸ばす。
その瞬間、サナは立ち上がり正面のひとりにスカーフを振った。
もともと護身のために四隅に五円玉を縫い付けてあるスカーフが、水に濡らされたことで、さらに重たいムチと化した。
目くらましの水しぶきを撒き散らしつつスカーフは見事に命中する。
「痛え!」
正面の男子高校生がそう声を上げる間もない瞬間
サナの背中のホックを外そうと、エッチな下心を出して身を屈めた右側のひとりに上段回し蹴りが。続けて背後のひとりに上段正拳が決まる。
「お兄ちゃんたち、わたくしもお友達もまだ小学生なのに、しつこくナンパした天罰と思ってね!」
サナはそう言葉を残して逃げようと駆け出すが、公園の出口を振り返ると、この三人と同じ制服を着た人たち何人も。
まさかお仲間?
サナがそう思う間もなく
「お前らそいつを捕まえろ!」
背後の三人が叫ぶ。
しまった!逃げられない!
そう思うサナ。しかし想定内だ。
一緒にいたカネコは逃げきっている。きっと黒百合女学院の先生やあの強いあおいちゃんも、お巡りさんも、来るのは時間の問題なだけである。
サナは全速力で、最初からの想定通りに入口の狭いトイレに向かう。狭い空間ならば敵が何人いても、一対一と変わらないのだから。
トイレに駆け込み、トイレにあった箒を構えるサナ。剣道にはハッキリ自信がある。
わたくし、この際は少し派手に暴れさせていただきますわよ。
そう覚悟を決めるサナ。
>> 79
一方、サナのおかげで窮地を脱したカネコは、一目散に団地の下にある自らの学校、黒百合女学院山手校初等部に急いでいた。
先生に
そして初等部のクリスマス会山手校高等部OGとしてお手伝い参加していた、親友のあおいの姉
黒百合女学院中央校大学部の緑に急を知らせ助けを求めるために。
文通しているお友達のサナ
来年度に中等部に学外入試での入学希望者のサナが
自分を身代わりにして逃がしてくれた
と、先生たちや緑、そしてその妹の大親友のあおいに伝えるために。
そんな時、初等部の裏山。団地の坂道を歩いて登って来たのは、クリスマスのデート待ち合わせに公園近くの喫茶店を目指していた緑だ。
「あら、カネコちゃん、血相を変えて、どうしたの?」
「緑センパイっ!お友達が大変なんです!高校生に!」
そう告げるカネコ。
「なんですってえ!。」
婚約者の真鍋の手前、表面上だけだが、いつも猫被りして大人しいお嬢様お嬢様な女の子してる緑。普段のお嬢様キャラから本性のヤンキー緑さまに豹変する。
このへんは、やはり中国武術家の孫だ。
その頃、団地上の公園トイレではサナが男子高校生と睨み合いの膠着状態だ。
男女共用の手洗い所で、入口の狭い女子トイレに箒を構えて隙を見せないサナを攻めあぐねている。
箒を掴み取ろうとするたびに、散々に小手を打たれ、お腹に突きを打たれで、散々な目にあっているのだが、女の子それも小学生に負けたなんて、しかも手加減されて負けたなんて
面子を壊されてなるものか!と粘っているゆえの膠着状態だ。
そして、ついにひとりが女子トイレ個室の小さな小さな窓から侵入するのに成功した。
背後の戸をそーっと開け忍び足で近づいた一人に、ついに両腕ごと羽交い締めにされてしまうサナ。
「今だ!飛び掛かれ!」
サナを羽交い締めにした一人がそう叫んだ瞬間
>> 80
サナを羽交い締めにした一人が
「今だ!飛び掛かれ!」
そう叫んだ瞬間の出来事だった。
サナの目にいくつかの煌めきが走ってトイレの床に落ちる。
その煌めきに男子高校生たちは
「痛っ」
と顔を押さえる。
床に落ちた煌めきを見ると、それは五百円玉サイズのコインだった。
それはただのコインではなく、コインの縁が念の入ったことに、まるで刃物のように研ぎ磨かれて鋭くなっている。
そして男子高校生の顔からは血の滴りが。
「こ、これは中国武術の暗器(隠し武器)の蘿漢銭!」
まさか、あおいちゃんが助けに来てくれたの?
そう思うサナに煌めきの主の声が喋る
「そうよ、蘿漢銭」
「金銭票(金偏)とも言うけどね」
そして、その主の甲高い叱り声が
「アンタたち、小学生相手に何やってんのっ!」
「あんた誰だよ!邪魔すんな!」
そう強がる男子高校生にその主は名乗る
「黒百合女学院、赤井緑様、参上!」
「その制服は元系列の黒川学園高校。よくも妹の友達を可愛がってくれたわね!。わたしを怒らせちゃって、覚悟は出来てるわね?」
可哀相に始めは男子高校生は悪くはなかった。ナンパにシツコク冴えしなければ、だが。
なぜならそれは、カネコが小学生にしてはあまりにも発育が良すぎたゆえの、カネコを女子高生と勘違いしただけだから。
しかし、カネコの小学生とは思えぬグラマーさに、ついついシツコクしてしまった上に、助けに入ったサナに、これまた美少女なサナへのエッチな下心から、サナのジャケットの背中のホックを外そうとしたり
その上、女子トイレに侵入してサナを羽交い締めにしてしまい。
誰がどう見ても、彼らのやらかした事は変質者の悪事
おまけに彼ら、緑の顔は知らなくても、彼らは黒百合女学院の昔は系列の黒川学園生徒だ。合同行事は年に何度かある関係で緑の武勇伝は伝わっている。
地面に頭を擦り付けんばかりな、そんな深いお辞儀を緑に繰り返し謝るしか、助かる術は彼らにはなかった。
そんなこんなを見て、自分が初恋したあおい、そのあおいの姉の緑に助けられたことに安心し、ヘナヘナとへたり込むサナ。
無理もない。まだ小学校六年生だ。
そのサナに駆け寄るカネコ
「サナちゃん!大丈夫?」
「ありがとう!本当にありがとう!」
へたり込むサナに抱き着くカネコ。
>> 81
へたり込むサナに駆け寄るカネコ。
「サナちゃん大丈夫?。それと、ありがとう!」
「カネコちゃん、無事に逃げてたのね。良かったぁ。」
そうしてサナは緑を見て、きちんと姿勢よく立ち上がり
「あおいちゃんのお姉さんですよね。わたくし梅宮家の長女のサナと申します。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」
「そして助けていただき、ありがとうございました。改めて母とお礼に御自宅に伺わせて頂けないでしょうか?。」
と丁寧にお辞儀をする。
サナの丁寧な挨拶に驚くと同時に感心する緑。緑もお嬢様だが、さすがに育ちが違い、サナはあおいと同年齢では近県九県No.1お嬢様なだけはある。
「あ、あなた、あの梅宮家の・・・こんな無茶してダメじゃない。」
「ところでサナちゃん、あなた、お家遠いのに、なんでここに?」
「わたくし、実は夏休みにあおいちゃんを見かけて、あおいちゃんが大好きになって。中学校からはどうしても黒百合に入りたくて」
「たまたま昨日、この下のホーリネス希望チャペルのクリスマスコンサートのチラシをいただいて。ママにそれを見せましたら、来年は黒百合に入るんだから一度は教会に行って体験なさいって。」
「そこの石段まで早川に送らせましたが、一人で歩いてみたくて、石段から歩いて参りましたが、たまたま仲良くなったカネコちゃんをお見かけいたしましたので。」
そんなサナに応える緑
「そうだったのね。うん、あなたにいいニュースを教えてあげるわ。あなたの目的地のチャペルは黒百合女学院の牧師のチャペルよ。」
「うちのあおいが好きだからと黒百合に入らなくても、毎週日曜日の朝に来たらあおいに会えるわよ。」
「でも、あなたなら難関の外部入試も楽勝でしょうね。少し早いけど可愛い後輩が出来て嬉しいわ。」
「ようこそ!黒百合女学院に!歓迎しちゃうわよ。」
「今日はねえ、幼稚部と初等部の合同クリスマス会してたのよ。まだお菓子残ってるからいらっしゃい。一緒に楽しみましょ。」
「あおいもまだいるはずだし、夕方からはチャペルのコンサートにあおいも聖歌隊で出るから、見て行ってあげてね。」
「ママと早川さんにはわたしから電話してあげるからね。」
黒百合の山手校の初等部に向かう三人。サナと緑とカネコはもう打ち解けている。
>> 82
サナとあおいの姉の緑にあおいの親友のカネコ、三人はもう打ち解けていて、黒百合の山手校の初等部への道すがら
「ねえ、緑お姉さんとカネコちゃん、わたくし、女の子なのに女の子のあおいが好きになっちゃったの、恥ずかしいからあおいちゃんにはまだ内緒にしてくださいね。」
「まだ中等部を受験合格したわけでもないし、まだあおいちゃんにそう言う勇気ないんですもの。」
と言うのはサナ。
「ん?。女子校だと女の子が好きな百合はよくあるのよ。恥ずかしがらなくても、みんなそんなに気にしないわよ。」
これは緑。サナはまだあおいの姉が同人エロ雑誌の作者とは知らないのだ。緑もそれはあおいに殺されかねないので言えない。あおいと冷戦の真っ最中なのだから。
そしてサナは
「カネコちゃん、あそこはあおいちゃんとの遊び場でしょ?。」
「あおいちゃんは?」
「あおちゃんはね、怖い怖い中等部の黒木先生にね、日ごろの仕返しだぁ!ってね、わさびジュース飲ませちゃったの。」
「初等部はクリスマスには先生にイタズラしても叱られない伝統なんだけど、中等部の先生にしちゃったから叱られてたよ。」
「たぶん、反省文を書かされてるかと。」
そこに緑が
「サナちゃんには悪いけど、あおいはね、わたしの婚約者の真鍋瞬さんに片想いしちゃってるの。」
「それで今日ね、瞬くんとわたしがデートするのを知って、やけ食いに走ってね。」
「食べ過ぎたぁ!なんて保健室で唸ってたわ。」
「可哀相に幼稚部の子たち、ご馳走をあおいにさらわれた子が出たの。」
「ケーキ1ホールでしょ、握り寿司三人前でしょ。チキン二人前でしょ。食い気に走り出したあおいはわたしが見ても怖いわよ。目が血走ってるもんね。」
これを聞いたサナ
「あおいちゃんは、ますますわたくしの理想のお婿さんです。」
「違うのよ、サナちゃん。あおいはあれでも女の子なんだから」
そう言う緑に
「もちろんわかってますぅ。でもそこが好きになっちゃったんです」
>> 83
カネコはサナに聞いている。
「ねえねえサナちゃん、あおちゃんに好きって言わないまま帰って本当にいいの?」
数時間前、黒百合女学院の保健室のベッドで
「しまったぁ!みんなと遊ぶ約束、忘れてたぁ!」
そう目覚めたあおい。慌てて学校の裏山の公園に走ると、公園から坂道を下りてきた緑やカネコと鉢合う。
「あおちゃん、紹介するね。」
「この子はペンフレンドのサナちゃん。来年うちの外部入試受けて中等部に入るんだって!。仲良くしてあげてね。」
そうサナをあおいに紹介するカネコ。
「わたし、赤井あおいよ、そこにいる緑さんの妹です。よろしくね。」
緑に対してトゲのある言い方だ。緑はまだ機嫌がなおってないのかと思うが、道々、あおいはサナと仲良くしてるので
まあ、いいか。と、時の流れに任せようと。
学校隣のチャペルでコンサートが始まるまでゲームしよう!発案したのはあおい。
あおいとあおい組五人娘のみずき、美佐、ちはる、カネコとゆかりに混ざるサナ。
ひとしきり楽しいゲームの時間が流れ、そのうちにちはるが恋バナを始める。
「あおちゃんの隣ん家の剛くん、最近カッコイイよね。昔は弱虫だったのに」
「ええ~ちはるはあんなスカートめくり魔のがいいんだ?」
「だってあおちゃんに鍛えられて、最近は強いしスポーツ上手いし何よりお洒落になったじゃない。あとは頭の中身がわたしたちに釣り合えば文句ナシでしょ。」
「ゆかちゃんはやっぱり待った先生に片想い続けるの?」
ひとしきり、そんな楽しい時間が過ぎて夕方になり、チャペルでクリスマスコンサートが始まる。
聖歌隊服のあおいにサナは興奮気味だ。
「あおいちゃん可愛い!」
そんなサナに
「わたし歌は苦手なのよね。サナちゃんも祈っててね。」
そうしてチャペルに響く讃美歌
喜べイスラエル♪
久しく待ちにし主よ とく来たりて
御民の縄目を 解き放ちたまえ
主よ 主よ 御民を 救わせたまえや
万軍の主 救わせたまえや♪
あおいちゃん、やっぱりカッコイイ!
そんなサナに
「あおちゃんに好きと言わないで帰っちゃうの?」
そう聞くカネコにサナは
「うん、まだあおいちゃんにわたくし釣り合わないから」
来年の四月の中等部入学式の再会を楽しみにサナは家路に。
完
次は正月物語。
>> 85
書き初めは
ひめはじめなる
ふでおろし
墨のしずくは
帯解く口実
「あおい~何してんだ!書き初めか?」
そう声をかけてあおいの部屋のガラス引き戸を開けた真鍋。
その目に飛び込んだのは冬休みの宿題らしき書き初めだが
なんともエロ満載な短歌の記された短冊。
「なっ!なななっ!何を書いてんだお前は!」
つい、叫んでしまう真鍋。
あおいの姉の緑のエロ同人癖が妹のあおいに感染という、おそろしい自体に怯えている。
でも、ここは兄代わりとして冷静に・・・と思うと
が、あおいの息はまだお酒くさい。
「お、おまえ、まだ酔ってるな。小学生にして二日酔いかよ!」
「親父!💢ちょっと来いよ!💢」
「てめえが酒飲ますからあおいが!💢」
そう叫ぶ真鍋。実は暮れから正月二日まで父とあおいの家に泊まっていたのだ。
話は遡り大晦日
- << 89 訂正版 話は遡り大晦日。 ここは赤井家の、広い広い道場のある古い武家屋敷。大晦日の今日ばかりは、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋も、あおいの同級生の美佐も、遠戚を理由に大掃除に駆り出されている。 クリスマス付近の、あおいと緑の自分を巡る恋の激しい冷戦に、気が気ではない真鍋は、不安についついチラチラと二人をチラ見して、二人の機嫌に気を揉んでいる。 が、その冷戦関係に適応している美佐が、二人の間をうまく立ち回っているため、真鍋の心配をよそにあおいも緑もご機嫌である。 ふと、そんな雰囲気に安心の昼ご飯時に、皆が録画されたドラマを見ながら仲良く食事している中のキスシーン。いきなり美佐が 「ねえねえ緑お姉ちゃん、ファーストキスってどんな感じなの?」 「いいなあ、憧れちゃうな」 「あおちゃんや緑お姉ちゃんは瞬お兄ちゃんともうしてるの?」 とエロ発言。 キスシーンいきなりの美佐の質問に、それぞれの父母を前に気まずく目が泳ぐ、あおいと緑そして真鍋の瞬である。美佐は美佐で、なんで三人は目が泳ぐの?な、疑問な表情。 もちろん三人は未経験で、でも普段のエロ同人執筆で全く家族に信用されてない緑に 「緑っ!おまえって奴は、婚約式もまだなのにもう瞬くんと?」 そう問い詰めてるのは父の幸一郎だ。そんな中、放任主義の祖父の晋太郎は理解あるニコニコな笑顔を見せているものの、さすがに気まずい居づらい緑は 「美佐ちゃん、馬鹿言ってないで早くお掃除片付けましょ」 と子猫の襟首を持ち上げるように美佐を連れていく。「恋敵のあおいがいるからその話はしないでね」の意味もあるようだ。 一方のあおいは 「わたしの初めては瞬お兄ちゃんがいいなあ!」 「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
>> 86
書き初めは
ひめはじめなる
ふでおろし
墨のしずくは
帯解く口実
「あおい~何してんだ!書き初めか?」
…
訂正版
話は遡り大晦日。
ここは赤井家の、広い広い道場のある古い武家屋敷。大晦日の今日ばかりは、緑の婚約者であおいの想い人の真鍋も、あおいの同級生の美佐も、遠戚を理由に大掃除に駆り出されている。
クリスマス付近の、あおいと緑の自分を巡る恋の激しい冷戦に、気が気ではない真鍋は、不安についついチラチラと二人をチラ見して、二人の機嫌に気を揉んでいる。
が、その冷戦関係に適応している美佐が、二人の間をうまく立ち回っているため、真鍋の心配をよそにあおいも緑もご機嫌である。
ふと、そんな雰囲気に安心の昼ご飯時に、皆が録画されたドラマを見ながら仲良く食事している中のキスシーン。いきなり美佐が
「ねえねえ緑お姉ちゃん、ファーストキスってどんな感じなの?」
「いいなあ、憧れちゃうな」
「あおちゃんや緑お姉ちゃんは瞬お兄ちゃんともうしてるの?」
とエロ発言。
キスシーンいきなりの美佐の質問に、それぞれの父母を前に気まずく目が泳ぐ、あおいと緑そして真鍋の瞬である。美佐は美佐で、なんで三人は目が泳ぐの?な、疑問な表情。
もちろん三人は未経験で、でも普段のエロ同人執筆で全く家族に信用されてない緑に
「緑っ!おまえって奴は、婚約式もまだなのにもう瞬くんと?」
そう問い詰めてるのは父の幸一郎だ。そんな中、放任主義の祖父の晋太郎は理解あるニコニコな笑顔を見せているものの、さすがに気まずい居づらい緑は
「美佐ちゃん、馬鹿言ってないで早くお掃除片付けましょ」
と子猫の襟首を持ち上げるように美佐を連れていく。「恋敵のあおいがいるからその話はしないでね」の意味もあるようだ。
一方のあおいは
「わたしの初めては瞬お兄ちゃんがいいなあ!」
「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
>> 89
一方のあおいは
「わたしの初めてのキスはお兄ちゃんがいい!」
「お兄ちゃんっ!キスを教えて!」
隣に座る真鍋に甘えて抱き着き目を閉じるあおい。
「ち、ちょっと待て!。おまえ小学生だぞ。」
「俺でいいのか?。もっと格好いい仲良いボーイフレンドいるだろ?」
これはあおいの家の正面向かいに住む、あおいの同い年の幼なじみの剛くんのことだ。真鍋は剛くんのあおいへの恋心を見抜いてるのだけれど、あおいは
「えッ?剛くん?。あれは家来よ!」
「それにいつもスカートめくってさ」
「お風呂も一人で入れない弱虫でさ」
いやいや、スカートめくりは低学年の時の話なのに。好意あるから去年までお風呂いっしょだったくせに。
いたずら好きな悪魔なあおいを、好きゆえに、正直者の信条を曲げて今まで何度も何度も、いたずらバレたあおいを庇って来ているのに、可哀相な剛くんである。確かに、正直者ゆえに庇いきれてはいないゆえの家来という軽輩扱いされてるのだが。
そうこうしているうちに、皆が昼ご飯を食べ終わり、祖父の晋太郎が仕切る。
「さあ、昼は道場障子の張替えと床のワックス。大広間の畳の取り入れ。皆さん頼みましたよ。」
その声に、それぞれ担当部署に散る赤井家の面々。
晩御飯の年越蕎麦とすき焼きの材料買い出しに出ている、あおいと従姉の紫蘭。
「わたしこのお菓子だいすき!」
そう言いながら、ブルボンエリーゼを何箱もレジのカゴに放り込もうとするあおい。
「あおいっ!あんたのおやつを買いに来てるんじゃないの!」
「だってえ、まだお小遣にカード没収されてるもん!緑お姉ちゃんのエロバカのせいで。」
「まったく。じゃあ一つだけ買ってあげるから。あおい、そこが瞬ちゃんに妹扱いされる原因じゃない?」
大掃除も終わり、すき焼きを囲んでいる赤井家の面々。大きな炬燵の上には、もちろんお酒がビールが
>> 90
すき焼きを囲む食卓前で、あおいはパンツ一枚姿で楽しそうに歌い踊っている。あおいは下品が大嫌いなのに、なんでこうなったのか?。それは・・・
大掃除も終盤、ママの桃子に言われ、すき焼きの材料やらを買い出しに出たあおいと紫蘭。先に帰宅したのは、紫蘭とかけっこした勝者あおいだ。だが
だが、父の幸一郎は
「馬鹿っ!お前はなんで帰って来んだよ!。いいトコだったのに!」
そんな幸一郎に真鍋の父の勝兵は
「幸ちゃん、やっぱ来たのは女の子だったな!これで二万円だな!」
と勝ち名乗りを。
「なんでお前が勝ちなんだよ!」
「あおい、お前、見せてみろ」
と幸一郎。あおいは
「見せろ!って・・・パパ、わたしに何を見せろと?」
「パンツ脱げばいいねん!」
「だから、なんでわたしがパンツ脱がなきゃいけないのよっ!」
「あーやっぱり言わなきゃアカンか。びっくりするなよ。お前は本当は男や。わし、もう一人女の子が欲しくてな、お前の取ってもろうたんや・・・だから証拠にお前に穴はない!」
「・・・?・・・もしや?!」
カンと記憶力のいいあおい。「ははーん」と気付く。
「パパはじゃりん子チエ好きやったよね?。まさか、いま賭けをしてたんか?」
「そうや!お前のせいで負けたんや!」
「それで嘘ついてパンツ脱げと?」
「そうや!わし、お前にお年玉やりたい・・・」
の言葉が終わらぬうちに、それならと、じゃりん子チエになりきり箒を握りしめるあおい。赤井家の女は気がものすごく強いのだ。
「暴力反対や!」
パパに言いわけする間も与えず
「その二万円、没収や!賭けにわたしを使うなっ!。」
「嫌や、わし、勝って生徒みんなにお年玉やりたい!」
「ふーん、まだそゆ事言う?」
おもむろに思いっきり深呼吸するあおい。そして
「ママぁ!おばあちゃん!お姉ちゃん!。パパが賭け事してるぅ!。賭け事やめるって約束してたのにぃ!」
「ば、馬鹿っ!わし殺さるる!」
慌ててあおいの口に手を塞ぐ幸一郎の傍ら、ラッキー!と二万円を握りしめるあおい。
「口止め料や!。あと、お小遣いが多すぎるパパにはお年玉もちゃんと貰うからね。」
「あの日、わたしのお小遣い没収した天罰や!」
幸一郎は
「やっと勝ちだしてんのに鬼や悪魔や」
そんな事の後のすき焼きなのだ。
>> 91
すき焼きを囲んでいる、あおいと緑の赤井家とその分家の紫蘭たち、遠戚の瞬と真鍋家に美佐と立花家。楽しい今年最後の夕食である。
そんな中、あおいのパパ幸一郎がお肉に箸を伸ばそうとすると、その手を箸でピシャリと叩くあおい。
「パパは白滝でも食べてなさい!」
「そんなあ、ボクは優しい優しいパパだよ~」
「ふーん、ねえ、パパはじゃりん子チエが好きなのよね」
さっきのパパの秘密のギャンブルに、遠回しに遠回しに、チクリと刺し刺しするあおい。
「おまえ、絶対に前世は悪魔や!」
そんな中、最後の遅れていた遠戚、昔に赤井家が武家だったときの主君筋の安岐家の美智代とその子の晶が来た。
「今年一年お世話になりまして。」
そう挨拶するあおいの祖父の晋太郎と父の幸一郎。
「いえいえ、こちらこそありがたく」
そう返す美智代。
「ねえねえ、あの子誰?」
そうパパに聞くあおい。
「あおいは始めてだったか?お前のお婿さんだよ」
そんなあおいの父、幸一郎の返事に
「え、えええーっ!」
騒然となる一同。そんな中、三つ指をついてあおいに挨拶する晶。
「お初にお目にかかりますが、婿の晶です。ふつつかながら、生まれながらの婚約の挨拶に参りました次第、以後よろしくお見知り置きを。」
あまりの予想外の展開に、あおいは開いた口がふさがらない。無理もない。あおいは幼稚園のときから真鍋の瞬お兄ちゃんに一筋で、結婚するのは自分、そうでないなら姉の緑だと。
これは赤井家と真鍋家の約束だと、そう思っていたのに、祖父に黙って別の婚約話を父がしていたとは・・・・
「これ、どうやって断ればいいのよ!?」
それを察した晶、面白そうに笑い出すと
「あおいさん、実はうちのおばあちゃん、あおいさんの性別を聞いてなくて、それにわたくし、女の子ですから、この話は最初から無理だったんですのよ。安心なさってね。」
「パパ?。もしかしてのもしかして、パパは晶さんの性別を確かめずに約束したの?。」
あおいの言葉が終わらぬうちに逃げ腰になってる父の幸一郎。
なんでわたしが女と婚約させられてたのよ!。性別くらいなんで確認しないのっ!
あら、綺麗な男の子。
と一瞬だけどそう思ったあおい。その表情すら見ずに逃げ出す幸一郎。
「なんでパパはこうダメなのかしら」
>> 92
なんで、こうパパはダメなパパなのかしら?
そうため息するあおいの正面に座ってるのは姉の緑だ。すき焼きのお肉やら豆腐やら椎茸やら、婚約者の真鍋瞬の好物の具材を取り分けてやっている。
その姿にムカムカしてきたあおい。無理もない、七歳の誕生日に
「わたし、瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」
姉の緑が恋を瞬に告げる何年も前にそう言ったあおいに
「それは楽しみだなあ。待ってるぞ。」
そう答えたのは瞬お兄ちゃんだ。それに毎日のようにヤンキーな喧嘩を繰り返す緑が祖父晋太郎に叱られているときの、おじいちゃんの台詞
「お前のお婿さん候補の瞬くんは、大人しいあおいの方をお嫁さんに欲しいと言って、お前を見捨ててるぞ」
ママの桃子が、まだまだ内気な泣き虫お嬢様だったあおいを瞬お兄ちゃんに
「あおいを貰ってくれてもいいのよ」
と言っていたときの瞬お兄ちゃんの答え
「あおいさんがもう少し緑さんみたいに強くて活動的なら」
を全て聞いて知っているあおいなのだ。お兄ちゃんが彼女に最初に選んだのは、緑お姉ちゃんじゃなく、このわたし!。
そう思って待ちつづけているのを、緑はお嬢様らしいお嬢様だった自分の昔のキャラになりすまし、ヤンキーのくせに可愛い子ぶりっ子して、自分から瞬お兄ちゃんを騙し奪い取ろうとして、超ムカつく!
そう毎日思ってるあおいなのだ。
「お姉ちゃん、今日はまたなんで瞬お兄ちゃんにそんなに優しくしてるの?。まるで猫のお客様みたい。借りてきた覚えないのにね。同人エロ女が可愛い子ぶりっ子なんて似合わないわよ!」
「パパもパパよ、相手の性別すら確かめずに、わたしを女の子に嫁がせようとするなんて」
「ママもよ!。あの日お小遣い没収されたのはわたしだけ。事の発端のお姉ちゃんは無駄遣いばかりしてるのに。それにわたしが騒ぎを起こして庇ったから、お姉ちゃんは退学にならずに済んだのに」
「なんでわたしが貧乏くじなのよ!いい加減にしてよ!」
と思いっきり机を叩いてマジ切れしたあおい。おじいちゃんに叫んだのは
「おじいちゃんっ!もうパパとお姉ちゃんを排嫡してもいいんじゃないの?。うちの家業はわたしが継ぐからっ!。駄目パパと駄目お姉ちゃんなんて、おじいちゃんの後継ぎになるとでも?」
>> 93
「おじいちゃんっ!もうパパとお姉ちゃんを排嫡してもいいんじゃないの?。うちの家業はわたしが継ぐからっ!。駄目パパと駄目お姉ちゃんなんて、おじいちゃんの後継ぎ務まらないわよ!」
秋口から今日までエロ同人ばかりに精を出す姉の緑の尻拭いするハメが続いていたあおい。
賭け事やめたはずのパパが賭け事してたのを見つけたのもあり、パパが性別も確かめずに女の子に自分を嫁がせようとしてたのがバレたのもありで
一年の締めくくる大晦日だからと、今日は良い子してたあおいだが、ついにキレた。
キレたらもう誰も抑えられない、猪突猛進のあおい。帰省中の兄の貴志が「まあまあ」と間に入ろうとするも
「家業継ぐのを嫌がりおウチを出た、東京で官僚してるお兄ちゃんは黙ってなさいっ!」
もはや誰にも、あおいの数ヶ月分の怒りの火は止められない。そんなはずだった。そんな中、空気読まない女の子が。
「ねえねえ、これジュースだと思ったらお酒だったのね。でも美味しいわぁ!」
そう言ってるのは、あおいの従姉の紫蘭だ。緑がさっき注いだグラスをジュースと思い、一気飲みしたらしい。
「もう、本家はいつもうるさいんだから、だいたい今日はあたしの誕生。みんな忘れてるなんてひど過ぎる!。何よ!もう真面目になんかしないもん!」
とでも思ったか、小さな空き瓶がズラリの前で
「でもでも、やっぱり女子高生がお酒なんて、ダメよ!いけないわ!」
「よく言うよ!こんなに呑んどいて」
とは、瞬お兄ちゃんのパパの勝兵だ。
が、勝兵おじちゃんは案がひらめいたようで
「あおいちゃん、それだけ喋れば喉渇くだろ?。これで喉を潤して」
と、あおいにグラスを渡す。
勝兵おじちゃんは想い人の瞬お兄ちゃんのパパだからと、疑わず口にするあおい。
「何これ!苦ぁい!」
「ごめんごめん、甘さを足すの忘れてた」
蜜柑を絞る勝兵おじちゃん。そう、それはビールをつかったカクテルである。
「ほら、今度は美味しいジュースになった!飲んでみ」
>> 94
「ほーら苦かったのが、今度はおいしいジュースになった。飲んでみ!」
そうグラスをあおいに渡す、あおいの想い人の瞬の父、真鍋勝兵。
と言うのも、父の幸一朗や姉の緑に数ヶ月分の怒りをぶちまけるあおいによる、長~い長~いお説教を終わらせたいからだ。
「ほんとう?」
すすめられたグラスを疑いながら怖々と口にするあおい。
さっき思いっきり苦くて拒絶した液体が、ほろ苦さは残るものの確かに甘くなって蜜柑の味とかおりが混ざって飲みやすい。
「ほんとだ!おいしいっ!」
「でも炭酸が少し足りないような・・・」
それでもあおいは、それが実は勝兵がビールと蜜柑で即席で作ったカクテルと知らずに
「勝兵おじちゃん!もう一杯飲みたいっ!」
「はいはい。待ってなよ」
あおいの祖父の晋太郎はお酒に弱いし幸一朗は全く呑めない下戸。遺伝的にあおいは弱いか下戸では?と、勝兵は酒によるあおい黙らせ作戦に打って出たのだ。
♪ピンポーン♪
赤井家の門のチャイムが鳴る。
「はーい!」
インターホンに出た桃子が迎えに行こうとするのを、ワシが行く!と玄関に向かう幸一朗。
勝兵があおいの気を引き付けている今が、あおいの怒りからの逃亡チャンスだからだ。
あおいは気まぐれゆえに、わずかな時間でも自分があおいの視界から消えてれば、勝兵があおいの気分を変えてくれるはずだ。そう思い、同じくあおいの激怒の被害に遭っている緑に目配せする。
まして今あおいは、下戸なワシの娘あおいは、カクテルをジュースと思い込み、おかわり要求しているから、恐らくすぐ潰れるだろう。そんな淡い期待を胸に
冷え込んでいる大晦日の夜。はんてんを着ながら、今年最後の客は誰だ?と、幸一朗は緑と門に向かう。
>> 95
冷え込んでいる大晦日の夜。今年最後の客は誰だろう?。
そう思いながら出迎えに門に向かう、あおいの父の幸一朗とあおいの姉の緑。玄関の引き戸を開けて外に出る。
「寒っ!」
「わぁー雪だぁ!冷えるはずよね」
そう言いながら門に行こうとしたとき、寒さにしびれを切らした客の声が
「ゴルァ!幸一朗! 貴様あ、己の先生をさっさと出迎えに来んかいっ!」
「そっ、その、その声は・・・」
震えだす幸一朗。それを「何で?」と思う緑。
「勝手に入るでえ!」
門扉から手が伸びてカンヌキをまさぐる手が叫ぶ。
「あ、あいつや!。わわわワシの天敵が来よったんや!」
「みみみ、緑、わ、ワシは今日は留守やぞ!」
そう残し家に逃げ込む幸一朗。
逃げるなら外のほうが安全なのに、頭が回らないほど怯える相手って誰?。脳天気なお花畑が珠に傷でも、父の幸一朗は一応は武術家だ。それが逃げる相手?。
門から入って来た狂暴なる不審者に少し身構える緑に声の主は
「緑ちゃんか?大きくなったなあ!。ワシだよ渡だよ。」
寒さに顔が半分隠れるほどに巻き巻きしたマフラーを外し、そのせいでほぼ曇ったレンズの眼鏡を外し、目深に被った帽子を取った声の主は、緑と父幸一朗の幼いときの空手の先生だ。もっとも緑は当時は幼すぎて、習っていた記憶は殆どないのだが。
「渡先生、お久しぶりです。何年ぶりかしら?」
「おまえの同人、読んだでえ。なかなか面白う書きよるやんか!。ワシ、おまえのファンや!。で、幸一朗はどした?」
「パパ逃げちゃいました。賭け事がバレて、あおいに説教されてて、逃げようとしたら先生がいらしたのでビックリして(笑)」
「そうや、あおいちゃんにも逢いたいなあ、今いくつや?」
「十二歳で来年中等部です」
「そうかそうか」
微笑む渡先生。
緑はこの渡先生に聞いたことがある。
「渡先生、どうしてパパは先生を怖がるの?」
「あのなあ、あいつはカナヅチなんや。泳げんから教えてやろうとしたら暴れてな、ボートから海に放り込んだら溺れよったんや。ふつうは必死に本能的に泳ぐんやが、あいつは死にかけた。だからや。」
「だからあいつは今でも水が怖いカナヅチなんや。海や川やプールにおまえら連れて行かんやろ?。」
「しかもワシ、まだ若うてな、情けなさに目覚めたあいつを張り倒してしもたんや。」
>> 96
「なんや幼児恐怖体験のトラウマは一生つきまとうんかなあ?」
「今日はな、なんか皆と呑みたくてな酒持って来たんや。緑ちゃん上がらせてもらうで。」
そう緑としゃべりながら大広間に入った渡先生。緑とあおいの祖父の晋太郎に
「赤井老師、久しぶりですなあ。お招きありがとうございます。皆さんにお酒お持ちしました。」
と挨拶し、隣のあおいのパパママのお部屋に向かう。
押し入れをガバッと開くや渡先生は
「ゴルァ!幸一朗!三つ指ついてワシに挨拶せんかい!」
と幸一朗の首根っこを掴んで引きずり出す。
「せ、せんせい、空手の師範言うてもせんせいに習たんは幼稚園のたったの一年ですやん。それに何度も言いますけど、空手、今はせんせいと流派違いますやん」
「やかましいっ!。武林は義気千秋いうてな、武術の義侠心は一生ものや!。おまけに武林是一家いうてな同門は家族。空手は流派違ても八極門同士なんやから挨拶せんかい!」
渋々に挨拶する幸一朗。だが空手の礼式ではなく八極門の礼式だ。ささやかな抵抗なのである。
再び赤井家の大広間。
「今日はな、おまえと呑も思うて来たんや。ほら呑めっ!」
「ワシが下戸なん先生知ってますやん」
「オマエ、まだ若いわが弟子の呑み会に現れて賭け事教えて巻き上げたらしいやんか。呑めん奴が何で呑み会に来たんや?。いいから呑めっ!」
「クッソぅ!師範や思て大人しいにしてたら・・・暴れたろか?」
そう思う幸一朗に渡先生の平手打ちが飛ぶ
「オマエ、いまワシに不快な電波出したやろっ!呑めっ!。オマエは単純やから目に出てるんや!思てることがな。」
「呑みますがな。叩かんといてください。娘の前でえらい恥かかせてくれてからに」
「オマエが赤井家の、いや人ん家のことは口出しはせんが、オマエが八極門の歩く恥やろが!呑めっ!。賭け事やめた思たら、舌の根も乾かんうちにすぐに始めおってからに!」
とお椀にすぐに酒を注ぐ渡先生。そう、賭け事がバレてない。そう思っていたのは幸一朗本人だけだったのである。
一方、大広間の別の一角では、想い人の瞬お兄ちゃんの父の、勝兵おじちゃんが勧めるお酒に、気分が変わり上機嫌になりつつあるあおいがいた。
ふと見ると、見知らぬ男性がパパを叱っている。
>> 97
あおいがふと見ると、見知らぬ男性がパパを叱っている。
大広間の別の一角で、想い人の瞬お兄ちゃんの父の勝兵が勧めるカクテルに、上機嫌になってるあおい。
「ねえねえ、勝兵おじちゃん、あのガタイのいい強そうなおじいちゃんは誰?。はじめて見るんだけど?」
「ああ、あおいちゃんはまだまだ小さかったから覚えてないんだな。同じ八極門で、あおいちゃんのパパが幼稚園くらいのときの空手の先生の渡忠人先生だよ。」
「それから、あおいちゃんのおじいちゃん晋太郎さんの師兄弟で、あおいちゃんのパパの仲人さん。」
「仲人さんってなあに?」
「あおいちゃんのパパとママをくっつけた人のことだよ。」
「な、なんでそんなママに可哀相なことを」
「それはあおいちゃんのママがパパを好きだったから。あおいちゃんのパパ、今はああだけど、昔は強かった無敵男だから。」
「ふーん、そうだったんだぁ・・・」
「わたし、ちょっと挨拶してくるね」
「渡先生、お久しぶりです。パパの三女のあおいです。もっともお顔を覚えてなくて挨拶が遅れて、ほんとうにごめんなさい。」
一度部屋を出て、渡のいる辺りの襖を開き、渡の顔を立てて、きちんと渡の流派の空手の礼式で三つ指をつくのを二回繰り返し、挨拶するあおい。
知らずにカクテルを飲んでほろ酔いても、まだ正気を保っていたあおいだ。
「おおー!あおいちゃんか!大きくなったねぇ!」
「来年は中等部だって?。だったら一度うちに習いにおいで!。」
「あおいちゃんはまだ八極拳しか習ってないんだよね。でも日本の武術も知らないとね。」
「でも渡先生、おじいちゃんが一招、一つの技に熟しなさいと。小技を集めても意味ないからと」
「学ぶべきなのは日本武術の、例えば空手だと戦闘スタイルとその思考なんだよ。中国武術と異なる思考。」
「ベースは八極拳があおいちゃんには一番合ってるだろうけど、敵を惑わすためには、他の武術の戦闘スタイルを知らなきゃね、いつか命取りになる。」
「これはワシやパパみたいな空手家も同じなんだよ。」
そう言いながら、あおいの父、幸一朗の頭を叩く渡先生。
「鳶が鷹を生むとはこのことだ!。オマエ父親として躾は出来たみたいやが、肝心のオマエが歩く恥で恥ずかしゅうないんか!」
「さあ幸一朗、呑めっ!」
「先生、パパはほんとうに呑めない人なので」
>> 98
「先生、パパはほんとうに呑めない人なので」
そうパパの幸一朗を庇うあおいに渡先生は
「あおいちゃん、今年は君には厄年みたいなもんだったんやてなあ。」
「パパの賭け事発覚と台風直撃。緑お姉ちゃんのエロ同人発覚して停学の巻き添えの行き倒れで。」
「それに大好きな瞬君とは、今年は一度もデート出来ずで。」
「ワシはクリスチャンやないからキリスト教はわからんけど、こういうときはお酒で吹き飛ばして忘れるんが一番ええんや!。」
と、あおいの側のグラスに日本酒を注ぐと
「さ、あおいちゃんも呑んで騒ぐんや!」
「先生、わたしまだ小学生なのにお酒呑んでいいのぉ?」
「渡先生、小学生に日本酒はダメですっ!」
酒豪の渡先生に小学生のあおいを付き合わしてはいけない!。さすがにそう思った瞬、あおいの想い人の真鍋瞬が渡先生の暴走を止めようとする。
「うるさいわい!。オマエの机上の教育論はどうでもいいんや!。大切なのは年の区切りに気分変えることや!。」
「だいたい瞬っ!。オマエが緑ちゃんとあおいちゃんを天秤棒にぶら下げっ放しなのが二人の不機嫌の原因やろ?!。」
「いい加減、どっちを選ぶんかハッキリせいっ!。」
「いや、どっちか選べんなら、それはそれで二人平等にデートしてやるもんやっ!」
「ワシはオマエにも巻き込まれてるんやっ!。」
思わぬ雷を渡先生に落とされた真鍋はそれでも優柔不断で
「渡先生、選べと言われてもあおいはまだ小学生なんですよ?」
そんな真鍋に
「瞬っ!。誰がいますぐ一人を選んで結婚の誓いのチューをせいと言ったんや!。あおいの乙女心をわかってやれと言うてるんや!💢」
そして渡先生はあおいに
「いくら立派な建前でも建前では人を救えへんのや。人を救うんは共感する心や。そうやろ?あおいちゃん。」
「わたし、呑むわっ!」
>> 99
「わたし呑むわ」
このあたりで記憶の途切れてるあおい、つまり作者のわたし。
なんや、うっすらとパパと瞬お兄ちゃんが、ものスッゴく気持ち悪そな真っ青な顔で苦しそうに吐いてる姿が、おぼれげに脳裏にあるんやけど。
朝、瞬お兄ちゃんや緑お姉ちゃんに、従姉の紫蘭お姉ちゃんや同級生の美佐ちゃんに、昨日お友達になった晶ちゃんからも、おじいちゃんやパパや勝兵おじちゃんにママとおばあちゃんからも
「おまえパンツ一枚で踊ってたで!」
「パンツ一枚で瞬お兄ちゃんにキスをしつこく迫ってたで!」
なんて、口々にからかわれたけど、顔が真っ赤になるのがわかるほど顔から火が出てるな思うたけど、お転婆やゆうてもお嬢様のわたしがそんな下品なこと、するわけないやん。
なかったことにするんや!。みんなが同じ初夢を見てたんや。
明けましておめでとうございます!。
大晦日が明けて新年の朝、目覚めた一同は赤井家の道場で挨拶しあっている。
日本武術の礼式を教えるため、クリスチャンの赤井家の道場なのに何故か存在している
普段は「神前に礼!」でなく「正面に礼!」で稽古が始まる
そんな赤井家敷地内の道場の神棚にお神酒を捧げる、あおいの祖父晋太郎。この新年の朝だけは日本文化というか日本そのものに敬意を払い、「神前に礼!」で一同がこうべを垂れる。
道場の台所からお雑煮の味噌のにおいが漂ってくる。それが使用人により、お膳に盛りつけられ道場に運ばれる。着物姿で平らげる赤井家と関係者。
クリスチャンの赤井家だが、先祖の眠る靖国神社に表敬訪問し皆が着物から普段着に着替えるなか、あおいは何かをひらめいたようで部屋に急ぐ。
「新年いちばんのデートはあおいとしてね。」
気を利かせた婚約者の緑に言われ、あおいの部屋に行く瞬。ガラス戸越しに筆を握るあおいの姿が。
「あおい~何してんだ?。書き初めか?。デート行ってやるよ!」
そう声をかけて戸を開いた瞬の目に飛び込んだのは
書き初めは ふでおろしなる ひめはじめ
墨のしずくは 帯解く口実
冬休みの宿題か、墨も鮮やかなエロ満載な短歌の記された短冊。
緑のエロ同人癖がその妹のあおいに感染か?。そう怯える瞬は赤井家に一緒にお泊りしていた父を呼ぶ。
「親父!ちょっと来い!。てめえが昨日あおいに酒呑ますから!💢」
正月物語 完
《想い人はバレンタインが大嫌い?の時間》
♪キーンコーンカーンコーン♪
「やったあ!ギリギリセーフ!」
そう叫びチャイム寸前に黒川学園高校の玄関に飛び込んだのは、ここの生徒の真鍋瞬だ。
慌てて下駄箱を開けると、何やら物体がたくさんたくさんこぼれ落ちて、廊下に音を響かせる。
ため息をつきながら
「そうか、今日は俺の誕生日だった。またバレンタインか。」
そう呟きながら、廊下に落ちた何物かの山を拾い始める真鍋。
職員室から出て来た女性担任と目が合う。彼女は彼にコンビニ袋を渡しながら
「真鍋くん、慌てなくていいから、ゆっくりクラスに来なさいね。でも毎年たいへんね、このプレイボーイさん」
「先生っ!からかうのはやめてくださいっ!。こっちは全くうれしくないんですからっ!」
そう、下駄箱からこぼれ落ちた山はチョコレートの山なのだ。
もはや毎年の風景。
ここ黒川学園高校は幼稚部から大学部まで男子校なのに、なぜ彼の下駄箱にバレンタインの今日、チョコレートの山が入っていたか?。
それは・・・
近所に彼の彼女の赤井緑の通う、昔は系列だった、幼稚部から高等部まで女子校の黒百合女学院の山手校があり
車ですぐの場所には同じく女子校の大学部と専門校がある黒百合女学院中央校があり
さらに近隣には市立の女子高まであるからだ。
おまけに彼は宇宙人顔だが整ったハンサムボーイで、しかも学力優秀でスポーツ万能、空手や拳法の市大会で優勝を重ねており
さらにユーモアたっぷりで会話が面白く、優しく真面目。
トドメにこの街の誰もが知るお嬢様の赤井緑の遠戚、すなわち、お金持ちとくれば、近くの学校の女の子が彼を放置するわけがないのである。
彼の欠点は優柔不断と小柄なこと、そして甘いものが大嫌いで女の子とは食の好みが合いにくいことくらいだ。
そんな彼の悲劇はバレンタイン生まれなことだ。
「俺、今日は生きてお家に帰られるのか?」
彼の通う黒川学園高校は男子校ゆえの学友の妬み怒りが怖い意味と
毎年バレンタインは下校時間に、女の子の群れが彼を待ち伏せ、無理矢理にでもチョコレートを食べさせようとする意味で
二重の恐怖なのだ。
>> 101
下駄箱兼ロッカーからこぼれ落ちたチョコレートの山をコンビニ袋に詰め込み、教室に続く階段をため息をつきながら上る真鍋。
出欠を取った後の、ホームルームの時間のクラスメイトの声が廊下にまで聞こえてくる。
「先生、真鍋、今日は来ないんじゃねえのか?。去年、市立商の女の子にレイプされかけてただろ?。アイツ優しいから抵抗しなくて車に連れ込まれそうになってた。」
「ああ、パパがやくざの女の子に目をつけられてたやつか。大変だよなあ。しかもアイツ、モテまくりだし。」
「はいはい、みんな静かにね!。心配しなくてもさっき真鍋くん来てたわよ。」
そう手を叩きながら声を張り上げてるのは担任の白波由紀子先生だ。
「今日は学年末の球技大会の話をしなきゃでしょ!。学級委員、話をすすめてね」
ガラガラ~
クラスの引き戸を開ける音がして、真鍋が顔を出す。
「先生、遅くなりました。すみません。」
早速にクラスメイト達から
「よ~真鍋、生きてたか?心配したんだぞ!」
「今日はちゃんと俺達が守ってやるからな!」
「ウソつけ!オマエら、真鍋が貰うチョコレート目当てだろが!下心見え見えだぞ!」
そんな騒ぎの中、親友の亜集院光太郎が
「瞬、これ誕生日プレゼントだ。俺オマエが大好きなんだよ。それでだな、いきなりのカミングアウトで悪いんだがチョコレートだ。食べてくれっ!」
「こ、光太、お、俺はノーマルだぞ!。悪ふざけでもそんな真似はやめろよ!キモいだろが!」
そう叫ぶ真鍋。
「瞬、おまえこの前、男女平等論を授業で論じてたばかりだろが!ウソは良くないぜ!。チョコレート受け取ってくれ!。」
そう、しつこく告白を繰り返す亜集院に鳥肌が立ち寒気まで覚える真鍋。
「みんな、助けてくれ、こ、光太郎が壊れた!狂った!」
「いや、真鍋、実は俺も真鍋が恋の意味で好きなんだ!」
そう叫びながら立ち上がるクラスメイトたち・・・
「うわぁ!やめてくれ~」
クラスから逃げ出す真鍋
「うわぁ!やめろぉ!」
脂汗か冷や汗か、真冬なのに汗まみれで叫ぶ真鍋。起きて周りを見回すと寝台列車の中らしい。
そうだった、俺は緑と泊まりがけで旅行して帰りのブルートレインに乗ったんだった!
上のベッドで寝ていた緑が顔を出す。
「瞬ちゃん、どうしたの?」
「明日はバレンタインか」
>> 102
「明日はバレンタインか」
寝台列車の下段のベッドで、上段のベッドから顔を出した婚約者の緑にそう呟く真鍋。
クラスメイトの男の子に襲われて、無理矢理にチョコレートを食べさせられる悪夢と、女の子に襲われ、また同じく無理矢理にチョコレートを食べさせられる悪夢から
「うわぁ!やめてくれ!」
と叫びながら目覚めたばかりなのだ。それなのに、それなのに
「あら、瞬ちゃんバレンタインのお催促?。」
「仕方ないわね。はいチョコレートあげちゃう!」
と、鞄をごそごそまさぐり、何かの小箱を出す緑。
「やめろよ!俺がバレンタイン生まれでバレンタイン大嫌いと知ってのイタズラか?。おまえの頭はあおい並の小学生か?。」
「あら、やっぱり怒っちゃうのね。ふふふっ怒っちゃう瞬ちゃん可愛い!。実はこれ、ブランデーの小瓶よ。帰ったら呑みましょ。」
一方、同じくバレンタイン前日の昼間、赤井家の大きな大きな台所では、あおいのクラスメイトの、黒百合女学院初等部の五人組が集まっていた。それぞれの好きな人への想いを胸に。
「ねえねえ、美佐は何つくるの?」
「ビターチョコレートアイスとミルクシャーベットのコンビ!。あおちゃんは?」
「チョコレートケーキにするぅ!わたし大好きだし!。瞬お兄ちゃんと食べるんだ!。ゆかちゃんは愛しの待った先生にハートのチョコレート?」
「うんっ!あまーい大きいやつ!。わたしを食べて!って書きたいけどぉ、小学校の先生にはまずいよね。それにまだ勇気ないしぃ。カネコはお兄ちゃんにどうするの?」
「うーん、お兄ちゃん甘いもの苦手だから、クラッカーにビターチョコでコーティングかなぁ?悩み中。みずきは剛くんにはあげないの?あおちゃんばかり手伝ってるけど」
「あげるわよ!。でもわたしのはいちばん簡単だからいいの。レンジでマシュマロ溶かしてチョコチップとポップライスに混ぜて固めるだけだもん。」
そんな中、顔をのぞかせたあおいママの桃子が
「みんなのおうちに電話しといたから、今日はあおいと晩御飯食べて行ってね。そうそう、カネコちゃん、ミルクチョコにコーヒー混ぜても美味しいわよ。教えてあげるね」
>> 103
「そうそう、溶かしたチョコにコーヒークリームを混ぜて」
あおいの親友カネコにあおいママの桃子が、ブランデー漬け栗のチョココーティングを教えている。
実は赤井家の道場や塾の職員に、毎年バレンタインで配るお菓子なのだ。
「カネコちゃんお上手ね。そうよ、コーティングは激薄でね。そうしないと激甘になるの。チョコが溶けたら栗の風味だけが顔を出すようにね。」
カネコはビターチョココーティングした栗にコーヒーチョココーティングしている。桃子に褒められて、苦手な料理に一生懸命になってるのだが、天性の器用さでクリアしている。
不器用な人だと、チョコの二重コーティングは失敗するのだが。
もしかしたら彼女はパティシエに向いているかも。自身がパティシエだった桃子はそう思う。
別の調理台の上では
あおいがケーキにクリームコーティングして、仕上げのココアコーティングを右半分に、コーヒーコーティングを左半分にしている。
ピザのハーフハーフ仕様みたいなものだ。もちろん右半分がチョコチップとナッツ入りのスポンジに、左半分がナッツとブランデー栗のスポンジだ。
「あおいの愛しの瞬お兄ちゃんは甘いもの苦手よ」
ママからそう聞いてメニュー変更したのだ。
今までは無理して食べてくれてたのね。そう思い目が潤むあおい。
やっぱりわたし、瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!。緑お姉ちゃんにお兄ちゃんは絶対にあげない!。
ほんとうは激甘のチョコがこれでもか!な、スイートチョコケーキにしたかったのだが、瞬お兄ちゃんの好み優先である。
「ただいま帰りました!」
赤井家の広い広いキッチンに真鍋が顔を出して、あおいのママ桃子に緑と挨拶する。
「瞬お兄ちゃんお帰りなさい!」
「おひめさまだっこして」と甘えるあおい。
「ねえねえ、お兄ちゃん、明日バレンタインだよね!。わたし、ケーキ作ったの!。楽しみにしててねっ!」
「えー!俺、バレンタイン苦手なんだよ」
昨夜見た悪夢ゆえについ本音が漏れた瞬。だが優しい瞬は
「ごめん!冗談だ!」
あおいを見ると涙が。そして激怒つか憤怒の表情に。平手打ちされ
「お兄ちゃんなんか大嫌いっ!」
ココアパウダーを瞬に振りかけたあおいはキッチンから飛び出してしまう。
キスをあげるつもりだったのに!
部屋で泣きじゃくるあおい。
完
>> 104
《想い患いひなまつり 恋の決意の時間》
明かりをつけましょ ぼんぼりに
お花を上げましょ 桃の花
五人囃しの笛太鼓
今日は楽しい ひなまつり
ここは真鍋家。あおいの想い人で一回り年上の瞬の自宅である。
ひなまつりを歌っているのは、瞬の姉の実子と果子、実子の娘の早苗と果子の娘の愛子、招かれたあおいの従姉の紫蘭に瞬の婚約者の緑。そして真鍋ママの佐知代である。
緑が来ているのに、その妹の、瞬お兄ちゃん一筋のあおいが来ていないし、瞬本人がいないのは何故か?。それは・・・
先月のバレンタイン。瞬は自分に夢中な一回り下の女の子、まだ小学生の妹同然のあおいを傷つけてしまったからだ。あの日・・・
作りかけのスイートチョコケーキを放り出し、甘いもの苦手な瞬のために、ナッツケーキを改めて作った、瞬お兄ちゃん思いのあおいなのに、瞬は
バレンタイン生まれゆえ、バレンタインのチョコにうなされる夢を見てしまった瞬は
「バレンタイン苦手なんだよ!」
そうついつい本音を漏らしてしまったからだ。もちろん根が優しい瞬は、すぐに「しまった!ごめん!」と思い
「ごめん!冗談だ!」
と、良かれと思い発言を取り消したのだが、いや正確には
「一度でいいからバレンタインは嫌いだ!と言えるほどにモテたいなあ!なんて言う冗談なんだよ」
と主旨を入れ替えたのだが、あおいはそちらに傷ついたらしいのだ。
そう、あおいはママからバレンタイン嫌いのいきさつを聞いていたのだ。
そして、桃子や緑から聞けば
「わたしのケーキを冗談にするつもり?💢。」
「誰からモテたいの?わたし以外からモテたいとでも?💢。」
「瞬お兄ちゃんは他人からモテまくりたいとでも?💢」
「わたし、小学生だもん!。どうせ瞬お兄ちゃんの周りの女の子には歳で、ボディで勝てないもんっ!。もう知らないっ!💢」
「大人の女の子とよろしく仲良くすれば?💢💢💢」
あおいの怒りはこれらしいのだ。
あおいママ桃子は怒ってるし、あおいの姉で彼女の緑も怒ってるし、慌ててあおいの部屋に行ってひたすら謝ったものの、聞こえてくる声は泣きじゃくる声しかしない。
仕方なく、たまたま赤井家の道場に八極夜戦刀の練習に来た、紫蘭に泣きついて相談しても
「瞬お兄ちゃんは女心がわかってるようでまるでわかってないのね」
>> 105
「瞬お兄ちゃんは女心がわかってるようでわかってないのね」
呆れた顔で真鍋に嫌みを言ってるのは、バレンタインに瞬が傷つけてしまった一回り下の女の子のあおい、そのあおいの従姉で、たまたまあおいのお家の道場に八極夜戦刀の練習に来ていた紫蘭だ。
この紫蘭は女子高生ながら居合いなどの刀術を学び、そこらのチンピラなんかナメきっている女丈夫だ。事実、何人かを凸凹にしている。
真鍋があおいの祖父から八極拳をだいたい学び終え、今は崑圄剣を学ぶ関係で親しい。
まあ、もともと遠戚の幼なじみだからでもあるが。
そんな紫蘭がため息をつきながら言う。
「ねえ、瞬お兄ちゃん、知ってる?」
「あおいはねえ、このまま黒百合の初等部から中等部に行ったら、女子校で男の子を知らずに緑お姉ちゃんみたいなエロ同人女になっちゃう!って言っててね」
「エスカレーターで行ける黒百合中等部じゃなく、共学の国立大付属の中等部に入学するんだ!って勉強してたのよ」
「瞬お兄ちゃんに相応しい知的な女の子になるんだ!って」
「黒百合だって誰もが羨む名門なのに」
「それにあおいは記憶力いいから、勉強しなくても黒百合では成績上位常連なのに。あおいは気まぐれで集中力続かないのに、自分で頬を叩きながらね」
「この前も苦手ってわけじゃないけど、集中力切れて投げ出したくなる算数教えて!ってうちに来てたの」
「瞬お兄ちゃんに似合う女の子になる!って頑張ってたのよ。勉強しなくても勉強できるあおいがね。」
「そんな一途なあおいに、しかもバレンタインに、瞬お兄ちゃんのためにケーキを作り直した最悪のタイミングで、バレンタインが嫌いになるほどモテたい!はないでしょ」
「もうあおいは瞬お兄ちゃんに気持ちは向いてないと思うわよ。」
「多分、もう、いつもあおいにアプローチしてる剛くんに気持ちが移るかも知れないわね。剛くん、わたしが見ても男らしくて格好よくなってるもの。それにあの子、つまらない冗談言わないし。」
「そんなぁ・・・まさかあおいに限って」
そう思ってるのが顔に出てる瞬に紫蘭はまたもため息する。
「それが嫌なら、女の子の日のひなまつりにあおいにプレゼントでも買って、ひたすら謝って、いつものあおいに戻ってくれ!と頼むことね」
「あおいが剛くんにバレンタインしても、剛くんがホワイトデーする前に」
>> 106
「女の子の日のひなまつりにプレゼントでも買って、ひたすらあおいに謝ることね。あおいの気持ちが瞬お兄ちゃんから同い年の剛くんに移るのがイヤならね」
「あおいが剛くんにバレンタインしても、剛くんがホワイトデーする前に」
自分の彼女になりたいと、いつも甘えてくる一回り下の、小学生の女の子のあおいをバレンタインで傷つけてしまった瞬に、そう説教してるのは、あおいの従姉の紫蘭だ。
「でもさあ、紫蘭・・・」
瞬が言いわけしそうなのを察した紫蘭は、瞬にトドメを刺す。
「そもそもね、あおいが瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!って言った六年前、瞬お兄ちゃんはもうあおいのお姉ちゃんの緑さんが好きだったんでしょ?」
「あのとき瞬お兄ちゃん、優柔不断にも、あおいに気を持たせるようなこと言うから。それは楽しみだ!トカナントカ」
「いや、紫蘭、あのときはまだ緑に好きって言われてないから」
珍しく言いわけする瞬に怒る紫蘭。
「そんな問題じゃないでしょ!。瞬お兄ちゃんが、緑お姉ちゃんとあおいのどちらかと結婚する約束の、赤井家と真鍋家だった」
「だから瞬お兄ちゃんは緑お姉ちゃんに関心持てた。あおいは頭いいから、それ見抜いて、緑お姉ちゃんが瞬お兄ちゃんに好き!って言うまえに機先を制したんだから。」
「だから、あおいの初彼氏は瞬お兄ちゃんなの!。それを彼女のあおいの前で、女の子にモテたい!なんて言うのは、他のいい女を見つけたい!って浮気宣言でしょっ!」
「あおいは瞬お兄ちゃんにフラれたに等しいダメージ受けてるの!」
「いいこと?あおいに謝るのよ!。もしあおいがもっと傷ついたら」
と言いながら、たまたま道場の練習で持っていた刀を抜く紫蘭。
「わ、わかった!俺が全面的に悪い!。わかったから落ち着け!」
「あとね、緑お姉ちゃんも婚約者の瞬お兄ちゃんに捨てられたに等しいダメージだからね!。わかってるの?!。緑お姉ちゃんにもちゃんと謝るのよ!」
紫蘭から漂う殺気に逃げ出す瞬の背後に、紫蘭の怒りの声が響く。
そんなひなまつり前のとある月曜日、あおいは黒百合女学院初等部の個別相談指導室にいた。テストの成績が、トップクラスからまたも気まぐれ急降下で最悪更新だったのだ。
担任の待った先生が
「赤井、どうした?。最近は気まぐれ急降下もなくトップクラスで安定してたのに。」
>> 107
ひなまつり前のとある月曜日、あおいは黒百合女学院の個別相談指導室にいた。テストの成績が学年上位常連から、またも気まぐれ急降下で最悪更新したのだ。
初等部六年一組担任の待った先生が、優しく声をかけている。
「赤井、どうした?。最近は成績急降下もなく安定してたのに、悩み事か?。先生、力になるぞ!」
「これじゃ他校の中等部に行ってもやっていけないぞ!。おまえは瞬お兄ちゃんのために知的なお嫁さんになるんだろ?」
普段は待った先生が女心に鈍すぎる天然のせいで、犬猿の仲のあおいと待った先生。だが、この日は違った。
待った先生の眼を思い詰めた表情で見つめるあおい。表情が歪む。
「俺、また女心を読めなくて赤井を怒らせたか?。俺、また赤井に平手打ちされるのか?」
そう怖々と、「暴力反対!」と逃げ出そうかな?と、そう考える待った先生にあおいは飛びつく。
「だってぇ、わたし、わたしぃ・・・」
泣きじゃくるあおい。
あれ?いつもの勝ち気な暴力少女の赤井はどこに行った???
「瞬お兄ちゃんがぁ、わたしよりもっと素敵な女の子にモテたいって」
「わたしまだ小学生だもん、頑張っても瞬お兄ちゃんに振り向いてもらえないのが、もう、もうわかったもん!」
「もうわたし、頑張るのイヤだぁ!」
実はこの待った先生こと松田先生、高校大学時代はあおいの想い人の真鍋瞬の先輩で、今は兄弟同然の親友だ。
あの真鍋が、初恋に燃えてる小学生にしかも遠戚の赤井に、そんなヒドイこと言うかあ?。
言ったとしても、決して悪意のない冗談だったのでは?
そう思いながら、だがしかし、最近は塾講師が忙しいのか、真鍋と連絡がつかない。
黒百合の教師志望の真鍋に、高等部の教師の妊娠退職で空きが出来たのを伝えたいのに・・・こういうことだったのか。
と思い巡らす待った先生に妙案が。気まぐれだが思い込んだら一途な赤井の性格を逆に使うんだ!。
危うくもう少しで、真鍋が黒百合女学院高等部教師になると言いかけたのだが、赤井のしあわせを考えて飲み込んだ。赤井は他校に行くより、黒百合で伸び伸びしたほうがしあわせだ。
「そっかあ!。赤井はもう他校に進路変更どころじゃないわな」
「クラスのみんな喜ぶぞ!。赤井と一緒に中等部に進学出来るんだ!って。俺もおまえが黒百合から出て行くのが、淋しかったしなぁ」
>> 108
ひなまつり三日前、待った先生は親友の真鍋に電話かけている。家に電話しても無駄だと思ったので、真鍋の職場の他県の塾にだ。
さすが有名進学塾だ。待たせることなくすぐに事務のお姉さんが出てくれた。コール音すら聞こえないかのような素早さだ。舌を巻く待った先生。
「あのう、わたくし黒百合女学院山手校初等部教師で六年生担任の松田ですが、そちらに真鍋先生いらっしゃいますか?。真鍋先生が学生時代にこちらの高等部で実習していた件で相談が・・・」
「実は中高等部も初等部と同じ敷地でして、生徒が卒業まえに、昼休憩に何度も遊んでくれたお礼に真鍋先生に会いたいと」
「それで一部生徒が他校に進路変更してるものですから。もし真鍋先生が休暇でこちらに戻られても会えないかも知れないと」
「そうでしたか。でも生憎、申し訳ありません、本日真鍋は休んでおります。真鍋自宅の番号お知らせしましょうか?」
「いえ、仕事上の教育職同士のお話ですので。卒業前の感謝会に来ていただけるようなら、そちら様のお仕事に影響あるでしょうから」
「わかりました。ではどうしましょう?」
「初等部卒業までは時間ありますので、クラスの感謝会はそちら様と真鍋先生の都合に合わせたく。真鍋先生が出勤しましたら、連絡いただきましたら」
「わかりました。こちらでも真鍋が時間とれるように手配いたします」
電話のあと、待った先生は初等部校長と中高等部の両校長に言う。
「これでよろしいですね?。相談しましたように、赤井が機嫌を直していれば真鍋に会わせる。そうでなかったら秘密裏に真鍋を高等部教師に採用する」
「赤井家は本学高額寄附者であり、その塾は生徒に人気です。しかも赤井は気まぐれに成績乱高下しても、学年トップクラスです」
「その赤井が学外の中等部への進学を断念したんです。赤井あおいの真鍋への恋を学校としては、間違いのない限り黙認する。いや、むしろ応援する」
「前例は赤井の長姉、高等部赤井藍子と真鍋の恋。藍子死後の赤井の次姉の中高等部の赤井緑との真鍋の恋」
「いずれも両者だけでなく、真鍋に関わる生徒の成績上昇がありました。目的は本学の偏差値維持のためで行くんですね?」
そのころ、真鍋は部屋にこもり悩んでいた。仕事には行くが心配で仕事どころではないので、この三日間、体調理由に休んでいた。
>> 109
「ねえ!瞬ちゃんいるんでしょ!。寒いからドア開けてよ!」
そう言いながらドアを叩くのは、あおいの想い人、真鍋瞬の姉の真鍋果子だ。
娘の愛子を連れている。
たまたま瞬のアパート。と言っても、豪華な部類のアパートだがを、旅行の帰りに尋ねたのだ。手には実家に持ち帰るお土産袋をぶら下げている。
在宅がわかるほどに部屋の明かりが窓から漏れ、なにやら女性アイドルの歌声、テレビかコンポから聞こえている。
だがしかし、瞬は出ない。
無理もない、脱衣室のドアを隔てて、今はお風呂中だ。
痺れを切らした果子は、ハンドバッグをまさぐり、合い鍵を出して玄関を開けて中に入る。娘連れなのだ。寒がる愛娘に風邪をひかせるわけにはいかない。
と、そこに買ったばかりの髭剃りムースを忘れて、寝室に取りに行こうとする瞬が素っ裸で脱衣室から出てくる。
「きゃあー!」
と果子の悲鳴。最近、気分転換に髪を剃った瞬。しかも瞬が普段かけている眼鏡してないから、おまけに口髭が伸びた瞬を、ついつい他人と思いこんでの悲鳴だ。
「ご、ごめんなさい!部屋間違えましたっ!」
慌てて部屋から出ようとし、ドアのノブを掴もうとして、手の平に合い鍵があるのに気づく。
瞬は瞬で果子の悲鳴に
「あ、姉貴!。なんで勝手に入って来るんだよ!」
なんて言いつつ、慌ててベッド上のシャツを下半身に巻付ける。
「あんたが居留守するからよ!。全くもうっ!ビックリさせないでよね!」
「風呂入ってたんだよ!。それに、それは俺の台詞だ!」
お風呂と聞いた果子の娘の愛子が
「わたしも瞬おじちゃんとお風呂入るぅ!」
と言い出して聞かないものだから
「じゃあ悪いけど瞬、愛子お願いね」
そんなこの日はひな祭り二日前。
「ねえ瞬、明後日うちでひな祭りするの。緑もあおいも紫蘭も、とにかく、赤井家の皆さんが来るから、あんた明日は日曜日だから帰って来なさい」
愛子の服を脱がせながら瞬にそう言う、瞬の姉の果子。緑とあおいに気を利かせているのだ。もちろん弟の瞬にも。
>> 110
「ねぇ瞬ちゃん、明後日うちでひな祭りするの。緑もあおいも紫蘭も、とにかくアンタが結婚予定の赤井家の皆さんがくるから、アンタ明後日は日曜だから帰って来なさい」
真鍋瞬の許嫁の緑、緑の妹で瞬に一筋な片想いのあおい、二人に気を利かせた瞬の姉の果子。
真鍋の赤井家で起こしたバレンタインデー騒動を知らない果子は、そう弟に言葉を残し帰ってしまった。
どの面下げて三人に会えばいいんだよ・・・
くよくよ悩まず仕事復帰しよう。そう気分転換に髪を剃ったにも関わらず、果子の言葉に優柔不断の癖が再度発動してしまい、思い悩む瞬。いや、それどころではない。
妹同然の、あおいのバレンタインチョコを無駄にし、激怒させてしまった真鍋。超絶スーパーウルトラハイパーに手が早い、極めて短気なあおいに殺されかねないのだ。
さらにその姉の緑は、喧嘩に全く容赦のない女。その上に、紫蘭は刀術では県内無敵。三人とも武術家の孫、そこらの同じ体格の男より強い。そして問題のあおいの猪突猛進スピードは下手な大人を圧倒する。
俺、生きて帰られるのか・・・?。怖っ!。逃げたいっ!。
そんな夜の明けた、ひな祭り前日
タン、タタタ、タンっ!軽やかな靴音がアパートに入る。
アパート一階のホールのポストに新聞朝刊を取りにドアを開ける真鍋。階段を駆け登る軽やかな足音がする。
冷えきった朝だからか、マフラーで顔の隠れた見知らぬ女の子。てか自分は眼鏡外してるから、顔はハッキリ判別できないが、小学生くらいだろう。同じアパートのパパか兄でも訪ねて来たのだろうか?。
階段をすれ違う二人。そしてホールの販売機で缶のホットコーヒーを買い、朝の一服にタバコを楽しむ真鍋。
冷えきった朝だから、部屋でコーヒーを飲みタバコすればいいのに、毎朝の習慣だし空き缶を溜めたくないのだ。そうこうするうちに、朝刊を取りにきた住人の女性と短い世間話になる。
「寒~っ!」
少し冷えた体で、そう呟きながら、今日こそ塾に仕事行くぞ!と決意も新たに部屋のドアを開ける真鍋。目にした物は、そこにあるはずのない
いや、いるはずのない、倒れている女の子。首にはロープが・・・側にはパンツが
目を疑う真鍋。部屋を間違えた?。
表札を確認する、自分の部屋だ。なんで?
目を擦る。確かにいる。
また目が悪くなったか?。眼鏡をかける・・・
>> 111
「死、死ぬなーあおい!」
「た、たたた頼むから目を開けてくれーっ!」
「お、俺が悪かった!なんでもしてやるからお願いだ!」
なんでこうなったのか?。数十分前を巻き戻すと
お部屋に差し込む朝日の中、目覚めた真鍋。毎朝の習慣でジャンパーをパジャマの上に羽織り、自販機前で缶コーヒーを飲みながら、世間話をしつつ目覚めのタバコを楽しむ。
その直前、アパートの階段ですれ違った少女が、あろう事か自分の部屋に倒れていたのだ。
首にはロープが。胸には赤い染みが。側には少女のものだろうパンツが。
我が目を疑い、目を何度も擦り、部屋の表札を確認し、ド近眼ゆえ眼鏡を探してかける。
その少女は
その遺体の少女は
自分に片恋している一回り歳下の小学生。婚約者の妹のあおいだ。
バレンタインデーにひどいことを言ってしまった真鍋。自殺?と思ったが、女の子がわざわざパンツ脱いで自殺するはずがない!。
転んで誤って自分を刺したか、変なおじさんに殺されたか?
そんなことを考えながら、必死に蘇生しようと声をかける。
「そっそうだ!心臓マッサージと人工呼吸だ!」
そう思い、あおいの顔色を再び確かめると
「人工呼吸」の言葉に反応したのか、あおいはチューをして欲しそうに、上目遣いで真鍋を見つめ、そして目を閉じ、唇を突き出している。
「お、おおお、お前って奴は!💢」
「紛らわしいイタズラしやがって!💢」
お姫様抱っこ状態から、いきなりあおいの頭を床に落とす真鍋。
「いっ、痛ぁい!。何よ!臆病者!。襲ってくれると思ったのにぃ!」
「それに倒れてる女の子を、しかも顔をふつう足でツンツンするか?💢」
そんなあおいの罵詈雑言に
よかった、元気になってくれてたんだ!。そう思い
「なあ、あおい、この前は傷つけてゴメンな」
そう、素直に謝ろうとしたら、一難去ってまた一難だ。
謝りながら振り向くとあおいは服を全部脱いでいる。
「お前には恥じらいはないのかっ?!。俺は一応、男だぞ」
「だってぇ、お洋服、血糊り代わりのケチャップでベタベタだもん。洗濯機借りるね!。それに瞬お兄ちゃんロリコンじゃないでしょ」
「それにぃ、毎日お風呂入れてくれてたじゃん。何を今さら」
「それはお前が低学年のときの話だ!」
ため息をつく真鍋。
>> 112
真鍋が振り向くと、あおいは服を脱いですっぽんぽん状態だ。
「お前に恥じらいはないのか!」
「だってぇ、血糊り代わりのケチャップまみれだもん。洗濯機借りるね!」
「じゃ、そこの俺のTシャツ着ろ!」
「何を真っ赤になってるのよ。いつもお風呂、一緒だったのに」
「それはお前が低学年のときの話だ!」
「わたしぃ、お兄ちゃんなら今でも平気だよ?。お兄ちゃんロリコンじゃないんだから。あっそうだ!冷えたからお風呂も借りるね!」
洗面脱衣室のドア越しに真鍋は聞く。
「お前、そう言えば今日は土曜日だぞ!学校は?」
「初等部は昨日からお受験会場だし中等部は卒業式だしでお休みよ!」
バレンタインの真鍋のひどい言葉への仕返しに仕組んだ、死体どっきりイタズラでケチャップまみれの服を洗濯機に入れようとするあおい
ついでに瞬お兄ちゃんのも洗ってあげよう!
脱衣ボックスを開けると、底には、えっちなえっちなVHSビデオが。
脱衣室ドアを少し開いて
「真面目なお兄ちゃんも男の子だったのね、えっちね!」
と、そのビデオを放り投げる。
「うるせえ!要らんことすんなっ!」
「なになに?『おっぱい聖人現れる』だって!ダッサいわね!」
今度は真鍋秘蔵のエロ本のタイトルを読み上げるあおい。
「うわぁー!。見んな!読むなっ!おまえ小学生だろが!」
堪らずに、ついつい脱衣所のドアを開いた真鍋に、全裸姿のあおいの誘惑
「ねえ、一緒に入ろ!。お願い、わたしの髪洗って!昔みたいに」
はあぁー
と、ため息する真鍋。いつもいつも気がつけば、あおいのペースに乗せられる自分へのため息だ。
「今日だけだぞ」
もちろん塾講師の真鍋、遠戚のあおいでも、幼なじみのあおいでも、あおいの脳内の彼氏が自分でも、小学生のあおいと混浴するわけにはいかない。そんなロリコン趣味もない真面目な真鍋は、パジャマのズボンは履いたままだ。
バレンタインデーに自分が傷つけてしまった、あおいが元気になるならと
「頭を洗うだけだぞ!」
だが、あおいのバレンタインデー仕返しのイタズラは、まだまだ終わりではなく、第二弾のイタズラに巻き込まれつつあるのを、真鍋は知らない。
>> 113
パンツ一枚姿のあおいの髪をドライヤーで乾かしてやる真鍋。
極めて新陳代謝の良すぎるあおいは熱がりだ。真鍋のお部屋の窓も少し開いている。その窓から歌声が
🎵静かに~神と交わる
朝の~我が一時(ひととき)
新たに~朝日のごとき
心を~われ持たまし
夜の幕~ややに消え行き
日蔭は~地に漂う
主のほか~我ただ一人
御声を~いざ聞かまし🎵
あおいの大好きな賛美歌だ。礼拝で子ども聖歌隊のソロで歌う予定の歌だ。
そんなあおいの歌声の中、あおいが幼稚園だったときのように真鍋は、あおいの髪をおさげに結ってやっている。甘えきっているあおいに真鍋は
「ほれ、出来た!かわいいぞ!」
「もう熱くないだろ!服着ろ!」
と、乾燥機から出したあおいの服を放り投げる。
あおいの髪を洗ってやるだけのつもりが、バスルームであおいにシャワーかけられ、結果、ずぶ濡れにされて混浴してしまった。小学六年生の女の子と・・・。
俺はロリコンでもないのに・・・。そんな自己嫌悪で、ため息出そうになるが、それでもあおいはご機嫌だから、これはこれで結果オーライかな?。
そう思う真鍋。一方あおいは
待った先生、来るのが遅い!イタズラ失敗かな?
そう思いつつ時計を確認しようとすると、アパート廊下の気配を感じ取ったあおい。イタズラ第三段を繰り出そうとする。
そんなあおいの待ち人、待った先生こと黒百合女学院初等部教師で、あおいの担任で、真鍋の大学時代の先輩かつ親友の松田先生は、アパート外の廊下で、真鍋の部屋から漏れるあおいの歌声に
しばらく待とう。
赤井は上機嫌らしい。赤井と真鍋、二人は仲直りしたのか。良かった良かった。二人が仲直りなら俺が来る必要なかった!。気を利かせて帰ろう!。
そう待った先生が思った矢先
「きゃー!エッチ!」
「お兄ちゃん何すんのよ!やめてぇ!」
「赤ちゃんできちゃう!」
赤井の悲鳴が。
ま、まさか、あの真鍋に限って・・・。いやいや、赤井は俺の教え子だ!助けなくては!
ドアが開き、上半身裸の赤井が服を抱えて泣きながら走っていく
「真鍋!おまえって奴は!俺の生徒になんてことを!」
誤解した待った先生は真鍋の胸倉を掴む。
>> 114
「きゃー!お兄ちゃん!やめてェ!」
「赤ちゃんできちゃう!」
教え子の赤井の悲鳴を聞いた待った先生。
真鍋がこんなことするはずがない!。しかも赤井は真鍋の遠戚だ。何かの間違いだ!。でも赤井は俺の教え子だ。助けねば!。
それまで廊下に聞こえた、二人のデートな声に気を利かせ、真鍋の部屋に入るタイミングを待っていた待った先生。ドアをこじ開けようと
そこにドアを開け、上半身裸で服をかかえて、泣きながら逃げる赤井。これは真鍋の小学生レイプ確定だ!と、そう誤解した待った先生。
「真鍋!おまえって奴は!。俺の生徒になんてことを!」
そう怒鳴りながら、真鍋の胸倉を掴む。
「ち、違う!。松田さん、俺は無実だ!」
「何が無実だ!赤井は裸だったじゃねえか!」
「松田さんも担任なら知ってるだろ!。あいつは熱がりなんだ!。風呂上がりだ!」
「真鍋っ!お前は小学六年生と混浴すんのか!」
「だから、それはあおいが無理矢理・・・むしろ無理矢理に混浴させられた俺が被害者だ!」
「何言ってんだ!お前は武術家でもあるだろが!。小学生に無理矢理に裸にされたとでも言うんか!」
「それは精神的にだな!。あおいが悪魔なの、松田さん担任なら知ってるだろ!」
「うるせえ!お前は小学生か?とにかく警察だ!」
そんなこんなを、廊下で服を着ながら聞き耳を立てるあおい。待った先生の怒りが最高潮に達し、自分に誤解してる待った先生への真鍋の殺気が現れる寸前
「へへへー、イタズラどっきり大成功!」
「お兄ちゃんも待った先生も、わたしのヌード見れたんだからいいじゃない。小学六年生ヌードは滅多に見られないわよ?。はいはい、喧嘩しないの。二人とも先生なんだから」
「お前って奴は・・・この悪魔!」
そんな真鍋と待った先生の怒りと言う、呆れたと言うか、そんな声にあおいは
「待った先生、無関係なのに巻き込んでごめんなさい」
そう頭を下げたかと思えば
「瞬お兄ちゃん、これで身に染みた?」
「わたしを怒らせたらこうなるのっ!」
「きちんと真面目に謝るまでゆるしてあげないけど」
「渡し忘れてた誕生日プレゼント、受け取れ!」
キティーちゃんのリュックサックから包みを取り出して、真鍋に投げつけるあおい。
「編んでたマフラーだよ!。わたし、まだゆるしたわけじゃないからね!。さよならっ!」
>> 115
ひな祭り当日の日曜日、真鍋は塾に誰よりも早く出勤した。
一日も早く、あおいにちゃんと姿勢正して謝らなきゃ!。バレンタインデーで酷く傷付ける言葉を吐いてしまったのだから・・・。そう思う真鍋。
昨日、あおいはバレンタインデー生まれの自分の、月遅れの誕生日プレゼントを、遠路はるばる持って来てはくれたものの、まだまだ怒っていた。
「わたし、お兄ちゃんをゆるしたわけじゃないんだから!」
と、手渡しではなく、投げつけられたのだ。その包みを見ると、苦労した跡が伺える、手編みのマフラーだった。ハートマークと相合い傘マークが半分なのは、お揃いで二つ編んだのだろう。
たまたま親友の黒百合女学院初等部教師の松田先生も、昨日、真鍋とあおいの仲違いを心配して真鍋を訪ねて来ていて。真鍋が転職希望している黒百合女学院高等部に、教師の空きが出来たと知らせてくれて、こんこんと説得されたのだ。
「なあ真鍋、お前が先生になったのは、赤井の一番上のお姉ちゃん、藍子さんだったか、それが赤井の目前で交通事故即死のショックで、失語していた赤井を護りたかったからだろ?」
「中高等部、大学と成績優秀だったお前だ。でもお前は、空きがなくて黒百合の先生にはなれなかったけど塾の優秀な先生だ」
「それでだな、黒百合だが、出産退職で空きが出来たんだ。お前、来い。見てのとおり赤井はお前にゾッコンじゃないか。妹同然の赤井を、ちゃんと最後まで護ってやれ!。お前は赤井のナイトなんだよ」
「いいか、明後日の月曜日、面接だから来るんだ!。話は先輩の俺が学長と高等部校長に通してるから。お前が是非とも欲しいんだとさ」
そんな松田先生に真鍋はまた優柔不断の癖が出る。つか、塾人気講師の職を辞するのを躊躇う。
「松田さん、あおいは見ての通り、いつも気まぐれ成績乱高下だ。俺が傷つけたせいで、入試失敗するはずだし進路変更出来ないはずだ。あおいにはもちろんだが、あおいのパパママに合わせる顔がないんだよ」
「いや真鍋、赤井は見事に入試合格ラインだぞ!。だから黒百合中等部より勉強大変になるんだ。だから、とにかく地元に帰って近くで護ってやれ!いいな!。塾のほうには学長命令で今から俺達が話つけるから」
これは良かれと思っての松田先生の嘘だが、そう真鍋を説得し帰って行った。
そんなこんなを思い出しながら、塾の掃除する真鍋。
>> 116
ここは桜台進学塾。バスが停まり、若い女性が降りる。塾の人気講師の棟上京子だ。塾の先生や生徒にボイン先生と呼ばれることもある。
その桜台進学塾前の道路を若い男が掃除している。
「清掃員さん、おはようございます。ご苦労様です」
棟上先生はちゃんと挨拶する。
挨拶に振り向いた清掃員さんは
その清掃員は、スーツの上着を作業着に変えた、同僚の真鍋先生だ。気分転換にスキンヘッドにし、口髭を蓄え、眼鏡も変えているから、棟上先生はまだ気付かない。
「棟上先生、おはようございます」
その真鍋の声に棟上先生
「真鍋先生だったの?。びっくりしたぁ!。どうしたの?イメチェン?」
「ええ、気分転換に」
「ふーん、良く似合ってるわ!。口髭は正解ね!なかったら宇宙人だけど、ハンサム度パワーアップね。これで生徒もまた増えるわね」
「いや~僕はハンサムじゃないですよ。ちびだし」
「ううん、真鍋先生は強いし小さくてもスポーツできるし、講義おもしろいで人気講師よ!。自信持たなきゃ!」
「それはありがとうございます!」
なんか、いつもと違う真鍋。
おかしい!と気付く棟上先生。
「どうしたの?。真鍋先生、何かあったの?」
「実は僕、今日ここを辞めて学校の先生になるんです。今まで親しくしていただいて、ありがとうございました」
丁寧に頭を下げお礼を言う真鍋
「そんな・・・。それで、どこの先生になられるの?」
「僕の母校と系列だった、黒百合女学院山手校高等部です」
「そうなんだ。真鍋先生、婚約者いらっしゃいましたよね。確か黒百合女学院中央校大学の赤井緑さん。結婚なさるのね、おめでとう!」
「いえ、結婚はまだ先です。実はその緑の妹のあおいが心配で。昔、交通事故のショックで一時失語してましたし、恩師に改めて頼まれましたので」
「そうだったの。それで最近は上の空だったのね。でも強いだけじゃない優しい真鍋先生は素敵よ!頑張って!」
そう応援する棟上先生に真鍋は
「ありがとうございます!頑張ります!」
「淋しくなるなぁ。わたしもね、高校教師なりたかったの。だからお願い!。そこ、空きが出たら教えてね」
「約束します!」
妹同然のあおいを護りたい。
そう決意した真鍋はこの日、辞表を提出した。
塾長に必死に引き止められたが決意は変わらなかった。
>> 117
あおいのスカートに男の子の手が伸びる。いわゆるよくあるスカートめくりだ。
あおいのスカートと言うより、スカートの中身のパンツを狙っているのは、奥手ながらも最近思春期突入した、同い年の幼なじみ剛くんだ。
今日は女の子の日のひな祭り。
目の前に美味しい物があれば、小学六年生でも心はすでにお年頃なのに、色気より食い気のあおい。
真っ先に食欲優先の、誰よりも背が低いくせに新陳代謝の活発過ぎて、お嬢様にも関わらず常時空腹みたいな、そのあおいはママの用意した可愛らしい着物に着替えるのもそっちのけ。
あおいママがゆかり達に着付けしてる隙に、おばあちゃんの作るお菓子につまみ食いしようと、キッチンにそっと手を伸ばそうと、あおいは無我夢中だ。
そんな赤井家に、招かれて一緒にいるあおいの親友のゆかりもカネコも、遠戚の美佐も、剛くんにスカートめくりされた、そんなお昼前。
気付かれずにあおいの背後に接近成功!。スカートまで剛くんの指先はあと数センチ。そして躊躇うことなくスカートを一気にめくりあげる。
あおいのスカートから顔を覗かせたのは、淡いブルーにイチゴ柄のパンツだ。性格は男でも、あおいはもちろん女の子だから
「きゃあ!。いきなり何すんのよっ!」
「隙があるのが悪いんだよ!。それにおとこ女のくせにかわいいパンツ履いてんじゃねえよ。お前はブリーフがお似合いだろ?」
そうからかいながら逃げる剛くん。
油断した!。剛くん最近わたしのスカートめくらないから油断した!。そう思いつつも、剛くんのさっきの、超ムカつく悪口に
「何ですってぇ!。コラ!待ちなさい!」
激怒モードで追いかけるあおい。必死に逃げる剛くん。学校いちばんの駿足のあおい、すぐに剛くんは捕まった。
哀れ、凸凹の刑に処せられる剛くん。もちろん、さっき剛くんのスカートめくり被害に遭った、ゆかりもカネコも美佐も着物姿に着付けも終わり混ざってる。
そんな騒ぎに、とうとうあおいのママ、桃子の雷があおいに落ちる。
「あおいっ!いい加減にしなさいよ!。女の子の日くらい女の子らしくしなさいっ!」
「今からあんたの着付けするから、さっさと脱ぎなさい」
性格が男なあおいは、剛くんの目も気にせずワンピースのスカートを脱ぐ。反対に恥ずかしそうに慌てて部屋を出るのは、さっきスカートめくりした剛くんだ。
>> 118
ワンピースを脱いでパンツ一枚姿のあおいに、新調の着物を着付けようとするママの桃子。そんなときキッチンから声がする。
「桃子さん、ちょっとこっちを手伝って下さらない?」
ひな祭りのご馳走とお菓子を使用人と作っていた、あおいのおばあちゃんは桃子を呼んでいる。側で介添えしてる使用人の山田に
「山田、あおいの着付け、お願いね」
そう言い付けてキッチンに向かう桃子。
そんな中、あおいはじっと、パンツ一枚姿のまま身じろぎもせずに立ってるだけだ。世が世なら山田などお目見え以下の身分、そこらの石と変わらない。
別に今のご時世にお嬢様ぶって、お姫様ぶって高慢してるのではない。パパママの社交を兼ねたひな祭りに姉の緑の代わりに挨拶に出るのだ。政治家も来ている。その儀礼だ。
あおいは自分一人でも着物は着られるのだが、旧武家の格式で控えの者、つまり使用人がいるときは、仕事させねばならない。主人のあおいに着付けし美しく和装させるのが山田の仕事だ。
山田は慣れた手つきであおいを着飾らせていく。帯を締め、日本髪に結い、かんざしを髪に、帯に懐刀を差し込み、香り袋を袂に。活発過ぎるゆえの、普段は庶民と同じような価格の服のお転婆娘のあおいが、上級武家のかわいいお姫様に変身だ。
その変身の一部始終を、憧れの眼差しで同級生のゆかり、カネコ、美佐は見とれている。
「やっぱりあおちゃんかわいい!。本物のお姫様だ!」
そんな羨望のカネコに
「あまりいいものじゃないわよ。窮屈なめんどくさいだけだから。ゆかちゃん、カネちゃん、行ってくるけど挨拶するだけだからすぐ戻るね。一緒に食べて遊ぼうね。わたし、こんな古臭い格式、大嫌い。だいたい緑お姉ちゃんと紫欄お姉ちゃんが逃げたから。なんでわたしが窮屈な目に・・・」
「まあまあ、怒らない怒らない。あおちゃん行こう」
同じく旧武家のあおいの遠戚の美佐も、分家筋としてあおいの介添えだ。赤井家道場の大広間に待つあおいの祖父と父の下に、あおいの後ろを静々と歩いていく。
数十分後、気疲れしたあおいは、同級生の前でまたも、やけ食いに走る。そのあおいの食べっぷりに
「あおちゃんすごーい!男の子みたい!カッコイイ」
わけわからない感心してるのは、お呼ばれのゆかり・カネコ・美佐に遅れて来た、ちはるとみずきだ。こちらは洋のドレス姿している。
>> 119
赤井家の広いダイニングに、あおいの祖父と父を除く皆が揃う。もちろんお呼ばれの、美佐もゆかりもカネコもいるし、習い事で遅れてきた、みずきもちはるも、あおいに恋心の剛くんもいる。
本来はちらし寿司を予定した、あおいのママの桃子だが、美佐のママの美樹子から、美佐が今朝初潮を迎えたのを聞いてお赤飯だ。
鯛の塩焼きに様々なお刺身、はまぐりと海老の酒蒸し、鶏肉と卵と茸のお吸い物、春の和え物と春のお浸し、菱餅を模した和風のケーキにお持ち帰りの桜餅・・・。
社交の宴の、これまた赤井家の大広間と比べたら質素だが、それでも、あおいや同級生の初等部卒業祝いも兼ねたご馳走だ。
そんな中、姉の緑と従姉の紫蘭の代役で挨拶だけだが、社交に出て窮屈な思いで気疲れしたあおいはやけ食いに走る。
同学年でいちばん小さい体なのに、信じられぬスピードでお腹に納めていくあおいの、そんな食べっぷりに
「あおちゃんすごーい!男の子みたい!カッコイイ」
なんて、わけわからない感心しているちはるとみずき。そして性懲りもなく限界突破まで勢いのままに食べつくし
「苦しい!食べ過ぎたぁ!」
なんて後悔するあおい。
そしてあおいのお部屋に。最初は女の子らしい遊びに我慢して付き合っていた剛くん。でも、ちはるとみずきがトイレに立とうとすると、二人へいきなりのスカートめくり。
ついにキレたあおいにより当て身され、ベッドに縛り付けられてしまった哀れな剛くん。
「ねえ、コイツ何刑にする?」
「もちろんズボンずらし解剖ごっこでしょ」
そんなあおいと美佐に、剛くんラブなちはるとみずきは
「あおちゃん、アホは放置がいちばんよ。三日くらい縛っとけば?」
あおいの気まぐれな性格、コロコロ猫の瞳のように気分が変わるのを知っての、剛くんへの助け船だ。
「えーっ!ちはるぅ、みずきぃ、パンツ見られてゆるすの?」
不満なあおい。そんなあおいに頭のいいカネコはささやく。
「ねえ、あおちゃん、剛くんはわざとあおちゃんの気をひくためにしたんじゃない?。剛くんがまたスカートめくり始めたの、バレンタインからだよ。落ち込んでたあおちゃんを怒らせて元気にしたかったんじゃない?」
おやつを食べ終わるころ、あおいはカネコにささやく。
「わたし、剛くんを見直してみようかな?」
想い患いひな祭り
恋の決意の時間 完
《初恋との別れ? 卒業式の時間》
「困るよ、松田先生。話が違う。どう見ても彼は危ないじゃないか」
そう話をしてるのは、幼稚部から高等部までがある、黒百合女学院山手校の安倍学長だ。別に学長と言っても、いちばん偉いわけではない。
大学部と専門学校部がある黒百合女学院中央校に、もう一人対等な学長がいる。
そして安倍学長の上に上曾根康尋総学長がいるから、いわゆるナンバー2だ。
その安倍学長、初等部の松田先生が推す高等部教師採用面接に来た、あおいの想い人の真鍋瞬と、トイレで出くわしてしまったのだ。
それで、困るよ!松田先生!になってしまった。
そんな真鍋瞬の、今日の出で立ちは
スキンヘッドに眉毛のない彫りの深い顔に口髭、おまけにスーツは限りなく黒な紺色、拳には拳タコ、おまけに右頬には刀傷。どう見てもあのスジの人か宇宙人。
彼のために弁護してみる。
スキンヘッドは、彼、真鍋の婚約者の妹のあおい、一回り年下だが、勝手に真鍋を自分の彼氏に決め込んでいて、バレンタインデーにうっかり真鍋があおいを傷つけてしまい、その罪悪感から気分転換に髪を剃っただけ。
限りなく黒な高級そうなスーツは、お洒落だがずぼらな二面性の真鍋が、採用面接に慌て、親友の松田先生のスーツを借りているだけ。ヤクザファッションは松田先生の趣味で、真鍋の趣味ではない。
拳に拳タコで喧嘩が趣味か?、な両手は、彼が八極拳と空手の先生でもあるからだ。行きがかり上で実戦の喧嘩の意味の試合は、何度も体験してるが、彼は平和主義者だ。いや優しすぎて、勝てる喧嘩もゴメンナサイと謝り、避ける人間だ。
右頬の刀傷も、崑圄剣という剣術を習う際、試合形式の練習で学生時代に受け損ねて出来たものだ。
さらに眉毛ないのは、あおいがデートに連れていけ!と、お休みの日はゆっくり寝たい真鍋の、立派すぎる眉毛にガムテープを貼っては剥がすいたずらを繰り返すから、いたずら防止に自ら剃ってるだけ。
まあ、口髭だけは弁護出来ない、不精髭にしていたら、それカッコイイわね!似合うわ!と、前の職場の女性講師に誉められたゆえだから。
と、まあ後輩思いで親友思いの松田先生が、真鍋を必死に弁護した結果、真鍋は前職の塾での、優秀なる人気講師だったのが決め手になり、採用が決まりホッとする松田先生と真鍋。
そんなひな祭り翌日、あおいは・・・
>> 122
その頃あおいは、エスカレーター進学できる黒百合女学院中等部ではなく、お受験した共学の中学校の合格発表を見に来ていた。そこにいるのは、あおいを含む黒百合初等部の成績上位常連だ。
しかも学年トップの桃井カネコ、次席の高田ゆかり、4位の立花美佐まで含まれている。実は受験した多くが、あおいに付き合ってのお受験してるのだ。
さらに、あおいの赤井家は高額寄附トップだ。美佐の立花家は3位の高額寄附だしゆかりの高田家は6位の高額寄附家庭だ。
これでは黒百合女学院が、あおいの真鍋への恋路を無視できず、真鍋を高等部教師に採用する理由が頷ける。トップクラスの頭脳と寄附の十数名を、むざむざ他校にそれも一学校にまとめて与えねばならぬ謂われはない。
「あったー!わたしの番号あったー!」
何と言う幸運!。気まぐれ気分次第でテスト結果が乱高下する、このわたしが合格!。飛び跳ねて全身で喜びを表現するあおい。そして、お付き合い受験していた、黒百合初等部のトップクラスの頭脳、明暗が判明してくる。
お受験していた、あおい五人組は全員揃って見事に合格だ。てか黒百合からの受験生の、ほとんど全員合格だ。望みさえすれば共学校に行ける喜びを、肩を組んで表現するあおいたち・・・。
そんな合格発表の帰りの、黒百合近くのマクドナルド。ここはあおい組の溜まり場だ。さっき肩を組んで喜びを分かち合ったものの、皆を自分に巻き込んだらいけない!そう思うあおい。
「ゆかりぃ、アンタ付き合わなくていいのよ?。待った先生が好きなんでしょ?。側にいなきゃ取られちゃうよ?」
「カネコもね、今のまま黒百合で内部奨学受けたほうが、カネコには絶対に得だって!。わたしに付き合ってついて来ちゃダメよ」
そう二人に話してるのは、今日で仲良しあおい組を解散するつもりのあおいだ。続けてちはるとみずきに
「ちはるぅ、みずきもだけど、剛くんね、見直してよく考えてみたら、剛くんって素敵だよね!。瞬お兄ちゃんを諦めたわたし、今日からアンタらのライバルだからね!」
「美佐ぁ、中等部の後藤亜希ちゃん知ってるよね?。自分を男の子って言い張ってる子。美佐が好きなんだって。だから黒百合に残ってあげたら?」
「じゃあね!今日はわたしのおごりだ!」
そう立ち去るあおい。
「あおちゃん、待ってよ!」
ゆかりたちの声がむなしく響く
>> 123
「先生にはぁ、エッチな意味でお世話しました!って感じ?」
職員室でそうふざけるあおい。
「出てけっ!。さっさと(クラスに)帰れっ!」
久々にキレて真っ赤になって、そう怒鳴る松田先生。
数十分前、途中マクドナルドで仲良しの皆とランチしたものの、ちゃんと午後の授業に間に合うよう、児童副会長兼級長として、中学校お受験の合格発表のニュースを持って職員室に報告に来たあおい。
「入試のとき体調悪かった芳谷明恵ちゃん除いて、全員合格でしたぁ!」
そんな、あおいのニュースに歓声と残念がる声が。もちろん残念がってるのは、芳谷明恵の担任だ。そして、あおいを黒百合に残らせたいと思ってる松田先生だ。
「そうか、合格したか!よかったな!。お受験どころじゃなかったのに、赤井、よく頑張ったな!」
クラス担任の建前でそう返す松田先生。しかし
「それでどうするんだ?。黒百合やめて国立とかその付属とか行くのか?。人気者のお前だ、皆が淋しがるぞ」
松田先生が泣き落とし作戦をあおいに繰り出すのは
他の中学に行くより黒百合の中等部で伸び伸びしたほうが、赤井は幸せだと思うし、赤井の想い人の真鍋が黒百合高等部教師に採用されてるからだ。いや、実は赤井を他校に行かせないために、黒百合は真鍋を採用したのだ。
あおいはしつこいのが大嫌い逆効果なのに、しつこくする松田先生。
「お前は成績トップクラスと頭いいけどさ、どっちかと言えばお前は体育会系だ。よそ中学行くと勉強大変になるんだぞ。それに実は俺、お前とは仲悪かったけど、お前がいなくなるのはさ、物凄く淋しいんだよ」
そんな松田先生にあおいは
「なに言ってるの!。待った先生にはゆかりちゃんって彼女いるでしょ!。それからわたし、もう学校来ないからね!。わたしのために皆が進路変えるのは間違ってるから!」
「お前、こら!赤井!6時間目は卒業式練習だぞ!。ほら、仰げば尊し、ピアノ出来るお前が練習させることになってるだろ!」
「なんでわたしが待った先生なんかに感謝の歌を歌わなきゃいけないのよ!。むしろ」
「むしろ、一昨日も修学旅行でもヌード見せてあげたみたいに、どっちかと言えばぁ、童貞な待った先生にわたしがエッチな意味でお世話しました!って感じ!」
「わぁー!誤解されるだろが!さっさと(クラスに)帰れ!」
そう叫んでしまう松田先生
>> 124
「童貞のかわいそうな先生にぃ、わたしのヌード二回も見せてあげてぇ、卒業までお世話になりました!ってよりはぁ、エッチな意味でお世話してあげました!って感じよね?」
そんなあおいに、ついつい叫んでしまう待った先生。
「わぁー!誤解されるだろが!。さっさと(クラスに)帰れっ!」
「きゃ!怒った先生って、カワイイ!」
そう職員室を後にし、クラスに戻る。
入試合格の報告はしたのだからと、もう学校には来ないつもりで、卒業式にも出ないつもりで、教室の机の中からロッカーからと、荷物を纏めていて、ふと自分を見つめる視線というか気配に気付くあおい。振り向くと
四年生の雪穂が今にも泣き出しそうな瞳で自分を見ている。
「あら、雪ちゃんどうしたの?いじめられた?」
仲良しの剛くんの従妹の雪穂に、そう優しく声をかけるあおい。
「せんぱいっ!。せんぱいとはお別れなんですか?」
「わたし、わたし、せんぱいと離れたくないっ!」
なんで?。なんで、それ知ってるの?
そう思いながら
「馬鹿ねえ、中等部はすぐ隣の校舎よ。会いたかったら、いつでもいらっしゃい。そしたら淋しくないでしょ?」
「ウソ言わないで!。せんぱいは他中学に行くの、わたし、わたし知ってるの!。せんぱいが好きなの!離れたくないよぉ!」
「何言ってるの?。違うわよ。運試しに受験しただけなんだから」
誰よ?わたしが他中学行くのを漏らしたのは・・・。
雪穂を宥めながら頭を巡らすあおい。
みずきかちはるね。あの子たち剛くんラブだから。そう気づき頭が痛くなってくるあおい。
そもそも、あおいが黒百合から他中学に行くのを決めたのは、想い人だった真鍋が、黒百合女学院の高等部教師を志望してるのを知っているからだ。
まだ小学生の自分は大人の女の子には勝てない。あおいはそう思い、真鍋を諦めることにしたのだ。姉の緑なり他の女なりと結ばれた真鍋のしあわせな顔を見るのは辛すぎる。そう思って。
が、まさか後輩の雪穂が自分に百合の恋していたとは。
うーん、嘘は嫌いだし、でも黒百合の中等部には行きたくないし。どうやってこの場を切り抜けよう・・・。
>> 125
黒百合女学院生徒心得その二
己の掲げた旗は決して無責任に降ろすべからず。
あおいは気まぐれ気分屋だが、言行一致の有言実行は心掛けていた。旧武家育ちの女の子として、物心つくまえから、そう厳しく躾られてるからである。
それが今あおいを縛る。それは
それは
自分に百合な片恋している、幼なじみの雪穂が今、あおいにしがみつき、黒百合初等部卒業し他の中学への入学に進路変更しようとしている自分に
「せんぱいと離れたくない!」
と思い詰めて涙を流しているからだ。
夏休み前、おとこ女!と言われるまではボーイッシュな、ベリーショートな髪型で、スポーツ得意で喧嘩っ早く強い、しかも乱高下はしても平均したら成績まで良く、黒百合初等部の百合な女の子たちからは、憧れの先輩みたいな人気あったあおい。
この雪穂も隠れあおいファンな女の子だったのだ。
仲良しの剛くんの従妹だから親しくはしていたし、勉強もスポーツも見てやっていたあおい。でもそれは気付かなくて、雪穂のいきなりの百合カミングアウトに、あおいはノーマルゆえに動揺し
「馬鹿ねえ、初等部卒業しても中等部は隣なんだから淋しくないでしょ。会いたかったらいつでもいらっしゃい」
「他中学を受験したのは、ただの運試しなんだから」
と、ついつい嘘を言ってしまったあおい。
黒百合の高等部に、優秀ゆえにいずれは教師採用されるであろう、真鍋への片恋を諦めたあおい。その真鍋との教師と生徒の関係は辛すぎる。そう思いさっき仲良し同級生とわざと仲違いしたあおい。もう学校には来ないつもりで
これでは他中学に入学しても、黒百合の中等部に入学しても、どちらかに嘘をついていたことになってしまうからだ。
考えあぐねた末に、雪穂を宥めるために口を開いたのは
「ねえ、雪ちゃん、あなた剛くんの従妹なんだから、剛くんのお家に来たら、いつでもわたしに会えるじゃない!。だって剛くん、わたしの家の真ん前に住んでるんだから!」
「これって、他の女の子とは違う二人の関係だよね?。それに今までも勉強にスポーツ、教えてあげてたでしょ?。これからも変わらないのよ」
「その印しに今から遊びに行かない?。二人だけで学校エスケープしましょ」
>> 126
「おっぱー先生、熱で早退したいので体温貸してください」
そう、ここは黒百合女学院山手校の本館保健室。
おっぱー先生というのは、あまりの巨乳ゆえのボインを超えて、おっぱいがドシン!な感じの、まだまだ新米な美人先生だ。
「先生おはようございます」が、何時しか「先生、おっぱー」になり、今や幼稚部や初等部の生徒におっぱー先生と呼ばれている石内先生が、あおいに体温計を差し出す。
ベッドのカーテンの向こうに行くあおいと雪穂
「雪ちゃん、今から見るのは大人になるまで真似しちゃダメ。背が伸びなくなるからね」
そう言うとあおいは、両手を動かしながら深く息をする。
武術氣功だ。打撃時の破壊力アップと撃たれた時のダメージ軽減のためのものだが、全身の筋肉を使うため血行も良くなり体温も上がる。が、背が伸びなくなる副作用が人によっては現れる。
そうして二本の体温計を脇に挟むあおい。すぐに効果が出る。実はあおい、この手で何度も学校エスケープしてるのだ。
「おっぱー先生、38度でした!」
「あら!またやったわね!汗ばんでるじゃない!」
そう、バレているのだが、おっぱー先生をすでに抱き込んでいるあおいだ。ため息をつきながらだが、おっぱー先生は
「バレないようにね」
そう言って帰らせてくれた。
その頃、昼休憩の終わりを告げるチャイムが初等部側に鳴り渡る。六年一組のクラスに、遊んでいたグランドからあおいのクラスメートが帰ってくる。
五時間目の社会の授業に教室に来た待った先生、あおいがいないのに気付く。そんな頃
「先生、遅くなりました!ごめんなさい!」
そう言ってカネコたちが、合格発表の帰りにあおいとランチしていたマクドナルドから慌てて飛び込む。授業遅刻を謝り席につこうとするゆかりが気付く
騒ぎ出すあおい組の五人娘。いや、あおいはさっきエスケープしたから四人娘だ。
さっきのあおちゃんの言葉は、いつもの悪ふざけや気まぐれじゃなく、本気の別れだったんだ!
「先生!あおちゃんを探してください!」
「わたしたちも探します!」
「待て!授業中だ!まず説明しろ!」
クラスの引き戸が開く音。顔を覗かせたのは、おっぱー先生。
>> 127
「松田先生、ちょっといいかしら?」
五時間目の授業中、クラスに顔を出した保健室の石内先生。
「お前ら外に出るなよ!」
クラスにあおいがいないから
あおいちゃんは本気で自分達と別れるつもりなんだ!。と騒然となっていた六年一組。その様子を業務連絡に来て見ていた石内先生は、松田先生に持ちかける。
「松田先生、ここは女のわたしの方が。任せてくださる?」
「えっ?。でも私のクラスですし」
「松田先生は女心に鈍いじゃないですか」
渋々クラスを任せた松田先生。
珍しく教壇に立つ石内先生
「皆さん、赤井さんは四年生の唐沢雪穂さんが発熱したので、雪穂さんを送って帰りました。赤井さんにも熱があったので、赤井さんにも早退許可しました」
「そういうことにしてあげてね」
「でも、先生、あおちゃんは・・・」
「そうです!失恋したばかりです!心配・・・」
そう反発するゆかりたち。ゆかりは待った先生が大好きだから、同じく歳の差の恋してるあおいが心配なのだ。
「だから早退したことにしてあげてね。」
そう話しはじめる石内先生
「皆さんにも好きな人、いるでしょ?」
「皆さんの好きな人が、自分が一番仲良い人の恋人になっちゃった。先に自分が付き合ってたのに奪われた。皆さんはそのラブラブなしあわせを近くで毎日見て、その上に笑って応援できますか?」
「赤井さんは、好きな人を自分のお姉さんにあげたんです。いいえ、そうすべきか迷ってるんです」
「皆さんはお友達が信頼できないの?。赤井さんはいつも皆さんを守ってたんじゃないの?。中等部や高等部の先輩の理不尽から」
「気持ちが決まって落ち着いたら、また来てくれるんじゃないの?」
「で、一緒にいるのは、赤井さんに恋してる雪穂ちゃん。赤井さんが雪穂ちゃんの想いを無視する、そんな冷たい女の子じゃないのは、仲良しの皆さんは知ってるよね?」
「雪穂ちゃんたちを心配で放っては置けなくて、帰ってくるかも知れない。そんな赤井さんの性格は皆さんが知ってるよね」
「見えないふりするのも優しい応援です。わかるわよね?」
ゆかりや美佐は泣き出してる。
これで良し!と思う石内先生。
「じゃ、クラス運営、クラスの方針は松田先生と皆さんで決めてね」
クラスを出て
次は雪穂ちゃんのクラスね
四年三組に向かう石内先生。
>> 128
♪掴まれた腕に振り向いて
抱きすくめられて動けなくなる
俯いた頬を掌で掬って
唇を重ねた 狂おしいほど
車を停めて 海岸線歩いた
細い月が 蒼く照らしてた
あなたの歩幅に合わせて
歩いてみた
ねえ、きっと、あなたで良かった♪
ここは、てか今の時空間は、あおいが黒百合女学院高等部を卒業した日の黒百合山手校牧師の教会礼拝堂。今日は結婚式である。もちろんあおいの。
チャペルつまりキリスト教の教会にしては珍しく、賛美歌や聖歌にゴスペルではなくポップス、谷村有美の『恋に落ちた』を、教会音楽師が演奏し聖歌隊が歌っている。幼稚部から高卒まで聖歌隊に長年協力してきたあおいの、その好みに配慮だ。
2時間前に卒業式の終わった黒百合女学院山手校講堂脇の講師準備室では、結婚式のため隣接の希望ホーリネスチャペルに向かうあおいを、同級生のサナとうなが祝福しつつ、ウエディングドレスに着替えるあおいのメイクやらを手伝っている。
二人ともあおいに失恋し、「百合なわたしのいい女」を男に奪われているのに・・・
初等部時代は、誰よりもちびなくせに、異様に強いあおいに一目惚れが、あおいとの友情のきっかけだったサナとうなの二人。
サナの場合は、たまたま、酒癖悪く電車の乗車マナー悪い男に激怒したあおいによる、実戦シーン目撃だったが、うなの場合は、悪意であおいに絡んで負けたのだ。これはうながあおいに一目惚れした日の回想である。
時空間は共学の私学附属中等部、もちろん黒百合ではないそこの受験合格発表日に戻る。
ほんの少し昔までは黒百合女学院の系列だった、黒川学院初等部に通う剛くんに初恋のあおいの親友、クラスメートのみずきとしおり。あまりの剛くんラブな気持ちから、あおいラブな剛くんに
「あおいはどこの中学に行くんだ?」
と問い詰められた二人は、あおいが進路変更しようとお受験したことを漏らしてしまった。その話は、またまた剛くんの家に遊びに来ていた従妹の、百合なあおいラブの唐沢雪穂の盗み聞きされることになってしまい
もう黒百合女学院初等部の卒業式にすら出ないつもりで、教室の荷物を纏めていたあおいに
「せんぱいと離れたくないよぉ!」
と、雪穂があおいに抱き着き涙した時空間に戻るのである。
>> 129
「あおいせんぱいと離れたくないよぉ!」
お受験合格したのだからと、叶わない一回り年上の想い人の真鍋瞬への片恋を諦めて「九つ上の姉の緑に彼をあげよう!」と、そう決意し
黒百合女学院初等部の卒業式にすら出ないつもりで、もう学校には通わないつもりで、教室の荷物を纏めていたあおいに、百合な片恋にそう涙を流しながら抱き着いて駄々をこねる雪穂。
「ねえ、雪穂ちゃん、あなた剛くんの従妹なんだから、剛くん家に遊びに来たら、いつでもわたしに逢えるじゃない!。だって剛くん家はわたしの家の真ん前なんだから!」
「これって、黒百合の他の女の子とは違う、わたしと雪穂ちゃんだけの特別な関係でしょ?。その印しに今から二人だけで秘密のエスケープしましょ」
そう雪穂を宥めたあおい。
そうして黒百合の初等部を抜け出し、あおいが雪穂と二人で潜り込んだのは
中高等部にもなると、遠方からの学生も存在するために設けられている黒百合女学院学生寮の一部屋。あおいが「お姉ちゃん!」と、いつも甘えている、高等部の倉橋しおり先輩のお部屋だ。
一足早く春休みになっている中高等部。
「しおり先輩!あおいです。お邪魔していいかしら?」
そうノックするあおいに
「あんた、悪い子ね。またエスケープ?」
自分だってエスケープ常習犯なのに、いや、だからこそ、そう微笑みながら
「いいわよ!入ってらっしゃい!」
とドアを開けたしおりは、一階の学生食堂備付けの巨大なる共用冷蔵庫から、ジュースとアイスを持って来てくれた。
「で、今日は如何なるわがままでのエスケープなのかな?」
「しおりお姉ちゃん、中等部のときの制服、貸してください」
しおりは初等部中等部のころはあおいのように、学校いちばんのちびな女の子で、高等部から一気に背が伸びたのだ。だからしおり先輩の制服ならわたしも雪穂ちゃんも着られるはず!。そう思うあおいの、今からゲームセンターに繰り出したい変装アイデアだったが
「ゴメンね、制服、緑先輩が同人資料に持ってったわ!。わたしの昔の私服なら貸すけど?どうする?。それともわたしが保護者になれば安全じゃない?」
>> 130
「ゴメンね、わたしの中等部時代の制服ねえ、緑先輩が同人資料に持って行っちゃったの。でもそのころのスカートとかなら、この前やっと緑先輩が返してくれたからあるわよ?。で、わたしが保護者になってゲーセンのほうが安全じゃない?」
そう提案するしおり先輩。
「しおりお姉ちゃん、頭いい!。やっぱ、従うべきは美佐みたいな亀の甲じゃなく歳の功ね」
「歳の功って何よ!失礼しちゃうわね!。わたし、まだ花の女子高生だよ!。くすぐりの刑だあ!」
ふざけあうしおりとあおいに雪穂。
ひとしきりふざけあって、そろそろ行きましょ!と、街に繰り出す三人。あおいも雪穂も、美容師やファッションデザイナー志望のしおりにメイクしてもらって、少し年上に見える出で立ちだ。
「やったぁ!。やっとルナちゃんをゲットぉ!」
そう騒ぐのは、ゲームセンター初体験の雪穂。しおり先輩にメイクされて、童顔中学生を装っても、やはり小学四年生。同じ小学生でも内面が悪魔のあおいと違い、雪穂が大人ぶるのには無理があった。
クレーンゲームで、美少女戦士セーラームーンのペット猫のルナをゲットした喜びにはしゃぐ雪穂は、すぐ後ろの自販機コーナーの住吉うなとぶつかってしまった。
ぶつかられて、転んで、カップジュースをこぼし、お気に入りのワンピースに染みをつくられたばかりか、カップ麺も買おうと握りしめた小銭までばらまいてしまったうな。慌てて小銭を拾ったものの、足りないばかりかポケットのお財布まで行方不明に。
当然のごとくキレた、東京出身のうな
「てめえ、さっきからはしゃぎまくって、ウルセえんだよ!。どこのカッペだ!」
ここは京都、昔から京都に住むあおいたちにすれば
「こっちは陛下を貸してやってるの!。東京?。関東じゃん!。関所の東の果ての僻地だったじゃん!。吹きだまり寄せ集めのお前らがカッペなのよ!」
あおいならそう絡まれたら、間違いなくあべこべにそう絡み返すのだが、恐そうなお姉さんに初めて絡まれ震える雪穂には、その余裕はない。何てったってまだ小学四年生だし、あおいのように武術家の孫娘や娘という特殊事情で強いわけでもないのだ。
「どうしてくれるのよ!このワンピの染み、無くした小銭と財布!」
雪穂の胸倉を掴みあげるうな。
震え上がり真っ青な顔で
「ご、ご、ごめんなさい!ゆるして!」
>> 131
「このワンピの染み、無くした財布、どうしてくれるのよ!」
そう雪穂の胸倉を掴みあげ、平手打ちするうな。
「ごめんなさい!ママに言って弁償します!もうゆるして!」
泣きそうな雪穂。
「ママに弁償させる?。子供の喧嘩に親を出すな!卑怯者!」
ますます怒りの火が燃え上がるうな。
「ご、ごめんなさい!。うわぁん!。あおいお姉ちゃん!助けてよぉ!」
泣き出した雪穂。
しおり先輩にメイクして貰ったものの、馴れないメイクに気持ち悪さを感じ洗い流していたあおいは、トイレの外の雰囲気に、「何事?」と出てきた。
そんなあおいに雪穂の泣き声が届く。見ると、同い年か少し上の女の子が雪穂の胸倉を掴んでいる。駆け寄るあおい。
「あんた!わたしの後輩に何してんのよ!」
「そうかい、こいつが騒いだせいで出来た、ワンピの染みと無くした財布、どうしてくれるの!」
「雪穂ちゃん、それ本当?」
そう聞きながらしおり先輩を目で探すあおい。しおり先輩は外の公衆電話だ。仕方ない、自分でなんとかしなきゃ。そう思うあおいに
「わたし、わたし、弁償するって謝ってるのに叩かれた!」
「何ですってえ!」
雪穂が悪いなら素直に謝り、代わりに弁償する気だったあおい。それを聞いてキレる。
「あんたさぁ、わたしより偉そうにすんじゃないわよ!。わたしは黒百合女学院の赤井あおいだ!」
「そうかい!わたしも黒百合だよ!。わたしが顔を知らないってのは初等部だね!。生意気な!」
「ふうん、わたしを知らないってのはお嬢様なりすましの外部入学生だよね?。知らないよ?わたしと喧嘩してどうなっても!」
「ふーん、面白い子だね、かかって来なさい!」
掌打を挨拶代わりに撃ち込むあおい。手加減しているが八極拳の金剛八式の震歩探馬掌、あおいの祖父の系統にしかない、一歩で三連打を撃ち込む特殊な技だ。ボクサー並のスピードを持つあおいのそれを避けた人はいない。
うながあおいの腕を掴みながら背後に回る。あおいも反応し、掴まれた手を小纏でほどき、うなの背後を取ろうと、八極拳の歩法を劈卦拳の歩法に変化させ劈掌から靠につなげるあおい。それをかわすうな。
は、速い!。それにこの身法は八卦掌か合気道?。まあ、かなり手加減してたから
そう思うあおい。うなはうなで
危なかった!。この子、速過ぎる!。
>> 132
「ふーん、面白い子だね。かかって来なさい」
そうナメたことをうなに言われたあおい。挨拶代わりの掌打、八極拳の金剛八式の震歩探馬掌を撃ち込む。一歩で三連打の特殊な打撃だ。高校生ボクサー並のスピードのそれを、うなはかわしてあおいの背後に。
いや、かわした瞬間、うなはあおいの手を掴み、捻りあげて投げにいく。が、あおいも反応し小纏(手首を掴まれた際、体重落下で振りほどき逆に関節技に変化する)で逆にうなの手を捻りあげ、うなの背後を取ろうと八極拳の歩法から劈掛拳の歩法に変化させ
震歩劈掌(腕全体で敵を地面に叩きつける)から八極小拳の打開(両腕を左右に打ち開き吹き飛ばす)を応用した後靠(肩甲骨での体当たり)につなげるが、危うくうなは全てかわす。
この子、速いわね。この入り身は八卦掌か合気道?。まあ、かなり手加減してるから。そう思うあおい。
うなはうなで、この子、速すぎるっ!危なかった!、油断した!。そう思う。
「ふーん、あなた、ちびなくせに強いのね。」
「お姉さんこそ速いくせに逃げ回るだけなのかなぁ?。もしかして先制攻撃が苦手とか?。ねえ、肩で息してない?」
「減らず口は勝ってから言うものよ!」
喋り終える前に、脇見したあおいに両手の手刀を打ち込むうな。実は先制攻撃したら間合いの差でかわされると考えたあおいが、わざと脇見したのだが、うなは誘い込まれたと気付かない。
力いっぱいの左右手刀の連打をあおいに打ち込むうな。それを大八極拳の大纏(両腕を地面に垂直に回し攻撃を受け流す)で絡めとり、裡門(敵の構えや攻撃の両腕の間(外側は外門))に入ったあおい。捨身法だ。
床を踏み抜くかのような震脚で、うなの足甲を踏み付けると同時の掌打がうなの顎を捕らえる。八極小拳の震歩弾陽掌の応用で、本来は入り身した真下から顎を打ち上げ砕く打撃だが、地面に押し倒す足払いからの投げ技に手加減したあおい。
体の中で嫌な音を聞いたうな。立ち上がろうとするが足に力が入らない。
「雪穂っ!しおりお姉ちゃん呼んで!。こいつ病院に連れて行かなきゃだから!」
そう言いながら面子を立てるあおい。
「あなた、強いわね。あれが両手の中段突きだったら受け流せずにわたし、負けてたわ。あなた、合気道か何かしてるでしょ?。今度教えてね」
「でも足首が折れてなければいいんだけど、とりあえず病院行きましょ」
>> 133
あおいに足甲を思いっきり踏み付けられると同時かのような、そんな足払いと顔面への掌底で後ろにのけ反らされ、押し倒されたうな。体の中で何かが軋むかのような嫌な音を聞いた。
それでも立ち上がろうとするも、立ち上がれない。
「安静にしたほうがいいわよ。手加減したから折れてないはずだけど、角度によっては最悪粉砕骨折だから。でも、あなたみたいに強い女の子、わたし初めて。ちゃんと病院に連れてってあげるから休んでて」
そう言うとあおいは、雪穂にしおりお姉ちゃんを呼びに行かせ、自分はトイレのバケツに水を入れうなの足を入れて冷やしてやる。
雪穂に全てのあらましを聞いたしおり先輩。わたしが目を離したせいだ!と、あおいの従姉の紫蘭に電話し、紫蘭ママの春子に車で来て貰う。
いや、目を離したのは理由があり、雪穂をちゃんと面倒見てますからと、雪穂ママに連絡してたのだが。この事態になったからには、最早それは言いわけである。
実は赤井家の道場生でもあるしおり先輩、いきなりあおいパパやあおい祖父に報告したら、みんな揃って叱られると思っての、ワンクッションだ。
紫蘭ママ春子の車は皆を乗せ、真鍋の実家に向かう。真鍋外科医院だ。
真鍋外科に向かう道すがら、うなは疑問に思う。自分から悪意で売った喧嘩だった。あおいはちびだったから。そして、制服可愛さに黒百合中等部にせっかくお受験合格したのに、周りはお嬢様ばかりで楽しくない。
初等部からの内部進学組はすでに仲良しグループが出来ていて、内気だった自分はそんな輪に入る気もせず、入学一月もしないうちに学校に通うふりして小学校時代の悪友や先輩のグレた?グループと遊びまくり始めた自分。
案の定、黒百合女学院中等部の鬼教師、風紀担当の黒木先生の耳に不登校の報告が。当然ながら黒木先生がうな宅に家庭訪問。うなママ和恵の知るところに。
「おたくの娘さん、一週間しか通学してません。病気や怪我ならまだしも、サボってゲームセンター通いみたいですね。そんなに休みたいなら来年度まで休んで貰います!。黒百合は公立ではないので来たくないなら構わないんですよ?」
床に額をこすりつけるかのように黒木先生に謝るうなママ和恵。
結局、今さら友達グループ入りは無理だし、黒百合から公立中学編入は格好悪すぎてイヤだ!との、うなの言い張るわがままで、書面上は病気療養に。
>> 134
うなは悪意であおいに喧嘩を売ったのに、手加減して勝った勝者の余裕か、優しくしてくれるあおい。どうせお嬢様育ちの世間知らずな気まぐれでしょ!との思いが頭に浮かぶが、怪我させられた!と逆キレる、そこまで悪人になれないうな。
「なんで優しくするの?。わたし、惨めじゃん?。今まで学校サボりした理由がお嬢様嫌いだったのに・・・。勝ったからといい気にならないで!。わたし、格好悪すぎる!」
そう泣きながら叫ぶうな。うなを宥めるあおい。
「なんで?、あなた先輩でしょ?。同じ学校の友達なら優しくするの当たり前じゃない!。それにあなた、手加減してたでしょ?」
「あなたの体格なら、体重を乗せやすい中段の突きでわたしに楽勝できたよね?。それ知らないあなたじゃないよね?。手加減してたよね?」
「たまたまわたしが小さいからスピードに乗りやすくて勝てただけ。パワー対パワーになったら絶対に負けてたわ。あなただって強い女の子じゃん!。で、わたし強い人には甘えちゃうの。よかったら友達になってよ。お願い!お名前教えて!。わたし、春から中等部だから」
それを聞いてたしおり先輩。
「あなた、もしかして一週間くらいしか来てない、確か住吉うなちゃん?。心配しなくても、あおいにお嬢様嫌いしなくていいの。この子の大親友は学内で奨学されてるビンボなカネコちゃんだし、耳の悪いみずきちゃんだし、パパを亡くしたゆかりちゃんだし、パパママ離婚の美佐ちゃんなのよ。」
「黒百合は確かに幼稚部からの子はお嬢様が多いけど、わたしお嬢様だからって、あなたをイジメた子、いたかな?。善悪わからなかったりで、幼稚部とか初等部はたまにあるけど、庶民差別なイジメは中高等部でなかったでしょ?」
「部活であなたのクラスメート、来ない子がいるの!って心配してたの。恥ずかしがりでグループに入れないのかな?って。下手に声かけたら、もし嫌がってならあなたにお節介だしで、だからみんな、あなたが勇気出すの、待ってたんじゃないかな」
「今日のも、あおいは自分が間違って出会い頭にぶつかっての事故の怪我だ!って皆に言うと思うな。あなた手加減してたし、あおいも手加減してたなら、もうそれ、喧嘩じゃないよね?。男の子のよくやるプロレスごっことでも考えたら?」
「あおいは優しいからあなたに恥はかかせないはずよ」
>> 135
そんなしおり先輩の話を聞きながら、またも頭が痛くなってくるあおい。原因は雪穂とうなだ。
わたし、つい勢いでうなちゃんに
「わたし春から中等部だから、うな先輩、お友達になってね!」
なんて言ってしまった。わたしがまたも無責任な嘘ついたなんて、そんな結末には断じて出来ない!。それに隣に座る雪穂
雪穂は強気に出れたら、うなちゃんに平手打ちされたくらいじゃ泣かない!。だって強気なときの雪穂は、四年生でもわたしと同い年の剛くんと対等に組手する強い子なのに。
わたしに甘えっ放しのいつまでも弱気なんだから。うなちゃんにいきなり叩かれて、多分びっくりしたのかもだけど、わたしが黒百合やめて他中学に行ったら・・・わたしがいない反動で
多勢に無勢、初等部でまたイジメられるのかも・・・
わたし、藍子お姉ちゃんが死んだとき、心が真っ黒になって、喋れなくなってからかわれた。仲良くしてくれたのは幼稚部ではカネコと美佐だけ。初等部ではゆかりとちはるにみずきも優しくしてくれた。
でも美佐以外は最初わたしと同じ弱い泣き虫で。だからイジメ大嫌いになって、美佐と道場通って、腕ずくでもイジメやめさせてた。そのうちにゆかりもカネコもみずきもちはるも短期間だけど、一緒に道場に通って。
今じゃ初等部にわたしたちに逆らう女の子いないけど、わたしが黒百合やめたら・・・
それにうなちゃんの事情も聞いたら、かわいそうな女の子。なんで一人もうなちゃんに声かけなかったの?。わたし、本気でお友達になってあげたい!。だって一人くらい味方がいないとうなちゃん中等部に戻れないよね?。
優しいしおりお姉ちゃんは、でも高等部だから中等部のうなちゃんに付きっきりにはなれないもの。いずれ卒業で学外に出るんだし、中央校にはしおりお姉ちゃんの希望するような、例えば大学部美容学部とか専門校部美容課程なんて、まだないから。
わたし、決めた!。黒百合に残る!。瞬お兄ちゃんとのあれは、学生寮入れば、家では緑お姉ちゃんと瞬お兄ちゃんのラブラブ、見なくて済むかもだし。
それに瞬お兄ちゃん、言葉は軽かったけど謝ってくれた。いい加減にゆるしてあげてもいいかな?。あんなエロ女の緑お姉ちゃんが彼女だと、いつかお姉ちゃんに浮気される運命でかわいそうかも。だったら、やっぱりお姉ちゃんなんかに瞬お兄ちゃんは絶対にあげない!。
>> 136
黒百合女学院に残り中等部進学を決めたあおいは提案する。
「ねえ、うな先輩!」
「ううん、今からうなちゃんって呼ぶね。わたし実は共学校に行く予定だったの。でも雪穂が心配で黒百合に残るの。わたしの好きな人も、いつか黒百合の教師になるかもだし」
「うなちゃんも4月から戻るのよね?。だから、やっぱりお友達になってね。いいや、お友達になれっ!勝者の命令よ!」
「ただし、うなちゃんのために年上ぶらないこと、落第生とバレちゃうからね。でも、うなちゃんは勉強出来ないとか怠けた落第じゃなく、疲れただけなの。わたしはそう聞いたの。そして」
「ビンボなカネコを馬鹿にしたり、耳が悪いみずきを馬鹿にしたり、パパのいないゆかりや美佐を馬鹿にしたり、わたしのグループで一番弱いちはるを馬鹿にしないこと!」
「これだけ守ってくれたらいいから。わたしも絶対にお嬢様ぶらないし、美佐やゆかりにみずきにも、それは守らせるし、うなちゃんの学校サボりもお嬢様嫌いも、わたし忘れたし、うなちゃん同期やわたしのグループには、腕ずくでも絶対に秘密は守らせるから」
「さっきの今で、うなちゃんは面白くないかもだけど、始業式には絶対に来てね!。約束だよ!」
うなに有無を言わせず、まくし立てると、うなの小指に無理矢理に自分の小指を絡め
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます!。指切った!」
お前は幼児か?な態度で、無理矢理に指切りの約束を一方的に宣言するあおい。そして
「しおりお姉ちゃんは証人だよ!。うなちゃんに約束守らせてよね!。それから紫蘭お姉ちゃんも、うなちゃんの味方してあげてよね!」
そんなあおいの必死な姿に、あおいに踏み付けられ折れたかもな、足の痛みも忘れ、笑いたくなってきたうな
「もう!強引ね!。わかったわよ。友達になってあげる。ううん、お願いします!お友達になってね。約束するわ!4月から学校に戻るって!」
「うなちゃん、あおいに気に入られたら諦めなきゃね。実はこの子のおじいちゃん黒百合の元理事。ひいおばあちゃんは元理事長。でもどこか庶民くさいでしょ?。それに道場の子だから強いわよ。口は悪いけど誰にも平等なお嬢様ぶらない子よ」
と、あおいが実はとんでもお嬢様だとばらすしおり先輩。
うなは思う。わたし、人生終わってたかもだったのね。でもあおいちゃんは本当にいい子ね。
>> 137
実はあおいがとんでも結構なお嬢様だとバラしてしまう、そんなしおり先輩に少し不機嫌なあおい。
「しおりお姉ちゃん、何も今その話をしなくても💢。うなちゃん、わたし普通の小中学生の生活したいから、今の話は忘れてね」
そんな話をしてる間に車は真鍋外科に到着する。
あおいの想い人である瞬の父親の勝兵おじちゃんは、急を要する患者がいないのもあって、レントゲン撮ったり触診したり自らうなを診る。
「ふーん、転んだ怪我ねえ。ふーん、これがねえ。ふーん・・・。あおいちゃんまたやったな!。おじいちゃんに言い付けちゃうぞ!」
「と言いたいとこだけど、うなちゃんだっけ?。骨は折れてないから、一週間くらい大人しくしてたら自然に治るよ。少し捻ったみたいだから念のため今日は固定しとくね。やり方教えてあげるから覚えたらママにバレないだろ?」
「転んだための捻挫と打撲と・・・ちゃんとカルテに残してと。一週間したらまた来るんだよ。足は武道や武術の命だからね。自分で勝手に治ったから病院来ない!なんて決めないこと。お転婆はほどほどにすること」
「それ約束できるかな?。できるなら、うなちゃんはあおいのお友達だし、二人はいい子だし可愛いさで今日と来週の治療代はおじちゃん、サービスしちゃうぞ」
「で、次はあおいだ。脱いで見せてごらん」
そう言う勝兵おじちゃん。あおいが我慢強くても、医者の目はごまかせない
「な、なんともないわよ!。筋肉痛なだけ。わたしおばあちゃんになったのかな?」
「本当か?」
「本当よ。わたしが嘘つきとでも?」
真鍋外科を出るあおい達。お茶に立ち寄った店で
「あっ!瞬お兄ちゃんに頼まれ事されてたんだった!。春子おばちゃん、紫蘭お姉ちゃん、しおりお姉ちゃん、悪いけどうなちゃんと雪穂ちゃん送ってあげてください。お願いします」
真鍋外科の駐車場を出る紫蘭ママ春子の車。紫蘭がしおりに言う。
「あおい、震歩劈掌また使って外れたみたいね。あおいは手加減してても信じられないスピードだから。劈掛拳の技術は便利だけど、デカイのがさらにアウトレンジしてきたら意味ないから、むしろ自分の間合いに誘い込む技術を云々」
紫蘭の話の途中、しおりは後席のうなに振り返り
「うなちゃん、あおいはああいう子なの。自分より人様が心配なおバカさんだからね、仲良くしてあげてね」
>> 138
「あおいっ!いい加減に起きなさい!」
あおいを揺り起こしてるのは緑と紫蘭だ。
六年生になってから、おじいちゃんの道場の高齢者太極拳クラスに指導助手で、陽も昇らぬ早朝から付き合わされてる、そんなあおいは毎日が寝不足状態だから、あおいを起こすのは命がけなのだ。寝不足大悪魔の怒りに触れると何をされるか全くわからない。
何しろ信じられないスピードを持つあおいだから、目にも見えないかの速さで、気づいたときには殴られ蹴られで、パパもママもあおいを起こすのは嫌がるのだ。
そんな、黒百合女学院初等部の卒業式間近のとある日、待った先生がクラスを隣の石橋先生に頼み、朝から家庭訪問に来た。あおいは授業エスケープしてから数日、学校に来てないから。
「あおい~いい人が来てるわよ!」
そう最初は声をかけたものの
「うるさ・・・いわよ・・・わた・・・し・・・を起こ・・・す者は死・・・」
蹴りが緑の顔に
「この子、靴履いたまま寝てる!」
祖父の助手して帰ったあおいは、靴も脱がずに部屋まで歩いてベッドに入ったのだ。もうかれこれ1時間。何回殴られ蹴られたか。
これというのも、緑と紫蘭があおいのおじいちゃんの後継ぎを渋るから、あおいに後継者の白羽の矢が立ったのだ。内心あおいに申し訳ない思いの二人は優しく優しく起こそうとしてた。最初は。
でも、ついにキレた緑はいきなりバケツの水を。
不機嫌な極みの顔のあおいに緑も紫蘭も
「あんたがつまらないことにウジウジしてるから松田先生がいらしてるの!。さっさと顔洗って着替えなさい!」
いや、あおいは登校拒否や引きこもり状態ではない。
仲良しあおい組を、心にもない挑発してまで解散しようとしたあおい。
自分が黒百合女学院やめて他の共学の中学校に進路変更しようとしてることに気を使った、黒百合初等部の成績上位常連が、あおいと同じ中学校について行こうと。あおいは、それは間違ってると。
でも、うなちゃんとお友達になり、うなちゃんのために。また、後輩の雪穂が心配で。そしてエロ女の姉に想い人の瞬お兄ちゃんを与えるのは、やっぱり無理だと。そんな思いで黒百合中等部にやっぱり行こうと決めたものの
しかし、仲良しあおい組の皆に合わせる顔がないのだ。待った先生にも合わせる顔がないしで、渋々お着替えし顔を洗うも逃げ出したい心境で。
>> 139
待った先生、おはようございます。
赤井家の応接間に顔を出したあおい。そこにいたのは、待った先生だけでなく、仲良しあおい組の皆としおり先輩だ・・・・が、お目覚めの洗顔はちゃんと冷水でしないといけない、そんな悪い見本、てか最悪なる見本であるが。
あおいの今朝の成りを見て、我が目を疑い、そんなロリコン趣味ないのに二度見してしまい、慌てた待った先生は、両目に両手を。見猿ポーズで「僕、何も見てません」アピールだ。
あおいはミニスカートの後ろ裾がウエストのベルトに挟まってるだけでなくフロントのジッパーが開いていて、寝ぼけ間違えて脱衣室のお姉ちゃんのTシャツ来てるから、大きく開いた首周りからヌードな肩と膨らんでもない胸が。そして右足はロングソックス、左足は生足で、さらにペンで書くのも躊躇われるような
そんなあおいにゆかりが慌ててあおいの耳元にささやく
「あおちゃん!パンツ履かなきゃ!」
おじいちゃんの早朝高齢者太極拳クラスの指導助手を毎日してるせいの、寝不足な夢遊病状態から、我に帰ったあおいは一瞬にして耳たぶまで羞恥に真っ赤になっていく。
「キャー!。わたし、なんでこんな格好を!」
「待った先生、見たわね!このロリコンの童貞!」
「ぼ、ぼぼぼ、僕は、僕は何も見てませんっ!」
「見てないなら何で慌ててるのっ!。あんた達、今の見た記憶きれいに消去してやる!覚悟せよ!」
床の間の刀、もちろん道場の刀掛ではないから本物ではないが、に手を伸ばすあおい。普段は明るすぎて、下ネタ的な冗談すら待った先生にぶつけるあおいだが、不意な油断した恥ずかしさに、生まれて初めて逆キレた。
でも、姉の緑の代わりにお茶菓子とお茶のお代わりを持って来た、あおいの従姉の紫蘭が一喝する。
「この馬鹿!暴れる前にさっさと身なりを直しなさいっ!」
「全くもう!寝不足大悪魔は何を仕出かすか・・・。せっかくいらしたのにごめんなさい。あおいはおじいちゃんの道場助手で寝不足連続でしたから、忘れてあげてくださいね」
数分後、きちんと身なりを整えたあおいが応接間に入ってくる。
「赤井、お前が可愛い!って言ってた中等部の新デザインの制服な、予定前倒しで来年度つまり4月から制服変更だそ。それに皆も、お前に付き合うようなアホ理由では他中学に行かないらしい。お前は要らん心配しなくていいんだ」
>> 140
耳まで真っ赤に染まるほど恥ずかしすぎる格好だった、寝ぼけていたあおいが、きちんと身なりを整えて、担任の松田先生たちの待つ応接間に入ってくる。
松田先生は、この前のあおいの志望中学校の合格発表は、しつこく泣き落としをして失敗した経験から作戦変更して、あおいを黒百合に残らせようと説得再開する。
「赤井、お前が可愛い!欲しい!早く着たい!って言ってた、中等部の新デザインの制服な、予定前倒しで来年度つまり来月から制服変更だぞ」
「それに皆もお前が心配したような、お前にわざわざ付き合ってのアホ理由では他中学に行かないそうだ。だからお前は要らない心配しなくていいんだ」
あおい仲良しグループの美佐達も
「あおちゃん、六年生は卒業間近だけど、あおちゃんラブな転校生もクラスに来たよ。あおちゃんのために来たんだって。最近あおちゃんがお友達になった子だよ」
「四年生の雪穂ちゃんも、「わたし強くなるから、あおいお姉ちゃん黒百合でまた仲良くしてね!」だって」
あおいが「お姉ちゃん」と慕いなついてる、高等部のしおり先輩まで
「あおいの信条は確か、有言実行の言行一致だった気がするんだよねえ。真鍋外科行く途中の約束、まさか違えるつもりの、無責任あおいちゃんじゃないよねえ」
「騙されたと思って今から初等部、行ってみなさい。あおいへのビッグなプレゼント来てるわよ。これぞ報われた達成感たっぷりなのが。あおいの人徳証明がね」
今ごろ初等部六年生に転校して来た?って・・・
まさかクリスマスに仲良しになった梅宮サナちゃん?。いやいや、サナはちゃんと普通にお受験で中等部から来るって言ってたような記憶が・・・
夏休み前に、また帰ってくるから!と転校したみなみちゃんなハズはないし・・・
????状態のあおい
そこに珍しく妹思いモードになっている緑お姉ちゃんが、従姉の紫蘭と共にあおいの背中を押す。緑は
「あおいさあ、何をワケワカランモードになってるの?。興味津々はすぐに飛びついて調べるのが、我が妹あおいのいいトコなんだけどな」
「おじいちゃんがね、安倍学長にこれ届けてくれ!だって」
紫蘭は風呂敷包みをあおいに渡す
最後のトドメは大親友のカネコだ
「あおちゃん、側にいてわたしを守ってよ!」
「全くもう!💢仕方ないなあ。制服着替えるから待ってね」
>> 141
「おじいちゃんがねえ、これをあおいの手で安倍学長に届けて欲しいんだって。藍子お姉ちゃんと紫蘭の初等部時代の制服、転校生に寄付だって」
風呂敷包みをあおいに渡すことで背中を押す、姉の緑と従姉妹の紫蘭。トドメは大親友のカネコが
「あおちゃん、側にいてわたしを守ってよ!」
「全くもう!💢仕方ないなあ。制服着替えるから待ってね。あとトーストくらい、かじらせてよね。コーヒーもね」
そう立ち上がるあおいにカネコが
「文通してるサナちゃんからわたしに来た手紙の中にね、あおちゃん宛ての封筒入ってたから渡すね。ハイ、これ読んであげて!」
封筒を開くと、丁寧な文字の手紙が。
拝啓、赤井あおい様
桃のかおりが桜の花びらに変わり花見盛りの候、あおいちゃんお変わりありませんか?。わたくし黒百合中等部の入学式を待ちわびております。だってあおいちゃんに早く再会したいんですもの。
そうそう、カネコちゃんと緑先輩に紫蘭先輩そしてしおり先輩に伺いましたが、あおいちゃんはとってもいいことをして差し上げたとか。わたくしママパワーをほんの少しだけ、あおいちゃんのために使いました。その子とのいきさつ聞いてしまったら他人事じゃなくてよ。
それとね、わたくしの腐れ縁な家来も黒百合志望らしく、でも勉強方面が残念な女の子なので、入試合格は無理筋。ですから黒百合初等部転入の形になりました。なので、もののついでですわよ。
詳しくはママから安倍学長に話が行ってますので、あおいちゃんは心配しなくていいからね。
あとね、わたくしの家来のこの子、あおいちゃんの拳法習いたいそうで、それはわたくしもですが、しばらく使い走りにでもして、こき使ってくださいね。実を言えば彼女は昔ならわたくしの守役ですけれど、あおいちゃんなら事情わかってくださるかと。
ちょっと話まとまらなくて乱文になりましたが、4月の再会を心待ちに公立小学校最後の日々を頑張ってます。あおいちゃんもあおい組の皆さんと仲良くね。
では栞にした桃の花を添えて、かしこ
追伸
他中学校にあおいちゃん行ったら、地の果てまでもわたくし追いかけますわよ。わたくし頑固なので。ちょっとだけカネコちゃんのための追伸でした。
>> 142
サナからの手紙読んだあおいだが、まだ???状態だ。わたしって、良いことしたの?状態なのだ。あおいは気まぐれ気分屋だし、良いことしても褒められたいとか、それとは無縁な女の子だから。
ともあれ、急いでトーストとコーヒーをお腹に流し込み制服に着替えたあおい。
「待たせてゴメンね」
待った先生を先頭にあおいとあおい組、しおり先輩と従姉の紫蘭が黒百合初等部に歩く。サナの街では桜も開いたようだが、サナの街よりほんの少し北側でほんの少し標高あるためか、大通りの桜は蕾状態が多い。
黒百合山手校の校門をくぐり、待った先生とあおい、しおり先輩と紫蘭は本館学長室に。あおい組の皆はさらに初等部の校門をくぐり高学年校舎に。
学長室をノックする待った先生。
「松田先生とあおい君かね?入りたまえ」
優しい学長の声がする。
「失礼いたします」
「学長先生、無断欠席の心配かけてごめんなさい」
そんな待った先生とあおいたちにソファーに促す安倍学長。
「あおい君おはよう。今日は君にありがとうを言わねばならない。よく住吉うな君を救ってくれた。感謝する。うな君は頑張らせてくださいと黒木先生に言って来たんだよ」
「うな君の落第が決定的になりずっと考えあぐねた問題。いかに落第生と気付かれず復学させるか。病気とかならまだしも遊んでる姿は目撃されたからね」
「君のお姉さん、緑くんが梅宮サナくんの襲われてる現場を救い出し、君はサナくんと仲良くしてくれた。その感謝がサナくんのママから来てね」
「そのサナくんのママがね、君とうな君の話を知って、大学とかは聴講生制度もあるじゃないですか?と。初等部聴講生が一人くらいいても問題ないと思いますよ。と知恵を出してくれた」
「入学式出ずに始業式の日にうな君がクラス入りしたら落第生とわかるよね。だから聴講生の形で転校生として初等部編入、特例で入学式参加、一年生に入り直す方向で倉橋しおり君も赤井紫蘭君も、うな君の中等部同期入学生の現一年生を納得させてくれた」
「一年生はうな君に優しく出来なかったと悔いてくれて、君にだけうな君の面倒見はさせないと言ってくれた」
「ヒントになったのは君がうな君に、年上ぶらないこと!と出した友情条件だ。そして君のグループの子も協力してくれるそうだ。ありがとう」
「それでお願いだが、君からも六年生の皆に頼む」
>> 143
黒百合女学院山手校学長室に呼ばれているあおいに安倍学長が頭を下げる。
「あおい君、住吉うな君をよく救い出して復学させてくれた。ありがとう。感謝する。特例だが中等部一年生のうな君は内気なる性格を考慮し、今日付けで初等部特例聴講生として、君のクラスに午後授業から編入する」
「4月から落第生として中等部一年生復学よりは、初等部六年生を短期間でも過ごし、入学式参加し中等部再編入がうな君にはベストなる方法と考えます」
「そして、うな君の復学に間に合うよう本学に戻ってくれたことも感謝する。ありがとう。ところで君は何やら先ほど、無断欠席がどうこう謝罪していたが、何のことかね?。私は何らの報告も聞いていないが。まあ、まだまだ風邪の季節だから気をつけたまえ」
あおいにそうウインクして見せた話のわかる安倍学長だった。
「あのう、学長先生、緑お姉ちゃんから学長先生に渡しなさいと、藍子お姉ちゃんと紫蘭お姉ちゃんの初等部時代の制服預かってますが、うなちゃんだけなら一着でいいですよね。もう一人特例の子がいるんじゃないんですか?。梅宮サナちゃん関係で」
そう安倍学長に質問するあおい
「そうだった、松田先生、彼女は今日かね明日かね?」
「彼女も今日の昼頃に来校予定です」
「そうか、それならうな君もお友達が早速できるわけだ。松田先生、あおい君、保健室の石内先生にこの制服、渡してくれたまえ。石内先生は裁縫得意だから、二人に合わせて裾上げとか、すぐにしてくれるだろう」
「松田先生、あおい君、下がっていいよ」
何やら知らないうちに話が進んでいて
もう何が何でも黒百合中等部に行かなきゃならないのね。そう思うあおいは六年一組に戻る。そうよね、やっぱりわたしの居場所は黒百合なのよね。
クラスの戸を開けるあおい
松田先生に代わり教鞭をとっていた石橋哲也先生とクラスメイトたちがあおいに振り向く
「お帰りなさい」
「石橋先生、みんな、心配かけて本当にごめんなさい」
そう謝り席につくあおい。クラスみんなの暖かい拍手、失恋というより恋煩いを乗り越えたあおいへの皆からの贈り物だ。
今日は教科書すら持って来ていないあおいに、隣のゆかりが社会科教科書を二人の間にさりげなく置いてくれる。美佐はレポート用紙をノート代わりにしてね!と。ちはるは真新しい鉛筆を削ってあおいに渡している。
>> 144
三時間目の社会科が終わった休憩時間。決断すれば行動は極めて早いあおい。カネコと職員室に。
四時間目は最後の、一年生との合同自由体育だが、あおいはカネコと一緒に児童会長と副会長連名で、六年生と一年生の学年主任にお願いし四時間目を五時間目に移動、同じく五時間目を六時間目に移動する変更してもらった。
そして六年生全クラスを学内放送で講堂に集めた。
こんな無茶苦茶が通ったのは、初等部トップ成績の頭のいいカネコが、あおいならこうする!と読んでアクションしていたのだろう。
講段マイクに立つカネコ。その後ろでは、両手の指を組んでボキボキ関節を鳴らすかの仕草をしながら、あおいが皆を睨みつけている。無言の圧力だ。
しかも高等部のしおり先輩や鬼のように怖い紫蘭先輩まで来ている。これはただならぬと気付く六年生。
「児童会からお願いがあります。異例だと思いますが本日、五時間目から転校生のお友達二人が六年一組に編入します。卒業まであとわずかな時期ですが、一組だけでなく六年生全クラスの皆さん、仲良く勉強し仲良く遊びましょう」
カネコはあおいにマイクを譲る
「二人のお友達はスッゴく恥ずかしがり屋さんで、中等部からの入学だと仲良くできる自信がなくての、初等部への一時転入です。外部入学の子はわかるよね?。幼稚部からの子には仲良しグループが出来てたのが。二人に同じ淋しい思いさせたいの?。それはわたしがゆるさない」
あおいはマイクをカネコに返す
「外部入学生の子とか新しい仲間がお友達出来なくて淋しい思いをする。これは黒百合初等部六年生のわたしたちの今日、今から無くしていきましょう!。そしてこれは安倍学長先生からあおいちゃんが頼まれたことです。よろしくお願いします」
だが、一部から
「あの子のことじゃない?」
もちろん計算内のあおい。カネコにマイクを借りる。
「今しゃべった人、ここに来てマイクで喋っていいのよ?。異論があるんならね。みんなに優しいしおり先輩にこれからスルーされたいならね。紫蘭先輩にこれから毎日睨みつけられたいならね。わたしと毎日喧嘩したいならね」
「有言実行!異論ある人は、わたしたちのより素晴らしい提案と能力あるのよね?。それ堂々と教えてくれないかな?」
そうしてカネコと二人で
「主任先生、締めくくりお願いします」
>> 145
四時間目の臨時六年生集会での主任先生の締めくくりの訓示が終わる頃、チャイムが鳴る。
普段なら真っ先に給食にありつこうと、チャイム同時のダッシュで初等部食堂に駆け出すあおいだが、今日は転校生の住吉うなちゃんと千堂敦子ちゃんが寄付支給された制服のサイズ直しを待っているであろう、本館茶話室に向かう。
黒百合女学院生徒心得の「旗を掲げた者は誰よりも自ら先頭にあるべし」、つまり有言実行を態度で示しているのだ。そしてあおい組もあおいに従っている。
学校休むつもりでいたあおいを、自分たちが無理矢理に起こしたせいで、あおいは朝ごはんトースト一枚しか食べてないのを知ってるから、自分たちが腹ごしらえするわけにはいかない。だが、あおいは
「美佐たちは給食、食べて来て」
と気遣うのを忘れない。そんな優しいあおいだから六年生皆がそうだが、あおいの言い出す無理難題も何とかしようとする、あおい組の仲良しメンバーだ。
「ううん、新しいお友達がいるんだもん。それに購買茶話室にはちょっとしたお菓子やパンとかカップ麺とか、たくさんあるじゃない!」
ハモるかのようにそう言うゆかりやちはる、そうよそうよ!と頷いてるみずきと美佐そしてカネコにあおいは
「みんな、ありがとね」
今日は六年生人気メニューの、サーモンとイクラの大葉大根おろしのパスタとチーズトマトコーンサラダだから、もちろん公立小学校のようなソフト麺ではない生パスタだから、さらにうれしい皆の気遣いだ。
茶話室に入るなりオーバーアクションな仕草で大声を張り上げるあおい。
「ヤッホーうなちゃん!、早く会いたくて走って来ちゃった!。勉強頑張ろうね」
「あなた千堂敦子ちゃん?。サナちゃんの友達の赤井あおいです。仲良くしてね」
「二人とも黒百合初等部にようこそ!」
二人の不安を吹き飛ばすかのように明るく振る舞うあおい。
「うなちゃんと敦子ちゃんはもうお友達状態かな?。わたしも二人のグループに入れてよね!」
と、茶話室テーブルを見てみると、給食がしっかり運ばれていて。珍しく女心を読んだ、待った先生の気遣いだった。
「二人で食べるの待ってたの。松田先生と石内先生があおいちゃんグループとお食べなさいだって!。今日あおいちゃん休んでたのに、わたしのためにありがとう!」
あおいに抱き着いて、またも泣き出すうな。
>> 146
「ねえ、あおいちゃんたちこんな美味しい給食、毎日食べてるの?。いいなあ。市立小学校は冷や麦か中華麺かうどんかワカラナイ麺だよ?」
敦子は感動している。敦子が言うワカラナイ麺ってのは、もちろんソフト麺のことだ。
「まあ確かに黒百合は地元名門だからね。給食グレードは高いのかも。わたしビンボだから給食が楽しみなの。あおいちゃんたちは気を遣って面倒見てくれるんだけどね」
そう言っているのはカネコだ。面倒見てくれるってのは、マクドナルドやファミレスやゲームセンターとかカラオケ付き合いをカネコのお小遣いだけでは捻出できないのに
お小遣いの額により割り勘割合が変わるシステム。
苦手科目は助け合い、面倒見てもらった側はちゃんとお礼するシステム。勉強やスポーツを頑張り得意なことが出来れば、お金持ちな子とも貧しい子が付き合える
これを、あおいが美佐やゆかりと考え出してるからこそ、奢ってもらうのは申し訳ない思いをすることなく、いつも一緒に対等に遊び歩けているのを言っているのだ。
カネコによる、黒百合の子はみんな優しいアピールである。もちろんうなや敦子に、心配要らないのよ!と言っているのだ。
そんな中、五時間目の一年生との合同自由体育を、うなや敦子を思い心配してるあおい。
「ねえ、うなちゃんと敦子ちゃん、支給された体操服のサイズ大丈夫だった?。サイズ合わないなら言うのよ。みんな予備置いてるから。それにわたし、今日は手ぶらで来てるからゆかりに借りるの。ほら、ゆかりちゃん、わたしよりちょっと大きいだけでしょ?。二番目ちびっこだから」
すると、敦子が
「わたし、ブルマが少しきついかも」
「うーん、敦子ちゃん立って見て。で悪いけど太もも見せて」
敦子ちゃんは私服がピッタリフィットなタイトな服だから体のラインはわかる。太ももは想像つくけどスカートに隠れてるから。
「みずきのなら合うかもね、みずき、貸してあげてね。それでもきつかったらカネコだよね」
「うなちゃんは本当にサイズ合ってるのね?。恥ずかしがったら損だよ?」
「うん、わたしは合ってたから。袖が少し長いけど体操服だもん、ゆとりあるほうが楽よね。でもあおいちゃんのお姉ちゃんのだったのね。ありがとね」
>> 147
昼食時間から休憩兼掃除時間への移行を告げるチャイムが鳴る頃、支給制服のお直しをしていた石内先生が来て、うなと敦子に制服を渡す。
「二人とも残り少ない小学生生活、思いっきり楽しむのよ。それが4月からの黒百合中等部での中学生生活の準備なんだから。」
「頑張ります。ありがとうございました」
「制服のお直し、ありがとうございました!」
「チャイムだ!。今週はわたしたちが給食室掃除の当番だったよね!。急がなきゃ!。低学年をさっさと給食室から出さないと自由体育に間に合わなくなっちゃう!」
急げ急げ!と、茶話室の隣、購買室からつながる購買おばちゃんの休憩用プレハブを借りて、私服から制服にお着替え中のうなと敦子をあおいが急かす。
茶話室で食べた給食のトレーを持って校庭を早足で歩き、本館から初等部低学年校舎にある初等部給食室に急ぐあおい組の面々。黒百合初等部制服に着替え、可愛い小学生に戻ったうなと敦子もすでにあおい組メンバーだ。
給食室に飛びこんだあおい組。あおいは
「みんなはもう知ってるかもだけど、わたしのお友達で転校生の住吉うなちゃんと千堂敦子ちゃんよ。仲良くしてあげてね。初等部の掃除の仕方、柴田あゆちゃんはうなちゃんに、高月杏樹ちゃんは敦子ちゃんに教えてあげて。いいわね」
すでに六年生集会での、あおいとその従姉の高等部紫蘭先輩の怖い顔と、同じく高等部のしおり先輩の優しい笑顔に、児童会長兼副級長カネコそして児童副会長兼級長のあおいの演説に、本気度を感じていたクラスメート、否やを言う者はいない。
あおいは掃除当番になっていて、掃除を始めていた皆に二人を紹介する。そうして、自分は皆が嫌がるとわかっている、生ゴミの混ざることのあるゴミ箱内の分別に美佐と取り掛かる。
そうしながら、うなや敦子ちゃんを気遣い視線を時折ふたりに向けるあおい。うなちゃんも敦子ちゃんもお掃除頑張ってる。あゆちゃんも杏樹ちゃんもふたりに親切に教えてあげてる。
中等部一年生の皆がこうなら、うなちゃんは初等部に来るほど悩んだりしなかった。こんどは、わたしたちは仲良く頑張ろう!。初等部に来てくれたうなちゃんと一緒に中高等部行って大学部行って、みんなで卒業しよう!。
うなちゃんもそう思ってくれたのか、目が合ったとき、二度目の小学生姿が恥ずかしいのね、でも嬉しそうに笑ってくれた。
>> 148
うなと敦子があおいたちと掃除に汗してる頃、黒百合女学院山手校の学長室には、黒百合女学院元理事で、安倍学長が学生時代の教師だったあおいの祖父慎太郎が
うなの合気道の先生である白井流合気柔術師範の白井理子先生と、うなのママ住吉和恵を誘い訪問していた。
先日、白井先生から、うながあおいに喧嘩売ったことのお詫び、うながあおいに負傷させたお詫び
(まあこれはあおいが打撃した際、あおいの震歩劈掌が命中せずに空振りしてしまったために、肩関節があおい自身の早過ぎるスピードに耐え切れず勝手に脱臼しかけただけなのだが)
ともあれ、弟子が勝手に他流に試合を挑んだ不祥事でもあるし、喧嘩売って負け、赤井家道場に殴り込みされてもおかしくないのに、あおいはうなをゆるしたばかりか、うなとうなの先生の面子を立てただけでなく、負傷してるうなをちゃんと病院に連れて行き
おまけにうなの友達になってくれて、うなの知らないうちにあおい自身が菓子折りを持ってその日のうちに白井道場にお詫びに行き、さらに気付けばうなが復学できているお礼の電話が赤井家にあったのだ。
それで事を知ったあおいの祖父慎太郎は、白井先生とうなママ和恵とで学長室に訪問している。
「安倍学長、素晴らしい異例のしかも素早く的確な決断はさすがですな。でも一つ足りない」
そう言う慎太郎に安倍学長は
「はて、何でしょう?。親父さん、わたしの足りないところ、勿体振らずに教えてくれませんか?。生徒の人生は何より大切ですので」
「うなちゃんが自宅からランドセル通学したら、うなちゃんのご近所の皆さんの目があるではありませんか。うなちゃんが黒百合中等部生徒なのは近所の皆さんの知るところでしょうに、初等部の制服でランドセル通学した日には」
それを聞いた安倍学長
「あっ!。私としたことが。いやあ、お恥ずかしい限りです。さすが赤井先生、ご指摘ありがとうございました」
ニコッとした慎太郎
「黒百合初等部の無断長期外泊禁止校則。許可をうなちゃんに出せませんかな?。うなちゃんをお預かりしますよ。幸いあおいは、うなちゃんの合気柔術に興味津々で、うなちゃんもうちの技術に興味あるようです。また我が塾や道場で初等部の復習や練習していれば、悪友からも離れられるでしょう。それに黒百合の子は多くがうちに通いますからな。お友達も出来やすいでしょう」
>> 149
学内放送が流れる
「真田初等部校長、島中等部校長、松田初等部先生、初等部生徒の桃井カネコ児童会長と赤井あおい児童副会長、栗山ちはる、住吉うな、諏訪野みずき、高田ゆかり、立花美佐は至急本館学長室に来てください」
ちょうどそのとき、給食室掃除しながら待った先生へのいたずらを企んでいたあおいたち、背筋がビクっとする。
「みずき、ちはる、あんたたち剛くんに喋った?。なんでバレてるのよ?」
そう言うあおいにカネコは
「あおいちゃん、違うと思うよ。それならわたしは呼ばれないし、ほら、うなちゃんも呼ばれてるし、中等部の先生とうなちゃんの事での話し合いじゃない?。島校長も呼ばれたでしょ」
「あゆちゃん、杏樹、途中で悪いけど後をお願いね」
そう言うと皆で学長室に駆け出していく。
「桃井カネコ以下七名、お邪魔していいでしょうか?」
「入りたまえ」
安倍学長は
「真田初等部校長と島中等部校長は住吉うなくんにこの場で長期外泊許可したのだ。いいね。初等部五時間目授業まであと僅かだから事情は後で説明する」
「初等部松田先生は春休み中、赤井家道場に出張するように。これも後で説明する」
「桃井カネコくん、赤井あおいくん、栗山ちはるくん、諏訪野みずきくん、高田ゆかりくん、立花美佐くん、君たちは赤井道場生徒だったり赤井塾生徒だったりしてるよね?。君たちを見込んでお願いする。住吉うなくんは4月始業式まで赤井家に下宿になった。仲良くしてあげたまえ。住吉うなくん、赤井家で自分をしっかり鍛えたまえ。あとは放課後に赤井家に行くか、松田先生に聞けばわかるようにしておく。何度も呼び出して済まないが以上だ」
カネコは安倍学長に言う。この三日、何度も呼び出されブーイングみたいなものだ
「学長先生、わたしたちもう仲良しですよ?。学長先生がどうこう言わなくても大切なお友達は大切にします。大人は子供の世界にあまり口出ししないでくれませんか?。あおい組の皆がいたずらばかりでも信じてあげなきゃ」
「おお、そうだね、その通りだ悪かった。でもありがとうを言わせてくれ。下がっていいよ。さすがカネコくんだ」
>> 150
「で、でっかい家だぁ!」
「な、な、な、なんでポルシェがあるのよ!」
「しかも同じのが色違いで。おまけにベンツまで、しかも高いやつ」
「ね、ねえ、あれは?まさか犬小屋じゃないでしょーね!」
「やっぱり犬小屋じゃないの!」
「このちび!お前が偉いんじゃねえ!勝ったと思わないでよ!。うちの車庫くらいな犬小屋、建ててんじゃないわよ!。お前が偉いんじゃねえ!先祖が偉いんだ」
「チョーむかつく!。税務署さん!泥棒さん!しっかり仕事しろ!」
「まあまあ、言うと思った。うなちゃん、怒らない怒らない」
キレたヒステリー状態のうなを、あおいに気を遣い宥めているのはカネコだ。今日から赤井家に下宿で初訪問したうなは、あまりの驚きに両目に悔し涙を浮かべている。
「何が、わたしはお嬢様ぶりっ子しないからお友達になって!だ。チョーむかつくんですけど!」
そんなうなにあおいは
「はいはい。わかったから暴れない暴れない。ご近所迷惑だからね」
そう言いつつ皆に目配せを。すると示し合わしたかのように、カネコはうなの両手を、みずきはうなの足を。美佐とゆかりは胴体を。飛行機状態にしたうなを大広間に連れていく。
お茶を飲み、少し落ち着いたうな、それでも
「ハーハー、フーフー、ハーハー」
と、ヒステリーを押さえるかの深呼吸してる。すると、うなは黒百合の初等部で至急されたランドセルを抱え、庭の池に飛び込み、鯉を追いかけ回す
「何してんの!」
「盗んで売ってやるぅ!ルパン三世の気持ちがわかったもん」
で、また飛行機状態にされ大広間に連れ戻される
「あのね、うなちゃん、わたし好きでお嬢様生まれじゃないのよ。ここにいたらお嬢様なんかなりたくない!って思うから。ね、カネコちゃんとちはる、そうでしょ」
「それに、ここはおじいちゃんの道場と事務所兼ねてるから広いの。それに古い家だから建物自体に価値ないのよ。でポルシェ一台は向かいの剛くん家のだし、ベンツ一台は紫蘭お姉ちゃん家のだからね」
必死にうなを宥めるあおい。
カネコも
「うなちゃん、あおちゃんはね窮屈な思い何度もしてるの。会いたくもないおじさん、政治家とかどこかの社長さんとかに嫌々あいさつしなきゃとかで嫌な思いもしてるの。女の子ならエロじじいキモい!って気持ちわかるよね?」
>> 151
「なんだぁ!この騒ぎは、あおいさぁ静かにしてくれよ」
赤井家道場に練習に来ていた剛くんと雪穂が顔を出す。
「ちょうど良かった!。剛くん助かるわ!」
「うなちゃん、紹介するね。うちの生徒の剛くんよ」
「剛くん、こちらはお友達の柴田うなちゃん。仲良くしてあげてね」
「ねえねえ、久しぶりにみんなで汗流さない?。緑お姉ちゃーん、拳法着か空手着みんなに貸してあげて!。うなちゃん、合気柔術教えてよ!お願い!」
「よっしゃ、あおいちゃん、今度は加減しないからね!」
「わたしもよ!」
そんなふたりに
「お前ら、勝手に二人の勝負の世界に入ってるけどさ、今日は拳法教室じゃなく空手教室だぞ。まあ、いいか。で柴田うなちゃんだっけ?可愛いね。よろしくな」
「あっ、立ってみてくれる?防具のサイズ見るから」
そう言いつつ、うなを立たせた剛くん。例によって例のごとくの、いきなりのスカートめくりを。
「んキャっ! 何すんの?コイツ!💢」
スカート押さえるでもなく、瞬時に平手打ちするうな
「ちえっ!ブルマかよ。ブルマだと俺にはモテないぞ!」
「誰がアンタにモテたいと思うのよ!ふざけんな!」
うなの再びの平手打ちが炸裂する。今度は手加減されてない本気のだ。
「痛えな!。でも痛いだけだな。お前は強いよ。下手したらあおいより強いかもな。でもあおいと違ってこのままじゃ男に勝てなくなるぜ?。そんなテメエが強いとでも?。そーそーその調子、怒れ怒れ!。もっと怒れ!泣けよ。俺に怒ればあおいに怒らずに済むだろ!」
「俺だって好きでお坊ちゃまじゃねえし、あおいも美佐もゆかりも好きでお嬢様じゃねえんだよ。お前は何か?親を選んで生まれたのか?。違うだろ。俺達もそうなんだよ!」
「お前の顔はあおいより可愛いよ。胸もある。でもあおい見てみろ。胸ナシのちび女だぜ。あおいが好きそうなのか?。カネコ見てみろ、カネコは好きで高校生みたいな巨乳女なのか?。みずき見てみろ、みずきは好きで片耳が聞こえないのか?。カネコはお前よりビンボーなんだよ」
「生まれのせいにするようじゃ弱い女だよ」
「わたしのうなちゃんを馬鹿にすんな!」
あおいのキレた当て身が剛くんに命中する。息ができない苦しみに悶える剛くん
「あおい、おまえ、庇ってやったのに」
- << 154 「うなちゃんさあ、お前はあおいより胸もあるし顔も可愛いよ。でも、あおい見てみろ。色気も何もないペチャパイでちびな体だぜ。あおいは好きでそうなのか?。みずきは好きで片耳が聞こえないのか?。カネコは好きで巨乳なのか?。気付いたらそうだったんだ。それにカネコはお前よりビンボーだけど八つ当たりはしないぜ」 「あおいは好きでお嬢様じゃないし、カネコは好きでビンボーじゃないんだ。生まれのせいにするようじゃ、お前は弱い女だよ」 なんて剛くんのご高説が終わる前に、友達を悪く言われキレたあおいのフルスピード当て身が炸裂する。息ができない苦しみに悶える剛くんに叫ぶあおい。 「わたしのうなちゃんを馬鹿にすんな!。剛くんより強い女の子よ!」 「あ、あおい、お前なあ、なんで俺にキレてんだよ。庇ってやったのに」 「うるさい!壊れたレコード男は黙ってなさい!。うなちゃんの事情も知らないくせに!。女の子の友情に口出しするんじゃないわよ」 「うなちゃん!道場行こっ!。うちの基本教えたげるから」 夜のお食事を見たうな。お嬢様らしからぬ質素な食事に驚きを隠せない。あおいのパパが覚えの悪い門下生に付き合い、深夜まで指導してるのに驚く。あおいの祖父が事務員の残業が終わるまで食事に手を付けないのにも驚いた。 そして極め付きは 朝も4時には練習してるあおいや緑に紫蘭だ。それも自分の習う練習ではない。道場指導助手で、祖父やパパが他人に教える内容を練習してるのだ。さらに朝も5時に道場を掃除し看板を出し、高齢者太極拳教室のおじいちゃんおばあちゃんに手取り足取りだ。 それから七時にはあおいは登校に家を出る。朝ごはんの弁当を持って。そして学校の渡り廊下で自分の練習をし、学校の教科書をめくりながら朝ごはんしてる。 また、あおいのママ桃子の、家計簿や道場に塾と会社の帳簿とにらめっこの様子にも驚いた。どうしたら儲かるなんて言葉より、この経費を削れば社員の給料が増やせるトカ、家計のこれを削れば黒百合女学院への寄附や教会への献金に福祉施設への寄附を増やせるトカ、桃子の呟くセリフは、いかに質素に生活し、いかに他者に恵みを分けるか?な呟きばかりだったからだ。 あおいの言葉。ポルシェもベンツも、旧武家の格式や社交で持ってるだけ。贅沢はしたくない!は本当だった。 だが、あおいの姉、緑の趣味にもうなは驚いた。
>> 152
「なんだぁ!この騒ぎは、あおいさぁ静かにしてくれよ」
赤井家道場に練習に来ていた剛くんと雪穂が顔を出す。
「ちょうど良かった!。…
「うなちゃんさあ、お前はあおいより胸もあるし顔も可愛いよ。でも、あおい見てみろ。色気も何もないペチャパイでちびな体だぜ。あおいは好きでそうなのか?。みずきは好きで片耳が聞こえないのか?。カネコは好きで巨乳なのか?。気付いたらそうだったんだ。それにカネコはお前よりビンボーだけど八つ当たりはしないぜ」
「あおいは好きでお嬢様じゃないし、カネコは好きでビンボーじゃないんだ。生まれのせいにするようじゃ、お前は弱い女だよ」
なんて剛くんのご高説が終わる前に、友達を悪く言われキレたあおいのフルスピード当て身が炸裂する。息ができない苦しみに悶える剛くんに叫ぶあおい。
「わたしのうなちゃんを馬鹿にすんな!。剛くんより強い女の子よ!」
「あ、あおい、お前なあ、なんで俺にキレてんだよ。庇ってやったのに」
「うるさい!壊れたレコード男は黙ってなさい!。うなちゃんの事情も知らないくせに!。女の子の友情に口出しするんじゃないわよ」
「うなちゃん!道場行こっ!。うちの基本教えたげるから」
夜のお食事を見たうな。お嬢様らしからぬ質素な食事に驚きを隠せない。あおいのパパが覚えの悪い門下生に付き合い、深夜まで指導してるのに驚く。あおいの祖父が事務員の残業が終わるまで食事に手を付けないのにも驚いた。
そして極め付きは
朝も4時には練習してるあおいや緑に紫蘭だ。それも自分の習う練習ではない。道場指導助手で、祖父やパパが他人に教える内容を練習してるのだ。さらに朝も5時に道場を掃除し看板を出し、高齢者太極拳教室のおじいちゃんおばあちゃんに手取り足取りだ。
それから七時にはあおいは登校に家を出る。朝ごはんの弁当を持って。そして学校の渡り廊下で自分の練習をし、学校の教科書をめくりながら朝ごはんしてる。
また、あおいのママ桃子の、家計簿や道場に塾と会社の帳簿とにらめっこの様子にも驚いた。どうしたら儲かるなんて言葉より、この経費を削れば社員の給料が増やせるトカ、家計のこれを削れば黒百合女学院への寄附や教会への献金に福祉施設への寄附を増やせるトカ、桃子の呟くセリフは、いかに質素に生活し、いかに他者に恵みを分けるか?な呟きばかりだったからだ。
あおいの言葉。ポルシェもベンツも、旧武家の格式や社交で持ってるだけ。贅沢はしたくない!は本当だった。
だが、あおいの姉、緑の趣味にもうなは驚いた。
>> 154
あおいの姉の緑のエロ同人執筆にも驚くうな。
「あおい!悪いけどモデルして!」
「やだ!絶対にやだ!。なんでロリを描くのよ!」
「たまにロリな挿絵入れたら売れるの!お小遣い弾むから。イヤならいいのよ。うなちゃんはあおいより可愛いし、ゆかりはイメージぴったりだし、カネコは色気あるし、美佐は元プロのモデルだしぃ、ちはるはどんなポーズもしそうだしぃ」
「お姉ちゃん、それだけは、初等部の子を使うのだけはやめて!。わかったわよ。顔は変えて描いてよね。で、料金四万円よ。ったく、もう!モデル事務所だってあるのに」
「お姉ちゃんは自分で学費出してるの。これしかわたし才能ないし、またバイト首になるのよ!。助けて!お願いっ!」
「集会所でも借りて自分で武術教えたらいいのに。今度だけだからね。まあ、お姉ちゃんは寸止め下手くそで手加減できないからね、死人出されたら困るし」
うなは風呂上がりにあおいの部屋と間違え襖を開くと、そこはあおいの姉、緑の部屋。本棚やテーブルにはエッチな本やビデオだらけで、我が目を疑う、そんなうな。
「あら、うなちゃん、入っていいのよ?」
「あまりの驚きに宙を泳ぐ目が緑と合ってしまい、ご、ごめんなさい!お部屋間違えました!」
そう叫んで小一時間、、うなの下宿用に割り当てられたお部屋、あおいの亡い姉の藍子のお部屋だったが、そこに隣のあおいの部屋から、あおいと緑のエロ同人モデル料交渉の先程の会話が漏れて来たのだ。
お嬢様のあおいと緑の会話。緑お姉ちゃんは、すねかじりでパパママにお高い学費を甘えて出して貰ってたのではなかったが、まさか同人で儲けてたとは。
そして、そのあおいのせしめたモデル料は、いや、それだけではなく、道場指導助手のお駄賃までも、自分の贅沢や貯金ではなく、ビンボーゆえにお嬢様と付き合えない子たちを、あおいがいつも誘ってるのを、そんな子のパパやママの儲けの悪い小さなお店に行っては貢献してるのを、うなはあおいの従姉の紫蘭お姉ちゃんに知らされる。
朝の早いあおいはすぐに寝たため、うなはあおいの朝7時登校に付き合い、お嬢様だからと八つ当たりしたのを平謝りに謝ったのだった。
でも
「お嬢様も窮屈でめんどくさくて楽じゃない」
うなはあおいの言葉のその意味はまだ知らない。赤井家のひな祭りの社交にいなかったから。
>> 155
🎵学舎の外は 無限の海
我らの漕ぎ出る海なのさ
学舎の日々は煌めいて
恩に報いるため旅立とうぞ
友よ 明日に向け別れるとも
再び逢おう 名を上げたら
いつかは帰る その時まで
いつかは帰る 船出を今🎵
ここは黒百合女学院講堂。六年生全員が歌を練習している。黒百合女学院と黒川学院が系列だった以前に歌い伝えられた歌を発掘したあおい。もちろん文語体を口語の現代語にしたのはあおいの祖父だが
「わたし、もう学校来ないからね!。みんながわたしに付き合って進路変えるのは間違ってるから!。それに、なんで待った先生なんかに卒業感謝の歌を捧げなきゃならないのか、全く意味不明なんですけど」
あおいがお受験の合格発表日にそう言い出したとき
「待った先生、主任先生、六年生総意で卒業ソング変えます!」
最近あおいがそう言い出したとき、一時はどうなるか?と頭を抱えた待った先生こと松田先生。でも、あおいがちゃんとピアノを弾いて、皆に練習させてるのにホッとする
「練習は総下校時間30分前までだぞ!」
そう言って職員室に戻る松田先生
それを確認し、楽譜を変える六年生全員。あおいの初等部最後のいたずらだ。
🎵仰げは尊し我が師の恩
教えの庭にも 早幾年
思えばいと疾し この年月
今こそ別れ目 いざさらば
互いに睦し日頃の恩
別れる後にも やよ忘るな
身を立て名を上げ やよ励めよ
今こそ別れ目 いざさらば🎵
最近、クラスメートになったうなも、実は初等部生徒ではなく中等部生徒だが、そんな初等部特例聴講生のうなも、卒業式参加が認められ混ざっている。もちろん敦子もだ。
「みずきぃ、音を追いかけられなかったら、そこだけは口パクでいいからね!」
耳が片方聞こえない上に音痴なみずきを気遣うあおい。
「うん、ありがとう!。でも何とか合わせられてるはず」
そう答えるみずき
「じゃあ聖歌、詩篇23編やるよ~」
🎵主は我が飼い主
我 乏しきこと無し
緑の野に我を伏させ 憩わせ給う
主は生命を我に与え 義しく導く
死の暗き谷歩む時 死の谷を
我は怖れじ 主 共に居ませば
道を見守り 我が敵の前に
主は宴を開き
我を招き 祝福し給う
溢るる御恵みと哀れみと愛を
我に与え給う
我は主と 主と 共に永遠に
主の宮に住まわん 主の宮に🎵
>> 156
卒業生入場!
児童会長の桃井カネコを先頭に入ってくる卒業生。最後に入場したのは副会長のあおいだ。
君が代が歌われ、校歌が歌われる。
卒業証書授与!。首席卒業、児童会長、桃井カネコ!
「はい!」
「良く頑張りました。中等部での活躍を期待します」
次席卒業、高田ゆかり!
「はい」
「桃井カネコ君と競い合い、中等部では首席卒業期待します」
卒業生総代、児童副会長、赤井あおい!
「はい」
「よく一年間皆をまとめ率いてくれました。その努力を惜しまぬように」
卒業生、学長、校長に挨拶!
六年一組から順に各自、名前を呼ばれ講段に上がり、学長と校長に感謝の会釈と握手をし席に戻る。
学長と校長の送辞が語られ
在校生送辞!次期児童会長 坂田ちなみ
送辞が語られ、前児童会長のカネコが答辞する
卒業の歌、学舎からの船出!。卒業生、起立!。演奏、赤井あおい。
あおいがピアノの元に歩く
あおいの合図で歌われたのは
🎵仰げは尊し 我が師の恩
教えの庭にも早幾年
思えばいと疾し この年月
今こそ別れ目 いざさらば🎵
あおいのツンデレいたずら成功だ。歌うのを卒業式間近になって、六年生総意で拒否されたのに、まさか、歌ってくれるとは・・・いたずらを怒る気にもなれない先生たち。
卒業式も終わり間近になり、卒業祝福がクリスチャンスクールらしく学校牧師により語られ
聖歌、詩篇23編賛美、全員起立してください。
🎵主は我が飼い主 我乏しきこと無し
緑の野に我を伏させ 憩わせ給う
主は生命を我に与え 義しく導く
死の暗き谷歩む時 死の谷を
我は怖れじ 主 共に居ませば
道を見守り・・・🎵
と、全能の神への信頼が歌いあげられる。我らの国籍は天にある。怖れず自分の旗を掲げひた走れ!の校風を表す伝統である。
卒業式終了!卒業生退場!
卒業生が皆、制服の上着のブレザーを放り投げ、子ども扱いに別れを告げ退場する。
卒業式後に各クラスでミニパーティーがあるし、年によっては肌寒い日もあるため、教師が回収して返却するのだが、黒百合女学院ではこの日を境に、善悪わからない子ども扱いは終わり、中等部からは厳しく責任を問われるのを確認する意味、過去に捕われず未来に進め!の意味もある伝統儀式だ。
>> 157
卒業式が終わり、教室に戻った六年一組のあおい達。
これから卒業式の打ち上げの、クラス別のミニパーティーだ。と言ってもご馳走があるわけでもなく、ちょっとした軽食とお菓子にジュースがある程度だが。
「それでは~今から~卒業パーティーを~始めま~す」
「待った先生の~最後の淑女論を~ちゃんと~聞きましょう」
「待った先生、お願いします!」
歌いハモるかのように、会を始めた級長のあおいと副級長のカネコ。待った先生にお話をお願いする。
教師人生初の、卒業生を送り出す言葉を語る感動に、待った先生は涙腺が緩んでる。
「卒業おめでとう!。思えば短い六年一組でした。春には萬田珠子さんが長い闘病で病死、夏には北野みなみさんが転校、最近には千堂敦子さんと住吉うなさんが編入し仲間入り」
「皆さん、色んなことを乗り越え良く頑張りました!。だから今日はうるさいことは言いません!。学長、校長のお言葉のように我らの国籍は天にあり!。その高みを目指して名門黒百合の初等部を卒業した誇りを胸に、自信を持って中等部に、学外の中学校に入学してください!」
「最後に、他の歌を歌う予定を再度、変えてくれた、仰げば尊しのプレゼント、ありがとう!」
送られる卒業生の六年一組の皆の、その再度の涙よりも先に、涙腺崩壊が始まってしまった待った先生。眼鏡を外し、空を仰ぐかのように天井を見つめている。
主役の卒業生より先に泣くわけにはいかない!と、思ってるかのように。
そんな待った先生をからかおうとしたあおい
「だってえ、明日から童貞なんかと会わなくて済むもんね!。草葉の陰からでも先生、わたしたちを見ていてよね!」
「お猿さんと可愛い子犬ちゃんのケンカ、しなくてすむからせいせいするわ!」
そんなことを言いながら涙が出てきたあおい
「ドーテー!」
と、待った先生に叫ぶ。両手を広げ、
そして泣きながら駆けて短い距離、いや、僅か数歩だがを駆けて
「ドーテー!」
と両手を広げたあおい。その胸に
その小さな胸に飛び込んだのは
なんと、童貞の待った先生こと松田先生だった。
そんな光景を見て、松田先生にラブラブのゆかりは
「松田先生!あおちゃんに浮気するなんて酷いっ!💢💢💢」
賑やかなパーティーが始まった。
初等部編《初恋との別れ? 卒業式の時間》完
>> 159
《片恋再燃と百合の再会と 中等部入学式の時間》
ここは黒百合女学院山手校の中高等部体育館前の渡り廊下。今は春休み中の4月1日だ。昼休憩を告げるチャイムはすでに鳴った後で、空を見上げてはため息を繰り返す、そんなあおい。
中等部入学説明会と制服購入に来たのだが、部活で来ていた仲良しの高等部のしおり先輩や従姉の紫蘭に中等部の白柳柑奈先輩と、よもやま話に夢中になってしまった。
その仲良し先輩方が部活顧問と昼食を買いに、購買のある本館茶話室に向かうのを見届けた時には
先日卒業した、初等部での仲良し七人娘は、それぞれ用があったらしく、さっさと帰ってしまった後で、自分は雨女なのに折り畳み傘を忘れてしまって、それでため息なのだ。それで
中高等部の他の仲良し先輩が来てくれないかな?。
なんて人頼みをしてるのだ。その時には小雨だった雨も、分刻みに段々と本降りになり、傘なしでは帰れそうにない。
「お前、あおいか?。なんでここにいるんだよ?」
そんなあおいの背後で声がする。男性の声だ。
先生方、まだ昼休憩じゃないの?。
そう思うあおい。そう、ここは女子校なのだ。存在する男は教師など少数の男性職員、納入などの業者、父兄くらいのもの。あおい以外は無人のはずの体育館なのに・・・
怖々と声の主を振り返るあおい。
そこには、女子校だから男性はいないはず。そんな意味とは違う意味で、そこにいないはずの男が立っていた。
「お兄ちゃん?。なんでここにいるのよ?。女子校だよ?。いけないんだ!忍び込んだらダメよ!。それに声が変!風邪ひいてるの?」
そう、声の主は
あおいの一回り年上の遠戚で、九つ上の緑お姉ちゃんの婚約者で、県外の塾で人気講師の、そしてあおいの初恋の相手で片恋を諦めようとした、その真鍋瞬お兄ちゃんだ。
「ん?。ちょっと風邪でな。てか忍び込んだんじゃねえ!。俺は今日から高等部教師なんだよ!。つか、あおい、お前、国立附属に入るんじゃないのか?」
そんな瞬お兄ちゃんにあおいは
「うーんとねえ、国立行きたかったんだけどぉ、初等部の待った先生がね、わたしがいなくなると淋しい!って泣くから、それで黒百合に残ったの」
「それで入学てか進学つか進級?。その説明会と制服買いに来てるのよ。それよりお兄ちゃんっ!。それならそうと、なんで教えてくれなかったのよ!」
>> 160
「お兄ちゃんっ!ここ女子校だよ!。忍び込んじゃダメっ!」
中高等部体育館前の渡り廊下で雨宿り中のあおい。
背後から聞こえた声の主は
「なんでここにいるんだよ?。国立附属中に行くはずだろ?。てか、俺は忍び込んだんじゃねえ!。今日から高等部教師なんだよ。」
あおいが片恋を諦めようとした相手、瞬お兄ちゃんにあおいは
「初等部の待った先生がね、わたしがいなくなると淋しいんだって!。だから黒百合に残ったの。それで入学説明会と制服買いにね。それより、お兄ちゃんっ!💢。なんで先生になるのを教えてくれなかったのよ!」
「えっ?。お前、松田さんから聞いてねえのかよ?。参ったな」
瞬の言う「松田さん」とは、つまり初等部の待った先生のことで、瞬の高校大学での先輩かつ大親友だ。
松田さんにしてやられた!騙された!そう思う瞬。でも
いやいや、それより今日こそはちゃんときちんとあおいに謝らないといけない。傷つけてしまったのだから
そう思う瞬
「あおいっ!ごめんっ!。お前のバレンタインで焼いてくれたケーキ、無駄にして本当にごめんなさい。冗談でも言ってはダメでした!。申し訳ありませんでした」
バレンタイン生まれゆえにモテすぎてチョコレート嫌いになった。そんな瞬お兄ちゃんのために、つくりかけのチョコレートケーキを放り出し、改めてナッツ入りケーキを焼き上げたあおい。そのあおいに
「俺、バレンタイン大嫌いなんだよ!」
そう言ってあおいを傷つけてしまったお詫びだ。深々と頭を下げた瞬。
「もういいわよ!。どうせ男の子には女心なんて」
この約二ヶ月を思い出したあおい。そう言いつつも
平手打ちが瞬時に瞬の顔にヒットする。
「わたしを傷つけた罰よ!」
「わたし、わたし、この一ヶ月、さみしかった!」
瞬お兄ちゃんに抱き着いて泣くあおい
だが見物人がいたようで
ヒューヒューと口笛が鳴る。あおいが口笛の方を振り向くと
その喧嘩別れの事情を知る、先に帰ったはずのあおい七人組のしおり・みずき・ちはる・うな・カネコ・美佐とゆかり、従姉の紫蘭と高等部のしおり先輩に中等部の柑奈先輩やまなみ先輩、そして松田先生が冷やかしている。
「松田さん!あんた、俺をハメたな!」
「ま、真鍋、怒るなよ。エイプリルフールだ!」
「何がエイプリルフールだ💢。一ヶ月も前から念入りな!」
>> 161
「松田さん!あんた、俺をハメたな!」
「ま、真鍋、怒るなよ。エイプリルフールだ!」
「何がエイプリルフールだ!💢。一ヶ月も前から騙し続けたくせに!」
初等部卒業間近のバレンタインのころ
教え子の赤井あおいがその想い人の真鍋瞬、自分の後輩の真鍋と喧嘩別れした。そう、あおいの友人のゆかり、自分に片恋している教え子のゆかりから聞いた松田先生。その時は
ふーん、子供からママさんにまでモテる、モテ男のあの真鍋がねえ、珍しくもフラれたんだ。
くらいに軽く考えたのだが、翌週のテストで赤井は、心ここに有らずな様子。案の定、成績が奮わず。このまま放置したら、赤井はまたも成績が、学年トップクラスから気まぐれ大暴落してしまう。
そう思った松田先生。後輩の真鍋と教え子の赤井の仲を心配し、真鍋の自宅を三月一日に訪問したのだ。その時、真鍋と赤井はデート中だったが、やはり赤井はあの日の怒りが押さえられず、真鍋の自宅から飛び出した。
それで真鍋を説得し、黒百合女学院高等部教師に推薦したのだ。さいわい真鍋は塾人気講師だったので、思惑通り採用されたものの
真鍋は、あおいは黒百合女学院中等部ではなく、国立附属中学校に入学予定と聞いて黒百合の教師になったのだから、真鍋の怒りは当然で。しかも俺を騙しただけでなく
「あおいの進学を妨げたな!この松田さんの馬鹿教師!💢」
と。でも優し過ぎる真鍋は
「松田さん、次は俺はキレるからな!」
と許したのだった。松田さんの後輩思いを知っているからだ。
そんなあおいが真鍋と仲直りした帰り道の、あおい七人組の溜まり場の黒百合女学院近くのマクドナルド。あおいは不機嫌だ。
「ゆかりっ!みずきっ!ちはるっ!美佐っ!。アンタたち、このあおい様をよくも騙してハメたわねっ!💢」
ゆかりは真鍋が黒百合教師になるのを、想い人の松田先生から聞いて知っていたから。でも知ったのは卒業式の日、たまたま真鍋を見かけて美佐と後をつけて行ったら、真鍋が高等部校舎に入り、それで松田先生に問い詰めたのだ。
「ごめぇん!。でも、それ知ったのは卒業式だよ。それに松田先生、あおちゃんのために黙っていてやれ!って」
謝るゆかりと美佐。みずきやちはるも
「だってぇ、あおいが剛くんを好きになったら、わたしら勝ち目ないもん。だから再会サプライズプレゼントしたの」
>> 162
「わたしを騙してハメたわねっ!」
黒百合女学院近くのマクドナルドで少し不機嫌なあおい。
そんなあおいに謝るゆかりと美佐。
「だってぇ、真鍋のお兄ちゃんが黒百合の高等部の先生になるのを知ったの、初等部卒業式の日だもん。それに初等部の松田先生、あおちゃんのために黙っていてやれ!って」
みずきとちはるも
「あおいが真鍋さん諦めて剛くんを好きになっちゃったら、わたしら勝ち目ないじゃん!。結果的に騙して悪かったけど、再会サプライズのプレゼントじゃん」
「ったく!もう!。瞬お兄ちゃんと仲直り出来たからゆるすけど」
そんなあおいに対し、むくれているのは、中等部を休み過ぎて日数足らず、そんな彼女の内気を心配した学長と中等部校長、そして初等部校長の配慮で、一時的に初等部に編入されていたうなだ。
さっきから一言もしゃべらない。うなは心を許した人にはおしゃべりなのに。
「うなちゃん、どうしたの?。何かあった?」
うなにとって二度目の中等部入学式を控えている今だから、そう案ずるあおい。でもうなはツーンとしている。
「どうしたの?。言ってくれなきゃわからないよ?」
そんなあおいに何かの雰囲気に気づいたカネコが
「あおちゃん、うなちゃんってサナちゃんや雪ちゃんと同じ・・・」
あおいの耳元にそう囁こうと
それはさせない!。他人にカミングアウトされたら堪らない!と。
「あおちゃんっ!。わたしというイイ女がありながら、なんであんな男と💢」
「え?、えええーっ?」
うなの予想外のカミングアウトに唖然状態のあおい
黒百合女学院は幼稚部から大学まで女子校だから、いわゆる百合の女の子は卒業した初等部にも少なからず存在したが。あおいはうなと知り合って、まだ数週間だ。
「わたしというイイ女がありながら男と!」
と言われるほど百合な意味で親密には付き合ってないし、そもそも、もちろんあおいはノーマルだ。うなちゃんは確かに事情で中等部入学式までうちに下宿してるし、同じお部屋で寝たこともあるし、一緒にお風呂にも入ったけど
「それが女の言うセリフかよ!」
機転を利かせ、ふざけてるっぽくツッコミ入れる美佐にハッと我に返る。うなは慌てて
「も、もちろん冗談よ!。女同士の友情を忘れてデート優先なんてしないでよね。みんな仲良くしよーね!って意味のね!」
>> 163
男子トイレから男の悲鳴が響く。
ここは黒百合女学院初等部の男性職員トイレだ。
あおいは高等部教師になった初恋で片恋の人、瞬お兄ちゃん会いたさに、ゆかりは同じく初恋で片恋の人、待った先生会いたさに、中等部入学式前の春休みにも関わらず、真新しい中等部の制服姿で学校に来ている。
そんなゆかりは、ソワソワとドアの向こうに消えようとする、愛しの待った先生を追いかけた。普段はおとなしすぎる性格だが、あおいと同じように、思い込んだら全く周りが見えなくなるゆかり
男性トイレの小便器に向かい、ファスナーを下ろそうとした待った先生の腕と胴体の隙間からスポっと
「せんせーおはようございます!。ねえねえ一緒に遊ぼ。遊んでよ!」
そう言わんばかりに顔を出したのだ。
朝の職員会議が長引きトイレ我慢していた待った先生は、ゆかりがトイレに入って来たのにも気付かず悲鳴がついつい。
「うわぁ!。高田、お前、ここは男子トイレだぞ!」
ゆかりちゃん、駄目っ!そこは男性トイレ・・・。そう言うあおいの声も聴こえないかのような、もう初恋で待った先生に夢中なゆかり。
ゆかりちゃん、ますます待った先生を好きになっちゃってる!。
ゆかりのあれだけの初恋パワーはわたしにはない。そう思うあおいは、それでも、ゆかりちゃんより先に瞬お兄ちゃんの彼氏になるんだ!と、高等部にいる瞬お兄ちゃんのもとに向かう。
空手部や剣道部など、中高等部の武道系クラブがたむろする中高等部武道場。そこに空手部顧問になった瞬お兄ちゃんはいた。
「お兄ちゃーん!弁当持って来たよ!。見学させてね!」
昨日、初めてここに来たときは、元々がモテ男でしかも塾人気講師だったためか、女心に割と敏感なる瞬お兄ちゃんは、早くも中高等部生徒の人気男性教師になりかけていた。
そんな瞬お兄ちゃんと中高等部先輩の雰囲気にムッとする、ムカムカするヤキモチを思いっきり自覚してしまったあおい。
瞬お兄ちゃんから目を離したら、他の女に奪われちゃう!。瞬お兄ちゃんと婚約状態の緑お姉ちゃんに奪われるなら、それは身内だからまだしも、他人の女の子に取られてたまるか!💢💢💢💢💢
それで、瞬お兄ちゃんと自分の二人分のお弁当を作って来たのだ。
>> 164
「お兄ちゃん、弁当持ってきたよ!見学させてね!」
ここは黒百合女学院中高等部の武道系クラブの集まる武道場。空手部顧問になった真鍋瞬に、そう明るく人懐こく話しかけてるのは、何度も書いているが、彼の一回り年下の、彼の遠戚の、彼の婚約者の緑の妹、新中学一年生の赤井あおいだ。
彼の婚約者の緑が瞬に恋を告げる何年も前に、あおいが彼のお嫁さんになりたい発言をして、当時まだ小学一年生のあおいの、その夢を無碍にすることも出来ず、受け入れてしまったための、三角関係中だ。
つまり、あおいは彼の彼女でもある。事情を知るあおいの同級生に言わせれば、そしてもちろん、当の本人のあおいに言わせれば、だが。
前職が塾人気講師で小柄ながらも整った顔ゆえ、また女姉妹の末っ子ゆえ割と女心に敏感な彼は、早くも中高等部人気教師になりかけていて、彼へのヤキモチか、入学式前なのにあおいは付き纏っている。
昼休憩のチャイムが鳴り、春休み中ゆえ給食はなく、弁当派は弁当を広げ、買い食い派は昼食に購買茶話室に向かい、あるいは黒百合近くのマクドナルドやファミレスまたコンビニに向かう中、あおいは瞬を武道場から引きずり出すかのように、瞬の手を引っ張る。
「ねえねえ、初等部体育館裏の桜が綺麗なのよ!あそこで食べよ!」
行ってみると、親友の初等部教師の松田先生も、卒業したばかりの新中学一年生の高田ゆかりに捕まって弁当に付き合わされている。
「よお!真鍋、お前もか?。モテ男はつらいよな!」
そう語るモテ男ではない松田先生。いや実際は去年、松田先生ラブなゆかりを想い案じ、松田先生の人気失墜を企んだあおいのいたずらにひっかかるまでは、彼は女生徒人気で初等部一番だったのだが・・・
「まあ、いいじゃないですか。嫌われ憎まれるよりは」
そう松田先生に言いながら、あおいの広げるシートに腰を降ろす瞬。
「おおっ!。今日は肉ぎっしりの肉食弁当か!どれどれ」
あおいのこしらえた弁当に箸を伸ばす瞬
「うーん、これは〇〇〇イのからあげ」
「ふむふむ、これは〇洋食品のハンバーグ」
「あっ!このミンチ入り卵焼きとあの煮〆だけはお前の愛情込み込みだな!。あおいも料理上手くなったな!」
あおいに見事に言い当てるグルメ?かつ料理好きの瞬。
この光景、何年か前に
>> 165
あおいの広げるシートに桜の下に腰を下ろし、あおいの持ってきた弁当に箸を伸ばす真鍋瞬先生。これと同じ光景は何年か前に・・・
🎵キーンコーンカーンコーン🎵
チャイムが鳴る。ここは数年前の黒百合女学院高等部の教室。一時間目の授業に植竹桂先生がクラスの戸を開けて入ってくる。それに続いて入って来たのは
教育実習の真鍋瞬だ。それを見て
「お兄ちゃん!なんで?」
思いがけぬ驚きに、つい立ち上がり、植竹桂先生による実習生紹介を待たずにそう言ってるのは、まだ高校生だった、あおいの姉の緑だ。
「お兄ちゃん、なんで黒川学院高校じゃなくうちに?」
「いやぁ、黒川は黒百合の系列から離れただろ?。でも俺はあおいのこともあるしで、黒百合の教師志望だからさ。でも話のわかる教授で助かったよ」
そして、この話は緑からあおいの従妹の、まだ中等部だった紫蘭に、そして紫蘭の口から初等部の、ママに習い料理を始めたばかりのあおいに・・・
あのときもこうして皆でお弁当を。
去年の今ごろも黒百合の採用面接の案内はあったけど、臨時採用だったため黒百合には就職はしなかった真鍋だ。そして夏休み、黒百合女学院高等部の社会科の女性教師が妊娠した。結婚退職予定だったその先生は、人気ぶりに辞めずに辞められずで、でも妊娠を期に辞めたいと。
黒百合からは来年度から採用したい!と真鍋に話は来たものの、すでに塾人気講師になってしまっていて、迷いに迷ったものの秋口にその話は一度は蹴った。黒百合も新任先生を雇うよりは、その女性教師をなんとか引き止めようと。
それが結局、幼稚部時代に一時失語していたあおいがやはり真鍋は心配で、それを知る学生時代の先輩の松田先生から、教師に空きが出来たんだし、初志貫徹しろよ!あおいを守ってやれ!との繰り返しの勧誘で、ここに来たのだ。
「なあ、あおい。一応は校内では俺とお前は先生と生徒だからな!」
「お兄ちゃん!ってのは止してくれ。と言っても聞いてくれるお前じゃないよなぁ。でも間違っても彼と彼女じゃないからな。これは言っておくぞ。それは休みと放課後限定だ」
「なら、今は春休みなんだなら問題ないじゃん!」
真鍋の予測通りの回答するあおい。やっぱりそう来たか。
>> 166
「なあ、あおい。一応は校内では俺とお前は先生と生徒だからな。お兄ちゃん!ってのは止してくれ。と言っても聞いてくれるお前じゃないよなぁ。でも間違っても彼と彼女じゃないからな。それは休みと放課後限定だ!」
「なら、今は春休みだから問題ないじゃん!」
真鍋の予測通りの回答するあおい。やっぱりそう来たか・・・。まあ、あおいももう小学生じゃないんだし、いずれわかるだろう。そう思う真鍋。
すると見知らぬ女の子が、やはり弁当箱持って来た。
「お兄ちゃん、紹介するね。わたしのお友達の住吉うなちゃんよ。優しくしてあげてよね」
「やっぱりあおちゃん、ここに来てたんだ。これでしょ?あおちゃんのお姉ちゃんの藍子先輩の好きだった桜」
あおいの隣に腰を降ろすうな。あおいの姉、緑先輩やあおいの仲良しグループのあおい組の皆に聞いた話では
黒百合女学院幼稚部のクリスマス会の日、あおいはまだ幼稚部年長さん。そのあおいを迎えに行った黒百合高等部だった長姉の藍子。当時多忙を極めていた、あおいの母の桃子に代わり母親代わりしていた藍子は
あおいの目前で、あおいを助けようと突き飛ばし、ひき逃げ事故で即死した。そのショックであおいは失語した。それは、いつもは次姉の緑が迎えに行くはずが、緑が担任と居残りしていたため、藍子がたまたま迎えに行ったためだった。
それゆえに、赤井家でも、あおいの彼氏で緑の婚約者の遠戚の真鍋家でも、あおいの仲良しの美佐も遠戚ゆえに立花家でも、しばらくトラウマのタブーな話題だったと。
そしてあおいが再び喋れるようになれたのは、初等部一年生のときの六年生との、この桜の下での合同自由体育という名の授業、実質が入学歓迎お遊戯会だったと。
あれから幼稚部や初等部では、名門黒百合ブランドのかわいい制服を全力拒否して、姉の藍子が自作プレゼントしたワンピースで毎日通学していたあおい。体操服も全力拒否して、雨上がりのグランドで転んでしまい泥だらけに。担任の小桜歌子先生が着替えさせようと
「い、い、イヤぁ!これ、藍子お姉ちゃんとの服・・・」
あおいが再び喋れるきっかけの、小桜先生が中等部担任として再赴任した生徒が落第前のわたし
あおいちゃんとはわたし、運命の赤い糸かも
その桜を見上げるあおい、あおいと仲良しのうなとゆかり、そして真鍋先生と松田先生。
>> 167
あおいちゃんとはわたし、百合の運命の赤い糸かも・・・
黒百合女学院の遅咲きで知られる、でも美しい桜の木の下で弁当を食べながら、そんな百合な想いで桜を見上げるうな。
そして、ママ代わりだった大好きな藍子お姉ちゃんとの思い出で、同じ桜を見上げるあおい。
赤井家と自分の真鍋家の、両家の約束で知らぬうちに生まれながらの許嫁だった、当時は初恋の彼女だった藍子を思い出して見上げる真鍋。
あおいが当時通っていた黒百合女学院幼稚部とは違う幼稚園だったけど系列だったゆえに、幼稚園教師志望だった藍子がボランティアでときどき柊幼稚舎に遊び相手に来てくれた、優しかった藍子先輩を思い出して見上げる、あおいの大の仲良しのゆかり。
失語していたあおいが再び喋れるきっかけの小桜歌子先生、教育実習生時代に良くしてくれた小桜先生との出会いを思い出して見上げる松田先生。
そんな桜の下で弁当を食べていた五人を
いや、その中の一人、あおいを邪悪なる目で見ていたグループがいた。黒百合女学院中等部と高等部の悪女グループと言うか・・・素行悪い女番長グループと言うか・・・
黒百合女学院山手校の学長が一昨年度、安倍学長に変わり、学内改革で、素行悪い反省しない学生は即時追放の方針で、本人たちは知らないが実は退学寸前リスト入りの女の子グループだ。
この子たち実は普段は、あおいの次姉の黒百合女学院大学部の緑や、同じく従姉の高等部の紫蘭の影に怯えているのだが。この二人はあおいと同じ中国武術家の孫娘、そこらの男性より強いゆえに。
しかし、その素行悪い女番長グループの何名かが高等部新任先生の真鍋先生への一目惚れしたらしく・・・ついこの前までは初等部だった、しかも見た目が
髪が肌に纏わるのを嫌うあおいはいつも、ツインテールかポニーテールもしくは三つ編みだが、最近はうなを真似てのツインテールばかりで、童顔が強調されて幼く見えるあおい。
背も極めて低いうえに痩せ身の弱そうなあおいが、中等部新入りの一年生の、いや、まだ入学式前の分際で色気づいて、真鍋に纏わり付いてるのが気に入らないのだ。
「なんだよ!あいつ、ちびなくせに色気づきやがって!」
「先輩のわたしらを無視してるしさ」
「生意気な!数集めてやっちゃいましょう!」
人様を見た目で判断してはならないのに、怖いもの知らずである。
>> 168
「なんだよ!あいつ!💢ちびなくせに色気づきやがって!💢」
「先輩のわたしらを無視してるしさ💢」
「生意気な!💢数集めてやっちゃいましょう!」
桜の下で真鍋先生とお弁当を食べているあおいを、そんな邪悪なる目で見ていた、本人たちは知らないが、黒百合女学院山手校学長が一昨年度に安倍学長に代わり、学内改革で退学追放予定リスト入りしてる女番長グループたち。
黒百合女学院初等部卒業式間近の二月のとある日、学内放送が流れる。
「高等部校長と赤井紫蘭と倉橋しおり、中等部校長と白柳柑奈と牧野菜月、初等部校長と赤井あおいと高田ゆかりと立花美佐は、本館学長室に来てください」
このときには安倍学長に信頼され、名字の「赤井くん」ではなく「あおいくん」と呼ばれていたあおいたちだ。行ってみると
「あおいくんと美佐くんは初等部卒業の中等部入学間近だね。わたしは引き続き本学を創立時の質実剛健清純に戻すつもりだ。そこで本学追放予定リストだが・・・。しかし、この女生徒たちの・・・協力をお願いしたい。立ち直るならそれでいいのだから」
怖いもの知らずは怖いもので、それを知らない、桜の下で真鍋先生とお弁当を食べていたあおいを入学式の日の朝、待ち伏せしていた悪女な女番長グループの彼女たち
しかし、待てども待てども、いつになっても校門にあおいは来ない。
当たり前である。あおいは初等部六年進級の日から、祖父の慎太郎の道場助手で早朝から高齢者太極拳教室に参加し、家で朝ごはん食べては眠くなって学校を休むのはイヤだと、朝ごはんの弁当を持っての朝七時登校してるのだから。
彼女たちが待ち伏せ開始したころには、すでに登校していて、入学式前の講堂脇で、赤井家に下宿のうなと従姉の紫蘭と三人で八極拳や空手に合気柔術の練習をしていたのだ。
そこに、あおいのママ桃子たちが入学式を見に来たから
「今度は帰りに待ち伏せだ!」
しかし、あおいは来ない。当たり前である。初恋相手の遠戚の高等部教師の真鍋に夢中で付き纏ってるのだから。
そして、やっとあおいが現れたと思えば、彼女たちには鬼のように怖い赤井紫蘭が、優しいけど怒ればこれまた強い倉橋しおりが、なぜか一緒に帰っている。おまけに合気柔術してる住吉うなまで一緒だ。
返り討ちに遭いそうだ。
「くそっ!始業式の明日の朝こそシメてやる!」
>> 169
黒百合女学院中等部の始業式の朝、いつものように朝七時登校したあおい。しかし今日は体の軽い不調を覚え、いつもの体育館前や講堂脇の渡り廊下で武術自主練習しての、朝のお弁当しながらの読書や予習ではなく、本館屋上でひなたぼっこしていた。
前日の入学式はあおいが雨女のせいか帰りには雨で、夜は曇っていて暖かい夜だったうえ、さっきから良く晴れて小春日和を通り越して、極めて新陳代謝の良い暑がりなあおいには小夏日和だったため、始業式サボって小一時間くらいは寝坊しても寝ていようと。
入学式を思い出すあおい。それは
🎵静かに神と交わる
朝(あした)の我が一時(ひととき)
新たに朝日の如き心を 我 持たまし
夜の幕 ややに消え行き 日蔭は地に漂う
主(しゅ)のほか 我ただ一人
御声(みこえ)を いざ聴かまし🎵
と、あおいの大大大好きな聖歌で始まった。多分、わたしみたいな初等部からの内部進学組にも、外部小学校からのお受験入学組にも、もちろん、中等部から初等部に一時編入されて仲良しになった入学式二回目のうなちゃんにも、決意を新たに過去に捕われずに頑張れ!の意味なんだろうな・・・。そう思うあおい。
お嬢様嫌いのうなちゃんへの配慮だろうね。中等部の島校長は
中等部ではお嬢様も庶民も貧乏な子も、実力本位です。実力が余りに劣る子は、余りに素行悪い子は、お嬢様でも退学なり落第なり高等部進学拒否なりありますよ!。みたいな喝を入れてたよね。
わたしも頑張らなきゃね・・・。そう思いながらうとうとし始めた、そんなあおいの耳に届いたのは
「今日こそ赤井をシメるぞ!」
本館直近の校門で大声会話は、素行悪い中等部と高等部の問題児グループだが、あおいはそれがまさか自分のことだとは思わない。楽観主義の天然ゆえに。おまけに超気まぐれの超気分屋ゆえに、責任感を感じる必要ない普段の場面のあおいは、分単位で気分が変わるから。
しかし、あおいの睡眠だけは妨げてはいけない。あおいのその怒りに触れたら、超絶に手が早いあおいに殺されかねない。あおいの初等部時代の同級生や先輩後輩には常識のそれを知らない、中等部や高等部からの外部入学組の、その問題児グループは
あおいのその怒りに触れてしまった。一番に気持ちいい、うとうと状態な半分昼寝状態だったあおいを彼女たちは起こしてしまった。
>> 170
黒百合女学院山手校本館前にリムジンが停まっている。それに乗りに来たのは、近県九県ナンバー1お嬢様の梅宮サナ、中等部新入生だ。
サナお付きの運転手が降りて、サナの手から通学鞄を受け取りドアを開ける。入学説明会の日と入学式の日は大好きなあおいとすれ違ってしまい、カネコを見かけ話をしたところ
「あおいちゃんはいつも朝七時登校して体育館前か講堂脇で武術の練習してるの。だから誰かが朝あおいちゃんを一緒に学校行きましょ!って誘っても、たいていはもう学校に来てるから」
それでサナは今日は朝七時に来て体育館前や講堂脇まで歩いたのだが、そこにいたのは、あおいの従姉の紫蘭とあおい宅に下宿のうなだった。
「あおいは今日は練習やめとく!って、どこかに寝に行ったよ」
そう聞いて戻って来たのだ。そして
「ねえねえ早川さん、黒百合はお嬢様学校だからって、あなたこの車を選んでるけど、外から見たら、なんて空気読めない嫌味なお嬢様なんでしょ!状態でしてよ。それにわたくし、ママやお爺さまみたいには偉くないんだから」
「昨日から、わたくし中学生なんだから送迎は要らない!って言ってるのにあなたはそれが仕事だからと。帰りからは普通の車にしてくださいね。やっぱり恥ずかしすぎるわよ」
「そうしてくださらないと、あなたのこと、主人に恥をかかせる運転手!ってお爺さまに、わたくし、言っちゃうかも知れなくてよ。気をつけてね」
「サナさま、それは気がつきませんでした。申し訳ありません。では帰りは他ので参ります。そしてサナさまが新しい学校に慣れるまで、せめて行きか帰りのどちらかだけはご一緒させてくださいませ」
お気に入りの早川とそんな話をしてるサナにも
車内のサナにも
「今朝こそ赤井を捕まえてシメるぞ」
本人たちは知らないが、黒百合女学院山手校の退学追放予定リスト入りしてる、素行悪い彼女たちの声は届く。
「早川、いつものわたくしのスカーフと扇、貸しなさい」
グローブボックスを開きサナに渡す早川。
護身のために四隅にコインが幾つか縫い付けられた、一人歩きしてるときの白いスカーフを首に軽く巻き、鉄扇をポケットに忍ばせるサナは、空手剣道優勝経験者のお転婆さんなのだが。
彼女たちはそれを知らない。
あおいちゃんをシメるつもりなら、わたくし、赦さなくてよ。派手に暴れさせていただきます
>> 171
🎵思いがけない出逢いから
そうよ始まるの わたしの恋がうまれる
光や風が踊って 頬を撫でる 振り向くと
両手 広げ あなたが立ってる
名前を呼び 側に行くわ
遠く消えないで🎵
谷村有美の予感を歌いながら、楽しそうにしあわせいっぱいな表情で黒百合女学院山手校本館前の校門をくぐろうとするのは・・・あおいの親友のカネコだ。
そんなカネコを目敏く見つけ
「あっ!あいつは赤井の連れだよ!」
「何してるのよ!捕まえるのよ!」
そんな邪悪な雰囲気を撒き散らすかのようにカネコを取り囲んだ、素行悪い退学追放予定リスト入りの彼女たち
「てめえ、赤井の連れだろ!。赤井を連れて来いよ!」
「これは先輩方、おはようございます。赤井さんって黒百合には何人かいらっしゃいますけど、どの赤井さんですか?。まさか緑先輩か紫蘭先輩のことですか?。やめといたほうが・・・。赤井元理事のことですか?。それはもちろんやめといたほうが・・・。あおいちゃんですか?。それこそ最悪でますますやめといたほうが・・・。それとも他の赤井さん?」
「初等部でお前といつも一緒の赤井あおいに決まってるだろ!。てめえ、先輩をナメてんのか?。新入生だからと手加減しねえぞ!💢。」
カネコを平手打ちする剣道部らしき竹刀を持った先輩、旧制服のスカーフの色からして高等部だろう。
この揉め事の声は、その前からの声も、屋上でうとうと状態だった、寝不足大魔女のあおいの耳に届いていた。さっきから、本館前で騒いでるのは誰よ!💢状態で、気持ちいい、うとうと状態を邪魔されたあおいが不機嫌な極みの顔で屋上から顔を出す。
「先輩たち!わたし寝てたのにうるさいわよ!。何してるんですかぁ?。まさか高校生にもなって、恥ずかしい弱いものイジメですかぁ?。わたしのカネコに手を出したらゆるさないよ?」
仲良しのあおいが屋上から顔を出したことで、イジメられっ子気質な大人しい性格のカネコは安心する。そして
「あーあ、先輩たち、最悪にもあおいちゃんを起こしちゃった。わたし、知ーらない!。ひとつ教えて差しあげますけど、あおいちゃんは緑先輩の妹で紫蘭先輩の従妹で、赤井慎太郎山手校元理事のお孫さんで、赤井幸一郎中央校理事の娘さんですよ?。先輩たちは外部入学組で知らなかったんでしょうけど。謝るなら今のうちかと」
>> 172
騒ぎに本館屋上から顔を出したあおいは、仲良しのカネコを取り囲んでる、そんな竹刀持って集まってる先輩たちに
「先輩たち!わたし寝てたのに何を騒いでるの?。うるさいわよっ!。まさかぁ高校生にもなって恥ずかしい弱いものイジメですかぁ?。わたしのカネコに手を出したらゆるさないよ💢。それにカネコ、大人しいだけで実は強いからね!」
仲良しのあおいが屋上から顔を出したことで、普段はイジメられっ子気質みたいな、普段は大人しい優等生のカネコは安心する。
「あーあ先輩たち、最悪中の最悪パターンな、寝てたあおいちゃんを起こしちゃった!。わたし知ーらない!。先輩たち、外部入学組で知らなかったんでしょうから教えて差しあげますけど、あおいちゃんはあの緑先輩の妹であの紫蘭先輩の従妹で、赤井山手校元理事のお孫さんで赤井中央校理事の娘さんですよ。謝るなら今のうちかと」
あおいは緑の妹で紫蘭の従妹だと、そうカネコに言われ、自分たちはなんてことをしてしまったんだ!と、一瞬は怯んだ高等部と中等部の素行が悪過ぎて退学予定リスト入りの先輩たち。
しかし中には『怖いもの知らずの極み』みたいな子がいたようだ。
それに今さらどうにもならない。あおいに勝つしか、もはや手はない。そう思ったか、強がって叫ぶ
「緑がなんだ!紫蘭がなんだ!理事がなんだ!。怖くねえよ!。今この場にいないと間に合わねえんだ!。あおいっ!てめえ生意気なんだよ!シメてやるから降りて来いっ!」
「ふーん、このわたしにそゆ事、言っちゃうんだぁ?。わかったから逃げちゃダメよ。行くから少し待っててね」
本館の外にまで音が響く。ちびだけれど瞬発力に優れる、高校生ボクサー並のスピードの猪突猛進のあおいが、中国武術の軽身功をしてるあおいが、階段を踊り場まで一気に飛び降りるを繰り返してるのだ。派手な着地音は威嚇だろう。
激怒を通過し憤怒なあおいは、あっという間に姿を見せ、唖然状態の先輩たちに
「せっかく安倍学長に先輩方とは仲良くしてあげてねって頼まれてたのに。先輩がわたしとやりたいのはケンカですかぁ?。犯罪ですよぉ。前もって言っときますけど、今のうちに謝って去らないと一生後悔しますよ。いいのね?。竹刀なんか持って集まっちゃって、自己正当防衛に人命救助護衛と現行犯私人逮捕の武力行使は合法だからね!💢💢💢」
>> 173
「先輩たちがやりたいのはケンカですかぁ?。竹刀なんか持って集まっちゃって。入学前の春休みの練習、拝見しましたけど、先輩たちのは剣道じゃなく棒道ですよぉ!。それでわたしに勝てるつもり?。紫蘭先輩と違って練習サボり隊なんでしょ?」
「わたし学長に、先輩たちが更正できるよう仲良くしてあげて!って頼まれてるんだけど後悔しないのね?。ケンカって犯罪ですよぉ!。現行犯私人逮捕の武力行使は合法だからねっ!💢💢💢💢。不法に竹刀持って集まってバカですか?」
そんなあおいは見た目は幼く見え、ちびの痩せ体型だ。
寝ていたところを起こされ、親友のカネコに平手打ちした彼女たちに憤怒中ながらも、優しいあおいの最後の善意を、ナメた言葉と受け取った、救いがたい退学追放予定リスト入りの高等部と中等部の先輩たち。
そのうち二人があおいに竹刀を左右同時に振り下ろすが
突進したあおいの震歩彈陽掌の震脚(八極拳の特徴で体重を攻撃に乗せるため地面を激しく踏む歩法)と同時の上段掌打で、右足甲を粉砕され顎を外される。そして一人も震歩探馬掌の震脚と掌打で左足指と鎖骨を同時に折られる。
「先輩たち、わたし思いきり手加減してるのよ?大丈夫ですかぁ?」
そんなあおいに中段突きを入れて来た一人は金剛八式冲捶で当て身され、息も出来ない苦しみにのたうちまわる。
あおいの背後に回り込み竹刀でと動こうとした一人は、隣の一人と一括で二人同時に靠山壁(体当たり)で転倒させられる。
ちびで痩せのあおいだが速すぎる初期加速ゆえに重い攻撃になるのだ。しかも八極拳は体重を瞬間的に攻撃部位に浴びせる、そんな単純原始的な破壊力に特化している。
しかし減らない相手にあおいも多勢に無勢かと思ったころ、停まっていたリムジンのクラクションが響く。
ドアを開けた清純美少女は鉄扇で扇ぎながら涼しい顔だ
「あらぁ?おかしいわねえ。わたくし名門お嬢様学校の黒百合に入学したはずなのに、お集まりの先輩方は手癖が悪すぎるのね。お下品が極まりましてよ」
「あおいちゃんお久しぶりね。生ゴミのお掃除、わたくしもお手伝いさせてくださらない?。楽しそうだもん」
太陽が逆光だけど聞き覚えある声にあおいは
「サナちゃん?。是非お願いいたしますわ」
一瞬にして三人が、舞うかのようなサナに鉄扇で小手や脛を激しく打たれ戦闘不能に
>> 174
サナは愛しのあおいを熱い眼差しで必死に見つめている。黒百合女学院本館の駐車場に停めさせた、お気に入りのお付きの運転手の早川の送迎するリムジンの中から。
あの夏の日、あのときはすれ違っただけだけど、あの酔っ払いのおじさんを電車から蹴り出した、あおいちゃんの物凄いキック見て一目惚れしちゃった。
クリスマスには逢って遊んで貰って大好きになっちゃった。あおいちゃんって、優しくて明るくて面白くて賢くて可愛くて格好良くて。
あおいちゃんを追いかけて黒百合に入学したけど。
大好きなあおいちゃんが闘ってる。
あおいちゃん闘いかたが上手すぎる!。最短距離で全く無駄がないもの。それにあれだけの体格差と人数相手なのに手加減までしてあげてる!。
でも、わたくしの空手や剣道の先生に聞いた、八極拳の欠点らしいものも。そして間合いがやっぱり短いわね。あおいちゃん体が小さいから尚更。
これはやっぱり、お強いお嬢様の中のお嬢様のわたくしの出番ね。あおいちゃんには敵わないんだけどね。
「早川さん、クラクション鳴らして自動でドア開けて!」
言われたとおりにクラクションを響かせドアを開ける早川に
「今から早川さんが見るのは、いつものホワイトなサナじゃなくてナイショのブラックなサナだから早川さん、いつもみたいにママにはヒミツよ。男の人が大嫌いなわたくしが早川さんだけのために投げKISSとしてあげちゃうんだから。約束よ」
そう言いながら早川に、彼すらもたまにしか見られない可愛い表情と可愛い仕草で投げKISSをしたサナ。意を決して車から降りる。
梅のかおりを染み込ませたお気に入りの、梅の老樹の柄の鉄扇を開きつつ。そして護身のために四隅にコインを縫い付けられたスカーフを首から解きつつ、口を開く。
「あおいちゃんお久しぶりね。人間生ゴミ掃除お手伝いさせてくださらない?。だって楽しそうなんだもん」
「サナちゃん、確かにハエがウザいからお願いしますわ」
そんなあおいの返事に
「近県九県No.1のお嬢様の中のお嬢様、わたくし梅宮サナ、赤井あおいお嬢様に助太刀させていただきます。悪者じゃない人はさっさと逃げちゃいなさい。さもないとこうなりますわよ!」
その瞬間サナは舞を舞うかのように、スカーフで目くらましをしながら、一瞬にして鉄扇で三人を打ち据えたのだった。
>> 175
あおいラブな、百合の意味であおいラブなサナが
「近県九県No.1お嬢様の、お嬢様の中のお嬢様、わたくし梅宮サナ、ブラックなサナがあおいお嬢様に助太刀いたします。悪者じゃない人は逃げちゃいなさい!。さもないとこうなりますわよ!」
そう名乗った瞬間、舞を舞うかのようにスカーフで目くらましをしながら、一瞬にして三人の小手や脛を鉄扇で打ち据えるサナ。
その十分前、梅宮家の車を見かけた同じく中等部新入生の千堂敦子、世が世なら彼女はサナのお守役だが、彼女を車内に手招きしたサナは言い含める。
「いいこと敦子ちゃん、今ね、わたくしの大好きなあおいちゃんが待ち伏せされて危ない状況なの。それにあおいちゃんは来てるはずだけど居場所がわからないの。でも騒動はここで起こるの。甘いもの大好きなあおいちゃんは茶話室の近くに来るはずだから」
「それでね、あおいちゃんの従姉の紫蘭先輩とお友達のうなちゃん、あなた、わたくしより先に黒百合に入ってるから判るわよね。二人は講堂そばにいるから、早川にクラクション鳴らさせたら連れてくるの。それが世が世ならあなたの、主人と主人の好きな人を守る仕事よ」
「ただし、ブラックなわたくしをうなちゃんには、まだなるべく見せたくないから、それまでは反応しちゃダメ。うなちゃんのお嬢様嫌いもあなた知ってるはずよね。それも主人の好きな人を守る仕事よ。さあ、お行きっ!」
それから十分、サナはこれは黒百合女学院山手校の反あおいの生徒だけじゃなく、他の学校の生徒が混ざってると判断した。冬制服が変わったばかりなのに、やたらと新制服のがいるのだ。
だいたい黒百合女学院はお嬢様学校、それも名門だから、素行悪いのがこんなにいるはずはないのである。
だから早川にクラクションを鳴らさせ派手に登場したのだ。これはあおいちゃんが強くても頑張れるのは時間の問題と見たのだ。
そんなサナの深謀を知らないあおいは、サナが一瞬にして三人を打ち据えたのを見てニコッとして
「わたし黒井あおいになりまーす!」
腰からベルトを抜いたと思えば、紐の先に鉛玉のついた流星錐だった。
「サナが自分の禁じ手公開しちゃったから、わたしも見せてあげちゃう。目に当たると失明ね🎵。たぶん狙わないけど嫌ならさっさと去れっ💢」
あおいは三人の脛を遠間から打ち据える。
>> 176
「わたし赤井あおいから黒井あおいになりまーす!」
ニコッと笑顔を見せたが、あおいが本性の悪魔に変わった瞬間だ。お友達のサナが味方してくれて、舞うかのようにスカーフで目くらましをしながら、あっという間の瞬間に三人を打ち据えたのを見て
わたしも手加減やめるわ!アホらしい。わたしの優しさを無にしてくれちゃって!と本気の本気でキレた瞬間だ。
スカートからベルトを抜くあおい。そう見えた。しかしそれは、帯状態に束ねた組紐の先に銀の玉、いや、鉛玉のうえにアクセサリーに見えるよう、銀をコーティングし猫を彫り込んだ流星錘。ゲーム感覚で遊びながら自然に身につけた、中国武術の暗器つまり隠し武器だ。
紐の先の鉛玉を振り回し遠心力加速をつけながら
「これは痛いわよ。目に当たると失明ねっ🎵。嫌ならさっさと去れっ!💢💢💢。わたしこれ得意だけどぉ、たまには外れてお目々に当たっちゃうかもぉ」
「あなたたち、安倍学長の書いた黒百合の退学追放リストに名が記されてるの。かわいそうだから今までのあなたたちの悪行、気づかないふりしてあげてたのにさ。もうわたしマジ切れたからね」
あおいはあっという間に遠間から三人の脛を打ち据える。そして紐を絡め一人の竹刀を奪い取る。
飛び道具をあおいが取り出しただけじゃなく、極めて高い命中率を見せつけられた、高等部と中等部の追放予定リスト入りしてる、悪な先輩たちはパニックになる。
竹刀では流星錘の紐は切れないし、仮に紐や玉を打ち落としても、その瞬間に素手で殴り倒されるのは明白だ。あおいの信じられぬスピードでは。
さらに悪いことに、あおいに助太刀している、サナと名乗るあおいのお友達らしき見知らぬお嬢様、あおい並に強いのだ。瞬く間に三人を鉄扇で打ち据えている。
もはや逃げ出したい彼女たち
「だから赤井家に手を出したらいけなかったのよ!。あおいがこれだ。緑や紫蘭に見つかったら・・・」
とか言い出してる気弱な子も出てくる
「ば、バカ!。中等部も一年生、しかも入学してすぐの、こんなちびっ子にやられるわけにはいかないだろが!。てめえ行けよ!」
悪グループ高等部三年生のリーダー格だろう、数人を無理矢理にあおいやサナの前に押し出し、戦わせようとする
「不要犹豫 打架!」
どこからか女の声がする。
皆が声の方を向く。紫蘭だ。
>> 177
もはや逃げ出したい彼女たち
「だから赤井家に手を出したらいけなかったのよ!。一番ちびっ子のあおいがこれだもん。もし緑や紫蘭に見つかったら。それにサナとか言う助太刀してるコイツ強すぎる!」
「ば、バカっ!。中等部一年生それも昨日入学したばかりの、おまけにこんなちびっ子に高等部が負けるわけにいかねえだろ!。お前ら行けよ!」
悪グループのそれも高等部三年生リーダー格だろう、数人を無理矢理に押し出し、あおいと戦わせようとする。が
「不要犹豫 打架!」
どこからか女の甲高い声がする
声の方を振り向く皆。立っていたのは
悪グループが怯えている紫蘭、あおいの従姉だ。
悪な彼女らには、そしてすでに来ているかもな先生たちには、気づかれぬように中国語を使ってるのだ。赤井家は中国武術道場もしてるから皆が中国語達者だ。
「あおい!手加減するな!。この際はとことんやれ!」
そういう意味を言ってるのだ
頷くあおい。あっという間に二人を打ち据えている。紫蘭が姿を見せ、あおいが手加減なく二人を打ち据え、もはやパニックの彼女たちは逃げ散らかるが
「どこにお急ぎですの?鮎川さんたち。まだ遅刻する時間じゃなくてよ」
通せんぼするのは、あおいを妹同然に可愛がってる倉橋しおりだ。
別の方向では
「桧山先輩、わたしのあおいちゃんによくも手を出したわね」
マジ切れ状態の住吉うなが道をふさぐ。あおいの同級生のあおい七人組、初等部リーダー格だったのが揃っている。
そして、本館駐車場に停まっていたロードスターからは、高等部校長に元理事の祖父慎太郎からの手渡し物に来ていた、この騒動を最初から見ていた、あおいの姉の黒百合大学部の緑が
「紫蘭!」
そう叫ぶと同時に黒い棒らしきものを投げ渡す。
受け取った紫蘭は目にも見えないかの早さの抜刀で、リーダー格の天野早百合の、紫蘭に向け構えた竹刀を真っ二つに斬り落とし鞘におさめる。
「あんたたち体調悪くて寝ていたはずの、わたしの従妹のあおいをよくも騒ぎに。もはやあんたたち、ゆるされないわよ!」
「この追放予定リスト見なさい。あんたたちの名前しっかり記されてるわよねえ。わたしもしおりもあおいも含めて当時の高等部中等部初等部リーダー格は学長からあんたたちのこと頼まれてたのよ。立ち直らせてくれ!って。それを・・・」
>> 178
「紫蘭!」
そう叫んで自分の刀を投げる緑。受け取った紫蘭は、従妹のあおいに売った喧嘩に負け逃げ出す、そんな天野早百合が構える竹刀を抜き打ちざまに一刀両断に斬り落とす。
その30分前
「ねえ中田校長、あの子たちわが妹のあおいに勝てる気なのかしら。おバカさんね」
「あおいちゃんの試合も見たことあるし、あの子たちじゃ無理でしょうね。それにあの子たちあおいちゃんに実際に手を出したら退学ね」
本館前の駐車場に停められたロードスターの中でそんな話をしてるのは、黒百合女学院山手校高等部の中田真紀子校長と高等部OGで黒百合女学院大学部の緑。
中等部入学式が無事に終わったのと新学期準備が出来た打ち上げで、本館茶話室でささやかな、新年度頑張りましょう呑み会をしていた中等部の先生たち。小腹が空いたのを覚え茶話室の自販機にカップ麺を買いに来た中田高等部校長は、中等部の島校長に呑み会ご一緒しませんか?と誘われたのだ。
お酒に弱いのを自覚する中田校長はすぐに切り上げ、校長室で仕事を再開したものの、気付けば机に突っ伏して眠ってしまい。朝が来て校内を散策してると、教え子だった赤井緑が車から降りるところで、中田校長にとってはかわいい生徒だった緑に
「どうしたの?こんなに朝早く」
そう聞けば
「あおいが弁当忘れてるから届けようとしたら、祖父にこれを言付かりました」
そう緑から風呂敷包みを渡されたのだが
「今朝こそ赤井をシメるからな!」
そう話す悪グループの声が聞こえてしまい
「緑さん、車に乗せて」
それから30分。
「黒百合の生ゴミさん、さっさと歩いてね」
「てめえもだよ!わが二葉女子の有害ごみめが」
黒百合女学院高等部の山添真央と二葉女子高等部の井上瑞樹を引きずるように連れて来る倉橋しおりと赤井青蘭。青蘭は紫蘭の双子だ。
「青蘭、よく捕まえたわね」
「紫蘭、こいつらアホだからね」
へたり込む二人の前にしゃがむ紫蘭
「山添と井上、わたしらが入れ替わってたの気づいてないでしょ。アホが闇討ちなんて無理なのよ。てか山添、あんたのお気に入りの子は大分前からこっち側で筒抜けだったの」
「あんたら黒百合側は退学になるからね。ほれ、安倍学長作成の退学予定リスト。心入れ替えるチャンスあげたのに、安倍学長お気に入りのあおいを襲ったら駄目でしょ」
>> 179
首謀者、山添真央と井上瑞樹を連れて来る、紫蘭の双子の赤井青蘭に倉橋しおり。くずおれる二人の前にしゃがむ紫蘭。
「山添、ほれ、安部学長作成の退学予定リスト。学長お気に入りのあおいを襲ったらもう駄目でしょ。黒百合山手校学生会総代のわたしもゆるさないから、もう居場所ないわよ」
「井上、あんたも二葉女子で無事では済まないわよ。高額寄附のわが赤井家に盾突いたんだからさ。おまけにあんたら、梅宮サナちゃんを結果的に巻き込んだよね?。二葉女子は梅宮家の地元で梅宮家の寄附も相当あるはずだもんね」
「青蘭、二葉女子のこいつ、あんたに任せるわ。あんた二葉女子だもん」
「えー!。紫蘭、わたしこんな有害ゴミ、関わりたくなーい!」
紫蘭と青蘭の双子同士の会話の中、偶然だが一部始終を見ていた中田真紀子高等部校長が
「山添真央さん鮎川ひかるさん桧山円さん以下、山添グループの子は校長室にいらっしゃい!。退学前にせめてもの哀れみできつーいお説教してあげます!。二葉女子の井上さんたちもね。赤井青蘭さんは紫蘭さんと遊んでてもいいわよ」
一方そんな中で人目を気にせず、あおいとサナは抱き合い再会を喜び合っている。
「サナちゃんゴメンね。入学説明会でも入学式でもサナちゃんを見つけられなくてゴメンね。外部入試、合格してたのね!。おめでとう!それと助太刀ありがとね!。やっぱりサナちゃん強い子ね、大好き!」
「ううん、あおいちゃん!、わたくしもあおいちゃんとすれ違ってしまってごめんね!。お願いっ!わたくしもあおい七人組に入らせてね。去年のクリスマスからわたくし、ずっと、ずっと、あおいちゃんに逢いたかったの!好きだったの!」
うなは二人のそれを複雑な思いで見ている。うなも、これまた百合の意味であおいちゃんloveだから。
「何さ、あおちゃんはわたしの想いには気づいてくれないのに💢」
いやいや、あおいは百合ではないからサナの
「あおいちゃんに逢いたかったの!好きだったの!」
は、お友達の意味で「逢いたかったの!好きだったの!」と思ってるし、数日前のうなの百合カミングアウトの言葉
「あおちゃん!わたしというイイ女がいながら、なんで男と付き合ってんの」
も、お友達の意味で「うなちゃんはイイ女」だよね!なのだが。
ーーー中等部編 入学式の時間 完ーーー
やっと中等部入学編を書き終えました。実は以前にミクルのほうで書いていた、この黒百合女学院中等部シリーズは、これのプロトタイプみたいなものですが、初めは『みんなで記す恋物語』にする予定でした。参加者極少でしたけど。
その中に参加して下さってました、最初期版のレス2さんの書いて下さった、サナのキャラですが、実在の人物に酷似でしたので、こちらでも引っ張って出場させてますが
実はですね、こちら、おとなチャンネルのほうの黒百合女学院中等部の主要キャラのサナには、梅宮サナと住吉うなの実在の二人分のキャラを混ぜてました。(もちろん個人特定出来ないよう書いてます)
でも先日、某市に仕事で出張しましたとき
わたくしの実在の同級生のうなちゃん、その某市に嫁いでる彼女に久しぶりに会いまして、うなちゃんからクレームが
サナがいるのにわたしがいないのは何でよ?と
書いてもいいけど、うなちゃんの黒歴史に触れちゃうわよ?
それでもいい!楽しかった思い出だから?
それで初等部編の初等部卒業物語からうなを書いてます。クレームくるかな?って思いつつ、うなの落第エピソードを書きましたが
むしろ懐かしかった!と。
これからはサナとうなを二人に分けて書いていきたいな!と思いながら、気まぐれなるわたくし、いつまで続くことやら・・・リアルのわたくし、塾・道場と会社の経営者で多忙ですし。
でも最近は読んでくださる方々も増えたみたいで。頑張りますね。
面白いものには共感くださると励みになります。共感くださった方々、ほんとうにありがとうございます。それにわたくしの端末に出てる表示では6000ヒットまで僅か。予想を遥かに遥かに遥かに上回っていてうれしいです。
誤字誤変換だらけ、かつ文才も画才もない文章未熟なわたくしなのに、お読みくださり、ありがとうございます!。
次は
次は
《皐月の五角関係 中等部一年生の初夏の時間》
を予定しております。
>> 181
《皐月の五角関係 中等部一年生の初夏のじかん》
これまでのこれから?の登場人物説明。物語はそれからね。
赤井あおい
主人公。現在12歳の黒百合女学院山手校中等部一年生。遠戚で高等部教師の、一回り年上の真鍋瞬お兄ちゃんが大好き。八極拳と劈掛拳そして流星錘が得意。いたずら大好きなお転婆だが、結構な部類のお嬢様である。
真鍋瞬
あおいの遠戚かつ脳内彼氏で、緑の婚約者で、藍子の生まれながらの許婚。黒百合女学院山手校高等部教師。八極拳と空手の先生でもある。宇宙人顔だが整っており誠実でユーモアあるモテ男で、欠点は小柄と優柔不断。バレンタイン生まれゆえバレンタイン恐怖症。
赤井藍子
あおいの長姉。現在は幽霊活動中。
赤井晋太郎
赤井家当主。あおいと緑たちの祖父。黒百合女学院山手校の元理事。現在は道場と塾それに会社の経営者。黒百合女学院山手校の安倍学長は元生徒。
赤井紫蘭
あおいの従姉。黒百合女学院山手校高等部。真面目っ子だが性格はヤンキーが入っている。八卦掌と刀術が得意。高等部二年生ながら黒百合女学院山手校学生会総代。赤井春子は母。
赤井青蘭
紫蘭の双子妹。二葉女子大高等部。武術はしてなくても運動神経がいいので強い。
赤井貴志
あおいの兄。家業を継ぐのから逃亡し官僚に。
赤井幸一郎
あおいの父親。ギャンブルをやめられないダメ男だが優しく気遣いは上手。若いときは県内無敵だった。道場や塾の先生してるが水が怖いカナヅチおじさん。黒百合女学院中央校理事。お酒は一滴もダメ。
赤井緑
あおいの姉。黒百合女学院中央校大学部。趣味はイケメンハンターとエロコスプレにエロ同人執筆で、これがあおいの頭痛と悩みの原因。真鍋瞬は婚約者。八極拳と空手に羅漢銭が得意。かなりの武勇伝がある。
赤井桃子
あおいの母。怒ると鬼母と化す。元パティシエ
安岐晶
あおいの遠戚かつ元生まれながらの許婚。実は女の子。あおいと同い年。赤井家が武家時代の主君筋。
青井剛
あおいに恋するあおいの幼なじみ。黒川学院中等部一年生。特技はスカートめくり。別名がレコード男。あおいに恋する唐沢雪穂の従兄。みずきとちはるの想い人。
安倍幸太郎
あおいを信頼する黒百合女学院山手校学長。
梅宮サナ
あおいに恋する黒百合女学院山手校中等部一年生。近県九県No.1お嬢様。ブラックサナになるとかなりお転婆。
>> 182
石内歩美
保健室の先生。超巨乳ゆえ通称おっぱー先生
植竹桂
黒百合女学院山手校(以下省略)高等部教師。真鍋瞬を実習生時代に指導。
春日井まなみ
倉橋しおりに百合の意味で憧れる女の子。中等部二年生。
栗山ちはる
あおい七人組。あおいの幼なじみの青井剛くんが大好き。中等部一年生。
倉橋しおり
あおいの脳内の姉。下級生の皆に優しい先輩。高等部二年生。まなみが百合の意味で憧れる人。実は空手得意ゆえ怒れば怖く強いが、温厚で怒らせるのは困難。
黒木良枝
中等部風紀担当教師で黒百合いちばんの鬼教師。あおいたちの天敵。父の一郎は黒百合女学院総理事長
高月杏樹
あおいの同級生
小桜歌子
初等部元教師で現中等部教師。失語していたあおいが喋られるようになったきっかけの先生で、住吉うなの元担任。松田桐男を実習生時代に指導した。
真田護
初等部校長
柴田あゆ
あおいの同級生。
島大輝
中等部校長
白井理子
住吉うなの合気柔術の先生。
白柳柑菜
あおいの仲良し先輩。中等部二年生。
住吉うな
あおいを百合の意味で好きな女の子。あおい七人組に最近参加。人見知りゆえ中等部一年生は二回目。大の(高慢な)お嬢様嫌い。合気柔術が得意。住吉和恵はママ。
諏訪野みずき
あおい七人組。中等部一年生。あおいの幼なじみの青井剛くんが大好き。
千堂敦子
中等部一年生。世が世なら梅宮サナの守役。
高田ゆかり
あおい七人組。初等部の松田桐男先生が大好き。中等部一年生。実は初等部を次席卒業の優等生。おとなしいが待った先生への恋路でたまに周囲が見えなくなる。実はお嬢様。
立花美佐
あおい七人組。あおいとはイタズラ仲間で遠戚。中等部一年生。中等部二年生の後藤亜希に百合の意味で好かれてる。実は元子役の元モデルのお嬢様。
中田真紀子
高等部校長。あおいの姉の緑と従姉の紫蘭の理解者。
松田桐男
初等部教師。ゆかりの想い人。通称は待った先生。あおいとは犬猿の仲。真鍋瞬の親友。
真鍋勝兵
あおいの脳内彼氏の真鍋瞬の父親。真鍋外科院長。
桃井カネコ
あおい七人組だが唯一の良識派。貧乏だが学力極めて優秀で、初等部首席卒業の中等部一年生。高校生並にグラマーだがエロ知識は全くなくあおい組が純潔培養中。
渡忠人
底無しの酒豪であおいの祖父とは八極拳で師兄弟。
次レスから物語開始。
>> 183
んふ・・・んんっ!・・・だ、ダメ・・・
ンふぅん・・・くぅうん!・・・
だ、ダメよぉ・・・だ、だ、ダメなんだからぁ・・・
わたしまだ中学生なのに・・・えっちなこと・・・
わたしまだ12歳なのに・・・こんなことしちゃダメぇぇぇぇ
ドアのガラスの向こうに、鞄とビニール袋を手に下げた男性。磨りガラスでも人影が室内に写るはずだが、でも部屋の主は気づかない。その男性は小柄だ。歳も若い。つか男性にしては幼いし童顔。
女性の部屋だと意識したのか、彼は遠慮がちにドアをノックする。が、これが初めてではないようだ。そんな彼はまだ中学一年生の黒川学院中等部の青井剛くんだ。
「なあ、入っていいか?開けるぞ」
一方、部屋の中では、いや、布団の中では
「だ、ダメっ!。ちょっと待って!お着替え中だから!」
そう言いながらお布団の中で慌ててパンツを履くあおい
ではなく
今のあおいはパンツ履きたくても履けないのだが
中等部の白柳柑菜先輩に借りたコミックを隠すあおいがいた。
別にえっちなことはしてないが。てか、まだ自分で自分には生まれて一度もえっちなことはしたことないのだが。いくら姉の緑がエロ同人を執筆していても、ここまでえっちな本を読んだのは
生まれてはじめてで
表紙のキャラの可愛いらしさと面白そうなタイトルに釣られて借りたのだが、ついつい夢中で読んでいると、内容がだんだんとエロくなり・・・それも焦らすような、かなりのスローモーションで。
それで激しいえっちなシーンまで、ついつい読んでしまったのだ。
それで慌ててるのだ。まだまだ12歳。えっちは自分で自分にを含めて未経験でも、えっちな本を読んでたのが男の子にバレたら恥ずかしいのは、それは何となく知っているあおいだ。
そして寝間着みたいに着ていた浴衣型のパジャマ?を、さも、いま着替えたばかりかのように、一度ひもを緩め乱して整えながら
「入っていいわよ!」
ドアを開けるなり剛くんは
「よお!あおい!また懲りずに来てやったぜ!」
「ほれ、お前の好きなゲーム」
そう言いながら小型ゲーム機を投げ渡しながら
「桃ジュースと蜜柑ジュースどっち?」
『わたし、桃がいい』
「じゃあ、ほれ!」
彼が投げ渡したあおいの大好きな桃ジュースは、自動販売機サイズではない、少しビッグサイズなものだ。
>> 184
「あおい~パン・・・あんたの大好きな、何だったか、あのお店のあんパンね、買ってくるの忘れちゃった」
剛くんの閉め忘れたドアと言っても引き戸だが
そう言いながら入って来た青蘭、本当は
「あおい~あんたのパンツとか持って来たよ!昨日忘れてゴメンね」
そう言おうとしたのだが、椅子に腰掛けてあおいと話してる剛くん、あおいに恋心の剛くんが居るのに気づいて、あおいにも剛くんにも気を遣ったのだが
「もうっ!、青蘭お姉ちゃんは忘れん坊なんだからっ!。いまから売店のでもいいから買ってきて!。ウエスト50よ!」
なんて、もし剛くんが女の子とくに小学生サイズの下着に詳しい男なら、今ノーパンか?そう気付かれそうなヤバい発言をする。
「ゴメンゴメン。すぐ行くから。とりあえずあんたのお小遣い、桃子おばちゃんに預かったの渡しとくね。馬鹿みたいにテレビとか漫画ばかりに遣わないのよ。まあ、あんたは無駄遣いしない子だけどね」
「うるさーい!さっさと行けえ!。あそ・・・・この売店のお団子も美味しいから剛くんに忘れないでね。買ってあげて」
つい「あそこを見られたらどうすんのっ!」
そう言いかけたあおい。ダメダメ、剛くんの特技はスカートめくり。穿いてないのがバレたら剛くんのことだから・・・。まさか優しい正直で誠実な剛くんが今のわたしにそんなこと、絶対にするはずないんだけどね。
それに一昨年までお風呂、ときどきわたしと一緒で剛くん、わたしの多分に見慣れてるし。いや、男の子だから絶対に見てる
そう思うあおい。そう思いながら恥ずかしくなる。
でも半面、剛くんをそう意識すると、剛くんは最近は男の子らしく逞しくなっていて、なんだか初等部時代と違い頼もしい。あの話、剛くんに相談してみようかな。
いやいや剛くんは正直すぎるから。
そう、彼の別名はレコードくん。今までイタズラがバレたあおいたちを、正直者の信条を曲げてまで庇ってきてるのだが、正直すぎるから、きつく問い詰められたら結局、ありのままにリピートしてしまうのだ。
それでも、あおいの内面の秘密は彼は口は堅かった。あおいが誰に怒ってるとか、誰を嫌ってるとか、誰を好いてるとかは口は堅かったから、あおいも
「ねえ、剛くん椅子に座ってないで、ここに座ったら」
そう言いながらベッドをポンポン叩く。ここに来て!と。
>> 185
「ねえ剛くん、離れて椅子に座らずにここに来ない?」
そう言いながらベッドをポンポン叩き、剛くんに「おいでよ!」と手招きするあおい。実はあおいも剛くんには好意はある。ただ剛くんより真鍋先生がキラキラして見えるだけだ。
もちろん真鍋先生のスキンヘッドが迷惑なほど光って眩しい意味ではない。
真鍋先生つまり瞬お兄ちゃんがいなければ、今ごろは剛くんに夢中になっていたかも、なのだ。それは剛くんに比べ瞬お兄ちゃんが完璧なモテ男すぎるだけだ。
あおいが好きゆえに少し照れる剛くん。それでも今のあおいは・・・と言われたとおり素直にあおいのベッドに腰掛けるが、手と手が触れ合ってしまう。
意識してしまう剛くん。
あおいも意識してしまう。
そこに廊下を走るスリッパ音が。
「ここは学校の廊下じゃないんですよ!走らないで!」
そんな声の後にあおいのいるお部屋に飛び込んだ紫蘭。
「あおい、青蘭来なかった?。まあ、いいや。これ青蘭が忘れて行ったあんたの下・・・あ、剛くん来てたのね。ありがとね」
「剛くん、黒川の中等部になって部活で忙しいかもだけど、これからもあおいの優しい友達でいてあげてね。黒川学院は部活熱心だから大変ね」
剛くんのあおいラブを知っていて理解してるあおいは気遣うのだが、これが女の子との初恋片想いの剛くん
さっき、あおいの手に触れてしまい
あおいを女の子と改めて意識しちゃった剛くん。
あせって、慌てて、照れて、恥ずかしくて
「お、おオ、オレちょっとトイレ行ってくる!」
「あおい、今のうちにこれ、パンツ履きなさい。」
お部屋の戸を閉める紫蘭
「体拭く?」
「ううん、汗かいてないし剛くん来てるから。待たせたら悪いし。ママか緑お姉ちゃんが来てからでいい。匂わないでしょ?臭ってる?」
「ううん、大丈夫。あ、キャミソールかTシャツ着る?」
「暑いからいい。お布団あるし。まだまな板だから誰も見ないよ。そう言えば、緑お姉ちゃんも紫蘭お姉ちゃんも青蘭お姉ちゃんも胸ないよね。まな板な家系なのかなぁ?」
「どうかしらね。でもあんたのママ、桃子おばちゃんは巨乳じゃん?。あんたはその遺伝子の可能性あるわよ。あ、でも藍子お姉ちゃんは真っ平らだったから。でもいいじゃん、巨乳で痴漢されるよりさ」
- << 188 誤訂正を訂正 186の二段落の中程の ❌剛くんのあおいラブを知っていて理解してるあおいは気遣うのだが~ を ⭕剛くんのあおいラブを知っていて理解してる紫蘭は気遣うのだが と訂正いたします。ごめんなさいねm(._.)m。
>> 186
「紫蘭お姉さん、いいですか?」
トイレから戻った、いや、あおいを改めて女の子と意識しちゃった照れた状態から戻った剛くんの声が戸の向こうからする。
「いいわよ」
紫蘭があおいの代わりに答える
「じゃあ剛くん悪いけどわたし、あおいと緑お姉ちゃんの代わりにおじいちゃんの道場助手に行かないといけないから、あおいをお願いね」
それを口実に剛くんに気を遣って帰る紫蘭。
「あおい、青蘭が来たらね、まあいいや。うんにゃ良くない。あの子って勉強が残念だからね、遊び歩かずさっさと帰って勉強しろ!ってわたしが言ってたって伝えてね。じゃあまた明日ね」
「お疲れ様でした」
帰る紫蘭にそう挨拶する剛くん
改めて、あおいのベッドに腰掛ける剛くん。あおいは剛くんの眼をじーっと見つめている。真剣な顔だ。そしてポツリポツリ
「あのね、剛くん」
「あのね、剛くん、わたしね」
「あのね、剛くん、わたしね実は好きなの。でもぉ」
そうたとだどしい、ポツリポツリでも真剣な顔。そして眼を閉じたままのあおい。
えっ?。まさか、あおいが俺に告白?。まさかぁ
そう思いながらも、あおいはなかなか次の言葉が出ない。
これはあおいから俺に告白か?。キスのおねだりか?。俺、ついに恋敵の真鍋に勝ったのか?。そう思うものの、さっきあおいと指と指が触れ合ったため、意識しまくり状態で照れ極値の焦りまくりの剛くん
単にあおいは悩み相談するために言葉を選んでるだけなのだが。そうとは思えない剛くん、こんな真剣モードなあおいは見たことないから。それで
あおいに今日、俺、告白されちゃうのか?。そんな焦りで
「あおい、ごめんな。俺、はじめてだからこういう時、どうしたらいいか良くわからないんだ。でもお前が大切なんだ。だからいいけど、頼むっ!、はじめてだから痛くしないでね」
なんて恥ずかしい勘違いを述べる剛くん
「え?。どゆ事?。何の事?。どーゆー意味?」
わけわからない状態になり、改めて眼を開き
改めて眼を開き剛くんを見つめるあおい。
「あっ!そう勘違いしたのね」
剛くんに申し訳ないと思うのに、ついつい吹き出して笑いが停まらないあおい
「剛くん、ゴメンね」
「あのね剛くん、はじめてで痛いのは女の子だけなの」
「男の子はねお○ん○んが○○でない限りはじめてでも痛くないはずよ」
>> 188
「男の子はね、おち○ち○が○○な○○じゃない限りはね、はじめてのときは痛くないのよ。痛いのは、しりもちとかのケガじゃない限り、はじめてな女の子だけなんだから」
そう言いながらも、込み上げてくる笑いを押さえられないあおい。かれこれ10分は笑いつづけてる。これと言うのも
剛くんをしばらく上目遣いで見つめ、眼を閉じて、たどたどしく
「剛くん・・・あのね・・・わたし・・・好きなの・・・」
そう話し始めたあおいに勘違いした剛くんが
照れと恥ずかしさの極値のあまり混乱し
「俺、初めてだからどうしたらいいか、わからないんだ。頼む!痛くしないでね」
なあんて恥ずかしいセリフを言ってしまったせいだ。
「ハハハ・・・ごめん・・・ハハハ・・・お腹痛い笑いが停まらなーい・・・」
そう笑いつづけてるあおい
なぁんだ俺に告白じゃなく、真鍋さんへの恋路の悩み相談したかったなのか。紛らわしい奴。でもさ、俺はあおいの笑顔が好きだからさ、アウトオブ眼中でさみしいけど、今は応援してやろう。今のあおいは怪我人だから。
「あのさ、あおい。俺、昔よくお前のスカートめくってただろ?。あれな、お前に構って欲しかったからなんだよ。好きな人や感心ある人に構って欲しいのは、普通だと思うよ」
「お前だってよく俺の被ってる帽子とかおやつとかさ、奪い取っては逃げるいたずらしてたけど」
「お前と俺、相変わらず仲良しじゃん。真鍋さんだって他人じゃないんだし、もともとお前の遠戚の幼なじみなんだしさ、お前の悪ふざけ程度で嫌いになったりしないはずだぜ。何てったって、お前と真鍋さん、赤い糸どころか鉄の鎖で繋がってるじゃん?」
「それよりあおい、外歩いてみねえか?。五月晴れで気持ちいいぜ」
「そうね、うん、歩いてみたいな。それより剛くん、わたし先にトイレ行きたい。車椅子に載せてくれる?」
「仕方ねえなあ。お前、太ってねえだろうな」
「それは大丈夫よ。わたし新陳代謝が良すぎるから、太りたくても食べたものが消えちゃうんだもん。おまけにここは食事が・・・」
あおいを抱き上げて車椅子に移す剛くん
「ねえ、お姫様抱っこ状態だね。キスしてくれないの?」
イタズラなセリフをいうあおい
「えっ?。オマエ、今、なんて言った?」
バランス崩す剛くん
「きゃっ!。痛ーい!!。剛くん、大丈夫?」
>> 189
「ねえ、お姫様抱っこ状態だね。わたしにチューしてくれないの?。剛くんならわたし、いいのよ」
ベッドから車椅子に移そうと抱き上げた剛くんに、イタズラなエロ発言するあおい。剛くんはうろたえてしまい、足がもつれて転んでしまう。
「きゃあ!。い、いっ、痛ーい。ふ、ふざけてごめんね。剛くん大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。それよりあおい、おまえは?」
しかしその弾みでパジャマというか、浴衣タイプの病室着から、あらわになるあおいの白い太ももと淡いブルーのパンツ。そして剛くんの右手は、あらわになったあおいの膨らんでもない胸に、左手はあおいの太ももというよりパンツの上に
「ご、剛くん、どこ触ってんのよぉ!。それに戸が開きっぱなしだよ。恥ずかしいから早く車椅子に乗せて。漏れちゃう!」
そこに廊下から入ってくる見舞い客たち。あおいの同級生や先輩後輩たちだ。
さっき、遠い小さなキャピキャピ声は聞こえていた。悪いことに、それが今、このタイミングで顔を見せる。
「ヤッホーあおい!。また来ちゃったぁ!」
そう言いながら最初に顔を見せたのは、黒百合女学院山手校の初等部六年生総代だったあおいに代わり、中等部一年生のリーダー格になりつつある、あおいに片恋の梅宮サナだ。
サナの眼には、剛くんが怪我人のあおいを、無理矢理に押し倒しているようにしか見えない状態。怒りが込み上げてくるサナ。
ツカツカと剛くんに歩み寄り胸倉を掴む。そして
「お兄ちゃん!あおいお姉ちゃんになんてことを!」
「なんで男のくせにわたしの憧れの女の子を押し倒してんの!」
と叫んでるのは、剛くんの従妹の雪穂だ。
賢いサナは、自分の百合の趣味は辛うじて冷静に隠し、同じくあおいラブな同級生のうなが剛くんに詰め寄ろうとするのを、肩を叩いて我に帰らせる。そんな二人に代わって剛くんの胸倉を掴んで叫んでるのは、剛くんの従妹の唐澤雪穂だ。
喧嘩に負けそうで泣き出した幼い子がよくやる、肩関節を中心に拳を縦回転でグルグルな、そんな連続パンチを剛くんの胸元に繰り返す雪穂。
たまらず逃げ出す剛くん。追いかける雪穂。
「黒百合の初等部の子は相変わらず元気だねえ」
そう言いながらも、雪穂をはじめ、あおいファンクラブな初等部の子たちが剛くんを追いかけるのを見送る、中等部の見舞い客たち。
「美佐、わたしトイレ行きたい」
- << 192 「美佐、わたしトイレ行きたい」 車椅子のあおいとトイレに行く美佐。あおいほどちびっこではなくても、美佐は小柄であり、体格的にはカネコやみずきのほうが適役なのだが やはり美佐はあおいと曾祖父を共有する遠戚なのだ。年頃の女の子のあおいとしては、カネコが親友とは言え、やはり恥ずかしく、みずきも親友とは言え、切り出しにくい話があり・・・ 身障者トイレの戸を開く美佐。あおいに杖を渡し、便座に座るのを手伝い、中のプラスチックなアコーディオンカーテンを閉める。 「美佐ぁ、あのね、わたしさっき剛くんに告白されちゃった。どうしよう・・・確かに剛くんは正直だから好きなのは好きなんだけどね。みずきとちはるに悪いよね?」 「剛くんね、瞬お兄ちゃんとの仲を相談してるのにさ、わたしが剛くんに告ったと勘違いしてからに(笑)。」 「俺初めてなんだ!痛くしないでね!トカナントカ言ってたのは、それはつまり・・・剛くんがわたしと初めてのそれをしたかった!って意味としか」 「剛くんは好きだけどさ、ちょっと意味が違うのよね。信頼できる幼なじみってより、守ってあげたい弟?。つか、家来だもんね。同い年の剛くんを大人の瞬お兄ちゃんと比べたら悪いんだけど、ガキじゃん(笑)」 「でもさぁ、これ剛くんラブなみずきとちはるには言いにくいよね。二人に黙ってるわけにもいかないし、後でバレたら誤解の元になるもんね。どーしよう?」 「そーねえ、わたしなら黙ってるけど、あおちゃんは嘘が苦手だもんね。みずきはともかくちはるは思い込み激しいからね、勘違いされない近いうちに言ったほうがいいかもね。わたし協力するよ!」 「大丈夫よ!。あおちゃんは隠し事しないし嘘嫌いだし、瞬お兄ちゃんに一途なのはみんな知ってるんだから!」 「やっぱり美佐は頼りになるなぁ!。ありがとね。あとね、今日はサナの誕生日だから一緒にお祝いしてあげよーね。サナは仲間になって間もないんだし。それとわたしが学校戻るまでサナをお願いね。お嬢様過ぎて世間知らずだもんね。」 そう、姉の緑にケーキを買いに行かせたのを切り出すあおい。幼稚部年少から姉妹のように育った美佐は、今のあおいには頼るべき良き親友なのである。
>> 190
「ねえ、お姫様抱っこ状態だね。わたしにチューしてくれないの?。剛くんならわたし、いいのよ」
ベッドから車椅子に移そうと抱き上げた剛くん…
「美佐、わたしトイレ行きたい」
車椅子のあおいとトイレに行く美佐。あおいほどちびっこではなくても、美佐は小柄であり、体格的にはカネコやみずきのほうが適役なのだが
やはり美佐はあおいと曾祖父を共有する遠戚なのだ。年頃の女の子のあおいとしては、カネコが親友とは言え、やはり恥ずかしく、みずきも親友とは言え、切り出しにくい話があり・・・
身障者トイレの戸を開く美佐。あおいに杖を渡し、便座に座るのを手伝い、中のプラスチックなアコーディオンカーテンを閉める。
「美佐ぁ、あのね、わたしさっき剛くんに告白されちゃった。どうしよう・・・確かに剛くんは正直だから好きなのは好きなんだけどね。みずきとちはるに悪いよね?」
「剛くんね、瞬お兄ちゃんとの仲を相談してるのにさ、わたしが剛くんに告ったと勘違いしてからに(笑)。」
「俺初めてなんだ!痛くしないでね!トカナントカ言ってたのは、それはつまり・・・剛くんがわたしと初めてのそれをしたかった!って意味としか」
「剛くんは好きだけどさ、ちょっと意味が違うのよね。信頼できる幼なじみってより、守ってあげたい弟?。つか、家来だもんね。同い年の剛くんを大人の瞬お兄ちゃんと比べたら悪いんだけど、ガキじゃん(笑)」
「でもさぁ、これ剛くんラブなみずきとちはるには言いにくいよね。二人に黙ってるわけにもいかないし、後でバレたら誤解の元になるもんね。どーしよう?」
「そーねえ、わたしなら黙ってるけど、あおちゃんは嘘が苦手だもんね。みずきはともかくちはるは思い込み激しいからね、勘違いされない近いうちに言ったほうがいいかもね。わたし協力するよ!」
「大丈夫よ!。あおちゃんは隠し事しないし嘘嫌いだし、瞬お兄ちゃんに一途なのはみんな知ってるんだから!」
「やっぱり美佐は頼りになるなぁ!。ありがとね。あとね、今日はサナの誕生日だから一緒にお祝いしてあげよーね。サナは仲間になって間もないんだし。それとわたしが学校戻るまでサナをお願いね。お嬢様過ぎて世間知らずだもんね。」
そう、姉の緑にケーキを買いに行かせたのを切り出すあおい。幼稚部年少から姉妹のように育った美佐は、今のあおいには頼るべき良き親友なのである。
>> 192
そもそも、あおいが入院してるのは・・・
あおい達が黒百合女学院山手校初等部から同中等部に内部進学し、半月あまり過ぎた二日前・・・
始業式の日、中高等部の悪な先輩グループと派手に喧嘩をやらかしたあおい、そしてあおいに助太刀した美佐とサナに敦子とうなの、新あおい組は、あろう事か中高等部の先輩達を相手に勝ってしまい。
もっとも、高等部のしおり先輩や紫蘭先輩に、中等部の柑奈先輩の善の方のリーダーグループの助太刀もあったからなのだが・・・
中高等部の悪な先輩グループを、学校から叩き出した形になってしまった、そんな新あおい組の九人組はすっかり学校の有名人。
普段はちょっとしたお菓子やパンとかジュースを買うのにすら、初等部から高等部までが押しかけ集まり混雑する、購買茶話室でさえ
あおいや美佐やサナが歩けば、モーセがエジプトの海を割った奇跡かのように、人混みの中に道が自然に切り開かれる有様。
そんな中、初等部では成績上位常連だったあおいではあるが、憧れの瞬お兄ちゃん、高等部真鍋先生への恋が再燃していたあおい。
いや、それだけではなく
憧れの瞬お兄ちゃん、高等部新任教師の真鍋先生は、早くも女生徒人気トップになりかけていて、思いっきりヤキモチを自覚したあおい。
中等部で最初の抜き打ちテストで、集中力を再び欠いてしまい、例によって成績気まぐれ大暴落。中等部職員室に呼び出されてしまったあおい。
クラス担任や教科担任からの説教だけかと思っていたら、初等部担任だった待った先生こと犬猿の仲の松田先生も、それだけならまだしも、遠戚を理由に憧れのお兄ちゃんの真鍋先生までいて。
「赤井よ、お前は集中さえしてれば出来る子なんだ!。気持ちをしっかり落ち着かせろ!」
なんて中等部教師達からの説教だけならまだしも
「お前なあ、瞬お兄ちゃんに相応しい女の子になるんだろ!」
トカナントカな松田先生の要らないお節介な一言
さらに
「お前、最近浮ついてるぞ!。だから校内では俺とお前は遠戚でも幼なじみでも恋仲でもない!と言ってたんだ!」
と瞬お兄ちゃんにトドメを刺されてしまい
「だってお兄ちゃん、あれからデートしてくれないから・・・頑張ったらデートしてくれるの?」
「ああ、いくらでもデートしてやる。が、校内では教師と生徒だ!。公私のケジメくらい解るよな?」
>> 193
瞬お兄ちゃんこと真鍋先生の職員室での、あおいへの説教
「ああ!。浮つかずにちゃんとテスト頑張ったらいくらでもデートしてやる。が、校内では教師と生徒だ!。公私のケジメくらい解るよな?」
にムカムカしてきた、勝ち気な手の早いあおい。
つい、真鍋先生に平手打ちしてしまった。
感情が出てしまったら、
もう猪突猛進の自分の気性は止められなくて
「公私のケジメ?。どの口がおっしゃるのかしら?。」
「女の子に囲まれて楽しそうですこと。料理部で嬉しそうに試食するんなら、わたしが彼女でも問題ないじゃんっ!💢。料理はお兄ちゃんのプライベートな趣味でしょ💢」
「お兄ちゃんは高等部教師の空手部顧問で、中等部教師でも料理部顧問でもないでしょっ!💢」
「黒百合生徒心得。己の掲げた旗は降ろすべからず。論理一貫、言行一致、有言実行の黒百合で、お兄ちゃんのうっかりな論理矛盾は残念ね」
「わたしね、お兄ちゃん扱いはしたけど、彼氏扱いは校内では事情知ってる先生たちのいる職員室以外では一度もしてないよ?」
「紫蘭お姉ちゃんがばらしたから、もう生徒みんな知ってるけど。それでもお兄ちゃんの立場考えて気遣いしてたのに。お兄ちゃんなんか大っ嫌い!💢」
職員室を飛び出してしまうあおいは、一目散に中高等部特別教室校舎屋上に駆ける。音楽室や理科室などのある校舎の屋上に。
その両目には
『お兄ちゃんの優柔不断の分からず屋!』の涙が。
すれ違う、黒百合中等部の生徒たちは
『何があったのかしら?』
そんな中、図書室から教室に戻るサナがあおいの涙に気づく。
「あおいちゃん、待って!」
サナの声もあおいの駆ける勢いは止められない。
あおいを追いかけるサナ。
だが、あおいはちびっこには似合わぬ駿足で
>> 194
『お兄ちゃんの優柔不断の分からず屋!』
職員室から飛び出した、あおいの瞳に浮かぶ涙に気づき
『何があったのかしら』
と、訝る生徒の行き交う廊下を
「あおいちゃん待って!」
そう追いかけるサナ。でも、あおいはちびっ子には似合わぬ駿足で、なかなか追いつけない。
黒百合女学院山手校の広い敷地。
もし高等部のグランドの隅の生徒更衣室から、幼初等部校舎を通り、本館を過ぎて総校門まで、対角線に校内敷地巡りを歩くならば、自転車が必要なくらいの、広い敷地。
だからお嬢様生徒や先生の中には、校内移動用の自転車を用意している人もいるくらいだ。
これは質実剛健・文武両道で、人様の上に立つにはお嬢様でも体力は必要と、走らせる校舎配置するためで、自転車で移動しては意味も半減するのだが、それはさておき
その広い敷地の端の部類の、理科室やら音楽室やら視聴覚室に家庭科室の揃う、特別校舎屋上まで一気に、走り抜けるあおい。もちろん自転車ではなく、自分の足で、だ。
この中高等部兼用の特別校舎の屋上は、あおいの見つけた、先生方があまり来ない場所。
転落防止の屋上の高い塀が、冬は風を遮り夏は日陰を提供で、エスケープの昼寝には最適な場所に、息を切らし寝転ぶあおい。
しばらくして
息も絶え絶えに肩を上下させつつも
あおいに追いつくサナ。
賢いサナは
「どうしたの?何かあったの?」
なんて野暮は聞かない。何も言わず、あおいの隣に寝転ぶ。
そして頃合いを見計らい
「わたくし、殿方は嫌いよ。でも、そんなわたくしでも、真鍋先生は魅力的でしてよ。優しいしカッコイイし強いし面白いし、先生だから当たり前だけど、賢いし、何よりお洒落だし・・・」
「あおいちゃんが掴まえてないと、盗っちゃうぞ!」
「なあんてね。わたくしの興味は女の子だけだから安心して。でも、みんな真鍋先生を狙ってるわよぉ!。喧嘩してて、いいのかな?」
「だって、だって、入学してからデートしてないんだよ!」
「いやいや、校内でデートしてるじゃない。給食ある黒百合で弁当持ち込んで、先生とお弁当なんて、あおちゃんと真鍋先生、ゆかりちゃんと待った先生だけだよ?」
「それはさぁ、わたしってカノジョがいながら、料理部でうれしそうに他の女の料理つまみ食いなんて、ゆるされる?」
- << 198 「わたしって彼女がいながら、料理部や家庭科で嬉しそうに他の女の子の料理をつまみ食いなんて、ゆるされるの?」 あおいは仲良いサナに怒りをぶちまける。 「公私混同はダメだ!って、わたしに言っておいて、中等部教師でも料理部顧問でもないのに、プライベートな自分の趣味で料理部や家庭科授業に混ざるのよ💢」 「彼女のわたしとデートしてるなら、お兄ちゃんの教師の立場は気遣いするけど、わたしとデートしないのに、他の女の子の料理なんて、浮気みたいなもので、公私混同より酷いじゃんっ!💢」 「しかも中高等部の女の子に囲まれ嬉しそうにするんなら、わたしが学校公認彼女でいいじゃんっ!。何さ!わたしが年下だからって、キレイな建前述べるくせにさ💢」 「空手部の部活でお兄ちゃんなんか、デコボコの刑にしてやるぅっ!。このあおい様を怒らせたらどうなるか・・・お兄ちゃん空手部顧問だもんね。逃げられない💢」 賢いサナは、気まぐれ短気なるあおいの怒りが過ぎ去るのを、じっと待つ。聞き役に徹して。男女の恋に興味ナシな百合なサナだが、それでも時折、あおいへの共感の相づちを、何度も何度も打ちながら・・・。 数十分が過ぎる・・・そしてサナは口を開く 「あおちゃん、それ真鍋先生が黒百合の先生でなくて、前の仕事の塾の先生を続けてても、同じじゃないかしら?。遠距離恋愛だったのよね?。あおちゃんの見えない場所で、真鍋先生、何をしていたのかしら?。男の子は移り気の浮気性よ」 あおいの大好きな真鍋先生を、わざと悪く言うサナ。 「サナぁっ💢。わたしの彼氏を悪く言うなぁっ!。アンタ、わたしに喧嘩売ってんのかよ💢」 さっきまで、サナに抱き着いて泣いたりしてたのに、豹変するあおい。剣道空手、かなりの腕前のサナにすら見えないスピードで、あおいの手がサナの胸ぐらを掴む。 「ほらね、あおちゃんわかってるじゃないの。あおちゃんはちゃんと真鍋先生を信用してるじゃないの。真鍋先生が好きなのよね?。なら信じてあげなきゃ」 「歳の差トカナントカこだわってるのは、真鍋先生じゃなく、あおちゃんに見えるの。歳の差なんか何さ!。猪突猛進のあおい様ハリケーンで吹き飛ばしちゃえ」 「わたくしの恋なんて、歳の差どころじゃない、高い高い、たくさんのたくさんの、ハードル越えなきゃ!なの」
わたくしの別作品《たとえばこんなクリスマス》の追記のurlから、こちらの黒百合女学院シリーズの旧バージョン(下書き版)の
《黒百合女学院中等部 恋の時間割》
にお越しの皆さま、追記の誤りで、ごめんなさいね。
m(._.)m
こちらはこちらで、まだまだ書きつづけますが
新バージョン
《黒百合女学院 恋の時間割(小愛的故事)確定清書版》は
https://otonach.com/viewthread/2957373/
でございます。
お詫びして訂正申しあげます。
>> 195
『お兄ちゃんの優柔不断の分からず屋!』
職員室から飛び出した、あおいの瞳に浮かぶ涙に気づき
『何があったのかしら』
と、訝…
「わたしって彼女がいながら、料理部や家庭科で嬉しそうに他の女の子の料理をつまみ食いなんて、ゆるされるの?」
あおいは仲良いサナに怒りをぶちまける。
「公私混同はダメだ!って、わたしに言っておいて、中等部教師でも料理部顧問でもないのに、プライベートな自分の趣味で料理部や家庭科授業に混ざるのよ💢」
「彼女のわたしとデートしてるなら、お兄ちゃんの教師の立場は気遣いするけど、わたしとデートしないのに、他の女の子の料理なんて、浮気みたいなもので、公私混同より酷いじゃんっ!💢」
「しかも中高等部の女の子に囲まれ嬉しそうにするんなら、わたしが学校公認彼女でいいじゃんっ!。何さ!わたしが年下だからって、キレイな建前述べるくせにさ💢」
「空手部の部活でお兄ちゃんなんか、デコボコの刑にしてやるぅっ!。このあおい様を怒らせたらどうなるか・・・お兄ちゃん空手部顧問だもんね。逃げられない💢」
賢いサナは、気まぐれ短気なるあおいの怒りが過ぎ去るのを、じっと待つ。聞き役に徹して。男女の恋に興味ナシな百合なサナだが、それでも時折、あおいへの共感の相づちを、何度も何度も打ちながら・・・。
数十分が過ぎる・・・そしてサナは口を開く
「あおちゃん、それ真鍋先生が黒百合の先生でなくて、前の仕事の塾の先生を続けてても、同じじゃないかしら?。遠距離恋愛だったのよね?。あおちゃんの見えない場所で、真鍋先生、何をしていたのかしら?。男の子は移り気の浮気性よ」
あおいの大好きな真鍋先生を、わざと悪く言うサナ。
「サナぁっ💢。わたしの彼氏を悪く言うなぁっ!。アンタ、わたしに喧嘩売ってんのかよ💢」
さっきまで、サナに抱き着いて泣いたりしてたのに、豹変するあおい。剣道空手、かなりの腕前のサナにすら見えないスピードで、あおいの手がサナの胸ぐらを掴む。
「ほらね、あおちゃんわかってるじゃないの。あおちゃんはちゃんと真鍋先生を信用してるじゃないの。真鍋先生が好きなのよね?。なら信じてあげなきゃ」
「歳の差トカナントカこだわってるのは、真鍋先生じゃなく、あおちゃんに見えるの。歳の差なんか何さ!。猪突猛進のあおい様ハリケーンで吹き飛ばしちゃえ」
「わたくしの恋なんて、歳の差どころじゃない、高い高い、たくさんのたくさんの、ハードル越えなきゃ!なの」
>> 198
あおいが何で真鍋先生にキレてるのか?。
scene1 七年前
あおいの九つ上の姉の緑。お受験した小中学校の全てが不合格ゆえの、公立中学校生徒で、さらに万年劣等生だった緑。
当時、高校三年生だった真鍋は、緑が外部入試入学は超絶難関なる、あおいの通う幼稚部のある、黒百合女学院高等部に入学希望と知る。
そこで真鍋は、緑に勉強を叩き込んだ。いや正確には勉強のやり方から教えたのだ。
緑の努力と言うより、その真鍋の努力は実り、緑は黒百合女学院高等部の外部入試に合格したものの、万年劣等生の緑。
さっそく一年生一学期の中間テストで、成績最悪を記録した緑本人に家庭教師継続を泣き付かれ、家庭教師に来ている。これは、その頃の物語。
あおいは一回り上の姉の藍子お姉ちゃんが、目前で轢き逃げ即死したショックの失語から、なんとか回復し、黒百合の幼稚部から初等部にエスカレーターしていた。
この日、あおいは四つ上の従姉の双子、紫蘭と青蘭の誕生日パーティーにお呼ばれしていたのだが、楽しかったのだろう。あおいの鼻歌交じりの軽やかな足音が、廊下から緑の部屋に聞こえてくる。
ドアを開け、顔を覗かせるあおい。
「瞬お兄ちゃん、ママがね、「晩御飯出来たからお兄ちゃん呼んで来て」だって。「もう遅いから食べて帰ってね」だって」
そうして
「お兄ちゃん、抱っこぉ!」
マイクロミニなスカートが翻り、パンツ丸見え状態も気にしないかのような、ジャンピング抱っこで、大好きな瞬お兄ちゃんに貼り付くあおい。
「この甘えん坊め!」
そう言いつつも、しっかり抱きしめる真鍋。
この数ヶ月前、あおいは作文で
「わたしの夢は瞬お兄ちゃんのお嫁さん」
そう授業で公言していた。
姉の緑が恋を真鍋に告げる前に
『緑お姉ちゃんなんかに瞬お兄ちゃんはあげない』と。
さらに念のために、と
「わたし、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいっ」
最近、真鍋本人にも告白した、あおい。だが大学生と小学生。それも歳の差が一回りの、あおいは小学一年生である。真鍋が本気にするわけはなく。
それでも優しい真鍋は
『小ちゃい子の夢は壊しちゃいけない!』と
「それは楽しみだなぁ!。待ってるぞ!」
今日また、あおいは真鍋に恋を。
「ねえねえ、瞬お兄ちゃんは緑お姉ちゃんとわたし、どっちが好き?」
>> 199
ジャンピング抱っこで真鍋に貼りついてるあおいは、今日もまた、真鍋に恋を告げる。いや、正確には恋を告げようとする。
「ねえねえ瞬お兄ちゃんは緑お姉ちゃんとわたし、どっちが好き?」
「そりゃ緑もあおいもいい子だし、可愛い妹同然だしさ、二人とも好きだよ」
「違ぁう!。そんな意味じゃなくぅ、女の子として、どっちが好きか聞いてるの!。お兄ちゃんがカノジョにするなら、緑お姉ちゃん?それとも、わ・た・し?」
『コイツませてるな』
そう思う真鍋。あおいは別にませたくてませてるわけじゃなく、賢いあおいは、姉の緑の『瞬お兄ちゃんのカノジョになりない』邪心に気づいてるから
『お兄ちゃんをお姉ちゃんに盗られたくない!』
と必死なだけなのだが、生憎、ロリコン趣味は全くない、世間一般で言う常識人の良識派なのが真鍋なのであるから、当然に
「緑も年下だしなぁ、おまえも小学生だからなあ・・・」
こんな返事、恋に夢中な、背伸びしたい女の子には、口が裂けても言ってはならぬのに。常識的な良識的な言葉を返す真鍋。
すると、予想外のあおいの一言
「わたし、お兄ちゃんがロリコンでもいいの。あのね、学校の先生がね、小さい子がエッチな意味で大好きな、ロリコンなお兄ちゃんやおじちゃんは沢山いるって、言ってたよ」
慌てて座ってた椅子から立ち上がり、抱きついて剥がれないあおいを引きはがし、思わず叫んでしまう真鍋。
「お、オ、オレ、俺は違うから!」
「何よ!お兄ちゃんの分からず屋!の優柔不断!の意気地なし!。お兄ちゃんなんか、大っ嫌い!」
>> 200
「何よっ!。お兄ちゃんの分からず屋の優柔不断の意気地無し!。ハッキリしないお兄ちゃんなんか、わたし大っ嫌い!」
今日、四つ上の双子の従姉の紫蘭と青蘭の二人と一緒に、招かれていた誕生日パーティー。その主役、紫蘭と誕生日が近いから、紫蘭たち双子と一緒のお誕生会の先輩。
紫蘭の同級生で、あおいの先輩の、あおいを妹同然に可愛がってくれる、倉橋しおりお姉ちゃんに言われた言葉
「ねえねえ、あおいちゃんは真鍋のお兄ちゃんが好きなのよね?。早く告白しないと、緑先輩に取られちゃうよ。ちゃんと掴まえるまで、どんどん繰り返し告っちゃえ!。じゃないとエッチな緑先輩のことだから・・・」
しおりお姉ちゃんの
「エッチな緑先輩のことだから・・・」
の意味は全くわからなかった、あおい。当たり前である。まだ小学一年生なのだから。それに、このときのあおいはまだ、まさか
『実の姉の緑お姉ちゃんが、エッチなイラストを描きまくり、エロ漫画作家を目指してる』
なんて、知らないし思ってもいない、あおい。
でも、緑から立ち上る邪心の香り
『緑お姉ちゃんは瞬お兄ちゃんを独り占めしたがってる』
そう気づいていたあおいだから、恥ずかしくても今日も小さな勇気を振り絞り・・・瞬お兄ちゃんに・・・なのに・・・
一回り下の妹扱いしかされず、部屋を飛び出したあおい。
ママに抱きついて涙するあおい。
「ねえ、あおい。瞬くんはあおいが嫌いとかじゃなくて、死んじゃった藍子お姉ちゃんの彼氏だったから、まだ緑かあおいかを選べないだけだと思うな」
「それに、告白されたからって、誰とでもカンタンに仲良くなるような、そんな瞬お兄ちゃんでいいのかな?。そんな男の子は女の子を大切にはしてくれないんじゃないかしら?」
- << 204 「あおいは女の子に告白されたからって、簡単に誰とでも付き合うような男の子が好きなの?。違うでしょ?。瞬お兄ちゃんがそんな人じゃないから、あおいは瞬お兄ちゃんが好きなんだよね?」 そうママに言われ、泣き止むあおい。 そのあおいが涙した日の数週間前・・・・ 中学生のあおいが真鍋にキレている理由の思い出のscene2 これもあおいが小学一年生の記憶である。 「あら?瞬お兄ちゃん、今日も緑お姉ちゃんの家庭教師なの?」 「緑お姉ちゃんねえ、今日も高等部で喧嘩やらかしてね、当分、反省文書かされて帰れないはずよ。一ま~い、二ま~い、三ま~いって書いた反省文の枚数、怨めしそうに数えてたもん」 赤井家の門扉を潜ろうとした真鍋に話しかけているのは、赤井家の自宅敷地内の道場に習いに来ていた、あおいの四つ歳上の従姉の紫蘭である。 「またかよ、あいつ。それで可哀想なその喧嘩相手は全治何日だ?。どうせ緑のことだ、手加減ゼロで救急車送りだろ?。あいつ、退学されることで黒百合をやめるつもりじゃないだろうな」 赤井家道場の縁側で紫蘭と話をしていた真鍋は、あおいや緑そして紫蘭の祖父で道場主、自分の老師の晋太郎に掴まってしまう。 「おお、瞬くんいいところに来てくれた。どうだい?ちょっとばかりの時間、お茶に付き合ってくれんかね?。緑とあおいのことで話があるんだが・・・・」 そう言われ、赤井家の広い和の客間に通される真鍋。 コーン コーン コーン 赤井家の庭の池から鹿威しの音がする。まだ大学生と若くて、この静寂に耐えかねた真鍋 「あの~老師、緑さんやあおいさんのことで・・・・」 コーン コーン 暫しの間がさらに流れ、口を開く晋太郎 「実はな君も知っての通り、儂の赤井家と君の真鍋家で、孫同士で結婚させようと約束していた件なんだがね」 「うちは事故で藍子が死んだけど、まだ緑もいれば、あおいもいる。いや別にな、今すぐどちらか選んで教会行って結婚せい!でも婚約式せい!でもないんだ」 「君は緑の面倒も、あおいの面倒も、よく見てくれている。それでだな、緑は君のことが好きなようだ。もちろん君を兄や友達に幼なじみや縁戚とか家庭教師としてでも、武術の先輩としてでもなく」 「どうかね?。緑と付き合うだけ付き合ってみないかね」
お正月も三ヶ日とうに過ぎちゃいましたけど、皆さま、明けましておめでとうございます。
娘に風邪をうつされ寝正月だったわたくしですが、皆さま、よい年明けをお過ごしになられましたか?。皆さまによい一年となりますよう、お祈り申し上げます。
まずはお詫びを。ようつべで更新予告しておきながら、風邪で寝込み更新出来ずにおりまして、ようつべ馴染みの皆さま、ほんとゴメンナサイっ!🙇🙏💦💦。おかげさまで体調回復の絶好調ですので
今夜遅くまでには、この黒百合の下書き版と
清書版
https://otonach.com/viewthread/2957373/
を更新いたしますので、よろしくお願いいたします。アクセスいただくだけでも、わたくし励みになります。
さっき誤操作で前レス消しちゃいました😅。あれ?となった方々、ごめんね。
では、お仕事行って参ります。
>> 201
「何よっ!。お兄ちゃんの分からず屋の優柔不断の意気地無し!。ハッキリしないお兄ちゃんなんか、わたし大っ嫌い!」
今日、四つ上の…
「あおいは女の子に告白されたからって、簡単に誰とでも付き合うような男の子が好きなの?。違うでしょ?。瞬お兄ちゃんがそんな人じゃないから、あおいは瞬お兄ちゃんが好きなんだよね?」
そうママに言われ、泣き止むあおい。
そのあおいが涙した日の数週間前・・・・
中学生のあおいが真鍋にキレている理由の思い出のscene2
これもあおいが小学一年生の記憶である。
「あら?瞬お兄ちゃん、今日も緑お姉ちゃんの家庭教師なの?」
「緑お姉ちゃんねえ、今日も高等部で喧嘩やらかしてね、当分、反省文書かされて帰れないはずよ。一ま~い、二ま~い、三ま~いって書いた反省文の枚数、怨めしそうに数えてたもん」
赤井家の門扉を潜ろうとした真鍋に話しかけているのは、赤井家の自宅敷地内の道場に習いに来ていた、あおいの四つ歳上の従姉の紫蘭である。
「またかよ、あいつ。それで可哀想なその喧嘩相手は全治何日だ?。どうせ緑のことだ、手加減ゼロで救急車送りだろ?。あいつ、退学されることで黒百合をやめるつもりじゃないだろうな」
赤井家道場の縁側で紫蘭と話をしていた真鍋は、あおいや緑そして紫蘭の祖父で道場主、自分の老師の晋太郎に掴まってしまう。
「おお、瞬くんいいところに来てくれた。どうだい?ちょっとばかりの時間、お茶に付き合ってくれんかね?。緑とあおいのことで話があるんだが・・・・」
そう言われ、赤井家の広い和の客間に通される真鍋。
コーン
コーン
コーン
赤井家の庭の池から鹿威しの音がする。まだ大学生と若くて、この静寂に耐えかねた真鍋
「あの~老師、緑さんやあおいさんのことで・・・・」
コーン
コーン
暫しの間がさらに流れ、口を開く晋太郎
「実はな君も知っての通り、儂の赤井家と君の真鍋家で、孫同士で結婚させようと約束していた件なんだがね」
「うちは事故で藍子が死んだけど、まだ緑もいれば、あおいもいる。いや別にな、今すぐどちらか選んで教会行って結婚せい!でも婚約式せい!でもないんだ」
「君は緑の面倒も、あおいの面倒も、よく見てくれている。それでだな、緑は君のことが好きなようだ。もちろん君を兄や友達に幼なじみや縁戚とか家庭教師としてでも、武術の先輩としてでもなく」
「どうかね?。緑と付き合うだけ付き合ってみないかね」
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