黒百合女学院中等部 恋の時間割
ここは古くから在る街の山手地区。大通り奥の細道に入れば、昔からの武家屋敷や豪商の町屋が今なお残っている街。
そんな街に物語の舞台、黒百合女学院の大学を除く幼初等部・中高等部の集まる、黒百合女学院山手校はあった。無論、ここはお嬢様学校であり、女子校である。
その黒百合女学院山手校の正門がある大通りは、裏手の大規模団地を降りきった、この山手地区の繁華街でもある。
そんな通りに面した半地下の喫茶から通りを見ると、一人の幼女が歩いている。
18/07/20 16:12 追記
主人公は物語開始時まだ小学生です。初恋の人に幼稚園時代に出会い、中学時代に再会し・・・と主人公や主要登場人物の幼稚園時代や大学生時代に話を飛ばしながら物語は進みます。
二つに分けて書いていたのを、一つにまとめた物語にしたほうがいいかな?と思ったもので。再構成しつつ書き損じを訂正しながら書き加えていくものです。
18/07/23 17:43 追記
この物語はわたしが小学生時代から書いていた日記や記憶、同級生らとの思い出話による、ほぼ実話です。もちろん個人特定されないようにしていますが。
物語は「初等部篇の恋のエスケープの時間」から始まっています。
わたくし、普段はミクルにしかいないんですが、大人ミクルに入り浸りしているであろう、我がエロ姉氏と違い、文才も画才もありませんので、クレームは受け付けません。
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《想い人はバレンタインが大嫌い?の時間》
♪キーンコーンカーンコーン♪
「やったあ!ギリギリセーフ!」
そう叫びチャイム寸前に黒川学園高校の玄関に飛び込んだのは、ここの生徒の真鍋瞬だ。
慌てて下駄箱を開けると、何やら物体がたくさんたくさんこぼれ落ちて、廊下に音を響かせる。
ため息をつきながら
「そうか、今日は俺の誕生日だった。またバレンタインか。」
そう呟きながら、廊下に落ちた何物かの山を拾い始める真鍋。
職員室から出て来た女性担任と目が合う。彼女は彼にコンビニ袋を渡しながら
「真鍋くん、慌てなくていいから、ゆっくりクラスに来なさいね。でも毎年たいへんね、このプレイボーイさん」
「先生っ!からかうのはやめてくださいっ!。こっちは全くうれしくないんですからっ!」
そう、下駄箱からこぼれ落ちた山はチョコレートの山なのだ。
もはや毎年の風景。
ここ黒川学園高校は幼稚部から大学部まで男子校なのに、なぜ彼の下駄箱にバレンタインの今日、チョコレートの山が入っていたか?。
それは・・・
近所に彼の彼女の赤井緑の通う、昔は系列だった、幼稚部から高等部まで女子校の黒百合女学院の山手校があり
車ですぐの場所には同じく女子校の大学部と専門校がある黒百合女学院中央校があり
さらに近隣には市立の女子高まであるからだ。
おまけに彼は宇宙人顔だが整ったハンサムボーイで、しかも学力優秀でスポーツ万能、空手や拳法の市大会で優勝を重ねており
さらにユーモアたっぷりで会話が面白く、優しく真面目。
トドメにこの街の誰もが知るお嬢様の赤井緑の遠戚、すなわち、お金持ちとくれば、近くの学校の女の子が彼を放置するわけがないのである。
彼の欠点は優柔不断と小柄なこと、そして甘いものが大嫌いで女の子とは食の好みが合いにくいことくらいだ。
そんな彼の悲劇はバレンタイン生まれなことだ。
「俺、今日は生きてお家に帰られるのか?」
彼の通う黒川学園高校は男子校ゆえの学友の妬み怒りが怖い意味と
毎年バレンタインは下校時間に、女の子の群れが彼を待ち伏せ、無理矢理にでもチョコレートを食べさせようとする意味で
二重の恐怖なのだ。
>> 101
下駄箱兼ロッカーからこぼれ落ちたチョコレートの山をコンビニ袋に詰め込み、教室に続く階段をため息をつきながら上る真鍋。
出欠を取った後の、ホームルームの時間のクラスメイトの声が廊下にまで聞こえてくる。
「先生、真鍋、今日は来ないんじゃねえのか?。去年、市立商の女の子にレイプされかけてただろ?。アイツ優しいから抵抗しなくて車に連れ込まれそうになってた。」
「ああ、パパがやくざの女の子に目をつけられてたやつか。大変だよなあ。しかもアイツ、モテまくりだし。」
「はいはい、みんな静かにね!。心配しなくてもさっき真鍋くん来てたわよ。」
そう手を叩きながら声を張り上げてるのは担任の白波由紀子先生だ。
「今日は学年末の球技大会の話をしなきゃでしょ!。学級委員、話をすすめてね」
ガラガラ~
クラスの引き戸を開ける音がして、真鍋が顔を出す。
「先生、遅くなりました。すみません。」
早速にクラスメイト達から
「よ~真鍋、生きてたか?心配したんだぞ!」
「今日はちゃんと俺達が守ってやるからな!」
「ウソつけ!オマエら、真鍋が貰うチョコレート目当てだろが!下心見え見えだぞ!」
そんな騒ぎの中、親友の亜集院光太郎が
「瞬、これ誕生日プレゼントだ。俺オマエが大好きなんだよ。それでだな、いきなりのカミングアウトで悪いんだがチョコレートだ。食べてくれっ!」
「こ、光太、お、俺はノーマルだぞ!。悪ふざけでもそんな真似はやめろよ!キモいだろが!」
そう叫ぶ真鍋。
「瞬、おまえこの前、男女平等論を授業で論じてたばかりだろが!ウソは良くないぜ!。チョコレート受け取ってくれ!。」
そう、しつこく告白を繰り返す亜集院に鳥肌が立ち寒気まで覚える真鍋。
「みんな、助けてくれ、こ、光太郎が壊れた!狂った!」
「いや、真鍋、実は俺も真鍋が恋の意味で好きなんだ!」
そう叫びながら立ち上がるクラスメイトたち・・・
「うわぁ!やめてくれ~」
クラスから逃げ出す真鍋
「うわぁ!やめろぉ!」
脂汗か冷や汗か、真冬なのに汗まみれで叫ぶ真鍋。起きて周りを見回すと寝台列車の中らしい。
そうだった、俺は緑と泊まりがけで旅行して帰りのブルートレインに乗ったんだった!
上のベッドで寝ていた緑が顔を出す。
「瞬ちゃん、どうしたの?」
「明日はバレンタインか」
>> 102
「明日はバレンタインか」
寝台列車の下段のベッドで、上段のベッドから顔を出した婚約者の緑にそう呟く真鍋。
クラスメイトの男の子に襲われて、無理矢理にチョコレートを食べさせられる悪夢と、女の子に襲われ、また同じく無理矢理にチョコレートを食べさせられる悪夢から
「うわぁ!やめてくれ!」
と叫びながら目覚めたばかりなのだ。それなのに、それなのに
「あら、瞬ちゃんバレンタインのお催促?。」
「仕方ないわね。はいチョコレートあげちゃう!」
と、鞄をごそごそまさぐり、何かの小箱を出す緑。
「やめろよ!俺がバレンタイン生まれでバレンタイン大嫌いと知ってのイタズラか?。おまえの頭はあおい並の小学生か?。」
「あら、やっぱり怒っちゃうのね。ふふふっ怒っちゃう瞬ちゃん可愛い!。実はこれ、ブランデーの小瓶よ。帰ったら呑みましょ。」
一方、同じくバレンタイン前日の昼間、赤井家の大きな大きな台所では、あおいのクラスメイトの、黒百合女学院初等部の五人組が集まっていた。それぞれの好きな人への想いを胸に。
「ねえねえ、美佐は何つくるの?」
「ビターチョコレートアイスとミルクシャーベットのコンビ!。あおちゃんは?」
「チョコレートケーキにするぅ!わたし大好きだし!。瞬お兄ちゃんと食べるんだ!。ゆかちゃんは愛しの待った先生にハートのチョコレート?」
「うんっ!あまーい大きいやつ!。わたしを食べて!って書きたいけどぉ、小学校の先生にはまずいよね。それにまだ勇気ないしぃ。カネコはお兄ちゃんにどうするの?」
「うーん、お兄ちゃん甘いもの苦手だから、クラッカーにビターチョコでコーティングかなぁ?悩み中。みずきは剛くんにはあげないの?あおちゃんばかり手伝ってるけど」
「あげるわよ!。でもわたしのはいちばん簡単だからいいの。レンジでマシュマロ溶かしてチョコチップとポップライスに混ぜて固めるだけだもん。」
そんな中、顔をのぞかせたあおいママの桃子が
「みんなのおうちに電話しといたから、今日はあおいと晩御飯食べて行ってね。そうそう、カネコちゃん、ミルクチョコにコーヒー混ぜても美味しいわよ。教えてあげるね」
>> 103
「そうそう、溶かしたチョコにコーヒークリームを混ぜて」
あおいの親友カネコにあおいママの桃子が、ブランデー漬け栗のチョココーティングを教えている。
実は赤井家の道場や塾の職員に、毎年バレンタインで配るお菓子なのだ。
「カネコちゃんお上手ね。そうよ、コーティングは激薄でね。そうしないと激甘になるの。チョコが溶けたら栗の風味だけが顔を出すようにね。」
カネコはビターチョココーティングした栗にコーヒーチョココーティングしている。桃子に褒められて、苦手な料理に一生懸命になってるのだが、天性の器用さでクリアしている。
不器用な人だと、チョコの二重コーティングは失敗するのだが。
もしかしたら彼女はパティシエに向いているかも。自身がパティシエだった桃子はそう思う。
別の調理台の上では
あおいがケーキにクリームコーティングして、仕上げのココアコーティングを右半分に、コーヒーコーティングを左半分にしている。
ピザのハーフハーフ仕様みたいなものだ。もちろん右半分がチョコチップとナッツ入りのスポンジに、左半分がナッツとブランデー栗のスポンジだ。
「あおいの愛しの瞬お兄ちゃんは甘いもの苦手よ」
ママからそう聞いてメニュー変更したのだ。
今までは無理して食べてくれてたのね。そう思い目が潤むあおい。
やっぱりわたし、瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!。緑お姉ちゃんにお兄ちゃんは絶対にあげない!。
ほんとうは激甘のチョコがこれでもか!な、スイートチョコケーキにしたかったのだが、瞬お兄ちゃんの好み優先である。
「ただいま帰りました!」
赤井家の広い広いキッチンに真鍋が顔を出して、あおいのママ桃子に緑と挨拶する。
「瞬お兄ちゃんお帰りなさい!」
「おひめさまだっこして」と甘えるあおい。
「ねえねえ、お兄ちゃん、明日バレンタインだよね!。わたし、ケーキ作ったの!。楽しみにしててねっ!」
「えー!俺、バレンタイン苦手なんだよ」
昨夜見た悪夢ゆえについ本音が漏れた瞬。だが優しい瞬は
「ごめん!冗談だ!」
あおいを見ると涙が。そして激怒つか憤怒の表情に。平手打ちされ
「お兄ちゃんなんか大嫌いっ!」
ココアパウダーを瞬に振りかけたあおいはキッチンから飛び出してしまう。
キスをあげるつもりだったのに!
部屋で泣きじゃくるあおい。
完
>> 104
《想い患いひなまつり 恋の決意の時間》
明かりをつけましょ ぼんぼりに
お花を上げましょ 桃の花
五人囃しの笛太鼓
今日は楽しい ひなまつり
ここは真鍋家。あおいの想い人で一回り年上の瞬の自宅である。
ひなまつりを歌っているのは、瞬の姉の実子と果子、実子の娘の早苗と果子の娘の愛子、招かれたあおいの従姉の紫蘭に瞬の婚約者の緑。そして真鍋ママの佐知代である。
緑が来ているのに、その妹の、瞬お兄ちゃん一筋のあおいが来ていないし、瞬本人がいないのは何故か?。それは・・・
先月のバレンタイン。瞬は自分に夢中な一回り下の女の子、まだ小学生の妹同然のあおいを傷つけてしまったからだ。あの日・・・
作りかけのスイートチョコケーキを放り出し、甘いもの苦手な瞬のために、ナッツケーキを改めて作った、瞬お兄ちゃん思いのあおいなのに、瞬は
バレンタイン生まれゆえ、バレンタインのチョコにうなされる夢を見てしまった瞬は
「バレンタイン苦手なんだよ!」
そうついつい本音を漏らしてしまったからだ。もちろん根が優しい瞬は、すぐに「しまった!ごめん!」と思い
「ごめん!冗談だ!」
と、良かれと思い発言を取り消したのだが、いや正確には
「一度でいいからバレンタインは嫌いだ!と言えるほどにモテたいなあ!なんて言う冗談なんだよ」
と主旨を入れ替えたのだが、あおいはそちらに傷ついたらしいのだ。
そう、あおいはママからバレンタイン嫌いのいきさつを聞いていたのだ。
そして、桃子や緑から聞けば
「わたしのケーキを冗談にするつもり?💢。」
「誰からモテたいの?わたし以外からモテたいとでも?💢。」
「瞬お兄ちゃんは他人からモテまくりたいとでも?💢」
「わたし、小学生だもん!。どうせ瞬お兄ちゃんの周りの女の子には歳で、ボディで勝てないもんっ!。もう知らないっ!💢」
「大人の女の子とよろしく仲良くすれば?💢💢💢」
あおいの怒りはこれらしいのだ。
あおいママ桃子は怒ってるし、あおいの姉で彼女の緑も怒ってるし、慌ててあおいの部屋に行ってひたすら謝ったものの、聞こえてくる声は泣きじゃくる声しかしない。
仕方なく、たまたま赤井家の道場に八極夜戦刀の練習に来た、紫蘭に泣きついて相談しても
「瞬お兄ちゃんは女心がわかってるようでまるでわかってないのね」
>> 105
「瞬お兄ちゃんは女心がわかってるようでわかってないのね」
呆れた顔で真鍋に嫌みを言ってるのは、バレンタインに瞬が傷つけてしまった一回り下の女の子のあおい、そのあおいの従姉で、たまたまあおいのお家の道場に八極夜戦刀の練習に来ていた紫蘭だ。
この紫蘭は女子高生ながら居合いなどの刀術を学び、そこらのチンピラなんかナメきっている女丈夫だ。事実、何人かを凸凹にしている。
真鍋があおいの祖父から八極拳をだいたい学び終え、今は崑圄剣を学ぶ関係で親しい。
まあ、もともと遠戚の幼なじみだからでもあるが。
そんな紫蘭がため息をつきながら言う。
「ねえ、瞬お兄ちゃん、知ってる?」
「あおいはねえ、このまま黒百合の初等部から中等部に行ったら、女子校で男の子を知らずに緑お姉ちゃんみたいなエロ同人女になっちゃう!って言っててね」
「エスカレーターで行ける黒百合中等部じゃなく、共学の国立大付属の中等部に入学するんだ!って勉強してたのよ」
「瞬お兄ちゃんに相応しい知的な女の子になるんだ!って」
「黒百合だって誰もが羨む名門なのに」
「それにあおいは記憶力いいから、勉強しなくても黒百合では成績上位常連なのに。あおいは気まぐれで集中力続かないのに、自分で頬を叩きながらね」
「この前も苦手ってわけじゃないけど、集中力切れて投げ出したくなる算数教えて!ってうちに来てたの」
「瞬お兄ちゃんに似合う女の子になる!って頑張ってたのよ。勉強しなくても勉強できるあおいがね。」
「そんな一途なあおいに、しかもバレンタインに、瞬お兄ちゃんのためにケーキを作り直した最悪のタイミングで、バレンタインが嫌いになるほどモテたい!はないでしょ」
「もうあおいは瞬お兄ちゃんに気持ちは向いてないと思うわよ。」
「多分、もう、いつもあおいにアプローチしてる剛くんに気持ちが移るかも知れないわね。剛くん、わたしが見ても男らしくて格好よくなってるもの。それにあの子、つまらない冗談言わないし。」
「そんなぁ・・・まさかあおいに限って」
そう思ってるのが顔に出てる瞬に紫蘭はまたもため息する。
「それが嫌なら、女の子の日のひなまつりにあおいにプレゼントでも買って、ひたすら謝って、いつものあおいに戻ってくれ!と頼むことね」
「あおいが剛くんにバレンタインしても、剛くんがホワイトデーする前に」
>> 106
「女の子の日のひなまつりにプレゼントでも買って、ひたすらあおいに謝ることね。あおいの気持ちが瞬お兄ちゃんから同い年の剛くんに移るのがイヤならね」
「あおいが剛くんにバレンタインしても、剛くんがホワイトデーする前に」
自分の彼女になりたいと、いつも甘えてくる一回り下の、小学生の女の子のあおいをバレンタインで傷つけてしまった瞬に、そう説教してるのは、あおいの従姉の紫蘭だ。
「でもさあ、紫蘭・・・」
瞬が言いわけしそうなのを察した紫蘭は、瞬にトドメを刺す。
「そもそもね、あおいが瞬お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!って言った六年前、瞬お兄ちゃんはもうあおいのお姉ちゃんの緑さんが好きだったんでしょ?」
「あのとき瞬お兄ちゃん、優柔不断にも、あおいに気を持たせるようなこと言うから。それは楽しみだ!トカナントカ」
「いや、紫蘭、あのときはまだ緑に好きって言われてないから」
珍しく言いわけする瞬に怒る紫蘭。
「そんな問題じゃないでしょ!。瞬お兄ちゃんが、緑お姉ちゃんとあおいのどちらかと結婚する約束の、赤井家と真鍋家だった」
「だから瞬お兄ちゃんは緑お姉ちゃんに関心持てた。あおいは頭いいから、それ見抜いて、緑お姉ちゃんが瞬お兄ちゃんに好き!って言うまえに機先を制したんだから。」
「だから、あおいの初彼氏は瞬お兄ちゃんなの!。それを彼女のあおいの前で、女の子にモテたい!なんて言うのは、他のいい女を見つけたい!って浮気宣言でしょっ!」
「あおいは瞬お兄ちゃんにフラれたに等しいダメージ受けてるの!」
「いいこと?あおいに謝るのよ!。もしあおいがもっと傷ついたら」
と言いながら、たまたま道場の練習で持っていた刀を抜く紫蘭。
「わ、わかった!俺が全面的に悪い!。わかったから落ち着け!」
「あとね、緑お姉ちゃんも婚約者の瞬お兄ちゃんに捨てられたに等しいダメージだからね!。わかってるの?!。緑お姉ちゃんにもちゃんと謝るのよ!」
紫蘭から漂う殺気に逃げ出す瞬の背後に、紫蘭の怒りの声が響く。
そんなひなまつり前のとある月曜日、あおいは黒百合女学院初等部の個別相談指導室にいた。テストの成績が、トップクラスからまたも気まぐれ急降下で最悪更新だったのだ。
担任の待った先生が
「赤井、どうした?。最近は気まぐれ急降下もなくトップクラスで安定してたのに。」
>> 107
ひなまつり前のとある月曜日、あおいは黒百合女学院の個別相談指導室にいた。テストの成績が学年上位常連から、またも気まぐれ急降下で最悪更新したのだ。
初等部六年一組担任の待った先生が、優しく声をかけている。
「赤井、どうした?。最近は成績急降下もなく安定してたのに、悩み事か?。先生、力になるぞ!」
「これじゃ他校の中等部に行ってもやっていけないぞ!。おまえは瞬お兄ちゃんのために知的なお嫁さんになるんだろ?」
普段は待った先生が女心に鈍すぎる天然のせいで、犬猿の仲のあおいと待った先生。だが、この日は違った。
待った先生の眼を思い詰めた表情で見つめるあおい。表情が歪む。
「俺、また女心を読めなくて赤井を怒らせたか?。俺、また赤井に平手打ちされるのか?」
そう怖々と、「暴力反対!」と逃げ出そうかな?と、そう考える待った先生にあおいは飛びつく。
「だってぇ、わたし、わたしぃ・・・」
泣きじゃくるあおい。
あれ?いつもの勝ち気な暴力少女の赤井はどこに行った???
「瞬お兄ちゃんがぁ、わたしよりもっと素敵な女の子にモテたいって」
「わたしまだ小学生だもん、頑張っても瞬お兄ちゃんに振り向いてもらえないのが、もう、もうわかったもん!」
「もうわたし、頑張るのイヤだぁ!」
実はこの待った先生こと松田先生、高校大学時代はあおいの想い人の真鍋瞬の先輩で、今は兄弟同然の親友だ。
あの真鍋が、初恋に燃えてる小学生にしかも遠戚の赤井に、そんなヒドイこと言うかあ?。
言ったとしても、決して悪意のない冗談だったのでは?
そう思いながら、だがしかし、最近は塾講師が忙しいのか、真鍋と連絡がつかない。
黒百合の教師志望の真鍋に、高等部の教師の妊娠退職で空きが出来たのを伝えたいのに・・・こういうことだったのか。
と思い巡らす待った先生に妙案が。気まぐれだが思い込んだら一途な赤井の性格を逆に使うんだ!。
危うくもう少しで、真鍋が黒百合女学院高等部教師になると言いかけたのだが、赤井のしあわせを考えて飲み込んだ。赤井は他校に行くより、黒百合で伸び伸びしたほうがしあわせだ。
「そっかあ!。赤井はもう他校に進路変更どころじゃないわな」
「クラスのみんな喜ぶぞ!。赤井と一緒に中等部に進学出来るんだ!って。俺もおまえが黒百合から出て行くのが、淋しかったしなぁ」
>> 108
ひなまつり三日前、待った先生は親友の真鍋に電話かけている。家に電話しても無駄だと思ったので、真鍋の職場の他県の塾にだ。
さすが有名進学塾だ。待たせることなくすぐに事務のお姉さんが出てくれた。コール音すら聞こえないかのような素早さだ。舌を巻く待った先生。
「あのう、わたくし黒百合女学院山手校初等部教師で六年生担任の松田ですが、そちらに真鍋先生いらっしゃいますか?。真鍋先生が学生時代にこちらの高等部で実習していた件で相談が・・・」
「実は中高等部も初等部と同じ敷地でして、生徒が卒業まえに、昼休憩に何度も遊んでくれたお礼に真鍋先生に会いたいと」
「それで一部生徒が他校に進路変更してるものですから。もし真鍋先生が休暇でこちらに戻られても会えないかも知れないと」
「そうでしたか。でも生憎、申し訳ありません、本日真鍋は休んでおります。真鍋自宅の番号お知らせしましょうか?」
「いえ、仕事上の教育職同士のお話ですので。卒業前の感謝会に来ていただけるようなら、そちら様のお仕事に影響あるでしょうから」
「わかりました。ではどうしましょう?」
「初等部卒業までは時間ありますので、クラスの感謝会はそちら様と真鍋先生の都合に合わせたく。真鍋先生が出勤しましたら、連絡いただきましたら」
「わかりました。こちらでも真鍋が時間とれるように手配いたします」
電話のあと、待った先生は初等部校長と中高等部の両校長に言う。
「これでよろしいですね?。相談しましたように、赤井が機嫌を直していれば真鍋に会わせる。そうでなかったら秘密裏に真鍋を高等部教師に採用する」
「赤井家は本学高額寄附者であり、その塾は生徒に人気です。しかも赤井は気まぐれに成績乱高下しても、学年トップクラスです」
「その赤井が学外の中等部への進学を断念したんです。赤井あおいの真鍋への恋を学校としては、間違いのない限り黙認する。いや、むしろ応援する」
「前例は赤井の長姉、高等部赤井藍子と真鍋の恋。藍子死後の赤井の次姉の中高等部の赤井緑との真鍋の恋」
「いずれも両者だけでなく、真鍋に関わる生徒の成績上昇がありました。目的は本学の偏差値維持のためで行くんですね?」
そのころ、真鍋は部屋にこもり悩んでいた。仕事には行くが心配で仕事どころではないので、この三日間、体調理由に休んでいた。
>> 109
「ねえ!瞬ちゃんいるんでしょ!。寒いからドア開けてよ!」
そう言いながらドアを叩くのは、あおいの想い人、真鍋瞬の姉の真鍋果子だ。
娘の愛子を連れている。
たまたま瞬のアパート。と言っても、豪華な部類のアパートだがを、旅行の帰りに尋ねたのだ。手には実家に持ち帰るお土産袋をぶら下げている。
在宅がわかるほどに部屋の明かりが窓から漏れ、なにやら女性アイドルの歌声、テレビかコンポから聞こえている。
だがしかし、瞬は出ない。
無理もない、脱衣室のドアを隔てて、今はお風呂中だ。
痺れを切らした果子は、ハンドバッグをまさぐり、合い鍵を出して玄関を開けて中に入る。娘連れなのだ。寒がる愛娘に風邪をひかせるわけにはいかない。
と、そこに買ったばかりの髭剃りムースを忘れて、寝室に取りに行こうとする瞬が素っ裸で脱衣室から出てくる。
「きゃあー!」
と果子の悲鳴。最近、気分転換に髪を剃った瞬。しかも瞬が普段かけている眼鏡してないから、おまけに口髭が伸びた瞬を、ついつい他人と思いこんでの悲鳴だ。
「ご、ごめんなさい!部屋間違えましたっ!」
慌てて部屋から出ようとし、ドアのノブを掴もうとして、手の平に合い鍵があるのに気づく。
瞬は瞬で果子の悲鳴に
「あ、姉貴!。なんで勝手に入って来るんだよ!」
なんて言いつつ、慌ててベッド上のシャツを下半身に巻付ける。
「あんたが居留守するからよ!。全くもうっ!ビックリさせないでよね!」
「風呂入ってたんだよ!。それに、それは俺の台詞だ!」
お風呂と聞いた果子の娘の愛子が
「わたしも瞬おじちゃんとお風呂入るぅ!」
と言い出して聞かないものだから
「じゃあ悪いけど瞬、愛子お願いね」
そんなこの日はひな祭り二日前。
「ねえ瞬、明後日うちでひな祭りするの。緑もあおいも紫蘭も、とにかく、赤井家の皆さんが来るから、あんた明日は日曜日だから帰って来なさい」
愛子の服を脱がせながら瞬にそう言う、瞬の姉の果子。緑とあおいに気を利かせているのだ。もちろん弟の瞬にも。
>> 110
「ねぇ瞬ちゃん、明後日うちでひな祭りするの。緑もあおいも紫蘭も、とにかくアンタが結婚予定の赤井家の皆さんがくるから、アンタ明後日は日曜だから帰って来なさい」
真鍋瞬の許嫁の緑、緑の妹で瞬に一筋な片想いのあおい、二人に気を利かせた瞬の姉の果子。
真鍋の赤井家で起こしたバレンタインデー騒動を知らない果子は、そう弟に言葉を残し帰ってしまった。
どの面下げて三人に会えばいいんだよ・・・
くよくよ悩まず仕事復帰しよう。そう気分転換に髪を剃ったにも関わらず、果子の言葉に優柔不断の癖が再度発動してしまい、思い悩む瞬。いや、それどころではない。
妹同然の、あおいのバレンタインチョコを無駄にし、激怒させてしまった真鍋。超絶スーパーウルトラハイパーに手が早い、極めて短気なあおいに殺されかねないのだ。
さらにその姉の緑は、喧嘩に全く容赦のない女。その上に、紫蘭は刀術では県内無敵。三人とも武術家の孫、そこらの同じ体格の男より強い。そして問題のあおいの猪突猛進スピードは下手な大人を圧倒する。
俺、生きて帰られるのか・・・?。怖っ!。逃げたいっ!。
そんな夜の明けた、ひな祭り前日
タン、タタタ、タンっ!軽やかな靴音がアパートに入る。
アパート一階のホールのポストに新聞朝刊を取りにドアを開ける真鍋。階段を駆け登る軽やかな足音がする。
冷えきった朝だからか、マフラーで顔の隠れた見知らぬ女の子。てか自分は眼鏡外してるから、顔はハッキリ判別できないが、小学生くらいだろう。同じアパートのパパか兄でも訪ねて来たのだろうか?。
階段をすれ違う二人。そしてホールの販売機で缶のホットコーヒーを買い、朝の一服にタバコを楽しむ真鍋。
冷えきった朝だから、部屋でコーヒーを飲みタバコすればいいのに、毎朝の習慣だし空き缶を溜めたくないのだ。そうこうするうちに、朝刊を取りにきた住人の女性と短い世間話になる。
「寒~っ!」
少し冷えた体で、そう呟きながら、今日こそ塾に仕事行くぞ!と決意も新たに部屋のドアを開ける真鍋。目にした物は、そこにあるはずのない
いや、いるはずのない、倒れている女の子。首にはロープが・・・側にはパンツが
目を疑う真鍋。部屋を間違えた?。
表札を確認する、自分の部屋だ。なんで?
目を擦る。確かにいる。
また目が悪くなったか?。眼鏡をかける・・・
>> 111
「死、死ぬなーあおい!」
「た、たたた頼むから目を開けてくれーっ!」
「お、俺が悪かった!なんでもしてやるからお願いだ!」
なんでこうなったのか?。数十分前を巻き戻すと
お部屋に差し込む朝日の中、目覚めた真鍋。毎朝の習慣でジャンパーをパジャマの上に羽織り、自販機前で缶コーヒーを飲みながら、世間話をしつつ目覚めのタバコを楽しむ。
その直前、アパートの階段ですれ違った少女が、あろう事か自分の部屋に倒れていたのだ。
首にはロープが。胸には赤い染みが。側には少女のものだろうパンツが。
我が目を疑い、目を何度も擦り、部屋の表札を確認し、ド近眼ゆえ眼鏡を探してかける。
その少女は
その遺体の少女は
自分に片恋している一回り歳下の小学生。婚約者の妹のあおいだ。
バレンタインデーにひどいことを言ってしまった真鍋。自殺?と思ったが、女の子がわざわざパンツ脱いで自殺するはずがない!。
転んで誤って自分を刺したか、変なおじさんに殺されたか?
そんなことを考えながら、必死に蘇生しようと声をかける。
「そっそうだ!心臓マッサージと人工呼吸だ!」
そう思い、あおいの顔色を再び確かめると
「人工呼吸」の言葉に反応したのか、あおいはチューをして欲しそうに、上目遣いで真鍋を見つめ、そして目を閉じ、唇を突き出している。
「お、おおお、お前って奴は!💢」
「紛らわしいイタズラしやがって!💢」
お姫様抱っこ状態から、いきなりあおいの頭を床に落とす真鍋。
「いっ、痛ぁい!。何よ!臆病者!。襲ってくれると思ったのにぃ!」
「それに倒れてる女の子を、しかも顔をふつう足でツンツンするか?💢」
そんなあおいの罵詈雑言に
よかった、元気になってくれてたんだ!。そう思い
「なあ、あおい、この前は傷つけてゴメンな」
そう、素直に謝ろうとしたら、一難去ってまた一難だ。
謝りながら振り向くとあおいは服を全部脱いでいる。
「お前には恥じらいはないのかっ?!。俺は一応、男だぞ」
「だってぇ、お洋服、血糊り代わりのケチャップでベタベタだもん。洗濯機借りるね!。それに瞬お兄ちゃんロリコンじゃないでしょ」
「それにぃ、毎日お風呂入れてくれてたじゃん。何を今さら」
「それはお前が低学年のときの話だ!」
ため息をつく真鍋。
>> 112
真鍋が振り向くと、あおいは服を脱いですっぽんぽん状態だ。
「お前に恥じらいはないのか!」
「だってぇ、血糊り代わりのケチャップまみれだもん。洗濯機借りるね!」
「じゃ、そこの俺のTシャツ着ろ!」
「何を真っ赤になってるのよ。いつもお風呂、一緒だったのに」
「それはお前が低学年のときの話だ!」
「わたしぃ、お兄ちゃんなら今でも平気だよ?。お兄ちゃんロリコンじゃないんだから。あっそうだ!冷えたからお風呂も借りるね!」
洗面脱衣室のドア越しに真鍋は聞く。
「お前、そう言えば今日は土曜日だぞ!学校は?」
「初等部は昨日からお受験会場だし中等部は卒業式だしでお休みよ!」
バレンタインの真鍋のひどい言葉への仕返しに仕組んだ、死体どっきりイタズラでケチャップまみれの服を洗濯機に入れようとするあおい
ついでに瞬お兄ちゃんのも洗ってあげよう!
脱衣ボックスを開けると、底には、えっちなえっちなVHSビデオが。
脱衣室ドアを少し開いて
「真面目なお兄ちゃんも男の子だったのね、えっちね!」
と、そのビデオを放り投げる。
「うるせえ!要らんことすんなっ!」
「なになに?『おっぱい聖人現れる』だって!ダッサいわね!」
今度は真鍋秘蔵のエロ本のタイトルを読み上げるあおい。
「うわぁー!。見んな!読むなっ!おまえ小学生だろが!」
堪らずに、ついつい脱衣所のドアを開いた真鍋に、全裸姿のあおいの誘惑
「ねえ、一緒に入ろ!。お願い、わたしの髪洗って!昔みたいに」
はあぁー
と、ため息する真鍋。いつもいつも気がつけば、あおいのペースに乗せられる自分へのため息だ。
「今日だけだぞ」
もちろん塾講師の真鍋、遠戚のあおいでも、幼なじみのあおいでも、あおいの脳内の彼氏が自分でも、小学生のあおいと混浴するわけにはいかない。そんなロリコン趣味もない真面目な真鍋は、パジャマのズボンは履いたままだ。
バレンタインデーに自分が傷つけてしまった、あおいが元気になるならと
「頭を洗うだけだぞ!」
だが、あおいのバレンタインデー仕返しのイタズラは、まだまだ終わりではなく、第二弾のイタズラに巻き込まれつつあるのを、真鍋は知らない。
>> 113
パンツ一枚姿のあおいの髪をドライヤーで乾かしてやる真鍋。
極めて新陳代謝の良すぎるあおいは熱がりだ。真鍋のお部屋の窓も少し開いている。その窓から歌声が
🎵静かに~神と交わる
朝の~我が一時(ひととき)
新たに~朝日のごとき
心を~われ持たまし
夜の幕~ややに消え行き
日蔭は~地に漂う
主のほか~我ただ一人
御声を~いざ聞かまし🎵
あおいの大好きな賛美歌だ。礼拝で子ども聖歌隊のソロで歌う予定の歌だ。
そんなあおいの歌声の中、あおいが幼稚園だったときのように真鍋は、あおいの髪をおさげに結ってやっている。甘えきっているあおいに真鍋は
「ほれ、出来た!かわいいぞ!」
「もう熱くないだろ!服着ろ!」
と、乾燥機から出したあおいの服を放り投げる。
あおいの髪を洗ってやるだけのつもりが、バスルームであおいにシャワーかけられ、結果、ずぶ濡れにされて混浴してしまった。小学六年生の女の子と・・・。
俺はロリコンでもないのに・・・。そんな自己嫌悪で、ため息出そうになるが、それでもあおいはご機嫌だから、これはこれで結果オーライかな?。
そう思う真鍋。一方あおいは
待った先生、来るのが遅い!イタズラ失敗かな?
そう思いつつ時計を確認しようとすると、アパート廊下の気配を感じ取ったあおい。イタズラ第三段を繰り出そうとする。
そんなあおいの待ち人、待った先生こと黒百合女学院初等部教師で、あおいの担任で、真鍋の大学時代の先輩かつ親友の松田先生は、アパート外の廊下で、真鍋の部屋から漏れるあおいの歌声に
しばらく待とう。
赤井は上機嫌らしい。赤井と真鍋、二人は仲直りしたのか。良かった良かった。二人が仲直りなら俺が来る必要なかった!。気を利かせて帰ろう!。
そう待った先生が思った矢先
「きゃー!エッチ!」
「お兄ちゃん何すんのよ!やめてぇ!」
「赤ちゃんできちゃう!」
赤井の悲鳴が。
ま、まさか、あの真鍋に限って・・・。いやいや、赤井は俺の教え子だ!助けなくては!
ドアが開き、上半身裸の赤井が服を抱えて泣きながら走っていく
「真鍋!おまえって奴は!俺の生徒になんてことを!」
誤解した待った先生は真鍋の胸倉を掴む。
>> 114
「きゃー!お兄ちゃん!やめてェ!」
「赤ちゃんできちゃう!」
教え子の赤井の悲鳴を聞いた待った先生。
真鍋がこんなことするはずがない!。しかも赤井は真鍋の遠戚だ。何かの間違いだ!。でも赤井は俺の教え子だ。助けねば!。
それまで廊下に聞こえた、二人のデートな声に気を利かせ、真鍋の部屋に入るタイミングを待っていた待った先生。ドアをこじ開けようと
そこにドアを開け、上半身裸で服をかかえて、泣きながら逃げる赤井。これは真鍋の小学生レイプ確定だ!と、そう誤解した待った先生。
「真鍋!おまえって奴は!。俺の生徒になんてことを!」
そう怒鳴りながら、真鍋の胸倉を掴む。
「ち、違う!。松田さん、俺は無実だ!」
「何が無実だ!赤井は裸だったじゃねえか!」
「松田さんも担任なら知ってるだろ!。あいつは熱がりなんだ!。風呂上がりだ!」
「真鍋っ!お前は小学六年生と混浴すんのか!」
「だから、それはあおいが無理矢理・・・むしろ無理矢理に混浴させられた俺が被害者だ!」
「何言ってんだ!お前は武術家でもあるだろが!。小学生に無理矢理に裸にされたとでも言うんか!」
「それは精神的にだな!。あおいが悪魔なの、松田さん担任なら知ってるだろ!」
「うるせえ!お前は小学生か?とにかく警察だ!」
そんなこんなを、廊下で服を着ながら聞き耳を立てるあおい。待った先生の怒りが最高潮に達し、自分に誤解してる待った先生への真鍋の殺気が現れる寸前
「へへへー、イタズラどっきり大成功!」
「お兄ちゃんも待った先生も、わたしのヌード見れたんだからいいじゃない。小学六年生ヌードは滅多に見られないわよ?。はいはい、喧嘩しないの。二人とも先生なんだから」
「お前って奴は・・・この悪魔!」
そんな真鍋と待った先生の怒りと言う、呆れたと言うか、そんな声にあおいは
「待った先生、無関係なのに巻き込んでごめんなさい」
そう頭を下げたかと思えば
「瞬お兄ちゃん、これで身に染みた?」
「わたしを怒らせたらこうなるのっ!」
「きちんと真面目に謝るまでゆるしてあげないけど」
「渡し忘れてた誕生日プレゼント、受け取れ!」
キティーちゃんのリュックサックから包みを取り出して、真鍋に投げつけるあおい。
「編んでたマフラーだよ!。わたし、まだゆるしたわけじゃないからね!。さよならっ!」
>> 115
ひな祭り当日の日曜日、真鍋は塾に誰よりも早く出勤した。
一日も早く、あおいにちゃんと姿勢正して謝らなきゃ!。バレンタインデーで酷く傷付ける言葉を吐いてしまったのだから・・・。そう思う真鍋。
昨日、あおいはバレンタインデー生まれの自分の、月遅れの誕生日プレゼントを、遠路はるばる持って来てはくれたものの、まだまだ怒っていた。
「わたし、お兄ちゃんをゆるしたわけじゃないんだから!」
と、手渡しではなく、投げつけられたのだ。その包みを見ると、苦労した跡が伺える、手編みのマフラーだった。ハートマークと相合い傘マークが半分なのは、お揃いで二つ編んだのだろう。
たまたま親友の黒百合女学院初等部教師の松田先生も、昨日、真鍋とあおいの仲違いを心配して真鍋を訪ねて来ていて。真鍋が転職希望している黒百合女学院高等部に、教師の空きが出来たと知らせてくれて、こんこんと説得されたのだ。
「なあ真鍋、お前が先生になったのは、赤井の一番上のお姉ちゃん、藍子さんだったか、それが赤井の目前で交通事故即死のショックで、失語していた赤井を護りたかったからだろ?」
「中高等部、大学と成績優秀だったお前だ。でもお前は、空きがなくて黒百合の先生にはなれなかったけど塾の優秀な先生だ」
「それでだな、黒百合だが、出産退職で空きが出来たんだ。お前、来い。見てのとおり赤井はお前にゾッコンじゃないか。妹同然の赤井を、ちゃんと最後まで護ってやれ!。お前は赤井のナイトなんだよ」
「いいか、明後日の月曜日、面接だから来るんだ!。話は先輩の俺が学長と高等部校長に通してるから。お前が是非とも欲しいんだとさ」
そんな松田先生に真鍋はまた優柔不断の癖が出る。つか、塾人気講師の職を辞するのを躊躇う。
「松田さん、あおいは見ての通り、いつも気まぐれ成績乱高下だ。俺が傷つけたせいで、入試失敗するはずだし進路変更出来ないはずだ。あおいにはもちろんだが、あおいのパパママに合わせる顔がないんだよ」
「いや真鍋、赤井は見事に入試合格ラインだぞ!。だから黒百合中等部より勉強大変になるんだ。だから、とにかく地元に帰って近くで護ってやれ!いいな!。塾のほうには学長命令で今から俺達が話つけるから」
これは良かれと思っての松田先生の嘘だが、そう真鍋を説得し帰って行った。
そんなこんなを思い出しながら、塾の掃除する真鍋。
>> 116
ここは桜台進学塾。バスが停まり、若い女性が降りる。塾の人気講師の棟上京子だ。塾の先生や生徒にボイン先生と呼ばれることもある。
その桜台進学塾前の道路を若い男が掃除している。
「清掃員さん、おはようございます。ご苦労様です」
棟上先生はちゃんと挨拶する。
挨拶に振り向いた清掃員さんは
その清掃員は、スーツの上着を作業着に変えた、同僚の真鍋先生だ。気分転換にスキンヘッドにし、口髭を蓄え、眼鏡も変えているから、棟上先生はまだ気付かない。
「棟上先生、おはようございます」
その真鍋の声に棟上先生
「真鍋先生だったの?。びっくりしたぁ!。どうしたの?イメチェン?」
「ええ、気分転換に」
「ふーん、良く似合ってるわ!。口髭は正解ね!なかったら宇宙人だけど、ハンサム度パワーアップね。これで生徒もまた増えるわね」
「いや~僕はハンサムじゃないですよ。ちびだし」
「ううん、真鍋先生は強いし小さくてもスポーツできるし、講義おもしろいで人気講師よ!。自信持たなきゃ!」
「それはありがとうございます!」
なんか、いつもと違う真鍋。
おかしい!と気付く棟上先生。
「どうしたの?。真鍋先生、何かあったの?」
「実は僕、今日ここを辞めて学校の先生になるんです。今まで親しくしていただいて、ありがとうございました」
丁寧に頭を下げお礼を言う真鍋
「そんな・・・。それで、どこの先生になられるの?」
「僕の母校と系列だった、黒百合女学院山手校高等部です」
「そうなんだ。真鍋先生、婚約者いらっしゃいましたよね。確か黒百合女学院中央校大学の赤井緑さん。結婚なさるのね、おめでとう!」
「いえ、結婚はまだ先です。実はその緑の妹のあおいが心配で。昔、交通事故のショックで一時失語してましたし、恩師に改めて頼まれましたので」
「そうだったの。それで最近は上の空だったのね。でも強いだけじゃない優しい真鍋先生は素敵よ!頑張って!」
そう応援する棟上先生に真鍋は
「ありがとうございます!頑張ります!」
「淋しくなるなぁ。わたしもね、高校教師なりたかったの。だからお願い!。そこ、空きが出たら教えてね」
「約束します!」
妹同然のあおいを護りたい。
そう決意した真鍋はこの日、辞表を提出した。
塾長に必死に引き止められたが決意は変わらなかった。
>> 117
あおいのスカートに男の子の手が伸びる。いわゆるよくあるスカートめくりだ。
あおいのスカートと言うより、スカートの中身のパンツを狙っているのは、奥手ながらも最近思春期突入した、同い年の幼なじみ剛くんだ。
今日は女の子の日のひな祭り。
目の前に美味しい物があれば、小学六年生でも心はすでにお年頃なのに、色気より食い気のあおい。
真っ先に食欲優先の、誰よりも背が低いくせに新陳代謝の活発過ぎて、お嬢様にも関わらず常時空腹みたいな、そのあおいはママの用意した可愛らしい着物に着替えるのもそっちのけ。
あおいママがゆかり達に着付けしてる隙に、おばあちゃんの作るお菓子につまみ食いしようと、キッチンにそっと手を伸ばそうと、あおいは無我夢中だ。
そんな赤井家に、招かれて一緒にいるあおいの親友のゆかりもカネコも、遠戚の美佐も、剛くんにスカートめくりされた、そんなお昼前。
気付かれずにあおいの背後に接近成功!。スカートまで剛くんの指先はあと数センチ。そして躊躇うことなくスカートを一気にめくりあげる。
あおいのスカートから顔を覗かせたのは、淡いブルーにイチゴ柄のパンツだ。性格は男でも、あおいはもちろん女の子だから
「きゃあ!。いきなり何すんのよっ!」
「隙があるのが悪いんだよ!。それにおとこ女のくせにかわいいパンツ履いてんじゃねえよ。お前はブリーフがお似合いだろ?」
そうからかいながら逃げる剛くん。
油断した!。剛くん最近わたしのスカートめくらないから油断した!。そう思いつつも、剛くんのさっきの、超ムカつく悪口に
「何ですってぇ!。コラ!待ちなさい!」
激怒モードで追いかけるあおい。必死に逃げる剛くん。学校いちばんの駿足のあおい、すぐに剛くんは捕まった。
哀れ、凸凹の刑に処せられる剛くん。もちろん、さっき剛くんのスカートめくり被害に遭った、ゆかりもカネコも美佐も着物姿に着付けも終わり混ざってる。
そんな騒ぎに、とうとうあおいのママ、桃子の雷があおいに落ちる。
「あおいっ!いい加減にしなさいよ!。女の子の日くらい女の子らしくしなさいっ!」
「今からあんたの着付けするから、さっさと脱ぎなさい」
性格が男なあおいは、剛くんの目も気にせずワンピースのスカートを脱ぐ。反対に恥ずかしそうに慌てて部屋を出るのは、さっきスカートめくりした剛くんだ。
>> 118
ワンピースを脱いでパンツ一枚姿のあおいに、新調の着物を着付けようとするママの桃子。そんなときキッチンから声がする。
「桃子さん、ちょっとこっちを手伝って下さらない?」
ひな祭りのご馳走とお菓子を使用人と作っていた、あおいのおばあちゃんは桃子を呼んでいる。側で介添えしてる使用人の山田に
「山田、あおいの着付け、お願いね」
そう言い付けてキッチンに向かう桃子。
そんな中、あおいはじっと、パンツ一枚姿のまま身じろぎもせずに立ってるだけだ。世が世なら山田などお目見え以下の身分、そこらの石と変わらない。
別に今のご時世にお嬢様ぶって、お姫様ぶって高慢してるのではない。パパママの社交を兼ねたひな祭りに姉の緑の代わりに挨拶に出るのだ。政治家も来ている。その儀礼だ。
あおいは自分一人でも着物は着られるのだが、旧武家の格式で控えの者、つまり使用人がいるときは、仕事させねばならない。主人のあおいに着付けし美しく和装させるのが山田の仕事だ。
山田は慣れた手つきであおいを着飾らせていく。帯を締め、日本髪に結い、かんざしを髪に、帯に懐刀を差し込み、香り袋を袂に。活発過ぎるゆえの、普段は庶民と同じような価格の服のお転婆娘のあおいが、上級武家のかわいいお姫様に変身だ。
その変身の一部始終を、憧れの眼差しで同級生のゆかり、カネコ、美佐は見とれている。
「やっぱりあおちゃんかわいい!。本物のお姫様だ!」
そんな羨望のカネコに
「あまりいいものじゃないわよ。窮屈なめんどくさいだけだから。ゆかちゃん、カネちゃん、行ってくるけど挨拶するだけだからすぐ戻るね。一緒に食べて遊ぼうね。わたし、こんな古臭い格式、大嫌い。だいたい緑お姉ちゃんと紫欄お姉ちゃんが逃げたから。なんでわたしが窮屈な目に・・・」
「まあまあ、怒らない怒らない。あおちゃん行こう」
同じく旧武家のあおいの遠戚の美佐も、分家筋としてあおいの介添えだ。赤井家道場の大広間に待つあおいの祖父と父の下に、あおいの後ろを静々と歩いていく。
数十分後、気疲れしたあおいは、同級生の前でまたも、やけ食いに走る。そのあおいの食べっぷりに
「あおちゃんすごーい!男の子みたい!カッコイイ」
わけわからない感心してるのは、お呼ばれのゆかり・カネコ・美佐に遅れて来た、ちはるとみずきだ。こちらは洋のドレス姿している。
>> 119
赤井家の広いダイニングに、あおいの祖父と父を除く皆が揃う。もちろんお呼ばれの、美佐もゆかりもカネコもいるし、習い事で遅れてきた、みずきもちはるも、あおいに恋心の剛くんもいる。
本来はちらし寿司を予定した、あおいのママの桃子だが、美佐のママの美樹子から、美佐が今朝初潮を迎えたのを聞いてお赤飯だ。
鯛の塩焼きに様々なお刺身、はまぐりと海老の酒蒸し、鶏肉と卵と茸のお吸い物、春の和え物と春のお浸し、菱餅を模した和風のケーキにお持ち帰りの桜餅・・・。
社交の宴の、これまた赤井家の大広間と比べたら質素だが、それでも、あおいや同級生の初等部卒業祝いも兼ねたご馳走だ。
そんな中、姉の緑と従姉の紫蘭の代役で挨拶だけだが、社交に出て窮屈な思いで気疲れしたあおいはやけ食いに走る。
同学年でいちばん小さい体なのに、信じられぬスピードでお腹に納めていくあおいの、そんな食べっぷりに
「あおちゃんすごーい!男の子みたい!カッコイイ」
なんて、わけわからない感心しているちはるとみずき。そして性懲りもなく限界突破まで勢いのままに食べつくし
「苦しい!食べ過ぎたぁ!」
なんて後悔するあおい。
そしてあおいのお部屋に。最初は女の子らしい遊びに我慢して付き合っていた剛くん。でも、ちはるとみずきがトイレに立とうとすると、二人へいきなりのスカートめくり。
ついにキレたあおいにより当て身され、ベッドに縛り付けられてしまった哀れな剛くん。
「ねえ、コイツ何刑にする?」
「もちろんズボンずらし解剖ごっこでしょ」
そんなあおいと美佐に、剛くんラブなちはるとみずきは
「あおちゃん、アホは放置がいちばんよ。三日くらい縛っとけば?」
あおいの気まぐれな性格、コロコロ猫の瞳のように気分が変わるのを知っての、剛くんへの助け船だ。
「えーっ!ちはるぅ、みずきぃ、パンツ見られてゆるすの?」
不満なあおい。そんなあおいに頭のいいカネコはささやく。
「ねえ、あおちゃん、剛くんはわざとあおちゃんの気をひくためにしたんじゃない?。剛くんがまたスカートめくり始めたの、バレンタインからだよ。落ち込んでたあおちゃんを怒らせて元気にしたかったんじゃない?」
おやつを食べ終わるころ、あおいはカネコにささやく。
「わたし、剛くんを見直してみようかな?」
想い患いひな祭り
恋の決意の時間 完
《初恋との別れ? 卒業式の時間》
「困るよ、松田先生。話が違う。どう見ても彼は危ないじゃないか」
そう話をしてるのは、幼稚部から高等部までがある、黒百合女学院山手校の安倍学長だ。別に学長と言っても、いちばん偉いわけではない。
大学部と専門学校部がある黒百合女学院中央校に、もう一人対等な学長がいる。
そして安倍学長の上に上曾根康尋総学長がいるから、いわゆるナンバー2だ。
その安倍学長、初等部の松田先生が推す高等部教師採用面接に来た、あおいの想い人の真鍋瞬と、トイレで出くわしてしまったのだ。
それで、困るよ!松田先生!になってしまった。
そんな真鍋瞬の、今日の出で立ちは
スキンヘッドに眉毛のない彫りの深い顔に口髭、おまけにスーツは限りなく黒な紺色、拳には拳タコ、おまけに右頬には刀傷。どう見てもあのスジの人か宇宙人。
彼のために弁護してみる。
スキンヘッドは、彼、真鍋の婚約者の妹のあおい、一回り年下だが、勝手に真鍋を自分の彼氏に決め込んでいて、バレンタインデーにうっかり真鍋があおいを傷つけてしまい、その罪悪感から気分転換に髪を剃っただけ。
限りなく黒な高級そうなスーツは、お洒落だがずぼらな二面性の真鍋が、採用面接に慌て、親友の松田先生のスーツを借りているだけ。ヤクザファッションは松田先生の趣味で、真鍋の趣味ではない。
拳に拳タコで喧嘩が趣味か?、な両手は、彼が八極拳と空手の先生でもあるからだ。行きがかり上で実戦の喧嘩の意味の試合は、何度も体験してるが、彼は平和主義者だ。いや優しすぎて、勝てる喧嘩もゴメンナサイと謝り、避ける人間だ。
右頬の刀傷も、崑圄剣という剣術を習う際、試合形式の練習で学生時代に受け損ねて出来たものだ。
さらに眉毛ないのは、あおいがデートに連れていけ!と、お休みの日はゆっくり寝たい真鍋の、立派すぎる眉毛にガムテープを貼っては剥がすいたずらを繰り返すから、いたずら防止に自ら剃ってるだけ。
まあ、口髭だけは弁護出来ない、不精髭にしていたら、それカッコイイわね!似合うわ!と、前の職場の女性講師に誉められたゆえだから。
と、まあ後輩思いで親友思いの松田先生が、真鍋を必死に弁護した結果、真鍋は前職の塾での、優秀なる人気講師だったのが決め手になり、採用が決まりホッとする松田先生と真鍋。
そんなひな祭り翌日、あおいは・・・
>> 122
その頃あおいは、エスカレーター進学できる黒百合女学院中等部ではなく、お受験した共学の中学校の合格発表を見に来ていた。そこにいるのは、あおいを含む黒百合初等部の成績上位常連だ。
しかも学年トップの桃井カネコ、次席の高田ゆかり、4位の立花美佐まで含まれている。実は受験した多くが、あおいに付き合ってのお受験してるのだ。
さらに、あおいの赤井家は高額寄附トップだ。美佐の立花家は3位の高額寄附だしゆかりの高田家は6位の高額寄附家庭だ。
これでは黒百合女学院が、あおいの真鍋への恋路を無視できず、真鍋を高等部教師に採用する理由が頷ける。トップクラスの頭脳と寄附の十数名を、むざむざ他校にそれも一学校にまとめて与えねばならぬ謂われはない。
「あったー!わたしの番号あったー!」
何と言う幸運!。気まぐれ気分次第でテスト結果が乱高下する、このわたしが合格!。飛び跳ねて全身で喜びを表現するあおい。そして、お付き合い受験していた、黒百合初等部のトップクラスの頭脳、明暗が判明してくる。
お受験していた、あおい五人組は全員揃って見事に合格だ。てか黒百合からの受験生の、ほとんど全員合格だ。望みさえすれば共学校に行ける喜びを、肩を組んで表現するあおいたち・・・。
そんな合格発表の帰りの、黒百合近くのマクドナルド。ここはあおい組の溜まり場だ。さっき肩を組んで喜びを分かち合ったものの、皆を自分に巻き込んだらいけない!そう思うあおい。
「ゆかりぃ、アンタ付き合わなくていいのよ?。待った先生が好きなんでしょ?。側にいなきゃ取られちゃうよ?」
「カネコもね、今のまま黒百合で内部奨学受けたほうが、カネコには絶対に得だって!。わたしに付き合ってついて来ちゃダメよ」
そう二人に話してるのは、今日で仲良しあおい組を解散するつもりのあおいだ。続けてちはるとみずきに
「ちはるぅ、みずきもだけど、剛くんね、見直してよく考えてみたら、剛くんって素敵だよね!。瞬お兄ちゃんを諦めたわたし、今日からアンタらのライバルだからね!」
「美佐ぁ、中等部の後藤亜希ちゃん知ってるよね?。自分を男の子って言い張ってる子。美佐が好きなんだって。だから黒百合に残ってあげたら?」
「じゃあね!今日はわたしのおごりだ!」
そう立ち去るあおい。
「あおちゃん、待ってよ!」
ゆかりたちの声がむなしく響く
>> 123
「先生にはぁ、エッチな意味でお世話しました!って感じ?」
職員室でそうふざけるあおい。
「出てけっ!。さっさと(クラスに)帰れっ!」
久々にキレて真っ赤になって、そう怒鳴る松田先生。
数十分前、途中マクドナルドで仲良しの皆とランチしたものの、ちゃんと午後の授業に間に合うよう、児童副会長兼級長として、中学校お受験の合格発表のニュースを持って職員室に報告に来たあおい。
「入試のとき体調悪かった芳谷明恵ちゃん除いて、全員合格でしたぁ!」
そんな、あおいのニュースに歓声と残念がる声が。もちろん残念がってるのは、芳谷明恵の担任だ。そして、あおいを黒百合に残らせたいと思ってる松田先生だ。
「そうか、合格したか!よかったな!。お受験どころじゃなかったのに、赤井、よく頑張ったな!」
クラス担任の建前でそう返す松田先生。しかし
「それでどうするんだ?。黒百合やめて国立とかその付属とか行くのか?。人気者のお前だ、皆が淋しがるぞ」
松田先生が泣き落とし作戦をあおいに繰り出すのは
他の中学に行くより黒百合の中等部で伸び伸びしたほうが、赤井は幸せだと思うし、赤井の想い人の真鍋が黒百合高等部教師に採用されてるからだ。いや、実は赤井を他校に行かせないために、黒百合は真鍋を採用したのだ。
あおいはしつこいのが大嫌い逆効果なのに、しつこくする松田先生。
「お前は成績トップクラスと頭いいけどさ、どっちかと言えばお前は体育会系だ。よそ中学行くと勉強大変になるんだぞ。それに実は俺、お前とは仲悪かったけど、お前がいなくなるのはさ、物凄く淋しいんだよ」
そんな松田先生にあおいは
「なに言ってるの!。待った先生にはゆかりちゃんって彼女いるでしょ!。それからわたし、もう学校来ないからね!。わたしのために皆が進路変えるのは間違ってるから!」
「お前、こら!赤井!6時間目は卒業式練習だぞ!。ほら、仰げば尊し、ピアノ出来るお前が練習させることになってるだろ!」
「なんでわたしが待った先生なんかに感謝の歌を歌わなきゃいけないのよ!。むしろ」
「むしろ、一昨日も修学旅行でもヌード見せてあげたみたいに、どっちかと言えばぁ、童貞な待った先生にわたしがエッチな意味でお世話しました!って感じ!」
「わぁー!誤解されるだろが!さっさと(クラスに)帰れ!」
そう叫んでしまう松田先生
>> 124
「童貞のかわいそうな先生にぃ、わたしのヌード二回も見せてあげてぇ、卒業までお世話になりました!ってよりはぁ、エッチな意味でお世話してあげました!って感じよね?」
そんなあおいに、ついつい叫んでしまう待った先生。
「わぁー!誤解されるだろが!。さっさと(クラスに)帰れっ!」
「きゃ!怒った先生って、カワイイ!」
そう職員室を後にし、クラスに戻る。
入試合格の報告はしたのだからと、もう学校には来ないつもりで、卒業式にも出ないつもりで、教室の机の中からロッカーからと、荷物を纏めていて、ふと自分を見つめる視線というか気配に気付くあおい。振り向くと
四年生の雪穂が今にも泣き出しそうな瞳で自分を見ている。
「あら、雪ちゃんどうしたの?いじめられた?」
仲良しの剛くんの従妹の雪穂に、そう優しく声をかけるあおい。
「せんぱいっ!。せんぱいとはお別れなんですか?」
「わたし、わたし、せんぱいと離れたくないっ!」
なんで?。なんで、それ知ってるの?
そう思いながら
「馬鹿ねえ、中等部はすぐ隣の校舎よ。会いたかったら、いつでもいらっしゃい。そしたら淋しくないでしょ?」
「ウソ言わないで!。せんぱいは他中学に行くの、わたし、わたし知ってるの!。せんぱいが好きなの!離れたくないよぉ!」
「何言ってるの?。違うわよ。運試しに受験しただけなんだから」
誰よ?わたしが他中学行くのを漏らしたのは・・・。
雪穂を宥めながら頭を巡らすあおい。
みずきかちはるね。あの子たち剛くんラブだから。そう気づき頭が痛くなってくるあおい。
そもそも、あおいが黒百合から他中学に行くのを決めたのは、想い人だった真鍋が、黒百合女学院の高等部教師を志望してるのを知っているからだ。
まだ小学生の自分は大人の女の子には勝てない。あおいはそう思い、真鍋を諦めることにしたのだ。姉の緑なり他の女なりと結ばれた真鍋のしあわせな顔を見るのは辛すぎる。そう思って。
が、まさか後輩の雪穂が自分に百合の恋していたとは。
うーん、嘘は嫌いだし、でも黒百合の中等部には行きたくないし。どうやってこの場を切り抜けよう・・・。
>> 125
黒百合女学院生徒心得その二
己の掲げた旗は決して無責任に降ろすべからず。
あおいは気まぐれ気分屋だが、言行一致の有言実行は心掛けていた。旧武家育ちの女の子として、物心つくまえから、そう厳しく躾られてるからである。
それが今あおいを縛る。それは
それは
自分に百合な片恋している、幼なじみの雪穂が今、あおいにしがみつき、黒百合初等部卒業し他の中学への入学に進路変更しようとしている自分に
「せんぱいと離れたくない!」
と思い詰めて涙を流しているからだ。
夏休み前、おとこ女!と言われるまではボーイッシュな、ベリーショートな髪型で、スポーツ得意で喧嘩っ早く強い、しかも乱高下はしても平均したら成績まで良く、黒百合初等部の百合な女の子たちからは、憧れの先輩みたいな人気あったあおい。
この雪穂も隠れあおいファンな女の子だったのだ。
仲良しの剛くんの従妹だから親しくはしていたし、勉強もスポーツも見てやっていたあおい。でもそれは気付かなくて、雪穂のいきなりの百合カミングアウトに、あおいはノーマルゆえに動揺し
「馬鹿ねえ、初等部卒業しても中等部は隣なんだから淋しくないでしょ。会いたかったらいつでもいらっしゃい」
「他中学を受験したのは、ただの運試しなんだから」
と、ついつい嘘を言ってしまったあおい。
黒百合の高等部に、優秀ゆえにいずれは教師採用されるであろう、真鍋への片恋を諦めたあおい。その真鍋との教師と生徒の関係は辛すぎる。そう思いさっき仲良し同級生とわざと仲違いしたあおい。もう学校には来ないつもりで
これでは他中学に入学しても、黒百合の中等部に入学しても、どちらかに嘘をついていたことになってしまうからだ。
考えあぐねた末に、雪穂を宥めるために口を開いたのは
「ねえ、雪ちゃん、あなた剛くんの従妹なんだから、剛くんのお家に来たら、いつでもわたしに会えるじゃない!。だって剛くん、わたしの家の真ん前に住んでるんだから!」
「これって、他の女の子とは違う二人の関係だよね?。それに今までも勉強にスポーツ、教えてあげてたでしょ?。これからも変わらないのよ」
「その印しに今から遊びに行かない?。二人だけで学校エスケープしましょ」
>> 126
「おっぱー先生、熱で早退したいので体温貸してください」
そう、ここは黒百合女学院山手校の本館保健室。
おっぱー先生というのは、あまりの巨乳ゆえのボインを超えて、おっぱいがドシン!な感じの、まだまだ新米な美人先生だ。
「先生おはようございます」が、何時しか「先生、おっぱー」になり、今や幼稚部や初等部の生徒におっぱー先生と呼ばれている石内先生が、あおいに体温計を差し出す。
ベッドのカーテンの向こうに行くあおいと雪穂
「雪ちゃん、今から見るのは大人になるまで真似しちゃダメ。背が伸びなくなるからね」
そう言うとあおいは、両手を動かしながら深く息をする。
武術氣功だ。打撃時の破壊力アップと撃たれた時のダメージ軽減のためのものだが、全身の筋肉を使うため血行も良くなり体温も上がる。が、背が伸びなくなる副作用が人によっては現れる。
そうして二本の体温計を脇に挟むあおい。すぐに効果が出る。実はあおい、この手で何度も学校エスケープしてるのだ。
「おっぱー先生、38度でした!」
「あら!またやったわね!汗ばんでるじゃない!」
そう、バレているのだが、おっぱー先生をすでに抱き込んでいるあおいだ。ため息をつきながらだが、おっぱー先生は
「バレないようにね」
そう言って帰らせてくれた。
その頃、昼休憩の終わりを告げるチャイムが初等部側に鳴り渡る。六年一組のクラスに、遊んでいたグランドからあおいのクラスメートが帰ってくる。
五時間目の社会の授業に教室に来た待った先生、あおいがいないのに気付く。そんな頃
「先生、遅くなりました!ごめんなさい!」
そう言ってカネコたちが、合格発表の帰りにあおいとランチしていたマクドナルドから慌てて飛び込む。授業遅刻を謝り席につこうとするゆかりが気付く
騒ぎ出すあおい組の五人娘。いや、あおいはさっきエスケープしたから四人娘だ。
さっきのあおちゃんの言葉は、いつもの悪ふざけや気まぐれじゃなく、本気の別れだったんだ!
「先生!あおちゃんを探してください!」
「わたしたちも探します!」
「待て!授業中だ!まず説明しろ!」
クラスの引き戸が開く音。顔を覗かせたのは、おっぱー先生。
>> 127
「松田先生、ちょっといいかしら?」
五時間目の授業中、クラスに顔を出した保健室の石内先生。
「お前ら外に出るなよ!」
クラスにあおいがいないから
あおいちゃんは本気で自分達と別れるつもりなんだ!。と騒然となっていた六年一組。その様子を業務連絡に来て見ていた石内先生は、松田先生に持ちかける。
「松田先生、ここは女のわたしの方が。任せてくださる?」
「えっ?。でも私のクラスですし」
「松田先生は女心に鈍いじゃないですか」
渋々クラスを任せた松田先生。
珍しく教壇に立つ石内先生
「皆さん、赤井さんは四年生の唐沢雪穂さんが発熱したので、雪穂さんを送って帰りました。赤井さんにも熱があったので、赤井さんにも早退許可しました」
「そういうことにしてあげてね」
「でも、先生、あおちゃんは・・・」
「そうです!失恋したばかりです!心配・・・」
そう反発するゆかりたち。ゆかりは待った先生が大好きだから、同じく歳の差の恋してるあおいが心配なのだ。
「だから早退したことにしてあげてね。」
そう話しはじめる石内先生
「皆さんにも好きな人、いるでしょ?」
「皆さんの好きな人が、自分が一番仲良い人の恋人になっちゃった。先に自分が付き合ってたのに奪われた。皆さんはそのラブラブなしあわせを近くで毎日見て、その上に笑って応援できますか?」
「赤井さんは、好きな人を自分のお姉さんにあげたんです。いいえ、そうすべきか迷ってるんです」
「皆さんはお友達が信頼できないの?。赤井さんはいつも皆さんを守ってたんじゃないの?。中等部や高等部の先輩の理不尽から」
「気持ちが決まって落ち着いたら、また来てくれるんじゃないの?」
「で、一緒にいるのは、赤井さんに恋してる雪穂ちゃん。赤井さんが雪穂ちゃんの想いを無視する、そんな冷たい女の子じゃないのは、仲良しの皆さんは知ってるよね?」
「雪穂ちゃんたちを心配で放っては置けなくて、帰ってくるかも知れない。そんな赤井さんの性格は皆さんが知ってるよね」
「見えないふりするのも優しい応援です。わかるわよね?」
ゆかりや美佐は泣き出してる。
これで良し!と思う石内先生。
「じゃ、クラス運営、クラスの方針は松田先生と皆さんで決めてね」
クラスを出て
次は雪穂ちゃんのクラスね
四年三組に向かう石内先生。
>> 128
♪掴まれた腕に振り向いて
抱きすくめられて動けなくなる
俯いた頬を掌で掬って
唇を重ねた 狂おしいほど
車を停めて 海岸線歩いた
細い月が 蒼く照らしてた
あなたの歩幅に合わせて
歩いてみた
ねえ、きっと、あなたで良かった♪
ここは、てか今の時空間は、あおいが黒百合女学院高等部を卒業した日の黒百合山手校牧師の教会礼拝堂。今日は結婚式である。もちろんあおいの。
チャペルつまりキリスト教の教会にしては珍しく、賛美歌や聖歌にゴスペルではなくポップス、谷村有美の『恋に落ちた』を、教会音楽師が演奏し聖歌隊が歌っている。幼稚部から高卒まで聖歌隊に長年協力してきたあおいの、その好みに配慮だ。
2時間前に卒業式の終わった黒百合女学院山手校講堂脇の講師準備室では、結婚式のため隣接の希望ホーリネスチャペルに向かうあおいを、同級生のサナとうなが祝福しつつ、ウエディングドレスに着替えるあおいのメイクやらを手伝っている。
二人ともあおいに失恋し、「百合なわたしのいい女」を男に奪われているのに・・・
初等部時代は、誰よりもちびなくせに、異様に強いあおいに一目惚れが、あおいとの友情のきっかけだったサナとうなの二人。
サナの場合は、たまたま、酒癖悪く電車の乗車マナー悪い男に激怒したあおいによる、実戦シーン目撃だったが、うなの場合は、悪意であおいに絡んで負けたのだ。これはうながあおいに一目惚れした日の回想である。
時空間は共学の私学附属中等部、もちろん黒百合ではないそこの受験合格発表日に戻る。
ほんの少し昔までは黒百合女学院の系列だった、黒川学院初等部に通う剛くんに初恋のあおいの親友、クラスメートのみずきとしおり。あまりの剛くんラブな気持ちから、あおいラブな剛くんに
「あおいはどこの中学に行くんだ?」
と問い詰められた二人は、あおいが進路変更しようとお受験したことを漏らしてしまった。その話は、またまた剛くんの家に遊びに来ていた従妹の、百合なあおいラブの唐沢雪穂の盗み聞きされることになってしまい
もう黒百合女学院初等部の卒業式にすら出ないつもりで、教室の荷物を纏めていたあおいに
「せんぱいと離れたくないよぉ!」
と、雪穂があおいに抱き着き涙した時空間に戻るのである。
>> 129
「あおいせんぱいと離れたくないよぉ!」
お受験合格したのだからと、叶わない一回り年上の想い人の真鍋瞬への片恋を諦めて「九つ上の姉の緑に彼をあげよう!」と、そう決意し
黒百合女学院初等部の卒業式にすら出ないつもりで、もう学校には通わないつもりで、教室の荷物を纏めていたあおいに、百合な片恋にそう涙を流しながら抱き着いて駄々をこねる雪穂。
「ねえ、雪穂ちゃん、あなた剛くんの従妹なんだから、剛くん家に遊びに来たら、いつでもわたしに逢えるじゃない!。だって剛くん家はわたしの家の真ん前なんだから!」
「これって、黒百合の他の女の子とは違う、わたしと雪穂ちゃんだけの特別な関係でしょ?。その印しに今から二人だけで秘密のエスケープしましょ」
そう雪穂を宥めたあおい。
そうして黒百合の初等部を抜け出し、あおいが雪穂と二人で潜り込んだのは
中高等部にもなると、遠方からの学生も存在するために設けられている黒百合女学院学生寮の一部屋。あおいが「お姉ちゃん!」と、いつも甘えている、高等部の倉橋しおり先輩のお部屋だ。
一足早く春休みになっている中高等部。
「しおり先輩!あおいです。お邪魔していいかしら?」
そうノックするあおいに
「あんた、悪い子ね。またエスケープ?」
自分だってエスケープ常習犯なのに、いや、だからこそ、そう微笑みながら
「いいわよ!入ってらっしゃい!」
とドアを開けたしおりは、一階の学生食堂備付けの巨大なる共用冷蔵庫から、ジュースとアイスを持って来てくれた。
「で、今日は如何なるわがままでのエスケープなのかな?」
「しおりお姉ちゃん、中等部のときの制服、貸してください」
しおりは初等部中等部のころはあおいのように、学校いちばんのちびな女の子で、高等部から一気に背が伸びたのだ。だからしおり先輩の制服ならわたしも雪穂ちゃんも着られるはず!。そう思うあおいの、今からゲームセンターに繰り出したい変装アイデアだったが
「ゴメンね、制服、緑先輩が同人資料に持ってったわ!。わたしの昔の私服なら貸すけど?どうする?。それともわたしが保護者になれば安全じゃない?」
>> 130
「ゴメンね、わたしの中等部時代の制服ねえ、緑先輩が同人資料に持って行っちゃったの。でもそのころのスカートとかなら、この前やっと緑先輩が返してくれたからあるわよ?。で、わたしが保護者になってゲーセンのほうが安全じゃない?」
そう提案するしおり先輩。
「しおりお姉ちゃん、頭いい!。やっぱ、従うべきは美佐みたいな亀の甲じゃなく歳の功ね」
「歳の功って何よ!失礼しちゃうわね!。わたし、まだ花の女子高生だよ!。くすぐりの刑だあ!」
ふざけあうしおりとあおいに雪穂。
ひとしきりふざけあって、そろそろ行きましょ!と、街に繰り出す三人。あおいも雪穂も、美容師やファッションデザイナー志望のしおりにメイクしてもらって、少し年上に見える出で立ちだ。
「やったぁ!。やっとルナちゃんをゲットぉ!」
そう騒ぐのは、ゲームセンター初体験の雪穂。しおり先輩にメイクされて、童顔中学生を装っても、やはり小学四年生。同じ小学生でも内面が悪魔のあおいと違い、雪穂が大人ぶるのには無理があった。
クレーンゲームで、美少女戦士セーラームーンのペット猫のルナをゲットした喜びにはしゃぐ雪穂は、すぐ後ろの自販機コーナーの住吉うなとぶつかってしまった。
ぶつかられて、転んで、カップジュースをこぼし、お気に入りのワンピースに染みをつくられたばかりか、カップ麺も買おうと握りしめた小銭までばらまいてしまったうな。慌てて小銭を拾ったものの、足りないばかりかポケットのお財布まで行方不明に。
当然のごとくキレた、東京出身のうな
「てめえ、さっきからはしゃぎまくって、ウルセえんだよ!。どこのカッペだ!」
ここは京都、昔から京都に住むあおいたちにすれば
「こっちは陛下を貸してやってるの!。東京?。関東じゃん!。関所の東の果ての僻地だったじゃん!。吹きだまり寄せ集めのお前らがカッペなのよ!」
あおいならそう絡まれたら、間違いなくあべこべにそう絡み返すのだが、恐そうなお姉さんに初めて絡まれ震える雪穂には、その余裕はない。何てったってまだ小学四年生だし、あおいのように武術家の孫娘や娘という特殊事情で強いわけでもないのだ。
「どうしてくれるのよ!このワンピの染み、無くした小銭と財布!」
雪穂の胸倉を掴みあげるうな。
震え上がり真っ青な顔で
「ご、ご、ごめんなさい!ゆるして!」
>> 131
「このワンピの染み、無くした財布、どうしてくれるのよ!」
そう雪穂の胸倉を掴みあげ、平手打ちするうな。
「ごめんなさい!ママに言って弁償します!もうゆるして!」
泣きそうな雪穂。
「ママに弁償させる?。子供の喧嘩に親を出すな!卑怯者!」
ますます怒りの火が燃え上がるうな。
「ご、ごめんなさい!。うわぁん!。あおいお姉ちゃん!助けてよぉ!」
泣き出した雪穂。
しおり先輩にメイクして貰ったものの、馴れないメイクに気持ち悪さを感じ洗い流していたあおいは、トイレの外の雰囲気に、「何事?」と出てきた。
そんなあおいに雪穂の泣き声が届く。見ると、同い年か少し上の女の子が雪穂の胸倉を掴んでいる。駆け寄るあおい。
「あんた!わたしの後輩に何してんのよ!」
「そうかい、こいつが騒いだせいで出来た、ワンピの染みと無くした財布、どうしてくれるの!」
「雪穂ちゃん、それ本当?」
そう聞きながらしおり先輩を目で探すあおい。しおり先輩は外の公衆電話だ。仕方ない、自分でなんとかしなきゃ。そう思うあおいに
「わたし、わたし、弁償するって謝ってるのに叩かれた!」
「何ですってえ!」
雪穂が悪いなら素直に謝り、代わりに弁償する気だったあおい。それを聞いてキレる。
「あんたさぁ、わたしより偉そうにすんじゃないわよ!。わたしは黒百合女学院の赤井あおいだ!」
「そうかい!わたしも黒百合だよ!。わたしが顔を知らないってのは初等部だね!。生意気な!」
「ふうん、わたしを知らないってのはお嬢様なりすましの外部入学生だよね?。知らないよ?わたしと喧嘩してどうなっても!」
「ふーん、面白い子だね、かかって来なさい!」
掌打を挨拶代わりに撃ち込むあおい。手加減しているが八極拳の金剛八式の震歩探馬掌、あおいの祖父の系統にしかない、一歩で三連打を撃ち込む特殊な技だ。ボクサー並のスピードを持つあおいのそれを避けた人はいない。
うながあおいの腕を掴みながら背後に回る。あおいも反応し、掴まれた手を小纏でほどき、うなの背後を取ろうと、八極拳の歩法を劈卦拳の歩法に変化させ劈掌から靠につなげるあおい。それをかわすうな。
は、速い!。それにこの身法は八卦掌か合気道?。まあ、かなり手加減してたから
そう思うあおい。うなはうなで
危なかった!。この子、速過ぎる!。
>> 132
「ふーん、面白い子だね。かかって来なさい」
そうナメたことをうなに言われたあおい。挨拶代わりの掌打、八極拳の金剛八式の震歩探馬掌を撃ち込む。一歩で三連打の特殊な打撃だ。高校生ボクサー並のスピードのそれを、うなはかわしてあおいの背後に。
いや、かわした瞬間、うなはあおいの手を掴み、捻りあげて投げにいく。が、あおいも反応し小纏(手首を掴まれた際、体重落下で振りほどき逆に関節技に変化する)で逆にうなの手を捻りあげ、うなの背後を取ろうと八極拳の歩法から劈掛拳の歩法に変化させ
震歩劈掌(腕全体で敵を地面に叩きつける)から八極小拳の打開(両腕を左右に打ち開き吹き飛ばす)を応用した後靠(肩甲骨での体当たり)につなげるが、危うくうなは全てかわす。
この子、速いわね。この入り身は八卦掌か合気道?。まあ、かなり手加減してるから。そう思うあおい。
うなはうなで、この子、速すぎるっ!危なかった!、油断した!。そう思う。
「ふーん、あなた、ちびなくせに強いのね。」
「お姉さんこそ速いくせに逃げ回るだけなのかなぁ?。もしかして先制攻撃が苦手とか?。ねえ、肩で息してない?」
「減らず口は勝ってから言うものよ!」
喋り終える前に、脇見したあおいに両手の手刀を打ち込むうな。実は先制攻撃したら間合いの差でかわされると考えたあおいが、わざと脇見したのだが、うなは誘い込まれたと気付かない。
力いっぱいの左右手刀の連打をあおいに打ち込むうな。それを大八極拳の大纏(両腕を地面に垂直に回し攻撃を受け流す)で絡めとり、裡門(敵の構えや攻撃の両腕の間(外側は外門))に入ったあおい。捨身法だ。
床を踏み抜くかのような震脚で、うなの足甲を踏み付けると同時の掌打がうなの顎を捕らえる。八極小拳の震歩弾陽掌の応用で、本来は入り身した真下から顎を打ち上げ砕く打撃だが、地面に押し倒す足払いからの投げ技に手加減したあおい。
体の中で嫌な音を聞いたうな。立ち上がろうとするが足に力が入らない。
「雪穂っ!しおりお姉ちゃん呼んで!。こいつ病院に連れて行かなきゃだから!」
そう言いながら面子を立てるあおい。
「あなた、強いわね。あれが両手の中段突きだったら受け流せずにわたし、負けてたわ。あなた、合気道か何かしてるでしょ?。今度教えてね」
「でも足首が折れてなければいいんだけど、とりあえず病院行きましょ」
>> 133
あおいに足甲を思いっきり踏み付けられると同時かのような、そんな足払いと顔面への掌底で後ろにのけ反らされ、押し倒されたうな。体の中で何かが軋むかのような嫌な音を聞いた。
それでも立ち上がろうとするも、立ち上がれない。
「安静にしたほうがいいわよ。手加減したから折れてないはずだけど、角度によっては最悪粉砕骨折だから。でも、あなたみたいに強い女の子、わたし初めて。ちゃんと病院に連れてってあげるから休んでて」
そう言うとあおいは、雪穂にしおりお姉ちゃんを呼びに行かせ、自分はトイレのバケツに水を入れうなの足を入れて冷やしてやる。
雪穂に全てのあらましを聞いたしおり先輩。わたしが目を離したせいだ!と、あおいの従姉の紫蘭に電話し、紫蘭ママの春子に車で来て貰う。
いや、目を離したのは理由があり、雪穂をちゃんと面倒見てますからと、雪穂ママに連絡してたのだが。この事態になったからには、最早それは言いわけである。
実は赤井家の道場生でもあるしおり先輩、いきなりあおいパパやあおい祖父に報告したら、みんな揃って叱られると思っての、ワンクッションだ。
紫蘭ママ春子の車は皆を乗せ、真鍋の実家に向かう。真鍋外科医院だ。
真鍋外科に向かう道すがら、うなは疑問に思う。自分から悪意で売った喧嘩だった。あおいはちびだったから。そして、制服可愛さに黒百合中等部にせっかくお受験合格したのに、周りはお嬢様ばかりで楽しくない。
初等部からの内部進学組はすでに仲良しグループが出来ていて、内気だった自分はそんな輪に入る気もせず、入学一月もしないうちに学校に通うふりして小学校時代の悪友や先輩のグレた?グループと遊びまくり始めた自分。
案の定、黒百合女学院中等部の鬼教師、風紀担当の黒木先生の耳に不登校の報告が。当然ながら黒木先生がうな宅に家庭訪問。うなママ和恵の知るところに。
「おたくの娘さん、一週間しか通学してません。病気や怪我ならまだしも、サボってゲームセンター通いみたいですね。そんなに休みたいなら来年度まで休んで貰います!。黒百合は公立ではないので来たくないなら構わないんですよ?」
床に額をこすりつけるかのように黒木先生に謝るうなママ和恵。
結局、今さら友達グループ入りは無理だし、黒百合から公立中学編入は格好悪すぎてイヤだ!との、うなの言い張るわがままで、書面上は病気療養に。
>> 134
うなは悪意であおいに喧嘩を売ったのに、手加減して勝った勝者の余裕か、優しくしてくれるあおい。どうせお嬢様育ちの世間知らずな気まぐれでしょ!との思いが頭に浮かぶが、怪我させられた!と逆キレる、そこまで悪人になれないうな。
「なんで優しくするの?。わたし、惨めじゃん?。今まで学校サボりした理由がお嬢様嫌いだったのに・・・。勝ったからといい気にならないで!。わたし、格好悪すぎる!」
そう泣きながら叫ぶうな。うなを宥めるあおい。
「なんで?、あなた先輩でしょ?。同じ学校の友達なら優しくするの当たり前じゃない!。それにあなた、手加減してたでしょ?」
「あなたの体格なら、体重を乗せやすい中段の突きでわたしに楽勝できたよね?。それ知らないあなたじゃないよね?。手加減してたよね?」
「たまたまわたしが小さいからスピードに乗りやすくて勝てただけ。パワー対パワーになったら絶対に負けてたわ。あなただって強い女の子じゃん!。で、わたし強い人には甘えちゃうの。よかったら友達になってよ。お願い!お名前教えて!。わたし、春から中等部だから」
それを聞いてたしおり先輩。
「あなた、もしかして一週間くらいしか来てない、確か住吉うなちゃん?。心配しなくても、あおいにお嬢様嫌いしなくていいの。この子の大親友は学内で奨学されてるビンボなカネコちゃんだし、耳の悪いみずきちゃんだし、パパを亡くしたゆかりちゃんだし、パパママ離婚の美佐ちゃんなのよ。」
「黒百合は確かに幼稚部からの子はお嬢様が多いけど、わたしお嬢様だからって、あなたをイジメた子、いたかな?。善悪わからなかったりで、幼稚部とか初等部はたまにあるけど、庶民差別なイジメは中高等部でなかったでしょ?」
「部活であなたのクラスメート、来ない子がいるの!って心配してたの。恥ずかしがりでグループに入れないのかな?って。下手に声かけたら、もし嫌がってならあなたにお節介だしで、だからみんな、あなたが勇気出すの、待ってたんじゃないかな」
「今日のも、あおいは自分が間違って出会い頭にぶつかっての事故の怪我だ!って皆に言うと思うな。あなた手加減してたし、あおいも手加減してたなら、もうそれ、喧嘩じゃないよね?。男の子のよくやるプロレスごっことでも考えたら?」
「あおいは優しいからあなたに恥はかかせないはずよ」
>> 135
そんなしおり先輩の話を聞きながら、またも頭が痛くなってくるあおい。原因は雪穂とうなだ。
わたし、つい勢いでうなちゃんに
「わたし春から中等部だから、うな先輩、お友達になってね!」
なんて言ってしまった。わたしがまたも無責任な嘘ついたなんて、そんな結末には断じて出来ない!。それに隣に座る雪穂
雪穂は強気に出れたら、うなちゃんに平手打ちされたくらいじゃ泣かない!。だって強気なときの雪穂は、四年生でもわたしと同い年の剛くんと対等に組手する強い子なのに。
わたしに甘えっ放しのいつまでも弱気なんだから。うなちゃんにいきなり叩かれて、多分びっくりしたのかもだけど、わたしが黒百合やめて他中学に行ったら・・・わたしがいない反動で
多勢に無勢、初等部でまたイジメられるのかも・・・
わたし、藍子お姉ちゃんが死んだとき、心が真っ黒になって、喋れなくなってからかわれた。仲良くしてくれたのは幼稚部ではカネコと美佐だけ。初等部ではゆかりとちはるにみずきも優しくしてくれた。
でも美佐以外は最初わたしと同じ弱い泣き虫で。だからイジメ大嫌いになって、美佐と道場通って、腕ずくでもイジメやめさせてた。そのうちにゆかりもカネコもみずきもちはるも短期間だけど、一緒に道場に通って。
今じゃ初等部にわたしたちに逆らう女の子いないけど、わたしが黒百合やめたら・・・
それにうなちゃんの事情も聞いたら、かわいそうな女の子。なんで一人もうなちゃんに声かけなかったの?。わたし、本気でお友達になってあげたい!。だって一人くらい味方がいないとうなちゃん中等部に戻れないよね?。
優しいしおりお姉ちゃんは、でも高等部だから中等部のうなちゃんに付きっきりにはなれないもの。いずれ卒業で学外に出るんだし、中央校にはしおりお姉ちゃんの希望するような、例えば大学部美容学部とか専門校部美容課程なんて、まだないから。
わたし、決めた!。黒百合に残る!。瞬お兄ちゃんとのあれは、学生寮入れば、家では緑お姉ちゃんと瞬お兄ちゃんのラブラブ、見なくて済むかもだし。
それに瞬お兄ちゃん、言葉は軽かったけど謝ってくれた。いい加減にゆるしてあげてもいいかな?。あんなエロ女の緑お姉ちゃんが彼女だと、いつかお姉ちゃんに浮気される運命でかわいそうかも。だったら、やっぱりお姉ちゃんなんかに瞬お兄ちゃんは絶対にあげない!。
>> 136
黒百合女学院に残り中等部進学を決めたあおいは提案する。
「ねえ、うな先輩!」
「ううん、今からうなちゃんって呼ぶね。わたし実は共学校に行く予定だったの。でも雪穂が心配で黒百合に残るの。わたしの好きな人も、いつか黒百合の教師になるかもだし」
「うなちゃんも4月から戻るのよね?。だから、やっぱりお友達になってね。いいや、お友達になれっ!勝者の命令よ!」
「ただし、うなちゃんのために年上ぶらないこと、落第生とバレちゃうからね。でも、うなちゃんは勉強出来ないとか怠けた落第じゃなく、疲れただけなの。わたしはそう聞いたの。そして」
「ビンボなカネコを馬鹿にしたり、耳が悪いみずきを馬鹿にしたり、パパのいないゆかりや美佐を馬鹿にしたり、わたしのグループで一番弱いちはるを馬鹿にしないこと!」
「これだけ守ってくれたらいいから。わたしも絶対にお嬢様ぶらないし、美佐やゆかりにみずきにも、それは守らせるし、うなちゃんの学校サボりもお嬢様嫌いも、わたし忘れたし、うなちゃん同期やわたしのグループには、腕ずくでも絶対に秘密は守らせるから」
「さっきの今で、うなちゃんは面白くないかもだけど、始業式には絶対に来てね!。約束だよ!」
うなに有無を言わせず、まくし立てると、うなの小指に無理矢理に自分の小指を絡め
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます!。指切った!」
お前は幼児か?な態度で、無理矢理に指切りの約束を一方的に宣言するあおい。そして
「しおりお姉ちゃんは証人だよ!。うなちゃんに約束守らせてよね!。それから紫蘭お姉ちゃんも、うなちゃんの味方してあげてよね!」
そんなあおいの必死な姿に、あおいに踏み付けられ折れたかもな、足の痛みも忘れ、笑いたくなってきたうな
「もう!強引ね!。わかったわよ。友達になってあげる。ううん、お願いします!お友達になってね。約束するわ!4月から学校に戻るって!」
「うなちゃん、あおいに気に入られたら諦めなきゃね。実はこの子のおじいちゃん黒百合の元理事。ひいおばあちゃんは元理事長。でもどこか庶民くさいでしょ?。それに道場の子だから強いわよ。口は悪いけど誰にも平等なお嬢様ぶらない子よ」
と、あおいが実はとんでもお嬢様だとばらすしおり先輩。
うなは思う。わたし、人生終わってたかもだったのね。でもあおいちゃんは本当にいい子ね。
>> 137
実はあおいがとんでも結構なお嬢様だとバラしてしまう、そんなしおり先輩に少し不機嫌なあおい。
「しおりお姉ちゃん、何も今その話をしなくても💢。うなちゃん、わたし普通の小中学生の生活したいから、今の話は忘れてね」
そんな話をしてる間に車は真鍋外科に到着する。
あおいの想い人である瞬の父親の勝兵おじちゃんは、急を要する患者がいないのもあって、レントゲン撮ったり触診したり自らうなを診る。
「ふーん、転んだ怪我ねえ。ふーん、これがねえ。ふーん・・・。あおいちゃんまたやったな!。おじいちゃんに言い付けちゃうぞ!」
「と言いたいとこだけど、うなちゃんだっけ?。骨は折れてないから、一週間くらい大人しくしてたら自然に治るよ。少し捻ったみたいだから念のため今日は固定しとくね。やり方教えてあげるから覚えたらママにバレないだろ?」
「転んだための捻挫と打撲と・・・ちゃんとカルテに残してと。一週間したらまた来るんだよ。足は武道や武術の命だからね。自分で勝手に治ったから病院来ない!なんて決めないこと。お転婆はほどほどにすること」
「それ約束できるかな?。できるなら、うなちゃんはあおいのお友達だし、二人はいい子だし可愛いさで今日と来週の治療代はおじちゃん、サービスしちゃうぞ」
「で、次はあおいだ。脱いで見せてごらん」
そう言う勝兵おじちゃん。あおいが我慢強くても、医者の目はごまかせない
「な、なんともないわよ!。筋肉痛なだけ。わたしおばあちゃんになったのかな?」
「本当か?」
「本当よ。わたしが嘘つきとでも?」
真鍋外科を出るあおい達。お茶に立ち寄った店で
「あっ!瞬お兄ちゃんに頼まれ事されてたんだった!。春子おばちゃん、紫蘭お姉ちゃん、しおりお姉ちゃん、悪いけどうなちゃんと雪穂ちゃん送ってあげてください。お願いします」
真鍋外科の駐車場を出る紫蘭ママ春子の車。紫蘭がしおりに言う。
「あおい、震歩劈掌また使って外れたみたいね。あおいは手加減してても信じられないスピードだから。劈掛拳の技術は便利だけど、デカイのがさらにアウトレンジしてきたら意味ないから、むしろ自分の間合いに誘い込む技術を云々」
紫蘭の話の途中、しおりは後席のうなに振り返り
「うなちゃん、あおいはああいう子なの。自分より人様が心配なおバカさんだからね、仲良くしてあげてね」
>> 138
「あおいっ!いい加減に起きなさい!」
あおいを揺り起こしてるのは緑と紫蘭だ。
六年生になってから、おじいちゃんの道場の高齢者太極拳クラスに指導助手で、陽も昇らぬ早朝から付き合わされてる、そんなあおいは毎日が寝不足状態だから、あおいを起こすのは命がけなのだ。寝不足大悪魔の怒りに触れると何をされるか全くわからない。
何しろ信じられないスピードを持つあおいだから、目にも見えないかの速さで、気づいたときには殴られ蹴られで、パパもママもあおいを起こすのは嫌がるのだ。
そんな、黒百合女学院初等部の卒業式間近のとある日、待った先生がクラスを隣の石橋先生に頼み、朝から家庭訪問に来た。あおいは授業エスケープしてから数日、学校に来てないから。
「あおい~いい人が来てるわよ!」
そう最初は声をかけたものの
「うるさ・・・いわよ・・・わた・・・し・・・を起こ・・・す者は死・・・」
蹴りが緑の顔に
「この子、靴履いたまま寝てる!」
祖父の助手して帰ったあおいは、靴も脱がずに部屋まで歩いてベッドに入ったのだ。もうかれこれ1時間。何回殴られ蹴られたか。
これというのも、緑と紫蘭があおいのおじいちゃんの後継ぎを渋るから、あおいに後継者の白羽の矢が立ったのだ。内心あおいに申し訳ない思いの二人は優しく優しく起こそうとしてた。最初は。
でも、ついにキレた緑はいきなりバケツの水を。
不機嫌な極みの顔のあおいに緑も紫蘭も
「あんたがつまらないことにウジウジしてるから松田先生がいらしてるの!。さっさと顔洗って着替えなさい!」
いや、あおいは登校拒否や引きこもり状態ではない。
仲良しあおい組を、心にもない挑発してまで解散しようとしたあおい。
自分が黒百合女学院やめて他の共学の中学校に進路変更しようとしてることに気を使った、黒百合初等部の成績上位常連が、あおいと同じ中学校について行こうと。あおいは、それは間違ってると。
でも、うなちゃんとお友達になり、うなちゃんのために。また、後輩の雪穂が心配で。そしてエロ女の姉に想い人の瞬お兄ちゃんを与えるのは、やっぱり無理だと。そんな思いで黒百合中等部にやっぱり行こうと決めたものの
しかし、仲良しあおい組の皆に合わせる顔がないのだ。待った先生にも合わせる顔がないしで、渋々お着替えし顔を洗うも逃げ出したい心境で。
>> 139
待った先生、おはようございます。
赤井家の応接間に顔を出したあおい。そこにいたのは、待った先生だけでなく、仲良しあおい組の皆としおり先輩だ・・・・が、お目覚めの洗顔はちゃんと冷水でしないといけない、そんな悪い見本、てか最悪なる見本であるが。
あおいの今朝の成りを見て、我が目を疑い、そんなロリコン趣味ないのに二度見してしまい、慌てた待った先生は、両目に両手を。見猿ポーズで「僕、何も見てません」アピールだ。
あおいはミニスカートの後ろ裾がウエストのベルトに挟まってるだけでなくフロントのジッパーが開いていて、寝ぼけ間違えて脱衣室のお姉ちゃんのTシャツ来てるから、大きく開いた首周りからヌードな肩と膨らんでもない胸が。そして右足はロングソックス、左足は生足で、さらにペンで書くのも躊躇われるような
そんなあおいにゆかりが慌ててあおいの耳元にささやく
「あおちゃん!パンツ履かなきゃ!」
おじいちゃんの早朝高齢者太極拳クラスの指導助手を毎日してるせいの、寝不足な夢遊病状態から、我に帰ったあおいは一瞬にして耳たぶまで羞恥に真っ赤になっていく。
「キャー!。わたし、なんでこんな格好を!」
「待った先生、見たわね!このロリコンの童貞!」
「ぼ、ぼぼぼ、僕は、僕は何も見てませんっ!」
「見てないなら何で慌ててるのっ!。あんた達、今の見た記憶きれいに消去してやる!覚悟せよ!」
床の間の刀、もちろん道場の刀掛ではないから本物ではないが、に手を伸ばすあおい。普段は明るすぎて、下ネタ的な冗談すら待った先生にぶつけるあおいだが、不意な油断した恥ずかしさに、生まれて初めて逆キレた。
でも、姉の緑の代わりにお茶菓子とお茶のお代わりを持って来た、あおいの従姉の紫蘭が一喝する。
「この馬鹿!暴れる前にさっさと身なりを直しなさいっ!」
「全くもう!寝不足大悪魔は何を仕出かすか・・・。せっかくいらしたのにごめんなさい。あおいはおじいちゃんの道場助手で寝不足連続でしたから、忘れてあげてくださいね」
数分後、きちんと身なりを整えたあおいが応接間に入ってくる。
「赤井、お前が可愛い!って言ってた中等部の新デザインの制服な、予定前倒しで来年度つまり4月から制服変更だそ。それに皆も、お前に付き合うようなアホ理由では他中学に行かないらしい。お前は要らん心配しなくていいんだ」
>> 140
耳まで真っ赤に染まるほど恥ずかしすぎる格好だった、寝ぼけていたあおいが、きちんと身なりを整えて、担任の松田先生たちの待つ応接間に入ってくる。
松田先生は、この前のあおいの志望中学校の合格発表は、しつこく泣き落としをして失敗した経験から作戦変更して、あおいを黒百合に残らせようと説得再開する。
「赤井、お前が可愛い!欲しい!早く着たい!って言ってた、中等部の新デザインの制服な、予定前倒しで来年度つまり来月から制服変更だぞ」
「それに皆もお前が心配したような、お前にわざわざ付き合ってのアホ理由では他中学に行かないそうだ。だからお前は要らない心配しなくていいんだ」
あおい仲良しグループの美佐達も
「あおちゃん、六年生は卒業間近だけど、あおちゃんラブな転校生もクラスに来たよ。あおちゃんのために来たんだって。最近あおちゃんがお友達になった子だよ」
「四年生の雪穂ちゃんも、「わたし強くなるから、あおいお姉ちゃん黒百合でまた仲良くしてね!」だって」
あおいが「お姉ちゃん」と慕いなついてる、高等部のしおり先輩まで
「あおいの信条は確か、有言実行の言行一致だった気がするんだよねえ。真鍋外科行く途中の約束、まさか違えるつもりの、無責任あおいちゃんじゃないよねえ」
「騙されたと思って今から初等部、行ってみなさい。あおいへのビッグなプレゼント来てるわよ。これぞ報われた達成感たっぷりなのが。あおいの人徳証明がね」
今ごろ初等部六年生に転校して来た?って・・・
まさかクリスマスに仲良しになった梅宮サナちゃん?。いやいや、サナはちゃんと普通にお受験で中等部から来るって言ってたような記憶が・・・
夏休み前に、また帰ってくるから!と転校したみなみちゃんなハズはないし・・・
????状態のあおい
そこに珍しく妹思いモードになっている緑お姉ちゃんが、従姉の紫蘭と共にあおいの背中を押す。緑は
「あおいさあ、何をワケワカランモードになってるの?。興味津々はすぐに飛びついて調べるのが、我が妹あおいのいいトコなんだけどな」
「おじいちゃんがね、安倍学長にこれ届けてくれ!だって」
紫蘭は風呂敷包みをあおいに渡す
最後のトドメは大親友のカネコだ
「あおちゃん、側にいてわたしを守ってよ!」
「全くもう!💢仕方ないなあ。制服着替えるから待ってね」
>> 141
「おじいちゃんがねえ、これをあおいの手で安倍学長に届けて欲しいんだって。藍子お姉ちゃんと紫蘭の初等部時代の制服、転校生に寄付だって」
風呂敷包みをあおいに渡すことで背中を押す、姉の緑と従姉妹の紫蘭。トドメは大親友のカネコが
「あおちゃん、側にいてわたしを守ってよ!」
「全くもう!💢仕方ないなあ。制服着替えるから待ってね。あとトーストくらい、かじらせてよね。コーヒーもね」
そう立ち上がるあおいにカネコが
「文通してるサナちゃんからわたしに来た手紙の中にね、あおちゃん宛ての封筒入ってたから渡すね。ハイ、これ読んであげて!」
封筒を開くと、丁寧な文字の手紙が。
拝啓、赤井あおい様
桃のかおりが桜の花びらに変わり花見盛りの候、あおいちゃんお変わりありませんか?。わたくし黒百合中等部の入学式を待ちわびております。だってあおいちゃんに早く再会したいんですもの。
そうそう、カネコちゃんと緑先輩に紫蘭先輩そしてしおり先輩に伺いましたが、あおいちゃんはとってもいいことをして差し上げたとか。わたくしママパワーをほんの少しだけ、あおいちゃんのために使いました。その子とのいきさつ聞いてしまったら他人事じゃなくてよ。
それとね、わたくしの腐れ縁な家来も黒百合志望らしく、でも勉強方面が残念な女の子なので、入試合格は無理筋。ですから黒百合初等部転入の形になりました。なので、もののついでですわよ。
詳しくはママから安倍学長に話が行ってますので、あおいちゃんは心配しなくていいからね。
あとね、わたくしの家来のこの子、あおいちゃんの拳法習いたいそうで、それはわたくしもですが、しばらく使い走りにでもして、こき使ってくださいね。実を言えば彼女は昔ならわたくしの守役ですけれど、あおいちゃんなら事情わかってくださるかと。
ちょっと話まとまらなくて乱文になりましたが、4月の再会を心待ちに公立小学校最後の日々を頑張ってます。あおいちゃんもあおい組の皆さんと仲良くね。
では栞にした桃の花を添えて、かしこ
追伸
他中学校にあおいちゃん行ったら、地の果てまでもわたくし追いかけますわよ。わたくし頑固なので。ちょっとだけカネコちゃんのための追伸でした。
>> 142
サナからの手紙読んだあおいだが、まだ???状態だ。わたしって、良いことしたの?状態なのだ。あおいは気まぐれ気分屋だし、良いことしても褒められたいとか、それとは無縁な女の子だから。
ともあれ、急いでトーストとコーヒーをお腹に流し込み制服に着替えたあおい。
「待たせてゴメンね」
待った先生を先頭にあおいとあおい組、しおり先輩と従姉の紫蘭が黒百合初等部に歩く。サナの街では桜も開いたようだが、サナの街よりほんの少し北側でほんの少し標高あるためか、大通りの桜は蕾状態が多い。
黒百合山手校の校門をくぐり、待った先生とあおい、しおり先輩と紫蘭は本館学長室に。あおい組の皆はさらに初等部の校門をくぐり高学年校舎に。
学長室をノックする待った先生。
「松田先生とあおい君かね?入りたまえ」
優しい学長の声がする。
「失礼いたします」
「学長先生、無断欠席の心配かけてごめんなさい」
そんな待った先生とあおいたちにソファーに促す安倍学長。
「あおい君おはよう。今日は君にありがとうを言わねばならない。よく住吉うな君を救ってくれた。感謝する。うな君は頑張らせてくださいと黒木先生に言って来たんだよ」
「うな君の落第が決定的になりずっと考えあぐねた問題。いかに落第生と気付かれず復学させるか。病気とかならまだしも遊んでる姿は目撃されたからね」
「君のお姉さん、緑くんが梅宮サナくんの襲われてる現場を救い出し、君はサナくんと仲良くしてくれた。その感謝がサナくんのママから来てね」
「そのサナくんのママがね、君とうな君の話を知って、大学とかは聴講生制度もあるじゃないですか?と。初等部聴講生が一人くらいいても問題ないと思いますよ。と知恵を出してくれた」
「入学式出ずに始業式の日にうな君がクラス入りしたら落第生とわかるよね。だから聴講生の形で転校生として初等部編入、特例で入学式参加、一年生に入り直す方向で倉橋しおり君も赤井紫蘭君も、うな君の中等部同期入学生の現一年生を納得させてくれた」
「一年生はうな君に優しく出来なかったと悔いてくれて、君にだけうな君の面倒見はさせないと言ってくれた」
「ヒントになったのは君がうな君に、年上ぶらないこと!と出した友情条件だ。そして君のグループの子も協力してくれるそうだ。ありがとう」
「それでお願いだが、君からも六年生の皆に頼む」
>> 143
黒百合女学院山手校学長室に呼ばれているあおいに安倍学長が頭を下げる。
「あおい君、住吉うな君をよく救い出して復学させてくれた。ありがとう。感謝する。特例だが中等部一年生のうな君は内気なる性格を考慮し、今日付けで初等部特例聴講生として、君のクラスに午後授業から編入する」
「4月から落第生として中等部一年生復学よりは、初等部六年生を短期間でも過ごし、入学式参加し中等部再編入がうな君にはベストなる方法と考えます」
「そして、うな君の復学に間に合うよう本学に戻ってくれたことも感謝する。ありがとう。ところで君は何やら先ほど、無断欠席がどうこう謝罪していたが、何のことかね?。私は何らの報告も聞いていないが。まあ、まだまだ風邪の季節だから気をつけたまえ」
あおいにそうウインクして見せた話のわかる安倍学長だった。
「あのう、学長先生、緑お姉ちゃんから学長先生に渡しなさいと、藍子お姉ちゃんと紫蘭お姉ちゃんの初等部時代の制服預かってますが、うなちゃんだけなら一着でいいですよね。もう一人特例の子がいるんじゃないんですか?。梅宮サナちゃん関係で」
そう安倍学長に質問するあおい
「そうだった、松田先生、彼女は今日かね明日かね?」
「彼女も今日の昼頃に来校予定です」
「そうか、それならうな君もお友達が早速できるわけだ。松田先生、あおい君、保健室の石内先生にこの制服、渡してくれたまえ。石内先生は裁縫得意だから、二人に合わせて裾上げとか、すぐにしてくれるだろう」
「松田先生、あおい君、下がっていいよ」
何やら知らないうちに話が進んでいて
もう何が何でも黒百合中等部に行かなきゃならないのね。そう思うあおいは六年一組に戻る。そうよね、やっぱりわたしの居場所は黒百合なのよね。
クラスの戸を開けるあおい
松田先生に代わり教鞭をとっていた石橋哲也先生とクラスメイトたちがあおいに振り向く
「お帰りなさい」
「石橋先生、みんな、心配かけて本当にごめんなさい」
そう謝り席につくあおい。クラスみんなの暖かい拍手、失恋というより恋煩いを乗り越えたあおいへの皆からの贈り物だ。
今日は教科書すら持って来ていないあおいに、隣のゆかりが社会科教科書を二人の間にさりげなく置いてくれる。美佐はレポート用紙をノート代わりにしてね!と。ちはるは真新しい鉛筆を削ってあおいに渡している。
>> 144
三時間目の社会科が終わった休憩時間。決断すれば行動は極めて早いあおい。カネコと職員室に。
四時間目は最後の、一年生との合同自由体育だが、あおいはカネコと一緒に児童会長と副会長連名で、六年生と一年生の学年主任にお願いし四時間目を五時間目に移動、同じく五時間目を六時間目に移動する変更してもらった。
そして六年生全クラスを学内放送で講堂に集めた。
こんな無茶苦茶が通ったのは、初等部トップ成績の頭のいいカネコが、あおいならこうする!と読んでアクションしていたのだろう。
講段マイクに立つカネコ。その後ろでは、両手の指を組んでボキボキ関節を鳴らすかの仕草をしながら、あおいが皆を睨みつけている。無言の圧力だ。
しかも高等部のしおり先輩や鬼のように怖い紫蘭先輩まで来ている。これはただならぬと気付く六年生。
「児童会からお願いがあります。異例だと思いますが本日、五時間目から転校生のお友達二人が六年一組に編入します。卒業まであとわずかな時期ですが、一組だけでなく六年生全クラスの皆さん、仲良く勉強し仲良く遊びましょう」
カネコはあおいにマイクを譲る
「二人のお友達はスッゴく恥ずかしがり屋さんで、中等部からの入学だと仲良くできる自信がなくての、初等部への一時転入です。外部入学の子はわかるよね?。幼稚部からの子には仲良しグループが出来てたのが。二人に同じ淋しい思いさせたいの?。それはわたしがゆるさない」
あおいはマイクをカネコに返す
「外部入学生の子とか新しい仲間がお友達出来なくて淋しい思いをする。これは黒百合初等部六年生のわたしたちの今日、今から無くしていきましょう!。そしてこれは安倍学長先生からあおいちゃんが頼まれたことです。よろしくお願いします」
だが、一部から
「あの子のことじゃない?」
もちろん計算内のあおい。カネコにマイクを借りる。
「今しゃべった人、ここに来てマイクで喋っていいのよ?。異論があるんならね。みんなに優しいしおり先輩にこれからスルーされたいならね。紫蘭先輩にこれから毎日睨みつけられたいならね。わたしと毎日喧嘩したいならね」
「有言実行!異論ある人は、わたしたちのより素晴らしい提案と能力あるのよね?。それ堂々と教えてくれないかな?」
そうしてカネコと二人で
「主任先生、締めくくりお願いします」
>> 145
四時間目の臨時六年生集会での主任先生の締めくくりの訓示が終わる頃、チャイムが鳴る。
普段なら真っ先に給食にありつこうと、チャイム同時のダッシュで初等部食堂に駆け出すあおいだが、今日は転校生の住吉うなちゃんと千堂敦子ちゃんが寄付支給された制服のサイズ直しを待っているであろう、本館茶話室に向かう。
黒百合女学院生徒心得の「旗を掲げた者は誰よりも自ら先頭にあるべし」、つまり有言実行を態度で示しているのだ。そしてあおい組もあおいに従っている。
学校休むつもりでいたあおいを、自分たちが無理矢理に起こしたせいで、あおいは朝ごはんトースト一枚しか食べてないのを知ってるから、自分たちが腹ごしらえするわけにはいかない。だが、あおいは
「美佐たちは給食、食べて来て」
と気遣うのを忘れない。そんな優しいあおいだから六年生皆がそうだが、あおいの言い出す無理難題も何とかしようとする、あおい組の仲良しメンバーだ。
「ううん、新しいお友達がいるんだもん。それに購買茶話室にはちょっとしたお菓子やパンとかカップ麺とか、たくさんあるじゃない!」
ハモるかのようにそう言うゆかりやちはる、そうよそうよ!と頷いてるみずきと美佐そしてカネコにあおいは
「みんな、ありがとね」
今日は六年生人気メニューの、サーモンとイクラの大葉大根おろしのパスタとチーズトマトコーンサラダだから、もちろん公立小学校のようなソフト麺ではない生パスタだから、さらにうれしい皆の気遣いだ。
茶話室に入るなりオーバーアクションな仕草で大声を張り上げるあおい。
「ヤッホーうなちゃん!、早く会いたくて走って来ちゃった!。勉強頑張ろうね」
「あなた千堂敦子ちゃん?。サナちゃんの友達の赤井あおいです。仲良くしてね」
「二人とも黒百合初等部にようこそ!」
二人の不安を吹き飛ばすかのように明るく振る舞うあおい。
「うなちゃんと敦子ちゃんはもうお友達状態かな?。わたしも二人のグループに入れてよね!」
と、茶話室テーブルを見てみると、給食がしっかり運ばれていて。珍しく女心を読んだ、待った先生の気遣いだった。
「二人で食べるの待ってたの。松田先生と石内先生があおいちゃんグループとお食べなさいだって!。今日あおいちゃん休んでたのに、わたしのためにありがとう!」
あおいに抱き着いて、またも泣き出すうな。
>> 146
「ねえ、あおいちゃんたちこんな美味しい給食、毎日食べてるの?。いいなあ。市立小学校は冷や麦か中華麺かうどんかワカラナイ麺だよ?」
敦子は感動している。敦子が言うワカラナイ麺ってのは、もちろんソフト麺のことだ。
「まあ確かに黒百合は地元名門だからね。給食グレードは高いのかも。わたしビンボだから給食が楽しみなの。あおいちゃんたちは気を遣って面倒見てくれるんだけどね」
そう言っているのはカネコだ。面倒見てくれるってのは、マクドナルドやファミレスやゲームセンターとかカラオケ付き合いをカネコのお小遣いだけでは捻出できないのに
お小遣いの額により割り勘割合が変わるシステム。
苦手科目は助け合い、面倒見てもらった側はちゃんとお礼するシステム。勉強やスポーツを頑張り得意なことが出来れば、お金持ちな子とも貧しい子が付き合える
これを、あおいが美佐やゆかりと考え出してるからこそ、奢ってもらうのは申し訳ない思いをすることなく、いつも一緒に対等に遊び歩けているのを言っているのだ。
カネコによる、黒百合の子はみんな優しいアピールである。もちろんうなや敦子に、心配要らないのよ!と言っているのだ。
そんな中、五時間目の一年生との合同自由体育を、うなや敦子を思い心配してるあおい。
「ねえ、うなちゃんと敦子ちゃん、支給された体操服のサイズ大丈夫だった?。サイズ合わないなら言うのよ。みんな予備置いてるから。それにわたし、今日は手ぶらで来てるからゆかりに借りるの。ほら、ゆかりちゃん、わたしよりちょっと大きいだけでしょ?。二番目ちびっこだから」
すると、敦子が
「わたし、ブルマが少しきついかも」
「うーん、敦子ちゃん立って見て。で悪いけど太もも見せて」
敦子ちゃんは私服がピッタリフィットなタイトな服だから体のラインはわかる。太ももは想像つくけどスカートに隠れてるから。
「みずきのなら合うかもね、みずき、貸してあげてね。それでもきつかったらカネコだよね」
「うなちゃんは本当にサイズ合ってるのね?。恥ずかしがったら損だよ?」
「うん、わたしは合ってたから。袖が少し長いけど体操服だもん、ゆとりあるほうが楽よね。でもあおいちゃんのお姉ちゃんのだったのね。ありがとね」
>> 147
昼食時間から休憩兼掃除時間への移行を告げるチャイムが鳴る頃、支給制服のお直しをしていた石内先生が来て、うなと敦子に制服を渡す。
「二人とも残り少ない小学生生活、思いっきり楽しむのよ。それが4月からの黒百合中等部での中学生生活の準備なんだから。」
「頑張ります。ありがとうございました」
「制服のお直し、ありがとうございました!」
「チャイムだ!。今週はわたしたちが給食室掃除の当番だったよね!。急がなきゃ!。低学年をさっさと給食室から出さないと自由体育に間に合わなくなっちゃう!」
急げ急げ!と、茶話室の隣、購買室からつながる購買おばちゃんの休憩用プレハブを借りて、私服から制服にお着替え中のうなと敦子をあおいが急かす。
茶話室で食べた給食のトレーを持って校庭を早足で歩き、本館から初等部低学年校舎にある初等部給食室に急ぐあおい組の面々。黒百合初等部制服に着替え、可愛い小学生に戻ったうなと敦子もすでにあおい組メンバーだ。
給食室に飛びこんだあおい組。あおいは
「みんなはもう知ってるかもだけど、わたしのお友達で転校生の住吉うなちゃんと千堂敦子ちゃんよ。仲良くしてあげてね。初等部の掃除の仕方、柴田あゆちゃんはうなちゃんに、高月杏樹ちゃんは敦子ちゃんに教えてあげて。いいわね」
すでに六年生集会での、あおいとその従姉の高等部紫蘭先輩の怖い顔と、同じく高等部のしおり先輩の優しい笑顔に、児童会長兼副級長カネコそして児童副会長兼級長のあおいの演説に、本気度を感じていたクラスメート、否やを言う者はいない。
あおいは掃除当番になっていて、掃除を始めていた皆に二人を紹介する。そうして、自分は皆が嫌がるとわかっている、生ゴミの混ざることのあるゴミ箱内の分別に美佐と取り掛かる。
そうしながら、うなや敦子ちゃんを気遣い視線を時折ふたりに向けるあおい。うなちゃんも敦子ちゃんもお掃除頑張ってる。あゆちゃんも杏樹ちゃんもふたりに親切に教えてあげてる。
中等部一年生の皆がこうなら、うなちゃんは初等部に来るほど悩んだりしなかった。こんどは、わたしたちは仲良く頑張ろう!。初等部に来てくれたうなちゃんと一緒に中高等部行って大学部行って、みんなで卒業しよう!。
うなちゃんもそう思ってくれたのか、目が合ったとき、二度目の小学生姿が恥ずかしいのね、でも嬉しそうに笑ってくれた。
>> 148
うなと敦子があおいたちと掃除に汗してる頃、黒百合女学院山手校の学長室には、黒百合女学院元理事で、安倍学長が学生時代の教師だったあおいの祖父慎太郎が
うなの合気道の先生である白井流合気柔術師範の白井理子先生と、うなのママ住吉和恵を誘い訪問していた。
先日、白井先生から、うながあおいに喧嘩売ったことのお詫び、うながあおいに負傷させたお詫び
(まあこれはあおいが打撃した際、あおいの震歩劈掌が命中せずに空振りしてしまったために、肩関節があおい自身の早過ぎるスピードに耐え切れず勝手に脱臼しかけただけなのだが)
ともあれ、弟子が勝手に他流に試合を挑んだ不祥事でもあるし、喧嘩売って負け、赤井家道場に殴り込みされてもおかしくないのに、あおいはうなをゆるしたばかりか、うなとうなの先生の面子を立てただけでなく、負傷してるうなをちゃんと病院に連れて行き
おまけにうなの友達になってくれて、うなの知らないうちにあおい自身が菓子折りを持ってその日のうちに白井道場にお詫びに行き、さらに気付けばうなが復学できているお礼の電話が赤井家にあったのだ。
それで事を知ったあおいの祖父慎太郎は、白井先生とうなママ和恵とで学長室に訪問している。
「安倍学長、素晴らしい異例のしかも素早く的確な決断はさすがですな。でも一つ足りない」
そう言う慎太郎に安倍学長は
「はて、何でしょう?。親父さん、わたしの足りないところ、勿体振らずに教えてくれませんか?。生徒の人生は何より大切ですので」
「うなちゃんが自宅からランドセル通学したら、うなちゃんのご近所の皆さんの目があるではありませんか。うなちゃんが黒百合中等部生徒なのは近所の皆さんの知るところでしょうに、初等部の制服でランドセル通学した日には」
それを聞いた安倍学長
「あっ!。私としたことが。いやあ、お恥ずかしい限りです。さすが赤井先生、ご指摘ありがとうございました」
ニコッとした慎太郎
「黒百合初等部の無断長期外泊禁止校則。許可をうなちゃんに出せませんかな?。うなちゃんをお預かりしますよ。幸いあおいは、うなちゃんの合気柔術に興味津々で、うなちゃんもうちの技術に興味あるようです。また我が塾や道場で初等部の復習や練習していれば、悪友からも離れられるでしょう。それに黒百合の子は多くがうちに通いますからな。お友達も出来やすいでしょう」
>> 149
学内放送が流れる
「真田初等部校長、島中等部校長、松田初等部先生、初等部生徒の桃井カネコ児童会長と赤井あおい児童副会長、栗山ちはる、住吉うな、諏訪野みずき、高田ゆかり、立花美佐は至急本館学長室に来てください」
ちょうどそのとき、給食室掃除しながら待った先生へのいたずらを企んでいたあおいたち、背筋がビクっとする。
「みずき、ちはる、あんたたち剛くんに喋った?。なんでバレてるのよ?」
そう言うあおいにカネコは
「あおいちゃん、違うと思うよ。それならわたしは呼ばれないし、ほら、うなちゃんも呼ばれてるし、中等部の先生とうなちゃんの事での話し合いじゃない?。島校長も呼ばれたでしょ」
「あゆちゃん、杏樹、途中で悪いけど後をお願いね」
そう言うと皆で学長室に駆け出していく。
「桃井カネコ以下七名、お邪魔していいでしょうか?」
「入りたまえ」
安倍学長は
「真田初等部校長と島中等部校長は住吉うなくんにこの場で長期外泊許可したのだ。いいね。初等部五時間目授業まであと僅かだから事情は後で説明する」
「初等部松田先生は春休み中、赤井家道場に出張するように。これも後で説明する」
「桃井カネコくん、赤井あおいくん、栗山ちはるくん、諏訪野みずきくん、高田ゆかりくん、立花美佐くん、君たちは赤井道場生徒だったり赤井塾生徒だったりしてるよね?。君たちを見込んでお願いする。住吉うなくんは4月始業式まで赤井家に下宿になった。仲良くしてあげたまえ。住吉うなくん、赤井家で自分をしっかり鍛えたまえ。あとは放課後に赤井家に行くか、松田先生に聞けばわかるようにしておく。何度も呼び出して済まないが以上だ」
カネコは安倍学長に言う。この三日、何度も呼び出されブーイングみたいなものだ
「学長先生、わたしたちもう仲良しですよ?。学長先生がどうこう言わなくても大切なお友達は大切にします。大人は子供の世界にあまり口出ししないでくれませんか?。あおい組の皆がいたずらばかりでも信じてあげなきゃ」
「おお、そうだね、その通りだ悪かった。でもありがとうを言わせてくれ。下がっていいよ。さすがカネコくんだ」
- << 151 「で、でっかい家だぁ!」 「な、な、な、なんでポルシェがあるのよ!」 「しかも同じのが色違いで。おまけにベンツまで、しかも高いやつ」 「ね、ねえ、あれは?まさか犬小屋じゃないでしょーね!」 「やっぱり犬小屋じゃないの!」 「このちび!お前が偉いんじゃねえ!勝ったと思わないでよ!。うちの車庫くらいな犬小屋、建ててんじゃないわよ!。お前が偉いんじゃねえ!先祖が偉いんだ」 「チョーむかつく!。税務署さん!泥棒さん!しっかり仕事しろ!」 「まあまあ、言うと思った。うなちゃん、怒らない怒らない」 キレたヒステリー状態のうなを、あおいに気を遣い宥めているのはカネコだ。今日から赤井家に下宿で初訪問したうなは、あまりの驚きに両目に悔し涙を浮かべている。 「何が、わたしはお嬢様ぶりっ子しないからお友達になって!だ。チョーむかつくんですけど!」 そんなうなにあおいは 「はいはい。わかったから暴れない暴れない。ご近所迷惑だからね」 そう言いつつ皆に目配せを。すると示し合わしたかのように、カネコはうなの両手を、みずきはうなの足を。美佐とゆかりは胴体を。飛行機状態にしたうなを大広間に連れていく。 お茶を飲み、少し落ち着いたうな、それでも 「ハーハー、フーフー、ハーハー」 と、ヒステリーを押さえるかの深呼吸してる。すると、うなは黒百合の初等部で至急されたランドセルを抱え、庭の池に飛び込み、鯉を追いかけ回す 「何してんの!」 「盗んで売ってやるぅ!ルパン三世の気持ちがわかったもん」 で、また飛行機状態にされ大広間に連れ戻される 「あのね、うなちゃん、わたし好きでお嬢様生まれじゃないのよ。ここにいたらお嬢様なんかなりたくない!って思うから。ね、カネコちゃんとちはる、そうでしょ」 「それに、ここはおじいちゃんの道場と事務所兼ねてるから広いの。それに古い家だから建物自体に価値ないのよ。でポルシェ一台は向かいの剛くん家のだし、ベンツ一台は紫蘭お姉ちゃん家のだからね」 必死にうなを宥めるあおい。 カネコも 「うなちゃん、あおちゃんはね窮屈な思い何度もしてるの。会いたくもないおじさん、政治家とかどこかの社長さんとかに嫌々あいさつしなきゃとかで嫌な思いもしてるの。女の子ならエロじじいキモい!って気持ちわかるよね?」
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